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No.32190の一覧
[0] くやビク。~くやしい!でもビクンビクン~ (異種族学園ファンタジー)[木乃伊](2012/03/17 16:03)
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[32190] くやビク。~くやしい!でもビクンビクン~ (異種族学園ファンタジー)
Name: 木乃伊◆a87ed05d ID:a6f3365c
Date: 2012/03/17 16:03
 ふと空を見上げれば、桃色の花びらが風に乗って空に彩を加えていた。
 青というキャンパスに点々と描かれたその模様は、人の手の届かない場所にのみ生まれた芸術であり、本来ならば自然と共に生きることを喜びとするわたくし達《森人族(エルフ)》をもってして美しいと賞賛していたのかもしれないが、そのとき、自分にそんな余裕はなかったように記憶している。
 四月某日。その日は、サクラの花が満開だった。
 その頃のわたくしは、その異界の花の名前すら知らず、それどころか何もかも知らない箱入り娘のまま、この海上都市『アルカンシェル』へと足を踏み入れたばかりで。
 寮に荷物を置き、ふと窓の外に目をやったときに飛び込んできたこの街全体を包み込む自由の風に惹かれるがまま、人の集う、賑やかな都心部へとふらふら誘われるように出向いていた。
 そこは、今まで見たことのないような活気に溢れていて、知らない出店がたくさん出ていて、何もかもが新鮮で、すれ違う人全てが「物語」にのみ登場してくる人物の特徴そのままで――わたくしらしくもなく、冷静さを欠き、心中ではしゃぎ回っていたことを、今なら認めることができる。
 里の中しか知らなかったかつての自分にとって、その世界は御伽噺に迷い込んだようだった。
 同族である森の民・エルフしか住んでいなかったあの小さな里とは違い、ここには全ての人種が揃っている。

 わたくし達《森人族》を初めとした、七種族の『知恵ある者』。
 それらは共通の言語を操ることを基準として、世界の代表に選ばれた誇り高き尊き人族。
 このバラバラに散った大地を集め、世界を復興し、いずれは元の完全なる状態に復元させるという使命を帯びた、約束の七英雄の末裔達。

 ……ええ、今ならそんな風に、考えることができています。
 けれどあの頃の……そのときのわたくしは、自分達エルフこそが至高にして唯一だと、自分達だけが世界を復元するだけの能力を秘めているのだと、驕りたかぶり、横柄な態度で、きっと誰からも憎らしげに見える、本当に可愛げのない娘だったことだろう。
 せめてもの言い訳を許してもらえるならば、あの頃のわたくしにとっては里の知識が全てであり、その里が数百年の間、外との交流を断ち切っていた偏見と都合のいい解釈の塊でしかなかったことを、ここに記させていただきたい。
 ともかく、そのときのわたくしはとても高飛車で、他者に頼ることをよしとせず、全てを見下していたので――その、なんというか、たとえ道に迷っていたとしても、それを聞くのが種族の恥に繋がると思っていたのだ。
 だって仕方のないことだ。海上都市にやって来た昨日の今日で、あの無駄に広くとにかく人でごった返ししていてろくに周囲も見渡せない都心部で、むしろ迷わない方がいればお目にかかりたい。
 いつのまにか人に流され、帰る道も分からなくなり、途方に暮れて、それでも表情にだけは絶対にだすまいと意地で歩き続けていたら、余計に事態は悪化する一方。

 いつしか、沢山の人が周囲を歩いているというのに、わたくしはどうしようもない孤独の中を一人、さ迷っていた。
 プライドが邪魔して、誰にも声をかけられず。
 そのくせ、誰かに声をかけられることには期待して。
 なのに、街道を埋め尽くすこれだけの人がいても、人々は自身の目的と夢に夢中で、周囲のことなんて誰も気には留めない。
 もちろん、わたくしから問いかければ、親切に道を教えてくださる方はたくさんいただろう。
 けれどそうしないのであれば、それは「手を差し伸べて欲しくない」という意思表示と同じこと。
 全ての種族を集めているが故に、異種族の考え方の違い、マナー、ルールにはとても敏感なこの土地では、誰彼構わず相手にすることは逆に相手にとって失礼にあたる可能性があるという暗黙の了解が根付いている。
 そうしなければ、いらぬトラブルを招く原因となる。それは非常に正しいことだとわたくしも思う。
 ここは「自由」の都市。
 だから、頑なに殻を閉ざしている自分には、あまりにも敷居の高すぎる場所だった。

「あのー、すみません」

 なのに。
 だというのに、あのおバカは……いえ。
 一・二時間歩き回った頃だろうか、いい加減足が痛くなっていたのを懸命に我慢して歩いていたわたくしに声をかけてきた者がいた。
 その時のわたくしの本音は、「ああ、助かった」に他ならないものだったろう。振り返り、その者を見るまでは。
 《獣人族(ドワーフ)》。その名のとおり、獣から人に成った種族の総称で、動物の面影を残した顔と毛深い体に小さな背丈、先祖それぞれによって異なる獣耳と尻尾をはやす、七種族の一人。
 わたくしに声をかけたのは、一族の中では平均的なほうの身長であるわたくしの胸あたりの位置に顔がある、とても小さな少年だった。だが、そのことは別に問題ではない。
 ドワーフという種族そのものが、エルフにとっては嫌悪の対象なのだ。
 遥かなる昔、それこそ七英雄時代から、ドワーフとエルフの先天的な考え方による仲違いは発生していたと古い本にも記されている。
 頑固で自身の知識と技術のみに偏り繊細さの欠片もない、典型的な職人肌で大食らいで姿形も野蛮そのものな山の民ドワーフとエルフは、言ってしまえば正反対、真逆の立ち位置にあるといえる。
 何から何まで合わない。すれ違う。顔を見合わせれば自然といがみ合いに発展する。
 これはもう、遺伝子レベルでの喧嘩に他ならない。
 好きとか嫌いとかそういった感情論の外にある問題だ。
 加えて当時のわたくしの、里にある「本」のみによって形成されていた内世界で、初めて出会ったドワーフにどういった印象を持つかなんて、まさに火を見るより明らかだった。
 具体的な言動ははっきり言って思い出したくはない。
 というよりその時のぐちゃぐちゃな心理状態での遭遇は、実はほとんど記憶に残っていないのだ。
 よほど酷いことを言ったらしいということは、後のあの子の態度から見てもだいたい想像はつくのだけれど。
 だが、これだけははっきりと覚えている。
 とにかく全身から嫌悪感を発していたわたくしに、あの能天気は、言うに事欠いてこう言ったのだ。

「オレ、この街に来たの今日が初めてで、道に迷っちゃったんです。ルシイド学園の男子寮って、どの辺にあるのか知りませんか?」

 あの子は出会った当初から本当に頭の悪いおバカだった。
 エルフとドワーフの確執。これは互いの種族どころか、他の全種族も知っている当たり前の一般常識。
 なのにあの子は、これだけ大勢歩いている人の中から、たまたまエルフであるわたくしを選び、声をかけたのだから。
 実は迷子であるわたくしのことを察して、とかそういう理由も一切なかったと、後日に本人の口から聞いている。もう本当にどうしようもない、考えられないお間抜けなのです、あのおバカは。
 海上都市に根付く街の暗黙の了解。
 このわたくしの精神状態。
 周囲の目。
 それら全てを一切合財無視し、まったく空気も読まず、へらへらと声をかけて来たのだから、少しばかりの罵声が飛び出しても、それは無理らしからぬことだと思う。本当に。
 わたくしは典型的なエルフとして、正しい接し方を彼に対して行った。これはなんというか、いわゆる正当防衛に値するといっても過言ではない。
 しかし繰り返すようだがその時のわたくしは迷子になっていたこともあってひどく錯乱状態にあり、普段の冷静沈着な自分からは考えられないくらいに、感情に任せた言葉を乱射してしまった。
 その中に、自分も迷子なのに分かるわけがありませんわこのド低能などと、怒りの言葉が混じっていたことがわたくしの人生一生の不覚にして、今後癒えぬことのない傷として墓場まで持っていく感傷になることだろう。
 つまり、勢いに任せて、自分も道が分からないことを、これまたよりにもよってあのお人好しに知られてしまったのだから、この時点で、わたくしの敗北は決まっていたようなものだった。
 彼はわたくしの早口に驚いたように目を丸くしていたが、それが収まったのを見るに、頬をかきながら、頭を捻りながら、こう言った。言いやがりました。

「なんだかよくわかんねえけど、お前も迷子だったのか。ならどうせだから一緒に帰ろうぜ。オレが道聞いてくるよ」
「なっ」

 ……その時ばかりは血管ぶち切れるかと思いましたわ。
 あの頭からっぽはわたくしが言った言葉の全部を理解できなかったことでなんと総スルーした挙句、一緒に行こうなどとほざきくさったのだ。
 驚きました。この広大な世界に、こんなにも頭の悪い生き物がいるなんて、と。
 言うが早いかわたくしの制止の言葉も耳にいれず、その辺の通行人から地図を貰ってあの子はすぐさまこちらに舞い戻ってきた。

「おーい、地図2枚貰ってきたからお前にも1枚やるよ。これでなんとか帰れるな。あー、よかった」

 無理やり渡された紙切れを握り締めたわたくしの前で、そいつはほっと胸を撫で下ろした後、地図に目を落として熟読を始める。
 天敵を前にして、あまりにも無防備なその姿。
 それでいて、わたくしの全ての癇に障る、その態度。
 全てが気に入らなかった。
 だがこれ以上、この無能と喋る言葉も持ち得ないと考え直し、わたくしは静かにその場を去った。あの阿呆は地図に読むのに夢中で、わたくしが離れていくこともまるで気がついていなかった。
 その日は無事に寮に帰れたものの、胸の怒りは一行に収まることなく、一日中イライラして過ごしていたことも、今では懐かしき思い出と言えるのかもしれない。
 やはりドワーフは本で読む以上に気に食わない一族だった。
 その考えを再認識させられた一日でもあったのだから。






「ふう……」

 こうして、サクラの季節が巡ってくると、あの日のことを、ついつい思い出してしまいます。 
 満開のサクラを見上げながら、風になびく自慢の髪をおさえ、わたくしは一人、物思いにふける。
 今でも思い出す。
 あの、突き抜けるような青の下で、今より少しだけ幼かった自分と、さらに子供じみていたあの子が出会った、あの日のことを。

「……ふん。分かっていますわ。ずっとずっと子供だったのは、わたくしのほうだということくらい」

 あれから一年。
 季節は回り、わたくしはあの頃よりも世界を知り、知識を得て、ずっとずっと成長できました。
 ちょっとだけ背も伸びましたし、悩みの種だったあっちの発育も、以前に比べれば、誤差の範囲を超える程度には膨らんだのだとそう解釈もできます。
 けれど、それでも。
 まだ、わたくしは、あの頃から、あの日から、一歩も前に踏み出せていないのです。

「おーい! チェルシー!」

 ふと、わたくしを呼ぶ声が背後から聞こえてきます。
 相変わらず周囲のことを考えない大声で、恥ずかしげもなくわたくしの名を呼ぶその行為はいつになったら止まるのか。再三注意しているのにも関わらず、一度もわたくしの苦言が通った記憶がない。
 あの子は学習能力を生まれてくる時に胎内に置き忘れてしまったのでしょう。もはやおバカというカテゴリーでは本物のおバカに失礼にあたるのではとわたくしは考えを改め始めている。
 駆け寄ってきた小さな少年に、わたくしはこれ見よがしにため息をつき、半眼で見下ろします。
 身長差的に、これがわたくしとこの子の普段の会話風景。

「……いい加減、わたくしの名前を大声で呼ぶのはやめてくださらない? その小さな頭には何が詰まっているんですの? イソギンチャクか何かが住んでいらっしゃるのかしら」
「イソ……? なんだかよくわかんねえけど、そろそろ始業式が始まるみたいだぞ。クラスも発表されるみたいだし、急ごうぜ」
「なんでわたくしが貴方と一緒に行かなくてはいけないんですの。冗談じゃありませんわ」

 ドワーフとエルフの確執。
 全ての種族がごった返しに通う、このルシイド学園でも、それは決して例外ではありません。
 種族間の垣根を越えた自由、などと綺麗事を校訓にしているこの学校でも、やはり昔ながらの対立を完全に破壊できているわけではないのです。むしろ目を覆って、無理やり一箇所に集めているだけ。
 それでは何も解決しないし、何も成長しない。
 このわたくしのように。

「シュリが呼んでるんだよ。それに、みんな待ってるし」
「……はあ」

 わたくしの態度を前にしても、相変わらずこの子はいつも通りだ。
 出会ったあの日の頃から、この子もわたくしと同じように、なにひとつ変わっていない。
 でも、それでいいのだと思う。いや、そうでなければ、困るともいえる。
 そうでないと、いつまで経っても、追いつけないのだから。

「もういいですわ。せっかくの風情が台無しですし。先に行きますわよ」

 さっさと彼に背を向けて、先を歩く。無礼極まりないその態度に、嫌な女だと落ち込む必要はない。

「あ、待てって、オレも一緒に行くよ!」

 どうせ彼は気にしないし、すぐに隣に並ぶのだから。
 わたくしと同じ歩幅で、歩いてくるのだから。

「もうオレ達も2年生かあ。今年も沢山遊べるといいなあ」
「貴方はまず学業のほうに身を費やしたほうがよいのではなくて? 今年は自動進学じゃありませんわよ」
「え、そうなの?」
「……まったく」

 おバカさんの相手は疲れる。
 特にここ最近は、この子と話している度に、何か居心地の悪いものを感じる。
 胸が、落ち着かなくなる。
 ふと空を見上げれば、桃色の花びらが風に乗って空に彩を加えていた。
 青というキャンパスに点々と描かれたその模様は、人の手の届かない場所にのみ生まれた芸術であり、本来ならば自然と共に生きることを喜びとするわたくし達エルフをもってして美しいと賞賛していたのかもしれないが、今年も、そんな余裕は自分にはありそうにもなかった。

(今年こそは、言えるかしら――あの時、地図を貰ったことの、そのお礼を)

 ずっとずっと、気にかけていること。礼儀を重んじるエルフとして、どうしても果たさなければならない義務。
 それはこの先の人生の命題のようにも感じられて、わたくしにはやはりまだまだ荷が重そうだった。



 季節は春。
 この海上都市アルカンシェルでの二度目の学校生活が、始まろうとしていた。





《続く》











後書き:
ツンデレはゆで卵のように繊細です。
ツンとデレに自身でも戸惑う時期である半熟の頃がもっとも美味しいが、生すぎるツン、硬すぎるデレに偏りすぎては途端に魅力がなくなってしまう。
ゆで卵の茹で時間は平均6分、その前後で硬さを調節するのが一般的です。
このお話は、ツンデレが持つ旨味を最大限に引き出す半熟、すなわち6分の時期に目を向けて書いていくのがコンセプトです。
飽和し、近年は次第に減り始めた「ツンデレ」の可能性に一石を投じるこの企画。
もちろん出てくるのはツンデレだけではありませんが。
最初に言っておきましょう。ツンデレ=負けの噛ませ犬という理論はこの世界では通じないと知れと。
ちょろくもなければ甘くもない、それがツンデレです。

ツンデレには様々な解釈があり、またそれによって魅力とポイントが異なるのですが、この講義は後日。
それと不自然な一人称を晒してすみませんでした、次回からは三人称でいきます。


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