06-03 IS学園攻防戦 後編台風で引き籠もりです。一気に書き上げました。--------------------------------------------------------------------------------IS学園の全域で教師たちがゴーレムⅢを相手に戦闘を行っていた。ある分隊は他の分隊と協力し、ある分隊は二手に分かれ遊撃を行う。1年1組副担任の真耶と1年2組副担任の千代実はタッグで戦っていた。2人ともリヴァイヴだ。戦果はというと1機撃破、1機行動不能、そして。「これでお仕舞いですっ!」真耶は仰向けに倒れたゴーレムⅢの胸部装甲、その隙間にリヴァイヴ用近接兵装“ブレッド・スライサー”を突き付けた。フィーン、と電車の止まる様な音を立ててゴーレムⅢが沈黙する。これで合計3機撃破。施設、人命への被害も最低限。立派な物である。敵が完全停止したことを確認すると千代実は重機関銃“デザート・フォッス”を構え直し周囲を警戒した。敵がまた現れるとは限らないからだ。千代実は周囲に目を配りながら言う。「真耶。そのとどめを刺す時に叫ぶ癖を直しなさい、と言ったのは何度目でしょうか」「もう覚えていませんね」「自覚があるなら直しなさい。だから代表候補生止まりなんです」「プレッシャーに弱くて試合直前にトイレに駆け込む千代実に言われてくありません。毎回毎回。お陰で棄権な目に遭いました」うふふ、おほほ。薄ら笑みを浮かべる2人。「援軍に回りましょう。第6分隊が苦戦しているようです」「そうですね」2人が特に強いというわけではない。他の教師たちも学園で教べんを振るう相応の腕を持っている。生徒の警護、地形、などによる作戦の難易度が異なるだけなのだ。援護に向かおうとしたその時、アレテーが“UnKnown”を発見したとアラームを鳴らした。侵入経路をみると真っ直ぐ真南から来ている。はてな、と真耶は首を傾げた。敵機ならばテレポートで直接侵入しそうなものだ。では味方か? だが味方ならば敵味方識別コードを送ってくるはず。そもそも単機というのが不可解だ、援軍にしろ敵兵力にしろ、数が少なすぎる。単機でもこの戦況に影響を与える存在。怪しいというものではない。千代実が緊張感を隠さずに言った。「真耶は織斑先生たちの援護に回ってください。私は“Unknwon”の偵察に向かいます」信じられない、と言った表情で真耶は止めた。「何を言っているんですか、単独行動は危険です。私も同行します。他の隊も優位のようですし。織斑先生たちの援護は先生たちに任せましょう」「いくらあの2人が超人じみていると言っても生身は生身。危険です。向かってください」ぬずいと、真耶は千代実に歩み寄る。「では私が向かいます。私の方が速いですし」「真耶はおっちょこちょいなので偵察には向かいません。援護に回ってください」むーと睨み合うこと3秒。真耶が溜息をつく様にこう言った。「分かりました。でも偵察だけですよ。“1人で何とかしよう”なんて思わないでくださいね」「その文句は蒼月先生に言うべきですね」「そうですね」あははと2人が行動しようとした瞬間だ「貴様らごときが真を語るな。不愉快だ」と鋭利な言葉を投げつけられた。真耶と千代実がその方を見ると、1機のISが宙に立っていた。それは黒色でフェイスマスクを装着していた。表情は読み取れないが2人を忌々しく見下ろしているのは間違いない。華奢なフレームで大きなウィングスラスターを4枚背負っていた。薄紅色のラインをちりばめ、その姿は蝶その物である。束がサイレント・ゼフィルスを元に作り上げたIS“黒騎士”であった。2人は驚きを隠さなかった。2人が驚いたのは不明機が存在する事でもなく、真を知っていそうなそぶりでもなく、黒騎士をレーダーに捕えて間もないにも関わらず、この機体がIS学園に立っていると言う事である。驚異的な推力、そして速力。それが事実ならば、紅椿と同等の能力を持っていると言う事になる。なにより、その強力な黒騎士が別ルートで侵入した。つまりゴーレムⅢは囮だと言う事だ。その事実に至った2人は直ぐさま戦闘態勢に入り、発砲した。その弾丸は黒騎士に届くことなく空に消えていった。エムの駆る黒騎士が驚くべき速度で2人に迫る。黒騎士の戦闘能力は恐るべきもので、2人は数合足らずで倒された。◆◆◆本音が学習棟の影からこっそりと鏡を出す。何も居ない。遠くからずしーん、や。どかーん、という耳をつんざく様な発砲音、大地を振るわす様な爆発音、つまりは戦闘している音が聞こえるだけだ。彼女が鏡を見ているのは経路確保の為である。くりあ、と小さく呟くと彼女はとたとたと柊寮に向かっていった。彼女の訪れた理由は言うまでもなく箒だ。いっそう強まる虫の知らせ。箒の力が必要なのだ、とやって来た。扉の前に立ち箒の名を呼びながらコンコンと扉を叩く。びくりと強く反応する人の気配。訪れる沈黙。「返事がない、屍のようだ」とついぼやく。埒があかないと本音は押し入った。薄暗い部屋、空気も淀んでいる。部屋の窓側のベッド、箒が毛布をかぶり包まっている。「箒ちゃん」「帰ってくれ」「みんなが大変なんだよ」「帰ってくれ」溜息一つ。本音はむんと腕を捲ると毛布を掴んだ。ひっぺがそうと力を込める。箒も負けじと力を込める。「むむむー」とは本音。「ぐぬぬー」は箒。今一大事なんだよ分かってる、そんなこと知らない、知らないじゃなくて大変なんだよ、私に出来る事はなにも無い……引き問答を繰り返すこと数十回。本音は息を切らせながら箒にこう言った。「箒ちゃん、何時までそうしているつもりなの?」「……」「言われなくても分かってると思うけれど、それはただの逃避だよ」「本音に何が分かる」「まこと君の側に居る理由をあの蒼いISに否定されて、いじけてる」「……」箒は益々丸まった。「どうして今だけを見るの? 今のままずっとそうしていたら何時までもそうだよ」「……私には出来なかった。無理なんだ」部屋がシンと静まりかえる。戦闘の音が遠い。「私たちのした事、箒ちゃんは間違ってるって言ったよね?」「……」「箒ちゃんがそれを繰り返すの?」「……」「箒ちゃんは私たちが望んでも手に入れられない物を持っているんだよ」「……」「箒ちゃんには力があるんだよ。今使わないでどうするの? 世界はゼロとイチじゃないんだよ。複雑に動いているんだよ」「私は真に拒否されたんだ」「でもそれを受け入れたくない、だからいじけてる」「もう許してくれ!」箒は毛布を翻し、本音を見た。瞳からは涙が止めどもなくこぼれている。目には隈が、頬は痩せこけ、唇はカサ付いている。美しい髪が乱れ放題だ。本音は箒をじっと見た。箒は擦れた声でこう言った。「辛いんだ。真を好きで居ることが。真は私に何も与えてくれない」「だったらおりむーの元に戻りなよ。おりむーは受け入れてくれるよ。みんなも理解してくれる。まこと君も何も言わないよ」箒は言葉を持たなかった。否定も肯定も出来なかった。何故なら彼女は停まっているだけだから。動こうとしていなかったから。「ねえ。箒ちゃんの大事な事って何?」「ならばどうして本音は真を諦めた。整備士としてのその腕ならば真の側に居られたはずだ」「かんちゃんのメイドっていう枷があるから。みやを担当すると弐式が疎かになる。布仏の人間にそれは許されない」「それでは私の理由と同じだ」「箒ちゃんは何処にでも歩けるんだよ? おりむーに向いても良いし、まこと君にも向ける。他の人にだって。篠ノ之箒は自由なんだよ? 誰にも何にも縛られていないんだよ? 歩いて行けるのにふて腐れて引き籠もってるなんて、そんな贅沢私は許さないから」暫しの沈黙。箒は迷っていた。本音はすっくと立ち上がった。腰にぶら下げていたプラズマ・カッターを手に取った。「……何をするつもりだ」「布仏本音はアリーナに戻ります。学園生徒として、更識簪のメイドとして、布仏の娘として義務を果たします。主が、皆が戦っているのに自分だけ引き籠もっているわけにはいかないから。まこと君に届かなかった私でも、出来ること、為なければならないこと、それがあるって箒ちゃんに示すよ」本音は振り返り、プラズマ・カッターを携え廊下に飛び出した。「止めろ本音!」とっさに伸ばそうとした手は上手く動かず、宙を切った。長いこと伏せっていたのが祟ったのだ。足が毛布にもつれ絨毯に向けて転んだ。本音の気配はあっという間に遠ざかっていった。箒は絨毯に右拳を打ち下ろした。(日頃鈍いのにどうしてこう言う時だけ!)箒は慌てて柔軟体操を始めた。身体をほぐし関節を緩める。窓から見下ろすと駆ける本音の姿が見えた。焦るな、焦るな。首、肘、腰、膝、次々に解す。身体に力が上手く入らない、だがそんな事を気にしている場合ではない。ベッド横の栄養錠剤を飲む、ゼリー飲料も飲んだ。姿は、寝間着のままだ。ISスーツに着替えている暇はない。彼女は下着姿になると髪を結んだ。長い髪がさらりと流れた。左手首に結ったまま赤い紐、紅椿を胸に添える。右手も添えた。「紅椿、私に力を貸せ……」強く拳を握る。「篠ノ之箒、参る!」◆◆◆紅椿を纏った箒が、窓硝子を突き破り屋外に出たとき、本音がプラズマ・カッターをゴーレムⅢに向けていた。電子の音を立てて光刃を撃ち込んでいるが、悉くシールドの阻まれている。頭が痛いのがその攻撃の仕方だ、建物の影にも隠れず、身も伏せず仁王立ちに撃っている。えいやえいやと言わんばかりだ。(まったく! 何時からあんな向こう見ずになった!)光子の翼を広げる。展開装甲を機動モードへ移行。加速。ゴーレムⅢのヒート・ブレードが本音を襲うその直前に救い出した。「箒ちゃん!」「済まなかったな本音! だがもう無茶は無しだ!」「うん!」箒は本音を避難させると、抜刀。雨月と空裂をゴーレムⅢに振りかざした。一合、また一合。撃ち込んでは躱す。力は上手く入らなかったが、気合いの入った漸撃だった。鍔迫り合いのあと、ゴーレムⅢを押し返す。姿勢を崩させる。箒が体重とスラスター推力を刃に載せ撃ち込んだ。「篠ノ之流剣術奥義! 鬼剣舞!(おにけんばい!)」鬼の打った白刃か、そう思わせる程の剛剣だった。ゴーレムⅢは腹を割かれ、むき出しになり爆発した。息が暴れる、汗を拭う、無理を利かせたせいで四肢が震える。だがアリーナに行かねば、クラスメイトたちが戦っているのだ。箒がその方を向いた時、リヴァイヴが飛んできた。否吹き飛ばされてきた。真耶である。これは一大事と箒は受け止めたは言いものの、その威力は凄まじく、巻き込まれかねない程だった。スケートを滑るかの様に大地に足跡を走らせようやく止まった。真耶が弱々しい声で逃げろと言う。放たれ突き抜ける殺意の線。箒がその方を見ると黒騎士を纏ったエム、マドカが立っていた。動けない真耶を柊の根元に寝かせると箒は静かに対峙した。その距離30メートル程、ワイヤーを張り詰めたような静けさだった。マドカは淡々と箒にこう言った。「2度は言わんぞ」退けという意味である。「マドカ、織斑円なのだな?」「とうに捨てた名だ。エムと呼べ」「再び相見える事を嬉しく思う。幼少のみぎり死んだと聞いていたからな」「その通りだ。織斑円はもういない」「なぜこの様な事をする。なぜこの様な悪事に加担する」「お前が知る必要は無い。もう終わったことだ」「終わってなどいない。マドカ、お前はここに居るし私もここに居る」「“昔のよしみだ” 退け。そして忘れろ」箒は空裂を量子格納。雨月を晴眼に構えた。完全攻撃態勢だ。「マドカ。お前は真を忘れるか?」「ならば死ね」「その言い方、千冬さんにそっくりだな」「箒、お前はいま寿命を縮めた」マドカは左腕を箒に向ける。腕部に内蔵された7.62ミリマシンガンが火を噴く。箒は避けることなく雨月で大半を弾いた。弾かれた弾丸は跳弾として周りの植木、建築物、地面に穴を開けた。通り過ぎた弾は空か、やはり同じように建築物に銃創を開けた。アレテーから真耶の戦闘データが送られてくる。黒騎士の兵装は“極太大剣” “ランサービット” “腕部ガトリンク” 判明しているのはこの三つ。学園に被害が出る飛び道具はまずい、と箒は被弾覚悟で踏み込んだ。マドカはマシンガンを止め極太大剣を展開する。一太刀目、小手調べ。パワーは互角。だが剣の太さが異なる。雨月が限界だと、紅椿が箒に警告した。極太太刀を滑らせ雨月を引き抜く。間髪入れず箒は弧を描く様にマドカの右腕を狙う。流水の如くその太刀筋はマドカにダメージを与えた。僅かに隙ができる、箒は踏み込んだ。肩が触れそうな距離、雨月を右手で持ち、左手は刃先に添えた。てこの原理でマドカの首元を狙う。絶対防御を発動させる為だ。だがその一振りは届くことなく、マドカの左手によって塞がれていた。「っ!」箒が舌を打つ。マドカは強引に極太太刀をかざし、箒を振り払った。はじき飛ばされ校舎に叩きつけられた。衝撃が身体を襲い、息が止まる。ぐぅと箒は唸った。マドカが言う。「よくやる。アマチュアの剣だと思えんな」「篠ノ之流はアマチュアなどではない」「実戦の経験がないなら古武術でもアマチュアだ。さて箒、介錯してやる」箒は立ち上がろうとしたが上手く立てなかった。長く伏せっていた影響だ、柔軟体操もそこそこ、四肢に力が入らない節々が痛む。手首も痛めてしまい雨月が上手く持てない。寝起きに奥義は無茶だったのである。黒騎士の螺旋状のランサービットに、膨大な致死のエネルギーが充填される。済まないみんな、済まない本音、済まない、真……不器用な笑みが胸裡によぎる。箒は腹から力を出し、えいやと立ち上がった。「否! 私はもう退かない!」「あーっはっはっは!」箒がどうにか構えたとき笑い声が聞こえた。それはとても豪快で腹に響く声だった。箒が見上げると学習棟の屋上にISが立っていた。軽くウェーブした長い銀の髪、風に揺れていた。狐の様に釣り上がった黒い瞳、美しい顔立ち。ISは面と曲面で形作られていたがそのエッジは優しく丸みを帯びていた。そのフレームにボリュームはなくスマートなフォルムだった。左手には己の背丈と同じ程もあるプレート・シールドを持っていた。右手には大口径のビーム・ライフル。その背後に広がる、幅のある竹すだれ状のフィンは、スタビライザーにも見えたし、外套にも翼にも見えた。何より目に付くのはその色である。所々内部装甲や関節はブラックだが全体はパールホワイトを基調としていた。楯にはゴールドで“零”と刻まれていた。太陽光を浴びて虹色に煌めく、その姿は正しく白真珠である。彼女は足を肩幅ほどに広げ腕を組んでいた。背を逸らし胸を張る、見下ろすその様は強く美しく、まさに威風堂々。(誰だ?)箒は面識がなかった。だが雰囲気で分かった、彼女はIS学園関係者だ。「あーっはっはっは!」彼女はまだ笑っていた。目障りだ、とマドカはランサー・ビットを彼女に向けた。射撃。竜巻の様に渦巻く荷電粒子が彼女を襲い爆発した。巻き上がる噴煙、学習棟に亀裂が入り崩落する。煙が晴れた時、彼女は大地に立っていた。箒を守る様に不遜な笑みを向けていた。「口上中に弓を引くとは貴賤を知らぬ輩よ」笑っていただけでしょう、という言葉を箒は飲み込んだ。「何物だ」とマドカは彼女の技量を見抜いた様である。彼女は箒に言った。先程の豪快な笑いが夢で無いかと思われる程に威厳に満ちた、凜とした声だった。「箒とやら、良くぞ時間を稼いだ。貴様が居なければ本棟を落とされていただろう。休んでおれ」「そうは参りません。私は守らねばならないのです。学園のため友のため、愛する者のため」「その気迫見事。だが気迫だけでは戦に勝てぬぞ。それに。真への遺恨なら私が先だ」美しい彼女に真の名前を出されて思わず怯む箒だった。敵を前にしてたちまち不機嫌になる。「案ずるな、そう言う関係ではない」マドカが極太太刀を構え、苛立ちを隠さず彼女に問う。「何者だ。名乗れ」「なに。不出来な弟の、馬鹿姉よ」2人が宙に舞い戦火を交す。「名乗れ!」「IS学園卒業生 元生徒会長 黒之上貴子! 見知りおけ!」マドカは近中距離の回避型だ。だが機体は中遠距離のサイレント・ゼフィルスと異なり近接に近い。腕のマシンガンはあくまで補助、飛び道具と言えばランサー・ビットだが溜がある。その溜を見逃す貴子ではあるまい、マドカはそう判断すると極太太刀を構え切り込んだ。(この黒騎士の反応性機動性に続く者など有りはしない。切り裂いてくれる!)貴子は近中距離のバランス型、機体も同様だ。技術的制限により、黒騎士より攻撃力機動力が劣る。だが反応性は拮抗している。貴子はそう踏むと、ビーム・ライフルを発砲した。(搦め手か……信条に反するのだが。やむを得まい!)貴子が放つ荷電粒子の雨、マドカは機動力を生かしかい潜る。太刀を切りつけた、貴子はシールド防御。楯がその熱量で加熱、変色する。貴子は不満を隠さない。「一張羅をどうしてくれる。これでは塗装が台無しだ」「安心しろ。お前の全てを台無しにしてやる」「台無しにされた者が言うと説得力はあるな」「……貴様!」貴子はマドカの経緯を知っていた。怒りに身を任せマドカは剣を奮う。貴子は撃つ。ある時は学園の南、またある時は北東。戦場を高速に変えては攻撃と防御を繰り返す。マドカが貴子のライフルを切り落とした。「やるな!」「次は貴様の首だ!」貴子は右肩越しにライト・セイバーを抜いた。蒼白く光る。ブォン! と空気分子を分解し鈍い音を鳴らす。互いに幾度となく切りつけ、切りつけられた。貴子は息が上がっていた、エムは汗を掻いていた。互いにダメージを負っていた、エムが感心した様に貴子に言う。「貴様ほどの手練れが居るとは思わなかったぞ」「身内しか見ていないからそうなる」「確かにそうだな。次は気をつけるとしよう」「次はもうないぞ」「それはこちらのセリフだ!」エムが切り込み、渾身の一撃を振るう。貴子の楯ごと切り裂いた。楯が折れダメージが零式を襲う。零式は背負うスタビライザーを宙に散らせながら墜落する。止めだとマドカはランサー・ビットを起動させる。ジェネレーターであるコアからエネルギーがコンデンサーに貯められる。充電率94%、発射可能公差の中にある。判定良し。発射するその直前だった。零式から散ったスタビライザーが居り曲がりコの字になった。それはフィン状のビットだった。スラスターを噴かし発砲直前のマドカを狙う「ビット!?」「ひっかかった♪ ひっかかった♪ ざまぁ♪」マドカの発射直前のランサー・ビットに貴子のフィン・ビットが荷電粒子を撃ち込む。ランサービットが爆発し、行き所を失ったエネルギーが逆流、黒騎士が爆発を起こす。航行システムに致命的な損傷。黒騎士は身動きすらままならず落下していった。大地に降り立った貴子は、大地に力無く伏せるマドカにこう言った。胸を張りさも愉快だと言わんばかりだ。「迂闊だったな織斑円。復讐に明け暮れてアニメすら見なかったのだろう」負傷したのか、マドカが苦しげにその真意を問う。マスタースレイブ・アクチュエータ機能が停止すればISは枷でしかない。負傷しているならば準英雄たるマドカでも身動き出来なかった。「フィン・ビットじゃなくて、フィン・ファンネル。ロボットアニメに出てくるんだぞ。ちゃんと見てたらマドカの勝ちだったろうな。いやあ惜しい、惜しい♪」貴子は笑いながら、強化人間用に強化された手錠を掛けた。あっはっはと笑う。「こ、このようなふざけた奴に……」「イイネ、イイネその顔♪ そうだ。記念に写真に撮っておこ♪」パシャリパシャリ、とストロボが光る。わざわざカメラを量子展開するところが陰湿だ。意地悪くシャッターを切る貴子を見て、この人が伝説の黒之上貴子か、と箒は脱力した。箒は恐る恐る聞く。「あの貴子先輩。一つ宜しいでしょうか」「なんだ侍娘♪」「真を陰湿にしたのは先輩ではないでしょうね?」「あーっはっはっは!」深々と溜息をつく箒だった。◆◆◆千冬が大地を駆け、ディアナが糸を紡ぐ。千冬が撃ち込むも、ディアナが切り裂くも、ISには効果が無かった。千冬が刀氣を振り下ろし足場を崩す、ディアナが鋼板を投げつる。ひたすら時間稼ぎをしていると、IS小隊の教師たちが援護にやって来た。2分隊4機のリヴァイヴ、打鉄の混成編隊だ。撃退の任務を彼女たちに任し、千冬は現状確認を行った。掃討数12機だ。その数を確認したとき目の前でゴーレムⅢが倒された。掃討数13、全機撃退。施設への被害はあるが人的被害は無し、とアレテーが答えた。ただし第2第3アリーナは当面使えない。救急用ロボットが学園中に駆けていく。千冬は通信を開く。『1年娘ども。無事か?』鈴が答えた。『全員無事です』『白井、そちらはどうだ』『無事です』真耶が泣く様に言う。『せんぱいー。千代実ちゃんが、千代実ちゃんが~』何事か。怪我でもしたのか、と千冬が焦燥に駆られる。『気絶してます~』ディアナが呆れた様に言う。『錯乱してるわね、あの娘』千冬が言った。『黒之上、そちらはどうだ』『目標を確保。教育室(独居房)に放り込みます』『篠ノ之、返事をしろ』『無事です』『更識は報告書をまとめ明日までに提出』『げっ』千冬は小さく深呼吸をする。彼女は人知れず安堵したのだ。『学園小隊を二つに分ける。4分隊は引き続き警戒に当たれ、2分隊は賊の後片付けだ。デフコン・レベルを3に下げる。生徒共は医務室で診察のあと寮に戻れ』了解と無線が帰ってくる。『それと1年共、IS無断使用と無断戦闘の罰だ。始末書を提出すること』『『『えー!!』』』『一週間以内で良い』千冬にしては大盤振る舞いである。煤に汚れた優子が言った。『織斑先生! 我ら一同! バカンスを要求します!』『『『賛成ー!』』』『パール・ビーチ!』『サヌ・ドゥア!』『モルジブ!』千冬はやれやれ顔だ。『場所はともかく考慮してやる』『『『やったー!』』』『早く帰投しろ、このおてんば共』『『『はーい!』』』ディアナが言う。「いいの? そんな約束して。教頭先生は許可しないと思うけれど」「真のポケットマネーならかまわん」「なら私たちも同行しましょ」「そうだな」夕空には一番星が輝いていた。つづく!◆◆◆次回 赤騎士編!【作者のどうでも良い話】ふと思ったのですが、フルメタルパニックの世界に真を放り込むと面白そうです。宗介)何者だ貴様真)お前と同じパンピーを装った者だ宗介)パンピーとは何だ真)一般人という意味だ宗介)博識だな真)……そうか?メリッサ)あんたら何時まで漫才してるのよ凸と凸、凹と凹、似たもの同士、テトリスの要領でずらさないとかみ合わない。でもやっぱりかみ合ってない、宗介と真の絡みが面白そうです……書いてやんよという方、お待ちしております。