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No.31760の一覧
[0] なでしこっ! (いぬかみっ!二次創作)[闘牙王](2012/05/06 11:39)
[1] 第一話 「啓太となでしこ」 前編[闘牙王](2012/02/29 03:14)
[2] 第二話 「啓太となでしこ」 後編[闘牙王](2012/02/29 18:22)
[3] 第三話 「啓太のある夕刻」[闘牙王](2012/03/03 18:36)
[4] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 前編[闘牙王](2012/03/04 08:24)
[5] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 後編[闘牙王](2012/03/04 17:58)
[6] 第四話 「犬寺狂死曲」[闘牙王](2012/03/08 08:29)
[7] 第五話 「小さな犬神の冒険」 前編[闘牙王](2012/03/09 18:17)
[8] 第六話 「小さな犬神の冒険」 中編[闘牙王](2012/03/16 19:36)
[9] 第七話 「小さな犬神の冒険」 後編[闘牙王](2012/03/19 21:11)
[10] 第八話 「なでしこのある一日」[闘牙王](2012/03/21 12:06)
[11] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 前編[闘牙王](2012/03/23 19:19)
[12] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 後編[闘牙王](2012/03/24 08:20)
[13] 第九話 「SNOW WHITE」 前編[闘牙王](2012/03/27 08:52)
[14] 第十話 「SNOW WHITE」 中編[闘牙王](2012/03/29 08:40)
[15] 第十一話 「SNOW WHITE」 後編[闘牙王](2012/04/02 17:34)
[16] 第十二話 「しゃっふる」 前編[闘牙王](2012/04/04 09:01)
[17] 第十三話 「しゃっふる」 中編[闘牙王](2012/04/09 13:21)
[18] 第十四話 「しゃっふる」 後編[闘牙王](2012/04/10 22:01)
[19] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編[闘牙王](2012/04/13 14:51)
[20] 第十六話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 中編[闘牙王](2012/04/17 09:57)
[21] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編[闘牙王](2012/04/19 22:55)
[22] 第十八話 「結び目の呪い」[闘牙王](2012/04/20 09:48)
[23] 第十九話 「時が止まった少女」[闘牙王](2012/04/24 17:31)
[24] 第二十話 「絶望の宴」[闘牙王](2012/04/25 21:39)
[25] 第二十一話 「破邪顕正」[闘牙王](2012/04/26 20:24)
[26] 第二十二話 「けいたっ!」[闘牙王](2012/04/29 09:43)
[27] 第二十三話 「なでしこっ!」[闘牙王](2012/05/01 19:30)
[28] 最終話 「いぬかみっ!」[闘牙王](2012/05/01 18:52)
[29] 【第二部】 第一話 「なでしこショック」[闘牙王](2012/05/04 14:48)
[30] 【第二部】 第二話 「たゆねパニック」[闘牙王](2012/05/07 09:16)
[31] 【第二部】 第三話 「いまさよアタック」[闘牙王](2012/05/10 17:35)
[32] 【第二部】 第四話 「ともはねアダルト」[闘牙王](2012/05/13 18:54)
[33] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」[闘牙王](2012/05/16 11:51)
[34] 【第二部】 第六話 「りすたーと」[闘牙王](2012/05/18 15:43)
[41] 【第二部】 第七話 「ごきょうやアンニュイ」[闘牙王](2012/05/27 11:04)
[42] 【第二部】 第八話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 前編[闘牙王](2012/05/27 11:21)
[43] 【第二部】 第九話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 中編[闘牙王](2012/05/28 06:25)
[44] 【第二部】 第十話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 後編[闘牙王](2012/06/05 06:13)
[45] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉[闘牙王](2012/06/10 00:17)
[46] 【第二部】 第十二話 「川平家の新たな日常」 〈裏〉[闘牙王](2012/06/10 12:33)
[47] 【第二部】 第十三話 「どっぐ ばーさす ふぉっくす」[闘牙王](2012/06/11 14:36)
[48] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編[闘牙王](2012/06/13 19:40)
[49] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編[闘牙王](2012/06/28 15:49)
[50] 【第二部】 第十六話 「カウントダウン」 前編[闘牙王](2012/07/06 01:40)
[51] 【第二部】 第十七話 「カウントダウン」 後編[闘牙王](2012/09/17 06:04)
[52] 【第二部】 第十八話 「妖狐と犬神」 前編[闘牙王](2012/09/21 18:53)
[53] 【第二部】 第十九話 「妖狐と犬神」 中編[闘牙王](2012/10/09 04:44)
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[31760] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/13 19:40
手入れの行き届いた大きな廊下を一人の少女がつかつかと歩いている。だがその姿は様になっている。豪華な廊下にも引けを取らない雰囲気を、気品を感じさせる所作。何よりも目を引くのがその容姿。宝塚顔負けの豪華な、煌びやかなドレス、そしてそれに合わせるかのような赤い縦巻ロールの髪。西欧の婦人かと見間違うほどの容姿とそれに相応しい美貌を合わせ持った少女。それが薫の犬神、序列一位、せんだんだった。

せんだんはどこか慌てた様子で、足早にどこかに向かって行く。だがそれでも端から見ればいつもどおりに見えるように振る舞っているのが彼女らしさ、序列一位、リーダーであるせんだんらしさと言えるだろう。その向かう先は屋敷のホール。そしてそこにいる他の仲間、犬神達がいるであろう場所だった。今は夕食前。この時間帯はいつもは自室などで好き勝手に過ごしている仲間達も食堂に近いホールに集まるようになっている。もっとも学校から帰ってくる自分達の主人である川平薫を出迎えることが一番の理由ではあるのだが。

だが普段なら主人が戻って来る喜ぶべき時間帯、状況であるはずにもかかわらずせんだんの表情はどこか難しいもの。まるでこれから何か面倒なことが起こることを予感させるようなもの。それは彼女がこれから起こることを、起こるであろう事態とその対応に頭を悩ませているからに他ならなかった。いや、それ事態は構わないのだがそれによって起こる他の仲間たちの騒ぎに憂慮せざるを得ない。そんなことを考えているうちにせんだんはホールの入口までたどり着く。せんだんはそのまま一度深呼吸をした後、それまでの思考を切り替え、いつもの厳格な態度を、雰囲気を纏いながらその扉を開く。そこには


「えいっ! えいっ! がんばれともはね! がんばれともはね! えーーいっ!」
「ねえこの辺りでいい、いまり?」
「いーんじゃない? あんまり奥だとまた運ぶのが大変だし」
「それでフラノは思うのです。やっぱりここは一つ、イメージチェンジを図るべきではないかと!」
「それ以上キャラを変えたら誰も付いてこれなくなるぞ」
「え~? そんなことありません! きっと需要はあると思います! そうこのいぐさちゃんから借りた本にも書かれていましたから♪」
「それは、ごく一部の話」
「あ、あの……その……」


自分を除く八人の犬神達が好き勝手に騒ぎ、めちゃくちゃになっている光景、ある意味いつも通りの光景が広がっていた。


「はあ……」


せんだんは額に手を当てながらも頭を振り、改めてその惨状に目を向ける。一人ひとりが自分がやりたいように自由に、思うがままにくつろいでいる。それ事態は構わない。ここは自分達の家の中。その中では好きに過ごしても何の問題もない。だがあまりにも自由すぎだった。


「えいっ! とうっ! ああっ!? うああああっ!?」


その中でも一番騒がしく、やかましいのがともはね。ともはねはその手にゲームのコントローラーを持ちながらテレビに向かい、大声を、奇声を発し続けている。まさに拡声器顔負けの大音量で。メガホンでも使っているのではないかと思えるほどの騒音。だがともはねはゲームに熱中しているため全くそれに気づいていない。その声にはいつも文字通り頭を痛めている。一日一時間と決められているにも関わらずこの被害。もっとも他の犬神たちは既に慣れてしまっているのかさほど気にした様子をみせていない。自分が繊細なのかそれとも他の犬神達が図太いのかは分からないがどっちにしろ何度言っても直らないので仕方がない。


「そういえばごきょうやちゃん、例のラブレターはもう出したんですか?」
「ラ、ラブレター? な、何の話だ?」
「もう、とぼけったってダメですよ♪ フラノは知ってるんですから、毎日郵便受けを覗きに行ってるいじましいごきょうやちゃんを♪」
「そ、それは……! ご、ごほんっ! それよりもフラノ、わたしが買っていたプリンがなくなっているんだが心当たりはないか……?」
「え? フラノは何も知りませんよ? そんなゼリーなんてこれっぽっちも知りません!」
「語るに落ちているぞ、フラノ」


ともはねから少し離れた場所でごきょうやとフラノが言い争っている。もっとも言い争いというよりはじゃれ合っていると言った方がいいかもしれない。元々は冷静な、クールなごきょうやだがやはりそれでもフラノを前にすると少女らしいところが出てしまうらしい。そんなごきょうやの姿がお気に召したのかさらにフラノは楽しそうに話しかけていく。自分もリーダーではあるがフラノやてんそうの扱いに関してはごきょうやに任せている部分が大きい。そう言った意味ではごきょうやは副リーダーに近いと言えるかもしれない。


「やっと実ができたねー。でもどうする? これ、食べれるのかな?」
「一応食べれるはずなんだけど……うーん、ちょっと見た目が怪しすぎるよねー、どうしよっか? ともはねにでも毒見してもらう?」
「そだね。ちゃんと加熱すれば大丈夫だよね、じゃあ準備しよっか!」


端から聞けば危険極まりないやり取りをしているのが双子の犬神、いまりとさよか。どうやらまた訳の分からない植物を栽培し、持ちこんだらしい。双子には植物の栽培という稀有な才能があり、薫にもそれを認められているのだがいかんせん暴走しがちである。しかも双子、二人分の行動力があるためその迷惑さはある意味ともはねを大きく上回る。せんだんの頭を悩ませる大きな割合を占める原因だ。


「進み具合はどう、いぐさ?」
「うん。このまま行けば何とか期日には間に合うと思う……でもやっぱり資料が少なくて……」
「そう……やっぱり協力してもらうしかないかな」
「うう……できればご迷惑はおかけしたくないんだけど……」


他の者たちとは違い、騒ぐことなく交流しているのがいぐさとてんそう。絵という共通の趣味を持つ二人はよく交流を図っている。ここ最近は特にそれをよく見かける。他のメンバーに比べればお淑やかな、常識的な組み合わせと言えるだろう。だがそれでもその趣味についてはやはり余人には理解しがたい物なのだがそれは割愛。


「………」


そして最後の一人、たゆねは騒ぎを、おしゃべりをしている他のグループに加わることなくホールの中をせわしくなく歩きまわっている。同じところをぐるぐると。犬のように。だがそれはいつものたゆねの姿ではない。たゆねもこの時間帯になれば他の犬神達同様、騒ぎ、おしゃべりを楽しんでいる。だが今日は明らかに様子がおかしい。他の犬神達もそれに気づき、話しかけるもたゆねは心ここに非ずと言った風に要領を得ない。だが歩きまわりながらもちらちらとホールにある時計を何度も見直している。どうやらたゆねも自分と同じ案件を気にしているらしい。もっともその理由は全く別のものなのだろうが。


「みなさん、お伝えしたいことがあります! 少しお静かに!」


一度大きく深呼吸し、手を叩きながらせんだんがホールにいる全員に向かって声を上げる。いつも通りの、厳格な、序列一位に相応しい風格と共に。並みの犬神ならその声を聞いただけで本能で従ってしまうほどのカリスマとも言うべきものがあった。だが


「ちょっとたゆね、さっきから何してんのよ?」
「そうそう、何そんなにそわそわしてるの? トイレならさっさと行きなさいよ」
「ちっ、違う! 僕はトイレなんて我慢してない!」
「あ~ん、ごめんなさい、ごきょうやちゃん。今度ちゃんとお返ししますから~」
「ダメだ。これで何度目だと思っている。今回は流石に誤魔化されんぞ、フラノ」
「どうする? 私が連絡してもいいけど」
「うん……悪いけどお願いしてもいい、てんそう?」
「うわあああん! やられちゃったよおおおっ!?」


全くそれを意に介すことなく、彼女たちはさらに激しく騒ぎ続ける。せんだんの声など全く聞こえていないのかのように。自由奔放、協調性のかけらもない有様。恐ろしいほど個性的な薫の犬神達からすれば当たり前の反応、光景ではあるのだがそれをまとめる役、リーダーであるせんだんからすれば頭を痛めるしかない。自信の力量不足もあるだろうがそれ以上に他の犬神達の個性が、キャラクターが濃すぎるのがその原因。もっとも他のメンバーからすればお前が言うなと言われること請け合いだが。主である薫が自分達の自主性を重んじてくれているのも理由の一つだがいつまでも言い訳はしていられない。せんだんはストレスからぷるぷると手を震わせながらも平静を装いながら


「静かになさい! これから啓太様がお越しになられるのですよ!」


先程よりもさらに大きな声で用件を告げる。それがせんだんがホールまでやってきた理由。夕食に招待した啓太をもてなす準備を整えるため。どうやら薫に会いに来るのが本当の目的のようだがそれでも夕食に招待する以上、不始末を見せるわけにはいかない。もっともこの惨状ではそれも難しいことは間違いない。だがその瞬間、


ホールはまるで水を打ったかのような静けさに包まれた。先程までの騒ぎが嘘のように。一瞬で。そしてしばらくの静寂の後



「「「えええええ―――――っ!?!?」」」



それまで以上の騒がしさの、驚きと歓声にも似た叫びがホールに響き渡る。合唱団も顔前の見事な調和、シンクロぶり。それまでの協調性ゼロの姿からは想像もできないほどの一致団結ぶりだった。そんな現金な、ある意味分かりやすい仲間たちの姿にあきれ果てながらもせんだんは自らの役割を果たすべく動き始めるのだった―――――



「ふう……」


大きな溜息を吐きながら、犬神使い川平啓太は一人、大きな屋敷の前に辿り着いていた。そこは自分のいとこである川平薫とその犬神達の家。学校の帰りでそのまま寄ったため学生姿のまま。啓太はそのまま屋敷の入り口、扉の前へと向かって行く。だがその姿はどこかそわそわしている、落ち着きがない物だった。


うむ……一度来ているとはいえ、やっぱこの屋敷のでかさには圧倒されるな。何度来ても慣れそうにはないが。そう言えば前来た時はなでしこも同じように委縮してたっけ。何だかすげえ懐かしい気がするな。あの時はここにくるのが嫌で仕方がなかったんだっけ……主にたゆね関係で。加えて他の犬神達にも嫌われてたし……何だか感無量だ。もっとも今はそれよりを遥かに超える難問が、難関が俺の身に降りかかっているわけだが……あれ、なんか涙が出てきそうなんだけど……何で俺、こんな目にばっかあってんだろう? 考えたら何か悲しくなってきた……ダメだ! 弱気になるな、俺! 気をしっかり持て! それを何とかする手掛かりを得るためにここまで来たんだから! 他人任せだという声が聞こえてきそうだがそれでも構わない! 事は一刻を争うのだから! ではいざ!


啓太が己の中の葛藤と戦いながらも意を決して扉の呼び鈴を鳴らすと


「お待ちしておりました。ようこそ、啓太様」


時間を置くことなく、扉が開くと同時に恭しく頭を下げながらいつかと変わらない姿でせんだんが出迎えてくれた。なでしこがいないことを除けば初めてお呼ばれした日と同じ光景がそこにはあった。


「おう、久しぶりだな、せんだん。元気そうだな」
「はい、啓太様もお変わりないようで。大したもてなしはできませんがどうかゆっくりして行かれてください」
「あ、ああ……そうさせてもらうぜ。そういえば薫の奴は? もう帰ってきてんのか?」
「いえ、薫様はまだお戻りになられていません。ですがじきにお戻りになると思いますので」
「そっか……じゃあ先に上がらせてもらうぜ」
「はい、ではご案内いたします。どうぞ」


俺はそのまませんだんに言われるがままに屋敷へと案内される。むう……やっぱり何度見てもすげえ……ほんとに同じ世界の人間、いや犬神なのだがそれでもその格好は凄まじい。違和感バリバリだ。似合ってはいるのだがやはり前にするその存在感が半端ない。かつらでも被っているのかと思ったがどうやら地毛らしい。これではけの妹だってんだから訳がわからん。突然変異か何かなのか。あまり詳しくははけも教えてはくれなかったし。心なしかはけが嘆いていたような気もするが……触れない方がよさそうだな……


「そういえば啓太様、なでしこは元気にしているのでしょうか?」
「えっ!? あ、ああ! なでしこね、うん、元気にやってるぜ、あはは……」


考え事をしている最中に話しかけられてしまった啓太はどこか慌てながらもそれに応えるも、やはり動揺を隠しきれてはいなかった。それはその内容。それ自体に嘘はない。確かになでしこは元気にやっている。むしろある意味で元気すぎるほどに。こっちの胃がストレスで穴があきそうなほどに。


「そうですか……やはりようこが迷惑をかけているのですね」
「えっ!? お、お前どうしてそのこと知ってんだっ!?」
「そのことについては兄から……はけ様から伺っています。ですが御心配なさらずに。そのことを知っているのはわたしとごきょうやだけです。他の者たちに知られればご迷惑をおかけしかねないので……」
「そ、そっか……悪いな。助かるぜ」


思わぬせんだんの返しに焦るものの、何とか啓太は安堵の声を漏らす。


マジで助かった……せんだんとごきょうやなら口を滑らすことも言いふらすこともないだろう。流石はリーダー、序列一位と言ったところか。気配りといい、他の犬神達のことといい完璧に把握しているらしい。家にぜひ欲しい……い、いややめとこう。大人数ならともかく今の状況でリーダーなんて作ったらどうなるか考えたくもない。新たな火種を作るだけだ。っていうかこれ以上犬神を増やすなんて出来るわけない。自殺行為にも等しいだろう。


「では今はなでしことようこだけで留守番を……?」
「いや、今日ははけに後を任せてきた。日中は仕方ないけど今日は遅くなりそうだったからな」
「そ、そうですか……」


せんだんはそんな啓太の言葉に苦笑いすることしかできない。なでしことようこの間に挟まれた兄の、はけの姿が目に浮かぶようだ。ストレスによって兄が倒れないことを祈るしかない。


そんなこんなで啓太達はホールの前までたどり着く。思ったよりも長く話しこんでしまっていたらしい。だがいつまでたっても啓太はその扉を開けようとはしなかった。


「………」
「啓太様……?」


そんな啓太の姿を訝しみながらせんだんが話しかけるも啓太はそのドアノブを持ったまま動こうとしない。一体どうしたのだろうか。だが啓太の表情は真剣そのもの。その気迫にせんだんはそれ以上話しかけることができない。そしてついに啓太が扉を開けホールに入った瞬間


「わ~い、啓太様っ♪」


喜びの声と共にともはねが凄まじい速度で啓太に向かって突進してくる。まるで久しぶりに帰ってきた主人を出迎える子犬のよう。だが小さな少女であるともはねの突撃の威力は子犬の比ではない。しかし


「おう! 久しぶりだな、ともはね!」


それを難なく啓太は受け止める。まるでそれを待っていたと言わんばかりに。ドヤ顔を晒しながら。完璧なタイミングと手際によって啓太はその洗礼を受けきった。


ふっ……甘いな、ともはね! 同じ手が何度も通用するとでも思ったか! 男子三日会わざれば刮目して見よの言葉通り、俺はもうあの時の俺ではない! 同じ手はもう二度と俺には通用しない。残念だったなともはね、今回は俺の勝


「お久しぶりです、啓太様~♪」
「「いらっしゃいませ、啓太様―!!」」
「ぐぼあっ!?」


啓太が自らの勝利を確信した瞬間、背後から、左右から新たな刺客であるフラノ、いまり、さよかが奇襲を仕掛けてくる。まさか追加攻撃が、奇襲が全方位からあるとは欠片も思っていなかった啓太は為すすべなく悲鳴を上げながら吹き飛ばされる。フラノ達にとっては抱きつきながら出迎えたつもりなのだがその力はラグビーのタックルにも引けを取らない程のもの。彼女達が人外、犬神である証でもあったのだがそんなことなど啓太には関係ない。啓太はそのままともはねを含めた四人によってもみくちゃにされてしまう。以前よりもはるかに酷い有様だった。


「ひどいです、啓太様! フラノはずっと啓太様が来られるのを待っていましたのに~」
「いいところに来てくれました、啓太様!」
「ちょうど新しい果物ができたところなんです、ぜひ毒……じゃなかった味見してみてください!」
「啓太様、ともはねと遊びましょう! あたしでんぐり返しができるようになったんです! 見てください!」
「ま、まて……お前ら……分かったからちょっと離れろっつーのっ!?」


都合四匹の犬神によってもみくちゃにされながらも啓太は息絶え絶えに脱出しようとする。だがその力に抗うこともできずにされるがまま。窒息死しかねない状況だった。本気でしゃれにならないレベルに啓太が意識を失いかけんとした瞬間


「あなたたち! いい加減になさい! 啓太様に失礼ですわよ!」


まるで犬の遠吠えのようにホール中にせんだんの怒号が、命令が響き渡る。同時に啓太を襲っていた四匹に犬神達はまるで号令がかかったかのようにその場におすわりをしてしまう。まさに犬の条件反射その物だった。後にはまるで追い剥ぎにでもあったかのようにボロボロになってしまった啓太の残骸があるだけだった―――――



「ったく……酷い目にあったぜ……」
「申し訳ありません、啓太様。後できつく言っておきますので……」
「えー? ずるい、リーダーばっかりいい子ぶっちゃって!」
「そうそう! きほんてきじんけんのしんがいだー!」
「お黙り! どうやらまだおしおきが足りないようね!」


きゃーという声を上げながら双子がせんだんをからかいながら逃げ回っている。どうやらせんだんも頭に血が上ってしまっているのかそれを追いかけまわしている。はけ同様苦労が絶えない生活をしているのが目に見える。ある意味俺の苦労を一番理解してくれるのはせんだんなのかもしれない。


「応急処置は終わりましたがまだ痛むところはありますか、啓太様?」
「いや、大丈夫だ。さんきゅーな、ごきょうや」
「いえ、お気になさらずに」
「では改めまして啓太様! ぜひフラノと一緒にバカンスに行きましょう!」
「バカンス……?」
「はい♪ とってもえぐいビキニを着ますよ~きっと啓太様も気に入ってくれるはずです♪」


ごきょうやの応急処置を終えた俺に向かってフラノが何か訳が分からんことを言いながら近づいてくる。うむ、全く天然、電波っぷりは変わっていないようだな。何を言っているか何一つ分からん。もしかしたら以前よりも悪化しているのかもしれん。


「すいません、啓太様。フラノは今、夏の女というものに影響されていまして。何でもイメチェンをしたいのだとか……」
「それとバカンスに何の関係があるんだよ……」
「細かいことは気にしたらいけませんよ、啓太様! 楽しければ何でもいいんです! さあ、一緒にフラノと温水室へいきましょう! さーびすさーびすしますよ♪」
「ぶっちゃけすぎだろっ!? っていうか場所がこの屋敷の中かよ!?」


へらへらと笑いながら腕を引っ張って来るフラノに呆れかえることしかできない。もはや何をしたのかも分からないが、どうやら俺に遊んで、いや俺をおもちゃにして遊びたいらしい。何とかごきょうやがそれを抑えてくれているがいつまでも持ちそうにない。というかこいつら、以前よりも酷くなってねえ? っていうか俺、今日は遊びに来たんじゃなくて薫に用があってきたんだけど……


「けーた様! それよりもともはねと一緒に遊びましょう! このゲームが難しくてクリアできないんです!」
「あらら、ダメですよ、ともはね。啓太様はこれからあだるとな遊びをされるんですからお子様は禁止です♪」
「むー! あたしだって大人になれるもん!」
「お前達、もう少し大人しくしないか! 啓太様が困ってらっしゃるだろう!」
「年増なんてほっておいて私たちと行きましょう、啓太様! 新しい果物をぜひ食べてみてください! きっとおいしいですから!」
「そうそう! ぴっちぴっちの私達がご案内しますよー!」
「だ、誰が年増だっ!? お前達と百歳も離れていない!」
「あ、あの……啓太様……よかったら絵のモデルになっていただけませんか……?」
「ぜひ。悪いようにはしない」

「だ―――――っ!? いっぺんにしゃべるんじゃねえええっ!? 訳がわかんなくなるだろうがああああっ!?」


啓太がついに堪忍袋の緒が切れたかのように絶叫を上げながら薫の犬神達を振り払おうとするもその数が多すぎるために対応しきれない。一匹ずつでも手を焼くのにそれがこれだけ。聖徳太子でもなければ対応できないような状況。改めてこれだけの数の犬神を持っている薫に尊敬の念を抱いてしまうほど。もっとも彼女たちの薫と啓太への接し方は大きく異なるので一概には言えないのだが。


「う~~っ!」


そしてそんな啓太を中心とした騒ぎの輪の中に入っていけないたゆねはぐるぐるとその周りをうろついているだけ。本当なら割って入りたいところなのだが羞恥心がそれを許さない。でもやっぱり気になって仕方ない。昨日の夜からずっと楽しみにしていたのにまさかこんな事態になるとは思っていなかった。このままではまともに話すこともできない。でもどうすれば。素直になれないツンデレの悲しい宿命だった。


そんな騒ぎを少し離れた所から呆れ気味にせんだんは眺めている。もうすでに騒ぎを収めることはあきらめてしまったらしい。せんだんはそのまま改めてその騒ぎの中心である啓太へと目を向ける。

川平啓太。

川平家の直系であり、自らの主、川平薫のいとこにあたる人物。落ちこぼれの犬神使いという不名誉な扱いをされている存在。

以前までの自分達ならこんな風に啓太に接するなど想像もできなかっただろう。自分達は啓太に対してマイナスのイメージしかもっていなかったのだから。儀式の珍事、信じられないような噂に、事件。およそ破邪顕正を志すべき犬神使いとしてあるまじきあり方。だがそれが今、嘘のように犬神達に懐かれている。それは恐らくは死神の一件もあったのだろうがやはり犬神使いとしての才が為し得ることに他ならない。

一度、父と兄、最長老とはけに聞いたことがある。何故啓太にそこまで目をかけるのか。二人は皆が落ちこぼれとして啓太を見下している時から、その前からずっと啓太に目をかけているかのような言動を見せていた。それが気になったからこそ。そしてその理由を知る。かつての初代、川平慧海。その人柄と雰囲気に川平啓太は似ているのだと。二人とも全く同じ理由を教えてくれた。自分達は初代がどんな人物だったかは知らない。だが直接会ったことのある二人がそう言うのだからそれは真実なのだろう。同時に思い至る。それはなでしこ。恐らくはなでしこもそれと同じことを思ったであろうこと、そしてきっとそれがなでしこが啓太に憑いた理由なのだと。

その理由も最近分かってきたような気がする。次第に惹かれて行く仲間たちの姿が何よりの証。もっとも全裸になることだけは理解できないが。そしてもう一つ、気にかかっていることがせんだんにはあった。

それは薫と啓太の関係。かたや十年に一人の天才と称されるほどの犬神使い。かたや落ちこぼれの烙印を押された犬神使い。同じ川平の直系でありながらあまりにも対照的な二人。血筋で言えば次期当主を争う定めにある二人。だが二人がどういう関係なのかは全く知らない。何度か交流はしているらしいが自分達は一度もその場に居合わせたことはない。だが薫は啓太のことを慕っているらしい。それは啓太のことが話題に上がる際の様子からも明らかだった。啓太のことを話している薫は本当に楽しそう。自分達と一緒にいる時は見せない表情を、感情を感じてしまうほど。それ故にせんだんはこの機会に薫と啓太の関係をその目で見てみたいと思っていたのだった。

そんなことを考え込んでいる間もまだ騒ぎは収まりそうにない。流石にこのままでは収拾がつかないと判断し、溜息を吐きながらもせんだんがそれを収めようとした時、


「急いで帰って来たんだけど、もう始まっちゃってたみたいだね」


そんな心地いい、聞きなれた声が響き渡る。まるで透明な大気を、空気を思わせるような声。静かさの中に確かな存在感を感じさせる少年の声。


それによってそれまで騒ぎたてていた薫の犬神達は一斉にその動きを止め、振り返る。その声の主の元、そして自らの主の元へと。やっと解放された啓太もよろよろと立ち上がりながら自らのいとこ、友人へと向き直る。


「ただいま、みんな。それにお久しぶりです、啓太さん」


楽しそうな雰囲気を隠しきれないように優しい笑みを浮かべながら屋敷の主、そして犬神達の主である川平薫が啓太へと挨拶を告げる。


それが犬神使い、川平啓太と川平薫の久しぶりの再会だった―――――


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