仮想コンソールに伸ばした両手を休みなく動かし、最新死亡者リストから気になる仏さんのスキルを確認しつつ、思想、信条もチェックして、こっち側に引っ張れそうな連中をピックアップ。 だけど頭が痛くなるほどに多いリストから検索を掛けても、こっちの目に適う人材となるとほんの一握り。 星系連合にあれこれねじ込んで無理矢理に確保した現地協力員枠も残り少なくなって、無駄には出来無いから、言い方はあれだが厳選が必要と。『シンタさん。地球の大磯ちゃんから通信が来ました。すぐ回します?』 連絡オペレーターをやっている三ツ目のオペ子さんの顔が映った仮装ウィンドウが立ち上がり、地球の大磯さんから連絡との言付け。 オペ子さんの両目は俺の顔を見ているが、額の縦割れした目は若干下、俺の胸元を見ている。 ほっこりした笑顔を浮かべて和んでいるオペ子さんにつられて視線を下げれば、ピコピコと動くメタリックウサミミなうちの娘エリスティア・ディケライアの姿。 アリスにこっぴどく叱られて凹んでいるのをみて、ついつい可哀想で時間を縫ってなるべく相手をしてやっていたんだが、いつの間にやら仕事中でも俺の膝の上が指定席になっていた。 一応俺の仕事中は黙っていて大人しいので邪魔にはならないから良いが、その黒ウサギ娘は不機嫌キーワードの地球を聞いて、若干ご機嫌斜めになったのか、揺れていたウサミミの速度がすこしばかり上がる。 お前のルーツの半分なんだから、そろそろ不機嫌になるのは止めてくれてのが、父親としての率直な気持ちなんだが、地球というワードが嫌いな原因が俺が地球に仕事で行くと、なかなか帰ってこない事が原因となると、下手な事はいえず、拗ねても困るので今は放置だ。「あー、あと3分ほど待っててもらってください。もう少しで最新死亡者リストのチェックが終わるんで、それからで」 オペさんに俺は答えつつピックアップ作業を手早く進める。 能力はあっても死因が犯罪絡みは、色々厄介だから慎重に。 紛争系も、今の火星に火種を抱え込みは出来無いからパス。 宗教系は、こっちにいる人らの精神安定のために少しいて欲しいんだが、巫山戯た現況を受け入れてくれるほどに頭が柔らかく、さらに変に利用しない堅実性もと、色々制約があって、条件検索を掛けてみたところで梨の礫。 まぁそれも仕方ないと諦め気味だ。 めぼしい人は生きているうちから、スカウトしているんで仕方ないと言えば仕方ない。 にしても……多すぎだろ死亡者。 地球1つ分だから仕方ないっちゃ仕方ないと思いつつも、相も変わらず我が母星は争いの絶えない事で。 送天が持っている精神体保存枠は、もうちょっとの期間は余裕はあるとはいえ、さすがに全地球人の魂収納となると、桁が4つは違う。 送天に残されているのは、約半分でざっと一千万人分の精神体一時保存機構。 そこに火星に居住可能な地球人現地協力人枠百万人が残り一万人弱と。 うむ。足りん。計算するまでもないが、圧倒的に足りない。 足りなくなれば、既に保存している分を消去するか、新しい精神体の消滅を待つしか……本当の意味での死という結果を受け入れるしかない。 リルさんらの話によりゃ、全ての実験生物(地球人)を保存する為に馬鹿でかい精神体保管設備を持っていた総天さえ見つかれば、当面の問題は一気に解決らしいが、その肝心の総天がどこに飛ばされて、眠っているのかはいまだ不明。 無い物ねだりは出来ないうえに、現実路線で行くとしても星系連合に人道路線での交渉もさすがにそろそろきつい。 地球人の現地協力員枠や、彼らの火星移住権利さえもかなり無理矢理で引き出してきたから、これ以上は各惑星の代表達に借りを作るのは後が怖い。 惑星環境保護のためってお題目はあったとしても連合所属惑星や、人工惑星では、火星居住許可の10倍、20倍を特例で認められている星も腐るほどあるってのに……全て星間文明種族として認められない原生生物としてのもの悲しさか。 列強惑星のいくつかからは、精神体引き取りの打診も来てるが、あっちも怪しいと言えば怪しい。 善意と悪意の境目は未だはっきり見つけられない。 何せ俺ら地球人は、銀河帝国の科学力が最大発展期に他次元宇宙への転移実験にあわせて特別カスタムされた実験生物。 アリスに対する俺のように、ディメジョンベルクラドの能力を数十倍に引き出す能力以外に、何が眠っているか判らないとなれば、それを狙ってくる輩が出るのは不思議でもなく、秘密を解析、増産するために悪意を持つ輩にどういう扱いをされるかなんて、容易に想像はつく。 自分達の身は自分達で守るっていう、サバイバル大原則は、陰謀渦巻く宇宙でも十分通用しそうだ。 この先を考えれば、俺らが誰が死んで誰が生き残るかなんて選べないし、何よりも小市民な俺としちゃ、神様の真似事なんぞ勘弁。 人様の生死を選ぶくらいなら、善悪関係なく地球人類全員にとりあえず生き残ってもらう方が遥かにマシだ。 この後のでかい宿題を思えば、まだ緩い案件ってのが笑えねぇが。「終わりと。各部長に再生準備リストの送付をお願いします」 思い悩んでも仕方ないと、とりあえずの生き返り面談予定者のリストを選んだ俺は、オペ子さんに通信の接続を頼む。 生き返った後の精神ケアやら、こちらになれて貰う為の教育プログラムはある程度マニュアル化が出来ているから、ここから先は他に丸投げと。『はい。部長さん達に回しておきますね……大磯ちゃん。お待たせ繋ぐよ』 星系連合の各惑星代表やお偉いさんの大半には、現状は文明種族扱いされず、現地生物もしくは実験生物扱いの俺ら地球人だが、オペ子さんを見れば判るが、ディケライア社の連中は一切そういう所がない。 地球側の交換オペレーターに抜擢されて連絡の受け継ぎをする大磯さんなんぞ、こっちでファンクラブが出来るほどの男女問わずの大人気。 初日に緊張しすぎて起こした確率を超えたドミノ現象な人間ピタゴラ装置が受けたらしい。 どじっ子属性って大宇宙にも通用するんだなと、軽く感動を覚えたほどだ。 自分達と比べ遥かに文明が劣る種族であろうとも、一定以上の敬意を持って友好性を見せるディケライア社の社風は、創業者時代からの延々と受け継いだ訓示の賜。『種族に貴賤なし。我らディケライアは銀河にあまねく人々のために』 創業者が残した絶対社訓……これで、物クソ厄介な宿題さえぶん投げていなければ感謝の一言なんだがな。 まさか社訓が、例えや比喩でなく、マジだったとは……さすがうちの嫁さんのご先祖と感心するしかねぇ。『エルザさん。ありがとうございます……やほー三崎君おひさー』 ここの所はこっち側での仕事兼家族サービスが立て込み、地球時間で2週間、銀河標準時間で3月ほど向こうに帰っていない。 もっとも今時リアル出社しなければ仕事にならないわけもなく、佐伯さん辺りとは毎日VR越しとはいえ顔を合わせてるが、受付嬢をやっている大磯さんとは、職務上あまり関わりが無かったので確かに久しぶりだ。 「ちわっす……ってどうしたんです額の絆創膏? こっちのオペ子さんみたいに第三の目に覚醒したとかじゃありませんよね」 大磯さんの額には、アリスに付き合わされて鑑賞した前世紀のアニメの、絆創膏を剥がすと三つ目の目が現れる主人公やらを思い出す大きな絆創膏がぺたりと貼り付けてあった。 普通の人間ならそんな物を額に張ったら、不格好になりそうなんだが、そこはさすが我が社ホワイトソフトウェアが誇る高性能どじっ子大磯さん。 どじっ子+絆創膏というのが、剣士職に剣、農夫職に鍬並の、標準装備に見えてくるから不思議だ。『えーと……出社してきたときに、入り口でそっちの事を思い出して。驚いて転んだりしたりと』「……いつも通りですか」「し、しょうがないでしょ。驚くんだから。三崎君みたいに平然と受け入れるほど図太くないから一般人は」 大磯さんは平然としていると言うが、俺だって最初は焦ったつーの。 太陽を置き去りにして、水金地火の4惑星のみで、銀河系の反対側へと跳躍したのは、俺の時間感覚では既に半世紀以上前の事。 ある意味過去の事件なんで既に慣れたってのがでかい。「……いい加減慣れましょうよ。情報機密維持で必須なんですから」 大磯さんの涙目の反論に、俺は心からの忠告を返す。 またやったのかこの人。 現在俺が本来所属しているホワイトソフトウェア従業員や関連企業の一部関係者には、こちら側の事情を全て余す事なく伝え、地球、宇宙に跨がる協力体制を敷いている。 ただあくまでも、こちらの情報に触れて、さらには記憶を保持していられるのは、限定された敷地内のみという形だ。 出社したときだけ覚えていて、帰宅時には別の記憶にすり替えなんて真似が出来るのも、脳内ナノシステムのおかげだ。 不便な事この上ないが、原始文明保護法というお題目を掲げる星系連合との、長い交渉、折衝の末に、ようやく勝ち取ったささやかな権利が、現地協力員。 下手な横やりを入れられないために、厳重に取り決めを守っているからこそ、関係者以外には、今の地球の、太陽系の崖っぷち状況はばれていない。 地球で人類が生存する為に必須な熱や光が一切合切消失したといえば、そのやばさの程度は小学生でも判るだろう。 地球や他の惑星が今も何とか生存出来る環境を維持できているのは、他ならぬ、恒星系級惑星改造艦『創天』の能力の賜。 全惑星上空に環境維持フィールドを発生させ、内部環境の維持に全力を注いでいるからこそ、地球に住む地球人の誰にも気づかせず、この秘密を守っている。 アリス曰く『最高級お引っ越しモード』 本来なら一時的退避や、コールドスリープがいるという惑星移動という大事業の際も、住民のお客様には居住惑星でいつも通りの日常を過ごしてもらいながら、特殊フィールドフル活用で一切の不便を感じさせず惑星移動を完了させるというディケライア社謹製最高級サービスの1つらしい。 これを活用して地球の一般人には秘密維持はいいんだが、最高級と付くのがみそで、複数の惑星単位で高出力フィールドを常に維持し続けるのは設備への負担が激しく、メンテナンスや消耗品の取り替えが頻繁に起こり 途方もない量の物資や機材が、メンテナンスや交換で日々消費されている……つまりは金がかかる。 惑星1つとそこにうじゃうじゃと住まう動植物を息させるための熱と光と重力を発生させているのだから、仕方ないとはいえ創天の備蓄資材が枯渇するのは時間の問題。 しかし金欠のディケライア社に、新たな必要品を買いそろえる資金は存在しない。 一番消耗が少ないのは、空間凍結を行い地球の時間流を完全停止させる事で、最低限の消費で維持する事だが、そうすると地球廃人の能力をこちらの暗黒星雲調査計画に使う事ができなくなってしまう。 結果選んだのは、地球圏の時間流を最大まで落として、資材、機具の消耗を減らしつつ、必要となった時だけ、こちらの時間流に合わせるという方法。 準備が終わるまで何とか時間稼ぎをしてきたがそれもそろそろ限界。早々に暗黒星雲調査計画を実行し、第二太陽の作成に必要な原始惑星の発見を達成しなければ、じり貧な俺らにこの先は無い。 ディケライアが債務超過に陥れば、担保として抵当のかかる地球を含めて全太陽系の全てが、債権者である星系連合の主要惑星の管理下になる。 双天計画のことを知った今になって考えれば、ディケライアの苦境は全て仕組まれた物と考える方が自然なんだろう。 サラスさん辺りは既に怪しんでいたそうだが、全てはディケライアから、他次元跳躍実験恒星系である太陽系を合法的に奪うための計画だと考えれば辻褄が合う。 銀河帝国滅亡時に起きた恒星間規模の星間戦争再来を避けるために、表立った武力行使を禁じる星系連合では、他星、領域を手に入れるための陰謀が渦巻いているってのに、こっちは未だ敵さんの尻尾すら掴めていない不利な状況。 …………うむ。改めて考えてみても追い詰められまくっている。これ以上後が無い。 しかし、だからこそ楽しいと思うのは、さすがに不謹慎だと我ながら思うが、それでも本音だからしょうが無い。『三崎君またなんか悪巧みしてるでしょ。そんな三崎君に朗報。最後の未登録候補だった高山さんと西ヶ丘さんの娘さん達が登録に来たよ。それでこれがご希望のOP時の映像』 ジャイアントキリングを企むわくわく感が表情に出ていたのか、大磯さんが呆れ顔で、1つのファイルを送ってくる。 確かに朗報。それは俺が待ち望んでいた最後のピースプレイヤーが揃った事を知らせるものだ。 「っと、来ましたか。これで全組揃いと。ありがとうございます」『お礼はそっちのお菓子ね。でも上手くいくの? 星系連合に地球人を文明種族として認めさせるんでしょ。ゲームプレイなんかで大丈夫かって不安がってる人も多いよ。ほらMMOってリアルじゃ無いから本性が出まくりだし』 大磯さんの言う事も一理ある。 不特定多数のプレイヤーが揃うMMOでは、善人プレイもいれば、軽い気持ちでリアルでは出来無い犯罪行為を楽しむ連中だっている。 それをサンプルにして、星系連合連中に地球人はこんな連中ですと紹介するなんて逆効果じゃ無いかと。「だからこそですよ。彩りしまくった外見じゃ無くて、本音を見せてこそ、深い付き合いができるでしょ。何よりVRMMOは遊びなんです。こっちの連中にこいつらと遊んでみたい、戦ってみたいと思わせる。それがまず第一歩です」 お偉方しか知らない地球人という存在を、銀河に住まう全ての人々にお披露目する。 地球人という存在を民間に広め、大衆に認めさせ、それを各国惑星の代表をも動かす圧力に変える。 それこそが俺の企み。どれだけ科学レベルが違おうとも、銀河に住む人らと同じく、地球人も喜怒哀楽があり、こちらの普通の人と変わらない精神レベルを持つ人種なのだと知らしめる事で、星系連合に所属するべき、させるべき、地球人にはその価値があるのだと世論を生み出す。 その世論を後押しして、星系連合議会に地球人類を文明種族と認めさせる事が、太陽製作と並ぶ当面の目標。 まずは星系連合議会という同じ舞台に立たなくちゃ、こっちを罠に掛けてくる連中とまともに殴り合いなんぞ出来やしない。 高みから見下している連中の鼻を明かしてやる。 地球を星系連合に認めさせるついでに、あいつらがひた隠しにしようとしているこの宇宙の終焉を出汁にしたバックボーンを持つPCOで、敵、味方全てをあぶり出して、銀河全てを巻き込んだ喜劇に変えてやろうじゃねぇか。「これで駒は全部揃いました……ティザーサイトの準備も出来た事ですしそろそろ反撃開始。全力で地球を売っていきましょうか」 父を、恋人を、夫を、恩師を…… 死んだはずの大切な人に会うために、全力でゲームに参加するコアプレイヤー達のプレイを中心に、地球文明とそこに住まう人々をゲームを通して紹介。 星系連合内に大々的に仕掛けて地球ブームを引き起こす。 その為のツールこそが『Planetreconstruction Company Online』だ。 『地球を売るって……言葉もう少し選ぼうよ。本当に悪役大好きだよね三崎君て』 人の悪い笑顔を浮かべる俺をみて、大磯さんはほとほと呆れたようで、ジト目で俺をみていた。 これにて二部終了となります。 次から第三部のゲーム編です。 二部がエピローグから始まった理由は、以前に一時掲載していたB面や今回で明かしていますが、既に主人公である三崎の体感時間で半世紀近い時間が流れているからです。 この間に、裏舞台のB面として、三崎の復活やら、地球の凍結解除、送天の再起動、エリスの誕生と色々エピソードとプロットはあるのですが、まともに書くと年単位でかかりそうなのと、ゲームの話がさらに遅くなるので、いっそ全部飛ばして、エピローグから始まる怪しげな男にしちまえと開き直った結果です。 一部でこってりと三崎やらアリスのやり取りやら性格は書いたので、読んでくださっている皆様の脳内で裏側でどんな行動を取ったか、脳内補完が出来るかなという甘えですがw それにともない合間を埋め足り、裏舞台を書くB面もちょろちょろ書いていたのですが、結局サイド話みたいな同じ場面の繰り返しやら、冗長になるだけなので、設定だけを流用して前回、今回みたいにあっさりとばらす方針に変更しました。 書き上げてきたB面は、読み切り短編に直すか、没にいたします。 作品消去や大型改変は、私が書いてきた過去作を知る人ならご存じの何時もの事と言えば何時もの事ですが、B面の公開を楽しみにお待ちいただいていた方には申し訳ありません。 この先の三部で、そこら辺をちょくちょくさわりだけ挟むつもりですのでお許しください。 三部からは裏舞台もがっつり公開していきますので、神目線でお楽しみいただければ幸いです。 あらすじはこんな感じです。 ゲームを楽しむプレイヤー達の行動如何で、地球の命運は決まる。 そんな事はつゆ知らず、圧倒的な速度で攻略を開始する廃神達に、一歩出遅れてしまった美月が目指すべきプレイスタイルは? ゲーム内でも清く正しい自分の生き方を貫き通すべきか? それともゲームだからと勝利のために、全てを利用するべきか? だが葛藤する美月は知らない。 その美月の思い悩むゲームプレイが動画として、全宇宙に公開されている事を。 ついに正式オープンしたPlanetreconstruction Company Onlineを己が武器とし、GM三崎伸太は星系連合に所属する星々へと情報戦を開始した。 このような感じの予定です。 方針ぶれぶれで迷走気味な私ですが、楽しんで頂いてこれからもお付き合い頂けましたら幸いです。