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No.31760の一覧
[0] なでしこっ! (いぬかみっ!二次創作)[闘牙王](2012/05/06 11:39)
[1] 第一話 「啓太となでしこ」 前編[闘牙王](2012/02/29 03:14)
[2] 第二話 「啓太となでしこ」 後編[闘牙王](2012/02/29 18:22)
[3] 第三話 「啓太のある夕刻」[闘牙王](2012/03/03 18:36)
[4] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 前編[闘牙王](2012/03/04 08:24)
[5] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 後編[闘牙王](2012/03/04 17:58)
[6] 第四話 「犬寺狂死曲」[闘牙王](2012/03/08 08:29)
[7] 第五話 「小さな犬神の冒険」 前編[闘牙王](2012/03/09 18:17)
[8] 第六話 「小さな犬神の冒険」 中編[闘牙王](2012/03/16 19:36)
[9] 第七話 「小さな犬神の冒険」 後編[闘牙王](2012/03/19 21:11)
[10] 第八話 「なでしこのある一日」[闘牙王](2012/03/21 12:06)
[11] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 前編[闘牙王](2012/03/23 19:19)
[12] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 後編[闘牙王](2012/03/24 08:20)
[13] 第九話 「SNOW WHITE」 前編[闘牙王](2012/03/27 08:52)
[14] 第十話 「SNOW WHITE」 中編[闘牙王](2012/03/29 08:40)
[15] 第十一話 「SNOW WHITE」 後編[闘牙王](2012/04/02 17:34)
[16] 第十二話 「しゃっふる」 前編[闘牙王](2012/04/04 09:01)
[17] 第十三話 「しゃっふる」 中編[闘牙王](2012/04/09 13:21)
[18] 第十四話 「しゃっふる」 後編[闘牙王](2012/04/10 22:01)
[19] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編[闘牙王](2012/04/13 14:51)
[20] 第十六話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 中編[闘牙王](2012/04/17 09:57)
[21] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編[闘牙王](2012/04/19 22:55)
[22] 第十八話 「結び目の呪い」[闘牙王](2012/04/20 09:48)
[23] 第十九話 「時が止まった少女」[闘牙王](2012/04/24 17:31)
[24] 第二十話 「絶望の宴」[闘牙王](2012/04/25 21:39)
[25] 第二十一話 「破邪顕正」[闘牙王](2012/04/26 20:24)
[26] 第二十二話 「けいたっ!」[闘牙王](2012/04/29 09:43)
[27] 第二十三話 「なでしこっ!」[闘牙王](2012/05/01 19:30)
[28] 最終話 「いぬかみっ!」[闘牙王](2012/05/01 18:52)
[29] 【第二部】 第一話 「なでしこショック」[闘牙王](2012/05/04 14:48)
[30] 【第二部】 第二話 「たゆねパニック」[闘牙王](2012/05/07 09:16)
[31] 【第二部】 第三話 「いまさよアタック」[闘牙王](2012/05/10 17:35)
[32] 【第二部】 第四話 「ともはねアダルト」[闘牙王](2012/05/13 18:54)
[33] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」[闘牙王](2012/05/16 11:51)
[34] 【第二部】 第六話 「りすたーと」[闘牙王](2012/05/18 15:43)
[41] 【第二部】 第七話 「ごきょうやアンニュイ」[闘牙王](2012/05/27 11:04)
[42] 【第二部】 第八話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 前編[闘牙王](2012/05/27 11:21)
[43] 【第二部】 第九話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 中編[闘牙王](2012/05/28 06:25)
[44] 【第二部】 第十話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 後編[闘牙王](2012/06/05 06:13)
[45] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉[闘牙王](2012/06/10 00:17)
[46] 【第二部】 第十二話 「川平家の新たな日常」 〈裏〉[闘牙王](2012/06/10 12:33)
[47] 【第二部】 第十三話 「どっぐ ばーさす ふぉっくす」[闘牙王](2012/06/11 14:36)
[48] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編[闘牙王](2012/06/13 19:40)
[49] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編[闘牙王](2012/06/28 15:49)
[50] 【第二部】 第十六話 「カウントダウン」 前編[闘牙王](2012/07/06 01:40)
[51] 【第二部】 第十七話 「カウントダウン」 後編[闘牙王](2012/09/17 06:04)
[52] 【第二部】 第十八話 「妖狐と犬神」 前編[闘牙王](2012/09/21 18:53)
[53] 【第二部】 第十九話 「妖狐と犬神」 中編[闘牙王](2012/10/09 04:44)
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[31760] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/28 15:49
「ったく……やっと解放されたぜ……」
「お疲れさまでした、啓太さん」

げんなりした様子の啓太をどこか楽しそうに見つめながらも、川平薫はねぎらいの言葉をかける。だがそんな薫の姿に不満があるのか啓太は不機嫌そうな表情を見せるも薫には嫌味は通用しないと悟ったのか溜息を吐きながら用意された椅子へと腰掛ける。それに合わせるように薫も向かい合わせに用意された椅子へと腰を下ろす。今、二人は夕食を終え、庭にある小さな椅子とテーブルに着いたところ。既に日は沈み、辺りは電灯と屋敷の明かりだけが照らし出している。だがその光がその手入れされた庭の美しさを一層際立たせている。どこか幻想的な雰囲気を感じさせる空間だった。

「まったくだ。何でお前と話に来ただけなのにこんな疲れなきゃなんねえんだ? 俺、一応来客のはずなんだけど?」
「そうですね。でもみんな啓太さんに会えて嬉しかっただけですよ。いつもはあんなに騒がしくはないですから」
「やっぱ今日ほどじゃなくてもいつも騒がしいんだな……」
「ええ、それはもう。毎日楽しいですよ」

薫の言葉の遠回しな意味に気づいた啓太は改めて肩を落とす。同時に先程までの夕食の光景が思い出される。まるで戦争でも起こったのではないかと思えるような大騒ぎ。せんだんやごきょうやが何とか収めようとするもなんのその。騒ぐ勢力の方が圧倒的に優勢である以上どうしようもなくほとんどバイキング(争奪戦)のような有様だった。しかもその騒ぎに俺まで巻き込むのだからたまったものではない。どさくさにまぎれて噛まれ、追いかけ回され散々な有様。その飼い主であるはずの薫も笑いながらそれを見ているだけで助けようとしない。結局いつもどおりの結末に落ち着く羽目になったのだった……


「まあいいさ。とりあえず久しぶりだな、薫。元気そうでよかったぜ。最近全然会ってなかったからな」
「すいません。最近忙しくて……」
「ああ、なんか仮名さんと一緒に依頼をこなしてるんだろ? そうならそう言えっつーの。もしかして俺、避けられてるのかと思ったぜ」
「そんなことありませんよ。啓太さんもなかなか本家の方に顔を出していなかったのもありますし」
「うっ……そういやそうだったな……」

薫の言葉に啓太は思わず言葉を詰まらせる。それはある種の後ろめたさ。啓太はなでしこが憑いたことで何とか犬神使いとしての対面は保ててはいるもののやはり周りからは落ちこぼれとして見られているためよっぽどのことがない限り本家の方には顔を出していなかった。その間はその代理として薫が様々な行事や仕事をこなしてくれていたらしい。そのことに思い至ったのか啓太はどこか顔を引きつかせながら罰が悪い表情を見せるものの、薫自身はそれをいつも通りにこにこと眺めているだけ。まるで全てお見通しと言わんばかり。このままではいけないと啓太は強引に話題を変えることにする。

「ごほんっ! そ、そういえばまだ礼を言ってなかったな。さんきゅーな、薫。死神の時には助かったぜ」
「いえ、僕たちは何もしていませんから。それにお礼を言いたいのは僕の方ですよ。あの出来事のおかげであの子達も随分成長しましたから」
「……? なんだかよく分からんがそう言ってもらえると助かるぜ。ともはねとたゆねには悪いことしちまったからな」
「あれはともはね達が進んでしたことですから。本人達も反省してるからおあいこです。でも僕もあれから聞いてみたかったことがあるんです。聞いてもいいですか?」
「ああ、何だよ?」

何故か改まったように尋ねてくる薫の様子に啓太は呆気にとられる。だが同時に激しいデジャブに襲われる。そう、自分は何度もこの感覚を、展開を味わったはず。だがそれが何だったか思い出せない。それが喉に出かかった瞬間

「なでしことはあれからどうなったんですか?」
「ぶっ!?!?」

結局啓太はいつかと同じように噴き出すことしかできなかった。もう何度も聞かれたことなのだがやはりいきなり、しかも薫にまで聞かれるとは思っていなかった。

「い、いきなり何の話だっ!?」
「いえ、あの日からずっと屋敷では噂で持ちきりなんですよ。啓太さんとなでしこがどうなってるんだろうって。死神の呪いのせいでみんな会いに行けてなかったから気になって仕方なかったみたいなんです。もっとも僕もその一人なんですけどね」

むせ込みながらも何とか平静を取り戻そうとしている啓太を微笑みながら見つめている薫。そんな薫の姿に啓太は思い出す。やっぱりこいつはどSだと。そして間違いなくこいつがあの犬神達の主なのだと。

「ったく……犬神も犬神なら飼い主も飼い主だな……薫、お前、しばらく見ない間に性格悪くなったんじゃねえか?」
「そんなことは。でも安心しました。なでしこが憑いてからは啓太さんはめっきり真面目になっちゃったって聞いてましたから。やっぱりいつも通りの啓太さんでよかったです」
「悪かったな……どうせ俺は誰が憑いたって根本は変わんねえよ。お前だって相変わらずみたいじゃねえか……よし、じゃあ今日はいっちょ付き合ってもらうぜ!」

薫と話しているうちに段々とペースを思い出してきたのか、啓太は上機嫌になりながら庭に出た時から担いでいるクーラーボックスをテーブルの上に豪快に乗せる。それは啓太が屋敷にやって来る時から持っていた物。食堂に入る前にせんだんに案内してもらった倉庫に置いてきたのだった。

「啓太さん、それは?」
「見りゃ分かんだろ、ビールだ! 今日は相談がメインだからな、アルコールでも飲まなきゃやってらんねえっつーの! お前も飲めねえなんてことないだろ? 川平の血を引いてんだからさ!」

満面の笑みを浮かべながら啓太は次々にテーブルにクーラーボックスから缶ビールを並べて行く。だがその量が尋常ではない。とても二人で飲む量とは思えない量。だが啓太はさも当然だという雰囲気。どうやら本当にこれを全て飲み干すつもりらしい。

「それは……でもいいんですか? 確かなでしこに止められてたって聞きましたけど……」
「うっ……そ、それはそれ、これはこれだっ! 今日ぐらい飲んだってバレやしないさ! お前だってたまには男と飲みたい時があんだろ!? 久しぶりに会ったんだし付き合えっつーの!」
「やっぱり啓太さんには敵わないな……分かりました、お付き合いしますよ。でもおばあ様達には内緒ですよ」
「当たり前だ! 例えなでしこであっても今の俺は止められん! これからは男の世界なんだからな!」

既に酔っ払っているのではないかと思えるようなテンションで啓太は騒ぎたてている。それもそのはず。ここに来たのは相談もだがそれ以上に薫と酒を飲むのが一番の目的だったのだから(家ではなでしこがいるため飲めないのが真相ではあるのだが)そんな啓太に圧倒されながらも薫もどこか楽しそうな表情を見せている。どうやら満更ではないらしい。普段の薫なら見せないような表情、態度が知らず現れている証だった。


「そうですね……じゃあ少し失礼して……」


薫は一度その手にどこからともなくタクトのようなものを手に持ち、まるで指揮者のように一振りする。その瞬間、薫達がいる場所から少し離れた場所にある茂みがどこからともなく吹き荒れる風によって大きな音を起こす。同時にどこか甲高い悲鳴のようなものが辺りに響き渡る。その声に驚きながら啓太が振り返るがそこには誰の姿もない。影も形もなかった。一体何だったのか。薫は先程までと変わらない笑みを浮かべているだけ。

「……? どうかしたのか、薫?」
「いえ、何でもありません。じゃあ乾杯しましょうか。早くしないと冷えたビールが台無しですから」
「お! 分かってんじゃねえか、薫! じゃあさっそく始めるとしようぜ!」

一体何が起こったのかは気になるがまあいいだろう。月も出てきた絶好の雰囲気。家ではこうはいかない。やっぱり酒は気心がしれた奴と飲むに限る。薫と飲むのはこれが初めてだし、ここは潰れるまで飲み明かすとしますか!


啓太と薫。二人の犬神使いはその手にあるビールを掲げながら、久しぶりの再会を祝した乾杯と共に初めての酒を交わすのだった―――――



「ふう……やっぱ外で飲むビールは最高だな! お前もそう思うだろ、薫!」
「ええ。たまには外で飲むのも悪くないですね」
「お、やっぱ普段から飲んでたんじゃねえか! ずりーよな、お前、外見はほんとに優等生だもん……ちょっと俺にもコツを教えてくれよ!」
「そんなことありませんよ。僕は啓太さんを手本にしてるんですから」
「お前な~そこまで謙遜すると嫌味にしか聞こえねえぞ、ちくしょう~! 大体何で九匹も犬神持ってんだよ!? どんな手品を使ったんだっ!?」

啓太はまるで酔っ払いの親父のように顔を赤くしながら薫に向かって絡んでいく。というか酔っ払いそのものだった。既に開けた缶の数は薫の二倍以上。明らかにオーバーペース。どうやら久しぶりの酒であること、そして日ごろのストレスのせいらしい。薫もそのことを悟り、苦笑いしながらも啓太の愚痴に付き合っている。もっとも薫もアルコールによって既に普段とは比べ物にならない程テンションが上がっているのだが啓太のせいで全くそうは見えなかった。

「手品だなんて……ただ山でピアノを弾いただけですよ」
「ピアノ……? ピアノってあのピアノ? 何でそんなもん弾いてんだよ?」
「……そういう気分だったんですよ。それのどこが良かったのかは僕にもよく分かりませんけど……」
「ふ~ん……まあいいや! それよりもどうなんだよ、薫? 九人の犬神……じゃなかった女の子に囲まれるハーレム生活は!? ちょっと一人ぐらいよこせっつーの! そうだな……じゃああいつ! いぐさをちょっと貸してくれよ! 聞いたぜ、薫。あいつのおかげで儲かってんだろ?」

げらげらと笑いながら啓太は薫の肩を抱きながら言い寄る。男が集まると女か車の話になるというが啓太もその例に漏れないらしい。というか啓太の場合は女の話しかないと言った方が正しい。元々煩悩の塊である啓太がアルコールによってタガが外れかかってしまっているらしい。別にそれはそれで構わないのだがこのままでは本当にいぐさ達がいる屋敷に突っ込んでいってしまいかねない程の勢い。薫はそれを抑える意味、そして少し啓太の酔いを覚まさせる意味でそれを口にする。


「そうですね……じゃあ、なでしこを貸してくれるんならいいですよ」


瞬間、騒いでいた啓太の動きがまるでフリーズしてしまったかのように固まってしまう。それほどの威力が、衝撃がその言葉には込められていた。

「お、お前……それ、冗談じゃねえな……」
「はい。僕の犬神を貸すんなら啓太さんの犬神を貸してもらうのは当然でしょう?」

どこか顔を引きつかせながら啓太が薫に尋ねるも薫も酒によって紅潮した頬をみせながら華麗にそれを受け流す。どうやら薫も相当酔いが回っているらしい。既に常人なら酔いつぶれておかしくない程の量を飲んでいるのだから無理のないこと。だがそれでも優雅さを感じさせるのが薫の薫たる所以だった。

「ったく……一気に酔いが冷めちまったっつーの……そういやなでしこってモロお前のタイプだもんな……すっかり忘れてたわ」

啓太は冷めてしまった酔いを取り戻そうとするようにビールを口に運びながら思い出す。自分と薫は小さい頃からよく遊んでいた。最近でもバレンタインデーにはもらったチョコの数を競い合ったりしている。故に従兄として男友達として互いの女の子の好みも知り尽くしている。

そういった意味ではなでしこは薫の好みにどストライクだろう。支えてくれる、尽くしてくれるタイプが好きだしな、こいつ。だが残念だったな……なでしこはやれん! お前になでしこはやらん! なんだろう、なんか娘を嫁に出すまいとする男親の気分だ。ん? 俺、何言ってんだ? なでしこは俺の嫁だろう? あれ? 俺がなでしこの嫁だったっけ? まあどっちでもいっか

「でもお前だって九匹も犬神いるんだから一匹ぐらいそういう奴がいるんじゃねえのかよ? せんだんとかお前のこと心酔してるみてえだけど……」
「そんなことありませんよ。確かに主として尊敬、忠誠を誓ってはくれていますけど、せんだんは公私は分けるタイプですし。それにせんだんはああ見えて世話がかかる男性がタイプなんです。本人は隠してるみたいですけど」
「へえー」

あのせんだんがねー。どっちかっていうときっちりしてるような男がタイプかと思ってたんだけど。歩くベルサイユ宮殿みたいな奴だし、王子様願望でもあるのかと勝手に想像してたんだが。やっぱ飼い主だけあってよく見てんだな。ここが俺と薫の差なのかもしれん。俺、なでしこの胸とか尻ばっか見てるしな。

そんななでしこが聞いていれば涙目に、ようこが聞いていれば消し炭にされかねないことを考えていると


「僕はむしろ啓太さんの方が羨ましいです。二人の犬神から、女性から求愛されているんですから」


薫の口から目下自分が悩んでいる、そして核心を突く内容が告げられる。どうやら酔いも回り、本題に入ってもいいだろうと薫も判断したらしい。

「そ、それは……その……」
「啓太さんは顔にすぐ出るんですから誤魔化してもだめですよ。それが今日僕に会いに来た理由なんでしょう?」
「……ああ。お前に遠慮してても仕方ねえな……お前、ようこのこと知ってんのか?」
「はい。はけからおおよその経緯は聞きました。名前やどんな子であるかはせんだんたちから何度か聞いたことはあったんですが……」
「そっか……じゃあ話が早えわ。実は……」

どこか観念したように啓太はこれまでの事情を簡潔に説明していく。多少主観は入るが出来る限り客観的に。薫にきちんとしたアドバイスをもらうために。もう約束の一週間の期限まで時間はそう残されてはいない。それまでに結論を出さなくてはいけない。そんな啓太の雰囲気を感じ取ったのか、薫も真剣にそれを聞き続けている。そして、ようやく状況説明が終わり、一度二人はビールを口に運ぶ。同時にそれを飲みほした後、改めて二人は向かい合った。

「そうですか……」
「九匹も犬神を持ってるお前なら何かいいアドバイスをもらえるんじゃねえかと思って……なんかいい方法ねえか? このままじゃあどうしようもなくてさ……」

がっくりと肩を落としながらも、どこか縋るような様子で啓太は薫の言葉を待つ。情けないことこの上ないがそこまで追い詰められてしまっている、啓太の心の叫びだった。だが


「残念ですけど……僕からできるアドバイスはほとんどありません」


その最後の望みは呆気なく、跡形もなく崩れ去ってしまった。一瞬で、ノータイムの、これ以上ないほどのスピードで。


「えっ!? ま、マジで!? な、何もないのかよっ!?」
「す、すいません。でも僕と啓太さんとでは状況が全然違いますから。僕は確かに数の上では啓太さんよりも犬神を持ってますけど、みんな僕に対しては恋愛感情は持っていません。でも啓太さんの場合は二人とも恋愛感情を持ってますから。前提からして全く別物なんです」
「そ、そうか……」

薫の言葉によって啓太は納得するような、あきらめるような返事をすることしかできない。そう、それは分かっていた。人数は多くても自分と薫とでは状況が大きく違うことに。だがそれでも女にモテる薫なら何か凄いアドバイスをくれるのではないかと、そんな甘い期待をしてしまっていた。そんな都合のいいものなどあるはずなどないのに。

「なあ、やっぱようこって……俺に恋愛感情持ってんのかな……?」
「ええ、間違いなく。話を聞いただけでも簡単に想像できますよ」
「だよな……」

やっぱそうだよな。流石にあれだけ露骨にアプローチしてるんだし、当たり前か。ちょっとあからさま過ぎて疑ってた時期もあったんだが間違いないようだ。でもそうなるとますますどうすればいいのか分からない。やっぱここはきっぱり断るべきか。でもそうなるとあいつ、山に戻されちまうわけだし、でも二股なんてしたらなでしこがどう思うか、というか俺が生きているかどうかが怪しい。

「でもいいんじゃないですか? 啓太さん、ずっとハーレムが夢だって言ってたじゃないですか」
「た、確かにそうなのだが、その、現実は甘くなかったというか、むしろ夢で終わらすべきだったのではないかとかやっぱりその通りだったというか……」

何だろう……俺、今もしかしてかなり最低なことばっかり考えてない? い、いや! そ、そんなはずは……でもこれじゃあまるでほんとに浮気を、二股をしてるみたいじゃ……

そんな自分の中の良心の呵責という名の袋小路に啓太が迷い込んでいると


「でもようこって啓太さんのタイプじゃないですか」


それを一気に破り捨てて尚、余りあるほどの衝撃を孕んだ発言が薫の口から飛び出してきた


「っ!?!? おっ、おまっ!? お前っ!? それは……!?」


啓太はその言葉に口をパクパクさせることしかできない。だが薫はそんな啓太の姿をどこか楽しそうに見守っている。まるで全て分かっていると言わんばかりの、慈悲すら感じさせる微笑みを見せながら。啓太はそれに何も反論できない。何故ならそれは真実だったから。

そう、ようこの容姿はまさに啓太のタイプ、ど真ん中なのである。

なでしことようこ。二人はまさに絶世の美少女。雰囲気や、タイプは違えどそこには優劣はない。まさに男ならすれ違った瞬間、間違いなく振り返ってしまうほどの容姿。それは啓太も例外ではない。

だが、だがそれでもやはり男には好みが存在する。それは本当に、本当に紙一重と言ってもいいほどの、あってないほどの差、だがそれでも、それでも、どうしても優劣をつけるとするならば……啓太にとってはようこの方が容姿という点ではタイプだった。

もちろん容姿という限定的な点で。だがそれは女性にとっては天と地ほどの差がある問題。それはまさに啓太にとっては地雷中の地雷。踏んだ瞬間に身体が蒸発してしまうほどの核地雷。墓にまで持って行くつもりだった程のトップシークレット。パンドラの箱。それをあっさりと見抜かれてしまったことに啓太は顔面が蒼白になってしまっていた。


「今更隠しっこなしですよ、啓太さん。心配しなくても誰にも言いませんから。僕の好みは啓太さんも知ってるんですから」
「あ、ああ……」

啓太は滝のような汗を流しながらも薫の言葉に安堵する。既にあれほどあった酔いは全くなくなってしまっていた。それほどの衝撃が先程のやり取りにはあった。


マ、マジで死ぬかと思った……冗談抜きで三途の川が見えたわ! これだけは、これだけはマジで誰にも知られまいと思ってたのに! というか知られたら俺はもう遠いところに行くしかないレベルの地雷だっつーの! さ、流石は薫といったところか……まあ俺もこいつの好みは知ってるし、当たり前っちゃあ当たり前だが心臓に悪いすぎる! 寿命が間違いなく十年は縮んだわ! ほんとにこの場に薫しかいなくて助かったぜ……他の奴らに知られたらもう俺の人生終了だったわ……冗談抜きで。


そんな啓太の胸中を知ってか知らずか、薫は最後の締めとして、出来る限りのアドバイスを告げる。


「だけど……そうですね……とにかくやっぱりこれはなでしことようこの問題だと思います。恋愛の、男女の関係と犬神の主従はまた別の問題ですから。結局は二人が解決するしかないと僕は思います」
「やっぱそうなるか……」

啓太はその言葉に頷くことしかできない。そう、これは結局なでしことようこ。二人の問題。女の子同士の問題に男が割って入ってもろくなことにはならない。その男が問題の中心人物なのだからなおさらだ。それはすなわち、自分ではどうしようもないことを意味していた。啓太は深いため息をはくものの、どこか悟ったような表情を見せるだけ。それを再確認できただけでも来た意味はあったと。そんな仏の様な姿になった啓太をしばらく薫は眺めた後


「……そういえば啓太さん、ようこは啓太さんがなでしこに告白したことは知ってるんですか?」


そんなもう一つの啓太にとって地雷を貫いてきた。


「い、いや……それはまだ知らねえはずだ……」


啓太は頭を抱えながらもそう答えるのが精いっぱいだった。ある意味先程の地雷を遥かの超える地雷、いやこれは核弾頭と言ってもいいかもしれない。本当なら最初の時点で言うべきだったことなのだがなでしこの名前を出しただけであれだけの反応を示したようこに向かってそれを告げることなどできるはずもなかった。恐らくははけも伝えていないはず。伝わっていたら物理的な、街が焦土となる争いが、戦争が起こるのは目に見えている。薫に言われたことでそれも思い出し、啓太は既に四面楚歌、どうしようもない事態に魂が抜けかけてしまっていた。

「そうですか……」
「……? どうかしたのか、薫?」
「いえ、何でもないです。とにかく今日はゆっくりしていってください。力になれなかったお詫びに朝まででも付き合いますよ」

薫はそう言いながら新たな缶ビールを啓太に向かって差し出してくる。それがその言葉が真実であることを証明していた。

「そうか……うう……やっぱ持つべきものは男の友人だよな! 女は怖い! やっぱ男が一番だ! 男最高――――!!」
「け、啓太さん……あまり叫びすぎるとまた誤解されますよ」
「いいんだ! 今日は無礼講だ! よし、仮名さんも呼ぶぞ! あの人こそ男の中の男! 本物のピ――なんだからな! やっほおおおおおっ!」

そのまま何かが吹っ切れたように騒ぐ啓太を薫が楽しそうに見つめながらも宥めてるというある意味バランスが取れた、息があった飲み会は結局明け方まで続き、べろべろになって家に帰った啓太はなでしこに迎えられることになる。その背後に鬼が浮かんでいるなでしこに。その姿にようこでさえ、震えあがったほど。啓太はそのまま本気のなでしこに怒られる羽目になったのだった―――――



「本当に嵐のような方でしたわね……」

啓太を見送った後、せんだんがどこか呆れながら言葉を漏らす。その言葉通り、本当に嵐そのもの。先程までの騒がしさが嘘のように静まり返ってしまった。しかも犬神達相手でなく、薫相手でもこれなのだから啓太の騒がしさは間違いなく本人の資質によるものだろう。もっともそれがあの方の魅力なのだと自分も理解できるようにはなったのだがやはり服を脱ぐのだけは勘弁してほしい。酒を飲んでいたとはいえやはりあれは本能によるものなのだろう。

「うん、やっぱり啓太さんは面白いね。久しぶりに僕もハメを外しちゃったよ。悪かったね、せんだん。みんなを任せちゃって」
「いえ、リーダーとして当然の務めです」

まだ酔いが収まっていないのかいつもより赤い顔をしている自らの主がねぎらいの言葉を贈ってくれる。自分はずっと他の犬神達が薫様と啓太様の邪魔をしないように抑えていた。隠れて覗いていた何人かは薫様の風で追い返されてしまったようだが。あの子たちはもうすこしお淑やかさを身につけれないのだろうか。

そんなことを考えている中、せんだんはふと気づく。隣にいる薫が何かを考え込んでいることに。いや、そうではない。それはまるでここではないどこかに想いを馳せているかのような表情。まるで先を見通している指揮者のような視線

「……薫様、どうかされましたか?」

せんだんの言葉にも薫は答えることなく、ただ去って行った啓太の跡を追うかのように立ち尽くしたまま。そして


「そういえばせんだん、一つ伝えておきたいことがあるんだ。いいかな」


薫はいつもと変わらない笑みを浮かべながら、一つの命令を、予言をせんだんへと告げるのだった―――――


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