<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.32334の一覧
[0] 千雨の夢(魔法先生ネギま! × 魔法少女リリカルなのは)[メル](2012/07/16 05:56)
[1] 第2話 理想の夢[メル](2012/03/23 12:36)
[2] 第3話 夢への誘い[メル](2012/03/23 12:36)
[3] 第4話 続く夢[メル](2012/03/23 13:34)
[4] 第5話 大人達の事情[メル](2012/03/23 13:32)
[5] 第6話 2人目[メル](2012/03/28 00:02)
[6] 第7話 温泉旅行[メル](2012/03/31 00:51)
[7] 第8話 少女達の戦い[メル](2012/03/30 23:00)
[8] 第9話 痛み[メル](2012/04/01 01:22)
[9] 第10話 3人目?[メル](2012/04/01 01:14)
[10] 第11話 それぞれの夜[メル](2012/04/01 19:38)
[11] 第12話 約束[メル](2012/04/01 18:09)
[12] 第13話 優しい吸血鬼[メル](2012/04/01 18:54)
[13] 第14話 悪魔の誘い[メル](2012/04/01 19:10)
[14] 第15話 幼い吸血鬼[メル](2012/04/03 00:41)
[15] 第16話 シャークティの葛藤[メル](2012/04/03 01:17)
[16] 第17話 魔法親父の葛藤[メル](2012/04/04 00:59)
[17] 第18話 AAAの選択[メル](2012/04/04 00:59)
[18] 第19話 小さな波紋[メル](2012/04/05 19:14)
[19] 第20話 旅行だ![メル](2012/04/04 02:53)
[20] 第21話 少女の決意[メル](2012/04/05 19:09)
[21] 第22話 さざなみ[メル](2012/04/06 17:53)
[22] 第23話 春眠に暁を[メル](2012/04/10 00:32)
[23] 第24話 レイジングハート (リリカル無印開始)[メル](2012/07/17 03:01)
[24] 第25話 マスコット[メル](2012/05/05 19:15)
[25] 第26話 魔法の世界[メル](2012/04/22 05:44)
[26] 第27話 長谷川千雨[メル](2012/04/27 06:56)
[27] 第28話 という名の少女[メル](2012/05/14 18:09)
[28] 第29話 契約と封印[メル](2012/06/05 23:41)
[29] 第30話 可愛いお人形[メル](2012/06/05 23:40)
[30] 第31話 中国語の部屋にあるものは[メル](2012/07/17 02:27)
[31] 第32話 イエス、タッチ[メル](2012/07/17 02:53)
[32] 第33話 夜の落し物[メル](2012/07/17 02:18)
[33] 第34話 気になるあの子[メル](2012/08/06 01:16)
[34] 第35話 美味しい果実[メル](2012/08/27 00:52)
[35] 第36話 正義の味方[メル](2012/08/27 00:51)
[36] 第37話 秘密のお話[メル](2012/08/30 02:57)
[37] 第38話 魔法少女ちう様 爆誕![メル](2012/09/23 00:50)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[32334] 第17話 魔法親父の葛藤
Name: メル◆19d6428b ID:3be5db7b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/04 00:59
「くっ……いくら半吸血鬼化は解除出来るとはいえ、いくらなんでも……!」

 日曜日、夜。麻帆良図書館島下層。
 そこではガンドルフィーニが土曜日と同じスーツ姿のまま、水の中の本棚や土に埋まった本を手当たり次第漁っていた。ずっと同じスーツなのか裾や袖は擦り切れ、顔にはハッキリと隈が出来ている。頬もこけ疲れを感じさせるが、その目だけは未だ力強い光を灯している。

「女王メイヴの禁術……これか。他者を夢の登場人物として送り込み、現実と同じように行動させることが出来る……。」
――その対価は、多大な魔力。夢の終わりまで抜け出せない制約。そして、夢を見ている者の思いがそのまま侵入者に反映され、更には現実へも反映されるそのリスクである。つまり夢の主の前で髪を切れば現実の髪も切れ、命を落とせば本当の死が待っている。
 注意せよ。メイヴは決して優しい者では無い。軽挙に加護を願えば、容易くその命を奪うだろう。
 しかし。この魔法の真価に気付く者は、たとえどのようなリスクがあろうと使用を躊躇わない。夢など操作することは出来ないと知りながら。故に、私たちはこれを禁術とする――

「なるほど。シスター・シャークティは長谷川君と対話することで、目覚めを促しているのか。」

 禁術について書かれた本を見つけ出し、その内容を詳しく読むガンドルフィーニ。既にスーツが汚れることは諦めたのか、湿った草地に直接腰を降ろしている。その内容は弐集院から触りだけは聞いていたものの、実際に書いてある内容は更に重いものだった。
 しかし。それもわずか2ページほどの内容でしかない。5分程で禁術についての記述を読み終えると、立ち上がり本を棚に戻す。一応後から来た時にもわかるように目印をして。

「確かにこうして手を拱いているよりは、よほど有効だろう……。」

 本を戻しながらも鎮痛な面持ちでそう呟き、濡らした手で一度自分の頬を叩くと、再度周囲の探索へと戻る。図書館島の下層まで来たとはいえ、いまだ探し終えたエリアは極々わずか。明日は朝からテストが控えているものの、地上に戻る素振りは一切見せていない。
 
「せめて同じような事例を探し、それをシスター・シャークティへ伝えることが出来れば。何かの助けにはなるだろう。」

 早く千雨を起こし、二人の吸血鬼化も解除させる。それを目指して寝る間も家に帰る間も惜しみ、図書館島を探索し続けるガンドルフィーニ。そして、その様子を遥か遠方から見つめる二対の目があった。



「頑張りますね、彼は。」
「そうじゃの。少々勘違いしとったわい。とうとうぼけたかの。」
「今更気づいたのですか?」
「お主に言われたくは無いの。」

 片方は学園長。杖を突き、自身の回りに多数の本を浮かべている。それらの本は勝手にパラパラとページが捲られ、最後まで進んだ本は他の本と入れ替えられて。
 片方は目深にローブを被った長身の人物。同じく自身の回りに本を浮かべ、しかしページを捲られることは無く。高速でそれらが行き交っている。

「こんなことなら彼女のイノチノシヘンを作っておくべきでしたね。といっても作る機会も無かったのですが。」
「お主がここから出れたらのう、儂も楽が出来るというのに。」

 そう会話しながらも、二人の周囲の本は次々と調査されていき、徐々にガンドルフィーニとの距離も近づいていく。そして既にガンドルフィーニが調べたエリアまで来た時に、ローブを被った人物が言葉を放つ。

「どうします、このまま対面しますか?」

 学園長の回りを行き交う本が止まり、その全てが本棚へ戻される。一応それらを自身の目で確認した学園長は、ため息を吐いた後にこう返答した。

「やめておこう。進むものも進まなくなる。」
「ではさらに下へ?」

 学園長は再度ため息を吐き、今は水の中の本を取ろうと全身ずぶ濡れになっているガンドルフィーニを見つめる。まだまだ寒い3月初旬、湖の水は身を切るような冷たさだろう。しかしガンドルフィーニは怯む様子も見せず、何度も何度も水の中へ。
 しばしその様子を見た学園町は、踵を返しながらもローブの人物へ向けてこう言った。

「お主は彼と合流してくれ。何、知られても構わん。」
「おや。では認識阻害は掛けなくて良い、と?」
「……相変わらず嫌な奴じゃのぅ。」

 冗談ですよ。本当かの。
 そんな言葉を交わし、学園長はさらに下層へ。ローブの男はガンドルフィーニへと近づいて行った。



「この辺はもう無いか、次はあの滝壺……か?」

 ガンドルフィーニは水を吸い重くなった上着を脱ぎ、一旦陸へ上がって周りを確認していた。相変わらずここは嫌な場所に貴重な本が有る。そんなことを呟きつつ、靴を脱ぎ再度水へもぐる準備を進める。
 そして、その背後から。音も無くローブの人物が近づいて行き。

「誰だ!?」

 その距離が5Mを切ろうかという時、ガンドルフィーニはとっさに銃を構えて振り返った。

「おや、意外と早い。」

 銃を突き付けられた人物は両手を上げ、自身に敵意が無いことをアピールする。しかしガンドルフィーニは銃を下げず、相手を見つめたまま上着の中から2丁目の銃を取り出す。ここ図書館島の下層へ来れるのは魔法関係者、しかもある程度の実力がある者のみ。目の前のローブを着た不審者は、ガンドルフィーニには見覚えがなかった。
 手にした二つの銃を相手に向けたまま、不審者に向けて声を放つ。

「誰だ? ここには関係者しか入れないはずだが。」
「いえいえ、私は十分関係者です。」

 関係者? お前のような人物が居たか? そう訝しみながら、顔を隠すフードを取るように言うガンドルフィーニ。ローブの人物は口元をにやけさせ、驚かないで下さいねと念を押す。
 銃を構えたまま、良いから早くしろと急かされるのが聞こえているのかいないのか。ゆっくりとフードに手を掛けつつ悠長に自己紹介を始め。そして――

「はじめまして。私の名前はクウネル・サンダース。そして、又の名を……」
「そんな、馬鹿な!? あ、貴方は!?」

 フードを払った、そこには。ガンドルフィーニが過去に憧れ、現在は目標とし。そして、未来に会う事は無いと思っていた人物。

「アルビレオ・イマ。そう、申します。」

 紅き翼、アルビレオ・イマが。そこに、いた。



「ちょ、ちょっと待ってください! 世界が、どれだけ貴方の事を探していたと……!」

 慌てて銃を下し、突然現れたビックネームに動揺するガンドルフィーニ。しかしアルビレオが口元に人差し指を持っていくと、その意味を理解したのか言いよどむ。

「そうですね。言えるのは、今は療養中の身でして、この地下以外動けないということ。これを知るのは学園長のみであること。そしてもちろん、他言無用であること。それ以外の情報を渡すことは出来ません。」

 一方的に、無慈悲とも言える表情でそう告げるアルビレオ。世界的な英雄にそう告げられては、思うように反論出来ないガンドルフィーニ。しかしその表情は決して納得した者のそれではない。
 それに気づいたのか、それとも予定通りなのかはわからないが。アルビレオは雰囲気を一転、表情を崩すと次の言葉を切り出す。

「それより今は長谷川さんの事でしょう。私も把握しており、こうして調べていたのですよ?」

 あなたはエヴァンジェリンのやり方が気に入らないようですが、あれはあれで中々有効な手です。
 続けてそう告げたアルビレオだが、その言葉を聞いたガンドルフィーニは反論する。どうしてその事を知っているのか等思う所はあるが、この目の前の英雄なら何でもお見通しだろうという想いにさせていた。

「ですが! 吸血鬼化や禁術など、余りにもリスクが大きい物ばかりです! せめてより良い方法を調べてからでも遅くない筈だ!」
「そして。調べた結果、何か出ましたか?」
「そ、それは……っ!」

 言い詰まるガンドルフィーニ。アルビレオは何処からともなく本を取り出すと、あるページを開いて見せる。そこには『強制的に目を覚ます魔法』とあった。

「例えばこれはあまり知られていないですが、禁術とは言えない、もっと上層にある魔法です。これを使い目を覚ましても、結局は同じことの繰り返し。しかも目が覚めてすぐに魔法の説明、魔法先生との調査。それではより深く夢へと捕らわれるだけでしょう。」
「それは、そうかもしれませんが……。」

 顔を伏せ、反論することが出来ない。その様子をみたアルビレオは、本をしまい肩を竦める。

「反論することは出来ませんか? そう、例えば。一度起こした後で調査すれば、シャークティが命をかけることは無かった、など。」
「う、た、確かにそうですが!?」
「エヴァンジェリンは結果を急ぎ、他を少々蔑ろにする傾向がある。吸血鬼なので自身を蔑ろに出来る弊害ですかね。そして貴方は思い込みが激しい。この場合は紅き翼が間違ったことを言うはずがない、といった所ですか。」

 ガンドルフィーニは悔しそうな表情でアルビレオを見つめるも、先ほどから何を言われても反論することが出来ない。アルビレオは一度笑いかけると、緊張をはらんでいた場の空気が少し和らいだ。
 自身の緊張も解けたガンドルフィーニは、探索の疲れや緊張の疲れが一気に出て思わずその場に座り込む。そしてアルビレオは、笑いかけたまま次の言葉を放つ。

「少々休み、一度エヴァンジェリンと対話した方が良いでしょう。その方が良い結果につながりそうです。何、事態はそう急には動かない。急いては事を仕損じる、ですよ?」

 もちろん私の事は誰にも言ってはいけませんよと、念を押すのも忘れない。
 ガンドルフィーニは何か言いたげだったが、アルビレオが図書館島の地下から動かない事、会おうと思えばまた会える事を告げると、素直に地上へと戻っていく。

「さて。急に動かない……ですよね?」

 ガンドルフィーニを見送ったアルビレオはそう呟くと、再度本の探索へと戻っていった。 



◆麻帆良中等部◆

キーンコーンカーンコーン……

「はい、そこまで。」
「「「「「終わったーーー!!」」」」」
「死んだーーー!」
「もうダメーーー!」
「遊ぶぞーーー!」

 月曜日、麻帆良中等部2A。
 5時間目のテストが終了し、重圧から解放された生徒たちは思い思いに叫び回る。早速テストの答え合わせをしている者。帰り支度をする者。友人と放課後遊ぶ予定を立てる者などその様子は様々だ。その騒がしさは普段の比ではないが、いつもなら煩い黙れと注意する先生もこの時ばかりは苦笑するに留めた。

「み、みなさんお疲れ様でした! ホームルームをしまーす!」

 そこへ子供の様な容姿をした先生……いや、真実子供の先生、ネギ・スプリングフィールドが教室へと入ってくる。生徒たちは未だ騒ぐのは辞めないが、立ち歩いていた者は席へと戻り。何度かネギが呼びかけると、そのうちにほぼ全員が教壇に立つネギへと注目した。

「ネギ君やったよー!」
「これは最下位脱出キタんじゃない!?」

 学年末テストで最下位だった場合、ネギが先生を首になる。そのことを知る生徒たちは、普段には絶対見られないような熱心さでテスト勉強をした。特にネギとバカレンジャーと呼ばれる成績下位5人組、それと図書館探検部の一部は、成り行きではあるものの図書館島の地下深くで合宿まで行い。土日を全て勉強に費やしていた。結果を見てみなければわからないものの、その手応えはあったようである。

(うーん、魔法の本が有ると良かったんだけど。)
(でも明日菜、本が有るとエレベーター動かんかったし、机空にせなあかんやろ? 有ってもしゃーないと違うか?)
(ま、木乃香の言う通りね……。)

 ざわついた空気のまま進むホームルーム。そんな中、教室後方の席で隣り合う二人がコソコソと話をしていた。
 明日菜と呼ばれた少女は赤色の髪をツインテールに分け、その根元に鈴を付けている。良く見れば左右の目が少し違う色をしていることに気付くだろう。名前を神楽坂明日菜。
 木乃香と呼ばれた少女は腰まで届こうかという黒髪ストレートで、多少おっとりとした印象を人に与えるも、楽しそうに明日菜と会話している。名前は近衛木乃香と言った。
 ネギのホームルーム連絡を殆ど聞き流している二人だが、これは寮が同室なため後から幾らでも聞けるからである。

「でも、長谷川さん休んじゃったけど大丈夫なの? 平均点とか。」
「あ、はい! どうやら学園長は知っていたらしくて、分母から抜いてくれるそうです!」
「そっかー、良かったねーネギ君!」

 そんな中。連絡事項は全て終わったのか、生徒からネギへと質問が飛ぶ。内容はテストの日だと言うのに学校を休み、そしてクラスの誰もその連絡を受けていなかった長谷川千雨のことだった。
 一時はテストの平均点が下がることに怒る生徒もいたものの、連絡出来ないくらい体調が悪いか、何か急な用事があったのかと心配する声が大半を占めている。

「それで、誰か長谷川さんから連絡は……」
「きてないよー。」
「大丈夫なのかな?」

 そうですか……、と。ネギは心配そうな顔で呟くも、それ以上の事は何も出来ず。他に質問や連絡は何もなく、後味が悪いままホームルームは終了となった。



「ちょっと、ネギ!」

 ホームルームが終了し生徒が自由に動き出した後。教室を出たネギを追い、明日菜と木乃香がその背中に声をかける。それに気づいたネギは足を止め、二人へと向き直った。

「長谷川さんの事、本当に何も聞いてないの?」
「え? はい。」
「あのな、千雨ちゃんな、土曜日も早退したらしいんよ?」
「えぇー!? そ、そうなんですか!?」

 体調悪くて寝込んでるんと違う? そう木乃香に言われネギはアワアワと慌てだす。大変じゃないですか、看病しないと! そう言って走り出そうとするも、その首元を明日菜が掴み引き留めた。

「ぐぇ!?」
「あんた、採点や何かは良いの?」
「う、そ、そうでした……。」

 採点しないと明日の結果発表が、でも長谷川さんも心配だし、うぅー。
 等と言いながら行ったり来たりするネギ。その様子をみた明日菜は、一度木乃香と視線を合わせため息を吐く。そして未だに右往左往するネギを捕まえると、その肩に両手を置き視線を合わせる。

「長谷川さんは、私と木乃香が様子見ておくから。心配しないで先生の仕事してなさいよ。」
「うぅ、はい、お願いします……。」

 明日菜にそう言われ、ガックリと肩を落としトボトボと職員室に向かうネギ。その様子を見送った二人は、やっぱりまだガキよねー等と言いながら下校していった。



◆麻帆良中等部 体育館◆

「長谷川さん、ねぇ……。」

 学校中の生徒が同時に帰りだし、校舎中の廊下が人で溢れている頃。テスト日という事で部活をやっていないのか、誰も居ない体育館。その片隅にある更衣室で、一人の生徒が制服から修道服へと着替えていた。
 茶色の髪をベリーショートに切ったその姿はとても快活そうに見えていたが、ベールを被り修道服に身を包むと先ほどから一転、どこからどう見ても物静かで敬謙な修道士のそれである。

「いやー長谷川さんの部屋に呼ばれたと思えば、長谷川さんが夢から覚めない? シャークティが助けるために夢の中へ入っている? 極めつけは……」
『え? エヴァちゃんが闇の福音? またまた葛葉先生も冗談キツイっすよー。』
『本当だよ、童姿の闇の魔王とも言うだろ?』
『えー? 弐集院先生も? こんなちみっこが魔王な訳……』
『事実だ、春日君。』
『え……ガンドル先生まで……マジで言ってます?』
『マジだから私の頭に置いたその手をどけろ、春日美空……』

「よく生きてるなー、私……。」

 どこか遠くを見つめる美空。その目は正に死んだ魚の目だったと、後に麻帆良の新聞記者が言う。
 そう、着替え終わった後も遠くを見つめたままボーっとしていた美空の元へ。誰も来ない筈の体育館を横切り、更衣室に入り。美空の元へと、クラスメイトの朝倉和美がメモとペンを持って近づいてきた。

「やっほー美空ちゃん、吐く気になった?」
「げ! 朝倉!?」
「こんな人気の無いところで待っててくれるなんて、なんとも記者思いよねー。」

 ドアを背にし、じりじりと美空に近づく朝倉。美空は徐々に壁際に追いやられ、窓を背にして追い詰められる。美空は後ろを振り返り一つ唸るも、周りを見渡しても逃げ道など存在せず。このやり取りは昨夜から何度も行われ、その度に美空は逃げ出していたが。とうとう逃げることが出来ない状況にされてしまう。

「さぁ、もう逃げれないわ! 今度こそ吐いてもらうわよ! 千雨ちゃんが休んだ理由!」
「し、知らないっスよ……?」
「そんな言い訳は通用しないのよ! どうしても喋らないなら、美空ちゃんの過去の悪戯リストを全部新聞に載せるわよ!?」
「や、やめて! お願い! マジで!」

 さぁ、それが嫌なら喋りなさい!
 そう言い、ポケットからボイスレコーダーを取り出して美空に突き付ける朝倉。美空はとうとう追い詰められ……

「い……」
「い?」
「言えないっスよーーー!」

 窓を突き破り、校舎の外へと走って逃げていった。

「……え? この窓私が片付けるの?」



「はぁ、はぁ、はぁ、こ、ここまで逃げれば…」

 麻帆良駅前。自転車も自動車も追い抜き、全力で走って逃げてきた美空は、自動販売機でジュースを買ってベンチで一休み。修道服を整えながら先ほどの事を思い出していた。

「ふふふ、私の走りについて来れるのはアスナくらいっス。」

 どーだ、逃げてやったぞ、と、一人勝ち誇る美空。ガッツポーズをした後に缶ジュースを飲み、一息ついた後空を見上げる。
 しかし。そこには先ほどまでの誇らしげな顔は存在せず、どこか愁いを帯びた表情へと変わっていた。

「はぁ。長谷川さんに、こんなの見られてたのかなぁ……。」

 認識阻害が効かない。そのことを知らされていた美空は、千雨を想いそう独り言つ。
 車を追い抜く等、自分が常人ではあり得ない動きをしていることは自覚している美空。しかし、認識阻害があるから大丈夫。そう思っていただけに、自身も千雨のストレスの原因となっているだろうことを想い、その表情は曇り続ける。

「そりゃこんな魔法だらけの場所なら。引きこもりもするっスよねぇ……。」

 マギステルマギって、何なんすかね。私は目指しちゃいないけど、ホント、何だろう……。
 そう呟くと、ため息を吐いて缶をゴミ箱に放り入れようとし。投げずに少し固まった美空は、結局歩いて近づき直接捨てる。そしてもう一度ため息を吐いた後、駅の中へと消えて行った。



◆学園寮 明日菜の部屋◆

「ごめーん、私もう限界。眠いわー。」
「ううん、えーよー。徹夜明けやもんなぁ。」

 学園寮の自室へと戻った明日菜と木乃香は、早速千雨のお見舞いへと赴く予定だった。しかしテストが終わって気が抜けたせいか、部屋へと到着して直にソファーへ横になった明日菜は、目を擦り眠い眠いと連呼していた。
 それもその筈、昨夜は2人を含むグループで徹夜のテスト勉強をしていたのだ。木乃香は教師役のため少々の仮眠をとっていたが、明日菜は生徒役のため休みなしで朝まで続けられていたのだ。
 そんな明日菜を鑑み、木乃香は自分だけでお見舞いへ行くと切り出した。

「まぁ、看病なら私の出る幕ないし。いいわよね。」
「あ、あはは。そうかもなー。」

 それじゃ、いってくるなー。いってらっしゃーい。
 そう言葉を交わし、木乃香は千雨の部屋へと歩き出した。



コンコン
「千雨ちゃーん? 起きとるー?」

 千雨の部屋の前へと移動した木乃香は、扉の前から千雨へと呼びかける。しかし何の反応も無く、木乃香は首を傾げた。そしてドアに手を掛けて捻ろうとするも、鍵がかかっていて動かない。

「やっぱりおらんのかなぁ。それとも起きれんくらいしんどいのやろか……」

 部屋の前に立ったまま、暫らくうんうんと唸って悩む木乃香。そこへ一人の人物が近づき、声を掛ける。

「長谷川さんに何か用ですか、お嬢様。」
「あ、せ、せっちゃん!?」

 思わず振り返った木乃香。その視界に飛び込んできたのは、制服姿で何時もの竹刀袋を肩に掛けた桜咲で。
 予想外の人物に声を掛けられ、声を上ずらせて驚く木乃香。しかし改めて桜咲を視界に入れると、その表情は見る見るうちに明るく嬉しそうなものへと変わっていく。それは、まるで長年別れていた親友と再開したかのような。そんなとても嬉しそうな顔になり、木乃香は声を弾ませて桜咲へと話しかける。

「せっちゃんからうちに話しかけるなんて何年ぶりや!?」

 そういい刹那に近づく木乃香。しかし――

「長谷川さんに、何か、用ですか? 木乃香お嬢様。」

 刹那は眼を閉じて竹刀袋を押えたまま、微動だにせず。その顔には何の感情も現れていない。それを見た木乃香は、途端に表情を曇らせて近づくのをやめた。
 刹那の手を握ろうと持ち上げた腕も、誰にも気づかれないまま、何も掴まずに元の位置へと戻る。
 そして一歩二歩と後ずさると、顔を下げながらも上目使いでぽつぽつと喋り出す。

「あ、あんな。千雨ちゃん体調悪いんかと思ってな、お見舞いに来たんやけど……。」
「それなら私が見ておきますので、部屋へお戻りください。」
「え、で、でも、そないなら一緒に……」
「お戻りください、木乃香お嬢様。」

 そして。それを聞いた木乃香は。

「……ほな、千雨ちゃんによろしう。」

 目に涙を溜め、肩を落とし。トボトボと自分の部屋へと戻っていった。



◆学園寮 柿崎の部屋◆

「ちょっと美空! 8流しは卑怯よ!」
「革命した柿崎に言われたくないっス!」
「とか言ってるうちに円が上がってるよ!?」
「あはは、何か調子良いわねー。」
「うにゃーまた大貧民だー!!」

 夕日も沈み、既に外は大分暗くなった頃。
 美空は柿崎美砂、釘宮円、和泉亜子、椎名桜子らクラスメイトと共に、寮の一室で大富豪に興じていた。
 ちなみに今回の順位は釘宮、美空、和泉、柿崎、椎名の順だ。
 釘宮はトランプを纏めて切り直しながら、桜子に向けて声を掛ける。

「桜子が連続大貧民なんて珍しいねー。」
「チッ、こんなことなら賭け大富豪にしとくんだったわ。」
「柿崎はいつも取られてるもんなー。」

 亜子ー! 食券がー! そう言って泣くふりをしながら亜子に抱きつく柿崎。亜子は苦笑しながらその頭を撫でる。
 釘宮はそんな二人を眺めながらも、暗くなった外に気付いて全員に声を掛けた。

「そろそろ食堂行くー?」
「サバの味噌煮!」
「親子丼!」
「チキンカレー!」
「味噌ラーメン!」
「あんたたち毎日メニュー覚えてるの……?」

 そんな言葉を交わしながら、立ち上がりトランプを棚にしまう釘宮。それを見て他の面々も立ち上がり、食堂へ移動するべく動き出す。
 しかし、同じように移動しだした美空をみて、柿崎が首をひねりつつ声をかける。

「あれ? 美空、なんか夜に用事あるんじゃなかった?」
「あー、それは後からでもどうとでもなるから。」

 ふーん。と、それっきり興味を無くす柿崎。そういう物かと一見他の皆も納得したかに見え再度歩き出したが。唯ひとり、桜子だけは歩き出さずにその場に留まった。

「あれ、桜子? どうした?」
「うーん……」

 釘宮が桜子を呼ぶも、眉尻を下げ首を捻りその場を動かない。何だ何だと亜子や柿崎が桜子に近づいた時、桜子は顔を上げ美空を見つめ、次の言葉を放った。

「本当に一緒に行くの? 美空ちゃん。」
「えっ!? はぶっすか、はぶにされるんすか私!?」
「あはは、美空嫌われたー?」
「桜子……?」

 美空が驚き、柿崎が笑う。しかし桜子の表情は浮かず、釘宮と亜子は桜子の隣へと移動した。
 どうしてそんなことを言うのか、そう視線を合わせて問いかける亜子に対し。

「なんか、すっっっっっごーーーーく、嫌ーな予感がする。」
「え? 何美空、あんた死ぬの?」
「桜子大明神の嫌な予感……。美空、あんたの事は忘れないわ。」
「柿崎、円、それはちょっと酷いんじゃ……。」
「ちょ、洒落にならないからやめて欲しいっス……。」

 なにあんた、心当たり有るの? そう問いかける柿崎に対し、美空は曖昧に笑って答える。そして。

「うーん、やっぱり用事の方を先に済ませてくるよ。」

 そう言うと、4人に背を向け歩き出す。
 歩いて離れ行く美空を見つめる4人。なんとなく黙っていたが、美空が角を曲がり見えなくなった頃。

「桜子、美空が居なければいいの?」
「うぅ、もうわかんないよ~~~。」
「どんだけ嫌な予感なん?」
「今まで感じたこと無いくらい~~~。」
「それはひどい。」
 
 うーん。こっそりついて行っちゃう?
 そう提案する柿崎。そして4人は、美空を心配する心半分、興味半分で尾行を開始するのだった。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.030086040496826