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No.31760の一覧
[0] なでしこっ! (いぬかみっ!二次創作)[闘牙王](2012/05/06 11:39)
[1] 第一話 「啓太となでしこ」 前編[闘牙王](2012/02/29 03:14)
[2] 第二話 「啓太となでしこ」 後編[闘牙王](2012/02/29 18:22)
[3] 第三話 「啓太のある夕刻」[闘牙王](2012/03/03 18:36)
[4] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 前編[闘牙王](2012/03/04 08:24)
[5] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 後編[闘牙王](2012/03/04 17:58)
[6] 第四話 「犬寺狂死曲」[闘牙王](2012/03/08 08:29)
[7] 第五話 「小さな犬神の冒険」 前編[闘牙王](2012/03/09 18:17)
[8] 第六話 「小さな犬神の冒険」 中編[闘牙王](2012/03/16 19:36)
[9] 第七話 「小さな犬神の冒険」 後編[闘牙王](2012/03/19 21:11)
[10] 第八話 「なでしこのある一日」[闘牙王](2012/03/21 12:06)
[11] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 前編[闘牙王](2012/03/23 19:19)
[12] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 後編[闘牙王](2012/03/24 08:20)
[13] 第九話 「SNOW WHITE」 前編[闘牙王](2012/03/27 08:52)
[14] 第十話 「SNOW WHITE」 中編[闘牙王](2012/03/29 08:40)
[15] 第十一話 「SNOW WHITE」 後編[闘牙王](2012/04/02 17:34)
[16] 第十二話 「しゃっふる」 前編[闘牙王](2012/04/04 09:01)
[17] 第十三話 「しゃっふる」 中編[闘牙王](2012/04/09 13:21)
[18] 第十四話 「しゃっふる」 後編[闘牙王](2012/04/10 22:01)
[19] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編[闘牙王](2012/04/13 14:51)
[20] 第十六話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 中編[闘牙王](2012/04/17 09:57)
[21] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編[闘牙王](2012/04/19 22:55)
[22] 第十八話 「結び目の呪い」[闘牙王](2012/04/20 09:48)
[23] 第十九話 「時が止まった少女」[闘牙王](2012/04/24 17:31)
[24] 第二十話 「絶望の宴」[闘牙王](2012/04/25 21:39)
[25] 第二十一話 「破邪顕正」[闘牙王](2012/04/26 20:24)
[26] 第二十二話 「けいたっ!」[闘牙王](2012/04/29 09:43)
[27] 第二十三話 「なでしこっ!」[闘牙王](2012/05/01 19:30)
[28] 最終話 「いぬかみっ!」[闘牙王](2012/05/01 18:52)
[29] 【第二部】 第一話 「なでしこショック」[闘牙王](2012/05/04 14:48)
[30] 【第二部】 第二話 「たゆねパニック」[闘牙王](2012/05/07 09:16)
[31] 【第二部】 第三話 「いまさよアタック」[闘牙王](2012/05/10 17:35)
[32] 【第二部】 第四話 「ともはねアダルト」[闘牙王](2012/05/13 18:54)
[33] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」[闘牙王](2012/05/16 11:51)
[34] 【第二部】 第六話 「りすたーと」[闘牙王](2012/05/18 15:43)
[41] 【第二部】 第七話 「ごきょうやアンニュイ」[闘牙王](2012/05/27 11:04)
[42] 【第二部】 第八話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 前編[闘牙王](2012/05/27 11:21)
[43] 【第二部】 第九話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 中編[闘牙王](2012/05/28 06:25)
[44] 【第二部】 第十話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 後編[闘牙王](2012/06/05 06:13)
[45] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉[闘牙王](2012/06/10 00:17)
[46] 【第二部】 第十二話 「川平家の新たな日常」 〈裏〉[闘牙王](2012/06/10 12:33)
[47] 【第二部】 第十三話 「どっぐ ばーさす ふぉっくす」[闘牙王](2012/06/11 14:36)
[48] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編[闘牙王](2012/06/13 19:40)
[49] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編[闘牙王](2012/06/28 15:49)
[50] 【第二部】 第十六話 「カウントダウン」 前編[闘牙王](2012/07/06 01:40)
[51] 【第二部】 第十七話 「カウントダウン」 後編[闘牙王](2012/09/17 06:04)
[52] 【第二部】 第十八話 「妖狐と犬神」 前編[闘牙王](2012/09/21 18:53)
[53] 【第二部】 第十九話 「妖狐と犬神」 中編[闘牙王](2012/10/09 04:44)
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[31760] 第十九話 「時が止まった少女」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/24 17:31
「ゴホンッ!……はじめまして、自分はセバスチャン、新堂家にお仕えさせていただいている執事であります」

スキンヘッドにチョビ髭の執事服を着た大男、セバスチャンが一度、大きな咳ばらいをした後、頭を下げながら挨拶をしてくる。今、啓太達は部屋の中のちゃぶ台を間に挟んで向かい合っている。唯でさえ狭い部屋に加えてこの人数のせいで息苦しさすら感じるほどだ。だがそれは人口密度のせいだけではない。

「「………」」

それは二人の少女の放つ雰囲気、オーラのせい。その力のせいで重苦しい、居心地が悪い空間が形成されていた。

一人はセバスチャンと共にやってきた小さな少女。身なりからかなりのお金持ち、令嬢であることが分かる。だがその姿にはやる気が、生気というものが見られない。だがそれは少女のいつもの姿。しかしそれに加えてどこか嫌悪感を持った、恨みを込めたような視線を、殺気をジト目で放っている。まるで変質者を見るかのように。

もう一人がたゆね。たゆねは明らかに不機嫌な、拗ねたような態度を見せたままジト目である人物を睨みつけている。まるで親の仇であるかのように。その頬が羞恥により赤く染まっているがそれ以上に怒りの方が上回っているらしい。

その二人の視線を一身に受けている少年、川平啓太は正座したまま、ただ顔を引きつらせながら冷や汗を流すことしかできない。まさに針のむしろ状態。蛇に睨まれた蛙そのものだった。


(ち、ちくしょう……どうしてこんなことに……)

心の中で涙を流しながら啓太は先程までの経緯を思い返す。やむを得ぬ事情で下半身を露出したままトイレを飛び出し、それを目撃したことで悲鳴を上げながらたゆねによって吹き飛ばされ……えっと、ここから記憶がちょっと定かではないのだがどうやらその姿を目の前の少女、今回の依頼主に見られてしまったらしい………うん、今の自分は紛れもない変質者、ヘンタイだった。

って違――――――う!! 確かに今回は弁明のしようもないかもしれんがそれだけは……それだけは認めるわけには……! し、しかし最近本気で恐ろしい……まさか依頼の前に露出する羽目になるとは……流石の俺も想定外だ。これまでの最速記録を大きく塗り替えてしまった。まじで俺、何かに呪われてるんじゃねえ……? ま、まあそれはおいといて何とかこの状況を誤魔化さなくては。主に目の前の少女とたゆねを。なでしこはどこか恥ずかしそうに目を伏しながらもどこか慣れたような、あきらめたような姿。ともはねは全く気にした風もなく好奇心旺盛にきょろきょろしている。流石はなでしこ! こんな状況にも対応できるとは……持つべきものは主人想いの犬神だ! 何だか悲しくなってくるがそうでも思わないとやっていけない! 


「お、おう。俺は犬神使いの川平啓太だ! お前達がはけの紹介してきた依頼人なんだろ!?」
「は、はい、ぜひ犬神使いの川平さんのお力を貸してほしいのです! ほら、お嬢様もちゃんとご挨拶してください!」

どこか慌てながらの啓太の言葉にセバスチャンも合わせてくる。どうやら先程の出来事をなかったことにするという意図が二人の間に交わされたらしい。とても初めて会ったとは思えないような意志疎通だった。そんな二人の姿に少女は溜息を吐きながらも付き合うことにする。もっとも少女としてもさっきのことはなかったことにしたいだけだったのだが。

「……新堂ケイ。それがわたしの名前よ」
「新堂……? 新堂ってあの財閥のかっ!?」
「……ええ」
「? ざいばつって何ですか、けーた様?」
「凄いお金持ちってことだよ、ともはね」

少女、新堂ケイの言葉に啓太達は驚きを隠せない。当たり前だ。新堂財閥と言えば日本でも有数の財閥。新聞に載らない日はないほどの超がつくお金持ち、VIPだ。世俗に疎いなでしこやたゆねですら知っているのだからその凄さは推して知るべし。だが

「何でそんな財閥のお嬢様が俺んとこに?」
「………」

啓太が不思議そうにしながら尋ねる。確かに自分は霊能力者ではあるがそれほど名が売れているわけでもない。他にも依頼する場所や人物は山のようにあるはず。なのに何故。なでしこたちもその胸中は同じらしい。だがそんな啓太達の疑問を感じ取りながらもケイは難しそうな、言いづらそうな表情を見せながらそっぽを向いてしまう。

「それについてはわたしがご説明します。ですがその前に……川平さん、申し訳ないがあなたの実力を試させていただきます」
「は?」

そんなよく分からないセバスチャンの言葉に啓太は呆気にとられるしかない。だが啓太の様子などお構いなしにセバスチャンはすっくとその場に立ちあがる。どこか慣れた、あきらめをみせながらケイはその場からそそくさと移動している。そして次の瞬間


「ぬうあああああああっ!!」


叫びと共にセバスチャンのタキシードが次々に破れ去って行く。そのたくましい筋肉の力によって。まるで漫画の様な、悪夢のような光景。その膨れ上がったマッチョなボディがあらわになる。しかもただのマッチョではない。何故か下半身には黒ビキニを装着している。それが恐ろしいほど絵になっている。まるでレスラーの様だ。だが間違いなく少女たちがいる前でいきなり黒ビキニ一丁になる時点でヘンタイそのものだった。なでしことともはねはその事態と光景に声を上げることすらできない。だがそれは啓太も同じ。いや、啓太の方が何倍も深刻だった。

啓太の表情に恐怖が浮かぶ。体が震え、額には脂汗が滲む。それはトラウマ。忘れ去ることができない、消し去ることができないマッチョの記憶、恐怖だった。だがそんなことなど知る由もないセバスチャンはそのまま戦闘態勢へと入る。

「行きますぞっ!!」

セバスチャンはその鍛え上げられた体躯を以て啓太へと襲いかかる。彼のために弁明するならそれは全て主のため、啓太の実力をはかるためのもの。決して邪な気持ちはなかった。もっとも黒ビキニになる必要はどこにもなかったのだが。そしてついにセバスチャンが啓太へと襲いかからんとした瞬間


「いやあああああっ!!」

たゆねの悲鳴が部屋中に響き渡る。当たり前だ。先程の啓太に続いてさらに新たなヘンタイが目の前に現れたのだから。しかもそれが突進してくるという悪夢のような状況。まさに条件反射、いや自己防衛だった。そして


セバスチャンはその瞬間、生まれて初めて空を飛んだ―――――



「ゴホンッ!……はじめまして、自分はセバスチャン、新堂家にお仕えさせていただいている執事であります」
「それはさっき聞いたっつーの……」

何事もなかったかのように仕切り直し、テイク2を始めようとしているセバスチャンに突っ込みを入れながらも啓太は溜息を突く。どうやら大事はなかったようだ。頭は少し打ったかもしれないがきっと大丈夫だろう。どうやら鍛えていたのは伊達ではないらしい。二階の窓から吹き飛んで行ったのにこうして戻ってきたのだから。たゆねはまだ警戒しているのか距離を取りながら威嚇している。こいつがいる前ではヘンタイはことごとく吹き飛ばされてしまうのだろう。気を付けなければ、決して俺はヘンタイではないのだが気を付けなければ。それはともかく

「それで、何であんなことを……?」
「はい、どうしても川平さんの実力を見させていただきたかったのです。ですがその必要はもうないようですな」

セバスチャンはそのままその視線をたゆね、そしてなでしことともはねに向ける。ケイも同じようにどこか興味深げに三人へと視線を向けている。

「まさか彼女たちが川平さんの犬神だったとは……ただのお嬢さんだとばかり……いや、失礼しました」
「いえ、皆さん最初は驚かれますから」
「まあ、確かにどうみても普通の人間だからな」

セバスチャンの言葉に微笑みながらなでしこが答える。だがセバスチャンの驚きも当然。犬神と聞いてそれが人間の少女の姿をしているなど想像できるはずもない。まあバレないように変化しているだけではあるのだが。ともはねについては変化しきれず尻尾が出てしまうことがあるので分かりやすいかもしれん。しかしそれを身を以て体験することになったセバスチャンには同情せざるを得ない。同じ体験をした者同士として。そして啓太はふと視線を感じる。

「………」

それは自分の後ろに控えているたゆねのもの。どうやら啓太の犬神扱いされているのに思うところがあるらしい。だがややこしいことになるのでこのままで行かせてもらう。というかそっちが勝手に付いてきてんのに何でそんなことまで配慮せにゃならんのだ!? 文句があるんなら帰れっつーの!

「ケイ様、そのぬいぐるみはいつも持って歩いておられるんですか?」
「え、ええ……そうだけど……」
「可愛いですね! あたしもマロちんといつも一緒なんです。ね? マロちん?」
『きょろきょろきゅ~』
「そ、そうなの……仲がいいのね……」

そんな騒ぎの中、ともはねがどこか楽しそうにケイへと話しかけている。どうやら自分と同じぐらいの少女に出会えたことで興奮しているらしい。まあ同年代の友達がいないともはねからすれば嬉しいに違いない。どこか押され気味になりながらもケイもともはねの相手をしている。

「よかったな、ともはね。友達ができて。同じぐらいの歳の友達は初めてだろ?」
「はい! 嬉しいです!」
「でもともはね、ケイ様は依頼主様ですからちゃんとしなさい」

どこか興奮気味のともはねをなでしこが優しく諭している。依頼主にあまり馴れ馴れしくするのはいただけない。まあ俺も他人のことは言えないのだが。

「まあ友達ができたのはいいことだな。中の人的にもぴったりだろ」
「……? あなたが何を言っているのか分からないけれどもう少し歳上の人間へは敬意を払いなさい。あなたたちと比べればわたしは一番年上なのだから」


「「「…………え?」」」


瞬間、時間が止まった。いや、正確には俺となでしこ、たゆねの三人の時間が。


俺たちは互いに顔を見合せながら再びケイへと視線を移す。そして改めて何度もその頭のてっぺんから足の先までを見返す。何度も、何度も。………うん、間違いなく中学生、いや下手したら小学生にしか見えん。

「全く、冗談もそこまでいくと笑えねえぞ。ちなみにいくつって設定なんだ?」
「………十九歳よ」
「そらすげえ! おい、セバスチャン、お前も何とか言ってやれよ。お前のご主人様だろ?」
「いえ……その……お嬢様は本当に十九歳なのですが……」
「え……?」

セバスチャンのどこか笑いをこらえるような、必死にそれでも抑えながらの言葉に呆気にとられるしかない。そしてどうやら事態を悟ったケイが顔を真っ赤にしている。なでしことたゆねは固まり、ともはねだけは事情が理解できていないのかぽかんとしたまま。

「お、お前……本当に十九歳なのか!? そ、その冗談じゃなくて!?」
「さ、さっきからそう言ってるでしょ!?」
「いや……どう見ても中学生……せいぜいともはねに毛が生えた程度かと……」
「わ、悪かったわね! どうせ幼児体型は母親譲りよ! で、でもあなた達よりは歳上なんだから! ちょっとセバスチャン、何であんたまで笑ってんのよ!?」
「も、申し訳ありません、お嬢様……つい……」

衝撃の事実に俺は言葉を失ってしまう。まさか本当に十九歳とは……世の中広いな。ある意味犬神が少女の姿をしている以上の驚きだ。これが俗に言う合法ロリというやつか……一部の人達には需要はあるかもしれん、まあ俺にそんな趣味はないが。それは置いといて一つ間違いを正しておいてやろう。あまり偉そうな態度を取られても面倒だからな。

「お前が十九歳なのは分かったがあんまり調子に乗るんじゃねえぞ。俺たちの中で一番年上なのはなでしこなんだからな! 俺たちとは桁外れだ!」

啓太はどこか誇らしげに、胸を張って宣言する。まるで背比べをしている小学生のように。精神年齢の点では間違いなく小学生だろう。どうやらなでしこの、自分の犬神の自慢をしたつもりらしい。そう、啓太にとっては。


瞬間、部屋が凍結する。その空気が、空間が。一人の少女、なでしこを中心に。


その気配に、オーラに皆、声一つ上げることができない。啓太だけがまるでロボットのようにぎぎぎ、という擬音と共に恐る恐る振り返る。そこには鬼がいた。間違いなくこの状況を作り出している鬼を超えた鬼、いや犬が。


「啓太さん、少しお話しましょうか……?」


いつも通りの微笑みを浮かべながらなでしこは啓太へと死刑宣告を告げる。瞬間、啓太の顔が絶望に染まる。なでしこにとっての禁句、タブーを口にしてしまったかつての記憶が、トラウマが蘇る。啓太は声にならない悲鳴と共にその報いを受ける。


女性の歳を口にしてはならない。そんな教訓を文字通りその身に受けながら―――――




「よし、こんなもんか!」

啓太は自らの身なりを鏡で確認した後、どこか上機嫌に部屋を後にしホールへと向かって行く。今、啓太達は新堂家の屋敷へと案内されていた。窓が突き破られた啓太の部屋、咥えてこの大人数では話しづらいというセバスチャンの提案によるもの。流石は新堂財閥の屋敷。薫の屋敷を遥かに超える豪華さだ。少し疑っていたのだが事実だったらしい。だがそうなれば否応なしに期待は高まる。この仕事を成功させればそれ相応の報酬が手に入るはず。恐らくはこれまでの依頼とは比べ物にならないであろう程の報酬が。それがあれば生活が楽に、なでしこにもっと楽をさせてやれるはず! ここはいっちょ気合を入れていかなければ! 

そんな所帯じみたことを考えながら啓太は颯爽とケイ達が待っているホールへと向かう。だがその姿はいつもとは大きく違う白のタキシード姿。それはこの屋敷の雰囲気に合わせて……のものではなく、道中のある事故のため。一言でいえばケイが車の中でゲロったため。それはもう盛大に。これ以上は口にしたくもない。そこで啓太達は着替えをせざるを得なくなったのだった。だがその姿も結構様になっている。黙っていれば一応かっこよく見える啓太だった。

「すまねえ、遅くなっちまった」
「いえ、わざわざこちらまでご足労いただいたのですからお気になさらずに」
「………」

ホールに現れた啓太に向かってセバスチャンが笑いながら出迎えてくれる。その姿は先程までと変わらない黒のタキシード。どうやらスペアをいつも持ち歩いているらしい。自分で服を破くことを前提にしているのだろう。これからは自分も見習った方が良いかもしれない。

そんな中、啓太はその視線を席に付いている少女、新堂ケイに向ける。だがケイは顔を俯かせたまま。全く啓太を見ようとはしなかった。まだヘンタイ扱いされているのかとも思ったがどうやら違うらしい。ケイは屋敷に近づくにつれて目に見えて態度が落ち込み、沈んでいった。一体どうしたのだろうか。そんな中

「けーた様! 見てください、ドレスですよ!」
「おお、似合ってるぞ、ともはね。どうしたんだ、それ?」
「はい、ケイ様のドレスを貸してもらったんです!」
「そ、そうか……」

ピンクのフリフリが付いたドレスを身に纏ったともはねが興奮した様子で啓太へと近づいてくる。まあまだ早いような気はするが本人は気に入ってるようだ。サイズがケイと同じという時点で突っ込まざるを得ないのだが先のこともあり、あえて触れないことにする。条件反射に近い啓太の処世術だった。そしてふと気づく。それはもう一つの人影。だがそれは何故か柱に隠れるように姿を現そうとはしない。

「……何やってんだ、たゆね?」
「け、啓太様っ!?」

こそこそしている不審者の様なたゆねに呆れながらも啓太が話しかける。どうやら全く気付いていなかったのかたゆねは飛び跳ねるような反応を見せる。それをからかってやろうとした啓太だったが思わず動きを止めてしまう。なぜなら

「な……何ですか、啓太様……?」

そこにはオレンジ色のドレスを身に纏ったたゆねがいたから。その姿に啓太は目を奪われ、動きを止めてしまう。それはその姿見に惚れてしまったから。普段の色気のない格好(ただし露出は高い)ではなく、本当に女性らしい格好を啓太は初めて目にした。そのギャップのせいで余計新鮮味がある。加えてそのスタイル。元々分かっていたことだがまさにモデルと見間違えない程の見事なもの。普段はしない化粧を薄くではあるがしていることもあって別人のようだ。もっとも口にすればひどい目に会うのは目に見えているので飲みこむことにする。

「へえ、やっぱりそういう格好も似合ってるじゃん。いつもそういう風にしてりゃいいのに」
「い、いいんです! 僕はこういう格好は苦手なんで! こ、今回は着替えもないのでその、本当に仕方なくなんですから!」
「分かった、分かった……」

ったく、褒めてやってんのにやりづらい奴だな。もう少し素直になりゃ可愛げもあるっつーのに。いや、それはそれで怖いものがあるかもしれん。主にある人物の焼き餅によって。そういえばなでしこの奴はどこにいったんだ? 本当ならなでしこは依頼には連れてこないのだがたゆねがいる手前そういうわけにはいかなかった。まあ、たまにはこういうのもありだろう。そんなことを考えながら啓太がきょろきょろとあたりを見渡していると


「ご、ごめんなさい、サイズが見つからなくて遅くなっちゃいました……!」

どこかぱたぱたと慌てながらなでしこが姿を現す。だがその姿に啓太はもちろん、たゆね達も釘づけになってしまう。そこには黒のドレスに身を包んだなでしこの姿があった。

啓太はその姿に思わず息を飲む。黒のドレスというある意味啓太の中におけるなでしこのイメージとは全く真逆の色。だがそれが驚くほどマッチしている。どこか魔性を、色っぽさを感じさせるほど。そしてその胸元にはこぼれんばかりの巨乳がある。啓太は悟る。間違いない、そのせいでサイズを探すのに時間がかかったのだと。やはり慣れない格好のためかどこかもじもじと恥ずかしそうにしている。だがそれがさらになでしこの可愛さを引き立てている。まさに裸エプロンに勝るとも劣らない光景がそこにはあった。

「ど、どうですか、啓太さん?」
「え? い、いや、似合ってんじゃねえかな、うん……」
「あ、ありがとうございます。啓太さんも格好いいですよ」
「そ、そうか……?」

何故か緊張でどぎまぎしながら啓太はなでしこのドレス姿の感想を述べる。それが照れ隠しであることはなでしこにも一目瞭然だったため、なでしこは嬉しそうに笑みを浮かべながら微笑んでいる。そんな二人をともはねは楽しそうに、たゆねはどこか不機嫌そうに見つめていた。

「あ、啓太さん。ネクタイが曲がってますよ」
「ん? そうか?」
「ちょっとじっとしててください……はい、これでよし!」

なでしこはどこか慣れた様子で啓太の曲がったネクタイを直していく。その光景にケイ達も目を奪われる。まるで夫婦の様な光景がそこにはあったから。ともはねもそんな二人の雰囲気がお気に召したのか上機嫌になっている。だが

「っ!? 痛ええっ!? 何すんだ、たゆねっ!?」
「すいません、僕、こういう靴履き慣れてないんで……」
「嘘つけっ!? 絶対わざとだろうがっ!?」
「なでしこ、あたしのドレス、どう!?」
「ええ、可愛いわよ、ともはね」

そんな空気を壊すかのようにたゆねのハイヒールのかかとが啓太の靴に突き刺さる。まるで狙ったかのようなタイミングで。なぜか不機嫌そうな表情を見せながらたゆねはそっぽを向いてしまう。どうやら自分のドレス姿を見た時との反応の違いが気に食わなかったらしい。そんな謂れのない理由で足を踏まれた啓太は怒りながら抗議するのだがたゆねは全く聞く耳を持たない。そんな中、ともはねはまるで母親に見せびらかすようにドレス姿を見せ、なでしこは優しくそれをあやしている。

「………」

そんな騒がしくも楽しそうな四人の姿に新堂ケイはただ目を奪われる。それはまるで見たことのない物を、いや、欲しくても手に入れられなかった物を羨むように。だがすぐに我に帰ったのかケイはそのままいつもの薄く閉じたような瞳と無気力そうな表情をみせながら俯いてしまう。

(お嬢様……)

そんなケイの姿と胸中を察しながらもセバスチャンには掛ける言葉はない。いや、言葉など何の意味も持たない。自らの主を救うためには何よりも強さが必要なのだから。



「……で、そろそろ依頼の内容教えてくれねえ? ここまでもったいぶってんのには何か理由があるんだろう?」

豪華な夕食を終えた啓太達は改めてケイ達へと向かい合う。先程までまるで戦争のように料理を奪い合っていた者たち(なでしこ除く)とは思えないような変わり様。それに一抹の不安を覚えながらもセバスチャンがどこか重苦しい雰囲気で話し始める。今回の依頼の内容を。


新堂ケイの命を守ること。


それが今回の依頼の内容だった。その原因はケイの祖父にまでさかのぼる。新堂家はその祖父の代で家が途絶えてしまうほどの困窮に陥ってしまった。そして祖父はある契約を結んでしまう。決して手を出してはならない人ならざるものとの契約。それによって祖父は、新堂家は巨万の富を約束され、再興することができた。逃れることができない大きな代償と共に。


新堂家の者は二十歳の誕生日に必ず命を奪われる。


それが契約の代償。それに加え、新堂家の者は誕生日のごとに恐怖が与えられる。まるでもうすぐお前は死ぬのだと、そう宣告するかのように。その姿を楽しむかのように。

もちろんそれを黙って受け入れていたわけではない。名のある霊能力者、格闘家を雇い、何度も立ち向かおうとした。だがその全てが通用しなかった。唯のかすり傷一つ、負わすことすら叶わない。それがこの世ならざるもの、死を司る神。

「死神……それがわたしの命を狙っている奴よ」


ケイはそうどこか他人事のように、呟くようにその名を口にする。だがそこには間違いなく恐怖が、絶望がある。どうあがいても自分は死ぬのだと、そう悟ってしまっている死を待つ老人の様に。

「死神ね……」

『死神』

たしかかなり厄介な奴だとばあちゃんから聞いたことがある。かなりいい加減に聞き流していたので詳しくは思い出せないがどうやら話通りらしい。きっともう頼る相手がいないことが自分を頼ってきた理由なのだろう。

「明日がわたしの二十歳の誕生日……今まではあいつも本気じゃなかったから誰も殺されたりはしなかった……でも今度は違う。間違いなく明日、あいつは本気で来るわ。だからあなたたちはこれで帰りなさい。セバスチャン、送ってあげて」
「お、お嬢様、何を言っているのですか!? 川平さんは由緒正しき犬神使いの直系の血筋の方、きっとあいつを倒してくださります!」
「無駄よ……あいつには誰も敵わない。それはセバスチャン、あんたが誰よりも知ってるでしょう……?」

どこか確信に似た言葉にセバスチャンは言葉を返すことができない。それは分かっていたから。死神が誰も敵わないような圧倒的な強さを持っていることを。それでもあきらめるわけにはいかなかった。まさに藁をも掴む思いでセバスチャンは犬神使いである啓太に最後の希望を託しているのだった。

「なあ、まだ小学生ってことで明日見逃してもらうわけにはいかねえの? 何とかなりそうな気がすんだけど」
「あ、あなたね……いい加減本気で怒るわよ。確かにあいつは馬鹿だけどそこまでじゃないわ……うん、多分だけど……」
「多分なのかよ……」

冗談で口にしたのにどうやら本気でその手が通用しかねない程その死神は馬鹿らしい。ほんとにそんな奴が強いのかどうかは疑問だがまあそれは置いておいて


「ま、任せとけって。飯もおごってもらったし、タダで帰るわけにはいかねえからな」


啓太はそうどこか自信満々の笑みを浮かべながらケイのその小さな頭を撫でる。その感触と姿にケイはどこか呆気にとられた姿を見せるだけ。だがその笑みにはそれを信じてしまえるような不思議な力があった。


「ふん、そんな悪い奴、僕がやっつけてやるよ!」
「はい、ともはねもがんばります!」

そんな啓太に続くようにたゆねもその拳を合わせながら宣言する。なし崩し的に付いてきたたゆねだがその正義感は薫の犬神の中でも一番と言っていい。そんな彼女がこんな話を前にして尻尾を巻いて帰るなどあり得ない。何よりも薫の犬神の中で最強という自負もある。ともはねもそんなたゆねと同じようにやる気満々だ。幼いともはねだが初めてできた友達を助けたいと言う気持ちは譲れないらしい。


「あなたたち……」

「そういうこった、とにかく辛気臭い話はこれぐらいにして酒でも飲もうぜ! 十九歳なんだし、飲めないことはねえだろ。なでしこ、今日ぐらいはいいだろ?」


話はまとまったとばかりに啓太はなでしこへとお伺いを立てる。未成年であることでお酒を禁じられているが今回ぐらいは大目に見てもらおう。たゆねもまあ、飲めないことはなさそうだし、犬神には関係ないか。だが


「…………」

「……なでしこ?」

なでしこはいつまでたっても返事をしない。どこか真剣そうな表情で何かを考え込んでいるだけ。今まで見たことのないような姿だった。そんななでしこの姿に皆の視線が集まる。一体どうしたのだろうか。そ、そんなにお酒を飲むのがダメだったとか……? そして長い沈黙の後


「啓太さん……」


なでしこが意を決したように何かを啓太に告げようとした瞬間、


『レディース、アーンド、ジェントルメン!!』


どこからともなく男性の声が響き渡る。まるでマイクか何かを使ったかのように。加えてテーマソングの様な音楽まで流れ始める。何かの催しが始まる前の余興のように。そのどこか馬鹿馬鹿しさをにじみさせる声と状況に啓太達は呆気にとられるしかない。ケイ達の用意した余興か何かだろうか。だがそれが間違いであることを啓太はすぐに悟る。何故ならそこには


恐怖に顔を歪ませている新堂ケイの姿があったから。


そしてそれは姿を現す。黒いローブの様な物を頭まで被っている怪しげな人影。


『さあ、約束の時間だぞ。準備はできたか、新堂ケイ?』


死神、『暴力の海』が今、啓太達の前にその姿を現した―――――


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