「取材、撮影等。コスプレ作成以外のお問い合わせは一切受け付けておりませんので、ご了承ください、と。」
私は早速ホームページの更新に入った。リアリティを出すためということで、トップページの写真は幻術で中学生姿となった私が両手を合わせて頭を下げている姿に変更。もちろん幻術なのでその肌に影などなく、フォ○ショで修正する必要も無い。更に、もっと話題が広がるように幻術で最新作のコスプレを一気に更新。飽く迄も実物っぽくするのがコツか。これの注文も来るかもしれねーしな。
それにしても幻術便利だな。シャークティに手伝ってもらったけど、自分でも覚えるか? これ。
「それにしても、千雨ちゃん本当に可愛いわねぇ。」
「か、からかうのは止めろ!」
出来上がったホームページの写真を見てシャークティがそう呟く。こんな身近な人にしみじみと言われちゃ、身の置き場が無い。それにシャークティの方が凄い美人だと思うしな。茶々丸は……美人というよりは可愛い系か?
こうしてホームページを更新した後、今度は茶々丸が某掲示板を盛り上げる。
メイドインちう更新キター!
ごめんね姿超可愛いwww
特定マダー?
やったねたえち
おいばかやめろ
まずはこんな文を各掲示板へ同時投稿……いつも思うんだけど、こいつ本当にロボットか?
すると、ホームページのアクセスカウンターが今までにない勢いで回り出す。まぁしばらくはこの状況が続くだろう。
アリサへの断りの電話も居れたし、忍さんには事情を説明したし。幻術の件を説明したら、自分にもかけろと煩かったが……これが片付いたらシャークティにお願いしよう、うん。あとは様子を見てアリサへ相談し、一度だけ取材に答える……で、また掲示板操作、と。大丈夫かなぁ、何か見落としてる気がするんだけどなぁ……。
まぁ、とにかく今日やれることはやった。あとは暫く様子見だ。茶々丸は無線でインターネットへつながっているらしいから、火付けは任せて良いだろう。
大丈夫、知られてるのは荷物発送の住所のみ。失敗したらホームページ閉鎖しちまえば良いだけだ。忍さんには頭を下げないといけねーが、大きな問題は無い。
「それにしても、何でこんなことになったんだ? 向こうじゃインターネットの外で騒がれる事なんて無かったんだが。」
自画自賛っつーわけじゃねーが。ネットアイドルのアクセスランキング1位とか、それなりに話題になりそうな事はやってたんだけどな。取材の申し入れなんて初めてだぞ? どうなってんだ? こっちのほうがコスプレが人気、なのか?
首を捻りながらそんな事を考えていると、メイドインちうをしげしげと眺めていたシャークティが私の疑問に答えてくれた。
「向こうでは電子精霊といって、情報分野にも魔法がかかっているからでしょうね。麻帆良発信の話題が滅多に広まらないのもそのせいよ。私じゃないけど、それを専門にしている魔法先生もいるのだし。」
寧ろその状態でインターネットランキング1位になったことのほうが驚きよ、とシャークティが言う。そうか、インターネットの世界も魔法に掛かっていたのか……。魔法使いっていえばアナクロで、科学や情報っつー分野には滅法弱いイメージだったんだけど。そうでもないんだな。
寧ろこっちの魔法のほうがアナクロなのか?
「インターネット上に電子精霊の存在を確認出来ません。その分野は発展していないと判断します。」
私達の会話を聞き、茶々丸がそう返す。
そうか、向こうの方が進んでいるのか。茶々丸なんてその集大成みたいな物なんだろうしな。未だにすずか達以外でそっち方面の人に会ったことは無いが、きっと生贄とか黒ミサとかやってるんだろうな。
あー、でもその割には忍さんの自動人形とかもあるみてーだけど。あれは魔法科学じゃねーのか? よくわからんな。
「それじゃ、今日の所は帰るわね。もう晩御飯の時間だし。」
「おう。色々ありがとう、シャークティ、茶々丸。」
気にしないでいいのよ、と。シャークティはそう言って微笑みながら、手を振り家路へとついた。いい人だよな、本当に。
そして、翌日。
「何、やっぱり千里さん困ってるの?」
「ああ、取材を受ける気は無いんだけど、しつこいんだってさ。」
私は学校で、アリサに根回しをしておくことにした。千里というのは『ちう』の本名という設定だ。
「ああ、しつこい所は本当にしつこいから。厄介なのよね。」
「一回アリサの所で取材に答えるから、それっきりお断りだと宣伝してくれねーか? アリサの所を悪者にしちまいそうだけど、見返りは相談させてもらうから……。」
「んー、お父さんに相談しても良いけど。一回受けちゃうと、なんでバニングスは良くて他はダメなんだってなるのよねぇ。」
まぁ、そのへんは話の持って行き方にもよるんだけど……。そう続けるアリサ。私はその辺は良くわからないからな、専門家の知恵も貸してもらった方が良いんだろう。
それにしても取材を受けるのか。やっぱりリポーターとかカメラマンとか来るのか? 流石にテレビじゃねーだろうが、雑誌かインターネットを通じて『ちう』が発信されるのか。な、なんかドキドキするな、却って話題が広まったりしねーかな? ……って、何を考えてるんだ私は。
「ちう、ってやっぱり千雨の名前を読み替えたのよね? 従姉妹さんと仲良いのね~、今度ちゃんと紹介しなさいよ?」
「お、おう。今度な、今度。」
あんた紹介する気無いわね? なんていってジト目で私を睨むアリサ。仕方ないだろ、する気が無いんじゃなくて出来ないんだよ。
こんな事を喋ってるとすずかの気持ちが少しわかるな。アレは喋って良い、コレはダメなんて選んで話してたら疲れちまう。ま、しゃーねーが。
と、そんなことを話している時。別の場所ですずかと喋ってたなのはが、携帯を片手に焦った様子で私たちの所へ走り寄ってきた。
「何か翠屋に人がいっぱい来て大変らしいよ!?」
い、一体何が起きた……?
「『ちう』の友人がいる喫茶店ってここですよね!?」
「あれ? コスプレ喫茶って話じゃ無かったか?」
「でも場所はここだし、翠屋で間違いないよ? シスターさんの友人らしいけど。」
放課後。授業が終わった私たちは、急いで翠屋へと移動した。するとそこにはカメラを持った人や、メモを取る人、野次馬などが店の席の半分を締め、私服姿のシャークティと茶々丸を捕まえて質問攻めにしている所だった。
な、何だ? 何が起きた? どうしてこんなことになってんだ!?
「あ、ちさ、長谷川さん! ちょっと来て!」
その翠屋の様子を見て呆然としていると、店の外に私の姿を見つけたシャークティが人の群れをかき分けて私の元へと来る。そしてそのまま腕を掴んで走り出し、カウンターの向こう、休憩室へと連れて行かれた。
な、何なんだ一体、どうしてここがバレたんだ!?
「千雨ちゃん、これ見て!」
私に携帯で某掲示板を見せるシャークティ。すると、そこには。
神奈川県海鳴市藤見町の、翠屋っていうコスプレ喫茶に『ちう』の友人がいるよ! シスターさんだった!
あ……、あいつか、あの最初の客か! そうじゃん最初にメール連絡してるじゃねーか!! っていうかここはコスプレ喫茶じゃねぇ!?
くそ、忘れてた、完璧に忘れてた、どうしよう!? 盛り上げすぎたのか!? どうすりゃいい!?
「もうこうなったら、ここで『ちう』の姿にするわよ! それでとにかくこの場を治めないと!」
「ちょ、ちょっとまて! バカ、シャークティ、それは逆効果だ! っていうか外になのは達がいるんだぞ!?」
しかし。焦ったシャークティは私が止めるのを聞かず、そのまま魔法を発動し。
「千雨ちゃー……ん?」
ガチャリと。扉が、開いた。
「え? あ、あれ? 千雨ちゃんが……あれ? 何で?」
「千雨が……千里さんになった?」
「……。」
しゃ、シャーーークティーーーー!!?
や、やっちまったよバカ……。くそ、どうしてやることなすこと、こう裏目に出るんだ……! よりによって変わる瞬間を見られるなんて!
扉を開けたなのは、その後ろにいたアリサは眼を丸くして。すずかは片手で頭を抱えてため息を吐いている。いいよな、すずかは他人事だもんな。というかお前の秘密もばらすぞこのヤロー!
「シャークティーーー! どどどどうすんだよ!? よりによって変わる瞬間だぞ!?」
「しょ、しょうがないじゃない!? とにかく今は外! この子達には私が言っておくから、とにかく外をお願い!」
そう言われ、休憩室から押し出される。ちなみに服装はご丁寧に麻帆良の制服だ。まぁ、何かのコスプレじゃないだけ良いんだが……。
くそ、このまま外に出るのも不安だけど、テンパったシャークティがあいつらになんて説明するのかもすっごく不安だ……! く、どうする? 戻るか!?
なんて悩みながら右往左往している時。茶々丸が休憩室の方へやってきて。
「……千雨さん。お願いします。」
「ちょ、ちょっとまって!? 心の準備が!?」
私は茶々丸に引っ張られて、客の前へと連れて行かれた。
「あ、ちうだ!?」
「凄い、本物だー! 可愛い!」
「本当に居たんだ!」
茶々丸に引っ張られたまま曲がり角を曲がり、客から見える位置まで来た時。それらの声と共に一斉にフラッシュが焚かれた。引っ張られながらも一応何喋ろうか考えちゃいたんだが、それにびっくりした途端。全部、完璧に、吹き飛んじまって……
「あ……う、ぇ……っと……、私……」
どうしようなにか言わなきゃなんとかしなきゃ あーもう何も出てこないどうしようというかダメなんだよこんな知らない人たちの前でなにか喋るなんて もう絶対顔真っ赤になってるよどうすれば 茶々丸のやつもムリヤリだしどうしてこうなったシャークティのせいか でも私だって ああもうヤッパダメだよ私どうすればいいの 何考えてるのかもわかんない……!
「だ、ダメ……なんです……わたし……、ごめん……な、さい……!」
私は涙を流し、その場所にへたり込んだ。
結局。茶々丸や押しかけ客が取っていた動画……私が顔を真っ赤にして泣いて謝っている動画だ……が、ネットに上げられ。非難の声が押しかけ客や取材者に集中し、『ちう』騒動は終焉を迎えることになった。……私が恥かいただけじゃねーか、これ。
◇◇
「「魔法使いー!?」」
翠屋騒ぎがあった夜。私達麻帆良組と、すずか、アリサ、なのはの計6人は、私の部屋へと集まっていた。
結局シャークティは翠屋の騒ぎが落ち着いたら説明するからの一点張りで、先延ばしにしていたらしい。アリサなんかは今すぐ説明しろと殆どキレていたようだが、そこはすずかが何とか取り成してくれていたようだ。
とはいってもすずかも魔法の事を知っているとは言えないから、本当にキレて暴れだすギリギリだったみてーだけど……。
「シャークティが先生で、生徒が私。習い始めてもう半年になるかな?」
「ずるい!!! なんで私に話さないのよ!?」
……うん。まぁ、アリサならそう言うよな。ちなみになのはも興味を隠せない様子で、すずかは驚いたふりをしている。こいつ、自分の事は隠し通すつもりだな。
未だ興奮冷めやらぬアリサを見て、私は一芝居打つことにした。
「魔法を知る切欠が、人には言えない事だったから……。ごめんな。」
うん? 良く考えたら芝居じゃねーな。まぁ、兎に角。私は顔を伏せ、目はカラカラに乾いちゃいるが目元を拭う。優しいアリサのことだ、こうすれば深いところまでは聞いてこないだろう。
そして案の定アリサは言葉に詰まる。こいつらの切欠がバカみてーな事だから軽く考えてたんだろうが、魔法っつーのは実際にはそんな気軽な物じゃない。と、思う。いや、私も気軽な面があることは否定できねーんだが。
「ね、ねぇ! シャークティさん、魔法って誰にでも使えるの?」
私の芝居のせいで重くなった部屋の空気を吹き飛ばすかのように、なのはが明るい声を出してシャークティに問う。
ちなみにシャークティと茶々丸はというと、ベットに座って何も言わずに私達の様子を眺めている。シャークティは兎も角、茶々丸は床に座れよ。ベットが壊れるじゃねーか。重いんだよ。
しげしげと私達を眺めていたシャークティだが、その問いを受けて少し考えた後。
「使うだけなら練習すれば何とか出来るわよ。魔力量の関係もあるけど……なのはちゃんは、ちょっと見たことが無いくらい多いわね。」
「ほ、本当!?」
「私! 私は!?」
目を輝かせて嬉しそうななのは。魔力量って見ただけでわかるんだな。そういえば私の魔力量の話題って聞いたこと無いな、どうなんだろう?
そんな事を思いシャークティを見る。ちなみにアリサはもちろん、すずかも興味を隠せない様子だ。ま、そりゃそうか。
「アリサちゃんとすずかちゃんは少ないわね。千雨ちゃんはなのはちゃんより少し少ないくらいね。」
ふーん、夜でそのくらいか。ってことは昼だと人並みよりは多い程度か? アバウトでよくわからんな。
それを聞いたアリサは少し残念そうにしていたが、気を取り直すと改めてシャークティに問いかける。
「ねぇ、私達にも魔法を教えてよ!」
ま、そうなるよな。すると、シャークティは何も持っていない右手を掲げ――
「プラクテ・ビギナル・火よ灯れ」
「おおーー! 火がついた!?」
「火をイメージしながらひたすら練習。何か出るようになったら、教えてあげるわよ。」
あ、あれ? 十字架は? いいのか?
私が首を傾げていると、『何も言わないで』とシャークティから念話がきた。ま、そういうなら黙ってるが。
そのまま私が黙っているうちに話は進み、3人は発音の確認や練習のコツなんかを聞き、口止めもして夜も遅くなる前に帰って行った。
また私の部屋にはシャークティと茶々丸が残り、私は気になったことを聞く。
「なぁ、なんで十字架は渡さなかったんだ? 教える気が無いのか?」
「あら。あれで本当に何か出るほど才能があるなら、教えるわよ?」
……つまり教える気は無いって言ってるようなもんじゃねーか。
シャークティの十字架に限った話じゃ無く、杖や指輪といった所謂『魔法の杖』っつーのは魔法発動体と言うらしい。補助具としての側面もあるが、実態はそれ無しで魔法を使うのはとても困難な事なんだと。
まぁ下手に魔法を広めるよりは良いんだろうが、中途半端に希望を持たせるのも酷な気がするんだが……。
記憶処置をしない以上、こうして諦めさせるのも本人のため、なのか? その辺のことは私にはよくわからんな。
この後も色々と面倒なことは起きるだろうが、とりあえず、今日だけは思ったよりも無難に話をまとめることが出来て本当に良かった。一時はどうなるかと思ったぜ……。
◇鮫島の車内◆
鮫島が運転する車に乗り、千雨の家から自宅へと帰るアリサ。一人後部座席に乗りシャークティから教わった呪文をブツブツと呟いている。
一般人が見れば少し異常に思う光景だが、鮫島はそんなアリサの様子をミラー越しにチラリと見ると、そのまま何も言わずに車を発進させた。
アリサは車が動き出したことに気付き、スモーク越しに流れ行く千雨の家を見つめながら一人言つ。
「千雨のやつ……。嘘つくなら、もっとマシな嘘をつきなさいよ。」
絶対に。絶対絶対、ぜーーーーーったいに使えるようになって! 本当の事を聞いてやるんだから!!
その言葉と、ガッツポーズをして意気込む仕草を見て。微笑む鮫島を咎める者は、いなかった。