衛星帯を飛び回って手に入れた周辺情報を、右側のウィンドウに情報統合。その星図を元に麾下艦隊において、一番小回りが利く艦が、星系内速度で航行できる航路を表示。 一つでも道があればと思っていたが、その期待すら空しく一瞬の間も置かず航行不能と無情な回答が算出される。 車が書庫入れするように超低速でゆっくりと進めば通れるだろうが、そんなのは良い的以外の何物でも無い。 アリスが最初に旗艦で見せたような戦闘機動で飛べる道があるはずなんだが、 「アリスの奴!どんないかさま使いやがった!」 ちらりちらりと情報画面に目をやりつつ、嵐の最中のように荒れ狂う弾幕を躱し、吹き荒れる爆風を避けて、敵対者にして相棒たるアリスへと文句を漏らす。 かつてあった月が砕けて出来た小衛星帯は、今は二重のリングとなり主星を廻っている。データ上では外部リングは厚さ40キロ、幅300キロの範囲に大小無数の小衛星で構成されている。 太陽系の土星リングのように、膨大な年月を得て細く広大な範囲に薄く広がった輪とは異なり、最近に出来たリングは厚く狭いそして濃い。ピザとドーナッツのような形状の違いだってのが、アリスの言だ。 こんな所を飛べるはずもないってのが地球人の意識なんだが、アリスからすりゃ道を作る手はいくらでも手はあるとの事。 事前に興味本位でどうやってやるのか聞いたときは、『勝利の鍵はドライバー』だと理解不明な事を宣って笑ってはぐらかしやがった。 思えばあの時から今の状況を想定して、情報を隠していやがったな。 今時ドライバーでこじ開けれる錠前なんぞどんな安アパートでもないのに、宇宙、しかも衛星帯で道を作るのにドライバーって。 あいつのヒントの訳のわからなさにうんざりして頭から追い払う。 長い年月で衛星同士がぶつかり合い粒子単位まで粉砕されたリングとは異なり、今俺が飛んでいる衛星帯には、艦よりも巨大な岩やら氷の塊から、かつての戦闘で破壊されたのか、それとも衛星時代の由来なのかメートル単位の金属片が、無数に飛び廻る危険地帯。 巨大な塊や破片は避けて、躱すまでも無い微細な欠片は、僅かながらのエネルギーを使うが偵察機の対物バリアで弾き飛ばして、そんな場所を出せる限りの速度で飛び回る。 もっとも危険なのは、詳細な内部情報を持たない侵略者たる俺だけ。 遙か先で防御幕に覆われた主星を住処とするアリス率いる守備隊からすれば自分たちの庭。 衛星と衛星の僅かな隙間から襲い来る極細に絞られたビーム粒子やら、シールドビットでそれを弾いた所で一息つく間もなく、衛星の影から襲いかかってくるミサイル群と、その淀みない攻め手を見れば、周辺情報は万全で、それこそデブリサイズの破片すらも全て追尾済み。大きさによっては未来位置予測済みなのだろう。 うむ。製品化の暁には諜報スキルやらで、事前情報取得を充実化させないとまずいな。場所によっては攻め手側に一方的に不利すぎる。 諜報戦やら欺瞞情報戦をふやし『対艦衛星エネルギー増大! 緊急回避を推奨します!』「うぉ! 赤妖精照準攪乱! 砲撃位置ずらさせろ!」 ついゲームとしての出来を気にして一瞬だけ集中が途切れた瞬間、警報音が鳴り響き俺は慌ててAIの指示する方向へと待避行動をとりつつ照準をごまかし、反射的にシールドビットを4つ機体上面へと集中展開させる。「承知! 煙玉!」 『対艦ビーム照射。シールドビット消失を確認』 赤妖精のスキルが発動し機体の位置情報を僅かにごまかし、さらにシールドビットが一瞬だけ耐えて稼いでくれた貴重な時間を使い、フレキシブルスラスターを最大噴射し真横にスライド。 高温極濃プラズマ粒子が機体の側面を掠め、機体表面温度が一瞬でイエローゾーンへと到達しセンサー類の稼働率が低下するが、機体HPを一割弱削られただけでギリギリで何とか躱す。 対艦用兵器を直撃で喰らえば、偵察機なんぞ一瞬で蒸発撃沈。運が良かったと胸をなで下ろしつつ、アリス相手に気を抜いた事を反省。 極限までプレイのみに集中が出来なければアリスの向こうを張るなんぞ無理だ。 しかし何時ものスーツ姿に使い慣れたリアルそのままの仮想体でのゲームプレイだとどうしても、ゲームプレイで無く、お客様の反応やら、ゲーム本体の出来の方に意識が向いてしまう。これも職業病か。 こうなると判っていれば、多少は変化を付けた仮想体でも用意して意識を変える事も出来たかもしれないが、それも今更だ。 しかしまずい。対艦衛星群まで再稼働を始めやがった。 こうなる前に航路を調査し終えるか、対艦衛星を潰しておきたかったんだが、前者は未だ見つからず、後者はアリスの妨害が激しく未だなし得てない。 こちらが腹に抱えた虎の子の反物質ミサイルを撃ち出そうとした瞬間、弾幕が一気に濃さを増し慌てて逃げ出す。先ほどからこの繰り返しだ。『ミサイル感知。数12』 しかも俺の勘は、あの対艦衛星にトラップが仕掛けられていると明確に告げている。 再充填までに時間が掛かる対艦衛星兵器群を有効活用するため、数をばらまいているというのはまだ判るが、アリスの奴はあれで戦いの火ぶたを切って落としている。 俺だったら無害な岩の皮を被って偽造した衛星兵器を有効活用するならば、ギリギリまで存在を隠して敵艦隊が小衛星帯内部に入り込んでから一斉に使う。 伏兵として使うべき兵器をその正体をさらし使うってのは少しばかりおかしい。 そうなると落とさせるのを前提として使っているってのが無難。 だから罠かと思ったのだが、その罠の種類が推測できない。『敵衛星砲台エネルギー増大! 緊急回避!』 撃沈された瞬間周囲を巻き込んでの大爆発とかいうブービートラップの類いかとも考えたが、これだけ防御兵器が入り組んだ戦場で無差別破壊ってのも考えにくい。 第一防衛網にぽっかり大穴が空けば、敵艦隊側には良い通路が出来るだけの話だ。…………まさかそれが正解か? 対艦衛星群を破壊して道を作れってのがアリスの意図か。 無理矢理こじ開けろ。だからピッキングでドライバーって事か? 弾幕を躱しつつ、次の対艦砲の攻撃を警戒し続けるなか焦れた頭が、その可能性に到達する。 思いついた策を確認するために、これまでに判明した対艦衛星の位置を星図にクローズアップ。 青色で輝く点となった対艦衛星の位置をちらりと見ると、各々が隣接しているわけではないが、それほど離れているわけでも無い絶妙な位置に存在している。 これらを破壊したときの航路を表示すると、奥まで繋がる通路がぽっかりと姿を現した。要所要所に要となる門を作ってある構造とでも言えば良いのだろうか。『後方より小型ミサイル4機。その前方にて異常重力感知。重力バレルの展開と予想』 偵察機単機じゃ今の状況では狙えないが、後方でほぼ再編成を終えた艦隊を進めさせれば僅かな被害で衛星帯内に道が作れるかもしれない……かもしれないが、これも罠だ。 たどり着いた答えを僅かに考えて却下する。これではアリスが初っぱなに単騎駆けできた理由にはならない。 第一これじゃ自分が通る道を作るのに一々、衛星を破壊して空間を作っているって事になる。非効率的にもほどがある。 策が無く焦れた相手に希望に見せかけた罠を張るなんて基礎中の基礎。 んな稚拙な手に引っかかるかなんて思う物の、そう思わせて実は正解って裏をかく事もあり得るか。『重力バレル内にてミサイル自沈! 無数の破片を拡散させましたが、重力バレル内部にて再発射加速開始! シールドエネルギー最大まで上昇開始』「だっ! くそ! あんにゃろう! 性格が悪くなりやがって!」 考えようとするたびに邪魔が入り思考に集中出来ない。 絶妙なタイミングで邪魔をいれてくるアリスの術中に嵌まりつつあるのか、どうしても次の手が見いだせず活路を探し出す事に気が回り、操作が疎かになっているのか回避が遅く、読みを外し始めて、シールド消費やら時間ダメージ率が徐々に上がっていく。 こうなりゃ開き直りだ。罠か正解か判らない以上、試すしかねぇ! 多少の損害は覚悟の上で対艦衛星を一つ落とす。 まずは一つの目的にだけ意識を向ける。そうすりゃ余計な事を考えずに集中出来る。「緊急反転! 対艦衛星Foxtrotを落とすぞ!」 ざっと星図を見た俺は罠を仕掛けるならどの衛星かを考えた上で、6番目に発見した衛星へと狙いを定める。 対艦衛星は結構な数で分布しているので衛星を破壊して道を作ると仮定した場合、いくつものルートがあるが、6番目のFoxtrotは複数あるルートの交差点になっている。 どうしても通る事になる重要地点。俺が罠を仕掛けるならここに仕掛ける。それがもっとも効果的だからだ。 しかし俺が読んでくる事をアリスも見抜いているだろうし、あえてここに罠を仕掛けないって選択肢もあるだろう。どれが真実か判らない。 だからここは勘に従う。一見正解に見えるルートこそが罠であると。そしてここに即死級の罠が仕掛けられていると。 俺の指示に即座に8脚のフレキシブルスラスターが稼働を開始する。 慣性制御機関がうなりを上げて勢いを殺しながら、急激な方向転換の衝動を無理矢理に消し去りつつ、制御AIが機体位置をクルリと最小半径で回転させる。 振り返った目の前には先ほど爆散した金属の弾雨が広がっている。 回避性能が高い小回りの利くこちらに対して、致命的とまで行かずとも確実にダメージを与えるために、爆散したミサイルの破片を、仮想展開した重力バレルで加速化。高速度散弾でこっちの回避範囲をカバーするつもりのようだ。『現出力では安全圏への待避は間に合いません。リミッター解除、緊急加速を推奨します』 スキル『オーバーリミット』を使えとアドバイスする機体AIにあわせて右手側に新たなるスロットルが出現する。 オーバーリミットスキルは文字通り、推力や火力など指定した機体の通常ステータスを越えた力を絞り出すスキル。その倍率は通常値×2~10倍からの選択式。 一時的に高出力を得るスキルだがデメリットも2つある。 1つは倍率が高くなる事に、スキル発生後一時的にステータス低下が発生、倍率が高くなる事にステータスへの影響時間が増える。 今回の場合は推進力強化なので、加速後はしばらくは操縦が困難になって禄に軌道を変えられなくなる もう一つのデメリットはこのスキルがギャンブル性のあるスキルだって事だ。 設定倍率を高くするほどスキル発動に失敗する公算が高くなり、その場合は0~10倍の間でランダムに数値が決まってしまう。 スキル発動にミスって0を引き当てたら回避失敗は確実。回避可能となるギリギリの倍率を狙うのがセオリーか? 星図に表示された倍率事の航行距離をちらりと目にやって、右手でオーバーリミット用スロットルを掴む。 青色で表示された緊急ブースト枠が2~3倍、黄色の星系内リミット解除枠が4~6倍、そして赤色で表示された機体限界アンリミテッド枠が7~10倍の最大出力をたたき出す。 「星系内リミット解除最大噴射! シールドビット機体前方に集中展開! ジャンプ台にして飛び越すぞ!」 俺はスロットルを黄色枠最大である6倍に叩き込みつつ、同時に左手でシールドビットを展開させ機体の進行方向をずらす形で、緩やかに弧を描くスキージャンプ台のような形に重力場を構成させる。あっちが重力場ならこっちも重力場だ。 障害物が無いルートを選択し、スキル発動となるスロットルのスイッチを右手の親指で押し込む。 リミット解除により限界を超えたスラスターが一瞬だけ生み出した膨大な推力によって加速した機体が、即席のレールに乗り一気に突き進み、機体周囲を映す外部映像が漸増を残して歪む。。 振動機能やら加速度疑似機能など無いから出来る無茶だが、数値を見る限り機体の持つ慣性制御能力を大きく越える行為。機内に掛かる圧力は慣性制御込みでも23Gと表示されている。 これが具体的にはどの程度なのか判らないが、頑丈な機体はともかくとして中の人間は良くて気絶と全身骨折。最悪ぺしゃんこなレベルか? これがゲーム内である事に感謝しつつ周囲状況モニターを確認。紙一重で散弾は回避成功したようだが、『想定値以上の速度が出ています。機体制御回復まで20秒。衝突予測天体を発見!』 だが度を超した加速によりに突き進む機体は、俺の設定よりも早い……どうやらスキル発動をミスったようだ。 0やら低倍率では無いようだが、想定以上の高倍率によって、機体制御を取り戻すまでにかかる予測時間は最大値の10倍で受ける影響値。 しかも進む距離は俺の想定していた長さの倍近くとなり、行き着く先は運悪く一際巨大な岩の塊。 死の障害物に向かって一直線だ。大きさはこっちの母艦である船よりも巨大なキロメートル級の最大サイズ。あんな物にぶつかってこちらが生き残るはずも無い。 うむ。最大値での先まで見てなかった俺のミスだな……とっさの事とはいえ前方未確認の緊急発進。免許試験なら一発不合格か。 結構な距離があるはずなのにみるみる大きくなっていく衛星を目に捉え、ステータス低下状態でもなんとか機体制御を取り戻そうとあがく。 「スラスター、慣性制御最大稼働!」 推進剤を大量消費、慣性制御機関を酷使して勢いを何とか落として、操作可能になるまで機体制御を取り戻そうとするが、勢いが良すぎた分なかなか思い通りにはならない。 暴走撃沈なんぞアリスに笑われればまだ良い方。あいつの事だ。あたしが落とす前に自爆すんなって怒りかねない。 メイン画面全体を異常接近していく衛星が占める。 いや、これマジでまずい。ステータス低下の影響でスラスターの出力が完全に上がりきらず、勢いを殺す慣性制御も弱い。 予想到達まで20秒。バットステータス解除となるまでも予測で20秒。ギリギリ間に合うっていうには、ちと時間が足りない。 どうする? 残り少ないシールドビットを機体全面に展開して高速回転。即席重力ドリルで衛星をぶち抜くか。 ……さっきのジャンプ台でも浪費して、機体前面を覆うほどの枚数がありゃしない。 反物質ミサイルで衛星を砕く? それも判断が遅かった。今の目標とこちらの距離じゃ爆発影響範囲内にあるので、安全装置が働き爆発は起き無い仕様だ。 誤爆やら誘爆を防ぐためにアリスの話じゃ、ミサイル内の反物質は、亜空間内で固定保存されている仕様。 正式なプロセスを持って空間解除しない限り、反物質がこちらに現れる事も無く、何かの事故が起きればそのまま時空間のひずみで消失するとの事……どこまでチートだ宇宙人共。 その亜空間反応から、相手が反物質を所持しているのが判るとか云々といろいろ言っていたが、結局要約すると威力が強大な分安全装置も質実剛健な仕様で、絶対に暴発事故や誤爆はないと断言していた。 一応安全装置を切って使う事も出来るそうだが、衛星を破壊したとしても、こっちがその爆発に巻き込まれて撃沈じゃ意味がない。 うむ。これは手が無い。今まで集めた情報は旗艦に送ってあるから問題無いが、んな短時間で打つ手が思いつかない。「ちっ! 全兵装の安全装置解除。前方の衛星に向かって反物質ミサイル一斉射」 撃沈確定。敗北……この窮地を脱出する手は無いと見切りを付けた俺は諦めつつも、最後に出来る嫌がらせを考える。 衛星の破片を周囲にまき散らして、アリスの防衛網に僅かでも被害を与える。 これはまだ前哨戦。少しでも相手の妨害をして損はない。対艦衛星にぶち込むつもりだった反物質ミサイルを抱えたままで、何も成果無しってのも業腹だ。 しかし負けたからといって最後の手がゴミをまき散らして帰るという辺り、我ながらせこいというか性格が悪いと思う。『了解いたしました。爆発影響範囲内に自機が含まれますがよろしいでしょうか?』 巻き込まれるのは自分だというのに機体制御AIが無感情な他人事で最終確認をしてくる。 死を前にして何も反応無しってのは、切り捨てやすいようにだろうか。そんな事を思いつつ仮想コンソールを叩いて最終確認を承認する。「最終照準は任せるぞ。もし生き残ったら戻ってこい……モードチェンジ」 リルさんという規格外のAIやら、妖精チームみたいな人間くさいAIを見たせいか、どうにもそのまま捨て石にするのも気分が悪く、自分でも無駄だと思う一言を残して衝突まで残り5秒で水晶玉型モニターに手を置いて、戦闘チームモードから艦隊司令モードへと戻す。 目の前で展開していた偵察機用の仮想ウィンドウ群が一斉に閉じて、戦場全体図や艦隊構成情報を表示する仮想モニター群が入れ替わりに次々に立ち上がっていく。『モードチェンジ終了。司令モードを稼働します。先ほどご指示のあった艦隊編成は終了しております。撤退リミット時間まで後40分を切っています』 行く前に任せていた再編成も完了。いつでも突入可能となっている。 俺が飛び回って手に入れた衛星帯内の情報も早速適用されて、戦況図には判明しているアリスの防衛網の詳細が記載されて、影響を受けていたステータスも五分五分でやれるくらいに上昇している。 偵察機のままでいけなかったが、先ほどの仮説を確かめるためにここから対艦衛星を狙っていくしか無いが、艦隊戦となると罠だった場合、被害がでかくなりかねない。 慎重に行くしか無いが時間的な問題もある。あと40分で無条件敗亡ね。ますます局面が俺に不利になっていやがる。 しかしそれが面白い。 編成終了した艦隊を用いて対艦衛星を叩いて時間までにアリスの本陣まで接近する。 最短でも対艦衛星を20は破壊していく無茶ゲーだがやってやろうじゃねぇか。「んじゃ第二戦と行くか……と、その前にさっきの爆発の影響もこれ反映されているか?」 突撃命令を出そうとした直前で俺は先ほどまで乗っていた偵察機AIに出した命令の成果を確認する。 あの巨大サイズの衛星とはいえ、対艦反物質ミサイルの爆発力で砕けないはずが無い。アリスの防衛網に軽くないダメージを与えているはず。上手くそこを使って攻める事が出来ればと思ったのだが、『偵察機による衛星破壊攻撃は失敗いたしました。機体は制御を取り戻し、命令通り帰還行動へと移行いたしました』 「どういうことだ?」 全くの予想外の答えが返ってきて俺は思わず素で問い返す。 攻撃が失敗したのはなんかの理由があるかもしれないが、あの偵察機が無事だった? あの状況だとさすがにどうしようも無いと俺は諦めていたのだが、『機体映像を転送します。偵察機が対艦反物質ミサイルを射出後、目標衛星が空間湾曲場を緊急展開。衛星中心部を基点に周辺空間を圧縮。衛星中央部に開口部が生成されました。先行していた反物質ミサイルと偵察機機体はその開口部から反対側に抜けました。目標消失に機体AIがミサイルの安全装置を再稼働。さらに帰還を開始いたしました』 正面モニターには先ほど見ていた岩の塊の衛星が映し出されている。 状況を解説する機械音声が言う通りに、突如衛星の中心部が発光し、そこに黒い点か生まれたかと思うと、針の穴のように向こう側まで貫通し、さらにその真円が急速に拡大していく。 岩が割れているのでも、穴が開いているのでも無く、周囲の空間が圧縮されて穴が”生み出されている”。 瞬く間に衛星と同じほどの大きさまでに広がったその穴をミサイルと機体はなんの抵抗もなくすり抜けて、向こう側へと突き抜けた所で映像が終わる。『機体通過後、圧縮空間は復元され元の形状へと戻っています。岩石衛星に施された門の類いのようです。最大径ならばこちらの旗艦も通過可能な通路となる可能性が極めて高いと推測されます』「大岩に空間湾曲で穴を開けて通路形成ね……それでなんでドライバーだよ! こいつのヒントならオープンセサミっだろうがあの兎娘は!」 ヒントにならないヒントを出しやがったのはこっちを混乱させる作戦か? それとも間違った答えに誘導するためか。 あの野郎。罠のために偽ヒントを出すとはなかなかあくどい手を使うようになったじゃねぇか。 アリスの術中に嵌まりかけていた俺は、してやられた意趣返しに徹底的にやり合ってボロ負けさせてやろうと堅く心に誓った。