アーサーが生まれるずっと前、似た場所にて。
「おめでとう!」
「ありがと」
×××は、○○○のパートナーの誕生を祝福した。○○○は全身で喜びを表しており、×××も人ごとながら嬉しく思った。○○○とは同じ施設で暮らしており、友人と家族の間のような関係で、○○○の喜ぶ姿を見ると×××も嬉しくなる。
今二人が一緒にいるのは、来たことのない病院。誕生日が同じ日だからで、十二歳の儀式を一緒に迎えている。
それにしても――驚いた。
「竜なんてすごいね」
「へへへへ」
友人のパートナーは竜だ。いわゆる宝くじに当たった感覚だろう。黄褐色の鱗に包まれた細長い竜は、○○○の手のひらで穏やかに身を伏せている。大きめの翼はおさまりきらず、手のひらから外れて、だらりと垂らしていた。
×××は正直羨ましく思った。パートナーが竜である人、竜使いともなれば後の人生は約束されたようなものだからだ。両親がいない自分達にとってみれば、それは何にも増す保証になる。
自分の卵を見る。
全く動きはなかった。
「○○○君、おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
大人の人がやってきて○○○に声をかけた。病院の人らしく、書類やらなにやらの記入を進めてきた。
「それにしても、竜とはね。すごいな」
「ありがとうございます」
本当に――うらやましい。手のひらにおさまるほどの竜を見て、そう思った。
再び、自分の卵に視線を移すと、既にヒビが入っていた。
孵るのだ。
慌てて近寄り、両手で包むようにして持ち上げた。
「お、君もか」
病院の人が興味深げに覗いてきた。
卵のヒビはすぐに広まっていく。ものの数秒で――生まれた。
「これは」
「おやおや」
炎に燃えるたてがみに、獅子の勇壮な顔。身体もライオンのものだが、ところどころ鱗も見える。尻尾はヘビとなっており、尾の端には蛇の下が覗いていた。
その姿は、今日まで思い描いてきた中でも最悪を想定したものと、余りにも似通っていた。それは多種多様な姿を持つパートナーの中でも、特に様々な姿を持っていると聞く。これが確実にそうだ、という証拠はない。
しかし。
しかし、余りにもテンプレートな姿だ。
この雑多なパートナーは――
「キメラだね」
最も忌避されるパートナーを引いてしまった。他のパートナーを糧に成長する、忌まわしい存在。百人に見せれば百人ともが顔をしかめる、そんな忌み子だ。
絶望感が押し寄せてきた。
うなだれていると、肩に手を置かれた。
「そんな肩を落とさなくていいよ。大丈夫、全部おじさんにまかせなさい」
病院の人の声がいやに優しい。
声はすぐ後ろから発せられており、自分のすぐ後ろに立っているのだろう。すこしぞっとしながらも、視線は目の前のキメラから外せない。
病院の人が言った。
「さあ、眠りなさい」
いきなり口に何かを当てられた。息が苦しくなり、必死であがくが、大人の力には叶うわけもない。
よくわからないまま、意識は消え失せた。