━━━━━ ネギ・スプリングフィールド ━━━━━
タカミチに最近明日菜さんに避けられていることを相談されたんですけど、コレっていったいどうしましょう?
正直に言うべきなのでしょうか? 明日菜さんはタカミチに振られてしまったことで落ち込んでますよ…………って感じで。
というか、進路相談室でそんなこと相談しないでくださいよ。
「チョコレートならコーヒーの方がいいですね」
「…………あ、お任せいたします」
そんでトボトボと力なく歩いていた刹那さんを拾っちゃったんですけど、コレもいったいどうしましょう?
とりあえず相談を兼ねてお茶に誘ってみたら、チョコレートを食べてみたいとのことでした。中武研から巻き上げた食券残ってますから構いませんけどね。
「え? この小さいチョコ一粒で百円?」
「和菓子だって似たようなものでしょう。老舗だと饅頭一個数百円とかするのありますし」
「…………あ、確かにそう言われると納得出来ますね」
まぁ、一口で終わること考えたら高いですけどね。でも学生も来ることを踏まえた値段設定をしているこの店は、こういう専門店にしてはかなり安い方ですよ。
それに各地のお土産のお菓子……饅頭でも何でもいいですが、そういうのは1箱1000円とか平気でしますけど、1個辺りで考えたら1個100円とかザラですよね。
そう考えたらお菓子とかは自作するのが一番安いんだよなぁ。………………使う砂糖の量で怖くなるけど。
そういえば前の世界ではエヴァさんに連れていってもらったことありますけど、僕もこっちの世界ではこういう専門店は始めてだなぁ。
「それで、いったい何があったんです?
刹那さんがそこまで落ち込んでいるなんて?」
「……………………」
「…………木乃香さん……裏の関係のことですか?
周りに聞こえないように結界張りますね」
「あ、すいません…………」
こりゃ本気で落ち込んでいますね。何があったんでしょう?
とりあえず、結界結界。
…………前の世界のどこでも騒ぐ駄目親父共のせいで、結界の熟練度がこんなに上がるとは。
再転生して鍛え直したときも、アッサリと勘を取り戻せたし…………。
「で? 何か悩み事でも?」
「…………その、ネギ先生はどうやってそこまで強くなれたんでしょうか?」
「? んー、僕って強いんですかね?」
「…………嫌味ですか?」
「あ、いえ。真面目に聞いてるんですよ。模擬戦のときも話しましたけど、戦闘と呼べるものはあの日が最初でした。ですから自分がどの位置にいるかわからないんですよ。
あれ以来、模擬戦とかしていないですし。
それにいくらエヴァさん達に勝ったとはいえ、あくまでアレは模擬戦ですからね。本当の殺し合いになったらまた違うでしょう。
まあ、この前の模擬戦の結果からすると、少なくとも“中の上”か“上の下”ぐらいはあると思ってますけど」
「ああ、そういうことでしたか。
…………申しわけありません。ヒネた言い方をしてしまいまして」
「別に構いません。桜咲さんは“強さ”について悩んでいるんですか?
僕が言うのも何ですが、14歳なら仕方が無いところもありますよ。僕達では身体がまだ成長しきっていないのですから」
「それは…………私がまだまだ修行中の身であることは承知しています。そちらの“戦いにおける強さ”ではないのです。
…………ネギ先生は何でも出来るじゃないですか。戦いでも教師の仕事でも。それに比べて私は護衛を満足にこなせていないだけでなく、勉強は出来ない上に一般常識まで欠けている始末です」
一般常識に欠けているのは護衛ばっかりしているからじゃないですかね?
あと、麻帆良にいれば自然にそうなっちゃうのでは?
「何でネギ先生は何でそんなに“強い”んですか? 何でそんなに何でも出来るんですか? 」
強くならないと駄目親父達の修行で死んでたからです。
何でも出来るようになったのは駄目親父達のせいでパートナーになってくれる人がおらず、自分独りで全てやらなければいけなかったからです。
って答えられたら楽なんですけど、駄目ですよねぇ。
クソッ、あの駄目親父共めが。今度会ったらブン殴る。
…………そういえば学園祭のときのまほら武道会って、合法的に駄目親父ボコれるチャンスじゃね?
参加するつもりなかったですけど、それ考えたら美味しいですね。優勝賞金一千万円も美味しいし。
エヴァさんの別荘借りて修行を本格的にしたおかげで、前の世界の強さをだいたい取り戻せました。
肉体的にまだ完璧ではないですが、技術的な向上を含めたらむしろ強くなってますね。“紅き翼”メンバーを一人相手にするぐらいなら余裕です。
ま、それはあとでゆっくり考えますか。
さて、それでは何て答えましょうかね?
刹那さんも本気で迷っているみたいだから、真剣に答えますか。
「一言で言えば、“楽しいから”ですね」
「“楽しいから”…………ですか?」
「ええ、桜咲さんは勉強が楽しいと思ったことはありませんか? 修行が楽しいと思ったことはありませんか?
難しい問題を解いたとき達成感を感じることはありませんか? 練習を重ねて遂に技を習得できたときは嬉しくなりませんでしたか?」
「…………ええ、そういうのはわかります」
「娯楽がなかった田舎で育ったせいもありますけどね。僕にとって修行や勉強は遊びと同じなんです。“好きなものこそ上手なれ”って奴ですよ。
…………僕が思いますに、桜咲さんには今まで他の事を考える余裕が無かったんじゃないでしょうか?
そして高校という先のことを考え始めたせいで、今までの生活に発生していたけど気づかなかった綻びに気づいてしまい、こうして悩んでいる」
「…………そうかもしれません。今までは護衛ばかりに集中していたので考えもしませんでしたが、私は周りを見ていなかったような気がします。
ネギ先生と高校のことについての話をしてから、いろいろ物事を考えるようになりました」
カラオケやボーリングもしたことないですもんねぇ。
前の世界のこのちゃんせっちゃん知っている分、この世界の木乃香さんと刹那さんのすれ違いにはちょっと心が痛みます。
「そのことに気づいたのなら大丈夫ですよ。人間とは“人の間”と書きます。独りでやれることは少ないです。他の人達との触れ合いは護衛には無意味かもしれないですけど、いつかは役に立つときが来ます。
今は少し歩みを緩めて、辺りを見渡すといいですよ」
「…………はい。しかし今のままでは“護衛”、“修行”、“勉強”の3つをこなすには時間が足りません」
「確かにそれはキツイですねぇ」
しかし、何でこんなこと思い始めたんでしょう?
何だか普通の女子中学生みたいに弱々しいです。てっきり原作みたいに京都編が終わるまでは、仕事モードのせっちゃんしか見れないと思っていたんですが。
今の刹那さんはまほら武道会でエヴァさんに虐められたときのような顔しています。
エヴァさんの評した“触れれば切れる、抜き身の刀の様な佇まい”がないんですよねぇ。
僕が高校の留年を注意したために周りのことを気にするようになり、エヴァさんの言う“小さな幸せ”に気づいてしまったんですかね?
あとは10歳の僕があそこまで戦えたことによる自信喪失ですか。
アレ? どっちにしろ僕のせい?
まあ、独りぼっちで頑張ることに疑問を持ったのはいいことです。独りでやるしかなかったら、そのうち僕みたいになってしまいますからね。
時間に関してはエヴァさんの別荘を借りればいいんですが、エヴァさんが刹那さんに別荘を貸す理由がないで…………あ、もしかしたら、うまくいくかな?
それにしても、自信を失って不安そうなせっちゃんが可愛いです。
でも、とりあえず原作終わるまでは恋愛関係は自重しようと思っているんですよね。
そもそも僕は誰のことが好きなのかもよくわかっていませんし、のどかさんみたいな一般人を原作同様に危険なことに巻き込むのは気が引けます。
ハーレムというものにも憧れますが、前の世界と合わせて彼女いない暦20年以上の僕が言っても妄想でしかありません。
だから、僕は考えました。
さっさと原作終わらそう、さっさと“完全なる世界”ぶっ潰そう…………と。
原作的にだいたい夏休み終了ぐらいには終わるみたいですからね。
だったら焦る必要はありません。夏休みが終わってから、本当に好きな人を探せばいいのです。
何で二次創作の主人公は、わざわざ大変なイベントがある原作時期に恋愛に頑張るんですかね?
さっさとメンドイこと終わらせてから青春送った方が楽しめるでしょうに。
「そういえば、ネギ先生から見て木乃香お嬢さまの護衛についてはどう思います?
ネギ先生が修行の参考にしたという、警察や軍隊の視点から見てです」
「…………桜咲さんには申し訳ないですけど、護衛対象を避ける護衛ってのはマズイと思いますね。それと、木乃香さんに護衛されている意識がないってのも危ないでしょう。
護衛にとって一番厄介なことは、護衛対象の予期せぬ行動です。そして護衛されている人間の一番大切なことは“護衛されていることを意識して、普段通りの生活を送る”ことです。
護衛対象が護衛されていることを知らない場合、護衛対象の好き勝手に動かれることになりますからね」
「…………わかって、おります。しかし、木乃香お嬢さまにはこちらのことには関わって頂きたくないというのが、学園長と西の長のお考えです。
ですので木乃香お嬢さまに私が護衛しているのを知られるわけにはいけません」
「別に裏の事情まで教えなくてもいいじゃないですか。雪広さんはコチラの関係者じゃないですけど、護衛がコッソリついていますよ。雪広財閥の次女なら当然ですけどね。本人も承知済みでしょう。
ですから雪広さんみたいに、表の世界の護衛をつけるだけでかなり違うと思いますよ。
しかも木乃香さんは元華族である近衛家のお嬢さまです。護衛がついていても誰も不思議には思いません」
「な、なるほど…………」
「まあ、今から護衛をつけるとなると不自然になりますけどね。「何で今更?」という話になりますから。
それと木乃香さんに発信機とかつけてるんですか?誘拐されたときにそういうのがあると、探し出すのが楽になるんですけど」
「は、発信機? …………いえ、そのようなものは持ち歩いておられないと思います」
「…………うーん。何と言いますか。正直に感想を言ってしまえば、“桜咲さんが満足するための護衛”のように思えてくるんですよね。
桜咲さんは見守っているだけで満足なんでしょうけど、もうちょっとやりようがあると思いますし、やるべきこともあると思います。
本人の安全の事を考えるなら、木乃香さんに秘密でもそういう準備しといた方がいいですよ。携帯電話とかベルトとか靴とかに仕込んでおくとか。
僕でさえいつもつけてるネックレスに発信機仕込んでます。僕に何かあったらアルちゃんが周りの人に事情を説明してくれることになっています。
しかも、この腕時計は実を言うと発信機付きの魔法発動体です。普段はこれ見よがしに父の形見の杖を持ち歩いている上に折りたたみ式の杖も携帯しておいて、更に腕輪型と指輪型の魔法発動体もしていますけどね。
あ、他にこのこと知ってるのアルちゃんだけですから、他の人に言わないでくださいよ」
「…………ネギ先生はいったい何と戦っているのですか?」
「あくまで“念のため”ですよ」
「……………………ハァ」
麻帆良に来てからの自分を知ってる刹那さんだから、こんな理由でも納得してくれますね。
っていうか溜息つくなや。
さすがに元老院対策とは言えませんので、仕方がないんですがね。
「まぁ、木乃香さんのような場合は良い護衛方法を検討するより、元となる原因を解決した方がいいと思います。
原因がはっきりしているのですからね」
「…………原因ですか?」
「はい。木乃香さんが狙われる理由は“西の長の娘である木乃香さんが東にいる”ということなのでしょう。
だったら“西に帰ればいい”のです」
「ハ? し、しかし、お嬢さまには麻帆良に友人もたくさんいます。
いきなり帰れというのは酷なのでは?」
「いや、ずっと西にいるわけじゃないですよ。
正月とか夏休みとかに実家に帰省すればいいんですよ。それこそ三連休ぐらいでも京都に帰ってゆっくり出来ますよね。麻帆良から京都の実家までなら数時間で到着できるでしょう。
“いつでも自由に西に帰ってこれる”なら、わざわざ麻帆良に来てまで誘拐企む阿呆はいないです」
「…………ど、どうなんでしょうか?」
「木乃香さんに聞きましたけど、木乃香さんは麻帆良に来てからはあまり京都の実家に帰省はされていないんですよね?
だったら西の人達はやきもきもするでしょうよ。これでは東が木乃香さんを掴んで離さないように思われるのは仕方がないのでは? とりあえず今度の春休みにでも帰省してみたらどうですか?
不安でしたら僕も着いていきますよ。父が京都で住んでいた家とか、父の盟友である近衛詠春さんとか、僕が京都に行ってもおかしくない名目はたくさんあることですし」
そしたら修学旅行でわざわざ京都に行かなくてすみますしね。例え襲われたとしても、クラスのことを考えなくていいから気が楽になります。修学旅行はハワイが良いなぁ。
そういえばフェイトってもう西にいるのかな?
「わ、私の一存ではそこまでは何とも…………」
「譲れるところは譲っていかないと駄目ですよ。“お前が譲れば私も譲る”という姿勢ではいつまで経っても仲良くなれません。せめて“私が譲るからお前も譲ってくれ”でなければね。
そもそも木乃香さんが実家に帰省することに、何か表向きに問題がありますか?」
「いえ、それはないと思います」
「むしろ西も巻き込んじゃえばいいんですよ。“木乃香お嬢さまが帰省するので護衛よこしてください”とか、ね。
そこまで露骨に言わなくとも、木乃香さんが「京都駅まで迎えをよこして」と言えば自然に西も護衛出来るでしょう」
「し、しかしお嬢さまに危険なことがあっては…………」
「ですが、ずっとこのままというワケにはいかないでしょう。木乃香さんが大人になったらどうします? 木乃香さんが大人になってもずっと麻帆良に留めておくことなんて出来ないでしょう。
今のままだったら木乃香さんに関してのことは西と東の仲が悪くなることはあっても、良くなることはないと思いますよ。
学園長は木乃香さんを早めに結婚させて西との関係を無くそうとしているのでしょうが、なし崩しに終わらされる西としては納得できないと思います。
言い方が適切かわかりませんが、僕は“臭い物に蓋”ってあまり好きじゃないんですよね。発酵して可燃物質が出来たとしたら始末が大変ですから。
僕としては“臭い物は分解して肥料にして畑に撒く”方がいいと思ってます。…………別に木乃香さんを“臭い物”とおもっているわけじゃないですからね。言葉の綾です」
「え、ええ。わかっております…………」
「相変わらず“正義の魔法使い”とは程遠い考えをするんだな。なぁ、ネギ?」
あれ? エヴァさん?
何でこんなところに?
「担任補佐ともあろうものが、こんなところで生徒とデートか?
いつになったら私を美術館にエスコートしてくれるんだ?」
そういえば模擬戦のときにそんなこと言ってましたね。アレって本気だったんですか?
てっきり、僕の気を引いて糸の罠にかけるための駆け引きだと思っていたんですが。
そういうことなら喜んでお誘いするんですが、「本気だったんですか?」って言ったら怒られそうですねぇ。
「修学旅行に行かなくてもいいのなら、今週の休みにでもどうですか?」
「…………イヤ。やっぱりゆっくり待つことにする。
お前もいろいろと大変そうだからな」
「多分…………そうですねぇ、春休みには呪いの修正が終わると思うので、春休みにお誘いします。
それに今の時期はあまり面白い展示をしてないようですからね。きっと春休みには大きい展示をするんじゃないですか?」
「ム、それもそうだな。今の時期は客が入らんからな。
わかった。春休みのデートを楽しみに待つとするよ」
説得終了。
『登校地獄』は便利です。
まぁ、今やってる展示も春休みにやる展示も知りませんが。
「チョコレートが食べたくなってな。相席しても構わんだろう?」
「僕は構いませんが、桜咲さんは?」
「あ、大丈夫です」
「僕達と同じメニューでいいですか?」
「いいのか? なら馳走になろう」
「同じテーブルに座って、桜咲さんには奢るのにエヴァさんに奢らないっていうのはないですよ」
「え? わ、私は自分の分は自分で払います」
「僕教師。あなた達生徒。ついでにおかわりも注文してきます」
そういことなら麻帆良内の美術館とかのサーチしとかないと。
エヴァさん遊園地に行ったことないって言ってたから、ソチラも一応調べておきましょうか。
きっと童心に戻って、外見相応にはしゃいで遊ぶエヴァさんが見れそうです。
あ、でもさすがに美術館とか遊園地を教師と生徒の二人っきりで行くのはマズイですかね?
年齢詐称薬をまほネットで注文しておきますか。
アレあったら学園祭のときとかも使えそうですし、買っといて損はなさそうですね。
━━━━━ 桜咲刹那 ━━━━━
「え? 刹那さんは『斬魔剣』を使えるんですか?」
「え? ネギ先生は『斬魔剣・弐の太刀』を使えるのに、『斬魔剣』は使えないんですか?」
というか、宗家である青山家ゆかりの者にしか伝承されないはずの『斬魔剣・弐の太刀』を何故使えるのですか!?
「いや、ビデオに『斬魔剣・弐の太刀』は映っていたんですけど、普通の『斬魔剣』は映ってなかったんですよね。『弐の太刀』があるのだから『壱の太刀』もあるとは思っていましたが…………。
この前の葛葉先生が使ってきた『雷鳴剣』も知りませんでしたし」
「…………そういうことですか」
「…………やっぱりネギはネギだな」
そうですね、エヴァンジェリンさん。
ネギ先生はネギ先生なんだから仕方がないんですね。
「是非とも『斬魔剣』と『雷鳴剣』を教えていただけませんか?
それに神鳴流は他にも技があるでしょうから、それも是非」
「え? それはお世話になってますので構わないのですが、時間が取れなくて…………」
「あー、そうですね。“護衛”、“修行”、“勉強”としなきゃいけませんからねぇ。
…………“修行”と“勉強”はエヴァさんの別荘を使えれば問題ないんですけどねぇ」
「? …………別荘、ですか?」
“別荘”? 何のことだ?
「私が持っている魔法の別荘だよ。現実の1時間が別荘の中では24時間になる。
とはいえその分老化が進むということでもあるから若い女にはすすめんがな。一度入ったら中で24時間過ごさないと外に出られんし」
「僕は背が急に伸びても、多少なら成長期ということで誤魔化せますからね。週に2、3回ですけど使用させて頂いてます。
そこなら時間を気にしなくていいんですが桜咲さんはお嫌ですよね。木乃香さんの護衛もあるでしょうし…………。
24時間ずっと修行しっぱなしというのもアレですから、お礼に勉強を教えることも出来るんですが」
「そういうことなら構いません!
週に2、3回の1時間程度なら、お嬢さまの護衛は龍宮に依頼すれば問題ありません!」
「げ、元気良いですね? …………構いませんか、エヴァさん? 桜咲さんも一緒に別荘へ来ても。
僕としては神鳴流の技に興味がありますし、剣の組み手を桜咲さんにお願いしたいのですが。もちろん『登校地獄』解呪は遅れたりしませんから」
「…………ムゥ。魔法ならともかく、私では神鳴流なんぞ教えることは出来んからな。
まぁ、そういうことなら構わんぞ」
「ありがとうございます! エヴァさん!」
「な、何…………。このぐらいたやすいことだ」
「私からもお礼を申し上げます。エヴァンジェリンさん」
やった! さっき相談したことを忘れられたのかと一瞬思ってしまったが、ネギ先生の狙いはこれだったんだ。
ありがとうございます、ネギ先生!
これで“修行”と“勉強”の目処が着いた。
老化が早まるとか、修行中の身で神鳴流を教えるとかは少し気になるが、そんなことは大事の前の小事だ。
ネギ先生の剣のお相手をするのは私にとっても修行となる。
ずっと私に掛かりきりというのは無理だろうから自主錬の時間も多いだろうが、それでも修行の時間が増える。
そして何よりネギ先生につきっきりで勉強を教えてもらえる。
他のバカレンジャーの皆には申しわけないが、私が最初のバカレンジャー脱退者にならせてもらおう。
負担は龍宮に対する報酬だが、週に2、3時間ならそう高くないだろう。あとで相談しなければな。
これで当面の目処は着いた。
あとはネギ先生の言ったとおりに木乃香お嬢さまに対する危険を根本的に取り除くことだが、それはまず学園長に相談してみよう。
一介の護衛風情が口に出していいことではないが、他ならぬ木乃香お嬢さまのためだ。学園長だってその気があるのなら協力してくださるだろうし、ネギ先生のお力添えも期待できる。
「そういえばさっき面白そうな話をしていたな。春休みに京都へ行くのか?」
「あくまで僕の勝手な考えですよ。
木乃香さんのことは今の状態で良いとは思えませんからね。最終的な判断は学園長がするでしょうが」
「フン。どうせジジイが否と答えても、それとなく近衛木乃香を誘導させて京都に帰省させるんだろう?」
「そんなことはしませんよ。まあ、僕自身京都に行ってみたいので、居候させてもらっている部屋で京都旅行のパンフレットを見るかもしれませんがね。
…………エヴァさんも行きますか?」
「………………なん、だと?」
「もちろん木乃香さんのこととは関係無しにです。
さっきも言ったとおり、春休みには呪いの修正は終わるとは思います」
「…………行く。絶対行く。
だから春休みまでには絶対呪いの修正を終わらせろ」
「はいはい。努力いたしますよ。
でも、もし木乃香さんの帰省があってそれと被る場合は、何あったらご助力お願いしますよ」
「そのぐらい構わん。
…………京都か……………………15年振りの麻帆良の外か」
嬉しそうだなー、エヴァンジェリンさん。
そしてさすがネギ先生。着々と戦力を増やしていく。私も念のために龍宮へ話を通しておくかな。
「ああ、そういえばエヴァさん。
ウチのクラスの相坂さんのコトですが」
「お? 材料揃ったのか?
しかし、よくアイツのことがわかったな。多分、龍宮マナですら気づいていなかったぞ」
「いや、クラス名簿に名前が書いてある人がずっと来なかったら、そりゃ気になって調べますよ」
「…………何のお話ですか?」
「ウチのクラスの幽霊さんのコトです。
そうだ。よかったら桜咲さんも念のために手伝ってくれますか?」
「え? ウチのクラスの幽霊?
…………事情がわからないで何ともいえませんが」
「おいおい。私が言うのもなんだが、アイツは人畜無害な奴だぞ。
それなのに退魔の神鳴流を連れていくのか?」
「あくまで“念のため”ですよ」
ウチのクラスに地縛霊でもいるのか? 全然気づかなかったが…………。
エヴァンジェリンさんが人畜無害というのなら安全なのだろうが、お嬢さまの安全のために私の目でも確認しておくべきだな。
━━━━━ 近衛木乃香 ━━━━━
…………せっちゃん、楽しそうや。
ウチのことは避けるのに、ネギ君とはあんな風に笑えるんか…………。
考えてみればウチは焦りすぎてたわ。せっちゃんがウチを避けるようになったのは、きっと何か理由があるはずなんや。
その理由も知らずにせっちゃんに立ち向かっても、逆にせっちゃんを困らせるだけやった。
まずはせっちゃんがウチを避けるようになった理由を調べんと。それと何でネギ君ならあんなにせっちゃんと仲良うなれるかも調べなアカンな。
となると、和美ちゃんは…………大事になりそうやからアカンな。
内密に調べてもらわなアカンから、楓に協力を頼もうか。忍者やからきっとこういうのに適任や。プリンで協力頼めへんかな?
そのあいだにウチはネギ君と話して、どうやったらせっちゃんと仲良くなれるかアドバイスを貰おう。
ネギ君は担任補佐でウチは生徒なんやから、そういう相談にも乗ってくれるやろ。
…………そういえば、最近ずっと夜はアスナにネギ君貸してたなぁ。失恋のショックが大きかったことはわかるけど、ずっとネギ君独り占めというのはずるいわぁ。
しかもネギ君が甘えてくる方法見っけたとか言って、そのときのことを惚気てくるし。ウチもネギ君に甘えられたい~。
よし、今日はネギ君と一緒に寝よう。
そんで朝はネギ君より早く起きて、ギューっと抱き締めるんや。
━━━━━ 後書き ━━━━━
「さっさと原作を終了させてから青春を謳歌する」
そんな二次創作の根幹を引っ繰り返す発想をする、それがここのネギクオリティ。
ま、そんなこと許すわけありませんがね。
せっちゃんの強化フラグが立ちました。
しかしせっちゃんは、24時間ずっとネギと二人っきりで修行と勉強になることの意味にまだ気づいていません。
そして忍びという気配遮断のプロがせっちゃんをロックオンしました。
せっちゃんの運命や如何に?