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No.31760の一覧
[0] なでしこっ! (いぬかみっ!二次創作)[闘牙王](2012/05/06 11:39)
[1] 第一話 「啓太となでしこ」 前編[闘牙王](2012/02/29 03:14)
[2] 第二話 「啓太となでしこ」 後編[闘牙王](2012/02/29 18:22)
[3] 第三話 「啓太のある夕刻」[闘牙王](2012/03/03 18:36)
[4] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 前編[闘牙王](2012/03/04 08:24)
[5] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 後編[闘牙王](2012/03/04 17:58)
[6] 第四話 「犬寺狂死曲」[闘牙王](2012/03/08 08:29)
[7] 第五話 「小さな犬神の冒険」 前編[闘牙王](2012/03/09 18:17)
[8] 第六話 「小さな犬神の冒険」 中編[闘牙王](2012/03/16 19:36)
[9] 第七話 「小さな犬神の冒険」 後編[闘牙王](2012/03/19 21:11)
[10] 第八話 「なでしこのある一日」[闘牙王](2012/03/21 12:06)
[11] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 前編[闘牙王](2012/03/23 19:19)
[12] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 後編[闘牙王](2012/03/24 08:20)
[13] 第九話 「SNOW WHITE」 前編[闘牙王](2012/03/27 08:52)
[14] 第十話 「SNOW WHITE」 中編[闘牙王](2012/03/29 08:40)
[15] 第十一話 「SNOW WHITE」 後編[闘牙王](2012/04/02 17:34)
[16] 第十二話 「しゃっふる」 前編[闘牙王](2012/04/04 09:01)
[17] 第十三話 「しゃっふる」 中編[闘牙王](2012/04/09 13:21)
[18] 第十四話 「しゃっふる」 後編[闘牙王](2012/04/10 22:01)
[19] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編[闘牙王](2012/04/13 14:51)
[20] 第十六話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 中編[闘牙王](2012/04/17 09:57)
[21] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編[闘牙王](2012/04/19 22:55)
[22] 第十八話 「結び目の呪い」[闘牙王](2012/04/20 09:48)
[23] 第十九話 「時が止まった少女」[闘牙王](2012/04/24 17:31)
[24] 第二十話 「絶望の宴」[闘牙王](2012/04/25 21:39)
[25] 第二十一話 「破邪顕正」[闘牙王](2012/04/26 20:24)
[26] 第二十二話 「けいたっ!」[闘牙王](2012/04/29 09:43)
[27] 第二十三話 「なでしこっ!」[闘牙王](2012/05/01 19:30)
[28] 最終話 「いぬかみっ!」[闘牙王](2012/05/01 18:52)
[29] 【第二部】 第一話 「なでしこショック」[闘牙王](2012/05/04 14:48)
[30] 【第二部】 第二話 「たゆねパニック」[闘牙王](2012/05/07 09:16)
[31] 【第二部】 第三話 「いまさよアタック」[闘牙王](2012/05/10 17:35)
[32] 【第二部】 第四話 「ともはねアダルト」[闘牙王](2012/05/13 18:54)
[33] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」[闘牙王](2012/05/16 11:51)
[34] 【第二部】 第六話 「りすたーと」[闘牙王](2012/05/18 15:43)
[41] 【第二部】 第七話 「ごきょうやアンニュイ」[闘牙王](2012/05/27 11:04)
[42] 【第二部】 第八話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 前編[闘牙王](2012/05/27 11:21)
[43] 【第二部】 第九話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 中編[闘牙王](2012/05/28 06:25)
[44] 【第二部】 第十話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 後編[闘牙王](2012/06/05 06:13)
[45] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉[闘牙王](2012/06/10 00:17)
[46] 【第二部】 第十二話 「川平家の新たな日常」 〈裏〉[闘牙王](2012/06/10 12:33)
[47] 【第二部】 第十三話 「どっぐ ばーさす ふぉっくす」[闘牙王](2012/06/11 14:36)
[48] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編[闘牙王](2012/06/13 19:40)
[49] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編[闘牙王](2012/06/28 15:49)
[50] 【第二部】 第十六話 「カウントダウン」 前編[闘牙王](2012/07/06 01:40)
[51] 【第二部】 第十七話 「カウントダウン」 後編[闘牙王](2012/09/17 06:04)
[52] 【第二部】 第十八話 「妖狐と犬神」 前編[闘牙王](2012/09/21 18:53)
[53] 【第二部】 第十九話 「妖狐と犬神」 中編[闘牙王](2012/10/09 04:44)
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[31760] 第十八話 「結び目の呪い」
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/20 09:48
ある休日の昼下がり、大きなショッピングモールの中にある一つの店の前に一つの怪しい人影があった。その人影はどこかそわそわした様子で店の前を行ったり来たりしている。時折、店の中を覗くようなそぶりを見せるものの中には入ろうとはしない。周りから見れば完全に不審者のそれ。だがその人影はそんなことにも気付かない程何かに焦っているかのよう。そしてその店内から女子高生のグループと思われる集団が楽しそうにおしゃべりをしながら出て行く。人影はそれを確かに見届け、店内に他の客がいないことを確認するとまるで忍者の様な素早さで店内へと侵入、いや来店する。そんな怪しさ満点の人影に店員も呆気にとられるしかない。そしてその人影はお目当ての物を見つけたのか瞬時にカウンターにそれを差しだし、会計を済ませて脱兎のごとく店を後にしていく。まるで秘密の取引をしている犯罪者のように。

その人影、川平啓太はそうして自らの目的を果たすことに成功したのだった。



「ふう~、何とかなったか……」

大きな溜息と共に啓太は休憩場所であるベンチに深く腰掛ける。まるで一仕事終えた職人の様な雰囲気がある。もっとも啓太にとってはそれに等しいことを先程為し遂げてきたところ。その手には包装された小さな箱がある。それこそが啓太の目的、なでしこへのプレゼントだった。

きっかけは先日、薫の家へ遊びに行った時のこと。薫の犬神達との何気ない会話の中でのこと。それは薫が休みの日や誕生日に一緒に遊びに出かけたり、プレゼントをしてくれているという話。しかも九匹いる犬神達全てに対して。その事実に啓太は大きなカルチャーショック、いや衝撃を受けた。まさに出来る男の見本のような振る舞い。悔しいが同じ男として見習わなければならない。加えて何故か焦りによって、冷や汗が流れるのを抑えきれなかった。

何故なら啓太はこれまでそういったことをほとんどなでしこにしたことがなかったから。

単にそこまで気が回らなかったということもあるが、それ以上に恥ずかしさがその理由。ずっと一緒に暮らしているからこそ何だが気恥ずかしく、どこか純情なところがある啓太はそれをこれまで実行に移したことがなかった。だが流石に薫の犬神達の話に焦りを感じたのか啓太はなでしこにプレゼントをすることを決意する。幸いにも明日はなでしこの誕生日……ではないのだがなでしこと契約した日。ちょっと強引ではあるがまあいいだろう。さっさと行動に移さないとまたタイミングを逃しかねない。


しかし……やっぱりああいった店に男一人で入るのは堪えるものがあるな……なんていうか、初めてアダルトビデオを借りようとした時の、初心な自分に戻ったかのような感覚だった。いや、ある意味それ以上の恥ずかしさだった。薫ならこういった場所へも躊躇いなく入れるのだろうがあいにく俺にはそんな度胸はない。そんなことを考えながら啓太は自分の手にあるなでしこへのプレゼントに目をやる。

『リボン』

それが啓太が先程のいわゆる女の子の店で買ったなでしこへのプレゼントだった。

それは啓太が悩みに悩んだ末の選択。啓太ははじめは何かシャレた服でもプレゼントしようと考えていたのだがすぐにそれを断念する。自分にはそういったセンスがないこともだがそれ以上に恐らく服を贈ってもなでしこはそれを着ないだろうと想像がついたから。きっともったいないとか、汚れるからと言って大事にしまいこんでしまうのが目に見えている。それはそれで嬉しいのだがやはりプレゼントを贈る以上は身につけてくれた方がいい。なら一体何がいいのか。改めて啓太は思い返す。

蛙のネックレスとエプロンドレス。

それが今まで自分がなでしこに贈った品。ネックレスは契約の時、そしてエプロンドレスは自分の邪な欲望のためとまともな理由で贈っていない物ばかりなのが胸に痛むがそれはこの際おいておくとして……これらと一緒に身につけても違和感のない物。なおかつ俺の小遣いで購入可能なもの(これが一番重要)でなければならない。そして悩みに悩んだ末がこのリボンだった。まあこれならきっとなでしこもそれほど気にせず身につけてくれるだろう。どうしてもダメなら多少強引でも結んでやることにしよう。

啓太はそう気合いを入れながら立ち上がる。今はなでしこは買い物に出ているところ。その間に抜け出してきたので帰ってくる前に戻らなければ。この後にははけからの依頼も控えている。プレゼントをするのはその後でいいだろう。どこか上機嫌に啓太が帰路につこうとしたその時

「あ、けーた様♪」

そんな聞き覚えのあるお子様の声が響き渡る。もはや考えるまでもないが振り返りながら啓太はその声の主に目を向ける。そこには片手にアイスクリームを持ちながら楽しそうに自分へと近づいてくるともはねの姿があった。どうやらショッピングモールに遊びに来ていたらしい。

「よう、お前もお遊びに来てたのか?」
「はい! 今日はたゆねと一緒に遊びに来てたんです!」
「たゆねと……?」

その言葉に何故か思わず声が震えてしまう。別に悪いことをしたわけでもないのに。もはや条件反射のようなもの。啓太の体に染みついている危機察知アビリティによるものだった。

「おーい、ともはね! どうしたのさ、そんなに慌てて……あ」
「よ、よう……」
「たゆね♪ けーた様を見つけたの♪」
「………どうも」
「お、おう。久しぶりだな、今日はどうしたんだ、珍しいじゃねえか。お前がともはねと一緒に出かけてるなんて」
「……今日は僕がともはねの面倒を見る係なんです。せんだんが啓太様にばかりともはねの相手をさせてはいけないって言うので……」
「そ、そうか……」
「ひどい! あたしはちゃんとひとりでできるもん!」

自分のことを悪く言われていると思ったともはねが抗議の声をあげているもののたゆねは慣れた様子でそれをいなしている。こうして見ていると歳の離れた姉妹の様だ。まあこの二人は薫の犬神の中では一番歳が近いので当たり前と言えば当たり前かもしれないが。

「啓太様はどうしてこんなところに? なでしこは一緒じゃないんですか?」
「あ、ああ。ちょっと野暮用があって……」
「? けーた様、それ、何を持ってるんですか?」
「や、やめろともはね! それは……!」

啓太が持っている小箱に気づいたともはねが興味深そうにそれを見つめている。たゆねも同じように視線を向けている。そんな二人の視線に誤魔化すのは難しいと悟った啓太は観念して事情を話すことにする。まあ明日には渡すし、しゃべっても問題ないだろう。何よりも誤魔化してこのまま付き纏われる方が厄介だ。

「なでしこへのプレゼントだよ。この前お前ら言ってたろ、薫にプレゼントもらってるって。それでちょっとな……」
「ふーん……啓太様でもそういったこと気にされるんですね……」
「お、お前な……」

たゆねのあんまりな言葉に言い返そうとするも事実であるので黙りこむしかない。先日の一件以来、少しは態度が軟化してきたかと思っていたが大きな勘違いだったらしい。フラノ達によればツンデレらしいがこいつにはツンしかないんじゃないかと思えるほどだ。もっとも口に出せばひどい目に会うのは分かり切っているので黙っているしかないのだが。

「何をぷれぜんとするんですか、けーた様?」
「ん? ああ、リボンだよ。あいつ遠慮がちだから強引にでも結んでやるしかないかもな」
「なるほど~、でもいいな~。けーた様、ともはねにも何か買って下さい!」
「何でそうなんだよ……お前は薫からもらってんだからいいだろ?」
「む~」

そんなどこか不満そうな、羨ましそうな顔を見せているともはねに呆れるしかない。どうやらまだまだ子供らしい。まあ俺も小さい頃はこんなもんだったろうから他人のことも言えないが。だがそんな中、気づく。

「………」

それはたゆねの姿。それが先程までと明らかに違っている。何かを考え込んでいるような、何かに気づいたような表情。

「な、何だよ? お前まで何か買ってほしいなんて言わねえだろうな?」

どこかその雰囲気にのまれそうになりながらも啓太は冗談交じりに話しかける。だがたゆねはそれに全く反応することなく

「啓太様、それ、意味が分かっててしてるんですか……?」

そんなよく分からないことを訪ねてきた。その言葉に俺はもちろん、ともはねも首をかしげるだけ。一体何を言いたいのだろうか。

「……? 何の話だ?」
「……分からないなら別にいいです。僕には関係ない話だし……」
「それよりもけーた様、これから一緒にともはねと遊びましょう!」
「お、お前さっきの話聞いてなかったのか!? 今日はたゆねが遊んでくれるんだろうが!?」
「だからけーた様も一緒にあそびましょう! みんな一緒の方が楽しいですから!」
「そ、そうかもしれんが悪いな……今日はこれからはけからの依頼があるんだ。遊ぶならまた今度な」
「依頼ですか……? じゃあともはねもお手伝いします!」
「お、お前な……」

既にやる気満々のともはねにもはやかける言葉すらない。こうなってしまってはどうにもならないことを啓太は嫌というほど思い知っている。このまま無視しようとしても無理やり付いてくることは確実。運が悪かったとあきらめるしかない。まあ大した依頼じゃなさそうだから大丈夫か。

「ったく……でもちゃんと大人しくしとくんだぞ。一応仕事なんだからな」
「はい! 約束します!」
「よし、じゃあそういうわけだからともはね借りてくぞ、たゆね」

そう言い残し、啓太はともはねとともに家へ向かって歩き出す。まあここで会っちまったのが運の尽きと思ってあきらめるしかねえか。せんだんのおかげでともはねも他の犬神達と遊ぶようになってきてるみたいだし今回は大目にみることにしよう。だがそんな中、気づく。それは気配。先程から人の気配が後ろを付いてきている。振り返ったそこには

どこかもじもじとした様子のたゆねが啓太達の後をついてきていた。

「どうしたんだ、たゆね? 忘れ物か?」
「え、えっと……僕も啓太様の依頼をお手伝いしてあげてもいいかなって……」
「お前が? 何で?」
「それは、その……本当は今日は僕がともはねの面倒をみる係なので! ともはねが迷惑かけちゃいけませんから!」
「お、おい……俺は別に」
「二人とも、早く行きましょうー!」

啓太の言葉を聞くことなくたゆねはずかずかと先に歩いて行ってしまう。まるで何かを誤魔化すかのように。その様子に呆気に足られるものの啓太もその後を追って行く。本音としてはたゆねには付いてきてほしくない。確かに犬神の実力としては申し分ないが一応薫の犬神であること(ともはねについては例外)連れて行けば恐らくはなでしこが焼もちを焼いてしまうこと。そして何よりも自分自身の身の危険が一番の理由。

最近の啓太にとっての依頼はその解決よりもいかに全裸にならないかの戦いだった。結局ほとんど惨敗しているのだが……そんなところをなでしこやともはねはともかく、たゆねに見られでもすればどんな目に会うか分かったものではない。最悪命を落としかねない。もはや全裸になることが当たり前になっている啓太の切実な問題。だがどうやらたゆねも本当に付いてくるらしい。これからの自分の運命を悟ったかのように啓太は肩を落としながらも二人の後を追って行くのだった―――――



「ふーっ! ふーっ!」

そんなどこか興奮したような、荒い息遣いが部屋に響き渡っている。それはともはねのもの。だがその姿はまるで小さな子犬そのもの。ともはねは背中を下にしてまるで縮こまるように丸まった体勢から手と口だけを使い、啓太の手にあるボールを奪おうと必死にあがいている。それを啓太は絶妙のタイミングとバランスでともはねをいなし、てまりのように転がしながら相手をしている。それが啓太とともはねの遊びの一つ。狭い部屋の中でもできる遊びだった。一見単純そうに見えるがかなり難しい遊びであり、ともはねが特に好んでいる遊びだ。もっとも啓太はあまりやりたくないものではあったのだが。そしてそんな二人の様子をどこか興味深そうにたゆねは眺めている。ずっと話には聞いていたもののともはねが啓太と遊ぶところを見るのは先日のフリスビー以来だったからだ。

「そういえばたゆね、他の奴らは元気にしてんのか?」
「………」
「おい、聞いてんのか、たゆね?」
「………」
「……もしかしてお前もやってみたいのか?」
「えっ!? な、何言ってるんですか、僕がそんな子供の遊びするわけないでしょ!?」
「じょ、冗談だって……そんなに大声出すなよ……」

どこか慌てながら騒いでいるたゆねに啓太は圧倒されてしまう。どうやら触れてはいけないことだったらしい。まあやってみたいと言われてもどうしようもないのだが。しかし何を話しても突っかかって来る奴だな。話してて飽きないと言えば飽きないがやはり精神的には疲労してしまう。もしセクハラまがいの失言でもすれば間違いなく病院直行コースという、まるで何かの企画の様な状況。しかもそれが冗談ではすまないのだから余計タチが悪い。だが黙ったままでも無言の圧力をかけてくる。ここは覚悟を決めて何か話題を振るしかないか。

「そ、そういえばお前、いつもその格好だけど寒くないのか?」
「余計なお世話です。僕達犬神は暑さも寒さも平気ですから」
「そ、そうか……」

ばっさりである。全く容赦も慈悲もない会話のキャッチボール、いやクロスカウンターだった。もう心が折れそうだ。何でこいつここにいるわけ!? 俺を追い詰めるためか!? やはり胸を揉んだことをまだ根に持っているのか……確かにあれは素晴らしい感触だったが……とそれは置いといて早くなでしこ帰ってきてくんねえかな。ともはねは野生に帰って転がってるだけだし、今はなでしこだけがこの状況を打破できる救世主だ。だが救世主は遅れてやってくるものらしい。何とか間を持たせなければ……っていうか何で俺自分の部屋でこんなに気を遣わなきゃいけないわけ?

「そういえばお前、スカートとか履かねえの? それしか持ってねえわけじゃねえんだろ?」
「い、いいんです! 僕はこの格好が好きなんです、女の子っぽい格好は嫌いなので……」
「ふーん、似合いそうな気はすんだけどもったいねえな」
「ふ、ふん! そういうことはせんだんにでも言ってあげて下さい!」

どうやらあまり触れてほしくない話題だったらしくたゆねは明らかに不機嫌になりながらそっぽを向いてしまう。流石にそれが照れ隠しであることは分かる。一瞬、あの悪夢のような光景が蘇ったのだかどうやらそこまではいかなかったらしい。もしそうなればこの部屋は木っ端みじんになるだろう。路頭に迷うのだけは勘弁してほしい。

「そう言えばさっきお前が言ってたことなんだけど……ってぎゃあああっ!?」

啓太がずっと気になっていたことをたゆねに尋ねようとした瞬間、それまで床を転がりまわっていたともはねがついに我慢できなくなったのか啓太の二の腕にかぶりついてくる。どうやら今回も自制できなかったらしい。これが啓太がこの遊びを忌避している理由だった。たゆねはどこか呆れた様子でそれを眺めているだけ。啓太は涙目になりながら野生に帰ってしまったともはねを振り払おうと部屋中を駆け回るはめになったのだった………



「全く……何で依頼の前にこんなに疲れなきゃなんねえんだ……」

啓太はぶつぶつと愚痴をこぼしながらうなだれる。今、啓太はトイレの中。何とかともはねを振り払った後、ずっと先程の様なやりとりをたゆねと繰り返すことに限界を感じ、一時的に安全圏に退避してきたのだった。自分の部屋のはずなのにトイレだけが憩いの場とか悲しすぎる……っとそれは置いておいて今はもっと深刻な問題がある。

それはなでしこへのプレゼント、リボンのこと。

あの後、何とかたゆねからその真意を聞きだすことができた。たゆねは何故か渋っていたのだが俺の必死さが伝わったらしく、不機嫌そうにしながらもその理由を教えてくれた。だがその内容に頭を抱えるしかない。まさかリボンを結ぶことにそんな意味があるなんて知らなかった。一般的にではなく魔術的にらしいが。そして間違いなくなでしこはそのことを知っているだろう。ああ見えてかなりの年齢だし。例え結ばなくても渡すだけでそういう意味で捉えられてしまうはず。

だが流石にそれは早すぎるような……いや、嫌なわけじゃないのだが心の準備が……それに俺、まだ学生だし、そもそもなでしこが俺をそういう対象として見てくれてるかどうかも確信が持てねえし………うーん、仕方ない。残念だが今回は見送ることにしよう。流石にリスクが大きすぎる。今度またリボン以外のものを探すことにしよう!

啓太がそんなことをトイレの中で考えていると

「ただいま……あれ、ともはね? それにたゆねも……?」
「おかえり、なでしこ♪」
「おじゃましてるよ」
「二人ともどうしたの? 啓太さんは?」
「ショッピングモールで偶然啓太様に会ったんだよ。それでともはねが遊びに行きたいって言うから……」
「ショッピングモール……? どうして啓太さんがそんなところに?」

そんな聞き慣れた声がトイレの壁越しにも聞こえてくる。どうやらなでしこが買い物から帰って来たらしい。とにかくさっきまでのことは忘れていつもどおりにしないとな。意識すると面倒なことになりかねん。そのまま啓太が立ち上がりパンツとズボンを上げようとしたその時

「それはけーた様がなでしこに」
「ちょっと待てえええええ―――――っ!?!?」

啓太は絶叫を上げながらトイレから飛び出していく。まさに今、ともはねから出そうになった言葉を止めるために。流石はお子様、全く先程の話の意味を理解していなかったらしい。そんな全てをぶち壊しかねない行為を何とか止めることしか今の啓太の頭にはなかった。そう今の自分の状況、姿がどんな物かすら分からない程。


「…………え?」

啓太はどこか心ここに非ずといった風に声を漏らすことしかできない。何故ならなでしことたゆねがじっとこちらを見ていたから。いや、ある一点を見つめたまま固まってしまっている。そのショックで言葉すら出ないかのように。啓太もゆっくりとその二人の視線を辿る。

そこには紛うことなきもう一人の自分がいた。今、映像化されていれば間違いなく象さんのモザイクがかかるであろう姿だった。そして数秒後


「うわあああああっ!!」


目に涙を浮かべ、悲鳴を上げながらたゆねの鉄拳が啓太を吹き飛ばす。むしろこれで済んでよかったと思えるものなのだが啓太にはそんなことなど考える余裕はなかった。その威力によってまるでボールのように啓太は窓を突き破りながら宙に舞う。その瞬間、啓太は思った。

ああ――――人間って飛べるんだな、と。

そんなどこかの哲学者のような遺言と共に啓太は落下していく。飛べば落ちる。その絶対の法則によって。だが啓太はそのまま地面に落ちる前に何かにぶつかり、落下を免れる。痛みに悶絶しながらも啓太は何とか体を起こす。人間離れした啓太だからこそ耐えうること。並みの人間なら間違いなく病院送りだっただろう。そして啓太は気づく。自分が落下したのが車の真上だったことに。しかもただの車ではなく高級な外車。そのことに冷や汗を流しているとふと気づく。それは二つの人影。

一人は筋肉質な大男。しかもタキシードの様なものを着ている。まるで執事のよう。

もう一人は小柄な少女。恐らくは中学生、いやもしかしたら小学生かもしれない。癖のあるウェーブのかかった髪、どこか高級感が漂う服装。その腕には熊のぬいぐるみがある。間違いなくどこかの令嬢だと分かるような少女だった。

だが少女は何故かその場に固まってしまっている。それは啓太が空から降ってきたことに驚いてではなく、その目の前に見慣れない物体があったから。少女の小さな身長のせいでそれがまさに目と鼻の先にある。それが何であるか理解した瞬間、


「いやああああああ――――――!!」


少女の悲鳴が辺りに響き渡る。それが啓太と今回の依頼主、新堂ケイの出会いだった――――――


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