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No.31791の一覧
[0] 今すぐクリック!(短編)[白山羊クーエン](2012/03/06 20:43)
[1] 後編[白山羊クーエン](2012/03/06 20:44)
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[31791] 今すぐクリック!(短編)
Name: 白山羊クーエン◆49128c16 ID:da9c9643 次を表示する
Date: 2012/03/06 20:43



「――――オレがパソコンになっちまったっ!!」





「…………いきなり何言ってんだお前は。股間に垂らしているのが有線マウスだとでも言うのか?」
「違うっ、マウスは口だっ!」
「…………笑えねぇ」
「とにかく話を聞いてくれっ!!」

 木ノ下は困惑していた。
 平凡な高校生である木ノ下は昨今の若者の如く優雅なパソコンライフを満喫していた。毎日のようにネットサーフィンを繰り返しては大手総合掲示板で不特定多数を相手にくだらない話をしていく。そのキーボード捌きは最早残像が見えるほどだ。
 だがそこに突っ込むと間違いなく、質量を持った残像だ、などと言ってくるので友人である人見は絶対に口にはしない。

 木ノ下はいつものように学校に行き適度に勉強した後、部活を休んで家に帰り、楽しみにしていた生放送を聞いたらしい。その後も普段と変わらない生活をこなし就寝。
 そして目覚めると、
「――パソコンになっていたんだ……」
「…………」
 テーブルを挟んで座る友人を見やった彼は眉間を揉む。疲れているようだと人見は自覚し、そして本当の質量を持った残像に向けて言った。
「ああそうだな、お前はパソコンで夢で残像で幻だ。全く以ってお前はパソコン以外の何物でもないわけだから頼むから消えてくれ。いや全く最近の俺は疲れているのかもしれないな、幻と対話するだなんてドッペルゲンガーとどちらが稀少なんだろうか」
「待てっ、これは夢でも幻でも残像でもないっ!!」
 人見が背を向けたので慌てて引き止める木ノ下。その願いを人見は気にしない。幻の制止など誰が聞くというのか。

「くっ、ならオレも最終兵器を繰り出すしかあるまいて……っ!」
 ピクリと反応した人見に木ノ下は笑みを深めた。生粋の武器マニアである彼を釘付けにする言葉など木ノ下の脳内には雨後の筍の如く。
「ギィィィィイッ!!」
 擬音を口にして人差し指と中指をくっつけて前に差し出す。水平になった時点で声を大きくするのがポイントだ。
 そしてその擬音に従って人見がゆっくりと振り向いた。
「……なんだ、それは」
「へ、よく見ていろよー!」
 ゴゴゴゴゴ、と口にする木ノ下を冷めた瞳で見つめる人見。なんだかんだで友人なのである。

 やがて木ノ下は言った。
「さぁ、クリックなされい!」
「…………」
「さぁ!」
 ずい、と出される指。人見はもう一度眉間を揉んだ。
 これは何か? 指を押せとでも言うのか?
 どこぞの大魔王のように仁王立ちする友人を放っておいてもよかったが、流石に最終兵器だ、とりあえず中指を押してみた。
「ジョン!」
「うわっ!」
 不意に目からビームが出た。と思ったらそれは投影装置のように映像を映し出している。人見の背後の壁に映ったのは、ふはは見たか、という文字だった。

「…………」
 眉間を揉んだ。
「ジョン!」
 光が戻り、そこには自慢げな顔の木ノ下がいる。丸みを帯びた顔にやや垂れ目、団子鼻に口角の上がった口。中肉中背の学生服姿。紛うことなく平常の木ノ下である。
 フー、と息を吐いた。
「――それで、パソコンノ下」
「なにっ!? 改名した覚えはない!」
「……パソコンノ下はどうしてパソコンノ下になったんだ?」
 訂正する気はないらしい。どこぞのロミオのような言葉に答えようとした眼前のパソコンノ下は、やがて今までの強気を消して泣きそうな顔になった。
「……だから、わかんねぇんだよぅ……」
 気持ち悪い、人見はそう思った。

 おろおろと、どうしようどうしよう、と連呼する学生服。これが街中でなくて良かったと本心から思う。
 かといって現在のファーストフード店内ならいいかと言えばそうではないのだが……
「――で、ソン下」
「三下みたいに言うなあ!」
「何、さっきの」
 さっきのとは目から飛び出した投影である。いきなりパソコンになったと報告され、そしてクリックしろと言われて出したアレの正体が彼にはわからなかった。
「ああ、あれ。あれはアレだ、右クリックだ」
「お前マウスは口だって言ったじゃないか」
「ちげぇよノーパソに付いてるほうのだよ。マウスのほう押すってお前、オレの美歯並びを破壊したいのかよ!」
 仕方ないヤツだなはっはっは、と笑うソン下だが、人見は歯並びを綺麗だと思ったことは一度もなかった。しかしビハナラビという音で即座に理解するほうも大概である。

 フー、と息を吐き、気持ち悪いヤツだと思い、
「気持ち悪いヤツだ」
「そんなことはないっ、オレの気の持ちようが秀逸最良であるからこそこうして話ができるんだっ!」
「ああ、そうだな。それでお前、他にどの辺がパソコンなんだ?」
「説明しよう」
 まず右手人差し指と中指は本体に備え付けられた左右ボタンである。マウスは口、舌でカーソルを動かす。キーボードは身体中に配置されていて本人も全てを把握していないらしい。画面は顔、しかし目から投影して外部に映すこともできるそうだ。ちなみにスピーカーは口である。
「いくつか聞きたいんだが、マウスとスピーカーが一緒じゃないか」
「スピーカー付きマウスって新しいよネ」
 ネ、のタイミングでウインクするこいつを廃棄したい人見だが、それ以上に物珍しいので疑問の解決に力を注ぐ。
 ちなみにそんなものは当の昔に開発されている。新しいと言うのならマウス機能付きスピーカーにすればいい。

「舌でカーソル、と言うがカーソルはどこにある」
「カーソル? んなもんねーよ?」
「滅びろ」
「滅びれろ」
「…………」
「………………」
「……画面は顔だと言うが、具体的に顔に何が映るというんだ。眼からの投影だけで十分じゃないか」
「ふふん、甘いな」
 咄嗟の切り替えしがうまくいったことがよほど嬉しいのか木ノ下は目を細めて笑い、顔ディスプレイの詳細を説明する。
「顔はな、その時の命令に対するオレの感情が出る!」
 そういえば買ったばかりのバーガーを食べていなかった。
 人見はようやく一口目を食べた。うまい。
 木ノ下もぱくりと食べた。まずい。

「何がまずいって、パソコンになった時から今まで食ってきたもんがうまく感じなくなったってことなんだよ」
「じゃあなんで頼んだんだよ」
「お前オレを一人ぼっちにさせたいのかよ!?」
「いいじゃないかぼっち、最近流行なんだろぼっち?」
 最早語尾にぼっちでも付けていろと思わなくもない人見だが、それで更に始末の置けないヤツが完成するのは避けたかったので是非もない。

「――なぁパ木ぼち」
「おま、おまえぇぇぇえええ!!」
「頭が良くなったんならいいじゃないか」
「へ?」
「パソコンになったってことはその演算能力がついたってことだろ? 東大楽勝じゃないか」
 コンピューターの頭脳を手に入れたと考えればこれほどのことはない。人間を遥かに超えた存在になったといっても過言ではないのだ。ただその点だけは人見も純粋に羨ましいと感じている。
 それに気づいたのか後頭部を掻いて、えへへ、と笑う木ノ下。やはり気持ち悪い。
「そうなるとアレだな、一気に有名人だな」
「マジでかー!」
「テレビとかの取材がひっきりなしに現れて――」
「おいおいやめてくれよー!」
「生い立ちとか調べられて番組に引っ張りだこで――」
「勘弁してくれよオレは一人しかいないんだぜー?」
「パソコンになったことがばれて解剖される」
「おいおいやめてくれよー…………やめてくれよっ!?」
 パソコンの演算能力が備わっても反応速度はいつものままだった。突然我に返って動揺するところなど本当に木ノ下そのままである。

「身体中にキーがあるなら、今座っているお前は何のキーを押しているんだ?」
 身体中なのだから当然臀部にもあるだろう。するとパ木ぼちはいやんと言って身体をくねらせた。
「この、へんたいっ」
「今外に出ている箇所にはないな。本当なのか?」
「……まぁ、一応」
「打ったら文字はどこに出る。また投影か?」
「んにゃ、目ん玉に映るぜい!」
 するとあのフィクションでよく見られる手法が再現できるわけか。ちょっと$を打ってみたい。
 そんな人見の気配に気づくことなく木ノ下は更にくねっていた。
 本当にいつもの木ノ下だった。それで、と人見は口を開き――









「――――それで、お前はいったい誰なんだ?」









 コーヒーを啜って、言った。


「…………」
「パソコンになっちまった、なんて信じる馬鹿がいるものかよ。確かにアイツはアイツで年がら年中パソコンにかじりついているようなヤツだが……そんな現実あるわけがない」
「………………」
 口を結んで人見を見る木ノ下。そこには感情が込められていない。肩を回して解しながら人見は続ける。
「お前は偽者だ。いくら本人に似せたって――――アイツが俺の名前を言わないなんてありえない」
 ガタ、と椅子を鳴らして立ち上がる。

「一つ、忠告しておこう。木ノ下今実の性格がお前のようだったのは中学の時だけだ。今では別人のように大人しい静かなヤツだよ。ま、別人にならざるを得なかったのかもしれないがね」
「……そうですか。デハ、次は気ヲつけますよ」
「次? 面白い冗談を言うんだな」
 人見は木ノ下の右肩を掴んで静かに伝えた。
「――人見翔直は次って言葉が嫌いなんだ。人生、次があるなんて希望はないからな」
 にやりと笑った木ノ下は、その瞬間に融解した。






 真っ暗な通路に靴音が反響する。それは自分が世界に一人だということを実感させてくれるので人見には心地良く聞こえた。
 距離にして一キロ、様々な装置が仕掛けられた道を人見は悠然と歩いていく。それらは人見には絶対に反応しない。照明すら反応しないからこそ、ここは人見にとっては暗闇の通路だった。
 足が止まる。身体で覚えてしまったドアノブの位置に手を伸ばし、ゆっくりと開いた。
「いつもいつも、俺は学習しないな……」
 扉の先に広がる緑に溢れる空間。太陽光にそっくりな照明が辺りを照らすここに来ると、いつも人見は目が眩んでしまう。
 目を瞑ってから入ればいいのに彼はそれを行ったことがなかった。あるいはそれは、彼の奥底にある欲求なのかもしれない。

 今では全く見なくなった自然の植物が造る中を静かに歩く。
 ここでは靴音は鳴らさない、この世界では一人ではないからだ。

 行き止まりの蔦のカーテンを潜って奥へと入る。そこは今までの自然に似合わない無機質な銀の世界。人工的な光が明滅して目が痛くなる。
 そこの中心、宙に浮く透明のディスプレイは、彼の姿を確認して静かに回転した。カタカタと文字が刻まれていく。
“おかえり、カケスグ”
「ただいま、イマミ。今日、昔のお前の冗談をパクったヤツに会ったよ。ま、お前は冗談じゃなかったんだけどさ」






 木ノ下今実は男のような女です。人見も男のように扱っていました。描写不足なのは想像の余地があると言い換えてください。
 タイトル詐欺をしてみたかったからチラ裏に投稿できなかった。短編です。


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