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No.32306の一覧
[0] 【チラシ裏からの移動】魔神英雄伝ワタル〜尸魂界異聞録〜 魔神英雄伝ワタルシリーズ×BLEACH[書き手の欠片](2013/09/21 23:34)
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[9] 7  [書き手の欠片](2013/09/19 23:39)
[10] 8[書き手の欠片](2013/01/24 00:23)
[11] 9[書き手の欠片](2013/02/21 22:17)
[12] 10[書き手の欠片](2013/03/21 21:58)
[13] 11[書き手の欠片](2013/05/08 21:08)
[15] 12[書き手の欠片](2013/07/20 00:15)
[16] 13[書き手の欠片](2013/08/15 19:15)
[18] 14[書き手の欠片](2013/09/20 22:22)
[19] つっこまれる前に[書き手の欠片](2013/09/21 23:35)
[20] 15[書き手の欠片](2013/11/17 20:12)
[21] 16[書き手の欠片](2014/01/26 12:02)
[22] 17[書き手の欠片](2014/02/13 21:46)
[24] 18[書き手の欠片](2014/04/14 22:31)
[25] 19[書き手の欠片](2014/07/08 20:59)
[26] 20[書き手の欠片](2015/05/31 22:05)
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[32306] 【チラシ裏からの移動】魔神英雄伝ワタル〜尸魂界異聞録〜 魔神英雄伝ワタルシリーズ×BLEACH
Name: 書き手の欠片◆b0e703ca ID:199e2e1d 次を表示する
Date: 2013/09/21 23:34
 年越しを一週間後に控えた龍神町は、前日の夜中から降り始めた雪によって白銀に染まっていた。
 そんな一晩で様変わりした町を二階の自室から眺めている少年がいた。
 名前を戦部ワタル。六年前、異世界である神部界の創界山、星界山を魔界の者達から取り戻した救世主の成長した姿が、そこにあった。

「雪か……」

 殊勝にも冬休みの課題を広げた机に向かい合っていたワタルだったが、顔は雪の降り頻る窓の外に向けられ、意識は遥か遠くの場所に向けられていた。

「みんな、どうしてるかな……」

 そう呟くワタルの脳裏に浮かぶのは、クラスメイトの顔ではなく、異世界、神部界にいるかけがえのない友人たちの顔だった。
 アンコクダーとの闘い以降、魔界の者が神部界に侵攻してくることもなく、ワタルが救世主として呼ばれることは無かった。ただし、この六年間、一度も神部界に行かなかったわけではない。
 創界山の王宮、聖龍殿の宝物殿から秘宝『天女の像』が無くなった、天女の像盗難事件を筆頭に、何らかのトラブルが起きると、その度にワタルは神部界に呼び出され、トラブルの解決に尽力したものだった。
 今、思えばそのほとんどは、ワタルを神部界に呼ぶための口実だったような気がする。ともかくそのような理由で、ワタルは一年に二、三回は神部界に行っているので、懐かしいという感情はなかった。
 それでも大切な友人たちと何時でも会えないという事実は寂しいもので、ワタルがボケ~としている時は、大概、神部界に思いをはせていた。

『ワタル!!』

「え?」

 不意にワタルの脳裏に声が響く。突然のことに思わず部屋の中を見渡すが、当然、部屋の中には誰もいない。しかし、ワタルには脳裏に響いたこの声に、聞き覚えがあった。いや、確実に知っていた。それは友人と言うよりも、自身の半身とも言うべき存在の声だった。

『私の声が聞こえるか、ワタル!!』

「りゅ、龍神丸なの?」

 かつて、創界山や星界山で共に強大な敵と闘った半身の声の主の名を呼ぶ。だが、久しぶりに半身の声を聞いても、ワタルに喜びはない。切羽詰まった龍神丸の声がそれを許さず、ワタルの心に救世主の鎧を纏わせる。

「どうしたの、龍神丸?何があったの!?」

『ワタル、再び神部界に危機が訪れた!』

「え!?」

『救世主の力が必要だ。私と一緒に創界山に来てくれ!』

 最後の戦いから六年。考えた事は一度ではなかった。神部界の平和はいつまでも続くのだろうと。そして、遂に平和は破られた。

「僕の力が必要なんだね?」

 拳を固く握りしめながら、静に、強く問い掛ける。

『そうだ、来てくれるか?』

 この問いに拒絶の思案の必要などない。

「当たり前だろ!なんたって僕は、救世主ワタルなんだから!」

『それでこそワタルだ。私は龍神池にいる、すぐ来てくれ!』

「分かった!」

 ワタルは上着を掴み取ると母親に出掛けてくる旨を伝え、返事も待たずに家から飛び出した。
 目指すは龍神池のある龍神山。



 三十分後、ワタルは龍神山の山頂にある龍神池にかかる橋の上にいた。
 自慢のインラインスケートであればもっと速く着いたのだが、路上に積もった雪のせいでそれが使えず、龍神池に着いたワタルは真冬ながら汗だくになっていた。

「は、はっきり言って、しんどいぜ……」

 それでも息を整え、剣を掲げるように両手を上げて叫ぶ。

「りゅぅぅぅぅじんまるぅぅぅぅ!!!!」

 その叫びに応じるように龍神池が輝き始め、光る池の中から金色の龍が姿を現した。

『来たか、ワタル』

 金色の龍、龍神丸はワタルの目の前に頭を下ろした。

『さあ、乗れ』

 促されるままに龍神丸の頭に乗ったワタルは、目を閉じ、大きく息をはいて左右の角をそれぞれの手で強く握った。そして、目を開く。そこには強い意思だけが宿っていた。

「行こう、神部界に!」

『おう!!』

 ワタルを頭上に乗せた龍神丸は、一旦上昇すると、勢いをつけて光る池に飛び込んでいった。
 こうして救世主は再び戦いの為に創界山に向かう。


 龍神丸に乗り、光り輝く龍神池に飛び込んだワタルは、上や下といった区別のない不思議な空間を飛んでいた。遠くにいくつもの小さな輝きが見えるところはまるで宇宙空間を飛んでいるようだった。

『ワタル、もうすぐ神部界だ。心の準備はいいか!?』

「う、うん。覚悟はできてる。(そうだ、遊びに来たんじゃない、神部界を守るため、戦いに来たんだ!)」

 浮ついていた心に、自ら喝を入れたワタルの目は、平凡な高校生のそれから、幾多の戦いを潜り抜けてきた歴戦の戦士の目になった。
 その事を気配で察した龍神丸の瞳が光った。

『ならば、これを纏え』

 同時にワタルの体が金色の光球に包まれた。そして、その光が消えると、中から黄色い逆三角形の飾りの付いた青い鎧を纏い、背中に長剣を背負ったワタルの姿が現れた。

「戦いが終わってからも神部界には何度も行ったけど、この格好になるのは六年ぶりになるな……」

『やはり、ワタルにはその勇者の装束がよく似合うな』

「ありがとう、龍神丸(似合うのはいいけど、高校生でこの格好は、はっきり言って、ちょっと恥ずかしいな)」

 ワタルもお洒落にはそれなりに気を使う年頃になっていた。

『さあ、神部界につくぞ!』

 我に変えると、すぐ目の前には異世界へ入口である、輝きが迫っていた。
 輝きを抜けたワタルと龍神丸が飛び出たのは、龍神池と同じくらいの広さの池だった。ワタルたちはそのまま上空に舞い上がった。

「そういえば龍神丸、聞くのを忘れてたけど、神部界に何があったの?また、魔界の者が攻めてきたの?」

 神部界の危機と言えば魔界の者。というのは、やや単純な考えであるが、そもそも魔界の者から神部界を救うのが救世主の役目なのだから、魔界の者の関与を疑うのは仕方ないことだった。しかし、今回はいつもとは違うようだった。

『それが、よく分からぬのだ』

「分からないって、どういうこと?」

『魔物には違いないが、魔界の気配が感じられないのだ』

「それって、一体……?」

『ワタル、下を見ろ!』

 言われるままに視線を下に向けた。ワタルの経験によれば、そこにはモンジャ村ののどかな光景が広がっているはずだった。だが、

「な、なんだ、あいつらは!?」

 ワタルの目に写ったのは、モンジャ村を我が物顔で闊歩し、民家を壊し、田畑を荒らす、ドクロのような白い仮面を被った怪物達だった。

「龍神丸、あいつらがさっき言ってた……」

『そうだ、やつらが新たな侵略者だ!』

 確かに今まで見てきた魔界の者たちとは雰囲気が違った。眼下には四体ほどいるが、同じ姿をしているものはなく、二足歩行をしているものもいれば、三対の足とトカゲのような尻尾を持つものもいる。大きさもバラバラで、小さいもので人間大、大きいもので四メートルと魔神サイズのものもいた。共通点は頭部に付いている白い仮面と、体のどこか、おもに胸や腹に穴が開いていることだった。
 様々な経験をしてきたワタルも、体の中央部に穴が開いても平気な敵など、さすがに遭遇したことはなかった。
 そんなワタルの疑問をよそに、二メートルほどのサイズの怪物が逃げ遅れた村人に触手のような腕を降り下ろそうとしていた。

「やめろぉぉぉぉ!」

 考えるよりも早く、ワタルの体は龍神丸から飛び降りていた。背中の登龍剣を抜くと、落下の勢いのまま怪物の仮面ごと頭部を縦に一刀両断した。

「グォオオオオオ!」

 頭部を割られた怪物は黒い霧が拡散するように消えていった。

「早く、逃げて!」

「あ、ありがとうございます、救世主様」

 律儀に礼を言うと、村人は転がるように逃げていった。

「さあ、来い!」

 その姿を確認した、ワタルは改めて残った三体の怪物に対して剣を構えた。
 逃げ惑う獲物ではなく、立ちはだかる敵の突然の登場に戸惑う怪物だったが、三体のうち二体、三対の足を持つものと、ゴリラの様な長い腕を持つものが猛然と襲いかかってきた。

「へんたま、ブルー!」

 それに対して、ワタルは赤と青の勾玉をくっつけたようなボールを取り出すと、ゴリラの様な怪物に投げ付けた。ボールは青く光ると加速していき、勢いよく怪物にぶつかる。怪物の体格だと、野球の硬式球程度が当たってもなんともないはずだが、怪物はまるで大型トラックに衝突されたように吹っ飛ぶと、やはり黒い霧のようになって消えていった。それとほぼ時を同じくして、ワタルは六本足の怪物の突進をかわすと同時に登龍剣を怪物の胴体に降り下ろしていた。
 霧散する怪物を尻目に、ワタルは全長四メートル近くある怪物と向かい合う。さすがに生身ではかなわいので、龍神丸を呼ぼうと登龍剣を頭上に掲げようとした、その時、

『デビルタイガーミサイル!!』

 少年の声と共に上空から数発のミサイルが怪物に降り注ぐ。ワタルは咄嗟に伏せて爆風を避ける。一方の怪物は四方に爆発が起こり、棒立ちになる。そこに胴体部分に虎の頭を持つ、黄色と黒の魔神が飛来し、一刀のもと怪物を真っ二つに両断した。

「まったく、無茶するなぁ」

 非難めいた言葉を口にするが、声はとても嬉しそうだった。
 怪物を倒した虎の魔神が膝まずき、その中から操縦者と思われるワタルと同年齢くらいの金髪の少年が姿を現した。

「虎王!」

「ワタル!」

 絶対の信頼と親愛を込められてワタルは少年の名を呼ぶ。金髪の少年もワタルと同じ思いを込めた瞳を向けて、駆け寄ってくる。

「金竜の、龍神丸の姿が見えたから、慌てて来てみたんだが、やっぱりワタルだったか」

 そう言って笑う虎王も、六年の時を経てあどけなさを残しつつも、たくましく成長していた。しかし、子供の頃を知っているワタルには、その笑顔が新しい悪戯を思い付いたわんぱく小僧のように見えた。

「虎王は変わらないな」

 脈絡もなくそんなことを口にする。

「なに言ってるんだ?夏に会ったばかりなんだから、そんなに変わるわけないだろ」

 言われた方は、ワタルの感慨に気付かず首を傾げるだけだった。因みに夏休みにワタルが創界山に呼ばれたのは、亡くなった聖龍妃の跡を継いで創界山の王になった翔龍子改め、翔龍王に大将軍に任命された虎王の副官、ドン・ゴロこと武宝が夏風邪をひいて寝込んでしまったので、その代わりに副官代理に任命されたためである。代理と言ってもとくに仕事があるわけでもなく、虎王、翔龍王、ヒミコの四人で聖龍殿の一室に集まっては、昔話に花を咲かせた。そこにシバラクやクラマも加わり、充実した夏休みを過ごした。

「そうだったね、変なこと言ってごめん」

 誤魔化すように苦笑いを浮かべたが、すぐに真剣な面持ちになった。

「それより虎王、あいつらは一体なんなんだ?」

「それは俺様にも分からない。五日ほど前から現れるようになった。一体一体はそれほど強くないが、一度に現れる数が多くて、退治するのが大変なんだ」

「やっぱり、魔界の者?」

「いや、それはない。魔界の者なら俺様が気配で分かる。やつらからは、それが感じられない」

 元魔界皇子の虎王がそう言うのなら間違いはないのだろうが、これであの怪物の謎が更に深まることになった。ワタル的には手近なところで魔界の者の仕業の方が、話が早くていいのだが。

「一旦、聖龍殿に戻ろう。情報を集めている翔龍子が何か掴んでいるかもしれん」

「分かった、でも怪物の退治はいいの?」

「今回、現れたのは、だいたい片付けた。後は、シバラクとクラマに任せておけば大丈夫だ」

 シバラクやクラマにも会いたかったが、今は個人的な欲求を優先させていい状況ではなかった。

「邪虎丸の背中に乗れ、ワタル。一気に聖龍殿に行くぞ!」

「分かった」

 二人は魔神、邪虎丸に向かって走り出した。






『……ワタル』

 創界山の頂上、聖龍殿のある第7界層へ向かう虎型に変型した邪虎丸の背中で、ワタルは虎王の、明快な彼らしくない戸惑いの含まれた声を聞いた。

「どうしたの、虎王?」

『俺様は今回の件、ワタルには関わってほしくなっかった」

「虎王……」

 思いもよらない言葉に、ワタルは言葉をなくした。

『ワタルには 、救世主ワタルとしてではなく、俺様の友達、戦部ワタルとしてだけ、神部界に来てほしいんだ!』

 自分の無力さを責めるようなに吐き出された言葉で、ワタルは分かった。虎王は自分に戦ってほしくない、傷付いて欲しくないのだ。
 虎王は分かっている。現生界ではワタルが救世主などではなく、どこにでもいるただの人間であることを。そんな少年を自分たち神部界の者が戦いに巻き込んでしまっていたことを。だからこそ、これ以上、ワタルに頼るべきではないと。
 そんな虎王の心遣いが、ワタルは嬉しかった。だけど、

「ねえ、虎王」

 邪虎丸のコクピットのなかで、恐らくは不甲斐ない自分自身を殴りたいほど悔しい思いをしているだろう虎王に、語るように話しかける。

「もし、僕がものすごく困っているときに、迷惑をかけたくないからって、虎王に相談も連絡もしなかったら、虎王はどうする?」

『……怒る。何も言ってくれないワタルに』

「何で?僕は虎王に迷惑をかけないようにしたんだよ」

『俺様とワタルは友達だ。友達同士で遠慮なんかして欲しくない。それは力を貸すほうも借りるほうも同じだ』

「それと同じだよ、虎王。困っているのなら、遠慮なんかしないで、来てくれワタル!って言って欲しい。それに、いつか言ったことがなかったかな?僕は自分を救世主だなんて思ったことは一度もないよ。僕はただ、一生懸命生きている人たちを助けたいだけなんだよ。救世主だからじゃない、僕がそうしたいんだ」

 その言葉に虎王は自分が勘違いしていたことに気付いた。ワタルは救世主の宿命に囚われているわけではないことに。

「それに、はっきり言って翔龍王はともかく、虎王は僕がついていないと、心配だからね」

 おどけたように言いながら、拳で鼻の下をこすった。それはすでに直した小学生の頃の癖だった。
 その姿に出会ったばかりの頃のワタルの姿を重ね合わせ、そしてないかが吹っ切れたように頬が緩んだ。

『言ったな、そんなことを言うやつはこうだ!』

 虎王は邪虎丸のスピードを上げながら上昇、さらに捻りまで加えた。そうなると邪虎丸の背中に乗っているだけのワタルはたまったものではない。

「ちょっ、と、虎王?待って待って待って!落ちる落ちる落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅ!どひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 こうして創界山の空に、救世主の絶叫が響くのだった。










「ち、ちびるかと思ったことは」

 究極の絶叫マシーン(安全装置なし)を強制体感しながらも、なんとか無事に聖龍殿にたどり着いたワタルだったが、膝が爆笑して、しばらく歩くことができなかった。

「虎王、さすがにあれは酷いよ」

「いや~、すまん、すまん。俺様としたことがつい調子に乗ってしまった」

 ようやく歩けるようになったワタルを引き連れ聖龍殿の廊下を颯爽と歩く虎王は、一応は謝罪したが、満面の笑みを浮かべているところを見ると、反省はしていないのだろう。

「翔龍子、入るぞ」

 広い聖龍殿の廊下を歩き続けた二人はある部屋の前まで来ると、虎王はノックもせずに扉を開いた。

「虎王、どうした?」

 中にいたのは龍の金冠を金色の頭の上に置き、緑色の衣を纏った虎王そっくりの少年だった。

「翔龍子、ワタルが来てくれたぞ」

「翔龍王、夏以来だね」

「ワタル、来てくれたのか!」

 ワタルと翔龍王は歩み寄って、互いの手を強く握った。

「ワタル、すまないがまた力を貸してくれるか?」

「そのために来たんだよ」

 ワタルはニコリと笑い、翔龍王は虎王に比べると線の細い顔に微笑みを浮かべた。

「それで、やつらのことで何か分かったことはあるか?」

「いや、正体、目的、共に不明のままだ。だが、やつらの出現場所が集中していることが分かった。それがここだ」

 卓の上に広げてあった地図の一ヶ所を、翔龍王の指が指し示した。

「ここは……、モンジャ村からずっと東にある森の中だな」

「何かあるの?」

「この辺りにはヒミコと何度か行ったことがあるが、何もなかったぞ」

 行動範囲がやたらと広い虎王が首をかしげる。それに対して翔竜王は可能性を述べた。

「これまでは無かったが、今は何かあるのかもしれない」

「そうなると、直接この森に調べにいった方がいいね」

「よし、それなら今から調べに行くぞ」

 大将軍の地位にある虎王としては、このような見落としが許せずはずもなく、
言うが早いかワタルの腕を掴むとドカドカと部屋から出ていった。

「虎王、念のための武宝たちも連れていけ!」

「分かった」

 返事をしながら走り去る虎王とワタルだった。結果だけ言えばワタルたちと、部下の兵士五人を連れた武宝は合流したのは件の森にワタルたちが到着した三十分後のことだった。






 八人が二人一組になって森の中を探索すると、意外なほどあっさりとそれらしきものは発見できた。だが、

「これはなんでしょうか、虎王様」

 虎王の副官にして、お目付け役である赤い衣服の大柄の男性、鈍武宝の言葉は、残りの七人の心情を代弁したものだった。

 ワタル、虎王組が見付けたものは、一言で言えば穴だった。それが地面や岩壁にあったのならなんの問題も無かった。しかし、その穴は何もない空間に開いていたのだった。

「何、と言われてもな……、ワタルは分かるか?」

「え?僕も分かんないよ。こんなの創界山でも、星界山でも見たことないよ」

 穴の大きさは高さ約 2メートル、幅は1メートル弱ほど。形は円形でなく、ガラスが割れたときにできるようなイビツな多角形をしている。

「ここからあの怪物がでえ来るのでしょうか?」

「そう考えるのが妥当だと思います」

 武宝の疑問に、ワタルは頷いた。現状ではそれ以外に可能性はない。

「そうなら、この穴を塞げばやつら出てこれなくなるな。それで問題解決だ」

 虎王の述べた解決策は単純明なもので、それだけに正論だった。しかし、満点のこたえではない。むしろ、重大な要素を見落としていた。

「しかし、このような空間に開いた穴、どのように塞ぎますか?」

 その重大な要素を指摘したのは、武宝だった。ただの穴なら岩などで塞ぐこともできるのだが。

「うん、それに他の場所に穴を開けれないとも限らないしね」

「それならどうするんだ?」

 ワタルにまで自分のアイディアを否定されて、ちょっとご機嫌斜めになる虎王。

「まずはこの穴の先に何があるのか調べないと。少なくともこの穴がこちらから開いたものでないのは確かだから」

「よし、オレ様とワタルが調べてこよう」

「それはダメだよ」

「お止めください、虎王様!」

 即決する行動派の虎王を間髪入れずに二人が止めた。

「何故だ!何故、オレ様とワタルではダメなのだ!?」

「危険です。虎王様に万が一のことがあれば、どうされます!」

「それに虎王は大将軍でしょ。創界山を留守にするのは不味いし、怪物がここから出てきた時に、すぐに対応できるよう兵を配置したりしないといけないじゃないか」

「む!」

 皇子時代とは違い虎王も責任ある立場の人間である。その事を指摘されれば奔放過ぎる性格の虎王も反論できなかった。

「それなら調べるのはどうするんだ!?」

「僕が一人で行って来るよ」

「ワタル殿!」

「それは無いぞ、ワタル!」

 さも当然のように答えるワタルに対して、今度は主従から反対の声が上がるが、ワタルは手をあげてそれを制した。

「大丈夫、ちょっと調べて来るだけだから。なにかあればすぐに戻って来るよ」

 飽く迄でも偵察ためであり、ワタルとしても情報のないこの時点で、それ以上のことをするつもりはなかった。

「分かった、ここはワタルに任す」

 彼らしからぬ長考のすえ、虎王は許可を出した。どのみち調査はしなければならないのだし、ワタルの力量は虎王が誰よりもよく知っている。

「うん、任された」

「だが、危険だと思ったらすぐに戻って来いよ」

「分かった、無茶はしないよ。でも、虎王が僕の無茶を止めるなんて、昔と立場が逆になったね 」

「ふん、できれば俺様もワタルと一緒に無茶をしたいさ。ワタル、もう一度言うが、」

「うん、無茶はしない、約束だ。それじゃ、行ってくる」

 ワタルは虎王と数秒、見詰め合うと、穴の中に入っていった。




 その先に新たな激闘と、新たな出会いがあることを知らずに。




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