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No.32064の一覧
[0] 【チラ裏より移転】おもかげ千雨 (魔法先生ネギま!)[まるさん](2012/03/24 23:09)
[1] 第一話「『長谷川千雨』と言う少女」[まるさん](2012/03/15 23:21)
[2] 第二話「キフウエベの仮面」[まるさん](2012/03/15 23:27)
[3] 第三話「少女と仮面」[まるさん](2012/03/16 13:47)
[4] 第四話「大停電の夜」[まるさん](2012/03/16 13:49)
[5] 第五話「モザイク仮面」[まるさん](2012/03/17 22:07)
[7] 第六話「君の大切な人達へ(前編)」[まるさん](2012/03/17 22:41)
[8] 第七話「君の大切な人達へ(後編)」[まるさん](2012/03/17 23:33)
[9] 第八話「今日から『明日』を始めよう」[まるさん](2012/03/18 22:25)
[10] 第九話「関西呪術協会」[まるさん](2012/03/19 20:52)
[11] 第十話「彼らの胎動」[まるさん](2012/03/20 21:18)
[12] 第十一話「京都開演」[まるさん](2012/03/21 23:15)
[13] 第十二話「夜を征く精霊」[まるさん](2012/03/23 00:26)
[14] 第十三話「恋せよ、女の子」[まるさん](2012/03/23 21:07)
[15] 第十四話「傲慢の代償(前編)」[まるさん](2012/03/24 23:58)
[16] 第十五話「傲慢の代償(後編)」[まるさん](2012/03/26 22:40)
[17] 第十六話「自由行動日」[まるさん](2012/04/16 22:37)
[18] 第十七話「シネマ村大決戦その①~刹那VS月詠~」[まるさん](2012/04/24 22:38)
[19] 第十八話「シネマ村大決戦その②~エヴァンジェリンVS呪三郎~」[まるさん](2012/05/01 22:12)
[20] 第十九話「シネマ村大決戦その③~千雨VSフェイト~」[まるさん](2012/05/06 00:35)
[21] 第二十話「そして最後の幕が開く」[まるさん](2012/05/12 22:06)
[22] 第二十一話「明けない夜を切り裂いて」[まるさん](2012/05/21 23:32)
[24] 第二十二話「【リョウメンスクナ】」[まるさん](2012/06/05 00:22)
[25] 第二十三話「『魂』の在り処」[まるさん](2012/06/14 22:30)
[26] 第二十四話「サカマタの仮面」[まるさん](2012/06/21 00:50)
[27] 第二十五話「鬼達の宴」[まるさん](2012/07/05 21:07)
[28] 第二十六話「『よかった』」[まるさん](2012/07/16 20:06)
[29] 幕間「それぞれの戦場、それぞれの結末」[まるさん](2012/08/17 21:14)
[30] 第二十七話「涙」[まるさん](2012/08/26 14:27)
[31] 第二十八話「春になったら」[まるさん](2014/08/10 15:56)
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[32064] 第九話「関西呪術協会」
Name: まるさん◆ddca7e80 ID:e9819c8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/19 20:52
二人の人間がいれば、それぞれの意見の相違からある程度の争いが起きるのは必然である。
それが組織ともなれば、争いの規模、複雑さは個人の比ではなく、凄まじい物となるだろう。
尤も、巻き込まれる側としては、たまった物ではないが。



「えーと、皆さん!来週から僕達3-Aは、京都・奈良へ修学旅行に行くそうで……!」

壇上にて、ネギ・スプリングフィールドが差し迫る修学旅行について話している。その顔はニコニコとして、大変上機嫌な様子である。

「もー準備は済みましたかー!?」

ネギの呼び掛けに対し、ノリのいい3-Aの生徒達は、

「「「はーい♡」」」」

と、小学生の様に答えた。
麻帆良中学の修学旅行は4泊5日と割と長い目のスケジュールを取っている。中学生活最後の思い出作りの一つとしては、絶好の機会であろう。

「京都」

俄かに騒がしくなる教室内で、千雨はぽつりと行き先を呟く。

「京都ですね。長谷川さんは、京都に行った事はあるですか?」

隣の席に座っていた夕映が、その呟きを聞きつけたのか話しかけて来た。

「いや、ないな」

千雨はいつもの如く簡潔に答える。

「私もありません。神社・仏閣・仏像マニアを自認する私としては、一度は行ってみたいと思っていたので、正に願ったり叶ったりです。……まぁ、私よりもずっと嬉しそうな方がそこにいらっしゃるですが」

夕映は視線を千雨を飛び越えた先に向けた。

「ふむ」

一つ頷いた千雨は、視線を夕映と同じ方向に向ける。
するとそこには、輝くばかりの笑顔を浮かべている吸血鬼の姫がいた。

「ふふふ~♪京都、京都~♪」

「ああ、マスターがあんなに嬉しそうに。録画モードを開始します」

鼻歌まで歌っているエヴァンジェリンを見ながら、茶々丸は己の電子頭脳にその姿を記録する。

「嬉しそうだな、エヴァンジェリン」

「ふはははは!当たり前だ!」

エヴァンジェリンは千雨に力強く言った。

「あの糞忌々しい呪いのせいで、私は修学旅行だけは行った事が無いんだ!だが今年は違う!人生初、長い人生初の修学旅行だぞ!これを楽しみにせんで何を楽しみにするというんだ!」

「良かったですね、マスター」

拳を握りしめ力説するエヴァンジェリンを相変わらず撮影しながら、茶々丸は流れてもいない涙を拭う仕草をする。

「……そうか」

予想以上にテンションが上がっているエヴァンジェリンに、千雨はそう返すしかなかった。
そんな千雨を見ていた夕映は内心で思う。

(ふふふ、わかる、わかるですよ、長谷川さん。日々『長谷川さんマスター』を目指す私にはわかるです。長谷川さん、エヴァンジェリンさんのテンションに置いていかれているように見える貴女ですが……)

夕映はくわっと目を見開いた。

(その実、ちょっとだけ修学旅行を楽しみにしてるですね!)

そんな夕映の内心の呟きに呼応した様に、エヴァンジェリンから千雨に問い掛けが飛ぶ。

「ふふん、千雨よ。そう言うお前はどうなのだ?実は結構楽しみにしてるのではないか?」

その言葉に対し、千雨は一言。

「多少は」

と答えた。
その瞬間、隣の夕映が「yesですッ!」と快哉を上げたが、千雨には何の事か判らなかった。



あっという間に一週間は流れ、修学旅行当日となった。
千雨は、5日分の着替えと簡単な小物、その他を詰めていたカバンを肩に担ぐと、寮の自室を出て集合場所へ向かった。
同室であるザジ・レイニーデイの姿は既にない。もう駅に向かったか、他の理由でいないのかは定かではなかった。
一人で駅に向かって歩いていた千雨だが、その背中に突如声が掛けられる。

「おはよう、千雨ちゃん!」

「おはようさん、千雨ちゃん」

振り返った千雨の目に、同様に駅に向かう途中の神楽坂明日菜と近衛木乃香の姿があった。

「おはよう。神楽坂、近衛」

千雨は礼儀としての挨拶を返す。

「駅に行くんでしょ?どうせなら一緒に行こうよ!」

明日菜がそう誘った。千雨は特に断る理由も無かったので、その言葉に頷く。

「明日菜と千雨ちゃん、いつの間にか仲良うなっとるな~」

木乃香がその二人の様子を見てのんびりとした口調で言った。

「ん~、まぁ仲良くと言うか、お世話になったと言うか」

明日菜が曖昧な事を口にする。

「よぉわからんけど、せやったら私とも仲良うしてな、千雨ちゃん」

木乃香が千雨に笑いかけた。

「構わないが」

千雨はあっさり頷いた。
それを見た明日菜が、「あれ、こんな簡単に仲良くなれるの!?」と驚愕していた。
そんな風に三人連れ立って集合場所に向かうと、そこには既にほとんどのクラスメートが揃っていた。

「皆早いな~」

「まだ結構時間あるのに、何時から来てんのかしら?」

明日菜が呆れたように言った。

「明日菜、おはよ!」

「おっはよー木乃香ー!」

明日菜と木乃香と二人の姿に気付いたクラスメート達が声を掛けて来た。
そして千雨は。

「ふはははは!遅かったな、千雨!」

ふんぞり返るエヴァンジェリンに捕まっていた。

「お前は早いな、エヴァンジェリン」

千雨がそう言うと、傍らにいた茶々丸が、

「マスターは3時間前からここにおられます」

と答えた。自身もそれに付き合って待っていただろうに、そこは口にはしない。

「ケケケ、誰モ来ナイモンダカラ、出発ノ日ヲ間違エタンジャネーカッテ、半泣キダッタンダゼ?」

その時、茶々丸が持っていたエヴァンジェリンの鞄から、ひょこりとチャチャゼロが顔を出してそう言った。

「ち、チャチャゼロ!言わない約束だっただろうが!誰のおかげで京都に行けると思ってるんだ!?」

エヴァンジェリンが顔を赤くして怒鳴るが、チャチャゼロは意にも返さない。

「ソリャ、ソコニイル眼鏡ノオカゲダロウヨ」

それどころかあっさりそう言ってエヴァンジェリンを黙らせた。

「チャチャゼロ、だったか。お前も旅行に来るのか?」

「ぐぬぬ……」と唸り声を上げるエヴァンジェリンを余所に、千雨は頭だけ出したままのチャチャゼロに言った。

「マァナ。マスターモ妹モイネェノニ、一人デアソコニイテモ暇ナダケダカラヨ」

カタカタと口を動かすチャチャゼロ。傍から見れば奇怪極まる光景だが、千雨は全く気にしない。

「と、とにかく、連れて行ってやるんだから、あまりはしゃいで迷惑を掛けるんじゃないぞ!」

結局上手く言い返せなかったのか、エヴァンジェリンが取り繕う様に言った。

「イノ一番ニ来ル程ハシャイデルマスターニダケハ言ワレタクネェヨ」

だが、再び返されたその言葉に、エヴァンジェリンは今度こそ撃沈した。



新幹線と言う物は、思っていたよりも静かに動く。
それが、千雨にとって初めて乗った新幹線の感想であった。
ネギが注意事項の最中、車内販売のカートに轢かれるなどのハプニングはあったものの、修学旅行は無事にスタートした。
席に座っていたクラスメート達は、既に思い思いの場所に移動し、それぞれの楽しみに興じている。
そんな中、千雨は一人、席に座って本を読んでいた。
それは、のどかから貸してもらった物である。あの日以来、のどかは定期的に千雨に本を貸してくるようになった。それは千雨の読み進むペースよりも早く、千雨の部屋には積読となった本達が文字通り積み上げられている状態である。尤も、のどかの勧めてくる本はどれも中々に面白い物であるため、千雨は今の所それらを断る気はない。
その時、本を読み進めていた千雨は、隣に誰か座った気配を感じて顔を上げた。

「失礼するえ~」

はんなりとそう言って座っていたのは、木乃香であった。

「どうした」

千雨がそう問うと、木乃香はニコニコしながら、

「ん~?駅に向かう途中でああ言うたから、千雨ちゃんと仲良うしに来たんやえ」

そう答えた。

「私と話していても、つまらないと思うが」

「それは実際にお喋りせなわからんやろ?あ、千雨ちゃん、本が好きなん?」

木乃香が千雨の本を指した。

「宮崎に借りている。中々、面白いと思う」

「千雨ちゃん、のどかとも仲ええの?知らんかったわ~」

「少し前から、本を借りるぐらいだ」

千雨はそう言うが、木乃香は首を横に振る。

「のどかは少し人見知りする子ぉやから、よっぽど仲良うなかったらそう何度も本を貸したりせぇへんえ。なんや、ウチの知らん間に友達の輪が広がっとるんやなぁ。ウチも乗り遅れんようにせんと」

妙な決意を固める木乃香は、不意に千雨をじっと見つめた。対する千雨も、無言で木乃香を見つめる。
そうする事しばし、木乃香はすっと手を千雨の顔に向けて伸ばして――。

「えい」

その頬を摘んで軽く上に引っ張った。

「……にゃにをしゅる、ほのえ(何をする、近衛)」

頬を引っ張られたままの千雨は、空気の抜けた声で木乃香に尋ねた。

「いやな、千雨ちゃん全然笑わへんから、笑顔にして見よか思て」

木乃香はにこやかにそう言った。
因みに、それを遠目で見ていた夕映が「は、反則!木乃香さん、それは反則ですよ!」と喚いて周囲から不思議そうな顔をされていたが、千雨には聞こえなかった。

「でもあかんな。やっぱり自分から笑わんと、笑顔にならへんもんな」

木乃香はそう言いながら、千雨の頬から手を離した。

「……笑わないよ、私は。これから先も、ずっと」

千雨はそんな木乃香にそう、呟いていた。
木乃香は、その言葉を受けて腕を組みながらう~ん、と可愛らしく唸った。そして、不意に何かを思いついた様にポンッと手を打った。

「せや!千雨ちゃん、それは『笑顔ゲージ』が足らんからや!」

「『笑顔ゲージ』?」

聞いた事も無い言葉に、千雨は首を傾げた。

「人はな、楽しい事があると、その楽しいが溜って、それがマックスになると笑顔になるんやえ。ウチなんかはそれがあっちゅ-間に溜るからいつも笑てるけど、千雨ちゃんはそれが溜りにくいから、笑わへんのやえ」

新説である。そんな事をニコニコしながらのたまう木乃香に、千雨は何と言っていいのか判らず、取り敢えずいつものように、

「そうか」

と、返していた。

「よっしゃ、じゃあ千雨ちゃん、ウチと一緒に『笑顔ゲージ』を溜めに行くえ!」

木乃香はそう言うと、千雨の手を引いて、席から立たせた。千雨は、為すがままに手を引かれていく。
そうして引っ張って連れて行かれた先には、何かのカードゲームに興じている早乙女ハルナ達の姿があった。

「特別ゲストの登場やで~」

木乃香がそう言って注目を集めると、ハルナ達は歓声を上げて千雨を迎えた。

「おっ、長谷川じゃん!」

「珍しーね、長谷川さんがこういうとこに来るのって」

「千雨ちゃんもやるー?」

口々にクラスメート達は千雨を歓迎する。

「長谷川さんもやってみますか?」

夕映がそう言って千雨を誘う。
それに対し、断ろうとする千雨よりも早く、

「やる~!」

と手を上げたのは木乃香である。

「……ルールが解らないんだが」

抵抗は無駄と悟った千雨は、それを理由に断ろうとしたが、

「じゃあ、私が教えるですよ」

今度は夕映に先手を取られた。
あれよあれよと言う間に巻き込まれた千雨は、気付けばゲームの場に座らされていた。

「……」

千雨は少しだけため息を吐いた。
そんな千雨に、ハルナがにやりと口元を歪めながら尋ねる。

「ふふふ……。所でお客さん、あんた、弾は持っているのかい?」

「弾?」

首を傾げる千雨に、ハルナは大げさに肩を竦めながら、

「ここは仁義なき賭博場さ。弾――即ちお菓子を賭けなきゃ勝負の場にも立てやしないのさ」

ハルナの言葉に、千雨は嗜好品の類を買い忘れていた事を思い出した。
これぞ最後のチャンス、と口を開きかけた千雨の背後から、夕映の声が飛ぶ。

「ハルナ。長谷川さんの分は私が出すですよ!」

「何ぃ?」

ハルナが不敵な顔をする夕映を睨む。

「夕映、随分と千雨ちゃんに入れ込むね……。はっ、まさかあんた千雨ちゃんの事……!」

ハルナの某Gの触角の様な前髪がピキーンと動いたが、夕映は一言、

「阿呆ですか」

と、切って捨てた。

「わかってませんね、ハルナ。漫画やアニメだと、長谷川さんの様なお方はこういう場面において、大活躍すると相場が決まってるですよ!」

夕映の言葉に、一同がざわっ、と背筋を粟立たせる。

「た、確かに……!」

「千雨ちゃんには、そんなオーラがある気がする……!」

その場にいた明石裕奈や佐々木まき絵がごくりと唾を呑みこむ。

「くっ……!確かに、そう言うのは最早お約束と言ってもいいかもしれない……!」

ハルナが悔しそうな顔をする。

「ふっふっふ。もう後悔しても遅いです。数分後には、この投資が数倍になって返ってくるです。後は長谷川さんと山分けしても、お釣りが来るくらいに元は取れるですよ!」

夕映がまだ始まってもいない勝負の勝利宣言を高らかに謳う。
そして、またしても置いてけぼりな千雨を余所に、勝負は始まった。
数分後。

「すまん、綾瀬。負けてしまった」

惨敗を喫した千雨は、夕映に謝っていた。

「長谷川弱ぇー!」

「まー、初めてだし、しょうがないよね」

同じくゲームに参加していた鳴滝風香と椎名桜子からそれぞれそんなコメントが寄せられた。
そして夕映は。

「…………orz」

両手両膝を通路につけて項垂れていた。

「やっぱ現実は漫画やアニメみたいにはいかないかー」

「そりゃそうだよねー」

裕奈とまき絵が感じ入った様に何度も頷いた。

「すまん、綾瀬」

千雨がもう一度謝る。だが、よく考えれば半ば無理やり参加させられた千雨に非はない筈なのだが、憔悴しきった夕映の哀れな様子がその事を忘れさせていた。

「くっ……!まだまだ、まだまだ『長谷川さんマスター』への道は遠いです……!」

夕映は項垂れながら、そんな訳の判らない事を口にしていた。
そんな夕映に追い打ちをかける様に、ハルナがにやーっと笑った。

「残念だったねー夕映ー?さ、さっさと払うもん払って貰いましょうか?」

「ぐぬぬ……」

その小憎らしい様子に、夕映が唸った。
そんな二人を何となしに見ていた千雨に、それまでその場を傍観していた木乃香がニコニコしながら、

「どや、千雨ちゃん?『笑顔ゲージ』、溜った?」

と尋ねて来た。

「……どうだろうな」

千雨はそう答えた。その胸中には、何かが少しだけ動いた様な気がしていた。

「んー、まだ足らへんかー」

木乃香は残念やわー、と言いながら笑った。
そんな会話をしている内に、悔しさを呑みこんだ夕映が鞄から取り出したチョコレートの箱を、ハルナに放り投げていた。

「……今回の事は授業料としておくです」

「やーい、負け惜しみー。さ、それじゃ遠慮なく頂こうかなー?」

ハルナが笑いながらチョコレートの箱を開ける。そして、その目が点になった。

「……カエル?」

そこには、チョコレートの代わりに、何故か一匹のカエルが鎮座していた。
一瞬作り物かと思ったハルナだが、そのカエルがぴょ~んと跳ねた瞬間、悲鳴を上げた。

「キャ、キャ~!?」

それを見た裕奈も同様に悲鳴を上げる。

「カ、カエル~!?」

飛び跳ねたカエルは、裕奈の頭に乗っかり、勝ち誇った様にげこげこと鳴いた。

「ど、どうしたの!?」

「カエル!?」

騒ぎを聞きつけた他の面々も騒ぎ始める。そして、それを皮切りに、あちこちで大量のカエルが湧いて出て来た。
あっという間に、周囲は狂騒と狂乱の坩堝と化す。指導教員の源しずなや、カエルが大の苦手な長瀬楓等は、早々に気絶している。
そんな中、席に取り残されたままの千雨は、己の顔目掛けて飛んできたカエルを空中で摘まみ上げると、それをじっと見つめた。

「カエル」

見たままを口にする千雨。そんな千雨を、カエルは意外につぶらな瞳で見上げながらけろけろと鳴く。
その時、千雨の手から白い指先がカエルを掻っ攫っていく。
それを目で追った千雨は、そこに茶々丸を伴ったエヴァンジェリンが立っている事に気付いた。
エヴァンジェリンはカエルを掌に乗せると、それに唇を近づけてふぅっ、と息を吹きかけた。
すると、そこにいたカエルは霞のように消え、後には小さな紙片が残される。

「式神……、陰陽道。と、言う事はやはり関西呪術協会か」

エヴァンジェリンは面白くなさそうにふんと、鼻を鳴らした。

「関西呪術協会?」

「ん?ああ、お前は魔法使い側の事情を全く知らないんだったな」

エヴァンジェリンは千雨の隣の腰掛けると、語り始めた。

「関西呪術協会とは、陰陽道、神道、密教等の、この国古来からの魔法使い達が中心となった組織だ。で、こいつらは西日本を中心に活動しているんだが、東日本を中心に活動している関東魔法協会とは大層仲が悪い」

エヴァンジェリンは残されていたお菓子を一つ摘むと勝手に食べた。

「因みに、関東魔法協会は西洋の魔法を使う者達を中心とした組織で、その理事はあの爺が務めている」

学園長の事か、と千雨は思う。
と、そこで疑問を抱いた千雨がエヴァンジェリンに質問する。

「何故、その二つの組織は仲が悪いんだ?同じ魔法使いじゃないのか?」

「まぁ、魔法使いでない者から見れば、同じ神秘を扱う者同士に見えるだろうが、当人達は激しく否定するだろうよ」

エヴァンジェリンはそこで、背後に控えた茶々丸に飲み物を所望する。それに応え、茶々丸は水筒から温かい紅茶をカップに注ぎ、エヴァンジェリンに手渡す。

「長谷川さんもどうぞ」

茶々丸は千雨にも紅茶を手渡して来た。千雨はそれを受け取り、小さく礼を言う。

「さて続けるぞ。……この二つの組織の仲が悪い理由だが、それは明治時代まで遡る。鎖国が解かれ、文明開化と共に華やかな西洋文化がこの国流出した頃、西洋の魔法使い達もこの国を訪れたのさ。奴らは神秘の解明をお題目に、この国の魔法使い達が秘中の秘として来た魔法や、神域として来た場所を徹底的に暴き始めた。勿論、この国の魔法使い達、ええい、ややこしいな。仮に呪術師達と呼ぼう。彼らは猛反発した。そして小さな争いの火はすぐに大きな大火となって燃え上がり、この国は魔法使いと呪術師が血を血で洗う戦場となった」

それは、表では決して語られない、この国のもう一つの歴史だった。

「抗争が長引くにつれ、事態を重く見たのは、当時の魔法使い、呪術師のトップ達だ。開国が成った以上、魔法使いがこの国を去るのは最早不可能。そこで、彼等はこの国の東西に分かれ、それぞれの活動領域をそこに定め、相互不可侵の条約を結ぶ事によって、ようやく争いに終止符を打ったのだ」

エヴァンジェリンは紅茶を一口啜り、喉を潤す。

「だが、こんな狭い島国でそれぞれが絶対に関わり合いにならない事など無理だ。そう言う訳で、今に至るまで小競り合いは延々と続いているのが現状だ」

「……まるで、見て来た様に言う」

千雨がそう言うと、エヴァンジェリンは小さく笑って、

「私はその時、その場にいたからな」

と言った。

「閉ざされていた極東の島国に興味を持ったのは、私も同様と言う訳だ。尤も、私は他所の領分に勝手に手を出す様な無粋極まる様な真似はしなかったが。……だと言うのに、当時は魔法使いだと言うだけで、私も呪術師達に襲われて不愉快だったな」

エヴァンジェリンはその時の事を思い出して顔をしかめた。

「関西呪術協会と言う物は理解した。しかし、それが何故私達の修学旅行にちょっかいを掛けてくるんだ?」

千雨が問うと、それに対しエヴァンジェリンは首を捻った。

「ふむ、私もそこが解らん。確かにこのクラスは私やお前を始め尋常でない者達が揃っているが、それだけではこちらに手を出してくる理由にはならん」

その時、むぅ、と唸るエヴァンジェリンの横を何かが飛び抜けて行った。

「燕」

千雨が己が目にした物を口に出す。それは、確かに燕だった。その嘴には、何か封筒の様な物が咥えられていた気がする。

「コラーッ、親書を返してくださーいっ」

燕を見送った千雨達の横を、今度はネギが駆け抜けて行った。

「親書?」

首を傾げた千雨を余所に、エヴァンジェリンは頭を抱えた。

「そう言う事か……。あの糞爺、修学旅行に託けて、坊やに何を頼んでるんだ……!」

「何かわかったのか?」

エヴァンジェリンは不機嫌顔を崩さぬまま、ぶっきらぼうな口調で答えた。

「大体はな。あの爺、どうやら坊やに西の長宛ての親書を渡す様に頼んだらしい」

「……それは何が悪いんだ?学園長は関西の者達と和解しようとしている、と言う事だろう?」

そ言う千雨を、エヴァンジェリンは出来の悪い生徒を見る様な目で睨んだ。

「そう簡単に事が運ぶか。先祖伝来の憎しみや、近年における小競り合いによって、大切な者達が傷ついた恨みを持つ者達にとってすれば、和解など真っ平御免と言う所だろう」

「そう言う意見は関東では出ないのか?」

「詳しい事は知らんが、爺がああいう物を出した以上、組織内での意見調整は済んだのだろう。独断でするには問題が大きすぎる」

「しかし、関西に親書を出したとして、それが受け入れられるのか?」

千雨の言葉に、エヴァンジェリンはにやりと笑った。

「それこそ爺の切り札だ。実はな、関西呪術協会の今の長は、あの爺の義理の息子なのだ」

「……そうなのか?」

「ああ。爺は元々関西の呪術師の名家の出と聞くが、自分達とは全く体系の異なる西洋の魔法に惹かれて出奔したらしい。おかげで、関西ではあの爺を裏切り者呼ばわりして蛇蝎の如く嫌っている連中もいるそうだ。そんな爺だが、家族だけは巻き込みたくなかったようでな、実家に保護を頼んで、関西に置いて来ているのだよ。その娘と、今の西の長が結婚したと言う訳だ」

その言葉を受けて、千雨は少し考え込んだ後、再び口を開いた。

「つまり、学園長は身内の縁を使って、多少強引にでも和解を為すつもりだと言う事か?」

「多少などと言う物ではない。かなり強引だ。しかし、聞く所によれば、関西の方でも和解を求める穏健派が増えているらしいし、勝算はあるのだろう。爺にしても、これ以上長引かせて、またぞろ何か問題が起こってせっかくの意見調整が台無しになるのを防ぎたいんだろう」

「そうか。しかし、もう一つ判らないのは、何故それをネギ先生に頼んだかと言う事だ」

最後に残った疑問を口にした千雨に、エヴァンジェリンは至極あっさりと言った。

「坊やの箔付けのためだろう」

「箔付け?」

「うむ。あの坊やは英雄の息子として魔法使いの間でも中々の注目の的だ。そんな中には、あの坊やを行方知れずの英雄の後釜に据えようとしている連中もいるのさ。爺は恐らくそんな奴らに頼まれでもしたのだろう。東西の魔法使い達の仲立ちをした立役者となれば、あの坊やの名声も鰻昇りと言う訳だ」

「ふむ」

エヴァンジェリンの言葉に、千雨は一応の納得を見る。これ以上尋ねても、魔法使いでない自分には関係のない話であるので、その話題はここで切る事にした。
その時、千雨の脳裏にある事が過った。千雨は、それをエヴァンジェリンに聞いてみる。

「エヴァンジェリン。関西呪術協会の長は、学園長の義理の息子だと言ったな」

「ん?ああ、そうだ」

「……近衛は、学園長の孫だな?と、言う事は、西の長は――」

エヴァンジェリンはほう、と言う風に息を吐くと、然り、とばかりに笑った。

「良く気付いたな。その通り、近衛木乃香は、関西呪術協会の長の娘にして、関東魔法協会の理事の孫。つまり、魔法使い達の間においては、あの娘はやんごとなきお姫様なのさ」

「やはり、そうか」

「付け加えるなら、あの娘はその高貴な血を余す事無く受け継ぎ、その魔力は私やナギ――英雄に勝るとも劣らん程だ」

その言葉を聞いて、千雨の頃に僅かなさざ波が立つ。
強すぎる力は、不幸しか呼ばない。
千雨は、その事を良く知っていた。

「……そんな力を持つ近衛が、今のきな臭い状況の京都に舞い戻ったりして、大丈夫なのか?」

「さて、どうだろうな。連中にして見ても、近衛木乃香は大事なお姫様だ。無体な真似はせんと言いたいが……。正直、関西がどれ程の派閥に分かれているのか、見当もつかん。中には、近衛木乃香の力と立場を担ぎ上げて、関西呪術協会を乗っ取ろうと思っている奴もいるかもな」

言う事を聞かせる方法等幾らでもある、とエヴァンジェリンは言う。
千雨はその事を少し想像する。もし、そんな事になれば、あのいつも笑顔が絶えない娘は、自分の様な仮面を被ったような冷たい存在に変わってしまうかもしれない。

「……少なくとも、『笑顔ゲージ』は溜らないだろうな……」

「は?『笑顔ゲージ』?」

思わず呟いた言葉を聞きつけたエヴァンジェリンが首を傾げるが、千雨は何でもないとそれを誤魔化した。
無事にスタートしたと思った修学旅行は、蓋を開けてみれば、その前途に暗雲が立ち込めている。
それを思った千雨は、本人も知らない内に、本日何度目かになるため息を小さく吐いた。



【あとがき】
【京都修学旅行】編、導入部が終了です。
なんか、予想以上に長くなってしまった。
次回は視点を変えてのお話。
千雨の出番はありません。代わりに、あの人やあの人やあの人やあの人、そしてあの人が出ます(笑)。
それでは、また次回。


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