あきません。どうやっても一人称だと辛い。Lost One’s Presence 1--------------------------------------------------------------------------------『茶番は終わったか』 一夏がその声の方を見上げると、其処には漆黒のISが腕を組んで立っていた。 第4ピットの甲板に立つそれは、背面にフレームは無く、長い腕は鋭く、脚部は分厚い装甲で作られていた。右舷に巨大なカノンを、両肩に巨大な浮遊ユニットを備えていた。マットブラックを基調としダークグレイをちりばめ、赤と黄色でアクセントを付けていた。制作者の芸術的なこだわりを感じさせるカラーリングのみやに対し、そのISのそれは必要から生じた攻撃性を匂わせていた。 その距離約1km。午後を回った太陽の光を浴びて鈍く光るその所属不明機に一夏の眼が鋭く光る。『貴様が織斑一夏だな?』「誰だあいつ」 ラウラの確認に一夏は誰に向けたのでも無い言葉を放つ。真が「仮の先生でドイツの少佐様だ」と答えると、一夏は何かを悟った様に睨みあげた「ドイツ……!」その表情には確信があった。真は一夏と千冬の過去を調べていた。だから二人の間に割り込むように動いた。『何か用か? ボーデヴィッヒ。待ち合わせにはまだ余裕があるぞ』『ならば織斑一夏。私と戦え。手間が省ける』 真の介入にラウラは意にも介さない。一夏がそのラウラに言う。『理由がねぇな』『教官の銘を守るため、その銘を汚したお前に……と言えば良いか? これ以上言葉が必要か?』『……お前なら千冬ねぇの銘を守れるって言うのか』『愚鈍な奴だ、それを確かめさせてやると言っている』『いいぜ、やってやる』 駄目だと、真が二人に割り込んだ。「待て一夏。俺の相手だ」「引っ込んでろ、お前の出番はねぇよ」『お前もよせ! ボーデヴィッヒ! 生徒を挑発するな!』 その言葉に一夏が反応する。何様だと忌々しげに真を睨み上げた。『仮にとはいえ教師だ、生徒を指導するのに不都合はあるまい? それとも何か? お前に私が止められるか?』『……いいだろ。だが立ち会うぞ』 シュヴァルツェア・レーゲンと白式がアリーナの中央、高度50mで対峙する。第2ピットで真を出迎えた箒が言う。「良いのか?」「良くない」 警戒を含ませた箒の言葉に、真は通信を開いた。その先は学園中央本棟、彼のよく知る2人にである。----- 同時刻、学園本棟地下の一室で1年の教師たちは臨海学校の打ち合わせを行っていた。パイプ脚の白いシンプルなデスク。グリーンクッションとキャスターが付いたチェアー。白い半導体照明を浴びて彼女たちは書類やらタブレットやらに目を通していた。一息付き、書類をテーブルに投げ出したディアナは忌々しげに目の前の千冬を見る。「千冬。何とかして追い出すべきだわ。あの小娘!」「そうは行かない。ラウラの迎え入れは日本政府との関係改善の条件だ」 何時になく機嫌の悪いディアナに2人の副担任がびくりと身を縮ませた。 数日前、日本政府から学園に定期会合の再開が申し込まれた。両者は4月から6月の3ヶ月間で学園に生じた事件、特にM襲撃の一件で関係が悪化していたのだ。 学園の独立性は謳われているとは言え、地理的に経済的に関係している以上日本政府とは全く無関係では無い。事実、学園内には関係各省庁出身の者も少なからず居る。これは日本政府側だけではなく、学園からの働きかけも可能な相互的なパイプだが、そのため学園内の情報は少なからず日本政府も知り得ていた。少なくとも事件の有無は確実にだ。 学園の歴史上この様に問題となる事例は稀で重大性も低く、今まで取り沙汰される事は無かったが、今年は違った。入学早々に起った英国代表候補と男子適正者とのいざこざ、クラス対抗戦、M襲撃及びそれに関連する事件。非公式とはいえ学園は、政府の情報提供や身柄引き渡しなどの度重なる要請を蹴ってきた。一重に学園の独立性を守る為である。一度実例を作ればなし崩し的になる事を学園が恐れたからだ。 その結果、面目を潰された政府は学園に圧力を掛けた。それが理由不明の定期会合延期であり、非協力的な態度である。真のフランス渡航において、ファントム・タスクの情報を得ていた日本政府が報復措置として学園にその警告を行わなかった事は記憶に新しい。 それが一転、日本政府は条件付きで再開を申し入れた。それは“ラウラ・ボーデヴィッヒを教師待遇で受け入れる事、ただしあくまでドイツ軍籍で”である。これはラウラを完全に学園下に置けないという事だ。当初学園も警戒していたが、織斑一夏誘拐の件で日本政府はドイツに借りがある事、ラウラと千冬は面識があり師弟関係にある事、関係悪化が長期に及び学園運営への影響を避けたかった事、何より政府が折れる格好であった為それに応じたのである。 煮え切らない態度の千冬にディアナはあくまで強硬だ。「あの小娘、真を襲撃したのよ? しかも2撃目は本気だった」「分かっている」「その理由が、」「私の近くに居る資格があるか、そんなところだろう。もっとも他にも用がありそうだがな」 2人がラウラに対し強い立場に出られない理由は、ドイツ軍の現職兵士が日本政府の大使“まがい”の事をしている為だ。日本と学園の問題にドイツ軍が関わるのは不可解である。だが学園はその理由を突き止めていないうえ、公になれば世間が疑問を持つ。また箒も真も武器を携帯し、抜いているのもまた事実であった。学園が治外法権なのは周知の事実であるが、この件を世間が知り騒ぎになる事を避けた。互いに大事に出来ないのが現状である。「一夏だって他人事では無いのよ。特にモンドグロッソの一件を根に持っているから」「分かっている。だからラウラには釘を刺しておいた」「大体、どうしてドイツが出てくるのよ。怪しいなんてものでは無いわ」 千冬は初めて顔を上げた。その視線は熱く鋭かった。「繰り返すぞ。学園として考えればこれが最善。それはディアナにも分かっているはずだ」 そう言うと千冬の気配が撓み始め、部屋の歪む音が聞こえ出す。それは彼女がストレスを感じている証拠だった。ディアナは一つ息を吐くと、土色のいかにも手作りを匂わせる湯飲みを手に持ち、煎茶をすすった。(電子戦の状況に大きな変化は無し。ファントム・タスクの動きも平常内。何処の誰……日本政府と学園、千冬とドイツの関係を利用するなんて、とびきり根暗で性格の悪い、嫌らしい奴だわ) ディアナの考えがある人物に結びつく、その直前である。千冬のタブレットに呼び出し音が鳴った。画面には彼女がよく知る人物のIDが表示されている。ディアナは千冬バカ1号ね、偶には私に掛けなさい、と更に機嫌が悪くなる。「どうした」千冬は僅かに声のトーンを上げた。『織斑君とボーデヴィッヒさんが模擬戦を行います。止めるには俺の権限が足りません』 教師たちが千冬に注目する。彼女は僅かな思案の後こう言った。「いや、構わん。好きなようにやらせろ」『しかし、』「“一夏”の増長を抑えたい」『……了解です。保険で第3アリーナのセキリュティ強化を進言します』 声を僅かに弾ませた真の声に、何故とディアナも苦笑を織り交ぜた。可能性は低いでしょうが、と前置いた上で彼は言う。『織斑君は今や織斑先生の銘が付いたトーナメント優勝者です。方やボーデヴィッヒさんは半分ドイツ軍。どちらが勝っても負けても、学園に良い話では無いかと思います』 ラウラの敗北が世間に知られれば学園がドイツ軍の威信を傷つける、一夏の敗北が世間に知られればブリュンヒルデに傷が付く、と言う事だ。あくまで世間体の問題だが無視出来る問題でも無い。「良いだろう。セキリュティLvを上げる。こちらでも監視するが状況次第で介入しろ。判断は任せる」『了解。通信終わり』 アレテーにアクセス、指令を与える千冬を見てディアナは思う。(この娘が真に我が儘を言うなんてね) 彼女は苛立ちと喜びを交えた複雑な心境で友人を見ていた。----- 高度20m、距離100m先で腕を組み冷笑を浮かべるラウラを見て一夏は雪片弐型を構えた。彼が見るのはラウラの“シュヴァルツェア・レーゲン”のシルエットである。(ぱっと見分かるのはカノン一つか。あの砲身なら間違いなく遠距離。そんであいつは軍人となれば中近距離も持ってる筈。図体の割にスラスターが小さい、ってことはエネルギーを他の何かに割り振ってるのか。両肩の浮遊ユニットが気になる……なんだあれ)「どうした? 来ないのか? これでは蒼月真の方がマシだな」 ラウラが挑発。一夏は小さく首を傾げると、蔑むように睨み上げた。その直後、白式のスラスターが火を放ち、砂塵を巻き上げた。歪む世界、刃が蒼銀の光を放つ。「雄々々々々ーーーー!!」(データより速い、が直線的……愚図め!) 白式の軌道を予測、ラウラが右手をかざした。カノンを使わないラウラの姿に、一夏は無意識で警戒した。それはセシリア、真で養った対中遠距離者への直感であった。 シュヴァルツェア・レーゲンの前方に動体反応性の力場が展開される。局地的エネルギー上昇、空間歪曲、漆黒のIS越しに見える背景が歪んだ。一夏の眼がそれを捕えた。その時間0.1秒。 白式急降下。姿勢反転、脚をフィールドに叩き付けスラスター最大出力、急制動。つぶてがラウラに降りかかる。巻き上がる砂塵の中、ラウラは舌を打った。白式に打ち込まれたつぶてがラウラの前方で止まっていた。「ふーん、面白いもの持ってるじゃねぇか。PICの親戚か?」 砂塵の隙間から、雪片弐型を肩に掛けた一夏が現れた。彼の左人差し指を目の前にしてラウラから冷笑が消える。ぱらぱらと小石が振り注ぐなか彼はこう言った。「知ってるか? この学園には腹黒い銃使いが居るんだぜ? 加速中、末端撃たれて転がされる。撃つと思えば蹴りが来る。ISに乗ってなきゃ奇術師か、ペテン師だ。そいつに比べればおめーはとっても素直で可愛らしい。まるで純真無垢な子ウサギにみえるぜ」「良いだろう、敵として認めよう」彼女が眼帯を取り外すと金色の瞳が現れる。両腕からプラズマ・ブレードを展開、交差させた。「「叩きのめす」」---- 1発目、2発目、白式はシュヴァルツェア・レーゲンのカノンを躱す。ラウラは撃ち込んだ弾線から白式の軌道を制限し、動きを読み、柄の無いナイフのようなワイヤーブレード4本を射出、蜘蛛の脚の様に撃ち込んだ。その変幻自在な軌道を描くそれを、一夏はある物は柄で、ある物は刀身で、ある時は先端のブレードを、ある時はワイヤーの節を払い薙ぎ無効化した。切り込んだ。忌々しげにラウラが雪片弐型をプラズマ・ブレードで捌く。 一進一退の攻防を続ける2機のISを、真はハイパーセンサー越しに油断無く目で追っていた。(一夏の奴、また速くなっているな。さっきのアレか。現職軍人相手を手玉に取るなんて、冗談じゃ無い……けれど、上昇具合に伸びが無い。そろそろ打ち止めか?) その真の右に立つISスーツ姿の箒は、探る様な瞳を向けこう言った。腕を組み何時ものむっすり顔だったが、僅かに苦笑う。「あまり驚かないのだな」彼女が言うのは、だめ押しするかのように向上した一夏の力の事である。「そんな訳ない。とても驚いている」「お前はどう見る?」この質問は、真なら勝てるのかという意味だったのだが、彼は別の意味に捕えた。「織斑先生も半端ない身体能力の持ち主だけど、それだけじゃないんだ」「なんだそれは」「釈迦に説法じゃ無いけれど、武術の基本は足腰とそれを支える大地。空を飛ぶISにおいて格闘戦がどうしてもマイナーになるのはこれが理由」「千冬さんにはそれを補う何かがあるというのか」「映像データだけだから確証は無いけれど、慣性力を操っているように見える。だから空中で踏み込んだり、生身でISと渡り合う事も出来る。P.I.Cもシュヴァルツェア・レーゲンのA.I.C.もそれの劣化コピーだって噂だ」 荒唐無稽な真の発言に、箒はディアナの糸繰りを思い出した。それもまた異能であった。「一夏にもそう言う物があると?」「俺の知る限り知らない。箒はどうだ?」「心当たりは無い。強いて言えば全く病気をせず、大怪我かと思う事故でも傷一つしなかった位だ……」 はっと息を呑む。箒はかって風邪を引いて学校を休んだ千冬の姿を思い出した。真は続けた。「俺は初め一夏が織斑先生と同じだと思ってた。どうもそうじゃない様に思う」「一夏の身体能力に千冬さんが似て、千冬さんの異能は全く別物というのか。姉と弟だぞ」「織斑一族と考えればそうだけど、あの2人の両親にそう言う話を聞いた事は? 少なくとも記録には無い。因子と産まれる順番は別物だと考えればつじつまは合う……箒」 何事かと箒はフィールドの二人から真に視線を移した。「なんだ」「第3アリーナのセキリュティLvが4に設定された。一般生徒は退避」「断る」「Lv4に設定されたの。一般生徒はいちゃいけないの」「断る」 溜息をつき真は箒を見下ろした。どしんとみやの巨躯が脚音を立てる。其処には何時もの様に人を寄せ付けない鋭い面持ちの箒が居た。「あのな……我が儘言うな!」「断る」ぴくりと真の頬が波を打つ。「俺は仮だけれど教師なんだ、命令しても良いんだぞ」 箒は組んだ腕を解き、小さく広げ真を見上げた。その双眸には其処にかっては無かった今はある、確固たる信念の炎が灯っていた。「どうしてもと言うのなら、叩きのめすなり、無理矢理追い出すなり好きにすると良い」「……どうしてそこまでする」「頼まれているし、お前には借りがある」「心当たりが無い」 今からつまらない事を言うぞ、と前おいて箒は堂々とこう宣言した。「私に友と言える者は学園に来るまで居なかった。不出来な姉のせいで、私の歪んだ性格のせいで。そんな私に静寐と本音、この2人を引き合わせたのはお前の取り成しだろう? その2人からお前を守ってくれと頼まれている。私にも背負う責がある。お前と同様にな」「……まったく。気が強い娘ばっかりだ」「お前がそうさせている」 真は言葉を失った。ピットの出口から戦火の音が響き渡る。彼は大きな溜息をつくと箒は笑いながら言った「溜息をつくと幸せが逃げるのだぞ」真は渋々と言った「条件が二つ。一つ、俺の指示に従う事。二つ……その言葉は2度と言わないでくれ」「私だけ逃げろ、お前を見捨てろ以外であれば従おう」 彼は見えない目を開いてこう言った。「篠ノ之。ISを展開しクルージング(巡航)モードで待機。兵装及び機体状況の確認を忘れるな」「了解だ、隊長殿」 彼はこの時、初めて箒の笑顔を見た。----- ラウラの武器は練り上げた戦闘技術に、不自然なまでに高い彼女自身の身体能力、シュヴァルツェア・レーゲンの性能とその相性。その“スペック”はドイツ軍IS部隊隊長に見合うものだ。だが彼女の戦闘経験は同質の同部隊の仲間による物であり、模擬戦の範疇を超えない。なにより己を上回る相手との戦闘経験は唯1人。部隊内で優秀すぎた彼女は、大した駆け引きも無く圧勝を続けてきた。彼女の来日目的の一つは、多様の戦闘経験を得る事でもあった。 一夏は、身体能力が高くない入学初期から、セシリア、鈴、シャルロット、真、対抗戦での無人機と彼自身を上回る者たちのみと刃を交わし鍛錬を続けてきた。それに加え、度重なる原因不明の身体能力の向上。それはラウラの高速化処置“ヴォーダン・オージェ”に匹敵する。 それらの諸条件が影響し合い、差が出始めた、一夏が押し始めたのである。ラウラは己の技術を駆使し、カノン、ワイヤー・ブレード、プラズマ・ブレード、A.I.Cを駆使し一夏に迫る。中間距離で迫る六つのワイヤーブレードを一夏は順繰りに、極短時間に読んだ。時間に余裕があればワイヤーの繰りを読む事など容易い。撃ちだしてしまえば直線的なカノンなど造作も無い。A.I.Cの間合いもその範囲も既に読んでいた。「強いが、怖くねーな! ドイツの軍人さんよ!」「ほざけ!」 遠距離装備に意味が無いと判断し、ラウラはカノンをパージ。投擲、一夏は左腕を振り弾く。その影に隠れ、ラウラは全ワイヤー・ブレードを繰り出した。 前後左右の同時攻撃、一夏は右舷へ加速、柄で一機をたたき落とし、体勢を整えると向い来る5機のブレード群に最大加速。直線上に重なった4機を一閃、破壊。その隙を突いてラウラが展開したA.I.C.を零落白夜で切り裂いた。 A.I.C.は効果に乏しいとラウラは判断、プラズマ・ブレードを最大出力で展開、加速。一夏は迎撃態勢、互いに踏み込んだ。一合、二合、刃が火花を散らす。参合目、二人は鍔を競り合う。ラウラはプラズマ・ブレードを交差させ一夏の首を狙う。一夏は零落白夜を唐竹に打ち下ろした。プラズマ・ブレードと零落白夜、エネルギーが対消滅、硝子をひっかくような歪な音が打鳴る。二人の闘志が交差した。「見事だ織斑一夏! ここまで私を追い込んだのは貴様が初めてだ!」「褒められついでにこのまま勝たせて貰うぜ! まだ次があるからな!」 プラズマ・ブレードの影に隠れていたラウラの双眸が光ると、一夏の背後から残ったワイヤー・ブレードが一機迫り来る。彼は避けもせずそのまま受けた。その衝撃を利用し、互いの硬直を解く。シュヴァルツェア・レーゲンの脇が上がった瞬間、零落白夜をラウラに打ち込んだ。「獲った!」と彼は叫んだ。 もつれるように2機のISが落下する。二人の間に漂うワイヤー・ブレードが去った時、一夏が見た物はラウラの鋭く光る双眸だった。まだ光は失っていなかった。一夏の背筋に悪寒が走る。ワイヤーブレードは全部で六機、一夏が破壊したのは4機、目の前にあるのは一機、ならば残りの一機は? 彼の身体を衝撃を襲う。最後の一機は投擲したカノンに付いていた。ワイヤー・ブレードによりエネルギー供給、そしてリモート砲撃。ラウラのカノンは両肩の浮遊ユニットに取り付けられていたように見せかけていた。実際は浮遊式半独立式のCIGS(Close In Gun System)だった。白式は、勝利を確信していた無防備の瞬間を狙われ弾け飛んだ。墜落、大地に転がり、打ち付けられた。静寂が訪れる。 白式、残エネルギー320。砂にまみれ、一夏がよろけながら立ち上がった頃、宙に浮いていたシュヴァルツェア・レーゲンはラウラの失神により墜落した。零落白夜の影響で、シュヴァルツェア・レーゲンの保護フィールドが不安定化、その状態で至近距離の砲撃の余波を受け、吸収しきれなかった衝撃がラウラを襲ったのである。 白式の、一夏の勝利だった。「よっしゃぁぁっ!」 一夏は歓声を上げると、700m先の第2ピット甲板で佇む黒いISに焦点を合わせた。「まことぉ! 次はお、めぇだぁぁぁぁー!」 眼を開き、口を大きく開け、牙を剥く。歓喜と興奮をまき散らすその笑みは捕食者のそれだった。今の彼にはよく知る少女たちや古い友人、姉すら居なかった。真の隣に立つ箒すら眼に入らない。その気配を感じ取った真は腕を組み静かに見下ろしていた。『一戦やらかした後だろ、明日にしておいたらどうだ』『ぬかせ! いいからさっさと来やがれ! お望み通りてめぇの“全てを否定”してやっからよ!』(あれが、あれがあの一夏なのか……) 箒が見る一夏の姿は、限りなく優しく暖かさと安心を与えてくれた幼なじみの姿は、全てを忘れ去った様に、闘争本能に身を任せる変わり果てた姿となった。この距離からでも伝わる殺意の意識に彼女はただ恐れおののいた。「篠ノ之は合間を見てボーデヴィッヒを回収すること」「だめだ! 今の一夏はとても怖……」箒は最後まで言う事なく、両手で真の右手を掴んだ。「思うんだよ。俺が一夏をああいう風にしてしまったんじゃないかって。俺がここに“居なければ一夏はああ成らなかった”んじゃないかって。だから責を果たしてくる」(それに。千冬さんの初めての我が儘、叶えない訳にいかない) 行って来る、そう静かに告げると彼は指を解き、まだ青い空にその身を飛ばした。----- みやが告げる。-クルージング(巡航)モードからアサルト(戦闘)モードへ移行--各デバイスチェック開始--冷却系:100%で定格動作、異常なし--駆動系:異常なし--推進系:異常なし--量子格納系:異常なし--エネルギーパック:異常なし、エネルギー1900/2000--エネルギーシールド:不安定、最大出力70%で安定、コンディションイエロー--スキン装甲:ソフトウェアロック、使用不可--FCS(火器管制):追加戦術情報システムとのリンク確認。右肩:LANTIRN-B(ランターンB型:夜間低高度赤外線航法および目標指示システム)、左肩:スナイパーXR(センサーポッド:iAN/AAQ-33)動作、異常なし--PIC(慣性制御):追加補機共に100%で定格動作、異常なし--アサルト・ライフル“FN SCARi-H”量子展開--12.7mmx99 HVAP(高速徹甲弾:High Velocity Armor Piercing)装填20発--白式僚機設定解除--条件付き(対白式戦闘)で戦闘行動に支障なし--セーフティ・ロックオフ--READY GUN-「行くぞ一夏。歯を食いしばれ」--------------------------------------------------------------------------------まことA「ラウラがやられたようだな」まことB「ふふふ、あ奴は我が仮教師の中でも最弱」まことC「勇者ごときにやられるとは仮教師ズの面汚しよ」いちか「2人しかいねぇぞ」らうら「わ、私が噛ませ犬……うさぎなのに!」 らびっ党の方々ごめんなさい。2012/12/01■補足一夏と真の関係は次ぎで説明の予定。ラウラのフォロー話はその後です。