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No.32064の一覧
[0] 【チラ裏より移転】おもかげ千雨 (魔法先生ネギま!)[まるさん](2012/03/24 23:09)
[1] 第一話「『長谷川千雨』と言う少女」[まるさん](2012/03/15 23:21)
[2] 第二話「キフウエベの仮面」[まるさん](2012/03/15 23:27)
[3] 第三話「少女と仮面」[まるさん](2012/03/16 13:47)
[4] 第四話「大停電の夜」[まるさん](2012/03/16 13:49)
[5] 第五話「モザイク仮面」[まるさん](2012/03/17 22:07)
[7] 第六話「君の大切な人達へ(前編)」[まるさん](2012/03/17 22:41)
[8] 第七話「君の大切な人達へ(後編)」[まるさん](2012/03/17 23:33)
[9] 第八話「今日から『明日』を始めよう」[まるさん](2012/03/18 22:25)
[10] 第九話「関西呪術協会」[まるさん](2012/03/19 20:52)
[11] 第十話「彼らの胎動」[まるさん](2012/03/20 21:18)
[12] 第十一話「京都開演」[まるさん](2012/03/21 23:15)
[13] 第十二話「夜を征く精霊」[まるさん](2012/03/23 00:26)
[14] 第十三話「恋せよ、女の子」[まるさん](2012/03/23 21:07)
[15] 第十四話「傲慢の代償(前編)」[まるさん](2012/03/24 23:58)
[16] 第十五話「傲慢の代償(後編)」[まるさん](2012/03/26 22:40)
[17] 第十六話「自由行動日」[まるさん](2012/04/16 22:37)
[18] 第十七話「シネマ村大決戦その①~刹那VS月詠~」[まるさん](2012/04/24 22:38)
[19] 第十八話「シネマ村大決戦その②~エヴァンジェリンVS呪三郎~」[まるさん](2012/05/01 22:12)
[20] 第十九話「シネマ村大決戦その③~千雨VSフェイト~」[まるさん](2012/05/06 00:35)
[21] 第二十話「そして最後の幕が開く」[まるさん](2012/05/12 22:06)
[22] 第二十一話「明けない夜を切り裂いて」[まるさん](2012/05/21 23:32)
[24] 第二十二話「【リョウメンスクナ】」[まるさん](2012/06/05 00:22)
[25] 第二十三話「『魂』の在り処」[まるさん](2012/06/14 22:30)
[26] 第二十四話「サカマタの仮面」[まるさん](2012/06/21 00:50)
[27] 第二十五話「鬼達の宴」[まるさん](2012/07/05 21:07)
[28] 第二十六話「『よかった』」[まるさん](2012/07/16 20:06)
[29] 幕間「それぞれの戦場、それぞれの結末」[まるさん](2012/08/17 21:14)
[30] 第二十七話「涙」[まるさん](2012/08/26 14:27)
[31] 第二十八話「春になったら」[まるさん](2014/08/10 15:56)
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[32064] 第十八話「シネマ村大決戦その②~エヴァンジェリンVS呪三郎~」
Name: まるさん◆ddca7e80 ID:e9819c8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/01 22:12
――私の全ては貴女のために。



ガシャリガシャリと音を立て、高速で屋根の上を疾走する影が三つ。
ひょろりと長い背丈の男を中心に、よく似た、否、同じ顔をした者が、二体。
『傀儡師』呪三郎と、彼の操る双子の人形、『安寿』と『厨子王』である。

「やれやれ、月詠ちゃんが護衛の子を引きつけてる間にお嬢様を掻っ攫えだなんて、衆人環視の真っただ中でやるには、強引すぎると思うけどねぇ」

呪三郎がそうぼやく。無論、彼の両脇を固める人形は、応える声を持たない。

「つまらないなぁ。どうせなら、フェイト君に代ってほしかったよ」

今頃、敵の中でも最大の不確定要素であるあの仮面の少女を誘き出しているであろう白の魔法使いの事を思い、呪三郎はますます唇を尖らせる。

「ま、いいか。肝心要のお嬢様を攫えば、後は楽しい関東魔法協会との戦争だ。君達も、さぞかし美しく彩られるんだろうねぇ」

ちらりと人形達に視線を送り、呪三郎は己の愛し児達が血に塗れながら踊る姿を思い、にやにやと厭らしい笑みを浮かべた。

「さてさて、それじゃあお嬢様はどこかな……っ!?」

周囲を見回そうとした呪三郎は、突如発生した何かに言葉を詰まらせた。
殺気でもない、敵意でもない。いうなれば、【存在感】。ただそこにあるだけで、決して無視できない気配。それがこちらに向かってくるのを、呪三郎は感じたのだ。

(護衛の剣士は月詠ちゃんが、仮面の娘はフェイト君が引きつけている。あの子供の先生とその従者もここにいる筈がない。何だ?誰だ?)

足を止め、その場で考えを巡らせる呪三郎。そうしている内に、彼女は呪三郎の前に降り立つ。
とん、と人間一人が高高度から降り立ったにしては、あまりに軽い音と共に姿を現した少女に、呪三郎は目を見張る。
風にたなびく金の髪。深い蒼の瞳。何者にも汚された事のないような、新雪を思わせる白い肌。着ている服こそみすぼらしい絣の着物だが、それでも彼女の美しさが損なわれる事は決してない。
肩に小柄な人形を留らせたまま、視線を上げたその少女は、呪三郎の姿を認めるなり、その小さな唇を不敵に釣り上げた。

「……軋む関節の音。擦れる糸の音。馴染み深く、聞きなれた音と思い来て見れば、案の定だったか」

「……君は……、君が……!?」

呪三郎の目が、ある種の確信めいた予感に輝く。そんな視線を受けながら、少女は悠然と名乗った。

「はじめまして、だな。私の名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。通りすがりの――吸血鬼だ」

「【人形遣い《ドールマスター》】……!!」

呪三郎の口から、歓喜を伴ってその名が毀れる。

「ふふん、やはりその名で呼ぶか、ご同類。それにしても……」

エヴァンジェリンは呪三郎の傍らに立つ『安寿』と『厨子王』をじろじろと眺めた。

「ふむ、美しいな。少々血腥いが、良い人形だ」

呪三郎の二体の人形の持つ、妖しいまでの魅力。それを認めたエヴァンジェリンは、素直にそれらを称賛した。

「造形の匠としても知られる貴女に褒められるとは、光栄の極みだね」

エヴァンジェリンの言葉に、呪三郎は嬉しくなってしまった。たとえどのような相手であれ、己の芸術を理解してくれる存在は喜ばしい。

「ああ、こちらの自己紹介がまだだったね。僕は【傀儡師】呪三郎。この子達は僕の自慢の双子の兄弟、『安寿』と『厨子王』だ」

「呪三郎……。人形を使う酔狂な殺し屋と、どこかで聞いた事があるな。まぁ、私が言えた義理ではないが」

そう言って肩を竦めたエヴァンジェリンは、すぅ、と目を細めて呪三郎を見る。

「さて……、興味本位で訊ねたついでに聞くのだが、やはり狙いは近衛木乃香、でいいのか?」

エヴァンジェリンの問い掛けに、呪三郎は意外そうに眼を瞬かせた。

「……お仲間からは何も聞いてないのかい?」

「関西と関東のいざこざに興味などない。今回の一件、私はほとんど関わりは持っておらん」

その言葉を聞いた呪三郎は、しばし思案する。

(どうやらあの時フェイト君が言った通り、今回の修学旅行入りは本当に只の気紛れっぽいな。しかし……)

エヴァンジェリンと麻帆良の事情を知らない呪三郎はそう解釈した。そして、それならばそれで、困った。と、同時に思う。相手の行動が気紛れの産物ならば、これから先どう動くか読めなくなる。これも厄介だが、呪三郎が思うのは自分方の理由である。

(千載一遇のチャンスなんだがねぇ。もしここを逃せば、もう【人形遣い】と殺し合う機会なんてないかもしれない)

呪三郎にとって、今回の仕事のモチベーションの大半を占めるこの要因は、決して無視できるものではない。何とかそちらの方向へエヴァンジェリンを動かせないかと、呪三郎は口を開いた。

「まぁ、確かに僕が受けた依頼は、近衛木乃香の誘拐における遊撃要員として動く事さ。最初はつまらない依頼だと思ったけど、これがなかなかどうして、楽しいイベントが盛り沢山の様でね」

呪三郎はそう言って舐めるような視線をエヴァンジェリンに送る。その視線に露骨な嫌悪感を出しつつ、エヴァンジェリンは腕を組む。

「ふむ、やはりそうか……。先にも言ったが、関西と関東のいざこざに関わる気はない。が、その対象が近衛木乃香とあれば話は別だ」

エヴァンジェリンはぎろりと呪三郎を睨みつける。その瞳に宿る剣呑さに、呪三郎は内心で快哉を上げる。どうやら、自分の望むとおりの展開になりそうだ、と。

「近衛木乃香自身には特に思い入れはないのだが、あいつに関しては、何故か我が友が心を砕いているようなのでな」

エヴァンジェリンは、千雨本人が聞いたら静かに否定しそうなセリフを放ちつつ、にやりと笑う。

「悪いが、邪魔をさせてもらうぞ。【傀儡師】呪三郎」

そんなエヴァンジェリンの言葉に、呪三郎は滴る様な笑みを浮かべて嗤う。

「くくくっ……、くはははは……。くかかかかかかかかかかっ!!だいっかんっげいっさ!!【人形遣い】エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!!!」

呪三郎は狂笑を上げながら、腕を大きく広げる。そこから走った極細の見えざる糸が、二体の人形に息吹を吹き込む。そんな主の意を受けて、『安寿』と『厨子王』が掌からじゃきりと刃を出し、エヴァンジェリンに向き直る。

「ふふ、折角の同類の戦いだ。余芸に走るのも無粋だな……。チャチャゼロ」

「オ?出番カヨ、ゴ主人?」

エヴァンジェリンの呼び掛けに応え、今まで黙って肩の上にいたチャチャゼロが小首を傾げながら主を見やる。

「相手ハ人形カヨ。血モ出ネェシ痛ガリモシネェカラ、斬ッテモツマンナサソウダケドナ」

「何、これからが面白いところだ。喜べ、チャチャゼロ。久しぶりに、使ってやる」

その言葉を聞いた瞬間、チャチャゼロの顔が目に見えるほどぱぁっと輝いた。

「オホッ!?マジカヨ、ゴ主人!俺ヲ直接使ウナンテ、何百年ブリダヨ!?」

「純粋に人形繰りとして使うのは、大体二百年ぶりぐらいか。さて、腕が錆びついてなければいいが」

「下手ニ動カシテ、俺ノ手足ヲブッタ切ラナイデクレヨ?」

「ぬかせ。……やるぞ、チャチャゼロ。全て預けろ」

「オウヨ!」

エヴァンジェリンの肩から飛び降りたチャチャゼロは、降り立った瞬間、かくりと力を失ったかの様に、その場に崩れ落ちた。
直後、エヴァンジェリンが五指を大きく広げる。すると、力を失っていたチャチャゼロの体が立ちあがり、腰から引き抜いたナイフをその小さな両手に構えた。
その様子を見ていた呪三郎が歓喜に震える。純粋な人形繰りのみで、エヴァンジェリンは自分の相手をしようとしているのである。自分がエヴァンジェリンを超えるにあたり、これほど素晴らしい状況は他にない。

「くかかかかか!後進の技の冴えをお見せするよ!【人形遣い《ドールマスター》】!」

「ならばこちらは、先達の技の極みを見せてやろう、【傀儡師】!」

その舌戦を皮切りに、エヴァンジェリンの駆る『チャチャゼロ』と、呪三郎の操る『安寿』、『厨子王』が、江戸の街並みを背景に激突した。



時折響く金属音。それを不審に思う人はいれど、辺りを見回しても何もない。やがて、気のせいかと思い、再びひと時の過去旅行を楽しみ始める。
その陰で、二人の人形使いが使役する三体の人形が、刃を交わし、火花を散らす。

甲高い金属音と共に、『チャチャゼロ』と『厨子王』の刃が打ち合わされる。ぎりぎりと鍔迫り合いをする二体の背後から、『安寿』が躍りかかる。その口ががばりと裂け、そこから覗いた砲口から鉄針の群れが発射される。それが『チャチャゼロ』の体を砕く直前、『チャチャゼロ』は打ち合う刃を中心に体を一気に引き起こした。小さな体が真上を向き、結果、目標を見失った針の群れは『厨子王』の体に突き刺さる。
それに戸惑うような様子で一瞬動きが止まった『安寿』に、今度はチャチャゼロが襲い掛かる。
連続で繰り出されるナイフを掌に仕込んだ刃で受け止めていく『安寿』だが、『チャチャゼロ』の猛攻はその防御の上をいく。一瞬の隙を突いたナイフの一閃が、『安寿』の体を袈裟がけに切り裂く。
刹那の繰り出した神鳴流の技を持ってしてもかすり傷程度しか負わせる事が出来なかった『安寿』の装甲に、幾つもの傷が入る。
それを見た呪三郎の顔が驚愕に強張る。

(人形に剣技を使わせる、だと……!?)

『チャチャゼロ』のナイフは、ただ闇雲に振られている訳ではない。その一閃一閃に、人が振うそれと同様の、技が使われているのである。加えるならば、そこに気や身体強化系の魔力の流れはない。ただ納めた技のみで、『チャチャゼロ』は戦う。それが、どれほど難しい事なのか、同じ人形使いとして呪三郎は痛いほど理解した。

(まさかこれほど差があるとは……!)

呪三郎は、傷ついていく愛し児達の姿に歯噛みする。両者の差は、それぞれの人形を見れば明らかであった。
傷だらけの『安寿』と『厨子王』とは対照的に、『チャチャゼロ』にはかすり傷一つもない。もうひとつ言えば、両者の差は、それぞれが操る人形からしてすでにハンデが付いていた。
ギミック満載の『安寿』、『厨子王』と違い、『チャチャゼロ』はそれだけ見るならば、木製の簡素な人形である。それでも尚、双方の損壊具合が明らかなのは、偏に操者の腕によるものであった。

「……驚いたよ。まさか、これほど技量の差が明らかなんて」

冷や汗を流しながら、引き攣った様な笑みを浮かべる呪三郎。

「いや、誇ってもいいぞ?どれ程の物かは知らんが、長くても数十年程度の研鑽で、私に食らいついてくるのだから」

それとは対照的に、エヴァンジェリンは涼しい顔である。
エヴァンジェリンの技の研鑽は、それこそ数百年にも及ぶ。人形繰りがある種の芸能の一種であるならば、無論修練が長い方に結果が傾くのは必然である。
だが、とエヴァンジェリンは思う。

(段々と、動きが良くなっている)

戦う最中、呪三郎の駆る人形の動きは、徐々にと鋭く、滑らかになっていた。呪三郎が意識しているかは分からないが、明らかにこちらの技術を見て覚えている。常人ならば何年も掛けないと到達できない領域を、呪三郎はエヴァンジェリンと言う達人と接する事により、凄まじい早さで駆けあがって来ているのである。

(どこにでも、『天才』と呼ばれる者はいるのだな)

エヴァンジェリンは、内心で呪三郎の才に舌を巻く。それは、達人の域に到達するまでに、百年単位の時間をかけなければならなかった、凡夫である自分には縁のない物である。

「……人形達は傷だらけだが、どうする?」

「ならば尚の事さ。この子達の借りを返さぬまま、退く訳にはいかないよ」

冷や汗を拭い、呪三郎はにたりと笑う。そして呪三郎の手により、再び二体の殺戮人形が襲い掛かる。それを受け、エヴァンジェリンもまた、『チャチャゼロ』を繰る。
その様に繰り広げられる戦いを、間近で見つめる者がいた。
エヴァンジェリン操る『チャチャゼロ』の中にある、チャチャゼロ自身であった。

(ヤッパ俺ノ体ヲ操ルノハ、ゴ主人ガ一番上手ェナ)

文字通り目の前で振るわれる己の主の技を見て、チャチャゼロは物思いに耽る。
それは、自分がただの人形から『チャチャゼロ』に至るまでの事であった。



エヴァンジェリンが人形繰りの技を得たのは、彼女が吸血鬼と化してから、およそ百年後の後の事である。
この頃に魔導の技をほぼ極めたエヴァンジェリンが求めたのは、己を守護してくれる従者の存在であった。エヴァンジェリンをつけ狙う教会の騎士や賞金稼ぎの攻勢は、日々苛烈さを増し、魔法使いとして大成したエヴァンジェリンを持ってしても危うい物であったのだ。
だが、真祖の吸血鬼の従者になりたいと望む者などいなかった。よしんばいたとしても、それはエヴァンジェリンに取り入ろうとする者や、吸血鬼化による不老不死と言う幻想に取りつかれた、碌でもない者達ばかりであった。
そのように報われぬ日々を送っていたある時、エヴァンジェリンはロンドンの片隅で一人の老いた人形使いに出会った。
その技を目の当たりにした時、エヴァンジェリンはこれだ、と思った。人より早く動き、人より強靭な力を振い、尚且つ老いず、終生を共にしてくれるかもしれない人形達。それこそ、自分の従者に相応しいと、エヴァンジェリンはそう思った(実際は、一向に見つからぬ従者候補を探すのに疲れていたという事もあった)。
エヴァンジェリンはすぐにその人形使いに弟子入りを志願し、これを受け入れられると猛然と修練に励んだ。だが、エヴァンジェリンの人形使いの才は並みであり、相当の月日を掛けねば達人と呼ばれる域に行く事は出来ぬだろうと師に言われた。
しばし落ち込んだエヴァンジェリンだが、時間だけならば人よりも遥かにあると、開き直って修練に精を出していた。
そんなある日、エヴァンジェリンが吸血鬼である事が師にばれてしまった。どうなる事かと思ったエヴァンジェリンだが、師である人形使いはその事を寧ろ喜んだ。

『連綿と受け継がれてきた人形繰りの技だが、俺の代で絶えるかと思った。後を任すにゃ、お前はちぃと頼りなかったしな』

そう言ってからからと笑う師に、エヴァンジェリンが落ち込んだのは言うまでもない。だが、次いで師は言った。

『だけどよ、実は吸血鬼だったお前がこの技を習得してくれりゃ、俺達の技も、歴史も、魂も絶える事はねぇ。ありがてぇこった』

吸血鬼となって初めて人に感謝されたエヴァンジェリンだが、なんだか釈然とせずに首を捻ったものである。
以降、その人形使いは持てる技術の全てをエヴァンジェリンに叩き込み始めた。
人形繰りは勿論のこと、人形の作り方や鋼糸を使った戦闘技法など、それらの技術は多岐に渡った。その修練は過酷を極めたが、エヴァンジェリンは不思議とそれらが嫌ではなかった。長く忘れていた人との触れ合いが、そこにあったからなのかもしれない。
やがて、師である人形使いが土に返っても、エヴァンジェリンは一人で修練を続け、半世紀の後、ついにこれを完全にマスターする事に成功したのである。
エヴァンジェリンの二つ名に【人形遣い《ドールマスター》】の名が加わったのは、丁度この頃である。
チャチャゼロは、そんな時代にエヴァンジェリンに造り出された人形の内の一体であった。
無論、当時は名等なく、エヴァンジェリンの盾となって戦う意思無き人形の一つにすぎなかった。
同時期に造りだされた同胞達は次々と戦いの最中打ち壊され、新しい人形達も、当初の簡素な物ではなく、応用が利くようになったエヴァンジェリンの手によって、高性能な物ばかりとなっていった。
それでも、何故かチャチャゼロは壊れず、せいぜい腕や足がもげる程度の損壊で、いつも戦場から帰って来た。その不思議な偶然に首を傾げつつも、今や自分と最も古い付き合いとなった名もなき人形に、エヴァンジェリンはいつしか愛情を注ぐようになっていた。
そんなある日、いつも以上に激しい教会騎士達の攻勢に、賞金稼ぎ達の強襲が加わり、エヴァンジェリンはそれまでで最大の危機に陥った。人形達はあらかた壊され、残るのは数体の人形のみ。そして、遂に人形達の防衛網が破られ、一人の騎士がエヴァンジェリンに迫った。
最早これまで、と覚悟をしたエヴァンジェリンの前で、そんな時まで傍らにいた名も無き人形は目覚めた。
突如勝手に動き出し、迫っていた騎士を切り殺したその人形は、唖然とするエヴァンジェリンにたどたどしく訊ねた。

「ツ、次ハ、ダダ、誰ヲ、殺シ、マス、カ?ゴ、ゴ主人、サマ?」

真祖の吸血鬼の膨大な魔力と妖気。そして浴びた血と怨嗟の声が、冷たい人形の体に命を吹き込んだのである。
九十九神。東洋では、そう呼ばれる現象であった。それでも、その過程が通常よりも遥かに短かったのは、エヴァンジェリンの魔力や、浴びた血と恨みが尋常の物ではなかったが故であろう。
自立した意思を持った人形の手を借り、その窮地を何とか脱したエヴァンジェリンは、ことのほか、かの存在を喜んだ。
己と終生を共にできる、初めての存在。こうして、名もなき人形は、『チャチャゼロ』の名と共に、エヴァンジェリンの最古の従者となったのである。
自立行動が可能になったといっても、チャチャゼロはエヴァンジェリンに操られる事を何時も望んだ。チャチャゼロにとって、己の戦闘技巧の全ては、操っていたエヴァンジェリンから吸収した物ばかりである。つまり、チャチャゼロにとって、エヴァンジェリンは生みの親であり、主であり、そして戦いの師でもあるのだ。
その師の戦いを己の体を通して目の当たりにする事は、チャチャゼロ自身にとっても大きな経験になる。
何よりエヴァンジェリンに操られる時、チャチャゼロは得も言われぬ充足感に満たされる。或いはそれは、母に抱かれているような気分なのかもしれない。

(今ジャ末ノ妹ミタイナ奴バッカリダカラ、アンマ動カシテモラエネーケド)

目の前で自身の体に刃が迫ろうとも、チャチャゼロは焦る事など決してない。己以上に己を上手く動かせる主が、この体を操っているのだから。



幾合、刃を交わしただろうか。呪三郎の人形の損壊は激しく、『安寿』に至っては腕が一本もげている。
それでも、呪三郎は引く事はしない。自身でも感じているのだ。その一合一合で、己の人形繰りの腕が高まっているのを。
何処までいけるのか、何処まで極める事が出来るのか。
呪三郎は、いつしか血に酔う事も、【人形遣い】の称号の事も忘れ、ただただ人形を操る喜びを思い出し始めていた。
その時、突如シネマ村全体にあり得ないほどの魔力の波が広がり、二人の戦いは中断せざるを得なくなった。

「!?なんだ!?」

その発生原因を求め周囲を見回すエヴァンジェリンの前で、呪三郎に呪符を介した念話が届く。

《退くで、呪三郎!》

はたしてそれは、己の雇い主である天ヶ崎千草であった。

《……かなり面白くなっていた所なんだがねぇ。さっきの魔力が原因かい?》

《そうや。あれがお嬢様の秘めた力や……!素晴らしい、予想以上や……!!》

興奮のためか、千草の声は上ずっている。

《確保しなくていいのかい?》

《人が集まりすぎ取る。それに、お嬢様が力に目覚めた以上、下手に抵抗されたら余計な面倒を被りそうや。連中はどうやら本山に引っ込む気ぃらしいから、そこに賭けるで》

《ふぅん……。ま、いいよ、了解》

そう内心で呟き、念話を閉じた呪三郎は、未だあちこちを見回すエヴァンジェリンの隙をつき、懐にあった転移の符を発動させる。その魔力の発動に気付いたエヴァンジェリンが慌てて呪三郎の方を見ると、呪三郎と二体の人形は、すでに淡い光の中に溶けかけていた。

「今日は実に有意義な時間だったよ、【人形遣い《ドールマスター》】。次はこんな無様は曝さないよ?」

そう嗤って、呪三郎はその場から姿を消した。

「……逃がしたか」

エヴァンジェリンの顔に苦い物が浮かぶ。次に会う時は、呪三郎の言葉通り、今日のようにはいかないだろう。それほどまでに、呪三郎の上達速度は異常だった。

「正に人形を繰る為に生まれてきたような奴だったな」

「羨マシイノカ、ゴ主人?」

いつの間にか再び自立していたチャチャゼロが、体の調子を確かめる様に動きながら訊ねた。

「まさか。奴は奴。私は私だ。修練に修練を重ねたあの日々は中々に辛かったが、それでもそれを通して今の私がある。……それより、先の魔力が気にかかる。大体の見当はつくが、一度行ってみるぞ、チャチャゼロ」

「アイサー、ゴ主人」

チャチャゼロはぴょこんとジャンプすると、再びエヴァンジェリンの肩に摑まる。
そして屋根から屋根に飛び移り現場に向かう最中、エヴァンジェリンは訊ねた。

「……体の具合はどうだ?」

「オオ、大丈夫ダゼ。チィト関節ガ軋ンデル気ガスルケド」

「そうか。宿に帰ったら、一度ばらしてメンテしてやろう」

「イツモスマナイネェ」

「それは言わない約束よ……って、お前と私の場合、セリフの立場が逆だろうが!」

確かに、生みの親であるエヴァンジェリンが娘役のセリフでは、逆であった。

「ナンデェ、ジャア、「ママン」トデモ呼ンデヤロウカ?」

「はっ、お前のような口汚い娘はいらん」

「俺モゴ主人ミテェナツルペッタンノ鰻腹ノ母親ハイラネェナ」

「くきぃぃぃぃっ!! ゆ、言うてはならん事をぉぉぉぉっ!!」

「ウオッ!? ユ、揺ラスナヨ、ゴ主人!?」

そんな風にじゃれているのか喧嘩しているのかわからない様子で、エヴァンジェリン主従はシネマ村を駆けて行った。



【あとがき】
エヴァンジェリン完勝です。経験の差がもろに勝敗を左右しました。ただ、次に戦う事があれば、こうは簡単にいきません。天才、呪三郎のリベンジにご期待下さい(笑)。
そしてシネマ村三番目の決闘を飾るのは、長谷川千雨VSフェイト・アーウェルンクス。
その実力は魔法世界を含めても最強クラスの魔法使いと、未だ実力の底を見せない仮面使いが激突します。
それでは、また次回。


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