「―――さよならランサー。短い間だったけど、私も貴方みたいな人は好きよ」
そう言い残し少女は大広間へと駆けていった。
「――は。小娘が、もちっと歳とって出直してこい」
呟いた言葉は、心底愉しげだった。己の心臓は自らの武器によって治ることはない。そして燃えさかる炎に包まれるなかで主だった男の遺体をも焼き払っていく。この世界から消え行く中、ランサー今回の召喚について思っていた。
最初のマスターはいい女だった。性格、身体とも俺の好みだったがいかんせん真っ正直過ぎた。…いやあれは俺が用心しなければならなかった。俺がちゃんとしてれば令呪を奪われ主変えなんかに賛同する羽目なんかにならなかった…。
あれから俺の戦争はおかしくなった。二人目の主の令呪で全ての敵と戦い、ただし殺してはならない。そして一度目の戦いでは必ず生還しなくてはならない、そんな令呪が働いてる中で俺が望んでいた戦争が出来るわけもなかった。
ライダーは俺と同じで主に恵まれていなかったな。それにしても人間にやられるなんて英雄としての誇りはないのかねぇ。
アサシンとはやりずらいったらありゃしねぇ。まず場所が悪いし、あいつの邪道な剣は苦手だ。
キャスターとは戦うことはできなかったがまぁ魔術師だから別にいいだろ。
バーサーカー…あー相手が悪い。ほかに言うことはねぇ、一番の天敵だな。
セイバーとは命をかけた戦いがしたかったぜ。あれほどの剣の使い手はそうそういないしな。くそ、令呪の縛りがなければもっとまともな戦いができたんだけどな。
アーチャーは……最後までいけ好かないやつだったな。あんな成長が楽しみなお嬢ちゃんが主なのに裏切りやがって、あーやっぱ全力で殺しとけばよかった。
まぁそんな挙げ句の果てに自害をさせられちまったんだけどな。
「はっ!くだらねぇ…」
俺は何を考えてんだ。英雄ってのはいつだって理不尽な命令をされ死ぬもんだ。後悔はない、後悔はないがもし次に召喚される時はいい女の下で死力を尽くした戦いをしたい。なぁバゼット、セイバー。
そうしてランサーとして喚ばれた男は、燃え盛る炎の中次の召喚に期待しながら消えていった…。
ところ変わって夜の森。風が吹く森の中で少女達は戦っていた。一人は真租の吸血鬼であるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。もう一人はその従者である絡繰茶々丸だ。二人は人外と呼ばれる者達と戦っていた。
「フン、これで最後だ」
その一撃で最後まで残っていた鬼は倒された。数で言えば50数体もいたが、全力は出せないにしても真祖である吸血鬼とその従者には勝てなかった。
「マスター、お疲れ様でした」
「最後の一匹は存外粘ったが、まぁ満月の日の私の相手ではないな」
満月の下で少しだけ戻った魔力と、少年の修行の対価として貰っている血のおかげで魔法を行使する事ができた彼女は気分がよかった。そして乱暴に携帯を取り出し電話を掛け始めた、
「じじぃ、侵入しようとしていた輩は全て倒したぞ、金はちゃんと口座に振り込んでおけよ。お前の報告以上の人数だったから多めにいれとけ」
「フォフォフォ、わかった。それにしても最近は仕事が早くて助かるのぉ、それはネギ君のおかげかね?」
「うるさい妖怪ぬらりひょん!ただ単に警備員としての仕事をこなしただけだ。
もう用はないから切るぞ」
プツン!あっちはまだなんかぶつくさ言っていたが面倒くさいから切ってやった。
「マスター、仕事も終わりましたので別荘に戻りますか?」
今は別荘でチャチャゼロと一対一でやりあっているし、あいつは手加減しないからもしかしたらもう死んでいるかもしれないな。早く戻るか、久しぶりに手に入った良いオモチャを壊されてはたまらないからな。
「そうだな、小僧の修行をみなくては………いやもう少し遅れそうだな茶々丸。そこに隠れてるやつ出てこい!」
そして木の影から観念したかのように人が出てきた。全身を青い外装に覆われその外装には魔術式が組み込まれていて魔力量も普通の魔法使いよりも圧倒的に多かった。一目見ただけでこっち側の者だと判る。
「貴様何者だ?」
明らかに今まで戦っていた人外の者達とは格が違う。存在も威圧も。そうこう考えているうちに青の男はニヤっとわらいこう答えた、
「別に隠れてたわけじゃねーんだけどな…まぁいい、ランサーだ。よろしくなお嬢ちゃん」
これが英雄と呼ばれた男と吸血鬼のファーストコンタクトだった。