「あんた達本当に仲がいいわね。でもそれで結婚してないってんだから何かへんな感じよね」
麻帆良学園某所に佇むコテージの中、麗らかな春の日差しが差し込む窓辺で二人の男女、――片方は外国人が大人びて見えるのを差し引いても見た目が10歳前後、絹のようなブロンドの髪と抜けるような白い肌に、蒼い瞳が目を惹く美少女で、もう片方は見た目が20歳前後、少しくすんだ茶髪に白い肌、碧眼の平凡だが柔和な顔つきの男だ。――が優雅に茶を楽しんでいると、ネギがアスナにのどか、夕映を連れてやってきたのだ。
どうやらこの家は彼女たちに溜り場認定されたらしく、ここのところ毎日やってきている。それも最初は数人だったのが、色々な出来事を経てかなりの人数になってしまった。どうせこの後もぞろぞろとやって来るのだろうと、二人はため息をつくと茶々丸に人数分のカップを出すように言いつけた。そうして人数が増えていき、いつものようにがやがややっているときにふとアスナが言い出したのが冒頭の台詞なわけである。
アスナは塩の混入した麦茶を飲んでしまったような顔をしながら発言したが、当の二人も何とも言えない微妙な顔をしており、周囲の人間もやれやれ、といった風であった。
二人は時に親子、時に兄妹(姉弟)、時に師弟と、様々な関係に見えるのだが、不思議と恋人同士には見えないという言葉では表しづらい関係なため、アスナの頭は的確な表現が見いだせず考え過ぎて一周回ったアホな回答を導き出したようであった。自身もそれが分かるのか変な顔をしていたが、そこはさすがのバカレッドこんなことは慣れっこだと勢いで押し通すようだ。そして言われた二人は後半の発言に反応したようである。
「今さら恋人と言われてもピンとこんな」
「どうしてよ! あんたたち600年ずっと一緒だったんでしょ! それにそんな格好で言っても説得力ないわよ!」
今の二人の格好はというと、見た目10歳前後の美少女が、見た目20歳前後の男の膝の上でティーカップを傾けているという状況だ。彼女曰く「そんな気分だった」らしい。
「うーん確かに不思議だよねぇ。二人のこれまでって、言っちゃうと愛の逃避行ってやつでしょ? 女なら一度は憧れるシチュじゃない? 迫り来る追っ手! 幾度となく命の 危機にさらされ互いに味方は相手だけ! さらに二人は男と女! 二人は手を取り合い幾度となく追っ手を退け、深まる愛! ……なんて素敵じゃない?」
と、身振り手振りを交えて大仰に語りだすが、
「愛の逃避行……ね」
エヴァには鼻で笑われてしまった。
「そうだね、朝倉さんの話しに乗っかるなら幾度となく命の危機に晒されるからこそってやつかな。」
「そうだ、そんな極限状態で恋愛感情なぞ邪魔なだけだ」
「ならそこにある感情は何なのよ?」
「戦友に対する信頼ってとこかな」
どうやら二人は多感な乙女でも想像すらできない中々に複雑な関係らしい。
「うーむ、何やら複雑な様子。私達じゃ想像もつかないや」
「当たり前だ! 高々13年そこらしか生きていないような小娘に想像がついてたまるか!」
「じゃあさ、よかったら二人のこれまでっての教えてよ!」
「何故貴様ら何ぞに教えてやらねばならんのだ!」
「まぁまぁいいじゃないか。エヴァだっていつも暇だ暇だってぼやいてたじゃないか。いい暇潰しになると思うよ」
「ひまっ……暇潰しだと!? 私たちの600年は! 暇潰しで語るほど軽いものではないはずだ! 絶対に許さんからな!」
そうぴしゃりと言い付けると、もうこの話は終わりだとばかりに、紅茶を飲み始めた。周りからブーブーと不満の声が上がっていた。そしてそう言われた本人はと言えば、
「あらら、怒らせちゃったかな? ごめんよ」
と苦笑しながら意識を遠くへ飛ばしているようだった。
「ねぇ友達になろうよ」
これが君と僕の600年にわたる長い長付き合いの始まりだったね。