日常編 お説教-------------------------------------------------------------------------------- 最初の人は黒だった。 次の人は金だった。 二つの流れる息と打鳴る鼓動が響き、赤き雫の奔流は喉と四肢を満たす。 香では拭えぬ命の匂いが漂えば、現実と、過去という名の記憶が混じる。 人がそこに生きていると言う確固たる事実。 彼女らから最初に教わったのはそれだった。「この度は本当にご迷惑をおかけしました」 私は深々と頭を下げた。 その部屋は非常にシンプルな部屋だった。窓は無く、6畳ほどで、壁はただ白く、床は灰、背の低い特殊硝子のテーブルと、合成革のソファーが4つ置かれていた。見上げる天井には、半導体の無機質な光が灯っていた。1時間もあれば精神的に疲弊しそうなこの部屋は私の最も古い記憶の、1つだ。 顔を上げ、2人の教諭と向かい合う。織斑千冬先生と、ディアナ・リーブス先生だった。その黒い髪を無造作に結って後ろに流している織斑先生は、いつもの黒のスーツとタイトスカート、今は上着を脱いで白のブラウス姿だったが、手と足を組み座っていた。金色の髪を静かに下ろすリーブス先生はライトグレーのスーツとブーツカットパンツと言った珍しくシックな出で立ちだった。彼女は手を膝の上に置いて姿勢正しく座っていた。 この2人とこうして会うのはこれが初めてでは無い。発見されて間もない頃、情緒不安定だった私に社会適用訓練を施したのがこの2人だった。当時の事は殆ど覚えていないが、学園での最後の日、こうして同じように話した事だけは良く覚えている。 2人の鋭い視線が私を射貫き、思わず背の低いテーブルに置かれた樫の木箱を見た。呼吸を落ち着け2人に視線を戻す。そこには厳しい表情の2人が確かに居る。 織斑先生が腕に当てる指を小さく動かした。「射撃場からの弾丸の持ちだし、屋上占有、未許可の銃器携帯に、銃器を使った私闘。下らん10代のもめ事は何度も見たが、今回のは極めつけだ。大概にしろ馬鹿者が」 彼女は怒りを通り越し最早呆れているようだった。リーブス先生が続ける。「真ちゃん分かっているのかしら。今回の騒動は良くて退学、下手をすれば裁判沙汰だったのよ」 彼女はいつになく真剣な調子で諫めてきた。 生徒指導室と呼ばれるこのセキリュティルームに、この2人から呼び出しを受けたのは1時間ほど前の事になる。用件は屋上での一件、セシリアとの事だった。あの事は当然ながら学園上層部に知れ渡り、私の処分を巡り緊急の職員会議が開かれた。消極的容認派と厳罰派で紛糾したらしい。 結局、事情を知るものは極一部で学園外には漏れなかった事、セシリアがイギリス国家代表候補だった事、世間体と私の特殊性を考慮の上、一週間の教室清掃という罰に落ち着いた。予想に反する寛大な処遇に私も気を緩めていたところ、彼女らの雷が落ちたという訳だ。 IS学園の2強、現役を退いたとは言え、未だ敵う者無しと評されるこの2人が肩を並べるのは珍しい事だ。両雄並び立たずとは言うが、こと私へのお小言関してはその限りでは無いらしい。腰を下ろすソファーがキリキリと悲鳴を上げると、私はもう一度深く頭を下げた。2人の深い溜息だけが部屋に響いた。 2人からの小言も尽き、しばしの沈黙が訪れる。それを破ったのは千冬さんだった。彼女はテーブル上の樫の木箱に手を伸ばすと、黒い一挺の拳銃をを取り出した。「これがそうか」 彼女の問いに私は肯定をもって答えた。千冬さんは慣れた手つきでそれを扱う。シリンダーをスライドさせるとそれを軽く回した。バレルには"パイソン357マグナム"と刻印されていた。「ほぅ、年代物だが良い物だな。十分に使える」「私もそう思います」 千冬さんはグリップに刻まれた家紋を見ると、こんな事を聞いてきた。「持ち出したライフル弾はどうした」「オルコットさんにあげました」 銃がカチャリと音を立てた。何時からか分からないがディアナさんは静かに笑みを浮かべていた。微動だにしていない。千冬さんは銃に目を落としたまま言った。「蒼月、つまりはこう言うことか。お前は傷心の、15歳の小娘に手紙と弾丸を贈り、部屋から誘い出した。更には夕焼けの屋上で決闘を仕掛け、言葉巧みに小娘の情動を揺さぶり、最後にはオルコット家の銃と許しをもらい受けたと」「そ、そういう言い方も出来るかも知れません」「マセガキめ。10年早い」 私の顔は引きつっていたかも知れない。理由は分からない。「千冬さん、訂正が1つあります」「なんだ? 言い訳か?」「彼女からは許しを得ていません」 千冬さんの手が止まった。空調の音と2人の鼓動が耳に付く。会話におかしいところは無い。単純に事実を報告しているだけだ。だが何故だろうか、汗が止まらない。「ほぅほぅ、ほぅ。許されてもいないのに拘わらず家紋入りの銃を貰ったと、そういう事か」 千冬さんは銃を妙にゆっくりと箱に戻した。「はい。そういう事で―」 そう言い終わる前に鈍くて重い衝撃が頭部に走った。痛みの余り世界に星が流れる。「15の小娘にそこまでさせたか。見事な手管だな、蒼月。一体どこで覚えた? そんな事は教えていなかった筈だが? ん?」 痛む頭を抱えた私はもう自棄だと意を決し、自重していた気がかりを聞いた。涙で視界がぼやける。「……何をおっしゃっているか分かりませんが、ただ彼女を尊重しただけです。ところで、そのセシリ、オルコットさんは大丈夫れひょうは?」 唐突に頬に痛みを感じればディアナさんの指だった。あの笑顔のまま抓ね上げられる。「真ちゃん、全く、全く分かっていないようね。"あんな無茶"までして、あなたは一体何を考えているの、か、し、ら?」 段々と左頬をつねる指に力が籠もり、頬が悲鳴を上げる。抓り上げられる私の顔を楽しそうに見る千冬さんが私の問いに答えた。「許可証を持っている、この理由でオルコットは完全にお咎め無しだ。私としては腑に落ちんがな。そういう決定が下った」「いひぇ、らいひょうのこほれふ」「ただの疲労だから、心配無用、だ、わ」 私の問いにディアナさんが答えた。あの屋上、あの最後、3日分の心労が祟ったのだろうセシリアは気を失った。翌日には何事も無かったように登校していたが、顔色はお世辞にも良いとは言えなかった。気が強い彼女は心配無用と取り付く島も無かったが、これでやっと安心でき―「てぃはなはん!ふめ、ふめがふいほんれまふ!」「真ちゃん、今ちゃんと自分の心配をしていたのよね?」「ひまひた!ふぃまひた!」「嘘おっしゃい、どうせオルコットさんの事考えていたのでしょう?」「~~~~~~!!」「ディアナ。その辺にしておいたらどうだ」「だめよ千冬。今しっかり教えておかないとまたやりかねないわ」「いや、それ以上歪むと小娘共が怯えかねん、と言う意味だ。私も見たくない。夢に出そうでな」「女生徒が近寄らなくなるなら、もうこんな真似出来なくなるわよね。いっそ、その方が良いのかしら。でも"依存"もだいぶ治まったし悩ましいわ。ねぇ千冬」「知らん、私に聞くな」「#&%≠¥!!!!」 思わせぶりな2人のやりとりはどのような意味を持つのか、浮かび上がったその疑問は、頬の痛みが消し去った。ディアナさんの気が収まったのは、千冬さんがリボルバーを、ひとしきり持ち遊んだ後だった。 セシリアから貰ったそのリボルバーはしばらく預かると千冬さんに持って行かれた。日常編 IS実習1-------------------------------------------------------------------------------- ひとり、ふたり、さんにん、よにん、そこまで数え思わず手を止めると、「一夏も慣れたよな」 私は思わず独りごちた。 桜の花びらも散り、木々が若葉を主張し始めるそんな季節、第3アリーナのフィールドで濃紺のISスーツ姿の少女達が話を弾ませていた。入学から2週間、本日からIS実習が始まる。 クラス代表の私は2組の生徒がそろっているか確認をするのが務めだ。先生が来るまでに済まさねばならない。だから否応なしに眼に入る。一夏を取り巻く少女達が、である。 IS実習は1組2組の合同授業。だからその取り巻きには1組の他2組のも居る。少女達の勢いに最初はたじろいでいた一夏も随分と慣れたようだ。今では気兼ねなく話している。 ちやほやされたいと思った事は無いが、こうまで見せつけられれば多少の不満も募る。改めて一夏の人気具合を思い知らされた。私は溜息をついた。人と己を比較するのは愚かな事だ、そう言い聞かせ取り巻きの少女とタブレットの少女を見比べてはチェックを入れる。 声を掛けてはチェックを入れる。チェックを入れると、我が2組の鷹月さんと布仏さんが見当たらない事に気がついた。 左を向く、居ない。 正面を向く、居ない。 右も居ない。 後ろに……篠ノ之さんの後ろに隠れる影2つ。 タブレット上の2人に印を付けた。 これでお勤め終了である。 それにしてもあの2人は一体どうしたのか、そう思い顔を上げると2人と眼が合った。顔を赤くして更に隠れる。篠ノ之さんの影から飛び出る、布仏さんの栗色の小さい房がひょこりと揺れた。鷹月さんは軽く丸めた背を向けている。 あの2人に何かしでかしたか、そう記憶をたぐれども、心当たりは無い。ISスーツ姿が恥ずかしいのかと考えて、それも頭から追いやった。ISスーツはISの下に着るウェアで、ある意味インナーではあるが、水着より露出は少ない。スクール水着にオーバーニーソックス、これが最も分かりやすい。これが恥ずかしいのであれば海には行けまい。 因みに男用スーツの露出は更に少ない。全身を覆うダイバースーツを持ってきて二の腕から下、膝の下、最後に腹を切り抜いたと言えば簡単か。もちろん着るのは切り抜かれた方だと念を押す。 そのような事を考えていたら、篠ノ之さんに睨まれた。いつものように腕を組み仁王立ちだ。もちろん彼女にも心当たりは無い。女心は難しい物だ。かれこれ千年以上昔から男は女性に悩まされている。書物を紐解けば一目瞭然だ。苦しむそれを打ち明けた文字を探せば事欠かない。きっとその悩みはこの後何千年と続くのだろう。"思いあまりそなたの空をながむれば霞をわけて春雨ぞ降る" 誰かが詠んだこの詩の意味を私は思い出せなかった。 8機のISに歩み寄る。その鉄と、オイルと、エネルギーの塊はただじっとしていた。 第2世代型IS"打鉄" 戦車、戦闘機と言った兵器を連想させるラファール・リヴァイヴと異なり打鉄は日本鎧を連想させる、純国産のISだ。安定した性能と防御に優れるこの機体は残念ながら日本とドイツ、フランスでしかお目にかかれない。質実剛健気質のドイツ人と日本のポップカルチャーを好むフランス人を除けば見た目で嫌煙されたのではと考えている。 侍ジャパンとは言うが、このデザインは製品として見ると個人的嗜好が強すぎでは無かろうか。好みではあるが。 向かって左から3番目のそれに近づき、右手をかざし、打鉄に触れる。目を覚ましたコイツは直ぐさま膨大な情報を伝えてきた。みやとは異なり、その鼓動はしっとりとした非常に滑らかなものだった。流石日本製である。PIC、FBW、FCS、HS、多数のデバイスが作動した。機体情報を見ると、機体名:打鉄、製造者:倉持技研(株)とつらつらとと続き、最後に学園登録ナンバー:30と記されてあった。 ふむ、と頭をひねる。 30、みれ、みぜろ、み、み― 突然心臓を射貫かれる様な、そうとしか言いようのない感覚に襲われた。それは1つの弾丸のようであり、一条の光線のようでもあった。そして、それは体が覚えていた。 瞬時に大地を踏み抜き、身を横へ躍らせた。銃を求め腰に走らせた手は宙を切った。その手を大地に添えて体に溜を作る。そして気配の元へ感覚を走らせた。走らせれば、走らせたその6m先には青のお嬢様が佇んでいた。 彼女は何時もの学生服ではなく、オーダーメイドのISスーツ姿であった。そんな彼女はいつものように腕を組み、鋭い視線を飛ばしている。張り詰めた神経が緩む。「あのさ、セシリア。呼ぶなら殺気じゃなくてさ、普通に声を掛けてくれ」「気安く話し掛けないで下さいな。真、私は貴方を許した訳ではありませんのよ」 溜息混じりの私の頼みに、彼女はふんっと素っ気なかった。奇行ともとれる私の行動を偶然目撃した数名の少女が、目を白黒させていた。「それなら大した事にはならなかったよ。教室の掃除だけで済んだ」 私がそう言うと、彼女はその緊張を僅かに緩ませた。彼女の用件は私の処遇についてだった。私の事は一切知らされていなかったらしい。彼女は担任の織斑先生に聞いても教えてくれなかった、と憤慨している。ただ、自分で考えろ馬鹿者、だったそうだ。千冬さんも、意地が悪いのでは無かろうか、罰則代わりでもあるまいに。 心配してくれたのか、と少し茶化してみると「えぇ、矛先を心配しましたの」と相変わらずだった。彼女は初めて会った時に様に尊大だったが、嫌な気分はしなかった。が、私はお返しとばかりこんな事を言ってみた。「ところでさ、一夏の好物に興味はないか?」 彼女が周囲に張り詰めていた理路整然とした意識の線が、撓んだ。「何ですの、それは。あなたは篠ノ之さんと仲が良いのでしょう?」 訝しげな彼女の問いに私はこう続ける。「確かに義理を欠くけれどセシリアとだって撃ち合った仲だ、これ位良いだろ。心ばかりの支援射撃ってところかな。そもそも幼なじみとじゃハンデもありすぎるしね」「結構ですわ、敵から塩を受け取るほど落ちぶれてはおりません」 ちらちらと苛立たしげな視線を寄越す彼女に私はそっと耳打ちした。彼女は軽く咳払いすると、戦いは情報収集から始まっておりますわよね、と言いながら去って行った。そんな彼女の後ろ姿を目で追う。「未練だぞ、蒼月真……」 私は誰にも聞こえないよう呟いた。日常編 IS実習2-------------------------------------------------------------------------------- ジャージ姿の織斑先生と山田先生が姿を現し、それに気づいた少女達がわらわらと並び始める。私は整然と並ぶ生徒達の先頭に立った。クラス代表は先頭である。一番前だ。ところが、どうしたことだろうか。一夏が隣に居た。「なんで一夏が先頭なんだよ」「俺、クラス代表だから?」「なんで疑問形なんだよ。そもそも負けただろ、一夏は」 一夏は腕を組んで、一唸りするとこう答えた。「セシリアが辞退したんだ。あと負けたのは真な」 セシリアと一夏はクラス代表を争っていた、筈なのだが。一夏の少し後ろ、金髪の少女に目をやると彼女はすまし顔だった。彼女の意図が読めず、思案する私に一夏はなんか違うんだよな、と呟いた。「違うって何が?」「セシリア、あれ以来なんか違うんだよ。突っかかってこなくなったし。あの"おほほ"もやらなくなった」 何故か残念そうな一夏だった。「女の子は精神的成長が早いと言うぞ。あれが切っ掛けで少し大人になったんだろ。結構な事じゃないか」 私がこう言うと一夏は苦虫をかみつぶしたような顔になる。「なんかむかつく」 訳が分からん。「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践して貰う。織斑、オルコット試しに飛んで見せろ」 皆の前に立つ織斑先生の指示でセシリアと一夏は、はいと皆の前に歩み出た。 一次移行を行ったISは、アクセサリーに形状を変えて携帯する事ができる。ブルー・ティアーズはイヤリング、白式はガントレットだった。みや、ラファール・リヴァイヴはネックレスだが、残念な事にお目にかかった事は無い。 余談だが、そのみやは基本デバイスの1つ、FBW(Fly By Wire:航行管制システム)が故障した為、今3年生が修理している。基本デバイスの故障は滅多に無いらしく、良い教材、と整備課の先輩方々に感謝された。始末書が無ければ私も素直に喜んだだろう。 セシリアは瞬時にISを展開する。彼女のブルー・ティアーズは修理が完全に終わっていた。4つの子機と、スターライトmk3がその存在感を示している。セシリアと一瞬眼が合うと彼女は僅かな笑みを浮かべ、空へ駆け上がった。少し遅れた一夏は、織斑先生の叱咤の後、セシリアの後を追った。 高速回転するタービンの様な、甲高い機動音と共に2機のISがアリーナの青い空を切り裂く。皆が2人を見上げる。その空には2本の、軌跡が走っていた。多少いびつな線の白に対し青のそれは一切の乱れがなく、見事と言う他無かった。「よくあのセシリアを追い込めたもんだ……殆ど偶然、いや奇跡だな。あれは」 私は思わず感嘆を口に出した。「そんなに凄いかな?」 いつの間にやってきたのか、左隣に立つ布仏さんが聞いた。あぁ、と彼女を視界に収めようとしたら「こっちみちゃ駄目」と彼女の手に押し戻された。私の顔が強制的に正面を向く。そこには腕を組む織斑先生が立っていた。先生は流し目にちらと私を見た。 「……」 釈然としない物を感じながらも私は彼女の質問に答える。「あぁ、機動にブレが全くない。確実に重心を捉えている証拠だよ。多分PICをマニュアルで動かしている。その上、飛行計画にも無駄が無い。セシリアの技能の高さを改めて思い知らされた」「蒼月君は大げさ。2人掛かりだったけれど、奇跡が必要なほど実力に差は無いと思う」 唐突に右隣から鷹月さんの声がした。説明しようと顔を向けると「こっち見ないで」と手で押し戻された。強制的に向いた正面には、苦笑する織斑先生が立っていた。 「……」 腑に落ちないと思いつつ、彼女に答えた。「それは買いかぶりすぎかな。俺は無我夢中で逃げ回って闇雲に撃っていただけさ。セシリアが初めから本気だったら俺らは10分持たなかった。それだけ実力に開きがある」「随分オルコットを評価するのだな」 そう言うのは、視界の左側に姿を現した篠ノ之さんだった。いつものように腕を組み、多少鋭気に私を見た。「過大評価のつもりは無いよ、箒。子機に27発、レーザーライフルは9発食らったんだ。セシリアの実力は身に染みてる。彼女は強い」 あほう、と篠ノ之さんが半眼で睨むと、何の前触れも無く2つの足背、つまり足の甲に痛みが走った。痛みの余り思わずしゃがみ込む。踏みつけた2人に抗議しようと振り返ると、「「ばかっ」」と言い残し、2人は立ち去った。涙目の私に篠ノ之さんが深々と溜息をつくと「真、あの金髪だけはやめておくのだ」と2人を追った。状況が理解出来ず、ただ痛みに呻く。 若干呆れた表情の織斑先生がこんな事を聞いてきた。刺々しさを感じるのは気のせいだろうか。「蒼月、その強いオルコットは何故お前達に追い込まれた?」 私は痛む足を堪え立ち上がった。「様子を見たからでしょう。俺らに慣れる時間と勢いにのる切っ掛けを与える事になった、そう考えます」「では、なぜオルコットは様子を見たと思う?」「……挑発されたから、と」「その回答では落第だな」 言われれば確かにそうだ。混乱から立ち直ったのであれば、その時点で全力を出すべきだ。少なくとも私ならばそうする。ならばセシリアは一体何故? 思案する私に彼女はこう言った。「お前達の急激な成長を見て興味を持った、特に同じガンナーのお前にな。そんなところだろう。もっとも"ああいう方法"で主兵装を失うとは完全に予想外だったはずだ。あれがなければ後半の逆転は無かっただろうからな」 あの時の何かを探るようなセシリアの視線を思い出し、私は得心がいく。「良いんですか? 生徒にそんな事を言うと増長しますよ」「お前は自己評価が低いからな、これ位が良い案配だろう」 彼女は小さく笑った。「織斑には言うなよ、調子に乗る」 私は苦笑気味に「はい」と応え、青い空の白い軌跡に視線を走らせた。 「一夏っ! 何時までそんなところに居る! 早く降りてこい!」と、篠ノ之さんが山田先生から奪い取ったインカムで怒鳴った。それを聞いた織斑先生が頃合いだと「織斑、オルコット、急降下と完全停止をやって見せろ。地表から10cm以内が合格だ」と指示した。上空のISが急降下を始める。 ブルー・ティアーズは地上8cm、白式は地下1mだった。 授業で使った30番機の打鉄に私は"みお"と、名付けた。--------------------------------------------------------------------------------短編調の話が続くとどうも、つなぎにに違和感があります。サブタイトル入れた方が良いかも、と思いました。予定ですが、もう一回日常編を入れて、そのあと鈴編に入ります。それでは。