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No.32063の一覧
[0] 神楽坂明日菜、はじめました。[折房](2012/04/28 18:01)
[1] 01 幼女生活、はじめました[折房](2012/04/27 16:23)
[2] 02 修行、はじめました[折房](2012/04/27 16:31)
[3] 03 トモダチ、はじめました[折房](2012/04/27 16:40)
[4] 04 幼女生活、やってます[折房](2012/04/28 17:37)
[5] 05 デート? はじめました[折房](2012/04/28 17:40)
[6] 06 遠足、はじまりました[折房](2012/04/28 17:53)
[7] EX01 部活、はじめました?[折房](2012/04/28 17:59)
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[32063] 05 デート? はじめました
Name: 折房◆d6dfafcc ID:6f342f26 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/28 17:40
「…………人選を誤ったか」
「え? 何かおっしゃいまして? アスナさん」
「いや……何でもない。そう、何でもな」
「そうですの? では、次に参りましょう」
「Roger,wilco,Ma'am」
「どこの軍の通信ですの」
 通じるんだ。凄ぇ。
 俺は精神疲労を押し隠しつつ、半歩遅れてあやかに続いた。
 俺達がどこにいるかと言うと、都心部の老舗高級デパートの、女児向け服飾品店エリアである。
 デパートの子供服売り場と言うと、ライトでオープンでカラフルと、そのような印象を持っていたのだが……シックで雅やかで高級感に溢れたここは、そんな俺の先入観とは大きくかけ離れた場所だ。と言うか、場違い感が強く、非常に居づらいのだが。
 顔には出さないが。
「こちらですわ!」
 嬉しそうに案内された先には、ふわっと裾の広がったロングスカート。どう見ても子供用ドレスの専門店に見える。いつ着るんだこんなの。と言うか。
「あやか。趣旨しゅしを忘れていないか?」
「は!? そう言えば、遠足の服を見に来たのでしたわね」
 ……忘れていたな。
 そう。日曜日の今日、デパートにまでやって来たのは、遠足の準備のためである。
 新生活を始めるにあたって、俺のために用意されていた衣装は、制服を含めて、もっぱらワンピースであり、それ以外には体操着とジャージとパジャマくらいしか所持していない。ここから遠足向きなのを選び出すのならばジャージくらいで、俺としては別にそれでも構わないのだが、着ていったらダメ出しされるような気がしてならない。あやかとか、桜子さくらことか、まひろとか、主に幼女連中に。想像するだけで面倒だ。
 そんなわけで、未所持であるところの、アウトドア向きの服とか、リュックサックとか、水筒とか、弁当箱とかを調達しようと考えた。こういった品々をいっぺんに揃えるには、結局のところデパートが最適である。いつも行ってる商店街にそれらの店があれば話は早かったのだが、あの辺りは生鮮食品や生活雑貨の類ばかりなのだ。店主のおっちゃんおばちゃんにそれらの店の所在を尋ねるという方法もあったと思い至ったのは、あやかと約束した後だった。
 で、あやかと待ち合わせて、デパートに案内してもらったわけである。
 ……俺としては、「最寄りの」デパートでよかったんだがな。
 待ち合わせ場所にリムジンで乗り付けてきたのはまあいいとして、一直線に麻帆良を離れて行ったのには首を傾げたものだ。そして、行き着いたのがここである。
「……でも、ちょっと試着してみませんこと?」
 言下に断わりかけたが、キラキラと期待のこもった眼差しで見つめられて口ごもる。
「…………着たいのか?」
「えっと……わたくしが着たいと言うより、アスナさんを着飾らせてみたいと思いまして……。制服と体操服の姿しか見たことがありませんし」
 せっかく素材がよろしいのですから、と照れた笑みを見せるあやかは、凶悪に可愛らしい。素材がいいと言うのならこの子もだろうに。
 ちなみに、休日の今日、俺が着ているのはさすがに私服だが、胸元に赤い細リボンのワンポイントが入った、亜麻色のシンプルなワンピースである。デザイン的には制服と大して違わない。最初のうちは腰回りや股下が頼りなく感じられたものだが、慣れてしまうと案外楽だ。男物の服はどうしても上着とズボンを別々に着なければならないが、ワンピースの場合、これ一枚かぶればそれで済むので。
 今までの休日は、大体図書館島にこもって高校大学のテキストを開いたり原書を読み込んだり普段は手の回らない家事を片付けたり修行したりしていたので、クラスのちびっ子連中と会うことは少なかった。特にあやかは麻帆良の外から通っている上、何かと忙しい身の上であるために、このように約束して出かけるのでなければ、まず会わない。よって、私服姿を見せるのは初めてである。同時にあやかの私服を見るのも初めてなのだが。
 なお、放課後に遊ぶ際は制服のままだ。麻帆良の広さを舐めてはいけない。全員が簡単に着替えに帰れる距離に住居があるわけではないのだ。徒歩通学、路面電車通学、自動車送迎と色々なパターンがある。
 ……話が逸れた。逃避していたわけではないぞ? 多分、きっと。
「迷惑……でした……?」
 俺が無反応でいたのを、怒っていると解釈したのか、しゅんと小さくなって上目遣いでこちらをうかがってくる。雨に打たれる子犬の風情だ。
 何だろう、この、胸に刺さる、いたたまれないような気分は。
「…………。あまり、長時間はダメだぞ? 本来の用事は済んでいないのだからな」
 微妙に目線を逸らしながら口にすると、パァッと花が咲いたような笑顔。しょうがないなコレは。この笑顔には勝てん。
 ああ、わかった。娘のおねだりに屈する父親の気分だ。多分。娘を持ったことはないが。
 それに、この身は幼女。女児用ドレスを身に着けるのに葛藤などない。ボディの素地がいいのは疑いないので、似合うだろうことは着ずとも明らかだ。元々王族だしな。
 ……葛藤などない。本当だぞ?

 結果だけ言おう。
 葛藤はないが、羞恥はあった。
 なるべく自分のことだとは思わず、第三者的意識を持つことによってやり過ごした。
 まあ……似合ってはいたさ。試着した俺とあやかが鏡の前で並んでいるのを見て、女性店員が目をキラキラさせていたしな。見事なプロ根性を発揮して、穏やかな営業スマイルを堅持はしていたが。
 そして、恐ろしいことに、試着した衣装には値札が一切ついていなかった。
 いくらだ。
 時価か?
 どこの老舗江戸前寿司だ。
 あやかが熱心に購入を勧めてくるのを、断固として退ける。多分相当冷や汗を掻いていたと思う。あいにくだが、セレブ幼女とは金銭感覚が違うのだ。
「仕方がありませんわ」
 終いには納得して、自分の分だけ何着か買っていた。
 実家のツケで。
 そこはせめてカードとかじゃないのか。
 ……色々と怖すぎる。こちとら、一般庶民の感性しか持ち合わせていないのだ。予算も、予想外に潤沢に提供してくれはしたが、ここで買い物をするのには多分、いや絶対足りない。余ったら返そうと思っているので、なるべく安く抑えたいしな。
「では、他の店に参りましょう」
「いや、場所を移したいのだが」
「え? デパートの場所がわからなかったのではありませんの?」
 いや、それには「麻帆良では」と但し書きが付くからな? 都心部まで出て来てしまえば、それなりに土地勘はある。この世界のものではないが、まあ、それほど変わるまい。
 それに、このデパート内の店には、俺の求める価格帯の商品は存在しないような気が、ものすごくするのだ。

 そんなわけで、運転手さんに保護者として同行してもらい、地下鉄に乗る。リムジンはデパートの駐車場に置かせてもらっている。この時代、まだ駐車違反の罰則が強化されていないため、駐車場の数が少なく、放置駐車などが多い。都心部の移動は電車が圧倒的に早いのだ。
 あやかはもっぱら自動車送迎、あとはせいぜい麻帆良の路面電車に何度か乗ったことがあるかどうかくらいのようで、地下鉄移動の間、始終物珍しげに周囲を見回していた。俺はと言うと、普段やたらと大人びているこの少女が珍しく見せる年相応の様子を観賞させてもらっていたわけだが。
 4駅ばかり移動して地上に出る。横断歩道を渡り、百メートルほど移動。山手線高架までたどり着く。
 微妙にレトロな雰囲気の電飾看板を見上げ、首を傾げるあやか。
「アメ横……ですの?」
「ああ。上野アメ横と言うのはここのことだ。アメヤ横丁の略称とする説が有力だが、米軍払い下げ品が多く出回ったり、米兵が自国製品を多く持ち込んだからアメリカ横丁と呼ばれていたとする説もある。どんな場所かは、ま、見た方が早かろう」
 日曜なのでけっこう人出がある。人混みをすり抜けて歩き出しかけて、あやかがついて来ないことに気付いた。振り向くと、戸惑った様子で立ち尽くしている。下町風のごみごみした雰囲気に、気後れしているらしい。
 慣れてしまえばどうと言うことはないのだが、無理をさせても仕方がない。
 ――と、思いはしたのだが。
 あやかのところに戻った俺は、唇の端をわずかに笑み崩し、腰をかがめて、見上げるように彼女の顔をのぞき込んだ。
「あやか。……怖いのかね?」
 口調のイメージは某赤い弓兵である。こういう風に言えば、意地っ張りの彼女のこと――。
「なっ!? こ、怖くなどありませんわっ!!」
 目を吊り上げて言い放つ。
「そうか。では行こうか」
 促すと、微妙に尻込みしていたが、自らの怯懦を振り切るようにして、大きく一歩を踏み出した。
 そのままずんずん進み始める。
 人混みを上手くすり抜けられずに、あっちこっちにうろうろしていたが。
 あうあう、と呻きつつ目を回す様子は大変面白い。
 ……あー、別に、ドレスを着せ替えられた意趣返しではないぞ? 多分。
 未知に挑む恐怖とそれを克服する達成感は、ちびっ子にとってはよくあることである。いや、そのはずだ。ただ、学園都市である麻帆良では、そうした体験の機会が、外の町より少ないように思う。それだけ厳重に守られているということではあるだろうが、見方を変えれば籠の中の鳥のようなものだ。
 あやかの困惑も、未知を既知に変えた大人には決して味わえない貴重なものである。俺にそれを邪魔することなどできようはずがない。
 ――よし、理論武装完了。
 まあ、溜飲はだいぶ下がったので、そろそろ手助けするか。やっぱり意趣返しじゃないかって? さて、知らんな。
「すまん、ちょっと意地悪だったな。はぐれたら困るし、一緒に行こう、ほら」
「あ……。わ、わかりましたわ」
 自分の不慣れさは充分自覚できたらしく、手を差し出すと、おずおずと乗せて来る。
 軽く握ってやると、照れた様子で微笑んだ。
 何だろう、この可愛い生き物は。
 系統樹の近い生物の幼形態は総じて可愛らしいと認識されるものであり、さらに元より美形のあやかであればその効力も一入ひとしお。故に、あやかを可愛く思うことに何の不思議があろうか。いやない。私は彼女を愛でてもよいのだ。
 ……落ち着け俺。
 深呼吸して、ふと周囲を見回すと、通りすがりの人々が微笑ましいものを見るような目を向けてきていた。
 どうも俺自身、今のあやかと同様に見られていたらしい。
 この身は幼女。当然と言えば当然なのだが……それで気恥ずかしさがなくなるわけではない。
 頬に熱を感じつつ、俺はあやかの手を引いて歩き出した。

 視点が下がっているのが少し面倒だったが、その点を除けば雑踏を歩くのに大して苦労はなかった。

人の流れをある程度読んで、進みたい方向の流れに乗ればいい。そして、譲るべき部分は譲る。思うようにならなくてもイラつかない。それだけでいい。山手線の朝の通勤通学ラッシュに比べれば、こんなもの何と言うことはない。
 さっきのあやかは、自分の行きたい方向に一直線に進もうとしていたので、ああなった。
 この場合、行きたい方向と言うのは、興味を惹かれた対象のあるところである。普段は大人びているくせに、この辺り妙に年相応の行動だった。多分、不慣れな場所だからこそ素が出ているのだろう。
 ちらちら後ろを確かめると、好奇心全開でキラキラと輝く瞳をあちらこちらに向けている。
 やれやれ、手を繋いでおいて正解だったな。何せ、興味を引かれた方向にふらふらと寄っていきかけるので。ついさっきは涙目だったのに、現金なことだ。
 が、子供っぽいかと思えば、さすがはあやか。
 かなりそわそわしつつ、時折「アスナさんアスナさん、あれはなんですの?」とか聞いてはくるものの、見ればわかるもの、ちょっと考えればわかるもの、充分に推測がつくものなどに関しての質問はない。
 理解力高すぎである。
「ホルモン焼きは、要は内臓の焼き肉だ。モツ焼きも同じだな」
「同種の店舗が固まってる理由か……それは私にもわからない。だが、店ごとに独自の特色を出しているからこそ潰れないんだろう」
「珍味か。そうだな……味にクセのある食べ物の総称と思っておけばいいんじゃないか。酒の肴としてよく食われる」
「立ち飲みってのは、立ち飲み酒場の略だ。腰を落ち着けずに、仕事帰りのサラリーマンなんかが一杯引っ掛けて帰る時などに寄る」
 などと解説しつつ移動。今回の主目的は服とリュックだが、さて、子供服を売る店はあったかな。以前来た時は成年男性の姿だったので、行きつけだった店では幼女ボディに合う品揃えはあるまい。サイズ的に。そもそも世界も違うことだし、同じ店があるとも限らないわけだが。
 目的に合う店を探しつつ、あやかと二人、もとい影のように背後に控える運転手さんと三人で観光がてら人波を泳ぐ。
 ただついてくるんじゃ退屈だろうと思って、運転手さんにも多少話を振ってみる。濃い顔立ちの割に爽やかな印象のイケメンで、俺達ちびっ子についてくるのも嫌な顔をしないデキた青年だ。アラシさんと言うらしい。何とびっくり、警察官の資格を持ってるんだそうな。何故また専属運転手なんぞやってるんだろうか。聞いてみたが、にっこり笑って受け流されてしまった。
 まあ、人それぞれ自分だけのドラマがあるものだ。詮索はすまい。俺自身、マンガのストーリーに巻き込まれていくことになるわけだし。
 ……しまった、イヤなことを思い出してテンションが下がった。
 頑張ろう。うん。頑張ればなんとかなる。多分。
 自分を鼓舞して、あやかと共に衣料品店巡りを続ける。
 む? そう言えば、最初は俺が案内してもらうはずだったのに、いつの間にか俺があやかを観光案内しているような。まあ、いいのだが。目的が達せられればそれでいい。その上、楽しければなおよし、だ。

 お昼の時間になったので、海鮮丼の店でネギトロ丼を食べる。一杯500円のリーズナブルな丼だ。まあ、こと価格の話では、麻帆良内の一部の学食の安さは異常だったりするが。
 あやかはヅケ丼、アラシ氏は五目海鮮丼を頼んでいた。
「いただきます」
 両手を合わせて宣言。幼女ハンドが小さいので持ちにくいが、何とか片手に丼を持ち、割り箸を咥えてもう片手でパキン、と割り裂く。保持した丼を口元に持っていき、背を伸ばし、掻き込むようにしてタレのかかったマグロすき身とご飯を頬張る。
 むぐむぐ。うむ、美味い。少し行儀は悪いかもしれないが、この食い方が一番しっくりくるな。
 と言っても、口が小さいのであまり大量に詰め込めはしないのだが。早いところ成長して欲しいものだ。
 無心に丼に挑み続けること十数分。
「ごちそうさま」
 満ち足りた気分で空の丼をテーブルに置く。結構な分量があったが、こう見えても体を動かしているせいか、そこそこ食事量は多い方である。問題なく食べきった。
 ほう、と嘆声が複数聞こえたので周囲を見回すと、他の客達が感心したような目を俺に向けている。
 ……ああ、確かに、幼女が食べるには少し多いかもしれん。
 頑張ってヅケ丼の攻略を続けるあやかを見て納得する。頬を膨らませ、「んー、んー」と唸りながら懸命に咀嚼しては、微妙に涙目で嚥下していた。
「あやか、無理してまで食べなくていい。残すのはいいことではないかもしれないが、美味しく食べてもらえないほうが食材にも料理人にも悪いだろう」
「ん、んっ……。わかりましたわ」
 完全攻略を諦め、あやかは丼を置いた。ちなみに、それでも3分の2くらいまでは箸を進めている。
 うん、頑張ったな。
 思わず彼女の髪を撫でる。
「…………。……はっ! な、何ですの?」
 一瞬目を細めてから抗議の声を上げるあやか。俺は苦笑で応えるだけだった。

 昼食後、腹ごなしを兼ねて午前中よりペースを落としゆっくりと歩く。
 なお、残ったヅケ丼は、あの後スタッフ(アラシさん)が美味しくいただきました。
 まあ結果から言えば、子供服の店はけっこうあった。価格帯やデザインなどを見比べ、時には古着屋にも出向き、ただでさえ安価な商品を「何枚かまとめて買う」「今度冬物もここに買いに来る」などと交渉してさらに値引きしてもらったりして、気付けば7~8着ほども服を買い込んでいた。ストーンウォッシュ……ではない、単なる中古のいい感じに古びたジーンズ上下と、アーミージャケット、迷彩ズボン、タクティカルベスト(以上、すべてちびっ子サイズ)辺りが個人的にいい買い物だった。
 森林迷彩の背嚢(これもちびっ子サイズ)も買ったし、今日の主目的は達したと言っていいだろう。
 ちなみに、あやかは服の安さと、そこからさらに値引く喧々諤々の価格交渉にカルチャーショックを受けたらしく、「ありえませんわ……」「あそこからさらに……」とかぶつぶつ呟いている。ちょっと怖いので、いい加減現世に復帰して欲しい。
 と、いい物を見つけたので、あやかが自失している間に注文と交渉を済ませてみた。出来上がりは1時間後。了解だ。お、もう一ついいものを発見。これも買おう。
 まだ帰ってこないあやかを引っ張って移動。
 アメ横まで来たのだから、ちびっ子としてはここは外せまい。
「な、何ですのここは!?」
 戻ってきたか。
「駄菓子屋だ」
「駄菓子屋って、もっと小さなものだと思っていましたわ!?」
 実際は駄菓子屋ではなく、菓子や食品の小売卸し業店だがな。
 ニ○ニ○ニ○ニ○、○木の菓子。アメ横でーす♪
 ……関東ローカルネタだったか。
「遠足のおやつは三百円まで、だったな?」
 にやりと笑って見せると、あやかははっとして俺の顔を見返す。俺の言葉の意味を悟って、面白そうに笑みを返した。
「アスナさん。素晴らしいですわ!」
 いやまあ、この程度の小知恵を働かせてくるちびっ子は、他にもいるだろうけどな。
「今日買う分にはいいが、遠足のときに持っていくお菓子は、溶けやすいチョコ系禁止、傷みやすいもの禁止、嵩張りすぎるもの禁止、腹に溜まりすぎるもの禁止だ。アラシさん、監修お願いします」
 苦笑して引き受けてくれた。
 ちなみに言うなら、自作していけば材料費だけで済んだりするわけだが、これは言わないでおく。
 あやかと俺はそれぞれ分かれて、2階分の広大な売り場を見て回り始めた。

「まだ何かありますの?」
 服とリュックと菓子を買い込み、これ以上の目的を思いつかずに首を傾げるあやかを引っ張って、とある店を目指す。先ほど注文を入れた店だ。
 完成していた2つの品物を受け取り、一つをあやかに手渡した。
「? 何ですの?」
 不思議そうに首を傾げつつ受け取る。
「プレゼントだ、あやか」
「えっ……」
 目を丸くして固まる。ややあって再起動し、手の中の小さな紙袋と俺の顔を見比べる。
「あ、あの、開けてみても?」
「もちろん」
 中身は、シンプルなドッグタグ。それにアルファベットを刻印してもらったものだ。
『AYAKA YUKIHIRO & ASUNA KAGURAZAKA』
 そう刻んである。俺の分は、二人の名前を前後入れ替えただけのものだ。
「ま、大したものじゃないが、今日の記念にな」
 あやかはドッグタグを抱きしめ、頬を上気させて輝くような笑みを見せた。
「ありがとう、アスナさん。大事に、しますわ」
 年齢に似合わない艶やかな笑顔に、ついつい見入ってしまった俺だった。

 地下鉄に乗って最初のデパートに戻り、アラシさんの運転で麻帆良へ戻っていく。
 後部座席で雑談を交わしながら、あやかは先ほどの言葉通り大事そうに握ったドッグタグに、時折目を落としてにこにこしていた。
 今日行った店の話をしていて、ふと思いつく。
「今度、時間のある時にカラオケでも行きたいな」
 上野にパ○ラはこの時期あるかな? もしなくても、最低限J○YS○UNDが入ってる店があればまあいいか。
「カラオケですの? 行ったことありませんわ」
「そうか。カラオケは、二人でもいいが、六人くらいまでが適正人数かな。遠出せずとも麻帆良の近くにもカラオケ屋くらいあるだろうし、他の連中も誘って行くか」
「そうですわね。楽しみですわ」
 今日一日だけで、随分あやかの雰囲気が柔らかくなった。張り詰めすぎず、適度に気を抜くことを覚えたのなら、それはきっといいことだと思う。

 職員寮の前まで送ってもらう。……そう言えば、親がおらず、高畑教諭が保護者代わりだと、言っていなかった気がするが。まあ、聞かれるまでは黙っておこう。不幸自慢は趣味じゃない。特に、今現在、俺が不幸だとは思っていないしな。
「今日は楽しかったですわ、アスナさん。また……遊びに誘ってくださいね?」
 はにかんだ笑みはやたらと愛らしかった。記録しないのはもったいない気がするな……今度デジカメでも買っておくか? いや、この時期だとまだまだお高いシロモノだったんじゃなかったかな。
「そうだな。とりあえず、また明日学校でな」
「ええ、では」
 リムジンはすぅっと幽霊のように走り去っていった。乗ってたときから静かだと思ってたが、外からでもエンジン音がほとんど聞こえないと言うのはどういうことだろうか。
「ただいま、管理人さん」
「おお、お帰り、アスナちゃん」
 管理人の爺さんにあいさつして、今日の戦利品を抱えて住処に戻る。
「ただいま」
 鍵が開いてるってことは、保護者殿はご在宅だな。
「お帰り、アスナちゃん。お疲れ様」
 少々老成した印象の眼鏡青年が笑顔で迎えてくれる。うむ、やはり帰宅のあいさつが返ってくるのはいいものだな。
 買ってきた荷物を片付け、リビングで緑茶を淹れて休憩しつつ、今日の外出について話をする。
 それほど面白い話ではないとは思うが、にこやかに相槌を打って聞いてくれた。
「で、ドッグタグを買って……っと、そうだ。ちょっと待って」
 部屋に戻り、細長いケースを持って戻る。
「はい、プレゼント」
「えっ。僕にかい」
 俺に断って包装を解く。
「万年筆?」
「ちょっと古いけどブランドもののいい品物が安売りしてたんで買ってきた。日頃の感謝の印。使って」
「日頃の感謝って……。まあ、うん、わかった。ありがたく使わせてもらうよ」
 苦笑する保護者殿。
 さて、じゃあ、夕飯の支度を始めるとしようか。
 俺は台所に向かい、冷蔵庫の扉を開けて、何が作れるのかを確認し始めた。

「……どっちかと言うと、僕のほうがお世話になってる気がするんだけど……」

 保護者殿の情けない声音の独白は、黙考する俺の耳には届かなかったのだった。


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