前書き
・オリ魔法少女世界になのはがやってきました。
・末期戦風味架空戦記小説です。
・今更ながら完結しました。
・にじファンにも掲載しています。
注意は以上です。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
そこは第九十七管理外世界──地球のある世界──に良く似ていました。
でもそこは決定的なまでに違う点がありました。
重なる歴史、異なる歴史。
積み重ねられたものは違うけど、そこで生きる人達は一生懸命に生きていました。
手にしたのは新しい出会い。
出会ったのは私とは違う魔法。
リリカルなのは、始まります。
『魔法少女リリカルなのは -New Horizon- 』
白銀の山脈が連なり、雪が降り止むことのない世界。
そんな静寂こそが相応しい世界の一角は今現在場違いなほどの騒音に満ちていた。
原因は明確。
二人の少女、管理局所属の魔導師である高町なのはとヴィータが魔導兵器と戦闘を繰り広げていたからだ。
「これで、終わりだっ!」
ヴィータは言葉と供にグラーフアイゼンを勢いよく振り下ろした。
最後の一体である魔導兵器=卵型の外見/二対の特殊合金製の触手/赤く灯るモノアイ/一山幾らの雑魚といった風情。またそれを裏切ることはなくヴィータの一撃によりわけなく大破。背後に累々と残骸を晒す同型機と同じ運命に。
完全に破壊したことを確認するとヴィータは雪が積もっていることなどお構い無しにその場に座り込んだ。
その周囲からは時折、爆発音が響く。
「やっと終ったな……」
周囲を見回し、肩で息をしながらヴィータは言った。
「うん、しょうがないとは思うけど聞いてた話と全然違ったね……」
なのはは相槌を打つ。その顔はヴィータ同様疲労の色が濃い。
「本当に、冗談じゃねぇって……」
ヴィータは愚痴を零す。
「にゃはは……」
その愚痴になのはは苦笑するしかなかった。
ヴィータだって分かっているのだ、なぜこうなったかを。なにせ、原因は明白である。要するにマンパワーの不足。それも直ぐには解決できないほど圧倒的に人手が足りないのが原因だったのだから。
時空管理局。
数多の世界を管理運営する組織。
その規模は巨大であり、その権限もまた巨大だった。だがそれでも星の数ほどと形容していい次元世界を全てカバーするにはどうしようもないほど不足しており、今回のような管理局がその存在を知っていた程度の管理外世界のことまで完全に把握するのは不可能であった。
本来、管理局内でも知っている者の方が少数派であろう雪が支配する白銀の世界になのは達が出向く理由となった案件があった、それがスクライア一族によって新たに発見された古代魔導文明の遺跡群により発見されたジュエルシードに匹敵する魔力結晶体だった。
既に発見された魔力結晶体自体はスクライア一族及びその護衛として派遣されていた武装局員一個小隊によって確保され管理局に運びこまれていたが、肝心の遺跡群の中枢と目されている神殿へ到達することが出来なかった。勿論、理由があった。防衛システムが生きており一個小隊程度の戦力では危険性の排除が不可能だったからである。
管理局にとって火急の用件というのは幾らでもあった。
それでもジュエルシードに匹敵する魔力結晶体、しかも外郭遺跡から発見され、中心部にはより危険性の高いロストロギアが存在する可能性が高く、またロストロギアの盗掘を生業とする武装集団が遺跡を狙っているという情報(後日、誤報であったことが報告される)も優先順位を向上される要因になった。
その為、規模を増大させた調査団に先立ちある程度の危険性の排除を目的とした少数の高ランク魔導師による先遣隊が送り込まれることが決定された。
それがオーバーAAAクラスであるなのはとヴィータだった。
そして現在に至る。
「じゃあ、そろそろ行こうか」
小休止を終え、立ち上がるとBJについた雪を叩き落とす。
「ああ、さっさと終らせようぜ」
そういうとグラーフアイゼンを肩に担ぎ、二人は飛翔魔法を展開させた。
神殿、直上。高度千五百メートル上空。
不意の閃光/レイジングハートによる警告/予想外の衝撃=墜落。
「なのは!」
ヴィータの声、だけれどなのはに認識されず、半ば失いかけた意識のまま墜落。
「──……っ!」
急いでなのはを助けようとするところへ眼前に敵影が出現。先ほどの魔導兵器に似た外見、数は先ほど同様多数、阻まれ助けることなど不可能。
その間も落下は継続される。
直ぐに訪れるだろう情景。
それを覆そうとヴィータは必死に追いつこうとするが魔導兵器に邪魔され届かず。
そこで予想外の出来事が起きる。
「何だアレ!」
突然空中に現れる黒い孔。
まるでブラックホールのようなそれは周囲の空間され捻じ曲げているのか陽炎のように歪んで見える。
其処へ吸い込まれるように落下を継続していくなのは。
まるでそれを守るようにして布陣する魔導兵器の群、群、群。
その数は増してゆき両手両足の指の数の数倍以上。
「畜生っ! どけ、どけよ、お前らっ!」
グラーフアイゼンを振るい進路上に存在する魔導兵器を撃破していく。
それでも尽きることなく出現する魔導兵器。
「ラケーテンハンマー!」
加速しながら魔導兵器を数体まとめて破壊する。
縮まる距離。
急激に消費される魔力。
既にカートリッジの数は片手の指の数におさまるほど。
如何にAAAランクの魔導師といえど何時果てることのない数の暴力の前には敵わず、また連戦であり時間制限のある限定条件化であったことが拍車をかける。
それでも諦めない。
必死に加速し、薙ぎ払い、なのはの元へと飛翔する。
手を伸ばせば届く。
そう確信させる距離。
グラーフアイゼンを握る手とは逆の手を伸ばす。
「届けっ!」
なのはの白いBJに手が届く、瞬間。
確信を打ち砕くように先ほどと同様の閃光が空間を走り二人を分断させる。
同時刻/神殿の中枢部。
其処に存在する魔力結晶を動力源にする魔導機/一種の転移装置。
主を失ってなお動作する機械、されど経年劣化により歪が生じる。
本来任意の場所に時空間移動することが可能であったが既にその機能は失われ、一方通行のランダム転移のみ可能。
周囲の魔力を収集するシステムが仇となり、AAAランク魔導師の戦闘という高密度な魔力をキーとし、数千年ぶりの稼動。
そしてその結果──。
「なのはーっ!」
伸ばした手は届かず、黒き孔へとなのはは墜落した。
白き魔導師の消失。
後日、時空管理局は──、
時空管理局本局武装隊、航空戦技教導隊第5班。
局員ID:STX01220-015214229
高町なのは三等空尉のMIA認定を正式に決定した。
*
富士の裾野に広がる大地。
大日本帝国統合軍/富士裾野演習場。
晴れ渡る蒼穹、高度三千メートル上空に浮かぶ黒い孔。
ホールと呼称されるそれを眺める人物。
「で、様子はどうなんだ?」
無精ひげ/ぼさぼさの髪/隈の浮かんだ顔=寝不足を体現したような表情。
漸く寝入ったところを起こされ、不機嫌を隠そうともせず、男=大隊長補佐結城一郎太中佐が質問する。
「はい、微弱ながら次元振動を感知しました。間違いなくアレは生きたホールです」
実年齢は四捨五入すれば三十のはずだがいまだ十代に見える副官がそれに応えた。
「つうことはもう直ぐくんのか。で、うちの隊長さんは何処だ?」
「隊長でしたら、いつものトレーラーにおられます」
「うん、なるほど」
一つ肯くと結城はトレーラーへと向かう。
それは移動司令部であり、独立機動群第501教導技術大隊の指揮機能の中枢部であった。
結城は数台の大型トレーラーの内の一台に乗り込む、車内は大型モニターに占拠されている壁面を楽しげな眼差しで見詰める軍服の上から白衣という奇妙な服装の人物と刻一刻と増加していく情報処理の為の人員がいた。
白衣の人物=大隊長である片倉シロウ技術少将は結城を目ざとく見つけると軽く手を振りながら呼ぶ。
「やあ、おはよう。どうだい、よく眠れたかい?」
「見た目どおりですよ」
「あはは、それは残念だったね。君、えーっと工藤君。コーヒーでも入れてきてくれないかな、僕には甘くて彼には苦いの」
「はい、わかりました」
片倉は結城の副官である工藤にコーヒーを命令すると、視線をモニターに移してから再び結城に向けた。
「それで、この状況をどう思うかな? 結城中佐」
にんまりと目を細め結城を見る片倉、楽しげに。
「そうですね。ちょっと妙なところがありますが、いつものように小隊規模の架空存在が顕現して終わりじゃないですかね」
それになれた様子で応える。モニターに映るホールは極見慣れたもの。
「うーん、そうかもしれないし違うかもしれないよ」
「といいますと?」
「まだデータの絶対数が少ないから確定とまではいかないけれど、久々に来るかもしれないよ、希人が」
「本当ですか?」
希人──違う世界からの訪問者/異邦人。
「まあ、可能性の話ではあるけどね、良く似てるんだよ」
「良く似ている?」
「ああ、良く似ているよ。二十年前のあれに」
片倉は言いながら視線をホールが映っている中央の大型モニターに向ける。同じように結城も向けた。
「…………」
結城は無言のまま画面を見詰めた。
「──次元振動、感知。増大していきます。戦術サーバー〈賢人〉より回答。推定顕現時間までおよそ5分」
オペレーターの一人が言った。
「お、いよいよだねぇ」
それを聴き、嬉しそうな声を上げ、片倉は手元の情報デバイスに指示を出す。
「はい、これ」
結城は受け取ると、画面を確認する。
顕現予想戦力である一個小隊規模の架空存在相手には過剰とさえいえる戦力配置=それを可能にする富士裾野演習場という場所。
「あれだね。もし、架空存在だったら袋のねずみっていうか運がないね」
「いいことです。市街地にでも現れたらことです」
顕現頻度で言えば日本は他の国に比べて少なく、また恒常的に存在し続けるホールが存在しないという点でも幸運だった。
「まあね、去年の北海道は酷かったからね。函館だったっけ? 時計台が壊される映像は中々とショッキングだったね」
片倉が口にしたのは昨年に起きた第三次顕現でのこと、当時函館上空に出現したホールは一個中隊規模の架空存在を顕現させ消滅し、顕現した架空存在は函館の町で破壊の限りを尽くした。結局は第七師団と第503教導技術大隊の共同作戦にて殲滅したが、函館の復興は今だならず破壊の痕は残っていた。
「まあ、彼女達がいれば大丈夫だと思うけどね、そんなわけで結城中佐。彼女達をよろしくね、三号車で待機してるから」
「わかりました」
出口、丁度、コーヒーの入ったカップを二つ持った工藤と出会う。
工藤の手からカップを受け取るとそのまま三号車に向かう。
「中佐」
結城の背に向け工藤はいった。
「ああ、工藤君。ちょっと遅かったね」
にやにや笑いながら立ち上がると、片倉はカップを受け取り一口嚥下する。
「三号車だよ。彼女達の出番だ」
そう言って工藤の背中を叩いた。
三号車車内。
一号車とは違いある存在のための装備で空間が満たされていた。
「そろそろ来る頃じゃないかと思ってましたよ」
技術主任である直枝技術少佐が歓迎するように片倉に言った。
「ああ、久々の出番だ」
その言葉は直枝の背後にいる三人の少女達に向けられたものだった。
「待ちくたびれたよー、中佐」
少女Aの発言──薄い茶のボブカット/悪戯猫を連想させる切れ長の瞳/無駄な肉がないすらりとした肢体──円條寺虎子=5011小隊特別魔法戦技官。
「本当だよ。お婆ちゃんになるかもって思いました」
少女Bの発言──柔らかなロングヘア/兎のようなパッチリとした瞳/女性的というしかない丸みを持った肢体──叶野ツバサ=5011小隊附特別魔法戦技官。
「それは言いすぎですが、そのぐらい待ったという感想ですね。時間の経過は相対的なものですから」
少女Cの発言──艶やかな黒のツインテール/仔犬のような風情の瞳/年齢よりもさらに幼さの残る肢体──芳野そら=5011小隊特別魔法戦技官。
特別魔法戦技官。
それこそが少将が大隊を率いる要因となった存在。
大日本帝国統合軍最強の戦術存在。
人類の切り札。
そして──魔法少女と呼ばれる存在。
*
『予想時刻まで残り三十秒。十秒前からカウントスタートします。…………10・9・8・7・6・5・4・3・2・1・イマ』
瞬間、ホール周辺の空間に激震が走り、黒い孔から一つの物体が吐き出されるようにした出現した。
それは通常の架空存在が顕現とは違っていた。架空存在の場合は最初からその場に存在していたかのように姿を現すが、今回はまるで他の場所から持って着たかのような印象を受ける。
「うん、やっぱり架空存在じゃないね、あれ。画面最大まで拡大して」
最大限まで拡大して映像がモニター一面に映し出される。
瞬間、その場にいたほぼ全員が驚きの声を上げた。
「子供……?」
オペレーターの一人が発した言葉がその全てだった。
特別魔法戦技官たちとさして変わらない年齢に見える少女が、ホールより現れ、墜落している。意識がないらしく動く様子はない。
「結城中佐、彼女達をだして回収して」
片倉の命令に肯き指示を出す。
「5011小隊出撃、目標を確保せよ」
ほぼ同時に三種の『了解』という返答。
三号車後部が開き、三種の閃光が飛び立った。
「二人とも競争だ!」
「ことら、どんな危険があるか分からないんだから慎重に──」
「そらったらいつもそう。大丈夫だよ。ボクは強い子だからね」
諌めるそらを遮り、なお虎子はいった。
「そらちゃん。私たちがフォローすれば大丈夫だよ」
「はぁ、しょうがないですね。可及的速やかに任務を達成しましょう」
しょうがないと内心でため息をつき、そらは肯いた。
高町なのはは現在重力に従い落下を続けていた。このまま落ち続ければ、如何にBJを装着していても無事ではすまないだろう。本来のなのはだったら何の問題もないのだが、意識がない現在命の危機といってよかった。
そう、このまま落ち続ければ。
だけれど救いの手はやってくる。
三種の閃光と供に。