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No.31760の一覧
[0] なでしこっ! (いぬかみっ!二次創作)[闘牙王](2012/05/06 11:39)
[1] 第一話 「啓太となでしこ」 前編[闘牙王](2012/02/29 03:14)
[2] 第二話 「啓太となでしこ」 後編[闘牙王](2012/02/29 18:22)
[3] 第三話 「啓太のある夕刻」[闘牙王](2012/03/03 18:36)
[4] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 前編[闘牙王](2012/03/04 08:24)
[5] 第零話 「ボーイ・ミーツ・ドッグ」 後編[闘牙王](2012/03/04 17:58)
[6] 第四話 「犬寺狂死曲」[闘牙王](2012/03/08 08:29)
[7] 第五話 「小さな犬神の冒険」 前編[闘牙王](2012/03/09 18:17)
[8] 第六話 「小さな犬神の冒険」 中編[闘牙王](2012/03/16 19:36)
[9] 第七話 「小さな犬神の冒険」 後編[闘牙王](2012/03/19 21:11)
[10] 第八話 「なでしこのある一日」[闘牙王](2012/03/21 12:06)
[11] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 前編[闘牙王](2012/03/23 19:19)
[12] 第零話 「ドッグ・ミーツ・ボーイ」 後編[闘牙王](2012/03/24 08:20)
[13] 第九話 「SNOW WHITE」 前編[闘牙王](2012/03/27 08:52)
[14] 第十話 「SNOW WHITE」 中編[闘牙王](2012/03/29 08:40)
[15] 第十一話 「SNOW WHITE」 後編[闘牙王](2012/04/02 17:34)
[16] 第十二話 「しゃっふる」 前編[闘牙王](2012/04/04 09:01)
[17] 第十三話 「しゃっふる」 中編[闘牙王](2012/04/09 13:21)
[18] 第十四話 「しゃっふる」 後編[闘牙王](2012/04/10 22:01)
[19] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編[闘牙王](2012/04/13 14:51)
[20] 第十六話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 中編[闘牙王](2012/04/17 09:57)
[21] 第十七話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 後編[闘牙王](2012/04/19 22:55)
[22] 第十八話 「結び目の呪い」[闘牙王](2012/04/20 09:48)
[23] 第十九話 「時が止まった少女」[闘牙王](2012/04/24 17:31)
[24] 第二十話 「絶望の宴」[闘牙王](2012/04/25 21:39)
[25] 第二十一話 「破邪顕正」[闘牙王](2012/04/26 20:24)
[26] 第二十二話 「けいたっ!」[闘牙王](2012/04/29 09:43)
[27] 第二十三話 「なでしこっ!」[闘牙王](2012/05/01 19:30)
[28] 最終話 「いぬかみっ!」[闘牙王](2012/05/01 18:52)
[29] 【第二部】 第一話 「なでしこショック」[闘牙王](2012/05/04 14:48)
[30] 【第二部】 第二話 「たゆねパニック」[闘牙王](2012/05/07 09:16)
[31] 【第二部】 第三話 「いまさよアタック」[闘牙王](2012/05/10 17:35)
[32] 【第二部】 第四話 「ともはねアダルト」[闘牙王](2012/05/13 18:54)
[33] 【第二部】 第五話 「けいたデスティニー」[闘牙王](2012/05/16 11:51)
[34] 【第二部】 第六話 「りすたーと」[闘牙王](2012/05/18 15:43)
[41] 【第二部】 第七話 「ごきょうやアンニュイ」[闘牙王](2012/05/27 11:04)
[42] 【第二部】 第八話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 前編[闘牙王](2012/05/27 11:21)
[43] 【第二部】 第九話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 中編[闘牙王](2012/05/28 06:25)
[44] 【第二部】 第十話 「ボーイ・ミーツ・フォックス」 後編[闘牙王](2012/06/05 06:13)
[45] 【第二部】 第十一話 「川平家の新たな日常」 〈表〉[闘牙王](2012/06/10 00:17)
[46] 【第二部】 第十二話 「川平家の新たな日常」 〈裏〉[闘牙王](2012/06/10 12:33)
[47] 【第二部】 第十三話 「どっぐ ばーさす ふぉっくす」[闘牙王](2012/06/11 14:36)
[48] 【第二部】 第十四話 「啓太と薫」 前編[闘牙王](2012/06/13 19:40)
[49] 【第二部】 第十五話 「啓太と薫」 後編[闘牙王](2012/06/28 15:49)
[50] 【第二部】 第十六話 「カウントダウン」 前編[闘牙王](2012/07/06 01:40)
[51] 【第二部】 第十七話 「カウントダウン」 後編[闘牙王](2012/09/17 06:04)
[52] 【第二部】 第十八話 「妖狐と犬神」 前編[闘牙王](2012/09/21 18:53)
[53] 【第二部】 第十九話 「妖狐と犬神」 中編[闘牙王](2012/10/09 04:44)
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[31760] 第十五話 「落ちこぼれの犬神使いの奮闘記」 前編
Name: 闘牙王◆53d8d844 ID:e8e89e5e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/13 14:51
「はあ~っ」

何度目か分からない溜息を吐きながら啓太はとぼとぼとおぼつかない足取りで道を進んでいく。その肩には大きなボストンバックが掛けられている。まるでどこかに旅行にでも行くかのような格好だ。しかしそれならば何故こんな姿を見せているのか。

「なあ、なでしこ。やっぱお前だけで行ってくれねえ……? 俺、明日には修学旅行に行くんだし、別にいいだろ?」
「そ、それは……」

啓太はどこか縋るように隣に並んで歩いているなでしこに向かって話しかける。だがそんな啓太の言葉になでしこは苦笑いを返すことしかできない。啓太の言葉の理由も分かるがどうしようもない、申し訳ないと言った表情。二人がそんなやり取りをしている理由、それは今、二人が向かっている場所、川平薫とその犬神達が住んでいる屋敷にあった。

事の始まりは先日のはけからの依頼、いや正確には伝言。それは薫本人からの提案。その内容は要約すればお互いの犬神の交流を図りたいというものだった。啓太と薫はほぼ同時期に犬神使いとなったものの、犬神同士の交流はこれまで全くなかった。先日のごきょうや達との依頼が初めて。どうやら薫は他の犬神たちとも交流を持ってほしいと考えているらしい。そして啓太と薫は学校は違えど同時期に修学旅行があり、その間屋敷に遊びに来てはどうかという招待を啓太となでしこは受けたのだった。

「それに薫の奴、もう先に旅行に行っていねえし……屋敷には薫の犬神だけだろ? どう考えても俺が言っても邪魔なだけだし、お前だけでもいいんじゃ……」
「そ、そんなことないですよ! それにせっかく招待していただいたんですから……!」
「やっぱだめか……」

無駄と分かっていても抵抗をしていたのだが流石にあきらめがついたのか、啓太は肩をがっくりと落としながら薫の屋敷に向けてのろのろと歩みを進めて行く。なでしこはそんな啓太を宥めながらもぱたぱたとその後を追う。さながら落ち込んでいる弟を慰めている姉のよう。だがいつもの啓太ならこんな姿は見せないだろう。美少女である薫の犬神達の所に遊びに、泊まりに行けるという間違いなく喜ぶべきイベント。だがそれを素直に喜ぶことができない理由が啓太にはあった。

(ちくしょう……ともはねの奴……)

啓太は心の中でともはねに愚痴をこぼす。それは先日の体が入れ替わってしまった騒動の時のこと。その際、啓太は誤って薫の犬神のひとりであるたゆねの胸を揉んでしまうというアクシデントを起こしてしまった。もっともその胸を揉んでしまったのは啓太の本能といってもいい物だったので完全に事故とは言い切れないのだが。とにかく啓太はともはねの体であったためその場では事なきを得た。だが啓太は甘かった。

ともはねにそのことを口裏合わせしておくことをすっかり忘れてしまっていたのだがら。

啓太はそのことにすぐに気がついたものの時すでに遅し。体が入れ替わるという出来事をともはねが黙っているはずもなくその事実はたゆねにも伝わってしまった。つまりあの時、胸を揉んだのがともはねではなく啓太だとバレてしまったのだ。その後のことは詳しく聞いていない。いや、恐ろしくて聞くことすらできなかった。できればもう会うことがないよう願うしかない……そう思っていたのだがそう上手くはいかなかった。今回の招待によって啓太は否が応でもたゆねと顔を合わせなくてはいけなくなってしまったからだ。

「大丈夫ですよ、啓太さん。きっとすぐに仲良くなれますから」
「あ、ああ……」

なでしこの言葉に啓太はどこか顔を引きつかせながら答えるしかない。何故なら啓太はなでしこにはたゆねとのことを話していなかったから。それはなでしこの性格を知っているからこそ。普段の姿からは想像できないがなでしこはかなりの焼き餅焼きだった。特に女性関係については。それが特にひどかったのが二年前。四月一日、エイプリルフールということで啓太はある嘘をつくことにした。

それは『彼女ができた』というもの。

啓太としては(当時の啓太から見て)歳上のなでしこに少しマセたところを見せたいと言う見栄から突いた軽い気持ちの嘘。しかしそれによってなでしこは明らかに動揺し、不機嫌になってしまった。その姿は今でも啓太のトラウマになってしまっている程。加えていつも完璧のはずの料理や家事もおかしくなり、何もないところで転ぶなど散々な有様。すぐに誤解を解くことでいつものなでしこに戻ってもらえたのだがそれから啓太はなでしこの前で女性関係の話や話題は口にはしないと心に誓っているのだった。


ふう……何でこんなことになっちまったんだ……? ちょっと前まで俺は薫の犬神達と仲良くなることを楽しみにしていたというのに……まあ、たゆねの件は置いておいても、ともはね、ごきょうやたち以外の犬神達からはよく思われていないのは間違いない。実際フラノ達も最初は俺のことロリコンだと思ってたみたいだし……何だが思い出したら涙が出てきそうだ。また一から誤解を解いていかなきゃならないかと思うと胃が痛くなってくる。

本当なら家に残りたいのだがやっぱりなでしこだけ行かせるのも気が引けるしな……。明日から三日間修学旅行に行く間、なでしこは家に一人きりになってしまう。しかしなでしこは山には里帰りする気はない。そう言った意味では今回の提案は渡りに船と言っていいもの。そうだ! これはなでしこのためを思ってのもの! ならなでしこの主として、飼い主としてやるだけのことをやるしかない!

「とにかく行くか! ともはねも待ってるだろうしな!」
「は、はい! それに男性がいるだけでもみんな心強いと思いますよ。最近、その……覗きや下着泥が頻発してるらしいですから……」
「そ、そうか……」

なでしこの言葉に啓太は曖昧な答えを返すことしかできない。何だかもう全てを理解できてしまったような気がするがあえて口に出すまい。その胸中はなでしこも同じなのか黙り込んだまま。どこか気まずい雰囲気のまま二人は薫の屋敷まで歩き続けるのだった―――――



「すげえ……ほんとにここなのか……?」
「はい……ここで間違いないはずですけど……」

啓太となでしこは互いに顔を見合せながらもその光景に驚きを隠せない。そこには大きな屋敷、そして広大な敷地があった。敷地というよりはそこら辺一体の山と言った方がいいのかもしれない。屋敷も見た目は修道院に近いような雰囲気を持った物。話には聞いていたが実際に目にすると圧倒される物がある。まるで場違いな場所に来てしまったかのようだ。だがいつまでもこのまま突っ立っているわけにもいかない。啓太は意を決してその屋敷の玄関と思われる扉にあるチャイムを鳴らす。だがその姿はどこかおどおどしている。小市民丸出しの姿だった。なでしこも落ち着かないのかどこかそわそわしている。間違いなく二人が主従である証のようなもの。そしてすぐにその大きな扉が開かれる。どうやら自分たちが来るのを待っていたらしい。そして同時に一人の少女が二人の前に現れる。


「お待ちしておりました、啓太様。薫様の序列一位、せんだんと申します。以後お見知りおきを」


少女、せんだんはスカートの裾を持ちながら恭しく啓太達に一礼する。その姿に啓太は呆気にとられるしかない。それはせんだんの礼儀正しさ、優雅さにもあったが何よりもその容姿。

(すげえ……!)

啓太は思わずそんな声を漏らしそうになる。だがそれも無理のないこと。真っ赤な赤い髪、しかも凄まじいロールがかかっている。加えて上品そうなドレス。ここが日本なのかどうかすら怪しくなってしまうほどの西欧風な格好。人によってはコスプレにしか見えないだろう姿。だがこの少女、せんだんは違う。まるで西欧人形のようにその姿が、美しさがマッチしている。間違いなくベルサイユの○らに出てくるような雰囲気があった。

「お、おう……川平啓太だ、よろしくな。なでしこととは知り合いなんだろ?」
「はい、わたしたち薫様の犬神達は皆、なでしこのことは存じております。久しぶりね、なでしこ。元気そうでよかったわ」
「ええ、あなたも元気そうね、せんだん」

せんだんとなでしこは互いに微笑みあいながら挨拶を交わしている。心なしかなでしこもいつもより機嫌が良さそうだ。やはり同じ犬神の仲間と交流できるのはいいことかもしれない。だが啓太はどこか興味深そうに二人の姿に目を奪われている。


うーん……やっぱり端から見てると凄いもんがあるな……ドレス着ているせんだんと割烹着にエプロンドレス姿のなでしこ。なでしこに関しては見慣れているのもあるがそれを差し引いても訳が分からん光景だ。決して口には出せないが。やはり犬神には特別な、変な格好をしなければいけないルールがあるに違いない。ここは俺も負けないように何かコスチュームを考える必要があるかもしれん……今度はけにでも聞いてみるか。もしかしたらはけの着物もそういう類なのかもしれんし……


「立ち話も何ですからお二人ともお上がり下さい。食堂で他の者たちもお待ちしておりますので」
「あ、ああ……そういえばせんだん、今日は他の犬神達も全員いるのか……?」
「? はい、全員おりますがそれが何か……?」
「い、いや……何でもねえ……」

せんだんは啓太の質問の意図が掴めず首をかしげることしかできない。だが啓太は最後の希望がついえたことでがっくりと肩を落とす。何故こんな時に限って全員揃ってしまっているのか。前のように何かの依頼で留守であってほしかったのだがそう都合よくはいかないらしい。なでしこもそんな自らの主の姿に苦笑いするしかない。もっとも啓太となでしこの間には大きな認識の違いがあったのだが。

啓太となでしこはそのまませんだんに連れられながら食堂へ向かっていく。だがその広さに、廊下の長さに圧倒されてしまう。せんだんの容姿も相まって本当にどこかの宮殿にでも来たのではないかと錯覚してしまいそうだ。

「それにしてもほんとに広いんだな……薫の奴、いつの間にそんな金貯めてやがったんだ?」
「この屋敷は元々曰くつきの物件でして……それを薫様が格安でご購入なさったんです」
「格安っつってもなあ……こっちは狭いアパート暮らしだっていうのに……やっぱり稼ぎの差か……」
「そ、そんなことありませんよ! 今月はちゃんと貯金もできてますから!」
「そうか……いつも苦労かけて悪いな、なでしこ……」

くそう……何ていい子なんだ、なでしこ! だがやはりここまで差を見せられると羨ましいのを通り越して感心しちまう。一体どうやったらそんなに稼げるんだ? いくらあいつが天才だっつっても限度があるだろ。ちょっとそのあたり今度詳しく問いたださなくては! そしてあわよくばその恩恵を……

啓太がそんなどこか邪なことを考えている中、ふと気づく。そこにはまるで自分を観察しているかのような視線を向けているせんだんの姿があった。

「……? どうした、何かあったのか、せんだん?」
「……いえ、それよりお二人とも、もう食堂が見えてきましたよ」

不思議そうな表情を見せている啓太を見ながらも話題をそらすようにせんだんは視線を前方へと向ける。そこには大きな扉がある。どうやらそこが食堂らしい。それを前にして知らず、啓太は息を飲む。それは直感。ここをくぐれば自分は間違いなくロクな目には合わない。ここ最近の経験で得た悲しい直感だった。そしてその扉を開けた途端

「わ~い、けーた様っ♪」
「ぶっ!? と、ともはねっ!?」
「おそいですよ、ずっと待ってたんですから!」
「分かった、分かったからちょっと離れろ!?」

いきなりみぞおちに向かって突進してきたともはねによって呼吸困難になりながらも何とかともはねを引きはがす。まさか扉を開けた途端に特攻をかましてくるとはこいつ……日増しに俺を襲撃する術を学んでいるのでは!?

「ともはね、今日、啓太様はお客様としてお招きしているのですからもう少しお淑やかになさい」
「う……はーい……」

せんだんの言葉によってともはねは渋々俺から離れて行く。どうやらともはねも序列一位、リーダーであるせんだんには頭が上がらないらしい。流石といったところか。そういえば犬って結構序列というか上下関係に厳しいらしいし。まあ家にはなでしこしかいないから関係ないけどな! 決して複数の犬神がいる薫が羨ましいわけではない! 俺には……俺にはなでしこがいるんだから……!

啓太がそんなよく分からない心の涙を流しながらも改めて食堂へと目を向ける。その中央には巨大な縦長のテーブルがある。映画やドラマなんかでしか見たことのない大人数で食事ができるようなテーブルだ。それは薫を含めれば十人以上で食事をすることを考えて置かれている物。そしてその席に少女たちが座っている。その数は七人。今目の前にいるせんだんとともはねを加えれば九人。それが薫の持つ九匹の犬神、序列隊だった。

「啓太様♪ お元気でしたか~?」
「……どうも」
「お久しぶりです、啓太様」

そんな中、聞き覚えのある声が啓太に掛けられる。そこにはフラノ、てんそう、ごきょうやの三人の姿がある。その姿は以前と全く変わらない。フラノはにこにこと、てんそうは無表情に、ごきょうやはどこか静かに微笑みながら啓太へと挨拶をしてくる。ちょっと前に会ったはずなのだが久しぶりの様な気がするのはなぜだろうか。そう思わざるを得ない程ハードな日々だったのかもしれない。まあそれはおいといて

「おお、お前達も元気そうだな。」
「はい♪ フラノもずっと啓太様が来られるのを待ってたんですよ~。あの夜の啓太様が忘れられなくて~」
「お、おいっ! なに訳の分からんこと言っとんだっ!? 誤解を招くようなことを言うんじゃねえっ!?」
「気にしないでください、いつものフラノの冗談」
「お、お前らな……」
「と、とにかく啓太様、今日一日ですがどうかゆっくりして行かれてください……」


こ、こいつら……ほんとに変わらずマイペースな……ごきょうやの苦労が伝わってくるようだ。いや、きっとこいつら全員をまとめるせんだんはきっとこれ以上に大変に違いない! 今度来るときは何か土産で持ってきてやらねば……


そんなことを考えている中啓太は気づく。それは視線。だがそれは唯の視線ではない。どこか冷たさを、居心地の悪さを感じさせる視線が向けられている。間違いなく自分に向かって。啓太はその正体に薄々気づきながらも恐る恐る視線を向ける。


そこには不機嫌そうな顔をしながらジト目で啓太を睨んでいるたゆねの姿があった。


その態度と視線に思わず啓太は後ずさりをしてしまう。凄まじいプレッシャーが襲いかかってきているかのよう。見えない力が、壁が間違いなくそこにはあった。しかしそれはたゆねだけではない。その隣に並んでいる三人の少女達からもたゆねほどではないにしても明らかな拒絶のオーラが発せられている。一体何故。なでしこもそれには気づいているようだが事情が掴めず困ってしまっているようだ。ともはねもよく事情が分かっていないのだか楽しそうに啓太の腕につかまりながら遊んでいるだけ。

啓太を中心にして薫の犬神達の間に変な壁ができている。どこか楽しそうなフラノ達を中心とするグループとどこか不穏なたゆね達を中心としたグループ。そんな状況を、空気を感じ取っているであろうせんだんだが一度咳払いをした後、たゆねたちに向かって告げる。

「そういえば啓太様は彼女たちとは初対面でしたね……みんな、啓太様に自己紹介をなさい」

それを聞きながらも四人の少女たちはしばらくどこか不満そうな様子をみせながらもリーダーからの命令を無視するわけにはいかないとばかりにしぶしぶ挨拶を始めてゆく。

「序列三位……たゆねです、よろしく」

どこかぶっきらぼうに、不機嫌さを隠すことなくたゆねは挨拶をする。その姿に啓太は冷や汗を流すしかない。

ま、まずい……! 予想していたとはいえまさかここまで嫌われているとは……。だがこのままではよくない。ここは何か一つ話のきっかでも作っておかなければ……!

「た、たゆねか……そういえば」

啓太は何とか話題を作ろうと、会話のきっかけを作ろうとするが

「先日はお世話になりました」

そんなたゆねの言葉によってそれは粉々に砕け散ってしまう。それはまさに顔面右ストレート、完璧な急所を捉えた一撃。もはやカウンターを返すことすらできない威力の攻撃だった。

「啓太様、たゆねとは面識がおありで……?」
「えっ!? あ、ああ、そうだったかな! ちょっとド忘れしちゃってたみたいだ!」

啓太はどもりながら、冷や汗を流しながら弁明するも怪しさ満点、全く誤魔化せてはいなかった。せんだんもそれ以上聞くのはよした方がいいと判断し、次の犬神の紹介へと移ろうとしていく。だがそんな中、フラノはどこか楽しそうにその様子を眺めていた。

『何だか楽しいことが始まりそうですよ~♪』

そんな心の声が聞こえんばかり。傍にいるごきょうやはその付き合いからフラノの雰囲気を感じ取り溜息を突く。どうやらまた面倒なことになりそうだと。いや、既にそれは避けられない物だと啓太が来た時点から分かってはいたのだが。


「序列七位、いまりでーす」
「序列八位、さよかでーす」
「じょ……序列二位、いぐさです……」

たゆねの隣に並んで座っていた三人が続けて挨拶をしていく。双子の犬神であるいまりとさよかはどこか気の抜けたような、やる気のない声で自己紹介をする。そんな明らかな態度に啓太も顔を引きつかせることしかできない。

外見年齢はともはねより少し上ぐらいか? 確かに美少女ではあるのだが……言っちゃ悪いが完璧に幼児体型、俺の守備範囲外だ。っとそれはおいといて何でここまで俺嫌われてんだ? たゆねはまあ分かるにしても明らかに度を越している。いい噂をされてないにしてもここまで拒絶される覚えはないぞ!? 眼鏡をかけてるお下げの少女、いぐさにいたってはまるで怯えるような目で俺を見てる。お、俺ってそんなに危険な人物に見えるわけっ!? ……ん? そういえばこの子、どっかでみたことあるような……

そんなことを考えているとふと、その眼に映る。それは楽しそうにへらへら笑っているフラノと何か申し訳なさそうに目を伏せているごきょうや。それだけで啓太にとっては十分だった。あの二人がこの状況の理由を知っていると。

「悪い、せんだん! ちょっとこの二人借りてくぞっ!」
「え、ええ……構いませんが……」

啓太はどこか鬼気迫る表情を見せながらフラノとごきょうやを引きづりながら食堂を後にしていく。後には事情が分からないせんだんたちが残されただけだった………



「お前ら、どういうことか説明してもらおうか……?」

どこか低い声で啓太は二人へと問いかける。いや、正確にはフラノに向かって。それは確信。この事態の原因がこの少女にあるのだという直感だった。

「ひどいです、啓太様。フラノは何もしてません!」
「やかましいっ! じゃあ何であんなに俺は嫌われてんだよっ!? いくら何でも限度があるわっ!」
「啓太様……それは恐らくフラノが皆に話した先日の依頼の件が原因かと……」
「先日の依頼って……あの魔道書のかっ!?」

ごきょうやの言葉に啓太の顔が蒼白になる。それは事の発端が、そして原因を全て悟ったが故。奇しくも状況はたゆねの時と酷似していた。

「参考までに聞くが……フラノ、お前どんな内容をしゃべったんだ……?」
「? そのままのことですよ? 女装した啓太様とSMプレイをして~裸になった啓太様が仮名様とキスしたって」
「ふ、ふざけんなああああっ!! なんでよりによってそこだけ切り取ってんだよっ!? もっとほかにもちゃんと伝えるべきところがあるだろうがっ!?」
「? 裸エプロンの方がよかったですか~?」
「そういう問題じゃねええええっ!?」


何言ってんのこいつっ!? それじゃあ俺、完璧にどヘンタイじゃねえか!? あいつらがあんな態度取るわけだよ! まるで穢らわしい物を見るような、そんな視線を向けるはずだ、俺でもそんな奴がいたら同じ視線を向けるわ! 


ロリコンどころの騒ぎではない……今、啓太はたゆねたちの中で女装癖にSM、露出狂にホモまで加わった存在へと昇華されていた。まさに事態を悪化させるトリックスターたるフラノのファインプレーだった。


「も、申し訳ありません、啓太様! 後で何とか弁解しようとしたのですが既に啓太様の噂がたゆねたちの間には広がってしまっていて……」
「俺の噂……? それってどんな……?」
「そ、それは……」

ごきょうやは言葉を詰まらせながらもその内容を口にする。

曰く、ストリーキングでの逮捕歴は数えきれず、街のヘンタイたちは顔見知りであり、崇拝されているのだと。

その内容に啓太は言葉を失う。それはその内容に驚いたからではない。そう、それが間違いなく事実であったから。

あれ……? 俺ってもしかしてほんとにヘンタイ……?

そんな今更なことを啓太が考えていると


「ひどいです~啓太様~。フラノは一つも嘘は言ってませんよ~?」
「う、うるせえっ! お前のおかげで俺の評価がすげえことになってんだよ!」
「大丈夫ですよ~啓太様! これ以上落ちることはありませんから~♪ 後は上がって行くしかないですよ~♪」
「お前が地の底にまで落としたんじゃねえかっ!?」
「お、落ち着いてください、啓太様っ!?」
「けーた様―! 早くともはねとあそびましょうー!」

啓太は必死の様子でフラノの肩を両手で持ち揺すっているがフラノは楽しそうにへらへらと笑っているだけ。ごきょうやは錯乱している啓太を止めようするも待ち切れなかったのか後を追ってきたともはねがその間に割って入りもみくちゃになりてんそうがぼーっとそれを見ながらも絵を描いている。

「あなたは止めに行かなくてもいいの……なでしこ?」
「ええ、いつものことですから」

どこか心配そうな表情を見せているせんだんとは対照的になでしこはどこか慣れた様子で微笑みながらそれを眺めている。もはやなでしこにとってはこれぐらいは日常茶飯事になりつつある証拠。


こうして啓太は自らの汚名を挽回、いや返上するために動かざるを得なくなるのだった―――――


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