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No.32334の一覧
[0] 千雨の夢(魔法先生ネギま! × 魔法少女リリカルなのは)[メル](2012/07/16 05:56)
[1] 第2話 理想の夢[メル](2012/03/23 12:36)
[2] 第3話 夢への誘い[メル](2012/03/23 12:36)
[3] 第4話 続く夢[メル](2012/03/23 13:34)
[4] 第5話 大人達の事情[メル](2012/03/23 13:32)
[5] 第6話 2人目[メル](2012/03/28 00:02)
[6] 第7話 温泉旅行[メル](2012/03/31 00:51)
[7] 第8話 少女達の戦い[メル](2012/03/30 23:00)
[8] 第9話 痛み[メル](2012/04/01 01:22)
[9] 第10話 3人目?[メル](2012/04/01 01:14)
[10] 第11話 それぞれの夜[メル](2012/04/01 19:38)
[11] 第12話 約束[メル](2012/04/01 18:09)
[12] 第13話 優しい吸血鬼[メル](2012/04/01 18:54)
[13] 第14話 悪魔の誘い[メル](2012/04/01 19:10)
[14] 第15話 幼い吸血鬼[メル](2012/04/03 00:41)
[15] 第16話 シャークティの葛藤[メル](2012/04/03 01:17)
[16] 第17話 魔法親父の葛藤[メル](2012/04/04 00:59)
[17] 第18話 AAAの選択[メル](2012/04/04 00:59)
[18] 第19話 小さな波紋[メル](2012/04/05 19:14)
[19] 第20話 旅行だ![メル](2012/04/04 02:53)
[20] 第21話 少女の決意[メル](2012/04/05 19:09)
[21] 第22話 さざなみ[メル](2012/04/06 17:53)
[22] 第23話 春眠に暁を[メル](2012/04/10 00:32)
[23] 第24話 レイジングハート (リリカル無印開始)[メル](2012/07/17 03:01)
[24] 第25話 マスコット[メル](2012/05/05 19:15)
[25] 第26話 魔法の世界[メル](2012/04/22 05:44)
[26] 第27話 長谷川千雨[メル](2012/04/27 06:56)
[27] 第28話 という名の少女[メル](2012/05/14 18:09)
[28] 第29話 契約と封印[メル](2012/06/05 23:41)
[29] 第30話 可愛いお人形[メル](2012/06/05 23:40)
[30] 第31話 中国語の部屋にあるものは[メル](2012/07/17 02:27)
[31] 第32話 イエス、タッチ[メル](2012/07/17 02:53)
[32] 第33話 夜の落し物[メル](2012/07/17 02:18)
[33] 第34話 気になるあの子[メル](2012/08/06 01:16)
[34] 第35話 美味しい果実[メル](2012/08/27 00:52)
[35] 第36話 正義の味方[メル](2012/08/27 00:51)
[36] 第37話 秘密のお話[メル](2012/08/30 02:57)
[37] 第38話 魔法少女ちう様 爆誕![メル](2012/09/23 00:50)
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[32334] 第19話 小さな波紋
Name: メル◆19d6428b ID:3be5db7b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/05 19:14
 部屋の中の誰もが、千雨に注目したまま声を発することが出来ない。禁術の誓約により、夢を強制的に中断されては侵入者が命を落とす。そのことを知る者たちは生唾を飲み込み、千雨を見る。それを知らぬ者たちは、その只ならぬ様子にただ怯える。
 特にネギは顕著だ。知らなかった事とはいえ、自らの魔法が人の命を奪う事になるかもしれない。未だ混乱の中にいるが、その事だけは嫌にはっきりと認識している。明日菜に殴られて倒れ伏したまま、全神経を千雨の動向へと集めた。
 そして。
 千雨の手が、ゆっくりと動き。

「ひっ……!?」
「んー……フカフカ……」

 そのまま、千雨の隣にへたり込んでいた刹那の翼に抱きつくと、再び目を瞑り眠りへと落ちて行った。

「……起きました? 今。」
「ああ……起きたね。」
「しゃ、シャークティは!?」

 美空は慌ててシャークティの様子を見る。呼吸を聞き、脈を取り、声を掛け。しかしその様子は先ほどまでと何も変わらず、ただ寝ているだけのように見えた。だが先に死ぬのは精神である以上、肉体の異常が無さそうでも油断は出来ない。

「シャークティ、大丈夫っすよね!? 死んでないよね!?」

 美空は涙を流しながら取り乱す。だが、何度声を掛けても叩いても反応の無いシャークティを見て、泣きながらも十字を切り、十字架を握り締めて神に祈りを捧げ出した。
 また、それを見ていた面々も声を掛けることが出来ず。倒れたまま呆然とするネギ、事情を知りたくても言い出せない明日菜。翼を抱きしめられて身動きが取れない桜咲。そもそも何が起きているのかわからない柿崎達と、それらを入口から見つめる龍宮。そして、未だ掛ける言葉が見つからない高畑。
 千雨の部屋には美空のすすり泣く声だけが響き、そのまま重い空気に包まれた。



「おや。なぜチア部とオマケが居る?」
「え、エヴァちゃん!? 茶々丸さん!?」

 2分か、3分か。美空が有る程度落ち着き、泣き声が聞こえなくなった頃。千雨の部屋の入口へ、肩で息をする葛葉と、茶々丸、そして茶々丸の肩へ乗ったエヴァンジェリンが現れた。

「おろせ、茶々。」
「はい、マスター。」

 エヴァンジェリンは茶々丸――いや、『茶々。』に声を掛け地面に立つ。そして赤い目をした美空の横に立つと、共にシャークティの様子を見ながら美空へと話しかける。

「起きたのか?」
「はい、一瞬っスけど……。」
「ふむ。調べるにも魔力がいる、か。」

 その言葉と共に、エヴァンジェリンはシャークティから視線を外し。それは美空、千雨、桜咲、高畑、明日菜へと移動していき。そして、ネギへと固定された。
 エヴァンジェリンからまるで凍てつくような視線で見据えられたネギ。そのプレッシャーから逃れる為か、アワアワと視線を泳がせる。だが、明日菜、高畑と泳がせた視界の隅で。美空が、クラスでは何時も笑いかけて話をしてくれた美空が、自分を睨んでいることに気付き。

「あ……ご、御免なさい……御免なさい……!」

 ネギの目からは涙が零れ、顔を伏せてただただ御免なさいと呟く。しかしそれを受けて動く者はエヴァンジェリンのみ。エヴァンジェリンはネギの謝罪を意に介さず、無言でネギへと歩み寄っていく。
 後ろにいるにも関わらずプレッシャーに当てられたか、柿崎達4人は互いに身を寄せ合う。一般人を少しでも楽にさせようと、柿崎達の前には龍宮と葛葉が立ち塞がる。そして肝心のエヴァンジェリンは、ゆっくりとネギに近づきながら右手を挙げ。もう少しでネギへと触れようかという、その時。

「待ってください、エヴァンジェリンさん。」
「待ってくれ、エヴァ。」

 桜咲と高畑が同時に止めに入る。エヴァンジェリンは不服そうな顔で二人を見たが、二人は視線を合わせた後、一つ頷き桜咲が先に喋り出した。

「もともと私が見張り中に呆けていたのが悪いのです。血なら、私のを。」
「いや、そもそもネギ君に知らせていないのは僕たち先生の判断だ。……それに元を正せば僕がしっかりしていればこんな事態も起きていない。僕の血を使ってくれ。」

 自分が悪いと桜咲が言う。しかし、それを聞いた高畑は、本当に悪いのは自分だと言い。そして。

「もう! 起きるとか起きないとか、そのシスターさんとか美空ちゃんとか、悪いとか悪くないとか、全部ちゃんと説明してよ!?」

 明日菜はプレッシャーを跳ね除けてネギとエヴァンジェリンの間に割り込み、両手を広げてネギを庇いそう訴える。
 それらを聞いたエヴァンジェリンは、振り返り再度シャークティを見る。そして両手を広げてヤレヤレと言いつつ。

「急いで何か変わる物でもない。タカミチ、最初はお前が説明しろ。部外者への説明も含めてな。」
「ああ、勿論だ。」

 こうして。今回の事件の説明が始まった。



「ちょっと、マジサイテーじゃないの!? だって長谷川が悩んでるって知っててほっといたって事でしょ!?」
「認識阻害は、ビックリしたけど。魔法を隠すなら、そもそも使わなきゃいいんじゃないですか!?」

 麻帆良の事、千雨の事、シャークティの事。一通りの説明を受け、柿崎と釘宮が高畑へと噛み付いた。人でなしだ、生徒の事なんてどうでもいいんだ。そう言う二人に対して高畑は何も言い返さず、只すべてを聞いている。

「認識阻害は魔法関連のトラブルから一般人を守るためにある。身も心も。これはシャークティ先生の言葉だけど……決して魔法を隠すことが目的ではなく、ただの手段。そのことを忘れていた私たちは、何を言われても仕方ないわ。」

 葛葉も魔法先生の一人として責めを受ける側に回る。そして二人へ返答すると、今度はネギの方を見て。

「ネギ君や他の魔法生徒に知らせなかったのは、まだ子供に言っても正しく理解されないだろうとか、余計に騒ぎを大きくしない方が良いとか。そんな事を言いつつ。実際には汚れた所を見せたくなっただけなのよ。長谷川さんの事があっても、結局何も変わってなかったのね。」

 私も学園長を責めたけど、これじゃ何も変わらないわよね。箝口令には賛成していたのだし。そう呟く葛葉の言葉を聞いたネギも、二人の横へ並び出る。
 つい先日魔法を封印し、一般人として生徒と向き合うと……そう決意しただけに、封印が解けた矢先に引き起こした今回の事件。ネギは柿崎達に向き合うと、頭を下げて言葉を放つ。

「僕は、魔法の修行の為に麻帆良に来ました。学校の先生になればマギステルマギ……立派な魔法使いに近づける。だから立派な魔法使いになるために学校の先生をやってるんだ。ついこの間までそう思ってました。」

 そこで一旦言葉を切り、頭を上げて自身の後ろにいる明日菜の方を向く。

「けど、魔法の事を第一に考えて、生徒の事はその後なんて。そんなの先生として間違ってる……明日菜さんにそう言われて、考え直しました。いえ、考え直した……つもりでした。」

 そして、今度は未だシャークティの横に座り込む美空の方を向き。

「もう、僕は、魔法を使わない方が良いんだと思います。いえ、先生すら、出来ない……」
「ね、ネギ君!?」
「ネギ君は知らなかったんだよね!?」
「……おい、お前達。」

 責任の被り合いも良いが。大体の事情を把握したなら、いい加減シャークティの調査に入らせろ。そうエヴァンジェリンが言う。そうして再度誰の血を使うかという話になり。

「僕のを!」
「わ、私のを……」
「いや、ここは僕の」
「ええい、埒があかん! 葛葉! 血を寄越せ!」

 こうして、葛葉の吸血が行われ。エヴァンジェリンはシャークティの調査へと入った。



「長谷川さん、辛かったやろうなぁ……。」

 エヴァンジェリンが調査をしている間、ただ見守るしかない他の面々。誰も何も言わずに時間だけが過ぎて行ったが、そんな中ぽつりと和泉がそんな言葉を漏らした。

「長谷川って、無口で、付き合い悪くて、居るのか居ないのかわからなくて。そんな奴だって、思ってた……思っちゃってたんだよ? 私。」
「私も。マジ、サイテーだ。ホント、最悪……。」

 その言葉につられ、柿崎もそう独白する。その横では釘宮が頷き、同じく呟くとそのまま顔を伏せてしまう。

「でも、結構優しんだよ? ノート映させてくれるし、いっつも掃除でゴミ捨てやってくれるし。」

 桜子がそう言い、そういえばあのとき……と、明日菜もそれに続く。そうすると、今まで気にしていなかっただけで、様々な部分で千雨はクラスメイトと関わっていることがわかる。
 パソコンの操作を教えて貰った。携帯の操作を教えていた。家庭科の裁縫の時に手伝っていた。

「今からでも……友達に、なれるかな?」
「いや、絶対なろうよ。起きたら、さ。」

 皆の言葉を聞きながら。柿崎と釘宮が、未だ刹那の翼に包まれて眠る千雨を見て。そう、呟いた。



「大丈夫だ、精神は死んでいないようだぞ?」
「「よ、良かった~~~!」」

 エヴァンジェリンはシャークティの周りに展開していた魔法陣を消し去り言う。その言葉を聞いた美空、ネギは安堵の声と共に大きなため息を吐いた。言葉こそ出さないが、桜咲もホッとした表情をして胸を撫で下ろす。
 しかし高畑と葛葉、龍宮は怪訝な表情をしたままだ。大丈夫と言ったエヴァンジェリンさえ、眉間に皺を寄せている。

「でも、あの時確かに千雨君は起きたはず。こういうのも難だけど、なぜ大丈夫なんだ?」
「禁術の誓約はそんな甘い物じゃないはずだ。死んでなければ変なんじゃないかい?」

 高畑と龍宮がそう問いかける。だがエヴァンジェリンも首を傾げるのみで、返答することが出来ない。
 しかし、何はともあれ死者を出すことは無くなった。全員がそのことを理解し部屋の空気は一気に軽くなる。
 軽くなった空気に押され、柿崎達は気になっていたことをそれぞれに問いかけた。

「高畑先生やネギ先生が魔法先生、美空たちが魔法生徒ってことはわかったけど。エヴァちゃんって吸血鬼だったの?」
「ん? ああ、そうだ。」

 はー。だから授業中あんなに眠そうなのね。釘宮がそう合の手を出すが、エヴァンジェリンは否定せず。ああ、吸血鬼だから仕方ないんだよ、そうニヤニヤしながら言う。ネギは素直に受け取っているが、高畑は苦笑して何も言わない。
 そして、エヴァンジェリンがそんな受け答えをしているとき。桜子が皆の目を盗み、桜咲の翼へと抱きついた。

「ひゃぁあ!?」
「うわー、ふかふか!」
「あ、桜子ずるい!」

 桜子は千雨ごと桜咲の翼を抱きしめる。桜咲の叫び声によりそれに気づいた他の面々、特に柿崎は先を越されたと悔しそうにしながら、同じく桜咲の翼へと突貫する。
 そして釘宮、亜子といったメンバーもそれぞれ桜咲の翼を抱きしめたり撫でたりし始めた。

「すごーい、キレー。」
「桜咲さんこれ頂戴。」
「あ、あげられません!?」

 桜咲は顔を真っ赤にしながらもそう反論する。しかし、千雨がすっかり翼を抱きしめて寝ているため消すに消せない。桜咲は、お願いですからと懇願し、翼に群がる4人を一旦退かせることに成功した。
 4人は渋々ながら、名残惜しそうにしながらだが、真剣な様子の桜咲を見て何かを言い出すのだと理解して、少し離れる。翼をいじり倒す人間が居なくなったため少し落ち着いた桜咲は、表情を真剣な物に変えて自分が何者なのかを語りだした。

「私は……烏族と人間のハーフ……化け物なのです。」
「「え、だから何。」」
「エヴァちゃんとかハーフですらないじゃん。」
「茶々丸さんかてロボットやし。」

 自分は化け物なのだと、鎮痛な面持ちで言う桜咲。そしてその続きを言おうとしたが、しかしその言葉は柿崎達4人の言葉により止められる。

「今更種族とか、どうでも良くない?」
「うん……。桜咲さんやし。」
「あ、貴方達は魔法の実情を知らないからそんなことが言えるんです!」

 今回のような生死を掛けた出来事なんて、良くあることなんですよ!? そう、桜咲が言う。
 だがそれを聞いた柿崎達4人は、首を傾げながらお互いを見合わせる。そしてまず釘宮が口を開き――

「生死を掛けることと、桜咲さんがハーフなのとどんな関係が有るのか知らないけどさ。」

 柿崎が。

「確かに魔法の事なんて何も知らないけど。でも知ってることもあるよ?」

 亜子が。

「そうや、桜咲さんがずーっと木乃香の事見てるのも知ってるし。」
「んな!?」

 そして、桜子が。

「桜咲さんが、すっごい真面目でいい子だってことも、知ってるよ!」
「み、皆さん……。」

 だから、突撃―! そう、再度桜子が言い桜咲の翼に抱きついて。桜咲は困惑しながらも、今度はそれを受け入れた。

「はぁ……若いよなぁ。」
「エヴァンジェリンに比べたら皆若いさ。」

 龍宮は苦笑しながらエヴァンジェリンの横へと移動する。エヴァンジェリンは桜咲達の様子を呆れた様子で見ていたが、それとは対照的に葛葉は涙ぐみながら見つめている。美空とネギ、高畑もその様子をただ見守り、そして明日菜は桜咲たちへと近づいた。

「ねぇ桜咲さん、私も触ってみたいんだけど……。」
「あ、は、はい……ど、どうぞ。」

 桜咲の了解を得た明日菜は、未だ抱きつく桜子を避け、千雨のすぐ近くの部分を恐る恐る触れてみた。その手触りはまるで極上のシルク……は、触ったことがないからわからないが。今まで触ったことがあるどの布や毛皮などとも違い、暖かくてスベスベで、それでいてフカフカだった。

「うわー、気持ちいいー。」

 予想以上に良い手触りに感動した明日菜は、調子に乗りより大きく桜咲の翼を撫で上げる。他の部分も触ってみよう、そう思ったか明日菜は桜咲の上へと身を乗り出し。

「あ、っと。」

 バランスが悪かったせいか、よろめいて片腕をつく。手はシーツの上へと降ろしたが、ベットが沈み込むその拍子に腕が千雨の頭へと触れた。
 しかし、明日菜は改めて立ち上がると今度は翼の根元を触りだす。

「ぁん、ね、根元は止めてください……!」
「え、なんで?」

 くすぐったくてだめなんです……! そう桜咲が言うと、今度はそれを聞いた釘宮と柿崎が根元を集中的に攻撃しだす。とうとうそれに耐えきれなくなった桜咲は、千雨の姿勢が変わらないようゆっくり抱き直すと、今度こそ翼を消し去った。

「あー、もうちょっと触りたかったのにー。」
「堪忍してください……。」

 そうして千雨をゆっくりとベットへ降ろし、桜咲は慎重にベットから降りる。人が増えた以外はほぼネギが来る前と同じ状態になった千雨の部屋。皆が落ち着き、大体の事情を把握したことにより。全員の視線は自然と高畑へと集まった。

「とりあえず、この部屋から出よう。起きないとはいえ余り騒ぐ場所じゃない。」

 その言葉に全員が頷き。こうして千雨の部屋には再び静寂が訪れた。



◆麻帆良中等部 学園長室◆

「お主たちには3つの選択肢が有る。」

 あの後はエヴァンジェリンと『茶々。』こそ家に帰ったものの、それ以外の面々はそのまま学園長室へと移動していた。理由は一般人への魔法バレを報告するため、そう聞いていた柿崎達は特に不審にも思わずついて行ったが、ネギは視線を落としたままトボトボと歩く。
 そうして学園長へ事の経緯を知らせた後。学園長はまず柿崎達へ次のように言葉を放つ。

「一つ。魔法を学び、春日君のように魔法生徒として進む。一つ。魔法に関わった記憶を消し去り、何も知らぬ一般人へと戻る。一つ。魔法は学ばないが、それを知る協力者として関わっていく。お主たちが選ぶと良い。もちろんどの選択をしたとしても、手助けはするぞい。」

 強制的に記憶を消すという話もあるが……シャークティ先生に怒られてしまうしの。そう続けた学園長。それを聞いた柿崎達は、一瞬互いに顔を見合わせるも、まず柿崎が返答する。

「もちろん3番でしょ! うちらパンピーなんで魔法なんか要らないけど、記憶消すのは論外!」
「だよねー。」
「桜咲さんの翼の手触りを忘れるなんて有りえない!」
「う、うちはちょっと魔法に興味あるんやけど……」

 マジで!? 悪の親玉の口車に乗っちゃうの!? そう亜子の発言に驚く柿崎だが、学園長はそれらを聞きこう返す。

「記憶を消さぬのなら、魔法を学ぶかどうかはもう少し知ってからでも良かろう。決断を急ぐ必要はないぞ、この場合。」

 もちろん他言無用じゃがの。そう言い、4人が頷いたことを確認すると、今度はネギへと視線を合わせた。ネギは学園長と視線が合ったとたん、すみませんと頭を下げる。その横では明日菜が困った顔で立ち尽くしている。
 そんな二人を見て。学園長は言葉を放つ前に、何も言わず頭を下げた。

「が、学園長……?」
「お主に知らせなかったのは儂の判断じゃ。お主は悪くは無い……とは言えんが、知らぬことは誰にも出来ん。儂の判断ミスで余計な苦労を掛けさせた、すまない。」
「ぼ、僕が何も考えずに魔法を使ったのが悪いんです! 頭を上げてください!?」

 ネギは自分へ向けて頭を下げる学園長をみて、慌てて言う。それを聞き学園長は頭を上げると、今度は先ほどとは違い厳しい目つきでネギを見据える。ネギは直立して硬直し、明日菜も所在無さ気に視線を泳がせた。

「とはいえ、魔法を使い寝ている者を起こそうとする事。明日菜君に魔法がばれたことを報告していない事。惚れ薬。一般人への武装解除。これらを鑑みれば、お主への処罰は必要だと判断する。」
「は……はい。」

 ネギは俯き。オコジョ刑となる自分を想像し涙を流す。しかし、まず始めにオジョコ刑を心配した自分に気づき、甘さの一端を知ると共に歯を噛みしめて悔しがる。
 明日菜はネギを心配そうに見つめるが、掛ける言葉は無い。高畑と葛葉も同様だ。
 そして――

「千雨君の件が解決するまで。若しくは儂、明石教授、ガンドルフィーニ先生、エヴァンジェリン。知らぬ者もおるじゃろうが、この4人全ての許しが出るまでの魔力封印。更に封印期間中はお主の影を写し取る。お主の行動はほぼ筒抜けだと思い行動するが良い。これらを持って処罰とする。更に今回の事を見て、千雨君の件は今までの事を全て全魔法生徒へ通達する。もちろん刹那君の翼などは隠すが……良いな?」

 はい……と。ネギは消え入るような声でそう返事をした。



◆◆

 ネギたちが去り、人が減った学園長室。そこではいつかの再現のように、学園長が椅子に座りお茶を飲み、高畑は窓を開けてタバコを吸っていた。 唯一違う点といえば、部屋の片隅で真っ黒な人型が動いていることだろうか。
 学園長は暫らくその影を見つめていたが、お茶を飲み干してため息を吐いた後。視線を窓の外を見つめる高畑へと移した。

「明日、総会を行うぞい。準備を手伝ってくれんかの。」
「もちろんですが、何処まで話すのです?」

 総会。それは麻帆良中の魔法関係者を集めて行う会議の名前だった。普段は年1の定例会か蟠桃の発光期程度しか行われない会議だが、それを急遽行うというのは異例の事だ。
 そして、タバコを消し何処まで話すのかという高畑の問いかけに対し、学園長は少し考え込んだ後にこう返答した。

「千雨君の現状から、ワシの行い、先生達の対応からネギ君がやったことまで。全てじゃ。」
「良いのですか?」
「千雨君の解決策は多ければ多いほど良いじゃろう。場合によっては関西、アリアドネーにも意見を貰わねばなるまいて。」

 ネギ君の魔力封印をしたんじゃ。もう隠す意味も無ければ、隠せる物でも無くなった。
 そう続ける学園長に対し、高畑は疲れたような表情で影を見る。

「厄介ですね、英雄の子供というのも。」
「なに、わかっていた事じゃ。」

 なりたくてなった訳じゃないのですけどね。本当、こんなはずじゃなかった事ばかりだ……。
 そう呟く高畑の目は、どこか遠くを見つめていた……。


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