私の生まれはまず幸運といっていいものだった。
双方竜使いの貴族同士で、しかも恋愛結婚の父と母。
貴族としての格の高さと、それに付随した何不自由な暮らし。
地位のため父は忙しかったが、それも誇り高い理想の父親だろう。
母にとっては、十三で知り合い、恋人となり、五年後には夫となった理想の人。
これ以上妄想すらできないであろう、理想の家庭だった。
私が生まれるまでは。
父の家系は代々オッドアイ、つまり両目の色が違うという遺伝的形質を持っていた。
代々男子からのみ受け継がれ、オッドアイの男から生まれる子どもは性別関係なくオッドアイ。
それとは逆にオッドアイの女児から次に生まれてくる子は、必ず同じ色の目をしていた。
その性質は優性遺伝であり、条件さえそろえば必ず発現する、一族の証明であった。
しかし私には、その性質は受け継がれなかった。
薄めの茶の双眸からは、どう観察しても差は見つけられなかった。
現存する全ての鑑定を用いたが、どれ一つとしてオッドアイであるという結論を出したものはなかった。
当然、両親は困惑した。意味がわからなかった。
そしてすぐに最も説得力があり、最も下劣なウワサが出回った。
――奥様が忙しい旦那様の目を盗んでオイタをなされた。
もちろん母は否定し、激昂した。
父も母を信じ、共に怒り、外部には絶対に漏らさせなかった上に、ウワサの流通と出所を徹底的に調べ、厳罰に化した。
おしゃべり好きな使用人が不敬罪で罰せられてからは、表立ったウワサは完全になくなった。
ただ、それから母にボディーガードを兼ねた使用人が、二十四時間体制で張りつくようになった。
目的は明白だった。
以上のことを私が知ったのは、高校に入って一人暮らしを始めてからだ。
初めての一人暮らしのため、実家から派遣されてきた使用人から聞いた。
彼女は初めは渋っていたが、序々にその重い口を開いてくれるようになった。
そのときになってようやく全てを理解できた。
私との距離感がどこかおかしかった父と、時折向けてくる母の頭蓋骨の裏をそっとなでるような底冷えする視線。
そして、何故母が私の目を焼こうとしたのか。