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No.31760の一覧
[0] なでしこっ! (いぬかみっ!二次創作)[闘牙王](2012/05/06 11:39)
[1] 第一話 「啓太となでしこ」 前編[闘牙王](2012/02/29 03:14)
[2] 第二話 「啓太となでしこ」 後編[闘牙王](2012/02/29 18:22)
[3] 第三話 「啓太のある夕刻」[闘牙王](2012/03/03 18:36)
[4] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 前編[闘牙王](2012/03/04 08:24)
[5] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 後編[闘牙王](2012/03/04 17:58)
[6] 第四話 「犬寺狂死曲」[闘牙王](2012/03/08 08:29)
[7] 第五話 「小さな犬神の冒険」 前編[闘牙王](2012/03/09 18:17)
[8] 第六話 「小さな犬神の冒険」 中編[闘牙王](2012/03/16 19:36)
[9] 第七話 「小さな犬神の冒険」 後編[闘牙王](2012/03/19 21:11)
[10] 第八話 「なでしこのある一日」[闘牙王](2012/03/21 12:06)
[11] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 前編[闘牙王](2012/03/23 19:19)
[12] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 後編[闘牙王](2012/03/24 08:20)
[13] 第九話 「SNOW WHITE」 前編[闘牙王](2012/03/27 08:52)
[14] 第十話 「SNOW WHITE」 中編[闘牙王](2012/03/29 08:40)
[15] 第十一話 「SNOW WHITE」 後編[闘牙王](2012/04/02 17:34)
[16] 第十二話 「しゃっふる」 前編[闘牙王](2012/04/04 09:01)
[17] 第十三話 「しゃっふる」 中編[闘牙王](2012/04/09 13:21)
[18] 第十四話 「しゃっふる」 後編[闘牙王](2012/04/10 22:01)
[19] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編[闘牙王](2012/04/13 14:51)
[20] 第十六話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 中編[闘牙王](2012/04/17 09:57)
[21] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編[闘牙王](2012/04/19 22:55)
[22] 第十八話 「結び目の呪い」[闘牙王](2012/04/20 09:48)
[23] 第十九話 「時が止まった少女」[闘牙王](2012/04/24 17:31)
[24] 第二十話 「絶望の宴」[闘牙王](2012/04/25 21:39)
[25] 第二十一話 「破邪顕正」[闘牙王](2012/04/26 20:24)
[26] 第二十二話 「けいたっ!」[闘牙王](2012/04/29 09:43)
[27] 第二十三話 「なでしこっ!」[闘牙王](2012/05/01 19:30)
[28] 最終話 「いぬかみっ!」[闘牙王](2012/05/01 18:52)
[29] 【第二部】 第一話 「なでしこショック」[闘牙王](2012/05/04 14:48)
[30] 【第二部】 第二話 「たゆねパニック」[闘牙王](2012/05/07 09:16)
[31] 【第二部】 第三話 「いまさよアタック」[闘牙王](2012/05/10 17:35)
[32] 【第二部】 第四話 「ともはねアダルト」[闘牙王](2012/05/13 18:54)
[33] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」[闘牙王](2012/05/16 11:51)
[34] 【第二部】 第六話 「りすたーと」[闘牙王](2012/05/18 15:43)
[41] 【第二部】 第七話 「ごきょうやアンニュイ」[闘牙王](2012/05/27 11:04)
[42] 【第二部】 第八話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 前編[闘牙王](2012/05/27 11:21)
[43] 【第二部】 第九話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 中編[闘牙王](2012/05/28 06:25)
[44] 【第二部】 第十話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 後編[闘牙王](2012/06/05 06:13)
[45] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉[闘牙王](2012/06/10 00:17)
[46] 【第二部】 第十二話 「川平家の新たな日常」 〈裏〉[闘牙王](2012/06/10 12:33)
[47] 【第二部】 第十三話 「どっぐ ばーさす ふぉっくす」[闘牙王](2012/06/11 14:36)
[48] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編[闘牙王](2012/06/13 19:40)
[49] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編[闘牙王](2012/06/28 15:49)
[50] 【第二部】 第十六話 「カウントダウン」 前編[闘牙王](2012/07/06 01:40)
[51] 【第二部】 第十七話 「カウントダウン」 後編[闘牙王](2012/09/17 06:04)
[52] 【第二部】 第十八話 「妖狐と犬神」 前編[闘牙王](2012/09/21 18:53)
[53] 【第二部】 第十九話 「妖狐と犬神」 中編[闘牙王](2012/10/09 04:44)
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[31760] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/10 00:17
「ん……」

もぞもぞと布団の中でうごめいていている一人の少年の姿がある。それは川平啓太。その理由はもはや語るまでもない。朝日。温かくも眩しい一日の始まりを告げるそれがカーテンを超えて啓太に向かって降り注いでいる。だがそれを前にしても啓太はまるで抵抗するかのように布団から出ようとはしない。というか徹底抗戦の構えだった。今日は平日。悲しいかな学生の身分である啓太は登校するという勤めから逃れることができない。それが分かっていながらも啓太は自ら起きようとしない。そう、起きれないのではなく、起きようとしない。そこがポイントだった。

「う~ん、なでしこ……」

寝がえりをうち、半分寝ぼけながらも啓太は本能のまま、いつものように隣に寝ているなでしこに向かって手を伸ばそうとする。それは啓太の日課。寝起きという状況を利用してなでしことスキンシップ(啓太基準)を図るもの。見ようによってはセクハラに見えかねない行為。だが困った様子を見せながらもなでしこはそれを受け入れてくれる。何だかんだでなでしこも満更ではないらしい。もっとも寝起きという状況を利用しなくてもなでしこはそういった行為を拒むことはないのだが啓太はそれを行ってはいない。以前は嫌われてはいけないという理由、言い訳があったが今は単純に気恥ずかしさが勝っている。ヘンなところで純情、ヘタレな川平啓太、十七歳だった。


ふう……やはりこの瞬間は最高だ。考えてもみてほしい。朝起きてすぐに好きな女の子の温もりを感じることができる。これほどの至高があるだろうか、いやない! いつもは恥ずかしがるなでしこもこの時には少しは羞恥心が薄れるのかスキンシップをとってくれる。これによって俺は一日の英気を養うことができるのだ! しかし、女の子と並んで寝ながらも紳士でいれる自分に恐ろしさすら感じてしまう。四年前は緊張と興奮から一睡もできなかったこともあったのだが慣れというのは恐ろしい。もっとも意識しすぎるとこっちの身が持たないと言う切実な問題があったからこそ。

だが最近、少し様子が変わってきたような気がする。告白してから、正確には新しいアパートに住み始めてから。何故か起きるとなでしこの方が俺に近づいてたり、心なしか色っぽい仕草をみせていたり、床にしている布団の位置が近づいて(くっついて)いたり……うん、まああまり気にしない方がいいだろう。と、とにかくスキンシップをはかることにしよう! 決して疾しい気持ちではなく、犬神使いとして、犬神と触れ合うために! 


そんなよくわからない言い訳をしながらもいつものように啓太がその手を伸ばそうした瞬間、


ふにっ


そんな何か柔らかいものをその手が掴む。そう、まるでマシュマロのようなものを。


……ん? 何だこれ? 俺、今、何触ってんの? いつもの感触とは違うんですど。うん、まるで肌を直接触っているかのよう。いつもはパジャマ越しの柔らかさを、温かさを、匂いを感じるのに今日は違う。というか……これって……もしかして……


啓太がどこか不穏な空気を感じ取りながらも再び自らの手に力を込める。その掴んでいるものに向かって。まるで条件反射のごとく。瞬間


「あん♪」


そんな色っぽい、艶めかしい少女の声が啓太の耳に響き渡る。いつもは聞くことのない、それでも聞いたことのある少女の声が。啓太はフリーズしながらも、まるでロボットのようにギギギという効果音が聞こえんばかりの動きで閉じていた目を開け、自らの状況を確認せんとする。もう八割がた何が起こっているのか頭の中では理解できていながらも、その現実を受け入れられないかのように。その視線の先には


「もう、ケイタったらえっちなんだから♪」


どこか楽しげに笑みを浮かべている全裸の少女とその胸を揉んでいる自分の右手があった―――――



「どわああああああっ!?!?」


啓太は絶叫、悲鳴を上げながら一瞬でその手を離し、床をはいずり全裸の少女から距離を取る。それはまさに神業と言ってもいい早技。この手際をもってすれば死神にすら後れはとるまいと思えるような絶技だった。


「どうしたの、ケイタ? もっと触ってもいいのに♪」


そんな啓太の狼狽した姿を見て悪戯が成功したような笑みを見せながら全裸の少女、ようこがくすくすと笑っている。そんなようこの姿に啓太は目を奪われ、口をぱくぱくさせることしかできない。いやその目が釘付けになってしまっている。ようこの体に。何も着ていない、どこも隠していない、紛うことなき全裸だった。

透き通るような白い肌。形のいい胸。なめらかな腰つき。完璧とも言って言いプロポーション。この世の物とは思えないような美しさ、理想郷。まさになでしこの裸エプロンに勝るとも劣らない、いや、ある意味それを超える衝撃がそこにはあった。


「お、お前……何でこんなところにいるんだっ!?」
「え? ひどい、わたし、ケイタの犬神になったからここにいるのに」
「そういうこと聞いてるんじゃねえ!? 何で裸で俺の布団の中にいたのか聞いてんだよっ!? お前、ベッドで寝てたはずだろうがっ!?」
「え~? だってケイタと一緒に寝たかったんだもん」


何とか混乱を抑えながら啓太が目の前の少女、ようこに向かって問い詰めるも、ようこは全く気にした風もなく楽しそうにしているだけ。全く反省もなにもあったものではない。その証拠にようこは啓太が自分の姿を直視しているにも関わらず、まったく自らの裸体を隠そうとしない。いや、むしろ見せつけているのではないかと思えるほど。


こ、こいつ……一体何考えてやがるんだっ!? 思春期の、いや年頃の男の布団にも入り込むなんてそんな素晴らしい……じゃなかった危険なことをっ!? むしろばっちこいなのだが……って落ち着け!? 落ち着け俺っ!? 思考がおかしくなってんぞっ!? ……ふう、まずは深呼吸だ。まずは心を鎮めなければ……って落ち着けるか―――――っ!? 何なのこれ!? 朝起きたら自分の布団の中に真っ裸の女の子が寝てるとかどこのラブコメだっつーの!? いやラブコメでもそんな展開ありえないだろ!? 夢か!? 俺、どんだけ欲求不満なわけ!? だ、だが間違いない、これは現実だ……こいつなら何でもやりかねない! だがまさかここまでめちゃくちゃをしてくるなんて、一体どういう教育してたんだ!? し、しかし……すげえ……これが女性の魅力という奴か……もはや言葉では言い表すことができん。感無量といったところ。しかも俺、さっきまであの胸を、おっぱいを掴んでたんだよな? あ、思い出したら鼻血が……


人生の中で一、二を争う混乱状態に陥りながらも啓太がただようこの裸体に目を奪われている中


「何をしてるんですか……啓太さん……?」


パジャマ姿のまま向かい合っている啓太とようこの光景に呆然としているなでしこの声が部屋に響き渡った。瞬間、部屋の時間が凍った。いや、正確には啓太の時間だけが。まさに絶体絶命、穴があったら入りたいどころではない。もし目の前に崖があったとしても飛び込みかねない程の状況だった。


「ち、違うんだ、なでしこっ!? これは……その……不可抗力というか……!」


目を泳がせながら、声を震えさせながら啓太は何とかこの状況を説明しようとするも、震える体と滝のように流れる汗、動悸を抑えることができない。というかどう見ても浮気現場を見られた夫の反応そのままだった。


な、何だこれ!? 一体何がどうなってんだ!? っていうか何で俺、こんなに焦ってんの!? 俺、何も悪いことしてねえだろ! うん、間違いない。こいつが勝手に脱いでるだけで俺は何も悪くない! ここはびしっとこいつに言ってやらなければ……


啓太が意を決してこのまるで修羅場のごとき状況を打破せんと、身の潔白を証明せんとした瞬間、


「わ~い、ケイタがわたしによくじょーした!」


ようこの言葉によってそれは無残にも砕け散った。木っ端みじんに、跡形も、塵一つ残らない程の勢いで。ようこはもちろん、啓太、そしてなでしこの視線もそこに集まる。啓太の、男が男である証へと。トランクスによって隠れているそれがまさに天を突くかのごとくそりたっている。その光景に啓太は顔面を蒼白に、なでしこは羞恥によって顔を真っ赤にするしかない。抑えることのできない、逃れることのできない男の悲しい性だった。


「ち、違うっ! これは違うんだ!? これは……そう! 朝の生理現象の様なもんで決して疾しい気持ちがあったわけでは……!」
「嘘言っちゃだめだよ、ケイタ。ちゃんとみてたもん。ケイタのここ、わたしを見てから大きくなったもん!」
「ぶっ!? や、やめろ!? その格好で抱きつこうとすんじゃねえ!?」


啓太の言葉が気に障ったのか、ようこは頬を膨らませながら啓太に向かって飛びついて行こうとするも啓太は何とかそれを寸でのところで回避する。啓太の本能であればこちらから飛びついて行きたいところだがそんなことをすればどうなるか。今の啓太の中には恐怖しかなかった。


「だ、だめです! ようこさん、そんなはしたない格好……!」
「ふん。わたしがどんな格好しようとあんたには関係ないでしょ? ケイタは喜んでるもん」
「そ、そんなことありません! それに殿方とは適切な距離を置くもので……」
「嘘。わたしちゃんと見てたよ。あんた、夜中にケイタの方に近づいて行こうとしてたでしょ」
「っ!? そ、それは……」


何とかようこを制しようとする啓太の恐怖の対象兼最後の砦であるなでしこだがようこの予想外の反論によって顔を赤くしたまま言い返すことができない。もっともそのこととようこが裸で啓太に迫ることには何の関係もないのだがそれを見られてしまっていた恥ずかしさでなでしこもあたふたすることしかできない。二人の少女、犬神はそれでも譲れないものがあるかのように押し問答を繰り返している。もっとも聞き分けのないようこをなでしこが嗜めようとしている、といったところ。だが


「分かったからいい加減服を着ろ―――――!!」


いつの間にか蚊帳の外に置かれている啓太が我慢の限界に達したかのように怒号を上げる。安らかな覚醒を妨げられた怒りと自らの貞操の危機を救うために。


それが川平家の、ようこという新しい住人が加わった初めての一日の始まりだった―――――



「「「いただきます」」」

何とか落ち着きを取り戻し、ようこに服を着せた後、俺たちは三人でちゃぶ台につき朝ごはんを食べ始めた。元々広い部屋ではないことに加えて小さなちゃぶ台であったため余計窮屈に感じる。まあ元々二人暮しをしていたのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。ある意味ようこという新しい住人がやってきたということを現しているのかもしれない。

ちらりと横目でようこの様子を盗み見てみる。ようこはこちらの視線には全く気付くことなく一心不乱に朝ごはんにかぶりついている。どうやらお気に召したらしい。まあなでしこの料理だから当然か。俺も初めてそれを口にした時は驚きを通り越して感動してしまった。まさか同じ料理でもここまで違いが出るのかと。もう俺は他の料理を食べれなくなってしまうのかもしれない程餌付けされてしまっている。恐らくはようこも……っと話が脱線してしまった。その料理を作ったなでしこも俺と同じようにちらちらとようこの様子を観察している。だがそれはどこか恐る恐るといった、後ろめたさを感じさせるかのように見える。普段おろおろすることはあるなでしこだが明らかにおかしかった。だがその理由を、訳を既に俺は知っている。いや聞き及んでいた。


(なでしこの奴……やっぱ気にしてんだな……)


啓太はどこか難しい顔をしながら思い出す。二日前、ようこと出会った夜。そしてその顛末を。


騒動も何とか一息ついた後、俺ははけとばあちゃんに詳しい事情を聞かされた。いや聞き出したといった方が正しいだろう。初めは渋っていたのだがやはり後ろめたさはあったのか主にはけがそれを説明してくれた。だがその内容に頭を抱えることしかできなかった。

それはようこのこと。何でもようこは俺の犬神になるために四年前の儀式の日に俺に近づこうとした犬神を排除しようとしたらしい。それが俺になでしこ以外全く犬神が寄りつかなかった本当の理由。もっとも大半は俺自身のせいだったらしいが……っとまあそれは置いておいて、その行動は話に聞いていたはけと同じ。はけもばあちゃんの儀式の時にはばあちゃんを独占するために他の犬神達を全て排除したらしい。まさに宗家マニアといってもおかしくない程の溺愛、いや忠誠、独占欲だった。もっともようこの場合はその時にはまだ犬神として誰かに憑くことができなかったというのも大きな理由だったようだ。だがようこの思い通りにはいかなかった。理由は分からないがようこは俺に憑こうとするなでしこを妨害できなかったらしい。その結果、俺にはなでしこが憑き、ようこはそのまま山の中に残されてしまい、今に至る。

それを聞かされてようやく納得がいった。何故あんなにもようこが俺に執着しているのか、何故あんなにもなでしこに敵意を向けていたのか。だが分からないこともいくつかある。

一つ、どうやらようこは俺のことを儀式の前から知っていたらしい。はけの言葉からもそんな様子が聞きとれた。しかし一体いつ会ったのか心当たりがない。こんな奴にあったら絶対に忘れそうにないのに……

もう一つがようこの力。勝負という名の一方的な蹂躙の中で確信があった。あの力は明らかに犬神のものではない。確かに犬神はその個人個人で力の強さも大きさも異なる。その証拠になでしこはその力が、はけは結界術に秀でている。だがようこの力は明らかに異質だった。何か根本的に違うのではないかと思えるような違和感があった。そのことをはけとばあちゃんに尋ねてみたものの、はぐらかされ答えてくれない。どうやらそれについてはようこに直接聞けということらしい。もっともまだそれは聞けていないのだが……うん、それは聞いてはいけないと俺の直感が告げている。例えるなら……あれだ。なでしこのやらずと同じだ。あれと同じ、不用意に触れてはいけないことなのだろう。あえて地雷を踏もうとは思わない。踏むにしても相応の準備が必要だろう。主に俺自身の身の安全のために……


とにかく何だかんだではけとばあちゃんは俺とようこを引き合わせることにしたらしい。知らない間に巻き込まれていたのは勘弁してほしいがまあそれはこの際どうでもいい。どうでもよくはないのだがいいことにしよう。それを遥かに超える大きな問題があったのだから。


それはようこをどうするかということ。


俺としてはようこを自分の犬神にすること自体は構わないと思っている。めちゃくちゃで常識知らず、はたして制御、扱うことができるのかどうかに大きな不安がある(というかできそうにはない)のだがそれでも俺の犬神になりたいという想いは間違いなく本物だった。四年間ずっとそれを待っていたことからもそれは疑いようがない。何よりもあれ以上泣かせたままというのはあまりにも可哀想だった。決して疾しい気持ちがあったわけでは……うん、まあ確かに美少女だったのも理由の一つではあったのだが、それは割愛。そんなこんなで問題はたった一つ。


なでしこをどうするか。それに尽きた。


ようこを俺の犬神にするということ。それはつまり、なでしこと共に、二人の犬神を持つことを意味している。持つだけなら何の問題もないのだが、いかんせんそう簡単にはいかない。それは当然、ようこを含めた三人で生活をすることを意味しているのだから。生活費やもろもろの問題もあるがそれはこの際度外視する。一番重要なのはなでしことようこ。二人の関係、相性だ。間違いなく犬猿が、龍虎が共に暮らすようなものだと容易に想像はつく。もっとも本人達の前では口が裂けても言えないが……特にようこについては明白だ。あの時、なでしこのことを口にした時のようこの姿はトラウマものだった。思い出しただけで背筋が凍る。となれば問題はなでしこがようこをどう思っているのか。はけの話ではようこを受け入れることを承諾したらしいが……とにかく一度話してみる必要がある。

俺はそのまま一度家に戻り、なでしこと会うことにした。その際にようこが凄まじい駄々をこねた。ようこからすればこのまま置いて行かれるのではないかと不安になってしまったのだろう。何とか説得し、はけに後を丸投げした後、俺はなでしこと話し合った。正確にはなでしこの本心について。


『本当にいいのかよ、なでしこ? 無理してるんだったら別に……』
『……啓太さんが決めたことなら……いいえ、これはわたしの決めたことでもあるんです。こうなることはあの時からもう分かっていましたから……』


なでしこはどこか悲しさを、無理をしている様子を我慢しながらもそう告げる。そこにはようこに対するなでしこの引け目、後ろめたさが、そして後悔があった。

四年前のあの日、なでしこが啓太に憑いたこと。なでしこ自身が啓太に惹かれ、そして契約をしたこと。そこに嘘は、後悔はない。何よりもあの儀式は犬神が自らの主を見定めるものでもある。言うならば主の争奪戦。だからなでしこの行動に非はないと言ってもいい。三百年間、いかずだったとはいえ、なでしこが誰に憑こうと問題はない。だがそう割り切れない事情がなでしこにはあった。

それはようこが啓太の犬神になりたがっていたことを知っていたこと。そしてようこが犬神として誰かに憑くことを許されていないことを知っていたこと。

前者についてはまだ言い訳はできる。現になでしこは契約をする直前までその少年が啓太であることを知らなかったのだから。だが後者が問題だった。もしようこがこの時、啓太に憑くことができたのならなでしこも迷うことなく二人一緒に啓太の犬神にしてもらおうとしただろう。(ようこがそれを許したかどうかは別問題)しかし、その時はそれができなかった。だからこそなでしこは悩んだ。このまま啓太に憑くか、それともようこに遠慮して身を引くか。その結果が今の状況。宗家やはけだけではない。これはなでしこ自身の問題、罪。それを知りながらも、自分勝手な理由で避けてきた、逃げてきたもの。


自らの、唯一のトモダチと言ってもいいようこを裏切ってしまったなでしこの贖罪。


そんななでしこの事情もあり、啓太は悩みながらも決断する。それはようこと仮契約を結ぶこと。期限を一週間とした見習いとして啓太はようこを自分の犬神にしたのだった。表向きは半人前であるようこが上手く啓太に憑くことができるかどうかの試験というものだったか実際はようこがなでしこと上手くやっていけるかどうかの意味合いが大きかった。確かに最終的にようこを犬神にするかどうか決めるのは啓太ではあるが一緒に暮らすようになる以上、それは避けては通れない問題。それをこの一週間で啓太は見極めようと考えていた。実は期限を設けたのにはもう一つ理由があるのだがそれはまあ置いておくとして


『まあ、そういうわけだからお前も無理すんなよ。別にお前だけが悪いってわけじゃないんだから』
『は、はい……あ、ありがとうございます』


確かに問題がなかったわけではないがそれでもなでしこが憑いてくれて俺は感謝している。もしなでしこが憑いてくれなければ俺には一匹も犬神が憑かなかったはずなのだから。そうなっていたらどうなっていたか想像もしたくない。間違いなく川平家を勘当されてしまっていただろう。犬神が一匹も憑かなかった犬神使いなんて前代未聞だしな……


俺の言葉に頷きながらもやはり気にかかるのかなでしこはそのまま俯いてしまう。うーむ……なんだろう……別に俺が何かしたわけじゃないのにどうしてこんなに居心地が悪いんだろうか。何かこう、胃が痛くなるような、まるで二股をかけようとしているかのような罪悪感がある。い、いや! これは二股なんかじゃない! そう、もう一人犬神が増えるだけだ! 何もおかしいことはない。複数の犬神を持ってる犬神使いはたくさんいるし、現に薫の奴なんかは九人もいやがるんだ! でも今になってその非常識さが分かってきた。自分は二人の犬神を持とうとしているだけでこの騒ぎ、慌てようなのにそれを九人だと!? あいつの精神は一体どうなってやがるんだ……これが甲斐性の差という奴か……今度会ったらちょっと相談してみようかな……


『あ、あの……』
『ん? どうかしたのか?』

考え事をしてしまったため気付けなかったのだがなでしこがどこかもじもじと、顔を俯けたまま俺に近づいてくる。だが俯いていてもその顔が真っ赤に染まっていることが見て取れる。一体どうしたのだろうか。啓太が不思議に思いながらも声を掛けようとした瞬間


『そ……その、わたしのことも可愛がってくださいね……』


なでしこの不意打ち、顔面右ストレート級の発言が俺に襲いかかってきた。恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらも上目遣いで、自分以外の犬神が来ることへの、そして自分が構ってもらえなくなるのではないかという不安を含んだお願い。


『あ、当たり前だろ! お前は俺の犬神なんだからな……!』


ここで俺の女、彼女とでも言えれば完璧だったのだがいかんせんそこまではできん。ちくしょう……それにしてもなんて可愛さだ、こんちくしょう! ああ、可愛がってあげますとも! お願いされるまでもないっつーの! 本当なら今すぐにでも抱きしめてやりたいのだが気恥ずかしさでできん……というかそこで止まれるがどうかが怪しい。あれ? もしかしてようこが来たら俺、なでしこといちゃいちゃできなくなるんじゃ……ま、まあその辺は何とかなるだろ……多分、いやきっと。


そんなこんなでとりあえず一週間の期限付きでようこが家にやって来ることになったのだった。もっとも初日の朝からこんなことになるなんて……先が思いやられる……


「ったく……じゃあ行って来るわ。後はよろしく頼む」
「はい、行ってらっしゃい、啓太さん」

頭をかきながら啓太が学生服に着替え、そのまま玄関へと向かって行く。本当なら残りたいところなのだが流石にずっと学校を休むわけにもいかない。何よりも本契約をするならこれが毎日続くことになる。流石にそこまで面倒は見切れないのだからここは仕方ない。

……あれ? 犬神って本当は主の面倒見てくれるんじゃなかったっけ? これじゃまるっきり逆じゃねえ? もしかして今まで俺が勘違いしてたのか?


「え~? ケイタ、がっこーよりもわたしと遊ぼうよ! わたしね、とうきょうたわーに行ってみたい! あとちょこれーとけーきも食べたい! それからそれから」
「だーっ! むちゃくちゃ言ってんじゃねえ! 今日は平日、学校あるんだっつーの!」
「じゃあわたしもがっこーに行く、それならいいでしょ?」
「どこかだっ!? もっとダメに決まってんだろ!?」
「よ、ようこさん、それ以上啓太さんを困らせちゃだめです!」
「む~、ケイタの意地悪!」


宙を飛びながら纏わりついてくるようこを何とかなでしこが抑え、啓太は息も絶え絶えに家を後にする。だが啓太は後ろ髪をひかれる思いだった。いや、これはそんな生易しいものではない。啓太は心から願った。


自分が帰ってきた時に、アパートがありますように。


決して冗談でも何でもない、心からの願いだった―――――


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