「ち、ちょ!? リ、リル!? なにしてんのよ!?」『星系連合議会本場との通信回線接続カウントダウンはしておりましたが、お二人のお耳には何時ものごとく入っておられなかったご様子でした。また議会場との通信優先順位は最高位となっております。無視することは出来ません』 銀髪から突き出た同色のウサミミをわちゃわちゃと振り回すアリスが勝手に繋げるなと怒鳴るが、リルさんは何時もの涼しげな声で理路整然と返す。 そんなリルさんにやり込められた振りを、アリスは見事に演じてみせる。 いつかどこかで聞いた……つーかリルさんの記憶領域で絶対保存指定にされてやがる俺のプロポーズ(リルさん判断)時と、似たような状況なんでそいつを再現するだけだから簡単だと、豪語してたがさすがは相棒。見事なもんだ。 一方ロープレ派の嗜みで演技上手なアリスと違い、こちとら引き出しが狭いだ、何やっても裏がありそうだ、笑顔でも絶対何か企んでいる、むしろその笑顔が怪しいと、通常時でも散々言われている大根役者。「勘弁してください」 余計な演技はせず右手で額を押さえて、表情を隠して文句交じりに呻き声をあげるだけに留める。 視線を隠した手の中に小さな仮想ウィンドウを出現させ、ローバーさん、サラスさん主導でディケライア、火星地球人の総力を挙げて、制作中の攻略本をチラ見。 攻略ルートを構築と。 送られて来たデータは、各惑星、星系政府に所属する、ここ数期のディメジョンベルクラドによる航路跳躍回数と精度データと貨物運搬量の概要から割り出した、各国の台所事情。 異次元ナビゲーター。ディメジョンベルクラドの力は、それぞれの持って生まれた才能もあるが、何よりも彼、彼女がこの広大な宇宙や、その外に広がる無限の異次元世界においても、絶対基準となる0ポイント。指標とするパートナーへの信頼度や絆の深さ。 アリスにとっての俺だ。 こんだけ科学技術が発達しておきながら、最後の決め手は精神力やら繋がりやらと、どこのオカルト似非科学だと突っ込みたい所だが、こいつは紛れも無い純然たる事実。 しかしこいつも加齢やパートナーとの別離。さらには逆に一緒にいすぎたことで起きる弊害の1つ思考の相似化でも、力は左右される。 何を考えても、体験しても同じような考えや感想を持つようになって、自らとパートナーとの境界線を見失い同一視してしまう。 要は身体は違うが、相手もまた自分の1つと思い、その所為で指標を見失って、能力がた落ち。 様々な要因でパートナーを、指標を見失ったディメジョンベルクラドは、花型の長距離恒星間航路を飛べる力を失い、そういったロートル連中は、残った能力に合わせて、跳躍門と星系を繋ぐ短距離航路の2戦級や、星系内を繋ぐ3戦級なディメジョンベルクラドとして、往年時ほどではないが、今もそれなりに活躍している。 公表されているデータと各惑星の現状から、どこの星域でディメジョンベルクラドが足りていて、どこが足りていないか調べ上げるのが今回の営業の肝。 もちろん総跳躍能力は国家機密な部分もあるので、各国政府がどこまで正確に公表しているか疑わしい部分はありありだが、それでも傾向さえ見れば糸口はいくらでも浮かんでくる。 パートナーの有無。短い跳躍、増える回数、跳躍時の誤差、それが未熟による物か、それとも衰えによってか。 優秀で特定国家に属さずフリーでやってるディメジョンベルクラド。アリスのような人材を欲しがる星は多い。 なら裏を返せば、自国所属のまだパートナーと出会っていないディメジョンベルクラドに合うパートナーもまた欲しがるのは必定ってな訳だ。 見えてきた攻略ルートに俺の口元がついつい楽しさで歪むが、目ざとくそれに気づいたアリスが、リルさんに文句を言いつつ、あちらさんからは画面外になっている足元で足を軽く蹴って注意してくる。 っとと。この辺りが俺が大根だとアリスに文句をブーブー言われる所以。でも楽しい物は楽しいんだからしょうが無い。 『アリシティア社長。三崎GM。お二方とも私的行動はそろそろ慎んでいただけますか。今回の臨時議会は、あなた方からの緊急報告があるとの申し出で開かれたという事をお忘れなく。星間企業幹部としての品位と、議会への敬意を持っていただきたい』 やんわりとだが、言外にてめぇらいい加減にしないと事業許可取り消すぞと言わんばかりに議長からの警告が響く。「失礼いたしました。ではそちらへ伺う許可をいただけますか」 目元から手を離した俺は、アリスからはワンパターンだと評判が悪い胡散臭い笑顔で一礼。「ご、ごめんなさい。以後気をつけます」 アリスは、アリスで、お前そんな殊勝じゃあねぇだろと、半世紀近い付き合いだってのに未だに判明しない引き出しの多さで、どこからか引き出した、恥ずかしがっている大企業のご令嬢面で頭を下げる。 まぁ、元々銀河帝国皇家末裔で、今は見る影もないが銀河最大だった惑星改造企業のご令嬢でこれも素の演技なのかも知れないが……どんだけ取り繕うが所詮はゲーオタ廃神アリスだ。 しかしこいつで騙される奴がいることも事実は事実。 元銀河帝国系国家の議員には少しは評判がいいらしい。 逆に、反乱軍系国家には、皇家ディケライアを思い出させて、結果的にプラマイ0はご愛敬だが。 しかしいつまでそんな古い枠組みに捕らわれているんだろうね。このお偉いさん方は。『ではお二人を証言者として星連議会へと召喚いたします。本来ならば議会参加者は、ポイント0宙域からフルダイブしてもらう規則ですが、今回は議長権限特例として認めます』 議長の宣言と共に、承認印が示され、俺とアリスの銀河連合議会への参加承認が認められる。 『承認を確認いたしました。仮想体データを転送。フルダイブ中はお二人のリアルボディは私が責任をもって、維持管理させていただきます』 俺とアリスの背後からフルダイブ用チェアが、床から浮かび上がるように出現する。 今いるここは創天内の自宅なんで、普段は夫婦揃ってゲーム専用ハードな扱いをしているが、本来は防諜機能も兼ね備えた最高クラス、銀河連合議会仕様のフルダイブ補助機器だとのこと。 道理で反応がシャープで雑味が無いゲーム感覚だと感想を抱いたのはいつの事やら。 チェアに身体を沈めると、背中側のシートが自然と形を変え、長時間座っていても負担が少ない楽な状態へと変化する「んじゃいくか”相棒”。社長自らの営業仕事に」 フルダイブのために連合議会場との通信が切れていることを確認してから、先ほどまでの喧嘩はどこへやら、俺はアリスの方へと手を伸ばす。 椅子と椅子の距離感が、互いに手を伸ばせば丁度届くようにしてくれているのは、さすがリルさんの気づかいって所だ。「仕事って、シンタにはゲームじゃないの? 何時もの笑顔で楽しそうだし。じゃあ行きましょうか私達”パートナー”の銀河デビュー戦に! ふふん。前の時は私がいなかったから仕留めきれなかったみたいだしね」 そして俺が手を伸ばすのとほぼ同時に、異心同心な無二の相棒は同じく手を伸ばしていた。 ついそれがおかしくて互いに笑うが、同時に納得もする。そりゃそうだと。いつだって、こいつが俺らの俺達のギルドの戦闘合図だ。 俺とアリスは高らかに手を打ち鳴らして、継いで握った拳を打ち合わせ戦闘前にテンションを爆上げしておく。「「フルダイブスタート!」」 声を揃え高らかに宣言した俺達は、戦場へと向かう。 今度こそ止めを刺すために。 この銀河に俺達のコンビネーションを魅せるために。 相手は百万戦錬磨な星系連合議会議員とその背後にある数十万の惑星、星系国家群と、銀河星間国家の全種族。 だけど俺の心に恐れは無く、アリスだって無い。 そりゃそうだ。アリス曰く俺に敵は無し。何でも味方にしちまう人たらし。ナンパ師だ。 銀河全部を味方にしなきゃ地球がやばい、なにより愛娘が危うい大一番。 だけど横に最高の相棒がいるんだ。これが楽しくなくて何が楽しいって話だ。 こちとらゲーマー。無理ゲーほど燃えるってもんだ。