最終話 新しい家族(On Your Mark)--------------------------------------------------------------------------------一夏と真の戦闘終了後、太平洋のあちらこちらに艦艇が向かっていった。衛星軌道より落下した討伐大隊の兵を救助する為である。その規模は大きく、アメリカ軍、ロシア軍、中国軍、オーストラリア軍、日本自衛隊はもとより東南アジアの軍隊も救助に向かった。各国が利害なしに協力した数少ない事例であった。幸いなことに戦死者は居なかった。ISの致命領域対応の加護である。オータムは試作機故の、過剰に安全マージンを取った作りの為かすり傷程度で済んだ。“何が神だ! アーメンハレルヤピーナッツバターだ! Fuck,Fuck!!”と、溜まりに溜まった鬱憤を手当たり次第にぶつけていた。デュノアコーポレーションの技術主任、ジャン・ビンセントがその的にされたのは言うまでも無い。一夏と真の救助には海上保安庁の艦艇が向かった。“織斑一夏、蒼月真ともにかすり傷なし。戦闘の規模から考えると不可思議な現象だ”と医師は記録を残している。待ち構えていた日本政府の高官が一夏と真の事情聴取に当たった。フランスでの出来事はさておき、赤騎士に関してのみ行われた。赤騎士戦は地上から観測された詳細なデータがある、それと差異が無いと分かった高官は、とりあえずと二人を解放した。貴重な三次移行(白式)と二次移行(みや)を経た機体である。下手に追求し海外に移籍されるのは国家的損失というわけだ。二人が学園に戻り一夜が経った。国に帰ったセシリアを除き、ラウラが戻り、鈴が戻り、一夏と真も戻った。海外籍の生徒はまだ帰国していないが時間の問題だ。そう前向きな少女たち、お帰りなさい会を開いた。賑やかな柊の食堂。清香が音頭をとる。「一夏たちの帰国と他のみんなの帰国も期待して!」「「「かんぱーい!」」」パパパンとクラッカーが鳴る。「「おー」」一夏と真はふぬけまくっていた。二人には“真の体”の事と“フランス暗殺事件”という難問が残っていたからである。赤騎士事件の脅威が去り、早々に先進各国が追求してきた。日本政府と学園がその対応に当たっているが、旗色はよくない。真にすれば成り行きに任せるしか無かった。敵対勢力を暗殺しようものなら国際的に一層厳しくなるのは明白だ。根明の清香が、オレンジジュースの入った紙コップを持ちながら一夏と真に言う。もちろん一般的には知られていないし大半の学園生徒もそんなことは知らなかった。知る必要は無いのである。「ちょっとー。主賓の二人がそんなんで困るー」「「おー」」「学園の明日は俺たちが守る! ぐらい言ってよねー」「「まもるー」」「だめだこりゃ」会が終わると夜も更けていた。疲労でラウラは先に寝ている。真が職員用マンションに帰ると、潜んでいた束に気絶させられた。スタンガンの様な物であった。翌朝。目が覚めると、真は妙な感触に襲われた。柔らかくて暖かくて、ただよう香の匂い。この感触は間違いない、裸の女だ。だが覚えの無い香り。ゆっくり目を開けると束が居た。何のつもりだこいつ……と真はゆっくりベッドから起き上がった。となりのベッドにはラウラが寝ている。ラウラを起こさないよう細心の注意を払う。どうにも体のバランスがとれない、それを不思議に思いながら、真は束にこう言った。「おい、起きろ。篠ノ之束」「ふにゅー」「なにが“ふにゅー”だ。年を考えろ24歳」「真に年を言われたくないね、37歳」真が部屋につり下げたカレンダーを見ると、千冬、ディアナが決めた誕生日、12月25日はとうに過ぎていた。もうじき年越しである。「誰に聞いた。年齢とか誕生日とか」「アレテー」余計なことをと、舌を打つ真であった。「そんなことはどうでも良い。男の寝床に忍び込むなんてはしたないぞ、大天才」「おや。お気に召さなかったかな? 結構自身あるんだけれど」と、胸を寄せてあげる。思わず唾を飲む。「そういうことじゃ無い。何の脈絡も無いのは困るんだよ。男にも都合がある」「そうかい? こっちは元気そうだけれど」「これは朝だからだ!」思わずシーツをたぐり寄せる真だった。「この状況の説明を求めます父上」ラウラが起きていた。騒げば当然の結果だった。ラウラはパジャマを着てベッドの上に四つん這いになっている。威嚇と不信の表情だったが、寝起きで鋭さも半減していた。「勘違いするなラウラ。俺も知りたいんだよ。朝起きたらこの女が居たんだ」「まさか私が隣で寝ているというのに行為に至るとは。知りませんでしたそのような特殊な趣味をお持ちとは」束が悪戯めいた瞳でもたれ掛かり、抱きついてくる。真は必死に押しのけようとした。うまく押しのけられない。なぜだ、左腕が効かない、と真は押し倒された。「待てラウラ。落ち着けラウラ。とにかく話を聞いてくれ」ドドドと廊下を走る音がする。それは複数で走る荷馬車の様な音であった。脂汗を流しながら真はラウラを見る。「レーゲンを介して教官たちに通告しました」「さすが素早い対応だなー」ババンとけたたましい音を立てて扉が開いた。鍵を壊す程の勢いで、ジャージ姿の千冬とYシャツ一枚のディアナが立っていた。言うまでも無く鍵を壊したのは千冬だ。二人ともすっぴんで、髪の毛も乱れている。裸で抱き合う束と真。ベッドの上。どう見ても釈明不可能である。「もしやと思ったが、そういうことか」千冬である。「次から次へと、節操が無いわね真」ディアナである「……話を聞いてくれるか?」「「却下」」「だよね」千冬は往復びんた。ディアナは糸で真をふん縛る。芋虫の様に床を這いつくばる真を踏んで、ディアナがこう束に言った。「篠ノ之束、これはどういう心変わり? 男を漁るなんて趣味、なかったわよね?」「おや? 人は変わるんだよ。そんなことも知らないのかい?」「その変わった理由を聞いてるのよ」束は立ち上がると、ディアナをにらみつけた。鼻先が触れかねない程で二人はにらみ合っている。「真には世話になったからね、その恩返し」「体で払うっての? ずいぶんと俗っぽくなったわ」「失敬だね。そもそも男関係であんたに言われたくないよ、この愛欲の女神。それとも淫靡のヴィーナスって呼ぼうかい?」三文紙の見出しを飾った低俗な、言われ無き二つ名である。真がそんなこともあったのか、という目でディアナを気の毒そうに見る。彼女はこめかみをひくつかせてこう言った。「言ったわね、このビア樽女」「その大きさじゃ、真も不憫だね」「挟めれば良いのよ、束のなんて無駄に大きいだけだわ」バチバチと火花が散る。なんか話がずれてきたぞ、と真が割って入ろうか思案していた時である。千冬が真を見て「左腕が無い」と呟いた。「「あ」」ラウラとディアナも気がついた。真は立ち上がり急ぎ鏡を見る。確かに無い、左腕が無い。左頬の傷も首元の傷も元通り、跡が残っている。一体どうやって、と言う表情で真は束を見た。束がこう言った。「ナノマシンたちを説得したのさ」「説得?」ナノマシンの存在理由は自己保存、自己複製。それが極まり不死に至った。だがもう一つ方法がある。それは遺伝だ。子が孫が、ナノマシンを継げば安定して存在が保存される。束が胸を張って言う。「代を重ねる毎にナノマシンの活動も大人しくなっていくだろ。子孫が大勢存在すれば良いんだからね。これで体も元通りって訳さ」真は信じられない、とこう言った。「それはありか」「何を言っているんだい、ミトコンドリアも同じような物じゃ無いか。これで皆と同じ時間を生きられるよ」真は力が抜けて、絨毯に座り込んだ。あははと笑いながら泣く。しんみりする女性陣。束は真に抱きつき、首に腕を回し艶っぽい笑みでこう言った。「さ、真。理解できたらさっそく子作りしようか」「待て。どうしてそうなる」「ナノマシンたちを説得した手前もあるし、一人も飽きたし、真には借りもあるし、私もいい年だしね。良い頃合いだよ」びぃぃんと糸がなった。ディアナであった。「そんなの認めないわ、そこに直りなさい、篠ノ之束。解釈してあげる」「あっれー、真を治してあげたの何処の誰?」「いい? 泣き虫で、意地っ張りで、身勝手で、そんな手間のかかる真の面倒をずっと見てきたのはこの私! 後からしゃしゃりでてこないでくれる!?」「まだフランス事件の後始末が残ってるね? そのためにも私は居た方が良いと思うけれど?」「……」ぐぬぬと悔しさを隠さないディアナだった。千冬は友が戻ったと笑っていた。いい年をして騒ぐ3人娘をみてラウラは、「やれやれ」といった。◆◆◆あれから2ヶ月がたった。もう少ししたら二年生になる、そんな春先の少し暖かい日だ。難問だった二つの大問題も片が付いた。真の体は元に戻ったし、フランス事件は束さんがたくさんのコアをちらつかせて事なきを得た。「えぐえぐ」束さんは学園の技術主任という肩書きで住み込むことになった。俺らをはじめとした戦力と大天才の技術力でIS学園は盤石だ。先進各国も敵対するより協調した方が良いと思ったらしくこれから沢山の生徒を送り込むらしい。再来年から整備課は倍増だ。予算も倍増。“国って手のひら返すの早いんですね”と何気なく呟いたらリーブス先生が“国は大なり小なりあくどい事をやっているから後ろめたいのでしょう”と身もふたもない事を言う。「えぐえぐ」世の中は相変わらずだ。赤騎士の精神攻撃で一時はキリスト教徒が爆発的に増えたけれど、あっという間に落ち着いた。千冬ねえ曰く“罰で人を動かしても持ちはしない”って。諸手を挙げて同意した。可愛い弟への罰もやめてほしいって言ったら、弟は別勘定だと殴られた。横暴である、まったくもって横暴である。大事な事だから二回言った。「えぐえぐ」赤騎士は束さんがこっそり回収した。今頃月基地で長い眠りに入っている。赤騎士は指示に従おうとしただけだ、悪い事をしたと束さんは何度も謝っていた。凍結処理には真も立ち会った。済まないと真も詫びたらしい。「えぐえぐ」マドねえは、観察付きで学園生徒になった。来月から一年生だ。今ではずいぶん落ち着いていて普通に話せる。ぎこちないけれど真とは普通に挨拶を交わす仲だ。いつか皆で一緒に遊びに行ければ良いと思う。「えぐえぐ」教頭先生が今度辞職する。力尽くでフランス事件をもみ消したのだけれど、形式上でも学園が身を切る必要があったからだ。“新しい風が必要だ”と教頭先生はそう言って、いま引き継ぎをしている。新しい教頭先生はリーブス先生だ。他の先生たちは真っ青な顔をしていたのが少しおかしい。千冬ねえは大丈夫だと言っていたけれど“真耶、お茶”、“はい教頭先生”というやりとりを見るにあたり不安でならない。「えぐえぐ」ラウラも戻ったし、鈴も戻った。他の海外組の仲間も戻った。残念ながらシャルはフランスに戻った。大きな声で話せないけれど、シャルは俺の子供を身ごもっている。復学は無理だと千冬ねえに殴られた。シャルのお父さんには殴られなかったけれど、自分で稼ぐまで門はくぐらせないと言われた。全身全霊を持って大人になろうと決意奮起するしだいである。「えぐえぐ」セシリアはこのあいだ結婚した。オルコット家の血を絶やさないためだ。続いたトラブルに女王陛下が不安になって結婚と相成った。政略結婚という奴である。相手は貴族の偉い人らしい。招待状が送られてきて俺も旦那に会ったけれど良いやつだと俺は感じた。責任感と実力と、人の上に立つにふさわしい人物だ。そいつは真との事も知っていて、それを知った上でセシリアを受け入れた。真もそれを感じ取ったらしく、がっしりと握手していた。俺は“式に行くのやめれば?”と行ったのだが。“けじめだ”といって真は聞かなかった。式の帰り、立ち寄った酒場で真はえぐえぐ泣いていた。まあそうだろうなと思った。二日目まだ泣いていた、予想通りと思った。三日目、そろそろ止むかなと思った。四日目、五日目、六日目。まったくけじめが付いてない。「えぐえぐ」「おい、この阿呆。いつまでえぐえぐやってんだ」「えぐえぐ」本日をもって一週間目である。桜もそろそろ咲こうかという、小春日和。もうすぐ先輩だと皆が話し合っている。いつもの柊の四人がけテーブル。相も変わらず真は湿っぽい。はっきり言おう。うぜぇ。俺は制服を新調した。前のがもう着られないからだ。背もだいぶん伸びた。真も同様だ。少しずつ大人になっている。なのに。「おまえ、ほんとーに成長しないんだな」ぴくりと真の体が振れた。「分かってんのかお前。来月には蘭たち新入生が入ってくんだぜ。そんなんで教師がつとまるのかよ」「切り替えはしてる……えぐえぐ」これで仕事中は真顔に戻るから、まあたいした物だと思う。「そんなに引っ張るならどうして追いかけなかったんだよ」「俺にも彼女にもすべき事がある。残念だけどその道は違う。彼女の幸せを願うさ。えぐえぐ」涙と鼻水垂らしながら言っても全然格好付かない。真の立場はちょっと微妙だ。オルコット家付きの騎士。でもIS学園所属。さらに外国人。セシリアのスターライトMk3もそのまま拝領した。少しも揉めたそうだけれど、女王陛下が取りなしたらしい。“やっちゃった物はしかたないじゃない”おお。話分かるぜ女王陛下。「そう思うなら、しゃきっとしろよ。しゃきっと」「ふん。ハーレム築いてる一夏には分からんさ。静寐とか鈴とか、たくさん囲みやがって」このやろう、人が下手に出てればいい気になりやがって。でもこらえる。俺も大人になったからだ。「女友達から始めれば良いんだよ。落ち着いて周りを見ろ、心配してくれる人はたくさん居るぜ?」「たくさん?」「おう。たくさん」千冬ねえとかリーブス先生とか、生徒会長とか。ほら離れたテーブルに箒が座っている。そわそわと、せわしない。きっとあれだ“お前には私が付いてるぞ”とか言う気だ。おぉ、いちゃラブの予感。「むりだもん。セシリア以上の人なんて居ないもん」「箒だ。箒とつきあえ」「馬鹿だなー。鳶に油揚げみたいな真似、彼女がするか」うっわー。こいつ言い切りやがった。しかも聞こえる位の声で。ほらみろ、箒がそわそわからぷるぷるし出した。惨劇の予感。「なら誰なら良い」「おれ教師だもん。生徒は無理だもん。千冬たちはとは年の差があるし」何かと理由をつけやがって。俺は立ち上がると、こいつの襟首つかんで引きづった。ずるずると音がする。「おい一夏。どこへ行くつもりだ」「ナンパだよナンパ。湘南行くぞ」「俺はそんなに切り替え早くない」「だまれ。お前みたいな奴にはガールフレンドが必要だ。さっさと次を見つけろ」「本心は?」「しけた面つきあわされる俺の身にもなりやがれ」ずるずると柊を出る。しばらく呆けていた真はこう言った。「まあ外の空気を吸うのも悪くないか」「湘南のあの茶髪の子、フリーだと良いな」「俺は黒髪の子が良い」「だめだ。お前に繊細な子は無理。豪快か天然どっちか」あれ? なら千冬ねえはだめだな。と思ったとき、頭を殴られた。見知った威力で、慣れた角度で。45度みたいな。問題なのは目の前が真っ暗だと言う事だ。おぉ、頭が地面に埋まっている。ずぽっと頭を抜いた。「千冬ねえ! 何するんだよ!」と見れば千冬ねえは両手を組んでバキボキとならし、腰を抜かした真を見下ろしていた。「真。一つおもしろい事を教えてやろう」「いえ。結構です」「私とて男性に惹かれる事もあった。思春期に恋い焦がれた事もあった。だがその都度誰かさんが頭の中に現れて罪悪感を植え付けた。おかげで今まで恋愛経験なしだ。どうだ面白いだろう。女の生涯台無しにしてくれて、外の空気を吸う? おもしろい事を言う」「マジ済みませんでした」両足そろえて、頭をつけて。おぉ、真。見事な土下座だぜ。「残りの生涯を苦行に捧げる覚悟でございます。ですから……」「ほう」「失礼しました!」真は逃げ出した。「逃さん」捕まった。「顔を貸せ」と襟首捕まれてずるずると引きずられていった。ばかだなー、真。千冬ねえから逃げられるわけ無いじゃん。「た、す、け、て、く、れ、い、ち、かー!」ドラえもんかよ。「一夏。ちょっといい?」おぉ。マイハニー静寐登場。いつ見ても可愛いぜ、とか言ってみたい。そのうち言う。「織斑先生と真ってどういう関係? この間呼び捨てにしてたし」うぅーむ。疑問に思うのはもっともだ。だけれど言えないし、言ったところで信じてもらえないかもしれないし。唸っていたら、清香がこう言った。「これは怪しい。スクープの予感」おいおい。「皆の者続けぃ!」「「「おー」」」どやどやと後を追う女の子たち。おもしろそうだからと俺も付いていった。◆◆◆千冬ねえが向かった先は、学園本棟の職員室だ。生徒としてはあまり行きたくない場所である。千冬ねえは扉をがらっと開けて、最奥に向かっていった。そこには引き継ぎ作業をしている、教頭先生とリーブス先生が居た。騒ぎに教頭先生が怖い顔をする。「これは何の騒ぎですか織斑先生」「教頭先生、是非お話ししたい事があります」「話?」千冬ねえは真の首根っこつかんで、教頭先生に突き出した。「私の夫です」「「「え」」」猫の様な顔をする真。そのうちジタバタと両手両足を動かし始めた。千冬ねえが言う。「年齢は達していませんが、確定事項です」真が慌ててこう言った。「教頭先生、これは誤解です。不幸な意見の相違です。嘘ではありませんが本当でもありません。しかるにこの場合本当ではない、とするべき所存と考えるに至ると考え、」千冬ねえは鼻先が触れんばかりに顔を近づけてこう言った。「真、私は嘘を言っているか?」「……言っていません」あ、観念した。側に立つ真耶先生の様子を伺いちらっと見る。真耶先生はあははと愛想笑いをした。「前々から変だとは思ってたんですよ。織斑先生は蒼月先生にだけ優しいところがありましたし」教頭先生は目頭を押さえていた。「調査して他に該当者が居なかった、その結果を見てまさかと思いましたが」「「「えー!!」」」驚き桃の木、なんとやら。大合唱の女の子たち。「うそ! うそうそうそ!」「まじでまじでー」「千冬様と真がぁ? しんじらんなーい!」……いっか、まあいいか。今更変な奴連れてこられても困るし、一発殴って勘弁してやろう。弟として。がっくりと脱力する真、恐れ入ったかと何故か鼻息荒い千冬ねえ。リーブス先生が颯爽と真に抱きついてこう言った。「教頭先生、私たち恋仲です。結婚前提の」「「「えーーーーーー!!!!」」」訂正。三発殴る。火花を散らすリーブス先生と千冬ねえ。「どういうつもりだディアナ」「一人だけ幸せになろうなんて許さないわよ」うふふ、おほほ。「教頭せんせー。私も私も」生徒会長も乱入である。先生たちは固まっていた。無理も無い。真は逃げる様に床を張っていった。みっともねえ。「真」箒登場。SATUGAIタイムである。採光の欠いた瞳で真を見下ろしている。「真、一緒に死んでくれ」「はい?」一閃、真はかろうじて避ける。ヒュンヒュンと箒は打って真は避ける。「ちょ、箒! それ真剣だろ! しゃれになってない!」「真、血を大地に蒔いて共に地に帰るのだ!」目が逝ってる。「わー! 箒が壊れたー!」追いつ追われつ、まさに修羅場。うぅむ、これはおもしろい。俺が笑っていると、背中をつつかれた。振り向けば愛しの女の子たち。ざっとモーゼにように分かれると、その奥にシャルが立っていた。あれ? いつ来日したんだ? ひとこと言ってくれば迎えに行ったのに。「皆さん始めまして。シャルロット・ディマです。双子の兄、シャルル・ディマがお世話になりました」シャル、それは無理が無いか。「へー、双子なんだ」「そっくりだねー」「ふーん」ほら、信じてないし。「ねえ一夏」とは静寐。「これ、ナニ?」は鈴で。「……」簪だ。ナニって? シャルは少し膨らんだおなかをさすりながら。「ご挨拶なさい。パパですよー」俺は逃げ出した。「いぃぃぃいちか! 妊娠させるなんて! 聞いてない!」「孕ますなんてどういうことよ、コラァ!」「死んで死んで死んで」静寐、鈴、簪の順である。俺はとにかく逃げた。皿とかシャープペンシルとか、はさみが飛んできた。危ない、でもまだかわい気がある。鈴と簪なんかIS展開して襲ってくるもんな……洒落になってねぇ!「「「まてー!!!!」」」アリーナ、運動場、体育館。森のなか林のなか、学園中を駆け抜け、回り回って真と合流。真が走りながら言う。「何だ一夏! お前もか!」「人の事言えんのかよ!」ぴょんと水飲み場をユニゾンで飛び越えた。学習棟の屋上に束さんが手を振っている。ラウラと本音もいた。メンタル・モデルのみやも居た。あれ? あの銀髪の女の人は誰だ? ……まさか白式? とかよそ見をしていたら、龍砲(衝撃波)が飛んでくる。春雷(荷電粒子)が飛んでくる。命からがら逃げているのに真は笑っていた。「何がおかしいんだよ! この阿呆!」「帰れるところがあって、心配してくれる人が居て! 馬鹿をやれる友達が居る! これほど幸せな事があるか!」「違いねえな!」「「「まてーーー!!!!」」」真は笑って言った。俺も笑っていたと思う。「同僚は全員女!」「クラスメイトは全員女!」「逃げるぞ一夏!」「よっしゃあ!」そらに太陽と月が浮かんでいた。おしまい。◆◆◆長い、長かった。100万文字超えてますよ。処女作がずいぶんな大作となったものです。履歴を見ると初投稿が今は亡き二次ファンで2011年12月23日ですよ。イブイブに何をしているのかと(汗 Heroesはこれでいったん終わります。続きか外伝か、はたまた他の二次かオリジナルか分かりませんが、機会があればまたお付き合いのほどをお願いいたします。最後に。何はともあれ完成できたのはお付き合い頂いた皆様のおかげです。本当にありがとうございました。2014年8月19日 D1198【どうでも良いぼやき】実はこの後も話としては考えていたのですが、テンポの都合あえて載せませんでした。結末は皆様にお任せいたします。サブタイトルを見ていただければ想像は付くかと思います、ハッピーエンドで良いと思いますよ。どうしてもという方。Heroesは3次SS、全く問題ありません。お待ちしております。