サクラさんとうちの娘様エリスの目的は、ウォーレン星域試験場に潜んだ大物NPC犯罪科学者絡みのクエスト。 こっちは娘様に地球人のゲーム仲間を、あと将来的な布石を見込んでの俺の仕込み。 仕込みといっても強制選択クエストでは無く、サクラさんがバウンティーハンタープレイな所に、美月さん、麻紀さんに狙いを定めて常にアンテナを張り巡らしているので、ダークサイド絡みで食い付きやすそうなクエストをお勧めクエストにピックアップ。 エリスの方は、カルラちゃんにご協力いただき、妹分がこのクエストを希望したのでと誘導。カルラちゃん本人は用事が発生したので当日離脱でソロ参加というシナリオ。 こっちは予想通りに嵌まったんだが、さて問題は美月さん、麻紀さんの方だ。 麻紀さんの新武装を買うついでに、新規アップデート関連アイテムの確認というゲーマーとしちゃ、アップデート後に当然といえば当然な行動は良いんだが、ものの見事に目的地がバッティング。 今の美月さん達は、サクラさんと遭遇戦になるだけでも大変だってのに、ウチのエリスまで参戦となれば致命的なダメージとなりかね無い。 さらに戦闘になってシークレットレアスキルが開放となれば、さらに美月さん達を取り巻くゲーム内状況は悪化する。 しかも俺は俺で、宗二さん相手の仕掛けを始めたばかり。何とか戦闘を避けさせて、レアスキルを使わせない状況へと持っていくしか無い。 『で、どう変える気だ三崎? 下手に弄って、イベントが盛り下がると主任がきれんぞ』 四人のプレイヤーの動向をチェックしつつ、俺が両手挟み打ちで必要な仕込みを並行して行っていると、新たな通信ウィンドウが開き、ヘルプに廻ってきてくれた林さんが開口一番に告げる。フルダイブ中だったのか、VR空間側の白ローブ姿だ。 どうやら中村さんが、状況説明などの根回しを既にしていてくれたようで、いきなり本題に入れる。時間が無い現状ではありがとうございますのひと言。 「誰かがレアスキルを取得すると同時に、全プレイヤーにそのスキルの取得方法を通知するのが、開祖システムでしたよね。あれを取得プレイヤーの選択制に変えるってこと出来ますか? 公開、非公開を選べる形で。非公開の時はスキルの取得条件は取得プレイヤーにも判らないって形で」 開発部の女ボス佐伯さん謹製のシステムに手をいれようってんだ、林さんが首をすくめる気持ちは十分に判る。つーか俺も、わざわざ逆鱗に触れるのはごめんだ。 だからちょっとだけギミックを付け加えさせてもらう。 最初に道を切り開いた奴が開祖となり、後に続くプレイヤーから功績値を取得出来るってのは、ほかにも隠されたレアスキルを探し出そうっていうプレイヤーを産み出す。 つまりは人は違う変わったプレイをやってみたり、変わったスキルを伸ばしてみたりと、プレイスタイルに大きく幅が出るって寸法だ。 決まりきったスキル構成やプレイスタイルばかりとなれば、ゲームに対する飽きが生まれやすく、ゲーム寿命を大きく削っちまう。 その対策が、平凡なお決まりプレイでは、先駆者として取れないスキルを導入する発端。 もっともうちの嫁含めたマニアックな連中の所為で、ガチレア条件目白押しな訳だが。『それくらいなら5分もあれば追加できるが、公開するメリットに対して、非公開側のメリットってほとんどなくないか? どう考えても公開した方が良いだろ。取得した奴だけ取得条件が知れるってならともかく』 林さんのいうことはごもっとも。非公開の時は条件を取得者だけが知れるなら、レアスキルを仲間内で独占も出来るだろうが、取得者も判らないとなれば、公開した方が断然お得だ。「ですよね。公開した方がお得って、誰でも判る……だからこそですよ」 美月さんらは今かなりの不信感と共にゲームをしている。主に俺の所為だが。 そこに降って湧いた、美味しい話に素直に食い付くか。 疑心暗鬼に陥っているなら勘ぐらせりゃいい。何かあるんじゃ無いかと。 美月さん達が初のシークレットレアスキル取得プレイヤーだが、ちょいとほかのプレイヤーの存在を匂わせれば、取らない方が良いんじゃ無いかと考え込むはず。 さらに上手いこと俺が潜んでいる事に気づけば、むしろ罠だと思うだろう。 まぁ、そう思わせる事自体が罠ってわけだが。 どっちにしろ使うのは躊躇するだろう。 ただ使った方が美月さん達の力にはなるはずだから、後でフォローも考えなきゃならないので、とりあえずの窮余の策って奴だ。『お前ほんと性格悪いな。主任にはお前が報告は入れろよ』 短い言葉だったが仕掛けの意味が判ったのか、林さんがあきれ顔を浮かべながらも周囲にコンソール群を出現させ、肉体の束縛から離れた仮想の身体だからこそ行える高速タッチでプログラムの改変をスタートする。「地雷踏まないように慎重にいきますよ。じゃあ、お願いします……おしアリス。林さんが終えるまでに美月さん側の繋ぎ頼む」 システム画面を確認すれば合体スキル取得までタンデムスキルの使用時間は、残り2分を切ってやがる。 説明する前に新しいスキルが入手できたからって説明確認されたら、中身が絶賛改変中だってが気づかれちまう。ごちゃごちゃした舞台裏はお客様にはみせないのが演者の嗜み。 ここは予定通りアリスの熱の篭もった演技で、美月さん達の目を引いてもらう一択だ。『オッケー。ミニキャラ仮想体も準備オッケーだよ』 ホログラムのアリスが右手の指を鳴らすと、その掌にはデフォルメされた二頭身アリスが出現する。 デフォルメされているが造形は細かく、服の細かな装飾にも手の掛かっていることが判る仮想体だ。 どこで使うつもりで用意していたのか知らないが、相変わらずこういう小物が好きなやつだ。「後で中身交代するんだから、あんまりきついキャラでやるなよ。きついから」『判ってるって。抑えてくから』 俺のジト目にも気づかず、アリスは頭のウサミミをぶんぶんと振り回しながら笑顔で答える。 あ、ダメだこいつ自重する気がねぇ。 オープン日に刹那とサカガミがやった寸劇風イベント説明みたいなのを、やりたいやりたいとずっと言っていてフラストレーションが溜まっていたのに合わせて、レアスキルを初発表が引き金になって、テンションマックスまであげやがったな。 通常なら後で俺がきついから、無理矢理でも押さえ込む所なんだが、シャルパさんとの再会を前に結構ナーバスになっていたアリスの事を考えると、見逃してやるしか無いか。 甲斐性無しの旦那と思われるのも癪だ。『んじゃ、いくね』 ホログラムアリスが、まぁ実に楽しげに弾んだ声で消え去り、その場に新しく仮想ウィンドウが開き、『Congratulations! この世界で初めてレア絆スキル『合体』の取得条件が解放されました! さあ貴女達はスキル開祖になる!? それとも準ユニークスキルの使い手として無双する!?』 デフォルメアリスがこれまた楽しそうな満面の笑みで降臨する姿が映し出される。 このハイテンションをいきなり目撃させられた美月さん、麻紀さんはどんな感想を抱くのやら……つーかこれを引き継ぐのはきつい。とっとと交代しないとえらいことになる。 甲斐性無しと罵られようとも構わないと思い直した俺は、もう一組の方に意識を向ける。 試験場宙域直行のブラックゲート経由の美月さん達と違い、サクラさんとエリスの方はちょっと離れた宙域のイエローゲートからの星間移動コース。 両者の到着までの時差はリアルで5分ほど。このまま行けばニアミスも良いとこだ。 となりゃ、おれが目指すのは、サクラさん側の到着時間を遅らせ、さらに美月さん達がその接近に気づけるようになるべく布石を打つことだ。 サクラさんは、元々のCBことチェリーブロッサムとしての知名度と、麻紀さんとの見応えのあるバトルを繰り返している事で、そのパーソナルマークもあって、早々に有名プレイヤー入りしている。 ざっと探ってみたが、今回のクエスト参加者の中にも、早速サクラさんに気づき対抗意識を燃やしたプレイヤー様がいらっしゃって、『プロ発見。このクエストで出し抜いてやるぜ』と、柄に桜が刻印されたナイフのパーソナルマーク入りビースト1改の画像と共にコメントをアップしている。 目的地情報と相まってベスト回答だけど、さすがにそんな偶然を期待するのは、虫が良すぎる。 かといって後輩連中を使うのはさすがにGMとして無しだ。 敵対プレイヤーの接近を特定プレイヤーにダイレクトで知らせるなんて、あまりに直接的すぎて、GM失格だ。 と、なりゃだ。GMらしい手でいこう。 コンソールを叩き、ミニクエスト生成を選択。 サクラさん達クエスト参加者プレイヤーが選択するであろう移動経路を予測して、罠を設置。 罠といっても直接的な攻撃ではなく、切っ掛けとなる種火だ。「サクラさんを感知と共に射撃管制レーダー照射と、オープンチャンネルで罵倒と……クロガネ様の台詞をちょいと改変させてもらいますか」 『てめえがCBかっ! 俺の世界をぶっ潰したHSGOのクソビッチが! でかい顔してうろちょろするんじゃねぇ!』 規制条例の切っ掛けになった事件は、HSGOの日本鯖だから、本国鯖プレイヤーのサクラさんからすりゃ全くの逆恨みで関係ないが、HSGOの有名プレイヤーとなりゃ目の敵にされるのは致し方なし。 実際に逆恨みしたプレイヤーから何度も喧嘩売られているが、それを全部きっかり買った上に、見事な魅せ技でぶっ倒してるんだよなサクラさん。 だから今回も買うだろうし、クエスト中となりゃ周りは全て敵だから、誰か判らないけど射撃管制レーダーを打たれたならまとめて、やっちまおうってなるはずだ。 オーガなんて見た目に反した二つ名が付いたのは、ここら辺の大佐譲りのアメリカン思考が理由だろうな。 バトルジャンキークイーンとしてカルト的な人気がでるわけだ。 裏の目が主でサクラさんを勧誘したが、表の企みである日本鯖のHSGOプレイヤー及びそのキャラクターデータをこっち側に取り込むための布石ってのも嘘じゃ無し。 ちょいと名指しが過ぎるが、架空のプレイヤーから喧嘩を売らせてもらおう。これも有名税って所か。 予測進路にいくつか仕掛け、1つが発動したら自動消去も設定して、運営からの罠だと気づかせないようにしてと。 乱戦に巻き込まれるエリスが不慣れなのがちょっと不安だが、サクラさんって恰好のお手本がいるんだ。これも良い勉強だな。うん。 これを仕込んでおけば、あっちで戦闘が始まって到着は遅くなるだろうし、さすがに戦闘状態で接近してくる集団があれば、美月さん達も気づくだろう。 そして精神的にきついので無視していたウィンドウに目を戻すと、なにやらマニアックな力説する我が最愛の人。『合体! そう合体です! やっぱりこの二文字を叫ぶのがスキル発動のお約束だと思いませんか!』 このノリを引き継ぐのか……うむ。予想よりきついが、やれる所まで頑張ってみよう。