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No.32422の一覧
[0] 【後日談完結】スタンドバイ/スタンドアローン (オリ主・再構成・復讐もの)[上光](2020/10/18 20:30)
[1] プロローグ 当世の魔法使い[上光](2016/02/27 14:37)
[2] 第1話(前編) 異世界出張[上光](2013/06/18 05:25)
[3] 第1話(後編) [上光](2013/06/18 05:25)
[4] 第2話 少年少女の事情 [上光](2012/10/28 00:01)
[5] 第3話 黒来たる[上光](2012/07/16 00:50)
[6] 第4話(前編) 袋小路[上光](2012/08/16 22:41)
[7] 第4話(後編)[上光](2012/07/09 23:13)
[8] 第5話(前編) 戦う運命[上光](2012/07/05 03:03)
[9] 第5話(後編)[上光](2014/07/26 23:37)
[10] 第6話(前編) 海鳴の長い午後 [上光](2012/07/07 00:03)
[11] 第6話(後編) [上光](2012/07/07 00:55)
[12] 第7話(前編) 子供と大人の思惑 [上光](2012/07/09 03:44)
[13] 第7話(中編)[上光](2012/07/09 03:44)
[14] 第7話(後編)[上光](2012/07/16 00:50)
[15] 第8話(前編) 愛は運命[上光](2012/07/15 23:59)
[16] 第8話(中編)[上光](2012/07/11 03:13)
[17] 第8話(後編)[上光](2012/07/11 03:40)
[18] 第9話(前編) 後始末[上光](2014/01/08 21:15)
[19] 第9話(後編)[上光](2012/10/10 04:31)
[20] エピローグ 準備完了[上光](2012/07/15 23:57)
[21] 閑話1 ツアークラナガン [上光](2012/07/16 00:18)
[22] 閑話2 ディアマイファーザー [上光](2012/07/16 00:50)
[23] 閑話3 ブルーローズ[上光](2012/07/16 00:50)
[24] プロローグ 成長~グロウナップ~[上光](2012/10/15 07:42)
[25] 第1話 予兆~オーメンレッド~ [上光](2012/08/07 18:24)
[26] 第2話(前編) 日常~エブリデイマジック~ [上光](2012/08/07 18:29)
[27] 第2話(後編)[上光](2012/08/15 15:27)
[28] 第3話(前編) 開幕~ラクリモサ~ [上光](2012/08/15 15:24)
[29] 第3話(後編)[上光](2012/08/15 15:27)
[30] 第4話(前編) 邂逅~クロスロード~ [上光](2015/12/09 00:22)
[31] 第4話(後編) [上光](2012/08/29 02:37)
[32] 第5話(前編) 激突~バトルオン~[上光](2012/09/28 00:52)
[33] 第5話(後編) [上光](2012/09/08 21:55)
[34] 第6話(前編) 舞台裏~マグニフィコ~ [上光](2020/08/26 22:43)
[35] 第6話(後編)[上光](2020/08/26 22:42)
[36] 第7話(前編) 漸近~コンタクト~[上光](2016/11/16 01:10)
[37] 第7話(後編)[上光](2014/03/05 18:54)
[38] 第8話(前編) 致命~フェイタルエラー~[上光](2015/10/05 22:52)
[39] 第8話(中編)[上光](2016/02/26 23:47)
[40] 第8話(後編)[上光](2016/11/16 01:10)
[41] 第9話(前編) 夜天~リインフォース~[上光](2016/02/27 23:18)
[42] 第9話(後編)[上光](2016/11/16 01:09)
[43] 第10話(前編) 決着~リベンジャーズウィル~[上光](2016/12/05 00:51)
[44] 第10話(後編)[上光](2016/12/31 21:37)
[45] 第1話 業[上光](2020/08/20 02:08)
[46] 第2話 冷めた料理[上光](2020/08/20 22:26)
[47] 第3話 諦めない[上光](2020/08/21 22:23)
[48] 第4話 傷つけられない強さ[上光](2020/08/22 21:51)
[49] 第5話 救済の刃[上光](2020/08/23 20:00)
[50] 第6話 さよなら[上光](2020/08/24 20:00)
[51] 第7話 永遠の炎[上光](2020/08/25 22:52)
[52] エピローグ[上光](2020/08/26 22:45)
[53] はやてED 八神家にようこそ[上光](2020/09/13 23:13)
[54] IF 墓標 ゆりかご(前編)[上光](2020/10/03 18:08)
[55] IF 墓標 ゆりかご(後編)[上光](2020/10/05 00:33)
[56] シグナムED 恩威並行[上光](2020/10/12 00:39)
[57] クアットロED 世界が彩られた日[上光](2020/10/18 20:29)
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[32422] 第8話(中編)
Name: 上光◆2b0d4104 ID:495c16aa 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/11 03:13

 なのはたちはただひたすらにフェイトの部屋を目指していた。
 武装隊の本隊は傀儡兵相手にせっせと戦っているのに、こちらの道中は至って平和で、誰にも、何にも出くわすことがなかった。次元震のせいで足元が軽く揺れ続けており、少し歩きにくいくらいだ。
 もっとも、何も起こらないことが逆に気味悪く、全員が言い知れぬ不安を抱いていた。それが現実となったのは、アルフが「もう少しで着くよ」と言ってまもなくのことだ。
 アルフがその言葉を発したのは、階段を昇っている時だった。それから、すぐに階段を昇り終える。その先には大きな通路が続いていた。横幅は十メートル、高さも五メートルほど。照明がほとんどないので、通路の先は闇に隠されている。どこまで続いているのかはわからない。

 ぽっかりと口を開けた闇の向こうから、こつん、こつんと、ゆっくりとではあるが、たしかに誰かの足音が聞こえてくる。五人はとっさに身構え、二人の武装隊員がなのはたちをかばうように前に出る。ここに来るまでに、戦闘などの危険なことは武装隊の二人に任せることが決まっていたからだ。
 足音の正体はすぐにわかった。薄暗い通路においても輝いて見える、流れるような金色の髪。なのはたちの目的でもある、フェイトその人。
 疲れているのだろう。壁に手をつき、視線は床に落ちている。そして、できる限り体力を使わないように、一歩ずつ歩みを続ける。

「フェイト!」

 アルフは声を張り上げると、まっさきに駆けだした。なのはたちもその後を慌てて追いかける。どたばたとした足音にようやくフェイトは顔をあげ、自分の使い魔の姿を目にした。

「アルフ?」

 アルフはフェイトに抱きついた。いつものように激しく、それでいて気づかうように優しく抱きしめる。

「体は大丈夫かい? どこか痛いところはない?」
「大丈夫、寝たおかげで少し回復したから。心配してくれてありがとう。でも、目が覚めたらいなかったから、私も心配したんだよ」
「ごめんね、ずっとそばにいなくて。ちょっと事情があったのさ。絶対に、フェイトを見捨てたわけじゃないからね!」
「わかってるよ。アルフはそんなことしないってことくらい。ところで――その事情って、管理局の人と一緒にいることと関係あるの?」

 アルフの視線はずっとフェイトのみに向けられていたが、フェイトの視線は最初からアルフだけではなく、そのさらに後ろ――なのはとユーノ、そして二人の武装隊員に向けられていた。
 フェイトの声には、純粋に使い魔に対する親愛そのものと、感情を殺した詰問が同居していた。アルフは叱られた子犬のようにびくりと震える。

「どういう状況なの? 母さんは?」

 答えに迷うアルフに、フェイトはさらに問いを重ねる。それに答えたのは、武装隊の男性隊員だった。

「僕たちはフェイトさんを保護するために来ました。お気づきかもしれませんが、ジュエルシードによって時の庭園を中心に次元震が発生しています。ひとまず庭園部までついてきていただけますか。そこなら万が一のことがあっても脱出することができます。プレシアさんの方にもフェイトさん同様に武装隊が向かっています。心配なさらずとも、じきに“保護”されるでしょう」

 嘘にならないように言葉を紡ぐ。しかし、フェイトはゆっくりと首を横に振った。

「ありがとうございます。でも、まずは母さんに会いに行かないと。行こう、アルフ」

 そう言って、フェイトは歩き始める。敵であった管理局の言葉を、そのまま素直に受けとりはしない。プレシア自身から事情を聞き、プレシア自身に何をすれば良いのかを教えてもらう。そのためにフェイトは武装隊の提案を拒否した。
 目的を見つけた足取りは、先ほどとは異なりしっかりとしたものだった。

「二人とも、できるだけ下がって、通路の端でじっとしていてください」

 二人の武装隊員は、なのはとユーノに指示すると、フェイトの行く手を阻むように立ちはだかった。

「申し訳ありませんが、それは看過できません。次元震が起こる以前に、プレシアと武装隊はすでに交戦しています。そして、現在の次元震はプレシアが意図的に起こしたものです。いまだ次元震が止まっていないところをみると、彼女はまだ我々に抵抗するつもりなのでしょう。現在、彼女の周囲では戦闘がおこなわれている確率は極めて高いのです。そのようなところに、傷ついたフェイトさんを行かせるわけにはいきません」
「ありがとうございます。でも、それを聞いて余計に行きたくなりました。母さんが戦っているなら、私はその手助けをしないと」

 なお進もうとするフェイトに、アルフが追いすがる。

「ここはひとまず一緒に避難しようよ。気を失う前のことを覚えているだろ。プレシアは……あの女はフェイトを巻き込んで魔法を撃ったんだよ。そんなやつのことを心配する必要なんてないよ」
「母さんは、それでも私ならできるって信じてくれていたんだよ。だから、期待にこたえられなかった私がいけないんだ。嫌ならついて来てくれなくてもいいよ。アルフも疲れているみたいだし、休んでいて。私だけで行くから」

 それが当然と言う顔で、フェイトはアルフの横を通り、立ちはばかる武装隊の方へと歩を進める。
 武装隊の二人はデバイスを構える。すでに臨戦態勢。フェイトがおかしな動きをとれば、その瞬間にも戦いは始まる。

「フェイトちゃん……だっけ。私、あなたみたいに小さくてかわいい子が好きだから、あんまりあなたと戦いたくないんだ。とりあえず、今は私たちと一緒に来てくれないかな?」

 女性隊員も説得の言葉をかけるが、フェイトの歩みは止まらない。

「彼女の言うとおり、どうしても行かれるのなら、僕たちは少々強引な手段をとらざるをえません」

 フェイトの体を案じているからだけではない。このまま行かせてフェイトがプレシアに会ったなら、彼女は再び管理局の敵となる。プレシアと武装隊が戦っていればプレシアを助ける――そうフェイトは言った。それは彼らの仲間を、武装隊を傷つけるということ。

 男性隊員のデバイスに青い魔力光が灯る。女性隊員がデバイスを薙刀のように構える。
 フェイトはバリアジャケットを纏う。バルディッシュが変形し、鎌をかたどった。黒い衣装は背景の暗さに溶け込み、金の髪と白い肌、そして赤い目だけが浮き上がって見える。この世のものではない、幽鬼か死神の姿。
 フェイトの後ろからアルフが、武装隊の後ろからなのはが何かを叫ぶ。しかし、戦いに臨む三人の耳には、何も届かなかった。


  *


『Photon lancer full-auto fire』

 フェイトの周囲に生じる金色のスフィア(発射台)。それらから同じく金色の魔力弾が次々と発射される。
 間断なく、シャワーから撒かれる水のように放出される魔力弾。屋外ならまだしも、このような通路で回避するには、余程の技量がなければ不可能だ。
 男性隊員も同様に、魔力弾を連射する。青と金が空中で衝突して相殺し、残りはそのまますれ違って両者に向かう。
 フェイトは自身の放った魔力弾の後ろにつく。そして、前の魔力弾が相殺されると、すぐさま別の魔力弾の後ろにつき、青色の雨を避けながら接近する。
 対して、武装隊はすぐさま女性隊員が前に出る。そして、男性隊員が彼女の前方にシールドを展開して、フェイトの魔力弾を防いだ。一人で多くのことをしなければならないフェイトと異なり、こちらは二人いるがゆえに単純な行動で対処できる。男性隊員はフェイトの魔力弾に、女性隊員は向かって来るフェイト自身に集中する。

 フェイトは女性隊員の横に回り込み、間髪いれず下段に構えていたバルディッシュで逆袈裟に切り上げる。高速移動(ブリッツアクション)を使っていないが、並の魔導師ならばその速度に合わせることすら難しい。
 しかし、女性隊員はタイミングを合わせて自身のデバイスをバルディッシュに振り下ろす。彼女も伊達や酔狂で本局武装隊に配属されたわけではない。フロントアタッカーである彼女の技量は、足を止めての単純な打ちあいとなれば、対人経験が少ないフェイトを上回る。

 激突する二つのデバイス。金属同士がぶつかる時の耳障りな音が通路に反響し、一瞬の火花が二人を照らす。その結果は、相手の体を狙ったフェイトより、最初から相手のデバイス自体を狙った女性隊員の方がやや優勢となった。
 女性隊員の方はデバイスが上へとわずかに跳ね上がっただけ。重心はぶれておらず、すぐに次の行動に移ることができる。
 フェイトはバランスを崩し、バルディッシュの軌道が下方にそれた。それを強引に修正し、相手の足首を刈るように変更する。
 女性隊員は跳び上がって回避し、デバイスを上段から振り下ろす。からぶって体勢の崩れたフェイトは避けられず、デバイスが彼女を打ちすえた。が、女性隊員の一撃は浅かった。フェイトを倒すにはいたらない。
 フェイトは肩の痛みをこらえながら、すぐさま返す刃で女性隊員を薙ぐ。デバイスで受け止めるが、衝撃を殺せずに後ろに飛ばされる。

「手を抜きましたね」

 男性隊員は小言を言いながらも、女性隊員にさらに一撃加えようと追撃するフェイトに、魔力弾を放つ。

「わざとじゃありませんよ。でも、思いっきり殴って、あの子の肌に痕が残ったらかわいそうで。先輩が攻撃してくれませんか? 私、非殺傷苦手ですから」

 フェイトも同様に魔力弾を発射。互いに空中で相殺される。
 その隙にフェイトは女性隊員に追いつき、バルディッシュを振るう。それをデバイスで受け止めようとするも――

「攻撃しないきみは何をするんですか?」

 二度も同じようにはいかない。今回は、フェイトも最初から相手のデバイスを狙っていた。バルディッシュが鎌状であることを利用して、ひっかけるようにしてデバイスを巻き上げる。
 デバイスが女性隊員の手を離れ、上へと放り出された。天井にぶつかり、通路に甲高い音が反響する。
 フェイトはそのまま、体を守るすべをなくした相手を袈裟に切ろうとする。

「こうします!」

 女性隊員はそう言うやいなや、フェイトを抱きしめる。
 トチ狂ったわけではなければ、特殊性癖を充足させに行ったわけでもない。密着したことで、フェイトのバルディッシュをふるえなくした。
 そして、この状況は物理的にフェイトを拘束しているようなものでもある。

「さあ、私ごと撃って!」
「……まったく、なんて無茶を」

 男性隊員は呆れかえりながらも、砲撃魔法を構築し始める。
 フェイトはハグから逃れようとするが、女性隊員の腕の力は強く、とても振りほどくことはできそうにない。
 砲撃が発射される前に、フェイトは魔法を行使した。

『Blitz action』

 自身を抱きしめる女性隊員ごと、男性隊員に向かって高速移動をおこなう。一秒足らずで亜音速に達する超加速を可能とする高速移動魔法によって、身体そのものを弾丸に、女性隊員の体を盾にして、男性隊員に突撃する。
 激突された男性隊員は、並の交通事故など話にならない衝撃に襲われる。デバイスはあらぬ方を向き、構築が完成していなかった砲撃魔法は霧散する。

 肉の盾のおかげでフェイトへの衝撃は軽い。
 一方、まともに衝突した武装隊員たちは、水面を跳ねる水切りの石のように通路を跳ね飛ばされていく。一回、二回、三回のあたりでなのはとユーノの前を通過する――四、五、六回。
 跳ねた回数は六回。七回目の前に、通路の行き当たりの壁にぶつかって止まった。


 フェイトは大きく息を吐いて気を落ちつけると、倒れたままの彼らに注意しながら歩き始める。

「待って、フェイト! 管理局と戦っちゃ駄目だよ!」

 後ろからアルフが駆け寄ってくる。フェイトは思わず後ろを振り返って、しかし武装隊員から目を離してはいけない――目を離しでもすれば、その瞬間には魔力弾が飛んでくるかもしれない――と考え、倒れている二人の武装隊から目を離さぬように、前を向いたままアルフに応える。

「今さら何を言ってるの? 最初から管理局は敵だったじゃない」
「それは……初めはあたしも、プレシアにも何かちゃんとした理由が――管理局を敵にするだけの理由があると思ってたから。でも、あの女にどんな理由があったって、そのためにフェイトが戦う必要なんてないよ。あいつがいったい何をしてくれた? いつもいつも、ねぎらいの言葉一つなく、ただフェイトを傷つけるだけじゃないか。あれだけひどいことをするくせに、母親らしいことなんて一度もしたことないやつのために!」
「そうだね。でも、そんなことはどうでもいいんだよ」
「嘘だ! あたしはフェイトの使い魔なんだよ! フェイトの気持ちは魔力パスを通じて伝わってくるんだ! フェイトはあいつに酷い目にあわされて、あんなに悲んでたじゃないか! それなのに、どうでもいいはずないだろ!」
「……そうだね。どうでも良くはない、かな。私だって母さんにまた優しくしてほしいし、また抱きしめてほしい。でも、そうじゃないんだよ」

 アルフには見えないが、フェイトはほほ笑む。そして、諭すようにアルフに教える。母に対する自分の気持ちを。

「母さんは、幼い頃に私に笑ってくれた。優しく抱きしめてくれたし、一緒に花の冠を作ってくれた。それだけで良いの。私はその時に母さんを大好きになったから。私は、見返りが欲しいから母さんが好きなわけじゃない。たとえ今、何も与えてくれなくてかまわない。笑いかけてくれなくても、見てくれなくても良い。それは苦しいことだけど、そんなことで母さんを好きだって気持ちは変わらない。そして、好きな人を助けるのは、当たり前のことでしょ?」
「そんなの……おかしいよ」
「わかるはずだよ、アルフ。他の誰にわからなくても、私の使い魔のあなたなら」

 その言葉で、アルフはフェイトのプレシアに対する絶大なる愛を、いやがおうにも理解してしまう。それはフェイトとアルフが、特定の誰かへの奉仕者という点において似たものであったから。
 プレシアが間違ったことをしているから放っておけとフェイトに言うのは、アルフ自身がフェイトを放っておくことができないのだから、まるで説得力をもたない。
だから、何も言い返せなかった。

 言葉は力を持たない。フェイトを止めるには、力でもって強引に止めるしかない。。力で――この拳で、フェイトを殴ってでも止める。今ならできる。フェイトがアルフに背を向けているこの状況なら、不意打ちでフェイトを気絶させることくらい――

「そんなこと、できるわけ……ないじゃないか」

 フェイトは今、アルフに背を向けて話している。アルフを見ないのは、前方で倒れている武装隊を警戒しているからだが、アルフに背を向けていられるのは、アルフを全面的に信頼しているからだ。アルフが自分を攻撃するなんて、夢にも思っていない。
 自分を信頼する主人の背中を、いったいどうして襲うことができるのか。

 自分ではフェイトを止められないことを理解して、アルフは突然その場に崩れ落ちる。
 体がうまく動かず、四肢に力が入らない。使い魔といえども限界はある。治療もそこそこに無理を通してここまでやってきたせいで、アルフの肉体は消耗しきっていた。フェイトのためという目的意識が肉体をカバーしていたが、精神の弱った隙をついて負担が表に出てくる。
 うずくまった姿勢で、視界を上げることもできず、床を濡らしながらアルフは懇願する。

「お願い……行かないでおくれよ。フェイトがいなくなったら、あたし、どうやって……」

 フェイトは、背中から聞こえるアルフの痛みを抑えるような声、涙をこらえるような声、そして懇願を聞きながらも、振りかえらずに歩き始めた。
 追いすがることもできずに、アルフはその場にうずくまった。
 できることはただ祈ることだけ。もう一度、同じように願えば、助けが来てくれるだろうか――藁にもすがる思いで、アルフは泣きながら願う。

「誰か……お願いだから、フェイトを助けてよぉ」


  **


 通路を歩く。前方三十メートルほど先。通路の端にユーノとなのはがいる。
 そのさらに向こう――通路の行き当たりでは、武装隊が倒れている。二人ともそのまま。ぴくりともしない。
 これで、フェイトを邪魔する可能性のある者は、ユーノとなのはだけになった。
 そのまま通してくれれば構わない。そうでなければ――

 そう考えながら歩くフェイトは、突然前に進めなくなった。右手にもっていたバルディッシュが、動かなくなったからだ。

 フェイトは通路の端を歩いているわけでもないし、周りに障害物があるわけでもない。それに、この感触は引っ掛かって動かないというより、引っ張られていて動かせないという方が適切だ。
 きっと、アルフが痛みをこらえて追いかけてきたのだろう。そして、フェイトを止めるために、バルディッシュを引っ張っているのだろう。フェイトはそう結論を出す。
 だが、何を言われても、何をされても、それを聞くわけにはいかない。
 そう思いながら、フェイトは後ろ――引っ張られているバルディッシュを見る。

 そこには誰もいなかった。誰も引っ張ってなどいなかった。

 そのことを疑問に思う前に、バルディッシュが突然魔力弾を放つ。フェイトは命令していない。そして、魔力弾はバルディッシュのすぐそば、何もない、誰もいない場所に命中し、同時にバルディッシュがひびわれた。

 突然のことに理解が追いつかないフェイトの目の前で、誰もいないはずの空間から人間が姿を現わす。
 通路の先で倒れているはずの男性隊員がその人が、バルディッシュを握りながら、気を失っていた。

 フェイトの預かり知らぬ場所で、男性隊員とバルディッシュの戦いがおこなわれていた。
 吹き飛ばされた男性隊員は、フェイトがアルフに話しかけられた時に、数秒ではあるが、たしかに自分から気がそれたことを見逃さなかった。その間に、二種の幻術魔法を使用した。
 まずは『フェイク・シルエット』――幻影を作る魔法。これで倒れたままの自分の姿を作り出す。
 そして『オプティックハイド』――物質を透明にする魔法。自らの姿を透明にして、フェイトに気付かれないように接近。
 後はゆっくりと移動する。その姿は不可視ではあるが、移動する時の空気の動き、足音でフェイトに気付かれるかもしれないので、ある程度の場所まで近づくと、フェイトがそばを通るまでじっと待っていた。
 そして、フェイトが目の前を通った瞬間、彼女ではなく、バルディッシュをつかみ、一つの魔法を行使する。
 『ブレイクインパルス』
 目的はデバイス――バルディッシュの破壊。フェイト本人をなるべく傷つけず、その上で大幅に弱体化させることが目的だった。

 唯一の誤算は、破壊対象のバルディッシュがインテリジェントデバイスであったことだ。
 たとえフェイトが気付かずとも、バルディッシュ自身は自分に誰かが触れていることに気付く。インテリジェントデバイスは、所有者の魔力を用いて、ある程度自由に魔法を発動できるため、バルディッシュが自分の判断で魔法を行使して、男性隊員を倒そうとした。
反面、デバイスを破壊するために使用するブレイクインパルスには、対象の構造を解析するまでの間、隙があった。
 バルディッシュが普通のデバイスなら、勝算は十分にあった。インテリジェントデバイスは自立判断が可能なかわりに、ストレージデバイスに比べてその動作速度は遅い。魔導師に頼らずに独断で動くとなれば、なおのこと遅くなる。バルディッシュの自立行動より、ブレイクインパルスの方が速い。
 しかし、フェイトのための特注品であるバルディッシュは、並のインテリジェントデバイスが比にならないほど優れた性能を持っていた。
 その結果が相討ち。男性隊員は至近距離で魔力弾が直撃し、今度こそ気を失った。バルディッシュは完全破壊とはいかなかったが、重度の損傷を負っている。

「ごめんね、バルディッシュ。大丈夫?」

 問題ない――と答える音声にはノイズがかかっている。損傷は大きく、基礎構造部分にまで至っている。魔力を流し込んで自己修復機能を作動しても、ほとんど修復しない。
 武器として使うことは可能だ。だが、大きな魔法を行使するための補助としては、ほとんど使えない。

 フェイトは大切な相棒(バルディッシュ)を破壊されたことで怒り、こんな状態にした男性隊員をにらむ。彼は膝をついたまま、気を失っている。
 しかし気を失った相手に攻撃するわけにもいかず、そもそも戦いの原因が自分にあることを思い出し、ぶつけどころのない思いを抱えたまま彼に背を向け再び進み始める。


  ***


 ユーノは、わずか数分の間に凄惨な状況になった通路を見る。
 共にここまできた三人は、それぞれ通路に倒れている。意識があるのか、ないのかはわからないが、三人ともとても戦える状態ではない。

 残っているのは、なのはとユーノだけだ。
 フェイトはゆっくりとであるが、こちらに歩いて来ている。プレシアのもとへと向かおうとする彼女の表情には、鬼気迫るものがある。このまま通路の端にいればフェイトは何もせずに通りすぎるはずだ。しかし、邪魔するのであればなのはとユーノが相手でも容赦はしないだろう。

 武装隊の隊員たちの姿を見る。
 女性隊員の方はバリアジャケットが解けて、管理局の制服姿に戻っている。吹き飛ばされた時にできたのだろう。体のあちこちに一見してはっきりとわかる傷ができている。男性隊員も同様。彼に当たった魔力弾は非殺傷ではなかったのか、頭から血が流れている。
 これが戦いか――と戦慄を覚える。鍛えている武装隊でさえ、このありさまだというのに、ろくろく戦いの経験もなく、身体強化も大して使えない自分では、どんなことになるか。
 この一月で、危険な状況はいくつも味わってきた。特に、海上でのジュエルシードの封印は失敗すれば死んでいただろう。それに比べれば、ここでフェイトに負けても確実に死ぬわけではない分、こちらの方がましとも言える。
 だが、負ければこうなるぞ、と。その例を目の前にはっきりと見せられては冷静ではいられない。

 ――戦わずにこのままじっとしていたい

 ユーノは、自分の顔を両手の掌で叩く。ぱちん――とかわいた良い音がした。それに驚いて、なのはとフェイトがユーノを見る。
 ユーノはそのまま壁際から離れ、フェイトの前に立ちはだかる。

「できれば、ユーノには退いてほしい」

 フェイトが壊れかけのバルディッシュを構えながら言う。

「退かないよ。僕だって男だ。この身をはるくらいの勇気はある。それに、僕はフェイトの友達だからね。友達が間違った道に進もうとするなら止めないと」

 フェイトの威圧に負けないように、ユーノも言い返す。

「どうなっても知らないよ。ユーノは攻撃魔法を使えないよね。それじゃあ私には勝てない」
「そうだね。でも、フェイトこそそんな状態で戦えるの? 少し寝たからって魔力がそれほど回復したわけじゃない。これだけ戦えば回復した魔力もかなり減っているはずだ。何回もバインドを解けるだけの魔力は残っていない。文字通りふん縛ってでも、きみを行かせはしない」
「……そうだね。今の私は余裕がない。手加減なんてしていられないから。だから――本当にどうなっても……“どうなるか”知らないよ」

 フェイトからの圧迫感がさらに強まる。見ただけで気押される、物語の魔眼を具現化したような瞳だ。
 それでも、ユーノが退くことはなかった。

 フェイトとユーノが同時に動いた。
 ユーノはチェーンバインドをフェイトに向かって飛ばす。その程度、フェイトにとっては障害にはならない。武装隊員の魔力弾と比べれば、機関銃と投げ縄のようなものだ。
 飛行しながら軽く軸をずらして回避。そのまま接近しようとする。
 近接戦になれば、ユーノは圧倒的に不利だ。そこで、バインドを通路一面に蜘蛛の巣のように張り巡らせることで接近を防ぐ。
 それ以上近づけずに、フェイトが止まった。

 地面や壁、天井からバインドが現れ、フェイトに襲いかかる。
 魔法弾が壁を透過することが可能なように、非殺傷設定の魔法は物質に極力影響を与えない。または受けないようすることが可能だ。ユーノは、フェイトに気付かれないように、多くのバインドの中の数本を、壁の中を通してフェイトの近くに潜ませていた。
 フェイトは後ろに跳び退き、緊急回避。距離を取りながら、バルディッシュを右手から左手に持ち替え、何を持たぬ右手を振りかぶった。
 空を握るだけだった右手に、雷が生成される。槍を投げるように、ユーノに向かって投擲。

「バルディッシュ、ごめん」壊れかけのデバイスを酷使させることに謝罪。 「サンダースマッシャー!!」

 自身の残り魔力の大半を使った雷の槍が、蜘蛛の巣のように張られたバインドを突き破り、ユーノにせまる。
 翡翠色の盾が、雷の槍を防ぐ。その間にフェイトはユーノに肉薄していた。雷の槍は始めから行く手を阻むバインドの除去が目的だ。シールドの張られていない方向に回りこみ、ユーノに切りかかる。
 直前、ユーノの姿が突如目の前から消滅し、斬撃が空を切る。
 フェイトは転がりながら、その場を跳び退く。フェイトがいた場所をバインドが通過した。発生源は足元。変身魔法――ユーノは、フェレット姿になってフェイトの攻撃を回避していた。
 ユーノは再び人間の姿に戻る。

 二人は静止し、睨み合う。お互いが、暗黙の合意の上でインターバルを欲していた。
 連戦につぐ連戦のフェイト。命がけのユーノ。たったこれだけの攻防でさえ、両者の集中力はごっそりと削られている。このまま戦えば、やがてミスが増え、勝敗の行方を偶然が左右する割合が大きくなる。
 それは避けなければならない。互いに、この勝負は負けられない。
 必ず勝つために、このインターバルの間にできる限り体力と集中力を回復させ、次の一手を考え、布石を打たなければならない。
 そして二人は再び動こうとする。第二ラウンドの開始だ。

 その直前。窓もない屋内に、風が吹き始める。


  ****


 なのはの眼の前で、ユーノとフェイトが戦いを繰り広げていた。

 なのはは認めたくなかった。
 友達同士が戦うことが、ではない。戦う以外にフェイトを止める方法がないということをだ。
 フェイトと戦うのは嫌だ。たとえそれしか方法がなくても、友達を傷つけることが正しいと、戦いを止めるために戦うことが正解だと、思えない――思いたくない。
 しかし、他に道はない。問題はすでに話し合いで解決する範疇を超えていることは、フェイトを見ればわかる。母親のために全てを投げ捨てて戦える、金剛石のような意思に、言葉の刃は通用しない。
 その事実を理解して受け止めたから、ユーノはフェイトと戦うことを選んだ。友達であるフェイトを止めるために。

 レイジングハートを強く握り締める。
 感情では戦いたくないと感じている一方で、理性ではユーノだけに戦いを任せてはいけないと考えていた。フェイトは強い。傷ついていてなお、ユーノ一人では互角に戦うことが精一杯だ。このまま静観していては、ユーノまで傷つき倒れてしまうかもしれない。
 フェイトのためにも、ユーノのためにも、なのはも戦うべきだ。
 誰かの力になるために振るうと決意した魔法の力を、友達を倒すために振るうことには抵抗感がある。でも、非殺傷設定がある魔法なら、フェイトを傷つけずに倒すことができる。後は己の心次第。戦いを止めるために戦うことを受け入れれば良い。そうしなければフェイトを止めることはできない。
 なのはは、フェイトを倒すことを受け入れた。

 周囲の風が蠢き始める。魔法理論も魔法構成もなく、なのははただ感覚のままに、フェイトを倒すための魔法を紡ぐ。
 あれだけ強く、硬い意思を持つフェイトを倒すには、並大抵の魔法ではいけない。なのはの残りの魔力では足りない。もっと、もっと大きな魔力がいる。
 だから、なのはは新しい魔法を創造する。
 レイジングハートが、明滅を繰り返す。あまりにも馬鹿げた魔法構築に悲鳴を上げるながら、それでも主を助け続けていた。


 フェイトとユーノは、吸い込まれるような風を感じる。
 風の発生源に視線をやった二人は、廊下の中心に立つなのはと、その前方に浮かぶ小さな球体を見た。
 球体の色はなのはの魔力光と同じ桜色。周囲の風を取り込んで加速度的に大きくなる。いや、風ではない。取り込んでいるのは周囲の魔力素だ。魔力素が渦巻き、球体に取り込まれていく。風は結果として生じているだけ。
 具象絵画を描く精妙さで、光の軌跡が抽象画を描く。無色の魔力素は、なのはに近づくにつれ桜色を帯びながら球体に吸い込まれる。なのはに近づくにつれ、世界が彩られていく。
 際限なく大きくなる桜色の球体は、周りの暗さのせいだろうか、出すこともできないのに、血液が流れ込んで膨れ上がる心臓のよう。

「収束……魔法」

 ユーノの口から、そんな単語がもれた。知識としては知っていたが、目の前で見るのは初めてだった。

 魔法とは体外の魔力素を体内のリンカーコアで結合させ、自らが使いやすい魔力という形に変換して貯蔵。それを消費することで行使される。
 だが、収束魔法は違う。収束魔法とは、術者の周囲に遍在する魔力素をかき集めて、魔法として放つ手段のことを表している。魔力ではなく、魔力素を操る収束魔法は人間には不可能とまで言われている。
 だから、なのはは単なる魔力素ではなく、他者が使った魔力を利用していた。一度魔法を行使するために消費され、空気中に放出された魔力は、結合を解かれ再び魔力素へと戻る。しかし、すぐに戻るわけではない。ある程度の間は、魔力としての性質を残している。
 なのはが使うのはそれ――他者が消費して周囲に散乱する魔力だ。まだ結合が解かれていない魔力。これなら本来の収束魔法に比べれば比較的簡単だ――理論上は。
 だからと言って、そのためにはどれほど精密な魔力操作を必要とするのだろうか。魔力に近い性質があるといっても、所詮は他人の魔力。入り乱れての戦闘がおこなわれたこの場所の、どこに誰が使った魔力があり、その魔力にはどんな性質があるのか。そんなことはすぐにわからない。
 魔法を構築することを一枚の絵を描くことにたとえるなら、通常の魔法は自分の用意した絵の具を使い、自分の望む絵を描くこと。だが、なのはのこれは、他人が用意した適当な色を使って、自分の望む絵を描くようなもの。
 それを練習もせずに成し遂げる規格外のセンス。プログラムではなく、直感――むしろ直観か――で判断し、感覚的に魔法を構築するこの才能。
 三十余の世界にわたる管理局でも、いったいどれだけの魔導師がこれに倣えるのか。


 ユーノは、思わず我を忘れて叫ぶ。

「なのは、止めて! そんな無茶な構築をしたら――」

 対して、フェイトの動きは迅速だった。なのはの魔法は危険。だから、放たれる前に止めなければならない。彼女にはそれで十分だった。
 幸いにも、なのはまでの距離はそれほど離れていない。魔法はまだ未完成だ。

 まずは邪魔をされないように、呆然としているユーノを切りかかった。なのはに気をとられていたせいで、ユーノは回避できず、袈裟に切られて壁にぶつかった。
 視界の端に映るなのはの顔が悲壮に歪む。なのはが魔法を構築したせいで、ユーノのフェイトへの注意がそれてしまった。その事実が、なのはの精神集中を見出し、魔法の構築速度を遅らせた。
 今なら紙一重で間に合うと、フェイトは返す刃でなのはに飛びかかろうとするが、できなかった。左足が青色のバインドで、その場に固定されていたからだ。
 壁際で倒れている男性隊員の手には、デバイスが握られていた。血に濡れた顔で、男性隊員はフェイトを見ていた。

 なのはに向き直り、魔法を防ごうとシールドを展開する。が、とても防ぐことなどできないと理解してしまう。たとえバルディッシュが完全な状態だったとしても、この魔法を防ぐことはできない。抵抗する気力すら失うほどの、絶対的な力を持った大魔法。

「ごめんね」

 フェイトの視界が光に包まれ、そして闇に閉ざされる直前、懺悔するようななのはの声が聞こえた。


  ****


 男性隊員はゆっくりと立ち上がると、アルフのもとまで歩いて行く。彼女は気を失っている。生命反応が弱弱しい。使い魔は人間よりは丈夫だが、早く治療を受けた方が良い。
 アルフを背負うと、彼はまた歩きだした。

 通路を歩き、ユーノのもとに行く。気を失っており、軽い怪我もしているがこのくらいなら軽傷だ。なぜかフェレットのような動物になっているのが気になるが、特に問題はないだろう。
 ユーノをポケットに入れると、彼はまた歩きだした。

 次はフェイトのもとへ行く。恒星のように巨大な魔法に飲み込まれて、完全に気を失った。息はあるが、あれだけ大規模な魔法を受けたのだから、何かしら異常が起こってもおかしくない。
 彼女を左手で抱えると、彼はまた歩きだした。

 そして、なのはのもとへ行く。自分の魔法がフェイトを倒したことを確認した後、なのはもその場に倒れた。気を失っているだけに見えるが、あれだけの魔法は、行使するだけでも術者を傷つける。
 彼女を右手で抱えると、彼はまた歩きだした。

 最後に、倒れている女性隊員のもとへ行く。
 彼女もまた気を失っている。さすがに五人は無理だ。重量以前の問題で、どこに抱えればいいのか。
 起きてもらおうとして、自分たちが吹きとばされた時を思い出す。床を跳ねる時、そして壁にぶつかる時、その全てで彼は彼女にかばわれた。彼が気を失わなかったのは彼女のおかげだ。
 彼は彼女にバインドをかけ、その体を引きずりながら歩きだした。

 さすがに五人は重い。しかも、早めに治療を受けさせるためにも、休んでいるわけにはいかない。
 両手がふさがっているため、顔を流れる汗と血を拭うこともできず、ゴルゴタの丘に昇る聖人のように、彼は歩き続けた。

 その後、男性隊員は五人を抱えて無事に庭園部に戻ってきた。
 その時にはすでに医療班が、玉座の間から傷ついた武装隊を回収して戻ってきていたので、彼は五人の治療を頼むと安心してそこで倒れた。その服は血で真っ赤に染まっていた。
 医療班は慌てて治療を始める。もちろん、最優先は彼だった。六人の中で、彼が一番重症だったから。


 かくして、当初の目的であるフェイトの保護は達成された。この事件における、なのはたちの――子供の戦いはここで終わる。
 同じ頃、ウィルはプレシアと出会う。大人たちの戦いも、ようやく終わりを迎えようとしていた。


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