久しぶりの学年合同模擬戦があった日の屋上にて。
「やっと二人きりになれたね」
「強引すぎるけどね」
河内恵子は、能美みゆきを連れ出してきていた。
風が吹きすさび、みゆきのスカートと黒髪はばさばさと音を立てる中、恵子は言った。
「わざわざどうしてこんなとこに?」
「言うまでもないでしょ。話がしたいからよ」
「毎日会ってるのに?」
「みんながいるところでね。あんた、私と二人きりにならないよう逃げてるでしょ」
腹がたつやつだ。その位わかるっつうの。
「それで、みんながいるとこじゃできない話って?」
「あの悪魔使いとのこととか。あんた本当にいいの?」
「いいも何もないよ。仲良くしてるだけ」
「恋人なの?」
「――候補、かな」
「恋人に候補も何もあるの? そんなのやるのは小悪魔ぶったクソアマでしょ。いつからそんな女のゴミための住人になったの?」
「恵子、口悪すぎ」
「あんたがさせてるんでしょ」
みゆきの表情を覗うが、煽られた長い髪が、顔を覆ってしまっていて、ほとんど見えない。
風は強く、執拗なまでに顔にまとわりついている。しゃべるのも億劫そうだ。
そんなのは当然当人も鬱陶しいはず。
しかしみゆきは両手を後ろ手に組んだまま動こうとしない。手で適当に遮ればいいのに。
おそらくわざとだ。顔を見せたくないのだ。
詰め寄って髪かきあげたろかとも思ったが、止めて、代わりに質問を続けた。
「あの悪魔使い評判いいね」
「そう」
「あんたと瓜二つの評価ね。お似合いだってさ」
「そう」
「でも私にはわかる。アレ、性格悪いでしょ」
一瞬だけくちごもったが、それまでと変わらない口調で、返答された。
「そんなことないよ」
「実はさ、私平唯とも最近話してるのよ。あの子もいいやつね。頭良すぎるけど」
「唯も喜んでるでしょうね。恵子と友達になれて」
「それでスポーツ公園での一件とか聞いたんだけどさ、それわざとでしょ」
「何を根拠に」
「女の勘」
ギルド部一行とみゆき達の予約がバッシングしたまではいい。
あそこは学校に近いから、学校帰りに使うには一番良い場所だ。
そしてみゆき達は大会に向けて日々練習していて、そこを使っていてもなんらおかしくない。
歩達が予約したのも、当日行って使えるとか考えるのは少し甘すぎるが、なくない。
浮世離れした三人だ。
しかしその後の行動がわざとらしすぎる。
大会直前の練習時間を、それも竜使いの対抗馬にすんなりと明け渡す?
敵情視察のため? 人がいいから? 竜使いだから?
そんなのよりもっと自然な理由がある。
「あれ煽りでしょ。あなたたちのみゆきさん、いただきましたよ、っていう」
みゆきが何も言わないので、続けて言う。
「今日の模擬戦でもそうだよ。これ見よがしにずっと一緒にいてさ。あんなあほなバカップルごっこをあんたがするわけないじゃん。しかも恋人候補とか言ってる相手に」
「あ、ごめん、この後用事あるんだ」
「あいつと練習? 対して好きでもないやつと? 底意地の悪い表面だけの馬鹿と?」
「ひどい言い草」
「何かあるの? あいつと」
「何も。じゃ」
「逃げんな」
止める間もなく、みゆきがぱっと走りだした。
私がいる方とは反対側の出口に向かって、本気で逃げる。私じゃ追いきれない。
「ほんと、不器用なんだから」
風だけが、私の独り言を聞いていた。
短いですが、こんなもんで。次回iです。