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No.32334の一覧
[0] 千雨の夢(魔法先生ネギま! × 魔法少女リリカルなのは)[メル](2012/07/16 05:56)
[1] 第2話 理想の夢[メル](2012/03/23 12:36)
[2] 第3話 夢への誘い[メル](2012/03/23 12:36)
[3] 第4話 続く夢[メル](2012/03/23 13:34)
[4] 第5話 大人達の事情[メル](2012/03/23 13:32)
[5] 第6話 2人目[メル](2012/03/28 00:02)
[6] 第7話 温泉旅行[メル](2012/03/31 00:51)
[7] 第8話 少女達の戦い[メル](2012/03/30 23:00)
[8] 第9話 痛み[メル](2012/04/01 01:22)
[9] 第10話 3人目?[メル](2012/04/01 01:14)
[10] 第11話 それぞれの夜[メル](2012/04/01 19:38)
[11] 第12話 約束[メル](2012/04/01 18:09)
[12] 第13話 優しい吸血鬼[メル](2012/04/01 18:54)
[13] 第14話 悪魔の誘い[メル](2012/04/01 19:10)
[14] 第15話 幼い吸血鬼[メル](2012/04/03 00:41)
[15] 第16話 シャークティの葛藤[メル](2012/04/03 01:17)
[16] 第17話 魔法親父の葛藤[メル](2012/04/04 00:59)
[17] 第18話 AAAの選択[メル](2012/04/04 00:59)
[18] 第19話 小さな波紋[メル](2012/04/05 19:14)
[19] 第20話 旅行だ![メル](2012/04/04 02:53)
[20] 第21話 少女の決意[メル](2012/04/05 19:09)
[21] 第22話 さざなみ[メル](2012/04/06 17:53)
[22] 第23話 春眠に暁を[メル](2012/04/10 00:32)
[23] 第24話 レイジングハート (リリカル無印開始)[メル](2012/07/17 03:01)
[24] 第25話 マスコット[メル](2012/05/05 19:15)
[25] 第26話 魔法の世界[メル](2012/04/22 05:44)
[26] 第27話 長谷川千雨[メル](2012/04/27 06:56)
[27] 第28話 という名の少女[メル](2012/05/14 18:09)
[28] 第29話 契約と封印[メル](2012/06/05 23:41)
[29] 第30話 可愛いお人形[メル](2012/06/05 23:40)
[30] 第31話 中国語の部屋にあるものは[メル](2012/07/17 02:27)
[31] 第32話 イエス、タッチ[メル](2012/07/17 02:53)
[32] 第33話 夜の落し物[メル](2012/07/17 02:18)
[33] 第34話 気になるあの子[メル](2012/08/06 01:16)
[34] 第35話 美味しい果実[メル](2012/08/27 00:52)
[35] 第36話 正義の味方[メル](2012/08/27 00:51)
[36] 第37話 秘密のお話[メル](2012/08/30 02:57)
[37] 第38話 魔法少女ちう様 爆誕![メル](2012/09/23 00:50)
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[32334] 第10話 3人目?
Name: メル◆19d6428b ID:3be5db7b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/01 01:14
「遅くなり、ま……し、た?」

 ……球体関節。耳がアンテナ。緑髪。柔らか味の無い肌。麻帆良の制服。ドアを開けて部屋へと入ってきたのは、向こうの世界でのクラスメイトである絡繰だった。
 さすが夢だな。絡繰のことを考えてたら来ちゃったぜ。こういう所だけは夢らしいな、おい。
 つまりあれか、コスプレ衣装とかも来ねーかなって考えたら来るわけか?
 ま、来ても仕方ないけどな。撮影もしねーし、っていうか衣装サイズ合わねーし。

「GPSより現在位置確認……ミス。登録データの照合に失敗。ハッキング開始……成功。日本国神奈川県海鳴市藤見町。詳細不明。検索ヒットせず。現在時刻西暦2003年03月08日土曜日21時37分12秒。陽光を確認。時刻データ修正が必要。標準電波を検索……受信完了。現在時刻西暦2004年07月23日金曜日16時21分20秒に訂正。動力源の喪失? ゼンマイ、魔力量共に60%オーバー。想定出来ず。ボディ表面温度の確認。12℃。外気温の確認。28℃。現在位置へ到達してからの時間経過は無いと推定。葉加瀬へ電話連絡……ミス。ハッキング……成功。葉加瀬の電話番号が存在せず。インターネットへ接続……ミス。ハッキング……成功。麻帆良学園の生徒データベースより葉加瀬、超、又はマスターの連絡先を入手……ミス。麻帆良学園都市の存在を確認出来ず。詳細不明。原因不明。対策手段無し。エラー、エラー、エラー……。」

 おーおー、困ってる困ってる。ぶつぶつと色々呟いてたけど、こいつはどういった設定なんだろうな?  向こうじゃマクダウェルと常にセットでいるイメージしか無いが。……あのロリガキも来たりしないよな? 冗談じゃねーぞ。
 そのまま見ていると、絡繰はドアを掴んだまま部屋を見回す。その視線は、窓、私、パソコンを経て、ある一点に固定された。
 その視線の先には――

「絡繰、さん。なぜ? どうして……?」
「シスター・シャークティ。現状の説明を依頼出来ますか?」

 シャークティがいた。どうやらこの二人は知り合いらしい。ロボットと聖職者って、どんな設定だ。
 想像するならあれか、オートマタか。あれは錬金術だったかな? 魔法のあるこの世界だ、そんな設定も有りだろう。
 それにしてもさっきの認識阻害の話だが、私はこいつを明らかに変だと認識してるんだが。なんでだ?
 結界とやらは張ってないのか、今は?
 そんなことを考えている間に二人の会話は続けられて……

「貴女はエヴァンジェリンさんに送られて来たのではないの?」
「いえ、私は――」

 出た、エヴァンジェリン。そりゃ絡繰がいるならあいつもいるよな。
 ……他の連中もいるとか、言わねーよな?

「マスターに呼ばれて、麻帆良学園寮の長谷川千雨さんの部屋へ入った所までは記録しているのですが。」

 ――ちょっと待て。
 いま、こいつ、麻帆良って言ったか? しかも、私の、寮の部屋だって……?



◇麻帆良学園寮 千雨の部屋◆

「……なんだ? 悪戯か?」

 エヴァンジェリンは開いた玄関を見て、そう呟く。
 まったく最近のガキは、なんて言いながらも玄関へと移動し、その扉を閉める。そうして再び寝ている千雨とシャークティの前まで移動すると、二人の様子を確認しつつ言葉を放つ。

「魔力無しじゃ、シャークティどころか長谷川すら持てんぞ。まったく……。」

 それもこれもあいつのせいだ! 茶々丸め、どこをほっつき歩いているんだ、まったく。
 そんな愚痴を零しながら、今度はクローゼットの前まで歩く。さっきのメイド服が余程気に入ったのか、クローゼットを開けようと手を伸ばし――

リリリリーン……リリリリーン……

 エヴァンジェリンのポケットから黒電話の音が鳴り響く。
 ポケットをまさぐり、所謂簡単ケータイを取り出すエヴァンジェリン。ディスプレイには『超鈴音』とある。

「なんだ? 超から?」

 えーと、受話器が外れてるボタンを押すんだったか……。
 そんなことを言いながら、なんとか10コール程鳴った後に電話に出ることが出来た。ディスプレイの表示が『通話中』になったことを確認し、電話を耳に当てる。すると――

『茶々丸のGPSが突然ロストしたネ! どーしたカ!?』
「は? 茶々丸には長谷川の部屋に来るよう言ってあるが。」

 電話口からは超の焦った声が響く。うるさかったのか、うっとうしそうにしながら電話から距離を取るエヴァンジェリン。
 しかし電話口から聞こえる超の声は、そのトーンを下げることは無い。

『ログを見ると、その長谷川サンの部屋へ入った瞬間にロストしたネ!! なんダ? バッテリー切れカ?』
「何……?」

 その言葉を聞き、エヴァンジェリンは部屋を見渡す。閉じた玄関、寝ている二人、何も乗っていないデスク、部屋の隅の三脚。部屋の様子は先ほどと何も変わっていない。
 そうして超に返答しつつ、再度クローゼットへと手を伸ばす。

「茶々丸はまだこの部屋に来、て……無い……だと……?」

 喋りながらクローゼットを開けたエヴァンジェリン。
 そこには、何も入っていなかった。



◆海鳴市 千雨の家◇

「ちょっと待て! てめぇ……麻帆良を知ってるのか!?」

 私は絡繰を睨めつけつつ、そう切り出す。
 この世界に『麻帆良』『麻帆良学園都市』これらが無いことは絶対だ。何度もインターネットで調べたし、その場所の航空写真はただの山の中だった。
 だから、『麻帆良』という単語が誰かの口から出てくることは無い。そう、思ってたんだ。
 だけど。
 だけど、このロボットは今、間違いなく『麻帆良』の、しかも学園寮の『長谷川千雨』の部屋に行ったと言う。
 どうなってるんだ、一体?

「はい、私は麻帆良学園中等部2年A組所属、絡繰茶々丸ですので。」

 間違いない。こいつはいつもマクダウェルと一緒にいる『あの』絡繰茶々丸だ。設定とか、そんなもんは存在しない、突然この世界に迷い込んで来たみてーな。
 なんだ? ひょっとして……やっぱり、これは、夢じゃ、ない……のか?

「虹彩パターンデータの取得完了。過去の人物リストより検索……ヒット1件。麻帆良学園中等部2年A組所属、長谷川千雨さんと判断します。これは、無事目的地にたどり着いたのでしょう、か?」

 可能性として年齢詐称薬、シスターシャークティによる幻術が上げられます。
 そうすると、大変です、マスターが迷子です。
 等と呟き続ける絡繰。過負荷が掛かってるのか知らないが、思考回路ダダ漏れだな、おい。
 いや、そんなことより。こいつは間違いなく、麻帆良も中学生の私も知っている。何故だ? 誘拐、魔法、絡繰と、ここはご都合主義満載の私の夢の中じゃねーってのか!?

「か、絡繰さん! ちょっと黙って、お願い!」

 そう考え込んでいると、突然シャークティが立ち上がり絡繰の口を手で塞ぐ。
 そうだ、シャークティ! この絡繰と知り合いってことは、つまり!

「シャークティ! てめぇも、中学生の私を知ってるのか!?」
「ち、千雨ちゃん? 年上に向かっててめぇなんて、」
「ごまかさないでくれ! どうなんだよ!?」

 シャークティがあの麻帆良にいたなら。つまり、向こうにも魔法が有るってことで。
 みんなロボットや世界樹を不思議に思わなかったのも、認識阻害があるからで。
 何故かしらんが、もし。もしだ。私に認識阻害が効いていなかっただけなら!
 この夢以外全部、辻褄が合っちまう……!!

「千雨ちゃん……」

 シャークティは絡繰の口を押えたまま、困った表情で私を見つめている。
 くそ! 何か、何か言えよ! 出来るなら。単なる私の考えすぎなら、どんなに良いことか……!

「あんたはあの麻帆良の人間で、あそこには魔法があって! みんなが世界樹や絡繰を変に思わないのも認識阻害があるからで! 私を魔法関係者って言ったのも、この妙な夢が関係してるんじゃないのかよ!?」

『なかなか勘が良いじゃないか、長谷川』

 突然。そんな、どこか聞き覚えのある声が響いた。



◇麻帆良学園寮 千雨の部屋◆

『だから、茶々丸ハ長谷川サンの部屋に確かに到着したと言ってるネ! 聞いてるノカ!? エヴァンジェリン!!』

 エヴァンジェリンはクローゼット開け放ち、その前に呆然と立ち尽くしていた。電話からは超の怒鳴り声が響いているが、それを持つ手はダラリと下げられている。
 確かに。確かについ先ほどまではここにコスプレ衣装があった。メイド服に関して言えば、全体のデザインから、縫い方、生地の切り方まで完全に覚えている。なんならもう一着同じものを作れと言われても可能な程だ。
 そんなことを考えているエヴァンジェリンだが、いつまでも惚けていても仕方ない、と気を取り戻す。

「超……悪いが、後で掛けなおす。」
『チョ、チョット待つネ、エヴァ―』

 茶々丸は確かに来たという。つまり先ほど扉を開けたのは茶々丸だったのだろう。しかし、エヴァンジェリンが振り向いた時には既に茶々丸は居なかった。
 そして消えた服。何も刺さっていないコンセント。寝ている長谷川。ありえない、考えられない事ではあるが。もし、もしも原因になりえるとすれば――

「……私も、少し見てみる、か?」

 エヴァンジェリンの視線は、千雨へと向けられた。



◆海鳴市 千雨の家◇

「こ、今度は誰だよ!?」

 声はベットの上の方から聞こえてきた。なんだなんだ。絡繰の次には誰が来た?
 いや、分かってるんだ。絡繰といえばアイツがセットなくらい。
 そう、あの金髪ロリガキしかいないじゃないか――

 そう。ベットの上には。
 素っ裸で半透明なマクダウェルがいた。

「なんで裸なんだよ!?」
「うるさいな、服までイメージ出来るか。」

 なんでだよ!? いつも来てる服だろ!?
 それにしてもマクダウェルが出てきても意外と驚かないな私。すでにオーバーフローしたか、魔法に慣れちまったのか。うん、前者だ。絶対後者ではないな。

「エヴァンジェリンさんまで、何故?」
「マスター。迷子では無かったのですか?」
「うるさいボケロボ! 迷子はお前の方だ!」

 ハァ……。
 シャークティはため息をつき、床へと座り込む。その様子はどこかいじけているようだった。

「もっと魔法に慣れてもらってから、徐々に打ち明ける予定だったのに、どうしてこんなことに……。」

 ああもう無理だわ、そう呟きつつシャークティは体育座りで顔を埋める。ちょっと悪い気もしたが、私はそんなシャークティを無視してマクダウェルへと向き直った。

「一体どうゆう状況なんだ、これは?」
「ふ、折角だ、説明してやろう。」

 マクダウェルは腕を組み、空中で起用に足を組んでふんぞり返る。色々丸見えで台無しだけどな。ロリ痴女か、だれ狙いだ。
 そしてそんなマクダウェルの口から発せられた言葉はある意味予想通り、しかしとんでもない事だった。



 あー、なんだ。これは私の夢なのは違いないが、現実の中から、おそらく私の部屋の中から『何か』が私の夢へと転移している?
 絡繰が『何か』の条件に嵌り転移したことで、マクダウェルがそれに気づいた?
 シャークティは夢の中から抜け出せない私を起こしに来た麻帆良の魔法先生で、それを手伝ったのがマクダウェル?
 そもそも私が寝っぱなしになったのは麻帆良の認識阻害が効かないことによるストレスのせいだと思われる?
 で、この夢が何なのかは結局さっぱり何もわからない、と。

「とにかく千雨ちゃんが魔法を受け入れて、麻帆良での日常に納得し、ストレスが解消されれば起きると思ったの。」

 シャークティは真っ赤な目をしたままそう話す。
 マクダウェルが喋ってる間は酷かった、涙を流しながら謝罪を繰り返し、本来なら私は怒るところなんだろうがその気も失せちまった。
 それにしても、認識阻害、ねぇ。私の予想は正しかったわけだ。

「ああ、シャークティを責めるものじゃないぞ。こいつはどちらかというと助けようと動いた側だ。文句ならジジイに言え。」

 マクダウェルが言うには、学園長は私に認識阻害が効いてないことを小2の頃から知ってて放置していたらしい。
 シャークティは私の現状を知るなり魔法先生を集め、行動に移ってくれて。この夢の中に入る魔法も、失敗すれば命を落とすような、そんな禁術と言える魔法だとか。
 私がシャークティが死んだと認識すれば実際に死ぬとか、あり得ねーだろ? そんなこと聞かされて、怒れるわけ、ねーじゃねぇか……。

「マクダウェルもその禁術とやらを使ったのか?」
「魔力が足りん。私のは姿と声を届けるだけさ。」

 いまの私はシャボン玉より脆弱な存在だとマクダウェルは言う。そのエラそうな雰囲気からは想像できないけどな。マジなのか?
 まぁ、透けてるしな。その変わり帰るのは自由なんだと。

「で。お前はいつ起きるのだ?」
「知るかよ!? こっちが聞きてーくれーだ!!」
「お前が起きないと茶々丸が帰ってこんだろうが! たぶん!!」
「うるせー、たまには一人で生活しやがれ!」
「もう十分堪能したわ! 私は花粉症なんだぞ!? 結構辛いんだぞ!?」
「辛いだって!? 私だって、私だってなぁ……!!」

 ……っく、くそ。私の訴えは、一体何だったんだ。
 鼻の奥と喉が熱くなる。声が震えるのが、自分でもわかった。

「とにかく。ちょっと、考えを纏めさせてくれよ……。」

 そう言うと、マクダウェルとシャークティは顔を見合わせ、席を立つ。

「また様子を見にくるぞ、長谷川。」
「千雨ちゃん……許して、なんて言えないけど。また会いに来ても、いいわよね……?」

 なんとか、そういう二人に頷きを返すことが出来た。
 その後、マクダウェルは掻き消え、シャークティは玄関から家を後にする。
 くそっ……今更、あんなこと言われたって……。どうすりゃ、いいんだよ……。



 今まで私が苦しんできたのは、私に認識阻害が効かないせいで。私の言っていたことは全て正しかったけど、ある意味やっぱり変なのは私だった。
 学園長は小2の時からそれを知っていた。
 くそっ……私は、どうすれば良い? 認識阻害の結界なんか張った魔法使いを怨めばいいのか? 知ってて放置した学園長か?
 それとも認識阻害が効かない、この体質、か?

「あー、わかんねー……。」

 私はマクダウェルとシャークティが居なくなったあとも、座り込んだまま顔を上げず、ひたすらに考え込んでいた。
 考えても考えても、こうするべきだ、なんて答えが出るはずもなく。
 ましてやこの夢から覚める方法、魔法について、なんてことも考えだすと纏まりやしない。
 私のあの地獄みてーな子供時代は何だった?
 先生どころか親にも理解されず、友達も作れなかったのは、結局学園長のせい、なのか?
 魔法使い全員を恨もうにも、シャークティみてーな奴もいるんだろう?
 何で私には認識阻害が効かない?
 何で学園長は知ってて放置した?
 この夢は何だ?
 何で夢から覚めない?
 何で……何で……!

ピンポーン……ピンポーン……

 玄関の呼び鈴が鳴っているのが聞こえる。1階には母さんが居るはずだ、私が出る必要は無いだろう。

『まぁまぁ月村さん、この度はどうも娘がお世話に……』
『こんにちは。千雨ちゃんは、居ますか?』
『ええ、自分の部屋に居るはずですよ、上がってください』
『それでは、お邪魔します』

 忍さん、か。今日の事件のことで何かあったのか?
 足音が私の部屋へと近づいてくるのが聞こえる。けど、それでも私は顔を上げない。
 顔を上げる、気力もない。ちょっと放っといてくんねー、かな。
 そうしているうちに、いよいよ足音が私の部屋の前で止まり。

コンコン

 と、ノックの音が聞こえた。

「千雨ちゃん? 入るわよ?」

 ガチャリ、と音がして、部屋に風が流れ込むのが感じられた。返事もしてねーのに入ってくるんじゃねーよ、とも思うが。構う気も起きない。

「こんにちは。」
「ええ、こんに……」

 こんにちは、と。絡繰が挨拶する声が聞こえた。それに対応しようとする忍さんだが、挨拶の途中で絶句してしまったようだ。
 そりゃそうだろうな、あんな見るからに私はロボットです、って感じの絡繰が挨拶した、ら……?
 私は、恐る恐る顔を上げる。
 扉の方を見て、見えてきたのは。
 扉を開けて固まっている忍さん、その後ろで何かを見て驚いているすずか、そして――

「か、絡繰!? てめぇまだいたのかよ!?」
「私への指示は "長谷川さんの部屋に来ること" で終わっているので、移動しませんでした。」
「もうちょっと融通効かせろよ!? 空気呼んでどっか行けよ!?」
「どこへですか?」
「どこって、そりゃー……」

 どこだろうな。シャークティの所に突っ込むか?
 まぁ見られたのが母さんじゃなくて、良かったぜ、本当に……。

「千雨ちゃん!! この子、自動人形なの!?」

 突然、忍さんが大声を張り上げる。じ、自動人形? ああ、オートマタ、か?

「私は自動人形じゃありません。ガイノイドです。」
「関節部を隠していないし、エーディリヒ型よりさらに以前の物? でもそれならアンテナの必要性が無いはず。でもこの構造なら関節間の筋繊維はどうやってるのかしら? まさかモーター? うわ、髪の毛をラジエータ代わりにしてる? こんな細いところにチューブを通せるの? スキンも金属のまま? 表面処理をすると熱暴走するのかしら? でも表面の傷が無い。駆動して間もないのかしら? 見たことない材質ね、タングステン? チタン? まったく新しい合金? 熱問題があるということはやはり動力はバッテリー? まさかエンジン? でも駆動音がしないからバッテリーかしら。 駆動時間は? 演算処理は? メモリーは? 作者は?」

 うわぁ……マッドがいる……
 忍さんは絡繰の周囲をぐるぐると回りながら、返答も待たずに次々と質問する。あの普段は無表情な絡繰が困った表情をしてる、それだけでどんな状況か伝わるだろう。

「ねぇあなた! 手にブレードつけたりできる!?」
「拡張ユニットがあれば可能です。」
「目からビームは!?」
「標準で可能です。」
「ロケットパンチは!?」
「有線式なら標準で可能です。」
「千雨ちゃん!! もぅ、この子最っ高!! 改造していい!?」
「ああ、いいぜ。」
「長谷川さん……。」
「お姉ちゃん……。」
「私が関節も隠して、熱問題も解決して、もっと可愛くしてあげるわよー!!」

 夜の相手も出来るようにしてあげるわ! と、忍さんが一人気炎を吐いている。
 絡繰は困り果てた顔で私を見つめているし、さすがに、ちょっと罪悪感が湧くな……。でも、まぁ、丁度いい機会だ。何か知らんが、認識阻害も無く一般人に見れる容姿になれば、それに越したことはないだろう。いつまでこっちにいるかもわからんしな。
 それにしても。

「なぁすずか、忍さんはロボット工学か何か選考してるのか?」
「う、うーん、近いと言えば近いんだけど……。」

 すずかが言うには、すでに月村家では2体の自動人形が働いているらしい。
 それも1体は忍さんがレストアしたもので、もう1体はそれを参考にして忍さんが作ったとか。

「実はノエルとファリンがそうなんだ。」
「おいおい、まじか? 人間にしか見えなかったぜ?」

 私も何度か月村家へ行ったことはある。流石金持ち、メイドが2人いるのかとかビックリしてたが、ただの人間だとばかり思っていた。
 あのメイド二人が人形? 嘘だろ?
 つっても、そもそも誘拐やら夢やら魔法やら、今日はとんでもない事ばっかりだ。今なら何言われてもそこまで驚かない自信があるな、うん。
 と、そんなことを考えていると。

「ち、千雨ちゃん!」
「ん、何だ?」

 突然、すずかが改まってこんなことを言い出した。

「わ、わたしのパートナーになってください!」
「……はぁ?」

 聞くと、月村家というのは『夜の一族』という、ちょっと特殊な家系らしい。まともに生活するためには血液が必要で、その血液を摂取してる限り長命を得る、という吸血鬼じみた一族だとか。
 それで、そんな秘密を打ち明けられる人をパートナーと呼び、秘密を共有してもらい、たまに血をもらう関係なんだと。
 すずかはオドオドと、頻繁につっかえながら、怯えながらもそのことを最後まで話してくれた。
 わたしは、そんなすずかの言葉を聞いて。
 段々と。
 イライラ、してきて。

「つまり。てめぇに都合のいい血液タンクをご所望なわけだ。」
「ち、違うよ!? そんなんじゃない!!」
「どこが違うんだ? てめぇの秘密を守ってやり、血を与え。見返りなんてありゃしない。」

 そう言うと。
 すずかは、酷く傷ついた顔で、俯いてしまった。わたしの部屋には、そのまま痛いくらいの静寂が訪れる。
 1階で母さんが料理してる音が、辛うじてこの世界が崩壊しないようにとどめている……馬鹿らしいが、そんな妄想が思い浮かんだ。

「……千雨ちゃん。こっちを見なさい。」

 そのままお互い黙っていたら、忍さんが私のことを呼ぶ。
 何だ? 文句でもあるのかと、忍さんの方を見ようとし――

「ダメ!!」

 すずかに、押し倒された。

「……ごめんなさい。今日は、帰るね。」
「……おう。」

 ちょっと、一人にしてくれ。
 私がそう言うと、すずかは起き上がり、忍さんを引き連れて私の部屋を後にする。
 ああ、これで。やっと、一人、か。そう思ったら。
 絡繰が、押し倒されたまま寝っ転がっていた私の頭を持ち上げ、その下に膝が来るように正座する。
 所謂膝枕だ。

「なんだ、忍さんと一緒に行かなかったのか?」
「……私は、ガイノイド……いえ、ロボットです。一人にはカウントされません。」
「はは、そうかもな。」

 それに――

「ロボットに愚痴を言うのは、所謂ノーカンだと、判断します。」

 そのまま絡繰は、硬くゴツゴツした手で私の頭を撫で始める。

「お前の膝は痛いんだよ。それと手も。」

 まんま鉄の塊みてーなもんじゃねーか。
 口ではそんなことを言うも、私は茶々丸にされるがままとなった。

「ああ……いてぇなぁ……いてぇよ、なぁ……。」


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