外伝 とある一夏の日常(ダイアリー)この話のみ時系列が異なります。シャル帰国後、専用機持ちズ帰国前です。--------------------------------------------------------------------------------一夏はある日曜日の朝に眼を覚ました。朝と言ってももう11月だからお日様が昇るまでまだ時間がある。窓の外はほんとうに真っ暗だ。日の出まであと一時間と半分は待たないといけない、一夏が起きた時間はそれぐらい早かった。一夏は寝ぼけまなこで顔を洗い、真っ白なジャージに腕を通した。それは学園指定の運動着で汗をよく吸って体温を逃がさない、とても優れた服だった。もう寒い秋の朝でも十分暖かい。とてもオシャレで、どこかの偉いデザイン賞も取った事もある。何の賞かもう忘れてしまったけれど。一夏は運動場に出ると直ぐ周囲を見渡した。彼の目はとても良く、薄暗い朝でも遠くまでよく見えた。どれぐらい凄いかって? 野球のボールに字を書いてそれを思いっきり投げるんだ。大人なら50メートルは届くだろう。それが楽々読めるぐらいに凄かった。一夏はしばらくきょろきょろと誰かを探していたけれど運動場には誰もいなかった。同年代の女の子たち何人かがストレッチ運動をしているぐらいだ。自分一人だと分かった一夏はたちまち不愉快になった。「あの野郎、今日もサボリかよ」一夏には“真”という友達がいた。学園で唯一人の男の子の友達だ。その男の子は一夏と一緒に入学したのだけれど、色々あって今は先生をやってる。色々はいつか話すよ。皆がもう少し大人になった時にかな。一夏は大きな欠伸をすると「夜遅くまで働く先生じゃ仕方ない」そう自分に言って走り始めた。「えっほえっほ」その運動場はとても大きかった。1周4キロメートルもあるそこを一夏は毎日10周もした。彼は普通に走っているつもりだったけれど、まわりの女の子には全力疾走している様に見えた。もう気づいたかな? 彼はスーパーマンだったんだ。だからマラソン選手が走る長い長い距離を、忙しい朝の時間で走りきってしまう。周囲の女の子は初め一緒に走ろうとしたのだけれど、今はもう無理と諦めてしまった。軟らかい土を蹴り、気持ちいい風を切り、清々しい秋の空気をたくさん吸った。そして一夏が走り終わった頃にはもうお日様が昇っていた。◆◆◆学園の食堂は朝から騒がしかった。いろんな女の子がいろんな食事を取っていた。一夏の学校には世界中から女の子が集まってくる。白いご飯を食べる娘や、パンを食べる娘、麺を食べる娘、魚を食べる娘、肉を食べる娘、たくさん。一夏はご飯と魚の朝ご飯を選んだ。ご飯は白くて、魚は桃色だった。焼き鮭って言うんだ。みんなも機会があったら食べてみるといい、とても美味しいんだ。初めて食べる時はきっとほっぺたが落ちる。何人かの女の子が一緒に食べようと誘ったのだけれど、彼は丁寧に断った。さっきの男の子が一人食事を取っていたのを見付けたから。「よう真」「よう一夏」2人の挨拶は何時もこんなふう。あっさりしてる。沢山言葉を並べなくても意味が通じる、それぐらい仲が良いんだ。一夏は男の子の右隣に腰掛けた。男の子の前にはパンと目玉焼きとハムが丁寧に並んでいた。なんだかガーデニングみたいだ。「今日は学食か。昨日も遅かったのか?」「聞いてくれよ一夏。真耶先生がさ、」先生というのはみんなが思って居る以上に大変なんだ。みんなの先生は一人だけれど、先生にはみんながいるからね。弟妹が沢山いると言えば想像出来るかな。さらに先生にはその上の先生も居る。たいへんだ。男の子は胸に詰まったもやもやを一夏に吐き出すと、一夏の小松菜のおひたしをちょいと食べた。「ふーん、やっぱり真耶先生ってドジっ娘だったんだな」一夏は、男の子のポテトフライをつまんで食べた。「真耶先生って手際よし、気も利く、丁寧なんだけどさ、時々肝心なところをミスるんだ。範囲外の問題を出してしまったって、テスト印刷した後に言うんだぞ。しかも夜。ラウラもいなかったし。もうてんやわんやだ」「……テスト有るのか?」「月曜日だ。聞いてないのか? 2組は昨日千代実先生が告知したそうだぞ」「……」「……」「「「えーーーーーー」」」食堂の一部の女の子は騒ぎ始めた。みんなじゃなくて一部、騒いでいるのは1組の娘たちだった。でも同じ1組の一夏は何処吹く風で鮭を摘まんでいた。「聞いてない! 聞いてないよ!」「おのれヤマヤ! 許すまじ!」「どうして言ってくれないのよミカ!」「余裕あるのかなーって」「有るわけ無いじゃん!」「フランチェスカが昨晩、眼の色を変えて勉強してたのこれだったんだ……」「あ、あああああ……あー」テストは自分の実力を測る物なんだ。だからテストのための勉強は本当は意味が無い。けれど点数が付くからそうも言っていられない。お母さんに怒られる。一夏はそんな事を考えながらぱくぱくとご飯を食べた。男の子はそんな一夏を不思議そうに見つめていた。「随分余裕だな、一夏」「今更慌てても意味ねーよ。どっしり構えるのが俺の主義だぜ」「自信満々か」「ぜんぜん」「おい」一夏は決めることが早かった。一夏の良いところの一つだけど、みんなはそのまま真似してはいけない。出来ることを出来るだけするのも考え方の一つ。◆◆◆昼時になって一夏は学園内をぶらぶらと歩き始めた。学園は半島の先っぽにあって、海と山に囲まれているから学園内にも自然は沢山有った。一夏はビデオゲームも好きだけれどこういった散歩も好きだった。古くから一夏の事を知っている友達は年寄り臭いと言うけれど、本人は一向に気にしていない。季節は秋、彩り始めた樹木を見ている一夏はとても楽しそうだ。「お、カレンデュラじゃねーか」しゃがんで一夏が見付けたのはキク科の黄色い花だった。一年草で、別名“ポットマリーゴールド”という。濃い黄色の花を付け、肌に利くハーブとしても有名、だから化粧水にも用いられたりもする。「オイルにして千冬ねえにプレゼントしよう。そろそろお肌の曲がり角だしな」一夏がせっせと毟っていると遠くから一夏のお姉さんがやって来た。千冬と言って学園の先生をしている。厳しいけれど立派な人で女の子たちの憧れだ。「おう、千冬ねえ」「誰がお肌の曲がり角だ、ばかもん」遠くても聞こえたらしい。女の人への年齢美容の発言は注意しないといけない。「化粧水にして贈るから少し待ってくれ。正真正銘天然化粧水だぜ」「……どの位だ?」「えーと、漬けたり濾したり、一ヶ月ぐらい?」「ディアナには教えるなよ」お姉さんも気にしているみたいだけれど、一夏は気づかずせっせと毟っている。そんな一夏をお姉さんは嬉しそうに見ていた。一夏本人には気づかれない様にしているけれど本当はとても優しい人だ。「おお、そーだ千冬ねえ。昔の真を教えてくれよ」「昔?」「こっちに来る前の真」お姉さんは周囲に目を配らせた。二人が他所の世界から来たというのは秘密で、誰かに聞かれると厄介だ。「その話を滅多にするな」「分かってるって。でもちょっとぐらい良いだろ? 他に誰もいないし」「本人に聞けば良いだろう」「あいつから直で聞くと美化するだろ? 絶対そうだぜ」お姉さんはまあ良いかそう考えて「何を知りたい」と答えた。「んーそうだなー。女の子関係なんてどうだよ」「……女?」「ほら、あいつ湿っぽいしうじうじするし、どうかなーって……千冬ねえ?」彼女の顔がみるみる赤くなっていった。昔の彼は一夏以上の唐変木で女の子を引きつけまくっていた。後輩3人、同級生2人と同い年の幼なじみ一人、上級生3人、学校外に3人。6,3,3で12人だ。その幼なじみが昔の一夏のお姉さんだったのだけれど、苦労したのを思い出したのか「一夏、真は何処だ……」と、とても怒っていた。お姉さんから吹き出す気迫でまわりの草木が怖がっている。「射撃場」お姉さんは肩を怒らして立ち去っていった。「すまん、真」遠くから聞こえてきた悲鳴に一夏は謝った。その格好は仏様にお祈りする姿に似ていた。◆◆◆日も傾き掛けた頃、一夏は第3アリーナに足を運んだ。テスト前だけれど女の子たちはそれなりに居てみな訓練に励んでいた。一夏は机に向かうより躰を動かす方が好きで、白式、これは一夏の白い鎧のことだけれど、これをぱっと呼び出した。幾何学的な光が……光で出来た刺繍がたくさん空に描かれて現れた。まるで魔法みたいだ。「あら、一夏さんも訓練ですの?」そう声を掛けたのはセシリアという女の子だった。綺麗な蒼い瞳と金色の髪を持っていて一夏のクラスメイトをしている。とてもおしゃれな女の子で今はブルー・ティアーズという蒼い鎧を着ていた。「おう。セシリアもか?」「ええ。一夏さん、宜しければ模擬戦付き合って下さらない?」「おういいぜ。でもセシリアはテスト良いのかよ?」「直前で慌てるようでは代表候補失格ですわ」「違いない」そう一夏が答えると彼女は楽しそうに笑い出した。突然笑われて一夏は不機嫌そうに口を尖らせた。尖らせすぎて山みたいだ。「二人とも本当に似てますわね。その“違いない”真にそっくりでしてよ」「なんだかからかわれてる気がするぜ……そう言えば真は来てないのか?」彼女は少し気分を害して、アリーナの反対側を指さした。そこには朝に会った男の子がいた。その子は一生懸命女の子たちに鉄砲の使い方を教えている。聞いている方も真剣だった。鉄砲は武器なんだから当然だ。ふざけて扱えば怪我では済まない。その男の子は“みや”という黒い鎧を着ていてみんなを見渡した。「では皆さん揃った様なので始めます。本日は特別講義“ISに於ける射撃戦闘の理論と実践”です。テーマは“如何に当てるか” 基本的な事も含みますが復習兼ねて聞いて下さい」「「「はーい」」」男の子は恥ずかしいのか、こほんと一つ咳をした。「100メートル先のターゲットに命中出来る人が100メートル離れた位置からそのターゲットを撃つと当たるでしょうか外れるでしょうか。大気や銃の製造精度と言った要因は無視して下さい」布仏本音と呼ばれる女の子が手を上げて「あたります~」といった。「はい当然ですね。ではターゲットが動いたらどうでしょう」「当たるか外れるか分かりません~」「はい。正解です。この場合命中云々は確率論で考えることになります。上手い人であれば高い確率で当たります。それなりの人はそれなりに」相川清香と呼ばれる女の子が手を上げ「まことー、その比喩はなんかセクハラっぽい」というと男の子は時代の流れかと心の中で泣きだした。時間の流れは残酷なんだ。大人に聞くときっと真剣に教えてくれる。「失敬。続けます。皆さんはもうご存じの事と思いますが、ISにおける射撃はターゲットも自分も高速で動きます。アリーナに於ける相対速度は最大音速に達し、さらにその動きは縦横斜め、まえ、うしろ、3次元空間でさらに時間軸も加わりますから計4次元。マニュアルで当てるには相当な技術が必要です。と言いますか運頼みと言っても過言ではありません」鏡ナギと呼ばれる女の子は「ならどうして当てられるの?」と言った。「はい。ここで出てくるのが機動予測です。ISに搭載されているF.C.S.(火器管制)の一機能にA.A.S.(Auto Aim System:自動照準器)がその計算をしてくれるので我々パイロットは当てることが出来るわけです」夜竹さゆかと呼ばれる女の子が「では、A.A.S.が有っても外れるのはどうしてでしょうか」と手を上げて聞いた。難しい話に皆ついて行っている。彼女たちは立派だ。「それにはA.A.Sの仕組みを理解する必要があります。A.A.Sは自己情報とターゲットの情報から機動予測を行います。自機情報は当然持っているので問題ありませんが、ターゲットつまり敵の情報は持っていません。ハイパーセンサーでデータ採取、過去のデータバンクから推測する必要があります。例えば敵のスラスターの位置、敵の姿勢、自機と敵機の相対位置、重力……と言ったパラメーターです。A.A.S.はこれらのデータからリアルタイムで計算しますので、機動戦闘中照準を付けやすくなったり付けにくくなったりします。付けにくい時に撃ってもなかなか当たらない、そう言う訳です」岸原理子という眼鏡をかけた女の子が「照準の円形が大きくなったり小さくなったりするアレですか?」と聞いた。「はいその物ずばりです」「でもなんだか照準には他の要素が入っている様な気が。楕円になったりするし、等高線みたいな」「ご名答。ここで出てくるのが自己情報です。機体特性は変わりませんのでそのままですが射撃姿勢や銃の種類によって射撃精度が変わります。その影響です。もちろん弾丸の特性も影響します」みんながふむふむと頷いている時一夏が「真、俺も聞いて良いか?」と言った。ブレードしか使わない一夏も興味津々だった。眼をきらきらさせている。「来ていたのか」「まーな」「わたくしも宜しいかしら」「オルコットに必要だとは思わないけれど」男の子に姓で呼ばれた女の子は不愉快そうだ。とても他人行儀だからだ。でも仕方がない、今男の子は先生なのだから。「静かにしていてくれよ、一夏」「うっせえ」みんなが二人のやりとりに笑っていると「蒼月先生続きを」と四十院神楽という女の子に諫められた。その男の子は恥ずかしそうに頬を掻いていた。その男の子は一夏に強く反応してしまう、これでも随分穏やかになった方だ。「銃種の影響とは射程距離のことでしょうか」「それも含みます。分かりやすい様にサブマシンガンとスナイパーライフルを例に取り上げます。サブマシンガンは威力が劣る分反動が小さく一定範囲に弾をバラ巻く為当てやすいです。また弾が小さいことも有り、1弾倉辺りの弾数が多いのも特徴です。反面スナイパーライフルはそれらに劣りますが、威力と射程距離に優れます」「ならスナイパーライフルの方がよくねーか? 遠くから撃てるし」一夏は不思議そうだ。「今言ったろ。反動が小さいって事は撃つ時の衝撃が少ない。ブレにくいんだよ」「ブレってそんなに重要か?」「1度射軸がズレて見ろ。1メートル先では17ミリだけど100メートル先では1.7メートルだぞ。まず当たらない」「おお……」一夏は眼から鱗の様だ。鷹月静寐と言う女の子が「先生続きを」といいった。早く続きをと急かしている様だ。男の子はぽりぽりと頭をかいていた。そして「一夏には未だ調子が崩される」と小さくぼやいた。谷本癒子という女の子が「だったら射撃戦闘はどの様な方針を立てれば良いの?」と言った。「一言で言ってしまえば“臨機応変に”です。黄金パターンはありません。如何に自分のルールを相手に押しつけるか、これがポイントになります」「もう少し具体的におねがい」「与ダメが大きいスナイパーライフルで一発一発着実に行くか、威力は小さくとも当てやすいサブマシンガンで手数を増やすか、またアサルトライフルでその中間を狙うか。個人にあったスタイルを確立するのが何より大事です。ですが、まだ1年の皆さんには状況に合わせて武器を切り替える事をお薦めします。今の段階は色々な武器を経験する方が良いでしょう」「ふーん、随分面倒なんだな」一夏は腕を組んで唸った。男の子は一瞬どうしてくれようかと考えたが、我慢をした。「一夏、撃てば当たる便利な道具とか思ってないか?」「お、おもってねーよ」と一夏は慌てていった。実は内心エスパーかよとドキドキだった。「というか、確か前に教えたと思ったが」「すまん、わすれた」「……こと射撃戦闘に置いては如何に当てるかも重要ですが、位置取り、射撃姿勢、射撃妨害など当てる状況をどの様に作り出すかが肝です。ですからー」「真、お前はどうなんだよ」「……どうとはなんだ」「お前の射撃精度が分かる点数はないのか?」「……H.P.A.(Hit Per Aim:命中度)という一つの標準指標があるんだが。これはアサルトライフルで射程距離200メートル、相対速度時速500kmという状況でどれだけ当たるかって」「おう」「78%が平均得点」女の子たちは唖然としていた。それは射撃部門ブリュンヒルデ級の数値だったからだ。4発の内3発当たる計算だ、無理もない事だ。「なー、セシリアは?」と一夏はついでに聞いた。一夏には男の子のすごさが分かっていない。でも無理はないんだ。何せ一夏にとってはその男の子が基準なのだから。「H.P.A.-ClassAの指標でよければ平均94%ですわ」「なんだ、大したことないんだな。お前」セシリアという女の子の鎧は偏光制御射撃……蛇みたいに何処までもついて行く弾が撃てるから、簡単に比べることが出来ない。それを忘れてしまっていた一夏はあははと、とてもおかしそうに笑った。だからその男の子は大きくて長い鉄砲を光から取り出して「一夏」といった。「なんだよ」「ちょい右へ動け」一夏は不思議そうな顔で「だからなんだよ」と右へ2歩歩いた。「動かないと皆に当たるだろ」「へ?」「はい皆さん、耳を押さえて口を大きく開けてー」その男の子は風の様に構えると一夏を撃った。ガンととても大きな音がした。その男の子は不似合いなほど爽やかな笑顔だったけれど、こめかみには血管が浮いていた。その男の子はがまんできない、ととても怒ったからだ。「真てめえ! いきなり何しやがる!」「これから射撃戦闘の実演をします。タイトルは馬鹿の奈落落ち……その大したことない射撃でくたばれ馬鹿一夏!」「上等だ! そのへなちょこプライドへし折ってやる!」一夏もお返しだと光の剣を光から取り出した。「穴あきチーズにしてくれる! 餌に食われろこの超音速エロネズミ!」「はっ! お前には酒樽短足の髭親父がお似合いだぜ! 金髪フェチ野郎!」「黙れこのセガフリーク(※!」「くたばれ任天堂阿保信者が!」2人揃って舞い上がる空は綺麗な夕焼けだった。女の子たちは「今日の講義は終了ね」と帰って行った。何時終わるか、女の子たちにはさっぱり分からなかったからだ。◆◆◆一夏とその男の子は気の済むまで喧嘩したあと、大急ぎで寮に戻った。夕飯の時間がとっくに過ぎていたからだ。シャワーを急いで浴びて、急いで着替えて、急いで食道にやって来たけれど“本日は終了しました”というカンバンがぷらぷらとぶら下がっていた。2人は非常に悲しくなって、そのあと非常に怒り出した。なにせお腹がとても空いていたからだ。「晩飯どうするんだ馬鹿一夏!」「お前が怒付くからだろ阿呆真!」「一夏が低レベルなこと言うからだろうが! ミジンコ頭!」「お前の沸点が低すぎるんだよ! ガソリン揮発脳が!」「どうでも良い知識自慢げに語るな!」「悔しいだろ! 自称整備士!」「本職だ!」「過去形だろ!」2人が喧嘩していると、とても大きな音が食堂に響いた。それは“ぐう”と言うお腹の虫だった。しかも2人分だ。2人はとてもとても悲しくなってその場にへたり込んだ。「真」「なんだ」「ラウラに頼めないか? 晩飯」「今日は出張で学内にいない。ディアナさんもだ」「なにか食い物無いのかよ」「人参なら」「人参って馬かよ」「レトルトとかインスタント買ってくるとラウラが怒るんだよ凄く。でディアナさんに知られて説教二倍」「なんか無性に腹立つけどよ……まあいいや。部屋に菓子がある、それを喰おうぜ」「すまん、助かる一夏」「気にすんな、お互い様だ」そう言って2人は互いの手をパンパンと打ち付け合った。2人にとっては意思疎通が上手くいった時の合図だ。互いに元気づける意味もある。そしてふらふら一夏の部屋に戻っていった。2人を助けたのはシャルロットという女の子だった。訳あって男の子の振りをしている。嘘ついていると言ってはいけない、彼女にはやむにやまれない難しい理由があるからだ。2人は彼女の手料理をがつがつ食べた。ケークサレという甘くないフランスのケーキで、入っているのは卵、タマネギ、マヨネーズ。玉子とじに似ている。ささっと作った料理だけど2人にとってはどんな料理よりも美味しかった。食べ終わると一夏と真は満足そうに寝っ転がった。2人とも一夏のベッドの上だ。あべこべに横になっている。「いやー、喰った喰った。美味かったぜシャル」「シャル助かった、ありがとう」シャルと呼ばれる女の子は食べて直ぐ寝るのは良くないと、注意したのだけれど。「「くかー」」2人は疲れていて直ぐ寝てしまった。◆◆◆「ここで話はお仕舞いだよ」碧の眼と深みのある金の髪、少女はパタンとノートを閉じた。納得いかないのは周囲の、大勢の子供たちである。手を振り脚を振り、つまらない終わり方だと不平を言い始めた。「えー、喧嘩して終わりじゃん」「ねー、ママー。本当にその後ないの?」「ないよ、これが2人の日常、ぜんぶなんだよ」つまらないつまらないと言い捨てて子供たちは、別の興味ある物へ歩き去って行った。その少女は憤慨もせず、慈愛の笑みを溢れさせ、子供たちを見守っていた。ある子供は積み木に、ある子供は大きいパズルに興じる……そんな時だ。よたよたと見ていて不安になる歩き方で、子供が一人やって来た。純粋な、水晶より透き通った眼で彼女にこう問うた。「シャルママ。その二人は仲が良いの? 悪いの?」「良いんだよ。思っていることを素直にぶつけられる仲なんだから」「そうなの?」「そうなの。アベルもそういう友達が出来ると良いね」「ふーん。ぜんぜんわかんない。けど探すよ友達は欲しいもん」「それがいいね。さあもうお昼寝の時間だ。みんな手伝って」「「「はーい」」」大きくなったその子が何でも言い合える友人を見付けたのかどうかは、シャルロットだけの秘密だ。おしまい。◆◆◆マヤ先生ごめんなさい。ネタにしてマジごめんなさい。シャルママ、フランスの託児所でがんばる、そんな視点で書いてみました。実はこの外伝、とある作品のリスペクトです。お気づきになられた方ご一報下されば幸いです。次回より本編の予定ですが、更識編より後の内容を変更するやも知れません。見直すと構成に不満が残ります。確定ではありませんが一応告知します。※)フリークという言葉は英語圏では良い意味で使われません。ので使っています。【作者のどうでも良い独り言】短編だと構成管理がとても楽だ……まる