それは突然訪れた。既に時間は夕刻。日も傾き、徐々に街も夜の姿へと変わろうとしていたその時。それは起こった。
炎。
まるで紅蓮のような炎がどこからともなく街に生まれてくる。次々とあちこちに。とても普通の火事とは思えないようなもの。人々は驚きながらも必死に逃げまどい混乱しながらもその場から去っていく。しかしさらに信じられないような事態が起こる。いきなり大通りに様々な物が宙から降ってきたのだ。椅子や机、電化製品、果ては自動車まで。とても人の力では動かせないような巨大な物体までまるでいきなり現れたかのように大通りに現れる。まさに天変地異。この世の出来事とは思えないようなでたらめな事態。だがそれは当たり前だ。何故ならこの事態を引き起こしているのは正真正銘、人ならざる者。まさに天災を起こすほどの力を持った神に近い存在である大妖狐の血を受け継ぐ少女。
「ふふっ、あーおもしろかった♪」
ようこは楽しげな声を漏らしながらどこか上機嫌に宙を舞う。だがその姿は普通の人間には見ることができず、この事態がようこによって引き起こされていることに気づくことはできない。そんな慌てふためいている人間の姿が楽しいのかようこはくすくすと笑いながら空高く舞い一際大きなビルの屋上、そこにある看板の上にちょこんと腰を下ろす。一度大きく深呼吸した後改めて眼下に広がる街の姿に目を向ける。そこにはようこの力、じゃえんとしゅくちによってめちゃくちゃにされてしまった街の姿があった。まるでおもちゃ箱をひっくり返してしまったような光景にようこは自分の奥底にあるものが喜んでいることに気づく。高揚感とでも言うべきものが今のようこを支配していた。その顔には笑みは浮かんでいるがそれは決して邪悪なものではない。むしろ純粋そのもの。無邪気な子供のそれだった。
「こんなに暴れたのはいつ以来かなー。やっぱりたまには運動しないとね」
誰に向けてでもなくそんな独り言をつぶやきながらようこは大きく背伸びをする。だがそこには全く疲労した様子も見られない。これだけでの力を振るいながらも。何故ならようこにとってこれぐらいは朝飯前。むしろまだ手加減を、遠慮をしていると言ってもいいくらい。だがそれでもようこはどこか満足したような雰囲気を見せている。まるで日ごろのストレスを発散したかのように。
そう、今のようこにとってこれはただのストレス解消、遊びに過ぎなかった。自らの内に荒れ狂う力を発散するための行為。例えるなら運動、遊びの類。それはようこが生まれた時から持っている本能のようなもの。言うならばなでしこが持つ戦闘本能に近いもの。だがこの五日間、ようこはそれを表に出すことなく過ごしてきた。
それを抑えてでも、ストレスをためることになっても、本当の自分を隠すことになっても成し遂げたいことが、欲しいものがあったから。
川平啓太。
初めて会った時から心惹かれた人間の子供。めちゃくちゃで、えっちで、でも一緒にいると楽しい男の子。自分の初恋の相手。啓太と一緒にいること。啓太を自分のものにすること。それがようこの願い。四年間、ずっとひたすらに待ち続けたもの。そのためにようこはずっと我慢してきた、隠してきた。自分の本当の姿を、ケモノの本能とでも言うべきものを。
でももうそれを隠す必要もない。もうそんなことをする意味も、理由もなくなってしまったのだから。
ようこはただじっと看板に座り込んだまま。ぴくりとも動こうとしない。だがその様子が先程までとは大きく違っていた。無邪気な子供のように喜んでいた少女の姿はそこにはない。そこには無表情な、冷たさを感じさせるような雰囲気を纏っているようこの姿があった。表情も感情も読み取ることができないまるで人形のような姿。だがそれは間違いなくようこ。知る者が見れば分かっただろう。それはまるで小さな頃のようこそのものだということに。
幼い頃のようこは今のようことはかけ離れた性格だった。表情に乏しく、泣くことも怒ることもなく何かが燃える時に薄く笑みを浮かべるような子供。それが幼いようこ。いやようこの本質と言ってもいいもの。だがそれが変わったのが、変えてくれたのが川平啓太という存在。面白いという感情を教えてくれた存在。今のようこがあるのは全て啓太のおかげと言っても過言ではなかった。
彼と再び出会うこと、そして共にいることがようこの願い。生きる意味だった。そのためにずっと結界に閉じ込められながらも待ち続けた。
本当なら自分は十年以上前、山から逃げ出した時に死ぬつもりだった。何もかもが嫌になって、自暴自棄になっていた自分をあの時啓太が助けてくれなければ。啓太と遊んだ記憶。それは今も変わらず胸の中にある。啓太が覚えていなくても私はずっと覚えてる。
「う~ん、おいしい~♪」
ようこはどこからともなく手の中にあるものを頬張り嬉しそうな声を上げる。それはチョコレートケーキ。しゅくちによってお店から取り出した品。そしてようこにとっては啓太と遊んだ証。その絆を形にしたもの。だがその言葉とは裏腹に表情には喜びが見られない。
何故ならようこはもう知ってしまっていたから。
全てを。啓太となでしこの関係を。そして自分がこれからどうなるかも。
ともはねからようこは全てを聞き出した。啓太となでしこの関係を、その絆を。自分がどんなに頑張っても、努力しても超えることができないところに啓太は、いやなでしこはいる。
愛を誓うエンゲージ・リボン。それを贈ってもらっているなでしこ。そんななでしこに自分がどうやっても勝てるわけがない。たった一週間でそんなことができるわけがない。
四年間。それが自分となでしこの差。果てしなく遠い、覆すことができない壁。それを自分は感じ取った。この一週間の間にそれを何度も。二人の会話の中に、雰囲気の中に。まるで自分が異物であるかのように感じるほどに。
でも、それでもあきらめられなかった。啓太を想っていた時間は、強さは決してなでしこにも負けていない。最初に啓太に恋をしたのは自分なのに。それなのに。
なんのことはない。最初から決まっていたのだ。自分がなでしこに勝てないことは。はけもそのことを知っていたに違いない。だからこそ自分を啓太に会わせたのだろう。あきらめろと、そう現実を自分に突きつけるために。なのにずっと舞い上がっていたわたし。笑ってしまう。馬鹿みたいだ。きっとなでしこもそんなわたしを見ながらおかしくて笑ってたに違いない。
「うぅっ……ぐすっ……」
知らず目から涙が溢れてくる。ぽろぽろと次々とまるで雨のように。いくら拭っても止まらない。
おかしいな……どうして涙が出るんだろう? 大好きなチョコレートケーキを食べているのに。思う存分暴れて楽しかったはずなのに。どうしてこんなに胸が痛いんだろう? 結界の、山の外に出たらしたいと思ったことなのに、それなのに全然楽しくない、面白くない。
でも分かってる。何でこんなに悲しいのか。それはもうケイタに会うことができないから。約束の期日は明日。それが過ぎれば自分は山に戻されてしまう。そうなればもう二度と外に出ることはできないだろう。封じられているオトサンと同じように。遠くに逃げることも考えたけどあきらめた。きっとそんなことをしても無駄なことは分かってる。何よりもそんなことに意味なんてなかった。
もうケイタと一緒にいられない。それが分かった以上もう何もかもがどうでもよかった。
ようこは涙を流し、チョコレートケーキを食べながらもただ街の様子を見下ろし続ける。自分の力によって起こした光景を。だがようこは既にそんなことなど頭の中になかった。それはまさに子供のそのものの願い。
ケイタに来てほしい。
ただそれだけ。
街で騒ぎを起こしたのも全てそのため。今の自分を見たらケイタはどう思うだろうか。怒るだろうか。幻滅するだろうか。嫌いになってしまうだろうか。でも、それでも自分に会いに来てほしい、見つけてほしい。そんな駄々をこねることで、悪戯をすることで親の気を引こうとする小さな子供。いや恋する少女の最後の、儚い願いだった。
ようこが何とか収まった涙の痕を拭った後、再び人差し指に力を、炎を灯そうとした時
「やはりあなただったのね。ようこ。」
そんな女性の声がようこに向かってかけられる。ようこはそんな声に一瞬ぴくっと反応したもののどこかゆっくりと視線を向ける。そこには美しい赤毛と煌びやかなドレスを身に纏った犬神、せんだんの姿があった。
「これはどういうことなの、ようこ? 何か言い訳があるならおっしゃいなさい」
せんだんはどこか威厳を感じさせる所作を見せながらようこを問い詰める。今、せんだんは宙に浮いた状態でようこと対面していた。それは大きな霊力を感じ取ったこと、そしてこの惨状が原因。薫の命令通りに見回りを続けていた矢先にこの事態。せんだんは心のどこかで悟っていた。恐らくは今の状況。自分が、自分達がようこと相対しているこの状況こそが薫が自分達に街の見回りをさせていた理由なのだと。
「………」
だがそんなせんだんを前にしながらもようこはそのまま黙りこんだまま。視線は既にせんだんから外れどこか遠くを見つめている。まるでここではないどこかに想いを馳せているかのよう。どう対応するべきか。何故こんな事態になっているのかせんだんが頭を働かせんとしていると
「ちょっとリーダー! 一体どうしたの!? いきなり飛んで行っちゃうなんて……!?」
「お、お前……ようこ!?」
「何であんたがこんなところにいるの!? 山の結界は!?」
「そ、それより……この騒ぎって、や、やっぱりようこの仕業なの……?」
「どうみても、そう」
「街が燃えちゃってますよ! フラノのお気に入りのお店も無くなっちゃってます~!」
せんだんの後に続くように次々と他の序列隊も集まってくる。彼女たちもこの事態を感じ取り先程まで人々の避難と救助を行っていたところ。そして彼女たちは目の前にいるようこの姿に驚きを、戸惑いを隠せない。何故ならせんだんとごきょうや以外の者はようこが山から一時的に出ていることを知らなかったのだから。そして目の前の事態。落ち着いてられるはずなどなかった。
「みんな、落ち着きなさい。ようこは今一時的に山から出ることを許されていたの。これは宗家様もお兄様も承知のことよ」
「本当なの、リーダー!?」
「何でこんなやつを出しちゃったのさ!? ようこがどんな奴かせんだんだって知ってるだろ!?」
せんだんの言葉にいまりとさよか、そしてたゆねが大きな驚きと抗議の声を上げる。当たり前だ。彼女たちからすればようこは山を襲った大妖狐の娘であり、騒ぎばかり起こす厄介者。何度も衝突してきた相手。それが何故か結界の外に、しかも街で騒ぎを起こしているのだから。たゆねたち程ではないにせよ他の犬神達もその胸中は同じだった。
「きゃんきゃんうるさいわね……あんたたちに用はないの。さっさとどっかに行ってくれる?」
どこか冷たい目をしながらようこはどうでもよさげに言い放つ。無視を決め込むつもりだったのだか流石にこれ以上耳元で騒がられるのは御免だった。何よりも今はせんだんたちに構っている暇など無い。そんな気配が滲み出ている態度はたゆねたちにとっては火に油を注ぐようなものだった。
「何だって!? お前こそさっさと山に戻れよ! ここはお前がいていい場所じゃない!」
「そーそー。それにこんなことしちゃって今度は閉じ込められるだけじゃ済まないよ。封印されちゃっても知らないんだから!」
「そーよそーよ!」
「み、みんな……ちょっと落ち着いて……」
今にも襲いかかって行きそうなたゆねたちをいぐさが必死に抑えている中、せんだんはこの場をどうするべきか決めあぐねていた。そもそも何故こんなところにようこがいるのか。しかもこんな騒ぎを。ようこは啓太の犬神見習いとして外に出ることが許されていたはず。その期日の間に問題を起こすなど考えてもいなかった。そんなことをすれば連れ戻されてしまうことは火を見るよりも明らか。それが分からないようこではないはず。それなのに何故。
(これは……まずいな……)
まさに一色即発の空気、混乱の中、ただ一人冷静に目の前の事態に向き合っている犬神がいた。それはごきょうや。ごきょうやだけは目の前の事態が、ようこがどういう状態なのかを見抜いていた。ごきょうやはせんだん同様ようこが啓太の犬神になるために山を出てきていることを知っていた。だがせんだん以上にごきょうやはようこの事情を察していた。恐らくはようこが啓太に恋心を抱いていることを。しかもおそらくはなでしこに匹敵するほどの。同じく主に想いを抱いていたごきょうやにはそれが手に取るように分かる。そしてその先も。
ごきょうやは見て取る。それはようこの姿。目に残った涙の跡。そして今にも崩れてしまいそうな、爆発してしまいそうな気配。恐らく思いつく限りで最悪の展開になってしまったのだろう。かつて自分も失恋した際には同じような状況に陥ったことがあるからこそ分かる。今のようこには何を言っても無駄だと。ようこが待っているのは自分たちではなく啓太。啓太の言葉でなければ今のようこには届かない。ようこを止めるには力づくか、啓太の力を借りるしかない。なんにせよこのまま悪戯にようこを刺激するのは危険すぎる。爆発寸前の爆弾の傍で火遊びをするようなものだ。
「せんだん……ここは一旦引いた方が良い。まずは啓太様を探すことが先決だ」
「……そうね」
ごきょうやが小さな声でせんだんに向かって提案する。思いつく限りで最善であろうと思える案を。せんだんも鬼気迫ったごきょうやの言葉に頷きかけたのだが
「? どうしてそこで啓太様が出てくるんですか~?」
そんな会話をよりにもよってフラノに聞かれてしまう。瞬間、せんだんとごきょうやは固まってしまう。場をかき乱すことに定評があるフラノ。だがまさかこんなタイミングでそれがやってくることは二人も思ってもいなかった。だがそれは既に手遅れだった。
「そ、それは……」
「啓太様? 何で啓太様の話が出てくるのさ? ようこと何の関係もないだろ?」
「どういうことなの、せんだん?」
啓太という予想外の言葉が出てきたことによってたゆねたちはさらに混乱しながらせんだんに詰め寄って行くもせんだんは言葉を濁すことしかできない。ごきょうやだけでなくせんだんも既にようこの今の状況が普通ではないこと、そしてその理由が恐らくは啓太に関連したことであることに気づいていた。しかし
「いい加減にしないと力づくで追っ払うわよ……わたしはケイタを待ってるの。あんたたちなんかに用はないんだからさっさと消えて」
ようこがどこか怒りを込めた声で警告する。その瞳に確かな炎が灯っている。狂気と言う名の炎が。これ以上自分の邪魔をするなと。だがそれに気づかないたゆねたちはさらにようこに向かって食ってかかって行く。それはようこへの対抗心と犬神としての正義感が合わさったもの。目の前の光景を起こしたようこを見逃すわけにはいかないという思い。
「何でお前が啓太様を待ってるのさ? お前と啓太様になんの関係がある?」
「……わたしはケイタの犬神だから。それだけよ」
たゆねの疑問にようこはどこか寂しげに答える。まるでそう自分に言い聞かせるように。それだけは譲れない。あきらめきれない想いが滲み出るような言葉。
「お前が啓太様の犬神っ!? な、何でそんなことになってるんだよ!?」
「あんたには関係ないでしょ。それにあんた達はケイタのこと嫌ってたんだし何でそこまで怒ってるのよ?」
「うっ……そ、それは……」
たゆねはようこの反論に声を詰まらせることしかできない。ようこの言う通り自分達はつい最近まで啓太のことを忌避していたのだから。だがたゆねにとってはそれだけではなかった。たゆね自身は認めていないがたゆねにとって啓太は気になって仕方ない存在。想い人と言ってもいい存在。そんな啓太の犬神にようこがなっている。せんだんやごきょうやが否定しないことからそれが真実なのだと分かる。それがたゆねにとっては面白くなかった。一言えば羨ましかった。決して薫の犬神であることに不満があるわけではないがそれとはまたベクトルが違う恋する乙女としての嫉妬だった。
「それにあんた達はカオルって奴に憑いてんでしょ。わたしが誰に憑こうとほっといて。どうせ甘やかされて調子に乗ってるんでしょ?」
ようこはそう吐き捨てる。それはたゆね達の態度。啓太に対する態度はともかく自分に対しての態度が山にいた時よりも大きくなっている。何度も自分にやられたことがあるくせにそれを忘れてしまったのだろうか。カオルという主人に甘やかされているうちに調子に、天狗になっているに違いない。そして何よりもこれ以上付き纏われたくない。そんな意味を込めた言葉。だがそれはたゆねだけでなく、他の犬神達にとっても聞き逃すことができない言葉だった。
「ようこちゃん、いくら何でもそれはフラノも怒っちゃいますよ?」
「……私も」
「ちょっとあんた。カオル様のこと悪く言うなんて許さないよ」
「そーよ、大体何よ。えらそうにしちゃってさ。あんたが犬神? 本気で言ってるの? 大妖狐の娘のあんたが? 冗談もほどほどにしてよね」
「………」
ようこはただ黙ってそれを聞き続ける。いや、それがようこの耳に届いているのかどうかも定かではない程ようこの空気が変わりつつある。それは馬鹿にされたから。自分がずっと夢見てきて、それでも叶わなかった夢を。
ケイタの犬神になる。
たったひとつの、それでも大切な誓い。
「お、お前達! もうよさないか!」
「ごきょうやの言う通りよ! とにかく落ち着きなさい! これは命令よ!」
せんだんとごきょうやが焦りながらも皆の収拾を付けようと奮闘する。だがそれはもはや手遅れ。自分達だけならいざ知らずその主まで馬鹿にされてしまったことにたゆねたちは怒りが収まらない。自らの主への忠誠心。犬神が犬神たるためのもの。それが汚されてしまった以上彼女たちはもはや止まることはできない。そしてたゆねによってその最後の一線が越えられる。決して触れてはいけない一線。ようこが分かっていながらも逃避し続けたこと。
今の自分がこんな目に会っているその元凶。その正体。
「お前が啓太様の犬神になれるわけないだろ! 啓太様にはなでしこが憑いてるんだ!」
『なでしこ』
その言葉が放たれたことがようこにとっての我慢の限界だった。
瞬間、世界が静まり返った。まるで時間が止まってしまったかのよう。ゆっくりとようこがその場から立ち上がる。顔を俯いたまま。その表情が前髪によって隠れたまま。だがその動きだけでその場にいるものは全てを悟った。もはや言葉など通用しないのだと。
「……いいよ。そんなに死にたいなら殺してあげる。いい加減我慢するのも馬鹿らしくなっちゃたし……どうせ明日には連れ戻されちゃうからもうどうでもいいや……」
ようこはまるで見下すかのような視線をたゆねたちに向ける。その瞳に知らず体が震える。まるで獲物を見つけたケモノのような瞳がそこにはあった。ぞっとするような冷たさの中に怒り狂う業火を秘めた瞳。街を焼いている炎がその笑みを照らし出す。
この世の物とは思えないような妖艶さと狂気を併せ持った表情をみせながらようこは告げる。
「思い出させてあげる。このようこ様の力をね」
今再び三百年の時を超え、妖狐と犬神の戦いの火蓋が切って落とされようとしていた―――――