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No.32063の一覧
[0] 神楽坂明日菜、はじめました。[折房](2012/04/28 18:01)
[1] 01 幼女生活、はじめました[折房](2012/04/27 16:23)
[2] 02 修行、はじめました[折房](2012/04/27 16:31)
[3] 03 トモダチ、はじめました[折房](2012/04/27 16:40)
[4] 04 幼女生活、やってます[折房](2012/04/28 17:37)
[5] 05 デート? はじめました[折房](2012/04/28 17:40)
[6] 06 遠足、はじまりました[折房](2012/04/28 17:53)
[7] EX01 部活、はじめました?[折房](2012/04/28 17:59)
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[32063] 06 遠足、はじまりました
Name: 折房◆d6dfafcc ID:6f342f26 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/28 17:53
今回、作中で歌詞を表記していますが、著作権が切れているものであることを、あらかじめお断りしておきます。





―――――――――――





 初夏の日差しが容赦なく降り注ぐ。
 空を仰げばピーカンの青空。
「暑くなりそうだな……」
 ちなみに、「ピーカン」は撮影関係の業界用語テクニカルタームだが、語源には諸説あって……って、そんなことはどうでもいいか。
 現実逃避気味に空を見上げる俺のローテンションに同調する者はいない。遠足の日のちびっ子なんぞ、テンションが振り切れているものだと相場は決まっている。あいにく、俺はその類例からは外れているわけだが。
「はーい! 1組の子は先生のところに集まってー!」
「2組はこっちですよー!」
 きゃあきゃあと甲高いはしゃぎ声に負けないように、各クラスの担任教師が声を張り上げる。
 あやかもサポートするように動き始めた。
 ぱんぱん、と手を叩き、クラスメイトを見回す。
「みなさん、先生の言うとおりにいたしましょう。早くまとまれば、それだけ早く遠足に行けますわよ!」
 いや、それはどうだろう。いくら麻帆良内の路面電車とは言え、指定時間前には動かないと思うが。実はかなり舞い上がってないか、あやか。
 が、同じように舞い上がっているちびっ子連中には充分通用したらしい。『りょうかーい』と声を揃えてわらわらと教師の周囲に群がる。
 率先して教師のそばに急ぐあやかの衣装は、ガールスカウト風にキメられている。被っているのが紅白の体育帽でなければ完璧だったのだが。
 ちなみに俺はと言うと、迷彩柄+タクティカルベスト+コンバットブーツ+背嚢……と言うのは、さすがに自重した。いや、一度は着てみたのだが(コンバットブーツは未所持だ、念のため)、全身鏡に映してみて、「これはないな」と思わざるを得なかったと言うか。そんなわけで、普通の長袖綿シャツにジーンズにスニーカー、ウェストポーチに背嚢に水筒、そして体育帽、という装備である。帽子をかぶる都合上、ツーテールは今日は低めの位置で結っている。
 周囲を見回してみれば、皆が私服姿なのでかなり新鮮に思えた。
 試みに例示してみると……。
 桜子さくらこは薄手のブラウスに半袖ジャケット、黒タイツにキュロットスカート、と言う動きやすさとファッション性を両立させた服装。可愛らしくはあるが、転んだりヤブに引っ掛けたりと言ったアクシデントを考慮していないように見える。……この娘に限っては、途中波乱はあっても何だかんだでアクシデントゼロで乗り切りそうな気もするので、まあいいのかもしれない。
 まひろは一言、サファリルックと言うだけで済む扮装だ。これも体育帽でなくサファリハットを被っていたら非の打ちどころがない。これはこれで似合ってはいると思うが、どこまで探検に行く気なのかと問いたくなる。
 男子の格好などは、まあどうでもいいので、描写は割愛させてもらう。
「どうした、才人さいと
 何やら難しげな顔で首をひねる級友に声をかけた。
「いや、なんか、ひどくぞんざいな扱いをされたような気がして」
 なかなか勘がいいな。
「ふむ? まあ、どうでもよかろう。私達も行くぞ」
「そうだな。待ちに待った遠足だもんな! よし、行くぜ!」
 一瞬でテンションを最高潮に上げて駆けていく。重ねてぞんざいな扱いをしたような気もするのだが、今まさに始まろうとする遠足の前では大した問題ではなかったようだ。
 正直、イベント時のお子様のエネルギーは「これに一日付き合わねばならんのか」と思うとひるみを覚えるほどの勢いではあるのだが……始まる前から疲れていても仕方があるまい。ちょっとは気を入れていくとしよう。
 ……先程から、ちびっ子どもに群がられて捌ききれなくなっている担任教師が、微妙に涙目でこっちをちらちら見ていることだしな。
 二十歳はたちを過ぎた大人が、七歳児(少なくとも対外的には)に頼ろうとするのはどーなんだ、と思わなくもないが。

 カタンコトン。カタンコトン。
 レールの響きをBGMに、無邪気な笑い声が車中にあふれる。
 友達とおしゃべりに夢中な者。シートに膝立ちになって車窓に貼り付いている者。運転席との仕切りにかぶりついてレールの先を注視する者。手摺りに掴まって体を斜めに傾けている者。ふざけ合って互いに押し合い通路を走る者。シートに立って吊革にぶら下がり体をスイングさせる者。
 皆好き勝手に騒いでいた。
「……って、待て、後者三つほど。私は吊革に行く。あやか、走る奴。――先生、頼もしそうに見ていないで、あの斜めになってる奴に行ってください」
 はしゃぎすぎが目に余る者にはやんわりと注意する。視線と声に「氣」を込めてたしなめると、皆おとなしく聞き分けてくれるので、それほど手間はかからない。
 ウチのクラスは素直な子ばかりで、いいことだ、うん。
 ……威圧? さて、何のことだかな。

 路面電車での移動は、さしたる問題もなく終了した。少なくともウチのクラスは、だが。よそのクラスの担任教師が声を張り上げているのが聞こえていたが、そっちの面倒まで見てはいられん。
 さっきの騒ぎなら、早期に鎮圧したので、問題にはなっていない。問題になる前に処理したのだから、すなわちそれは問題ではないのだ。
 電車を降りてクラスごとにまとまり、点呼。はぐれた者がいないのを確認して、小休憩を取る。トイレタイムを兼ねているので、行きたい者はこの時間中に向かうよう指示された。休憩後、再点呼し、順に徒歩移動を開始する。
「走るな、道の真ん中に出るな、極端に間隔を空けるな、列を逸れて行くな」
 あと、仕事しろ、担任教師。
 俺とあやかと女教師の苦労の甲斐あってか、他のクラスよりは秩序を保って歩いていく。外れとは言え麻帆良学園都市の一角だけあって、無関係の車両などが通らないので、多少列が乱れたところで危険は少ない。とは言え、皆無ではないので気を抜いていいわけではない。
 安全責任者である教師連中は、の話だが。
 俺には関係ない。
 と、突き放せれば楽なのになあ……。
 やれやれだ。
 ちなみに、あやかは嬉々として皆を取りまとめている。元々責任感旺盛でまっすぐな性根であるのは確かだが、あれは自分も遠足が楽しくてテンションが振り切れてるだけだと思う。その証拠に、ちびっ子連中の暴走をたしなめつつも満面の笑顔だ。ぷりぷり怒りながらでないためか、注意された方も笑顔で言うことを聞いている。
 あれはあれでいい関係……なんだろうか? 真似はできんし、したいわけでもないけれど。
 だが俺も、ただ疲れるばかりではシャクだ。ここは一つ、楽しく統率するべく試みよう。
 あやかを見ていてそう思ったので、率先して歌を歌い、歩調を合わせるよう誘導してみることにした。

It's a long way to Tipperary, it's a long way to go.
It's a long way to Tipperary, to the sweetest girl I know.
Goodbye Piccadilly, farewell Leicester Square,
it's a long long way to Tipperary, but my heart lies there.
It's a long long way to Tipperary, but my heart lies there.

 全曲はもっと長いはずだったが、このリフレイン部分しか覚えていなかったので、しばらくエンドレスで歌っていたところ、「リズムはいいんだけど歌詞がわからない」「歌詞はわからないのになんか耳に残る」「耳に染みついて取れなくなってきた」「怖いからやめて」などと苦情を言われたため、やむなく曲を変える。
 「HEART TO HEART」「ムーンライト伝説」「宝島」「勇気100%」「夢の舟乗り」「CHA-LA HEAD-CHA-LA」と立て続けに歌った。さすがにメジャーな曲が多いのでウケはいい。と言うか、何曲かはクラス大合唱になったりした。……ん? 一部の選曲が偏ってる? 別に問題あるまい。ハネケンも大野サウンドも大好きだ。古めの曲を混ぜたのは、うっかり未来の曲を歌ってしまわないための用心でもある。例えば、「嵐の勇者ヒーロー」はギリギリ許容範囲(今年の頭に放映終了した)だが、「勇者王誕生!」はアウトだ。
 しかしまあ、何だ。女性ボーカル曲が綺麗に歌えるようになったのは嬉しいのだが、反面、男性ボーカル曲をかっこよく歌えないのが悔しい。大野サウンドとかは、男性ボーカルじゃないと似合わない曲が多いからなあ……。残念だ。
 だが、こぼれたミルクを惜しむのは無益である。しょうがないので、かっこいい女性ボーカル曲を歌って自分を慰めておくことにする。
 と言うわけで、「ダンバインとぶ」を熱唱してみた。さすがに知ってるちびっ子はほとんどいないようだが、おとなしく聴いてくれていた。
 その後は、リクエストがあればそれを歌い、知っている歌は皆で合唱したりしつつ、メロディに足を揃えて一列で進んでいった。
 アニソンがメインだったのは、俺が先鞭をつけたせいだと思う。ふと、知らない曲ばかりで微妙に乗り切れずに寂しそうな様子のあやかが目に入った。罪悪感がちくりと刺激される。
 とりあえず、すまん。
「あやか。アン・ディ・フロイデ。歌える?」
「あ……はい。歌えますわ!」
 と言うことなので、指を振ってリズムを取り、二人で歌い出した。

Freudeフロイデ, schönerシェーネ götterfunkenゲッテルフンケン, tochterトッホテル ausアウス Elysiumエェリージゥム.
Wirヴィル betretenベトレェテン feuertrunkenフォイエルトゥルンケン, himmlischeヒンムリシェ, deinダイン heiligtumハァイリヒトゥム!
Deineダイネ zauberツァウベル bindenビンデン wiederヴィーデル, wasヴァス dieディー modeモーデ strengストゥレング geteiltゲッタイルトゥ;
Alleアァッレ menschenメンシェン werdenヴェルデン brüderブリューゥデル, woヴォ deinダイン sanfterザンフテル flügelフリューゲル weiltヴァイルトゥ.

 男女混唱にした方がカッコイイのだが、女声合唱でもそれなりにサマになった。
 その後は、ポップスやら、著名な童謡やら、たまに有名な外国語曲なども混ぜて、あやかも楽しめるように配慮する。外国語曲を当然のように原語で歌ってみると、きっちりついてくるので、まったくもって侮れない。例えば、定番の「ピクニック」を敢えて外し、原曲とされているが実際はあまり似ていない「She'll be coming around the mountain」を歌ってみたりとか。他のちびっ子は置いてきぼりになっていたが、アニソンの時はあやかが置いてきぼりなので、まあその辺は我慢してもらいたい。
 しかしあれだ。多人数で高歌放吟するのは楽しいものだな。先日あやかと出かけた際、そのうちカラオケに行きたいとか思ったが、お子様のうちはカラオケなど必要ないのかもしれない。――オケ付きで歌いたい曲も多いので、行きたくはあるのだが。
 元気よく歌っているうちに、ふと気付くと目的地の小山に到着していた。おや、いつの間に。
 一旦集合し、再点呼の後、小休憩。立ち止まると、そこそこ汗ばんでいたことに気付く。初夏の日差しの中延々歩いていれば、否応なく汗も出ようというものだ。背嚢のサイドポケットから出したハンドタオルで汗を拭きながら、水筒のドリンクを一口か二口含んでおくよう、ちびっ子連中に警告しておく。熱中症で倒れでもしたら大ごとだからな。
 ……いや、安全管理の責任は俺にはないわけだが。
 歌い続けて喉も乾いたことだし、俺も水筒に詰めてきたスポーツドリンクを一口あおり、口内に馴染ませるようにしてゆっくり嚥下した。
 と、すぐ目の前で、水筒の飲み口を咥えて天を向いている姿を認めて、後頭部を押し上げてやる。
「ぬおっ! な、何すんだ!?」
「一口か二口、と言っただろうが、たける。後で喉が渇いたときに飲む物がなくなるぞ。あと、水っ腹で長く歩くのは結構つらいから、お勧めしない」
「う。……わかったよ」
 微妙に不満そうな表情なので、相方に釘を刺しておく。
「その辺、見ておいてくれ、純夏すみか
「うん、任せといて! ちゃんと見とくから!」
「本人に言えよ!」
 無論、スルーさせてもらった。
 休憩が終わり、再点呼して出発する。点呼が多いな。万一にでも迷子になられては困るだろうから仕方がないのだが。集団行動と言うのは……もとい、集団行動を監督すると言うのは、実に労力を要することだ。
 頑張ってくれ、責任者。
 生暖かい目で担任教師を見遣ると、視線で「手伝ってくれるよね!?」と返されたので、「まあ手の空いている時には」と言う意思を込めて見返してみた。通じたかどうかはわからんが。それ以前に、女教師の視線の意味も独自解釈だったりするわけだが。目と目で通じ合うほどツーカーな間柄なわけではないんでな。
 山登り……と言うほど大げさなものではない。ハイキング、いやピクニックか。舗装はされていないが整備はされている緩やかな上り坂を歩き始める。
 大した山ではないとは言え、小学一年生のお子様にとっては、延々登り坂を歩き続けるのはそれなりに苦行である。
 ……あるのだが、ちびっ子どもは時として苦しさそのものをキレイさっぱり忘れ去ることができる。
 つまり、遠足が楽しすぎてテンションが振り切れているような場合に。
 スキップするような勢いで先を急ぐ連中は、リミッターが吹っ飛んでるので、疲れなど感じている時間も惜しいと言わんばかりだが、付き合わされるこっちはたまったものではない。鍛え始めているとは言っても、所詮この身は幼女。体力の蓄積量は体格相応にしかないのだし、少ない体力を元気で補うためには、今だけに全力を傾注する向こう見ずさが必要だ。そしてそのようなひたむきな成分は、俺の心からは揮発して久しい。
 などとノスタルジックな気分に浸りつつちびっ子どもを眺めやっていたが、要は肉体的疲労度が精神的なそれに追いついてきたのであり、一言で言えば、何かもうやる気ねぇ。
「先生。もうとっとと帰って一杯ひっかけて寝てしまいませんか」
「神楽坂さん。いくら何でもテンション低すぎじゃないかしら。その気分はわかりすぎるけど。あと、一杯ひっかけるとか言わないように。小学生の発言じゃないからね?」
 この場合、寝る前にひっかけるのはホットミルクなわけで。わざわざ説明はしないけど。
 だがしかし、確かに今からやる気を失くしていてはこの先耐えきれるかどうか不安だ。何とかすべし。
 体力が消耗し始めているのはどうしようもないのだから、元気で補えないのならば別のもので補わなくてはならない。
 腕組みして考えるが、まあ、考えるまでもなかったな。
 俺は気息を整え、体内の氣を控えめに練り上げていった。気脈を伝い全身に行き渡った生命力が、体力を賦活し、身体能力を強化する。不思議なもので、疲労が薄れると気力も戻ってくるものだ。
「でも、もうちょっと頑張って、あと……」
「――よし、切り替え完了。遠足の続きと行きましょう!」
「復活早いなぁ! せめて先生に元気付けられてからにして欲しかったわ!? もっと、こう、美しい師弟愛を!」
 知らんがな。

 そんなこんなで、山頂広場に到着。
 クラスごとに集合して点呼して先生の注意を聞き流して、「お昼まで自由行動」と言われるが早いか、歓声と共に蜘蛛の子を散らすように走り出すちびっ子ども。いや、絶対ちゃんと話を聞いてないと思うんだ、こいつら。
「やれやれ。子供は元気だな」
貴女あなたも子供でしょうが! なんでそんなに枯れてるの!?」
 転生者だか憑依者だからです。とは言えん。
 いや待て。何故言えないんだ? 異常者として扱われる? 麻帆良で? あり得んな。
「うむ。実は私には前世の記憶があってな」
 と言うわけで、さらりとカミングアウトしてみた。
「……あー、神楽坂さんなら、あるかも……。うん。って、わかりにくい冗談はやめて欲しいんだけど。先生、一瞬納得しかけたわ」
 そう言うリアクションは、こちらも対応に困る。軽く流すスルーとか、ノリ突っ込みをかますとか、真に受けて検証にかかるとかならともかく、そのまま何事もなく受け入れられかけるってのはどういうことなのか。麻帆良民の気質と言われればそれまでだが。
「アスナさん! あっちに展望台がありますわ! 行きましょう!」
 既に完全にお子様モードに移行したあやかが瞳をキラキラと輝かせて呼びに来たので、頷いて後を追った。
「では行ってきます」
 ぴっ、と敬礼を残すと、担任教師は苦笑しつつ顔の横で手をひらひらと振り見送ってくれた。

「まあ……」
「おー、絶景だねー!」
「ほう。これは、なかなか」
 小山の展望台から見下ろす麻帆良の風景は、充分に一見の価値はあるものだった。赤レンガを多用し統一した印象のある洋風の街並みと、中央にそびえる樹高数百メートルに達する神木・蟠桃、通称世界樹。
 どう見ても日本の風物ではない。世界樹まで入れると日本どころか世界中どこにも見られない風物になってしまうが。改めて一歩引いて俯瞰すると、かなり異様にも感じる。いやだって、街を見下ろしているのに、その街に根を下ろした樹を見上げてるってのは、どうなんだこれ。自分の目で見ているのに、何だか嘘っぽいような、そう、騙し絵でも見せられているような気分である。とは言え、感性がスレていないちびっ子にとっては、単に「すごい」光景でしかないようだ。
 ……ん?
 世界樹?
 そうか、世界樹か。
 ふとした思いつきに気を取られている間に、背後から気配が近付いていた。視界に頼らず周囲の状況を把握するスキルも、ささやかながら習得できている。実は、始めた頃は「いくら何でもムリじゃね?」と思ったりもしたが、さすがマンガの中の世界。やればできるものである。まだまだ、時々何となくわかる、程度のものだが。
 手すりにかじりついて景色に見入っているあやかと桜子はそのままに、後ろを振り返る。
「あ……」
 小さく息を呑んだのは、黒髪をボブカットにした小柄な少女だった。レモン色のシャツとライムグリーンのバミューダショーツを着て、白いカーディガンの袖を首元に結んで背中に流していると言う、爽やかなパステル調のコーディネートである。顔立ちはよくわからない。何故なら、長く伸びた前髪が目元を隠しているからだ。鼻筋や口元、顔の輪郭などを見るに、整った小顔ではあるが。会ったことのない子なので、他クラスの生徒なのは確定的に明らかだな。
 展望台はそれほど狭くない。俺とあやかと桜子以外にも、五~六人くらいのちびっ子がやはり手すりにかじりついているし、まだまだスペースは余っている。とは言え、手すりに寄ろうと思えば、他の子と肩が触れそうになる程度の隙間だ。つまり、引っ込み思案な子だと気後れしそうな感じの。
 どうやらかなり内気で人見知りするタイプと思えた。
 この外見でその性格。……彼女の名は、聞かずとも分かる気がするわけだが。
「景色が見たいのかな? 君さえよければ一緒に見よう。遠慮はいらない。あやかも桜子も、かまわないな?」
 なるべく穏やかに声をかけ、笑顔で手を差し伸べる。脅えさせないように。小動物を相手にするように。
「はい? ええ、もちろんですわ」
「うん、いいよー。こっちこっち」
 優しい笑みのあやかと、ひまわりのような笑みで手招きする桜子に警戒心を解いたのか、少女はおずおずと歩み寄って来る。
 ぺこぺこと頭を下げながら俺達の輪に加わり、感嘆の声を上げた。
「わぁ……!」
 小さな口が薄く開き、頬が興奮に上気するのが横顔から見て取れる。俺達三人が微笑ましげにそれを眺めているのにも気付かず、彼女は陶然と見事な情景に見入っていた。
 ……ところで、その前髪でちゃんと景色は見えているのだろうか?

 心ゆくまで目を楽しませてから、四人で連れ立って展望台を離れた。
「予定がないのなら、一緒に来ない?」
 誘ってみたところ、こくこく頷いたので、まずは拠点を築くべく、背嚢から取り出したレジャーシートをよさそうな木陰に広げ、風で飛ばないよう背嚢や石で四隅を押さえ、靴を脱いで座り込んだ。
「歩き疲れたから、まずは休憩だ。さ、どうぞ」
 朝からずっと立ちっぱなし、歩きっぱなしだ。疲れていないはずはない。自覚の有無はともかくとして。
「お邪魔しまーす」
 即座に靴を脱いで上がり込む桜子。素直でよろしい。飴ちゃんをあげよう。ウェストポーチから自作のミルクキャンディを取り出し、1個手渡す。
「ありがとー」
 不得要領な顔で桜子に続くあやかだが、シートに座り込むと、ふっと表情が緩んだ。
「あら、確かに。意外に疲れていたのですわね……」
 そうだろう。ほら、あやかにも飴ちゃん。糖分を摂取して疲労を和らげるがいい。
「いただきますわ。……素朴な味わいで、ほっとしますわね」
 最後に、先ほど一緒になった少女がおずおずとシートに乗り、飴を受け取った。
 俺もキャンディを1つ口に放り込み、舌で転がす。うむ、普通に甘い。
「では、自己紹介と行こうか。私は神楽坂明日菜。アスナと呼んでくれ」
「雪広あやかです。わたくしも、あやかでいいですわ」
「椎名桜子だよー。よろしくね」
 続けざまに「名前を呼んで」されてあたふたしていた少女は、俺達の名と顔を頭の中で整理しているのだろう間を置いてから、ぺこりと頭を下げ、小さな口を開いた。
「あ、あの、よろしく。私……大河内おおこうちアキラ、です……」

 ……………………。

 え。あれ?





――――――――――





7年もあれば、髪型とか性格とか体格とか多少変わっていて不思議はないよね? と言う話。
性格はあんまり変わってないかも、ですが。


以下、注釈です。

ティペラリー・ソング/第一次大戦時英軍兵士の間で流行った歌。行軍歌としても使われたとか。
HEART TO HEART/勇者警察ジェイデッカーOP。
ムーンライト伝説/美少女戦士セーラームーンOP。
宝島/宝島OP。
勇気100%/忍たま乱太郎OP。
夢の舟乗り/キャプテン・フューチャーOP。
CHA-LA HEAD-CHA-LA/DRAGON BALL Z OP。
嵐の勇者/勇者特急マイトガインOP。
勇者王誕生!/勇者王ガオガイガーOP。
ダンバインとぶ/聖戦士ダンバインOP。
アン・ディ・フロイデ/第9。Rの発音を思いっきり巻き舌にするとソレっぽく歌える。和訳版は「喜びの歌」。
She'll be coming around the mountain/イギリス民謡。欧米のガールスカウトでは定番の歌であるとか。


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