工具や測定器が所狭しと収納され、2機のISが並ぶ場所。楯無は軽快な足音を鳴らしながら紅椿に近づき触れた。それは何も語らず沈黙している。「すまない、楯無の言っていることが理解出来ない。俺が触れてどうなる?」「クラス対抗戦での騒ぎで、38番機の、通称“みや”のリミッター切れたわよね?」「それがなに?」「リミッター、搭乗者と機体その物を守る為に設けられた能力を抑制する機能。自由に切れないからその意味がある。切れたという事実、偶々だと、何らかの偶然で切れたのだと、虚が見逃すとでも思った?」 虚を見るとただ静かに彼を見据えていた。「君が世間に知られた頃だったかな。虚がこう言ったの、学園の機材に調子の良いもの悪い物があるって。単に調子が良い悪いじゃない、よく調べると説明書に記載されている仕様より優れているものすらあった。よくよく調べてみると、学園外の人間が使用したという記録があり、使用者は全て同じだった。これってどういうこと?」「機材はそれ程多くない。学園外の人間が触れるものならば更にだ。母数が少なすぎじゃないか?」「そう。私もそう思った。だから虚にこう言ったのよ。どこかの誰かさんが触った訓練機の能力をスペックシートと比較しなさいって。勘違いしないでね、その人物を捕まえたり解剖したり拘束したいってわけじゃないの。ただ私の立てた仮説が正しいならば、ちゃんと管理しないと行けないわ。真ならこの意味分かるでしょ? 学園で3人目、へたをすると世界で3人目。その性質を考えると科学機械文明で成り立っている人類にとって影響が大きすぎる。恐らく、学園のアレテーも例外では無い」「君の立てた仮説が正しいとして、きみはどうしたい? 君のISに触れさせたいのか?」「仮説が正しいならね。でも仮説でなかったら触れさせる訳にはいかない。どうなるか分からないもの」「なるほど。毒を以て毒を制すか」「毒を薄めれば薬になる。だからこそ詳しく知る必要がある」 その場から人の気配が消えたように、静寂が訪れた。秋の虫だけが囁いていた。真は表情を消しこう言った。「それは命令か? 生徒会長としての」「まさか。私が“指示”出来るのは、学園行動内に限る生徒だけ。教師には及ばないわ。要請よ」「なら、権利を行使させて貰おう。答えはNoだ」「はっきりする人、私は好きよ」「俺は気立てのいい人が好みなんだ。今日のデート楽しかった、それじゃ」 ジャケットを揺らしながら真はハンガーを後にした。楯無は深く溜息をついた。天井から照らす照明が彼女の表情に影を落とす。「嫌われたかな」「彼はこの程度で嫌ったりはしないでしょう。ただ警戒はされたでしょうね」 楯無の独白に虚は淡々と答えた。彼女自身余り愉快では無いらしい。「そう、よかった。蒼月真に敵対されると色々面倒だわ。彼自身という意味でも、背後にいる人物的な意味でも」「そう思うなら何故この様な事をされたのです。わざわざ反感を買うような真似をしなくても」「興味の有る子には意地悪したくなるじゃない」「興味ですか」「過去の詮索はしない、先輩との約束だから。けれど今とこれからは別よ。それともなに? まだ未練あるの?」「そう言う訳ではありませんが」「が?」「私は良くとも、一部の3年生は彼の味方です。彼が玩具にされて黙って見ているほど温和しい人たちでもありませんよ、お嬢様」「ダリル・ケイシーと白井優子、三年生ワン・ツー二人を敵にまわすのは少々骨が折れるわね。肉弾戦はともかくIS戦だと厳しい」「もっと厄介な子も1年に居ますから。本音出ていらっしゃい」 ひょこっとでてきた。「いい? 好意を持つのもいい、我が儘を言うのも良い。けれどこれ以上踏み込むのは止めなさい。きっと二人にとって辛い道だわ」「おねーちゃん意地悪だよー」「姉心妹知らずって言葉は無いわよね」 ◆◆◆ 木々に囲まれた道。街灯の光が淡く光っていた。見上げれば月はなく星々が煌めいていた。ハンガーを後にした真は唯一人歩いていた。右手の平をじっと見、強く掴む。(能力が上がる、ね……直接操作だけじゃ無いとは思っていたけれど) 彼が思い浮かべるのは蒔岡の工場で直したという古い加工機械。渡仏時一夏が動かしたという自動車、そして扱い難く嫌煙されていた38番機、みや。彼は1つの仮説に思い至った。それが事実ならば楯無のあの言動にも合点がいく。(でもなら何でみやは性能が上がらない? マイナス分がプラスマイナスゼロになっただけか? それとも何らかの成分が自己修復に吸い取られたのか?) 胸にぶら下がる愛機を摘まみ持ち上げた。翼の生えた剣、待機状態のみやをじっとみる。「なあみや分かっているか? 一夏との約束は皆を守る事だ。また福音級が来たら手も足も出ない。つまり今のままじゃ駄目。お前もセカンドシフトしてみたらどうだ……なーんてな」 福音戦の復習をやるべきだ、彼がそう決心した時である。「なにをぶつくさ喋っているのだ」 彼の目の前に立っていたのは、長い黒い髪の少女、箒だった。彼は呆けたように見ていた。「気もそぞろだな。お前が気づかないとは」「四六時中意識を張っている訳じゃないさ」 真は歩き出し、箒もまた後を追った。「そんな事では不測の事態に応じられないぞ」「箒だから気づかなかった」「な、なに?」「と言ったら信じ、」 手刀が彼の頭に当たっていた。「済まない、調子に乗った」「何かあったのか」「ちょっと。2つ3つ、宿題を思い出したんだ」「言ってみろ」「大丈夫だ、一人で抱え込むことはしないって」「……誰に相談するつもりなのだ」「秘密」 ぺしりと手刀がまた1つ。「またお前はそうやって!」 詰め寄る箒だった。「必要があったら相談するって」「そう言って結局全部背負い込んだだろう!?」「あの時の俺と今の俺は違うからちゃんと相談する」「セシリアにか?」「違います」「ボーデヴィッヒにか?」「違う」「では誰だ。やはりあの2人か」 声のトーンが落ちる。表情に陰りが見えた。だから真はこう言った。「……一夏?」「何故一夏なのだ」「友情だし相棒だし強いし?」 箒の手刀が真の頭を襲う。1つ目命中、2つ目回避。3つ目は真剣白刃取りの要領で掴んだ。肩を怒らし息荒く睨み付ける箒だった。彼は笑いながらこう言った。「相変わらずだな、箒」「何が言いたい!」「元気で良いと言う意味だ」「馬鹿にしているのか!」「微笑ましいと言っている」 他愛ないやりとり、真の投げかけに応じたのは箒では無かった。「あ! まこりん先生がのっしー(箒のこと)と手を繋いでいる! これは大問題!?」「直ぐ離すから問題にしないで! 箒! 直ぐ離す!」「お前が掴んでいるのだろう!」「そんな訳ない! 緩めれば直ぐ離すから!」「ほう、そうかそうか。それ程いやか。あの上級生は美しかったからな!」「美的感覚は個人に依存します! というか箒はどうしたいんだよ!?」「まこりんがのっしーを陵辱?!」「さらりと煽らない! せめて侮辱にって、ちょ、箒まった!」「天誅ー!」 唐竹割りの要領で振り下ろされる箒の手刀、彼は止めんと踏み込み、間合いを外された箒の眼前には真の顔が有った。「てん……ちゅー?」 居合わせた少女の呟きである。 箒はぱちんと真を叩くと、そそくさと去って行った。 ◆◆◆ 一夏は正面を見た。よく知るポニーテールの、古いなじみの少女である、うつろで何を言っても上の空だった。一夏ははす向かいのよく知る淡い栗髪の少女を見た。ぷうと頬を膨らましクロワッサンを食べていた。何を言っても相手にされなかった。だから一夏は右隣の静寐にこう聞いた。「真か?」「たぶん」 二人は溜息をついた。 一晩過ぎた翌日の朝。一夏は何時もの様にシャルに起こされ、着替え、朝練に励んだ。すると何故だろう、すれ違う少女たちから嘆き、歓声、黄色い声がこだまする、少女らの言動が理解出来ないと頭を傾げ、朝食のため食堂に来れば静寐に頬のキスマークを指摘された。 ぷいと機嫌を悪くする静寐に必死に謝り、遠くに腰掛けるシャルロットに非難の視線を飛ばし、シャルロットはセシリアと食事を取っていた訳だが、彼女はつんと澄まし顔だ。同室の男装の麗人に困惑する一夏であった。好意を持たれているかも、とは考えている。だが告白された訳ではない。何故この様な事をするのか気づいていない。もう1歩の一夏だった。 なにやら真剣に話し合ってはちらちら一夏を見る、ティナ、清香、鈴、3人の少女たち。思わせぶりな視線、鋭くもその滑らかな軌跡には甘い果汁の匂いが跡を引いていた。そんな困惑的な視線に戸惑いつつ一夏は、努めて冷静に隣の静寐にこう言った。「真の何時ものだろ。放って置けば良いって」「意外、世話を焼くと思ったけれど」「俺だって1から10まで面倒は見ねぇよ。というか見られないし。そもそもあいつも自覚しないとな、そういう事」「一夏に言われたらお仕舞いだよね」「俺だって成長するんだぜ」「それは認めるけれど」「それより週末の事だけどよ、行きたいところ有るか?」「お任せ、というのも依存しすぎだよね。一夏は世間に知られているから映画とかどう?」「映画か、そういえばちょうど007の新作があったな」「ホラーでも大丈夫だけれど」「ふいんき的にはイマイチだ」「雰囲気ね。そう言えばペンギンの赤ちゃんが生まれたとか」「おっけ、水族館だな」 朝食そっちのけでタブレットを覗き合う2人。暖かいが息苦しい、甘いが胸焼けする、そんな空気に辟易しながらも内心祝福する箒と本音だった。 その箒が担任である千冬に呼ばれたのは放課後のことである。何時の時代も生徒にとって職員室は緊張する場所だ、噂に聞こえる教師の武勇伝、箒も例外では無かった。なにより千冬の隣にはもっとも苦手とするディアナが座っているのだ。案の定2人は並んでおり、箒は人知れず、己にも気づかないうちに緊張をしていた。「そう堅くなるな、別に取って食われる訳ではない」「お望みなら取って食べても良いわよ」 書類やバインダーが積み重ねられた机、椅子に腰掛け箒を見上げる黒髪の人。整理整頓の綺麗な机、黙々とキーを打つ金髪の人。本気とも冗談とも取れる二人の言いように、箒は生返事を繰り出すのみだ。千冬は咳払いをした後こう言った。「篠ノ之、お前のISだが先程許可が下りた。本日を以て正式にお前の専用機となる」「本当ですか」 思わず声が大きくなる。「ああ。整備科第4グループの布仏虚、こいつは布仏本音の姉だが話は通してある。取りに行くと良い」「はいっ! ありがとうございます」「これが規約書だ、よく読んでおけ」 箒は、ISの運用規約を記した冊子を受け取ると深々とお辞儀をし、足早に去って行った。「何だかんだ言って気にしてたのね」 箒の背を追うディアナの眼差しに柔らかさがあった。「篠ノ之が我が儘を言い、ねだったISだからな、どれだけ離れても姉妹と言うことだろう」 僅かに陰らした千冬の表情、ディアナはこう言った。「今晩家に来なさい、とっておきを開けるから」「偶には2人だけというのも悪くないか」 ◆◆◆ 箒が第7ハンガーに着いた時、待ち構えていた少女が二人居た。生地は白に赤い線の入った学園ツナギ。本音は箒の姿を見付けると工具を手に持ちながらぴょんぴょんと飛び跳ねていた。「箒ちゃーん」「工具を持って遊ばないの」 諫めたのは虚だった。「遊んでないよっ」 満面の笑み、笑顔の友人を見て箒も表情をほころばせた。「1年1組篠ノ之箒です。ISの件で伺いました」「連絡は受け取っています。こちらへ来て下さい」 第7ハンガーの奥、人目を憚るよう白い布を被せられたそれは鎮座していた。虚が布を取ると現れたのは深紅のIS、紅椿である。堪らず箒が手を添える。赤い光を放ち咆吼を挙げた。虚の促しで箒は学生服を脱いだ。白いISスーツ姿になる。搭乗、装甲が展開しパイロットと繋がる。 広げたウィング・スラスターが予備加熱により淡い光を放つ、まるで翼を広げた深紅のハチドリのようだった。 箒は互いの手で腕を掴む。纏う鎧を感じるように。そして眼を開くと抜刀した。姉妹刀、雨月・空裂である。その姿を噛みしめるように、一つ振った。 側に立つ虚はその姿に圧倒されつつも、歩み寄りこう言った。眼鏡越しに見上げるその瞳は鋭く光っていた。「篠ノ之さん、貴女に伝えるべき事が2つあります」「はい」「私も稼働したそれを見るのは初めて、学園は未だそのISにアクセス出来ていない、これの意味は分かる?」「調整修理が出来ない、ということですね」「そう。この紅椿は全くのブラック・ボックス。壊れたら直せないことを肝に銘じてください。2つ目、世界が未だ第3世代気の開発に躍起になっている最中、現れた第4世代。この学園に於いて篠ノ之さんが使うことに限って許可が降りている。それは技術的にも政治的にも不安定な機体なの、この事だけは忘れないように」「はい」「これは個人的見解。私はそれを動かすべきでは無いと思うわ」「それは、私が未熟だからと言う意味でしょうか? それならば私は鍛錬を、」「違うわ、知らない物分からない物を使うべきでないという私のポリシー、でも、そうも言っていられないから……丁寧に扱いなさい」「分かりました肝に銘じます。今から飛べますか?」「第3アリーナで二人の男の子が模擬戦をしています。混ざると良いでしょう」 箒ははいと、小さく言うとISを収納。光りとなって消える。金と銀、左手に付いたのは2つの鈴のアクセサリー。箒はそれに右手を被せると「ありがとうございました」そう言い立ち去った。じっと、見送る虚の横顔に本音はこういった。「今分かったよ。おねーちゃんはまこと君のことが好きだったんだね」「ええ、よく出来ました」「まこと君が分からなかった、理解出来なかったから?」「そう、私には手に負えなかった。本音はどうするの?」「まこと君が好き、でも私には無理だったから。だから箒ちゃんを応援するの。箒ちゃんならそれが出来るから」「良く仲の良い姉妹とは言われたけれど、同じ人を好きになって同じ理由で諦めるなんてね」「おねーちゃんと一緒なら私は我慢できるよ」「馬鹿な子ね。飛び込むことぐらい出来たでしょうに」「それはおねーちゃんも一緒だよ」「本音良い事思いついたわ」「なに?」「二人で真を引っかき回すの。これぐらい良いわよね?」 本音は虚の胸に顔を埋めると静かに嗚咽を漏らし始めた。「うん」 ◆◆◆ ISの機動音が木霊する第3アリーナの空。色は白と黒だ。白が手にするのは蒼銀の刃。黒が手にするのは12.7ミリ突撃銃、通常弾。フィールド際を駆ける白式は、赤い軌跡をかい潜り、上昇。一夏の放つ意識の線、真は切り上げられる太刀を辛うじて避ける。白式はそのまま上昇、みやは白式を追撃。発砲。白式、ゼロ・ブート・イグニッション。撃ち出された弾丸は白式に追いつくことなくアリーナの壁に着弾、弾かれフィールドに落下した。(やりづらい!) 後を追う真の発砲した弾丸は、白式の背に届くことなく地面に落ちていった。(どうする? 追い込んで、軌道変更の際を狙うか?) アリーナを時計回りに飛翔する白式。真はその姿を見ると別のプランに変更、7.62ミリの突撃銃を左手に持つとフルオートで弾丸をバラ蒔いた。白式は右へ軌道を急激変更。“速度が落ちる”。真は右手の12.7ミリで白式の鼻先を打つ。白式被弾、みや加速。左腕の銃を放り投げ、超高振動大型アサルトナイフ展開、前方にかざした時、被弾した筈の白式は真の目の前にいた。(~~~!) 金属音が響く。みや落下、フィールド上に墜落。激しい音と土煙が舞う。真は姿勢を立て直し、加速しようとしたその直前、両手を挙げた。蒼銀の刃が真の喉元に突き付けられていた。 一夏は注意深くこう言った。「らしくねーな。何で銃で追い打ちを掛けずにナイフに切り替えた?」「何度か福音戦の復習をやったんだよ、お前をそれに見立てた」「何かと思えば、」「そんな事なんて言うなよ」 仕方がないと一夏は刀身を肩に乗せた。「分かってるって、勝率は?」「3勝18敗」「3勝したなら良いじゃねーか。タイマン張ろうって方が判断を誤ってる」「言ってくれるな。その3勝も僚機、つまりお前が居たという条件なんだ。事実上21敗の大全敗。どうにもな……」 一夏は手を出すと真を引き上げた。「まあ気にすんなよ。あんなのは滅多にないし、滅多にあっても俺が一緒に戦ってやるからよ、大船に乗ったつもりでいろって♪」 わっはっはと胸を張る一夏だった。ばんばんと真の背中を叩く。真は心底疲れたように多少非難めいた視線でこう言った。「お前と話していると貴子さんを思い出すよ。悩んでいるのが馬鹿みたいだ」「だれだそれ」 一夏はぴたりと止まる。「黒之上貴子。俺ら、一夏の3個上の先輩だ。豪快なうえに滅法強くてな、余りの強さで織斑先生、リーブス先生以外相手にならなかった。2年3年生の間じゃ伝説になっている」「美人か」「美人だな」「年上なんだな」「そうだけど、どうかしたかあああ」「お、ま、え、の知り合い年上が多くないか!」 背後から首に腕を回し締め上げる、チョークスリーパー。「年上というか年下というか、チョークチョーク!」「先輩ズといい、先生ズと言い、おおそうだそうだ。噂の2年生との関係を言え!」「ただのせんぱいずー」「嘘つきやがれ!」「何をしているんだ二人とも」 箒だった。紅椿を纏い二人を見下ろしていた。呆れていた。「ま、こ、との知り合いは年上ばかりでこんちくしょうってはなしだっ」「こんちくしょうなのか。分かった静寐に言っておこう」「今のは一般論なんだな、うん」一夏がぱっと手を離すと、「箒、そのIS」謀らずとも一夏の助け船をだす真。一夏は「許可降りたのか。格好いいじゃねーかそれ」といった。「紅椿だ。二人とも、模擬戦の相手になってくれないか」「俺休憩。真、お前やれ」「わかった」 余計なマネをとは思いつつも、一夏の計らいに感謝する箒だった。 ◆◆◆ 箒と真は2つ3つ打ち合うと、手を止めた。真が近づき運用手段について話し合っている。真剣な面持ちの中、どこかしら笑みを浮かべる箒を見て、一夏は溜息をつく。「手間掛けさせやがる、本当にまどろっこしい。こうぐいっとやってぶちゅーってやれっての……どちらさん?」「あっ」 一夏が振り向くと眼が合った。彼は両手の平をかざす2年の少女、楯無に不思議そうな視線を浴びせていた。「だーれだ」「いや、もう遅いですってば」「く、隠密には自信があったのに、不覚」 どこからともなく出した扇子で、自分の頭を軽く打ちたたく。一夏は戸惑ったようにこう言った。「耳には自信がありまして。この距離まで近づける人は先生以外覚えは無いです、大した物ですよ」「真といい可愛げが無いわねー」「……ひょっとして噂の先輩ズ?」「噂のは良いけれど先輩ずって何?」「真の知り合いひとまとめ」「あのね織斑君見せたい物があるの、みてくれる?」「はい?」 突如、両手で作った握り手を、ちょうど両手を2つのお椀の口同士を合わせたような形にし、身体の前においた。ねこなでる様な楯無の声、身体の芯に触る様なその振る舞いに一夏は動揺した。「あのね……えいっ! 羽交い締めだ!」 くるりと背後に回られた。「先輩あたってる!」「当ててんのよとでも言うと思ったかな?! 失礼しちゃうわ!」 徐々に苦しくなる感覚に、柔らかく暖かい感覚、魅惑の抱擁で徐々に意識が遠くなる。彼が眼を覚ました時楯無に膝枕をされていた。その傍らには静寐とシャルロットが冷たい視線で座っていた。 ◆◆◆ 次回、学園祭編。【ネタバレかもしれない作者のぼやき】出ました8巻。皆様はもうお読みになったでしょうか。被っている設定ですが、今のまま行きます。例えば、第2回モンドグロッソの優勝者がイタリアの人だそうですね。でも何でイタリアにしたんでしょう。原作ガールズの誰かと同じ国にすれば話を展開出来たと思うのですが。イギリスにしろドイツにしろ、中国にしろフランスにしろ。ルッキーニとかいう代表候補生が居たりして。米軍とのドンパチは、ゴーレムⅢイベント次第ですね。まだ未定です。今のところ友好関係ですが、甘い国でもないので分かりません。暮桜は予想通りでしたけど、クロエどーするかなー、生体同期型ISか。要するに常時展開しているような感じでしょうか。真、娘追加だぞ。美人姉妹だぞ。それより束が予想を上回るハイスペックでもうびっくり。Heroes束は強化しすぎたかなとか思っていたら予想の更に上です。まー学園側も酷い事になっているからバランス取れて良いかも……のんびりした空気はもう少し続きます。