シャルロット・デュノア3 下の方に推奨BGM設定してます。宜しければ準備してお読み下さい。 “推奨BGM「対象a」ひぐらしの鳴く頃に解より”-------------------------------------------------------------------------------- 時間を持て余していた。外出しようにも外は敵だらけ。もちろんこの敵は比喩であり本当の敵も居る。迂闊に外出する事も出来ない身だが、物事には限界ある。手元に銃が無いと言うのも落ち着かない。何よりじっとしていると碌でもない事を考える。 デュノアに手伝える事は無いかと聞いたら、休めるうちに休むのも“仕事”だよ、と怒られた。そのデュノアは一日一回研究所に赴き改修の確認と助言をしているらしい。彼女はリヴァイヴ歴2年のベテランだ、頼もしい事この上ない。 深い溜息の後、手持ちぶさたにタブレットを手に取った。見えない事に気づいた。書籍を借りた、見えない、それ以前にフランス語が読めない。ラジオから流れる言の葉は、もちろんフランス語であったがDJがAHAHAと笑ったので、つられてあははと笑った。「蒼月様」 見られた。「……アノですね、エマさん、」 自己評価以上に疲れているのかもしれない。身を起こすと、ぎしり、もたれていたソファーが慌てふためき音を鳴らす。「お答えしかねます」「何も言ってません」「夜の勤めは可能なのか、とお聞きになるのかと」「そんな事は要求しません、というか拒否で答えて下さい、いやいやそうでは無く、ノックをお願いしたいと言いたい訳です」「室内に籠もられ本も読めず映画も見られずゲームもできない、不健康な闇夜の中では淫靡な思想の世界に浸り、青い衝動が暴走しておられるのかと」 酷い言われようだった。 6月4週目の月曜日、時間は夜の10時過ぎ。みやの改修が始まり4日経った。デュノアの報告によると非常に順調で既に火が入っているらしく、明日にも装着試験が行われる。 起きては食べて寝る。食べてはトレーニングをする、そしてこのメイドさんとよく分からない会話をし、風呂に入る。寝る。漸くこの閑散とした日々から解放される、と言う訳だ。待ちに待ったみやとの再会、思わず笑みがこぼれる。だが、喜びに浸る私に浴びせる彼女の言葉は何処か冷たい。「蒼月様は少々変わった御気性をお持ちです」「どの辺が変わってますか?」「生身よりISがお好みとお見受けできます」「それは誤解です」「お目に掛り早四日。困惑顔もしくは愛想笑い程度の蒼月様が笑みを浮かべるのは、IS関係の連絡を受け取った時のみです」「先程笑いました」「あの様な品の有る笑いとは異なります」 はっきり言いますね、と疲れたように私は言う。縁の浅い他人の方が言える事も出来る事もあります、そう彼女は涼しい顔だ。組んだ両手を腹部に当て、ソファー越しに佇むその人は熱い氷のような気配を漂わせていた。「幻をISに求められているのでは?」「どういう意味です」「傷つけられる事も傷つける事も無い、ISを傷つけるときは蒼月様自身も傷つく。気に病む必要が無い」「……俺のは度が過ぎてるんです、色恋沙汰的な基準で判断するのは止めて下さい」「同じです。正直申し上げますが、無様で見るに耐えかねます」 目と耳、鼻と舌先、そして指。五感がジャリと音を立てる。私はふらりと立ち上がった、彼女までの距離は2m。「あのですね、エマさん。確かに自分を上等な存在だとは思ってませんよ。胸を張って言える特技は射撃だけですし、今では目も見えない。人の気配は読めますが物は無理。エマさんの手を借りないと、この屋敷を歩き回ることすらままならない。壁にぶつかったし、躓いたし、階段から転げ落ちた。こんなザマです。でも、でもですね、」「何でしょうか」「少し、軽率すぎだ」 その女の放つ意識の線、身体を軸線上から外す。歩み寄る。慌てて部屋を見渡すその女の目は、居ると確信しているが把握出来ない、そう語っていた。右へ左へ、緩慢な刻の隙間。目の前に彼女の背中があった。右腕を掴み、締め上げる。よく知った感触が、骨と関節の軋みむ感触が腕に伝わる。私が知ったのは、背後に回られたと気づくより先に、腕の痛みに悶える女の表情だった。僅かに見上げる其処には、質素な耳飾りと短い金の髪、白い首筋が流れていた。 図星を突かれ御ヘソを曲げられましたか、と短く浅い呼吸の間に紡がれた女の言葉は、確信に満ちた物だった。「“何も知らないくせに”と言うつもりは無い。君にも信念があった上での言動だろう。だが、もう少し利口になるべきだ。世の中には人の尊厳を意にも介さず踏みにじる輩が大勢居る。君が侮蔑をもって睨み上げている男もそんなクズの1人だ」「侮蔑などと感じるから、蒼月様はそうなるのです」 あくまで譲らないその女に私は自傷的な笑みを浮かべ解放した。その女は逃げもせず其処に立っていた。振り向き、右肩を左手で抱きかかえ、碧い眼で静かに見下ろしていた。「まったく不思議だよ、こうして縁のある女性は気性が荒い人ばかりだ。物静かな人も段々と気が強くなる」「当然です」「何故?」「貴方がそのような有様ですから、女はそうせざるを得ないのです」 時計の長針が二つ回る頃、憎しみも無く怒りも無く愛情も無く、ただ憐憫を湛えるそのひとは身繕いすると部屋を出て行った。----- デュノア社 ランス・シャンパーニュ研究所 第3ハンガー。デュノアが言うには3階建て住宅ほどの高さで、緑色の床に白い壁。壁にはスチールラックが並び、工具やら部材やら、部品が所狭しと押し込まれているそうだ。 行き交うスタッフの影。耳を澄ませば空調の音、測定機器の音、地下深くから響くのはエネルギーが生み出される音である。 その分厚いコンクリート製の構造物の中心に、愛機は厳かに佇んでいた。その身体が引き摺るケーブルの数々、測定器やエネルギー供給端子と繋がるそれらは猛獣をつなぎ止める鎖、微かに響くジェネレーターの音は有象無象を押し拉がんとする胎動か。「ジャンさん。俺はこう思うんですよ。フランスの人は“愛”とか“女神”とかって言葉に躊躇いが無い、滅多に使わないから重みがあると思うんです」 私は一週間ぶりのISスーツに懐かしさよりも新鮮さを感じていた。タラップを登る足も何処か軽い。「心の形を素直に躊躇いなく表現する事は重要で素晴らしい事だと思うよ。思いを秘めるのも程ほどにするべきさ」 彼も嬉しいのか、言葉尻に笑みを交えている。一方、私の手を引くデュノアは不機嫌そうだ。「あのね2人とも真面目にやってよ。というか真はとてもあっさりしてない?」「なにが?」「何がって、あんなに楽しみにしてたみやの装着試験だよ? それに何か嬉しそうだし」「もちろん嬉しいさ」「そういう意味じゃないんだけどな……あ、そこ危ないからもう少し奥に手を置いて、そうそこ」 足を掛け、みやの中に身を滑らせた。手と足、心臓と心。みやと繋がり世界に光が戻る。見渡せば見慣れた工場の風景。デュノアはボートネックの黒い長袖シャツに折り目の付いた白のショートパンツ。ジャンさんは前と同じ白い白衣だった。他にはツナギ姿の女性スタッフがちらほら見える。 見下ろした其処には艤装を済ませたばかりのみやの手足が見えた。至る所にシールが張られ色は無く、下地処理のみが施された装甲は肌色の様なクリームカラー。 機体情報には、・機体名:未定・型式番号:DRR-E-MIYA-01A と書かれていた。 彼の粋な計らいに礼を述べ、右腕を振り起こし指をカチャカチャと動かしてみる。どうかねと聞いたので、少し鈍いですねと答えた。「これでもゲインは随分高くしているのだけどね」ジャンさんは端末に向かう女性スタッフと話し始めた。その内容が高度で理解できない、そう僅かな失意に明け暮れているとフランス語だからと気がついた。思わず左手で頭を掻く。しばらくの間ぼぅっと話し声を聞いていると、デュノアには察しが付いた様である。「駆動系デバイス間の通信位相にズレは無い?」 正解であった。通信速度設定にミスが合ったようである。女性スタッフが慌てて叩くキーの音。私は「凄いな」と素直に感嘆の声を上げる。以前同じ事をして悩んだ事があったらしい。解いてみれば些細な事だった、と言う事だろう。ただ解くのが大変なのである。「リヴァイヴなら任せて」 ぽりぽりと頬を掻くデュノアは恥ずかしそうにも誇らしげだ。「流石ベテラン」「もぅっ、真は直ぐ意地の悪い事言う」 今度は両手を腰に当てて、怒り始めた。「素直に褒めたんだけど……」 女の子はやはり難しい。 何時もこうなんですよとデュノアは女性スタッフに愚痴を零している。ジャンさんもあきれ顔だ。「ご苦労様、今日はここまでにしよう。明日から本格的な試験を開始するから試験要項を読んでおいてくれ。後でデータを送るよ」「はい」 午後7時を過ぎだとみやが言う。暗闇の中手探りでみやから抜け出れば、直ぐ行くからじっとしててとデュノアがタラップを駆け上がる。不意にジャンさんはこう聞いた。「みやのカラーだがどうする? 希望があれば聞こう」 とっさに口が漏らしたその色に、あぁなる程と後で納得した。----- 揺れる車内の中で前方、背後に上空、右左、意識を走らせるが気配が無い。後部座席から見るフランスの夜空には今晩も只星々が輝いていた。 研究所からの帰り道、“オートルート・ド・レスト”高速道路A4号をひた走るのはSUV。向かう先は西のパリ方面、デュノア邸である。稀に対向車が走る程度の、とても静かな夜だった。 私は車内の暗がりに浮かび上がる、助手席のデュノアに話し掛けた。「何か変わった事無いか?」「不審的な事?」「そう」「無いかな、静かなものだよ」 私がフランスに来ている事も改修している事も連中は知っているはずだ。私がISを持たないこの機会を逃すはずが無い、そう踏んでいたのだが静かな物である。 考えすぎではありませんか、とハンドルを握るのはエマさんだ。何時ものメイド服では無く、紳士服風のテーラードスーツ姿であった。考えてみれば屋敷外でのメイド服は仮装になる。「そうだよ。折角の3週間なんだから、真はそう言う事から一度離れるべき。対抗戦に襲撃事件、この一ヶ月で立て続けだったんだよね?」「お陰で学年別トーナメントどころか、臨海学校もパァだけどな。帰ったら一学期がもう終わってる」 デュノアの諭すような物言いに僅かばかりの苛立ちを感じて、思わず口調を強めた。「聞き分けの無い子は僕、嫌いだよ」「聞き分けてます」「分けてないね」「分かってる」「なら、その左脇からぶら下げている物なんなのさ」 助手席のデュノアは眼を細めて睨んでいる。バツが悪く窓の空を見た。だして、突き出された手の平は2回揺れた。深い息を吐いて、ジャケットの下から渋々手渡した。それは鋼で出来たハンドガン。言い訳がましいと思いつつ、護身用だと伯爵に許可を得ていると断った。もちろんデュノアは顔色一つ変えない、怒り顔のままだ。「こんな事だろうと思った、お父様もお父様だよ。しかもベレッタM92FS? 護身用にしては大袈裟すぎじゃ無い?」「ポリマー・フレームなんて怖くて使えません。あんな複雑な分子構造体は不安です」「そう言う意味じゃ無いよ、エマもどうして黙認してるの? 話したよね? 僕」「蒼月様は銃を持つと精神的に落ち着かれるようです」「……ここは“お答えしかねます”じゃないんですね」 デュノアは一睨みの後、深い溜息をついてグリップを差し出した。懐に納める私に彼女は言う。その瞳は躊躇いの色で揺らいでいた。「……パイソンは?」「置いてきた」「どうしてさ、大事にしてたんだよね?」「デュノア、俺がここに立っているのは偶然なんだ。俺はあの日、本当なら死んでた。生きてるのはあのパイロットの気まぐれ。あの銃はとても重い。次しくじる訳には行かない。だからもう使わない」 彼女はそれ以上何も言わなかった。推奨BGM「対象a」ひぐらしの鳴く頃に解より-------------------------------------------------------------------------------- 窓硝子越しの夜景はただ暗かった。遠くに見える人の灯火は小さく、少なく、星空と混ざり合っていた。タイヤが伝える大地の感触が無ければ、ただ暗い海の上を走っている、そう錯覚してしまいそうな程だった。 ただ静かだった。考えてみればデュノアも、臨時ではあるがエマさんもISを所持している。2機同時相手にするのは手間だろう。今日の夜はもう来ない、対向車が爆発したのはそう思っていた時だった。 タイヤが悲鳴を上げ、車体が流れる。窓に入り込む焼かれる光。窓硝子越しによぎったのは影。それは人の影。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、揺らぐたくさんの眼は私を覗く。彼らは叫ぶ。 なぜ生きている。 彼らは死んでいた。 少女の叫び声に私はただ頷いた。少女と女の鎧が力を顕わした。暗い世界、死者の呼ぶ声とふたつの命の灯火。暗い世界、紡がれた白い糸が2本流れていた。気づいたときには、絡み合っていた。「エマは真の側に居て」 銃を持ち空で警戒するリヴァイヴIIにもう一機のリヴァイヴが左手をかざした。「シャルロット様」「エマは真の側に居てってば!」「こう言う事です」 炸薬の爆発する音、それは私がエマと呼んだ女の杭だった。シールド・ピアース。リヴィアヴIIは完全に予期していなかっただろう、17.5mmの杭をこめかみに喰らったその少女は悲鳴を上げる事無く、僅かな沈黙のあと、糸が切れた操り人形のように地面に落ちた。 危ないと声を出す暇も無かった。 何かがすり切れる音。頭の中に不協和音が鳴り響く。気がついたら、運転していた自動車から飛び出し、その少女にすがりついた。右手は橙の機体の白い肩に添えていた。 小さいうめき声が聞こえる、少女のそれはまだ切れていなかった。 背後の気配に左手の銃を向けた。撃ち出した15発の弾丸は女の眉間に達する事無く不可視の盾に防がれた。 銃を振り弾かれ、その女の鋼の右手で首を掴まれた。俺の首を捻り閉めるその女は昨夜と同じ色で見下ろしていた。「ISを倒せるのはISだけ、そうですね? 蒼月様」 俺は答えず、何時からデュノアを裏切っていたと聞いた。「始めからです、エマニュエル・ブルワゴンは始めからそうでした。おさらばです。蒼月様。貴方は来るべきではなかった、ISに乗るべきではなかった」 立て。 顔を上げて、その眼で見よ。 撃つべきものは心の音を拍つ。 構えよ。 撃鉄を起こせ。 引き金を引け。 ただそれだけが、 魂を喰らい、 血肉を浴び、 憎しみと恐怖にまみれた、 愚かなお前に ただ一つ許された 最後の痛み 生と死の糸がもつれた。リヴァイヴIIのアサルトカノン“ガルム”が女の眉間を捕えた。女の鎧は力を失い不可視の盾が消え失せる。右手で操ったのは橙の鎧、左手で止めたのは緑の鎧。 引き金を引いた。 眼前で吹き荒れるのは61口径の衝撃波と、砕かれ、ひしゃげ、全てを焼き尽くさんとする圏谷(たに)の業火。刹那、リヴァイヴIIがかざした盾の影に潜み、その女の断末魔を聞いた。 焼かれ破片となった鋼と肉は、盾の外にあった左腕の皮を裂き、肉を焼き、骨を砕いた。欠けた左手の絶叫が怒濤となって押し寄せる。音と味と臭いが壊れた歯車の様に反転する。血の流れが逆流し、目と耳と鼻から血が吹き出した。リヴァイヴIIの力場の中、まだ意識があった。 俺は、銃を構えた。 銃口の先にはあの面甲の少女が弾むように立っていた。無手のまま、後ろ組手で俺を覗き込んでいた。「なるほど、なるほど、なるほど。稼働中のISを外部操作するなんて聞いた事無い、ねぇ君は誰?」「どうでも良いだろ、そんな事」「確かにそうね、どうでも良い。さ、一緒に行こう。迎えに来たの」「折角だけれどお引き取り頂こうか、俺は気立ての良い娘が好みでね」「嘘ばっかり」「嘘じゃ無いさ」「嘘、君の相手は全てを捨てた女じゃ無いと勤まらない。君が今殺した女みたいに。どうだった? 昨日抱いた女を有無言わず、跡形無く殺した感想は?」「……やめろ」「止めない、私たちにとって大切な事だもの。実は私、再会してびっくりしたんだ。また深くなってるねその眼。本当に凄い、全く底が見えない。ねぇ君、何か捨てたよね? 小さいけれど大きな何か。どうだった? 何もかもが軽くなったよね? それが本来の君、だから一緒に行こう。助けてあげる。元に戻して上げる」「やめろ。勝手に私たちなどと言うな」「止めない、私は君が気に入ったの。知ってた? 私はMって言うの。君もMだよね? 君と私は同じ。ねぇ、幾つ人の尊厳を踏みにじった? どれだけ死体を積み上げた? 何人殺した? ほら、同じだよね」「止めろと言っている! 今撃つ事も出来るんだぞ!」「できないよ」「できるさ! 今更躊躇うとでも?!」 その少女は、額に手を伸ばした。顔に影が流れた。 白銀の面甲を下ろした其処には、肩に掛る程度に長い黒髪の、破れ慣れ果てた白いワンピース姿の、血だらけの、あの対抗戦で見た少女がそこに居た。 恐怖で声が出なかった。世界から現実感が消える、その少女以外何も見えなくなった、捕えられた。堅い物が小刻みになる音、それは俺の顎が打ち鳴らす音。躯から力が抜け、崩れ落ちた。 見上げる其処に月は無く、暗がりの中、血の臭いを滴らせた少女が笑っていた。「大丈夫、怖いのは今だけ。私も君と一緒だった。怖いけれど背けない、苦しいけれど捨てられない。辛いよね? 苦しいよね? だから、ほんの少し勇気を出して一切合切、全部捨てて一つの事だけに生きるの、それは素晴らしい事。だから行こう。私が君の側に居る、君を守って上げる」 大地を失い落下する感覚の中、躯に膨れ上がるは、全てを捨てる甘美な衝動。目の前にその手があった、だから―「それは困るな」 耳元から聞こえた金髪の少女の声に、朗らかに笑っていた黒髪の少女は一転憎悪と憤怒を向けた。 首をもたげたガルムが咆吼を挙げる。撃ち出されたその弾頭は当たる事無く、神速の黒髪を数本掠めただけだった。「貴様! 私たちを邪魔をする気か!」 面甲を纏い、星空を舞う黒髪の少女が戦闘態勢を取る。「真と同じなら僕が先! 正しく泥棒猫の所業だよ!」 金色の少女に抱かれ夜空に舞い上がる。直前まで居た空間に光弾が撃ち込まれ爆発、炎上した。「それを渡せ!」「ウチの子になにするのさっ!」 サイレント・ゼルフィス、子機6つを高速展開。主兵装を構えた。 ラファール・リヴァイヴII、兵装展開。両肩に2つ、背中に2つ、両脚に2つ、計6のハード・ポイントにレール・ランチャーを量子展開、0.2秒。 それぞれにAIM-9X(短距離空対空ミサイル)を両肩に4、背中に8、両脚に6発を量子展開すること0.3秒。計18発を斉射。星空に弧を描き追従開始。 どの姿勢からでも撃てるALASCA(全方位交戦能力:All-Aspect Capability)仕様のミサイルが、高速機動するサイレント・ゼルフィスに音速の2.5倍で迫る。 Mは子機と偏光制御射撃を駆使し全弾撃墜、リヴァイヴIIにに向き直ると、その目前に再び18発のミサイルが迫っていた。堪らず距離を取る。量子展開により絶えず装填され発射、星空を切り裂くミサイルは徐々に増えていった。 全量子格納領域を使用したミサイル攻撃。なにより恐ろしいのは、システムの補助を入れているとは言え、戦域離脱をしながら全ミサイルの中間管制誘導を全て手動でやっている事だった。ミサイル群は少女の放つ意識の線に従い星空を駆ける。 リヴァイヴIIからもたらされるFCSの情報によるとサイレント・ゼルフィスには50以上のマーカーが重なっていた。 これが情報処理能力に優れるシャルロット・デュノアと言う少女の切り札だった。恐らく量子展開機構にも手を加えているのだろう。 指定座標で全ミサイルが爆発、巨大な火の玉を生み出した。その炎の中で黒髪の少女は姿を消した。 静けさを取り戻したフランスの夏の空気が冷たい。寒い。脳裏に焼き付いたのは、砲弾が顔面に食込み無残に砕き殺された女の最後。 息も乱れない。脈も変わらない。瞳孔も閉まらない。口も渇かない。身体も震えない。目眩も起こらない。汗一つかかない。 人を一人殺してなにも感じなかった。俺は銃に慣れていた。銃とは何だ。決まっている、人を殺す凶器だ。 俺は人を殺す事に慣れていた。 よう、一夏。 そっちはどうだ。 俺はこんなザマだった。 お前ならどう出来た? きっとお前なら殺さずにできたんだろうな。 俺は、 俺は、 俺は、お前になれなかったよ。 必死に呼びかける少女の腕の中で気を失った。--------------------------------------------------------------------------------ここで問題ですっ!新みやのカラーは何でしょうかっ!?正解の方には何も出ませんっ!……今回書いていて思いました。虚淵玄さんは雁夜おじさんに悪意は全くなかったと思うんです。設定や話の展開に縛られてああせざるを得なかったと思う次第です。ただ、悪のりはしたと思います。絶対。2012/09/26