━━━━━ フェイト・アーウェルンクス ━━━━━
夜空に花火が上がり、中空に浮遊している戦艦を照らす。
そして眼下には舞踏会に参加するために煌びやかな衣装を纏った大勢の人達がいる。
…………人達っていっても、あの中のどれくらいが本当の人間なのかな?
残りは何も知らない哀れで儚い木偶人形達。
人の自我など錯覚による幻想に過ぎない…………などと言ったところで、この場合は慰めにもならないね。
…………いや、余計なことを考えるのはよそう。
とにかく今はこの陽動を成功させることだけを考えなければ。
もう一日もすれば4番と5番も起動出来るだろう。
だが、それと同じくらいにゲートポートに魔力が充分に集まり、魔力枯渇地域だったはずのゲートポート周辺に浮遊岩が現れるなどの変化が現れもする。
そしてネギ君がそれを嗅ぎ付けたら、何らかのアクションを起こす可能性は充分にある。
その前にネギ君を足止めしなければ。
…………まあ、簡単に言ってしまえばただのテロなんだけどね。
世界中のVIPが集まるこの舞踏会を引っ掻き回し、最後には墓守り人の宮殿の反対方向に逃げるのをネギ君に見せつける。
VIPに被害が出れば騒ぎになって時間稼ぎに出来るだろうし、少なくともクルト・ゲーデルなどは後始末に追われることになるだろう。
下手に凝ってもネギ君に引っ繰り返されるだけだろうから、あえて単純な策でいく。
幸いゲートポートで手に入れたネギ君の血を利用することによって、主の力…………“造物主の掟”は扱えるようになった。
デュナミスがこの一ヶ月頑張ってくれた甲斐があるよ。クゥァルトゥムとクゥィントゥムの調整もあったろうに…………。
ネギ君には効かないだろうが、これでジャック・ラカンみたいな人形達には絶対的なアドバンテージを持てる。
ネギ君一人でもいっぱいいっぱいなのに、さすがに“造物主の掟”無しでジャック・ラカン達まで相手にするのは大変だからね。
それに“造物主の掟”を使えば召喚魔獣なども楽に呼び出せる。
これでネギ君以外の連中は問題ないだろう。
…………そのネギ君一人をどうすればいいかはまだわからないんだけどさ。
「せっかくの舞踏会なのにドレス姿じゃなくてもいいのか?
それと招待状はあんのかよ?」
…………ジャック・ラカン。何故ここに?
いや、それより彼に気づかれたということは、ネギ君にも気づかれているということか?
「…………あなたが出てくるとは意外だな。
世界のコトなどどーでもいい人だと思っていたけど」
「なぁに……世界はまぁ、どーでもいいんだが、ダチの息子に説教されてなあ。
“いいから少し警備員としてでも働け、このごく潰し”ってな!!! ………………オジサン世代としては、少しはいいところ見せないといけないしよぉ」
マズイ。彼と戦闘になったとしても“造物主の掟”がある限り負けはしないだろうけど、戦闘が派手になることは間違いないだろう。
時間をかけたらネギ君までも現れるかもしれない。
こんなことなら環君を連れてくればよかった。ネギ君に発見された瞬間に瞬殺されそうだったから、月詠さんも含めて全員置いてきたけど。
環君の“無限抱擁”ならば、一度展開させて異空間に移動さえすればさしものネギ君も戦闘に介入出来ないだろう。
それを使ってジャック・ラカンなどの強者を各個撃破していってもよかったな。
ここに来たのは僕と調整が終わって手の空いたデュナミスだけだ。残りの戦力はデュナミスの召喚魔で補う予定だった。
少数精鋭で来たのが裏目に出たか。
しかしジャック・ラカンは無視しておくことは出来ない。テロの実行はデュナミスに任せて、僕はジャック・ラカン撃破に専念することにしよう。
「フム、この少女が“完全なる世界”とな。
…………最近は変わった子供が多いのかもしれぬなぁ」
? …………ポスポラスのカゲタロウ? 彼まで何故ここに?
そもそも昨日の試合の怪我は大丈夫なのか? 派手に腹を突き破られていたけど…………。
彼もネギ君に言われて僕の撃退に来たのか?
昨日の試合で見た感じでは腕が立つし、ジャック・ラカンとの二人がかりなら僕を確実に仕留められると思ったのかな?
確かに前までの僕だったら、この二人相手には勝てる可能性は少なかっただろう。
だが所詮彼も“造物主の掟”の前ではただの人形。
“造物主の掟”を知らないせいとはいえ、ネギ君も選択を間違ったね。この二人では今の僕には勝てない。
でもこれでネギ君に一泡吹かすことが出来るかな。
彼ら相手に使用するのは反則とも言えるかもしれないが、これは純粋にお互いの願いをかけた戦いなんだ。
卑怯とは言うまいね。
「やれやれ。あなたは何年経っても変わらないですねぇ、ラカンさん」
「ラカンさん、出るの早いですよ。
準備が整うまで待ってくださいよ」
!? …………高畑・T・タカミチにクルト・ゲーデル。彼らまで来たのか。
マズイな。彼らは正真正銘の人間だから、“造物主の掟”が効かない。
それに彼らは実力的にも侮れない。一対一ならまず負けることはないとはいえ、二人いるうえにジャック・ラカン達までいる。
やれやれ、これは大変な仕事になりそうだ。
「…………よぉ、フェイト。
なぁ、もう終わりにせぇへんか? お前らじゃネギには絶対勝てないで」
犬神小太郎君まで!?
どんな修行をしたのかわからないけど、小太郎君はゲートポートのときよりも明らかにレベルが上がっている。高畑・T・タカミチやクルト・ゲーデルクラスとまではいかなくても、それに準じるぐらいまでは強いだろう。
しかも小太郎君にも“造物主の掟”は効かない。
…………参ったね、これは。
「ハッハァーーーッ!
近衛軍団で白兵戦の鬼教官と言われた実力を見せてやるぜぇーーーっ!
…………いや、本当に俺結構強いはずなんだぜ」
「本格的な戦闘は本当に久しぶりね。勘が鈍ってなければいいけど。
(でも少しは活躍してアリアドネーの力をネギ君に見せないと。さすがに警備の子達では足手纏いになってしまうでしょうし…………)」
…………元老院議員リカードにアリアドネー総長のセラス。
彼らも魔法世界人だとはいえ、ここまで増えられると正直言って…………。
「…………何だか物凄く久し振りの出番な気がするな。
(本体が近くにいるのだから仕方がないが…………)」
エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル(コピー)までいるのか!?
彼女はコピーだから本人までとはいかないだろうけど、どう見ても高畑・T・タカミチやクルト・ゲーデル級の力は持っている。
いくら何でもこれは無理すぎるよ!
「それじゃあ、僕と小太郎君、それにラカンさんが前衛。
そしてクルトとカゲタロウさんは中衛でセラス総長とエヴァは後衛です。
リカードさんはセラス総長とエヴァの護衛をお願いしますね」
「うーっす。りょーかいりょーかい」
「承知した」
結局八対一かっ!?
僕一人にこんな戦力を集めて、もし他に襲撃者がいたとしたら………………って、ネギ君がいるから大丈夫なのか。
そうだよね。調さん達が出てきてもネギ君の従者が相手にすればいいし、デュナミスはネギ君が相手にすればいいんだよね。
むしろネギ君がデュナミスを相手にすること自体が戦力過多なので、僕一人にこれだけ集めても逆に戦力振り分けのバランスは取れている。
墓所の主が手伝ってくれれば…………いや、ネギ君がいるのなら無理か。決勝で見せたあの不明の技を使って、デュナミスか墓所の主のどちらかを速攻で倒せばいいんだし。
…………この八人を相手にしてもネギ君なら勝てるんだろうなぁ。
「それとラカンさんやセラス総長達は気を付けて下さいよ。どうやら彼らはこの世界の秘密に繋がる力を手に入れた可能性もあるのですから。
何か不穏なことがあるようでしたら、現実世界人である私とタカミチ、それと小太郎君が矢面に立ちます」
「!?!? 何でそれをっ!?」
「任しといてやー」
「ええ、その時はお願いね」
「私は…………人造霊だから念のためにやめておいた方がよさそうだな。
素直に後衛を務めよう」
「いやいや! 何で君達がそのことを知っているんだ!?」
「「「「「「「「ネギ(君)が言ってた(わよ)」」」」」」」」
「だから何でネギ君がそれを知っているんだよっ!?」
「「「「「「「「だってネギ(君)だから」」」」」」」」
何その納得出来ないはずなのに何故か納得してしまう言い訳?
僕の混乱のことなど知ったこっちゃないと言わんばかりに、ジリジリと間合いを詰めてくる小太郎君達。
八対一なのに油断もする様子もなく、ただ僕の首を獲ろうと隙を窺っている。
「「「「「「「「卑怯とは言うまいね」」」」」」」」
…………。
……………………
………………………………これはもう駄目かもわからないね。
━━━━━ テオドラ ━━━━━
「タカミチ達が戦闘に入りました。今のところは予定通りです。
…………いやぁ、のどかさんの“いどの絵日記”は本当に便利ですねぇ」
「はい! ありがとうございます、ネギ先生!」
…………悪魔か、こ奴は?
昼のネギとアーウェルンクスの話し合いが終わった後、急遽妾も合流して対応策を練ることになった。
もちろんアーウェルンクスの企みはネギが“いどの絵日記”で読み取っていたから、それに合わせた対応をするだけじゃったので楽じゃった。
…………それにしてもネギが“黄昏の御子”とはの。
その力を完璧に使えておるようだし、これからもネギのことは注視せねばなるまい。この子は良くも悪くも今後の世界への影響を与えていく事になるじゃろう。
ましてや魔法世界崩壊の危機を回避する方法まで提示してくる始末。
この祭りが終わったら父上にも話を通して、このプロジェクトの参加への表明せねばなるまいが………………これからのことを考えると気が重いのぉ。
対応策を練るときにこの世界の秘密を教えてもらったが、まさかこんな秘密が隠されておったとは…………妾は知らなんだが、父上は知っておるのかの?
何にせよ準備もせずにこれを公表したらパニックになるじゃろう。慎重に事を進めなければならぬの。
「それにしても…………セラス総長とかリカードさんまで参加してよかったんですかね、立場的に考えて?」
仕方なかろう。全てネギに任せてこの事件を終わらせたら、ネギに今後頭が上がらなくなってしまう。
ただでさえ魔法世界崩壊の危機回避の方法を教えてもらったというのに、大戦の残党処理すらネギに取られてしまうとなると妾達の示しがつかん。
まあ、妾達の中でも一番頭を抱えておるのはリカードじゃろうな。
クルトはネギにつくことを決めたようじゃし。
この舞踏会まで時間がなかったから、ネギの持ってたダイオラマ魔法球の中に入って話し合いのときに起こったことを聞かせてもらったが、明らかにネギはMMの味方にはなりそうもない。
それどころか敵対してもおかしくはなく、ネギが知っていることや事情の全てを公表されたら今のMMが引っくり返ることになるじゃろうて。
力でネギを抑えつけようにも、ヘタしたらMMの全兵力でも適わない始末………………というか、魔法世界の事を考えなくてもいいのなら、本気でMMとヘラスの兵力を合わせてもネギには勝てないらしい。ジャックのお墨付きじゃ。
…………きっと自分の出生の秘密を知ってから、こんなこともあろうかと準備をしておったんじゃな。
アリカ達のことから妾達への不信感が芽生えても仕方がないとは思うが、10歳のネギが歩んできた今までの道を考えると気が重くなってくる。
どういう気持ちであそこまで強くなるための修行を重ねてきたのじゃろうか…………。
そしてMM元老院のこれからを考えると気持ちがスーッと晴れてくる。きっとネギとクルトの手によって散々な目に合わされるじゃろうて。
今のネギが民衆の前で真実を語れば、光の速さでそれが魔法世界中に巡るじゃろう。それに対抗しようにも実力でネギを排除出来るわけでもないしの。
業突く張りの老害共め、ザマーミロじゃ。アリカを無実の罪で陥れたりするからこうなるんじゃ。
妾達はそれに比べたらまだ気楽じゃ。
アリカのことを助けることは出来なかったとはいえ、所詮妾達は他国の者。ネギとしては思うところもあるじゃろうが、それでも妾達に責任を取るように迫ってくることなどあるまい。
ネギならむしろそれに触れずに知らない振りをして、ヘラスとは友好関係を望んでくるじゃろう。
ネギは世界征服なんぞには興味ないようで、身の回りの人間さえ無事ならそれで良いようじゃからな。
win-winの関係を望むならネギとしても誠実な対応をしてくれるそうじゃし、これからのことでネギとの友好関係を築き上げていくことにしよう。
さしあたって、何とか大戦の後始末とも言えるこの一件を無事に解決したいところなのじゃが…………。
「…………さすがにあの八対一は辛いよなぁ。
そもそもラカンが入っているだけで苦戦は必至だし…………」
何故か妾達と同じテーブルには、ジャック達と一緒に戦っているはずの“闇の福音”がもう一人いる。
…………量産か? ネギは本気で量産したというのか?
あまりにも自然に最初から二人いたので、さすがの妾でも何も突っ込めなかったぞ。
この一件を無事に解決出来たとしても、ネギのことで更に頭を抱える羽目になりそうじゃ。
「…………本当に僕の血で世界の秘密に繋がる力なんか手に入れることが出来たのかな?
“いどの絵日記”には「~ネギ君の血を利用して~」としか書かれていないし………………もっと詳しく聞いておくべきだったか」
「さすがに無理ですよ、ネギ先生。
アレ以上何か聞いてたらフェイトもきっと不審がるでしょうし、“いどの絵日記”のことを隠せたままで情報を引き出せただけで満足すべきですよ」
「ええ、欲張り過ぎましたら元も子もないですからね。それとラカンさん達が調子に乗ってネタバレしなければいいんですが。
まあ、次の機会があったら…………ん? 会場中に大量の敵が…………外にもデカブツが現れましたね。夕映さん」
「はい。“世界図絵”で調べます」
「お願いします。それではコチラも予定通りに迎撃します。
…………妙な鍵のようなものを持っている個体がいますね」
ネギの言葉と共に舞踏会出席者達がポン! と紙型に変わっていく。
そして会場の上空で待機していた船舶も幻術が解かれて霧散し、それを攻撃しようとしたデカブツの腕が空を切った。
襲撃があるとわかっていたので舞踏会は中止することになったが、せっかくなので敵を誘き寄せる罠として有効活用することになったが………………本気で悪魔じゃな。
招待客には事前に会場を変更することを伝えておいたので、今頃は事情を説明されながら警備兵によって守られているじゃろう。
ここにやってきた招待客は全て幻術をかけたネギの式神じゃ。
今この総督府にいるのは妾達と現実世界人で構成された警備兵のみ。
ヘラスとアリアドネーの兵は役に立てないどころか足手纏いになりかねなかったので、招待客警備とオスティア住民の避難に回しておる。むろんMMの兵の大部分もこっちじゃな。
アチラが襲われたら困るが、ちびネギの一体がビーム・マグナムとやらを持って警備に混じっているから大丈夫らしい。だが妾には嫌な予感しかしない。
ちなみに戦艦などは見つからないように雲の中に隠しておる。
妾もここにいても役に立てることはないのじゃが、ここにいるということ自体が重要じゃ。
それこそ他の招待客と一緒に避難して、ネギが全て終わらした後に「終わりましたよー」なんて報告されたら妾の立つ瀬がない。
せめて一緒の場所にいて、妾もこの事件解決に噛んでいるという証拠を作らなければ…………。
「解放、『万象貫く黒杭の円環』………………石化魔法は便利だなぁ。フェイトが多用する理由がよくわかる。
刹那さん、楓さん、菲さん…………魔物が持っているあの妙な鍵のようなものを回収してください。少し気になります」
『わかりました』
『承知』
『わかったアルよ』
だがそんな妾の悩みなんか知ったこっちゃねぇ! と言わんばかりに敵を殲滅していくネギ。
やっていることといえば片手間に魔力球を生み出し、その魔力球を『万象貫く黒杭の円環』に変化させて敵に攻撃。
もちろん妾と同じテーブルに座ったままでなのじゃが…………何故あそこまで正確に敵だけを狙える?
総督府の中を複数の映像で確認しているのじゃが、その映像にはハリネズミになって石化していく敵しか映っておらん。
ここは総督府なので建物に被害の及ぶような派手な攻撃が出来ないから、こうやって敵を石化しているのじゃろうが………………妾と同じテーブルについていながら片手間で敵を殲滅されると、妾が完璧に役立たずにしか思えなくなってくるから困る。
「フム、さすがにあのデカブツには効かないか。…………お、第一デュナミス発見。
ちょっとデカブツの始末とデュナミスさんの相手しに行ってきます。エヴァさん、アスナさん、ここはよろしくお願いしますね」
「ん。行ってこい」
「任せて。ああいうの相手には私は無敵なんだから」
スマン。役立たずにしか思えないんじゃなくて、本気でただの役立たずじゃった。
ネギの従者のセツナとカエデとフェイみたいに戦闘で働いてもいないし、ユエやノドカみたいにサポートにも回っておらんからの。
そもそも世界の秘密に繋がる力相手には妾は無力で、どう頑張っても守られる側じゃからな。
というか、従者と話しながらも『万象貫く黒杭の円環』撃ちまくるのやめて欲しいのじゃが…………。
「『無極而太極斬』」
あ、バルコニーに出たネギが剣を一振りしただけで、外にいたデカブツが縦に真っ二つにされた。
………………マズイ。本気でマズイ。
このままではネギに本気で頭が上がらなくなってしまうぞ。
むろんナギとアリカの息子であるネギのことを最大限慮りたいが、それでも妾はヘラスの皇族じゃ。
もしネギがヘラスに仇なすのなら、ネギを敵としなければならん。
じゃが、ネギを敵とするのはマズイ。
ヘラスの軍隊全てを相手に出来そうな実力的にも、英雄の息子でありながら本人も新たな英雄となるであろうことから生じる民への影響力的にもじゃ。
前者だけでもどうしようもないが、後者においても更にどうしようもない。
先ほどは妾達はリカードに比べれば気が楽とは言ったが、それでもアリカが生贄にされるのを黙って見ていたのには変わりはない。
しかもそれがネギの口から…………10歳の少年の口から全世界に暴かれたら、ヘラスの汚点となることは間違いないじゃろう。
これに関してはジャック達も、確認のために聞かれたら真実を語ってネギの味方になってしまうじゃろう。嘘をつく理由はないからの。
妾としてもアリカの汚名を雪ぐことには何の異論はないが、それでもネギというイレギュラーでかなりの大事になってしまいそうじゃ。
もちろん妾個人としてもナギとアリカの息子であるネギと争いたいなどとは思っておらん………………思っておらんが、それだけではどうにもならないのが国というものじゃ。
それはアリカのときのことでよくわかっている。
セラスやリカード、クルトと連絡を密にし、何とかより良い着地点を探さなければならないの…………。
『いただきィイイイイ!
キャハハハハハハハ! こいつは大事に貰っておくよーーーーーー!!!』
『えっ!? あ……ちょっ…………!』
お、アーウェルンクスが何やら鍵のようなものを取り出したが、コタロウのつけてたバッジからちびネギがいきなり現れて、鍵を奪い去って行ったぞ。
さすがのアーウェルンクスもあの八人を相手にしている最中だったので、新手の不意打ちは防げんかったようじゃな
『やあ、これで会うのは二回目になりますね、デュナミスさん』
『ぬぅっ!? ネギ・スプリングフィールド…………』
そして別のモニタにはネギが“完全なる世界”の幹部、デュナミスとやらの真っ正面に立っていた。
デュナミスの手には同じく鍵のようなものがある。
やはりあれが世界の秘密に繋がる力を行使する魔法具のようじゃの。
『どうしたんですか、デュナミスさん。そんなに焦った声を出して…………。
それよりどうしたんですか、舞踏会に来るなんて? 招待状はお持ちですか? 今日はどちらからおいでですか? 何をしにいらしたんですか? ゲートポート事件以来何をしていたんですか? その鍵は何なんですか? 何に使うんですか? どうやって使うんですか?
そういえば“完全なる世界”残党はタカミチとゲーデルさんによって全滅させられたと聞いていたんですけど、まだ生きてたんですね。今まで何処に隠れてたんですか? 今はどこを本拠地としているんですか? お仲間は何人いるんですか? その人達はどういう人達なんですか? 協力者とかも何人いるんですか? その人達はどういう人達なんですか?
こうやってテロりに来たようですけど、僕に勝てると思っているんですか? 勝てると思っているのならどうやって勝とうとしているんですか? 隠し札とかあるんですか? 切り札とかあるんですか? 鬼札とかあるんですか? それらはいったいどういうものですか?』
『!』
そしてネギは怒涛の質問ラッシュをしながら、ゆっくりと一歩ずつ一見無防備に近づいていく。もちろん背中には“いどの絵日記”隠してある。
どうやらギリギリまで“いどの絵日記”の存在は隠しておくつもりのようじゃ。
相手が“いどの絵日記”の存在を知らなかったら、かなりのアドバンテージになるからのぉ。
それにまだアーウェルンクスの従者などが残っているはずなので、今度こそ完璧に終わらせるためにも彼奴らのアジトなどを聞き出す必要があったからの。
「あ、今回はネギ先生に“読み上げ耳”渡してますので、リアルタイムでデュナミスさんの考えていることがわかり『なん……だと……?』…………ネギ先生?」
…………やはり悪魔じゃな。確かに耳に魔法具をつけておるの。
ある程度の情報を聞き出し次第にデュナミスを始末すると思ったが………………ネギの動きが止まったぞ? ビックリしたような顔もしておる。
質問で何かとんでもないことでもわかったのかの?
━━━━━ 後書き ━━━━━
プフも混じったし、ネギってばマジ悪魔。
いくらフェイトが“造物主の掟”を持ってても、さすがにあの八人がかりは無理でした。
しかもちびネギに鍵奪われるわで、もう涙目です。
それと前話が以外にも不評じゃなかったのがビックリです。
ネギの性格的にはこういう考えをするのですが、ワガママ過ぎてあまり受け入れられないかなぁ? と思っていましたので。
ちなみに作者としてのフェイト達の目的への感想は“種死のデスティニープランの超強化版”です。
まあ、ネギは拒否しましたけど、ああいう考え方も悪くはないと思います。魔法世界の崩壊を考えなくても、アレで救われる人は確かにいるのですから。
理不尽な目に…………それこそ死にそうな目にあってる人が「自由よりも幸せが欲しい」と思うことは仕方がないと思います。
しかも現実と何ら遜色のない“完全なる世界”ですから、逃げ込みたいと思っても責められません。
種死のコミックボンボン版のシンの台詞である「戦争のない世界以上に幸せな世界なんて…………あるはずがないっ!!!」って言葉は一つの真理だと思います。“平和なのが当たり前”の日本に生まれたら実感出来ないですけどね。
もちろん絶対の真理ではないですし、“完全なる世界”まで突き進むのはやりすぎだと思ってますが。
ちなみに更に行き過ぎると“メルブラのオシリスの砂”になるんじゃないでしょうか。アレは本格的に本末転倒ですけど。
力の無い人にとって“完全なる世界”が箱庭の幸せだとしたら、現実はご都合主義の存在しない残酷なまでのサバイバルゲームです。
人間はその残酷なサバイゲルゲームを勝ち抜くために“国”という集合体をつくり、“国”は個人の権利をある程度制限する代わりに権利の保護もしています。そして“完全なる世界”は自由意志を剥奪する代わりに幸福を与えます。
そういう意味では“完全なる世界”はただ単に、
“度が過ぎる”
の一言で終わるかもしれません。
…………ところで話は変わりますが、種死はコミックボンボン版をアニメ化すべきだったと思います。
それにしても自分は恋愛モノを読むのは好きなのに、書くのは苦手だということが書けば書くほどわかってきます。
西尾維新先生、一度でいいから西尾節無しでまっとうな恋愛モノ書いてくれないかなぁ。
西尾先生の恋愛関係の言葉遊びとか韻の踏み方が好きなんですよね。恋愛に限らず好きですけど。
「嫌ってほど好きで――――憎たらしいほど愛してる」
「本当に好きだったよ。
初めて会ったときからずっと。
初めて会ったときよりずっと」
みたいなのが。ありふれた言葉なのに、組み合わせることで効果倍増です。
ガハラさんみたいなツンドラも好きです。現実にいたら嫌ですけど。
あ、ちなみに“memento mori”とはラテン語で「自分が(いつか)必ず死ぬことを忘れるな」という意味の警句で、芸術作品のモチーフとして広く使われています。
そしてその“メメント・モリ”の最も知られているテーマは“死の舞踏”だそうです。
………………この総督府主催舞踏会が、いったい誰にとっての死の舞踏になるかはわかりませんがね。