「……相手を上手く、長期的に騙すコツは、考えさせること。情報を与えつづけること」 目当ての装備のためにいくつかの条件フィルターを掛けても減った気がしない商品リストを見つめ、再度検索条件を打ち込みながら美月は、先ほど羽室から伝えられた上手に騙すコツを口の中で我知らずつぶやく。 今の自分達は、三崎によって演出された舞台で躍る人形状態。ここから脱出する為には、自らの手で糸を切り、さらに舞台を演出するしか無い。 その為にはまず自分達が動きやすい状況を整える。 具体的には他のプレイヤー達の嫉妬心や恨みを買わない為に、自分達が半公式の宣伝プレイヤーだと他のプレイヤーに誤認させる事が第一ステップ。 不特定多数のプレイヤーに同じ認識をさせるのはかなり無茶な策だという自覚はあるが、状況が元々無茶なのだ。普通の手管では通用せず、手段を選らんでいる余裕も無い。 それこそ羽室の教えてくれたコツが、美月がつい嫌悪感を口にしてしまうほど嫌いな、三崎の考え方だとしても。 羽室曰く三崎の騙しは基本的に、騙す対象への情報の遮断や選別では無く、むしろ積極的に有象無象、正誤入り交じった情報を広めて、対象を考えさせ、誤認させることにあるという。 曰く、 『自分でひねり出した末の答えってのは、つい信じたくなるでしょ。だからあとから知ったちょっとした都合の悪いことも、無理矢理な手も、あちらさんが勝手に上手いこと理由をつけて納得してくれますよ』 人を騙すのに楽しそうな三崎のにやけ顔が脳裏に浮かび、静かな怒りを覚えて眉が上がりそうになるが、その眉はすぐに力なく下がってしまう。 自分も今から同じ穴の狢になるという事実、しかも自ら決意してと、今更ながら認識し、落ち込みそうになってしまった。 嘘は良くない。 小さいときに亡くなった母の言葉がどうにもよぎる。 この年になれば嘘とひと言で言っても、色々な種類の嘘があるとも判るし、全てが必ずしも悪ではないとは知っていて、母の言葉も幼児へ言い聞かせる単純な躾の1つだと判っている。 でもどうにも母への裏切りのように感じて、気にしてしまうのは、真面目すぎる美月の性分だ。 美月は頭を軽く振って、それらの、嫌な気分や、後ろ向きの考えを一時的に棚上げする。 今は目的を、結果を最優先とするしかない。 もっとも棚上げしたところで、蓄積していくことに変わりはない。何とか気分を変えなければならないと思ったその時、『あ、あの馬鹿犬。絶対に許さないんだから』 リストを表示するスペースを確保するため、に音声通信のみにして繋ぎっぱなしにしているパーティ回線から、麻紀の心底悔しそうな怨嗟の声が聞こえてきた。 何かあったのかと思って、すぐに麻紀のステータス状態を確認してみるが、当初の予定と変わりなく、無事に母船から小型艇を切り離して、特殊兵装市場へ向かっている。 変わったところと言えば、市場に着いてからの行動予定が、散策目的の自由移動から、一直線に目標に向かう自動移動へと切り変わっている事か。 付随していた特殊兵装市場の映像データを見た美月は何となく、麻紀が何を考えてあの言葉になったのか察す。 商品が理路整然として並んでいるのではなく、半分壊れたガラクタから、明らかな試作品まで何に使うのかよく判らない物が山積みになっている、おもちゃ箱のような印象。 その印象は麻紀のジャンク屋巡りに何度か付き合った時に、訪れたお店の雰囲気と被る。 もちろん規模も、並んでいる商品も全く違うのだが、乱雑に積まれたワゴンの底までひっくり返したり、いつから積まれていたか判らない埃が被った段ボールをいくつも棚から下ろして開けたりした記憶とどこか重なる。 控えめに言っても美月からはゴミにしか見えない物も、麻紀は見つける度に嬉々として喜んでいた。 麻紀があまりに嬉しそうに笑うから、価値は判らないし、理解も出来なかったが、自分も最後の方は宝探し感覚で、面白くなっていたなと美月は思い返す。 自分には理解出来ない事も、やっているうちに気にしなくなったり、楽しめるようになったりする。 その感覚を思い出した美月は、ほんの僅かだが微笑をいつの間にやら浮かべていた。 もちろん嘘をつく、他人を騙すという事にどうしても精神的なストッパーを感じてしまうのは消せないが、それでも陰鬱とした気持ちが若干和らいでいた。 「麻紀ちゃん。この間から考えていたんだけど、そのうちアンネベルグさんのVR席も割引価格で使えなくなるから、時間があるときに、この前買ったVR端末の改造に付き合ってもらえるかな? 麻紀ちゃんの好きなように弄っちゃって良いから」 本当はフルダイブしてじっくり見たいが時間制限のせいで諦めてしょんぼりしているであろう麻紀に、美月はとっさに思いついた麻紀が喜びそうな若干の嘘交じりな提案をする。 『へっ! あ、うん! もちろん。いつでも良いよ! あ、それならいっそあっちからパーツを引っこ抜いて私とおそろいのマント型にする!?』「そ、それは良いかな。出来たら普通の据え置き状態のままで……」 嬉々とした返事がすぐに返ってきて、改めて嘘にも色々あるという実感を得ながらも、美月は羽室が珍妙と表現したあの奇抜なマント型端末を断る口実を作るために、さらに嘘を重ねる羽目になっていた。「あの二人。なかなか良いコンビだな。タイプが全く違うが、いい感じで組み合わさってる」「ホウさんのお墨付きありなら一安心だ。ったく、今更ゲーム攻略に気を揉む羽目になっちまうとは。シンタのやつ今度しめとくか」 美月達のやり取りをBGM代わりに仮想コンソールを弾き情報をまとめていた大鳥の感想に対して、羽室は教師としての表情にゲーマー成分を多めに混ぜた顔で答える。 羽室も元Kugcメンバー。あのサークルの根幹たるゲームは楽しんでこそゲームという基本理念が今も息づいている。 苦しんだり、投げやりだったり、義務感でやるゲームなんてゲームでは無い。 誰かと笑いあおうが、敵と罵り合おうが、苦労しようが、怒りを覚えようが、それら全てを真剣に、そして楽しめてこそゲーム。 ゲームを楽しむ一番手っ取り早い方法は、ゲーム内で敵であろうが味方であろうが、一緒にゲームに興じる仲間がいること。 自分以外の意思、感情が入ることでゲームはその面白さ、複雑さを積層的に増していく。 大鳥の横を見れば、峰岸達男子組が、画面の向こうの後輩の美貴と一緒に手分けして多数のプレイヤーサイトや、掲示板を廻って、美月達の敵だというオウカの足取りを掴もうと、ワイワイとやっている。 その様が現役時代の自分達の姿とダブり、羽室はどこか羨ましそうで懐かしげ顔を浮かべた。「シンタをしめるならいっそ完全復帰したらどうだ? 特殊攻撃のスペシャリスト。罠師特攻ハムタロウが復活となれば、シンタに勝つ手もまた一枚増えるだろ」「その二つ名は止めてくれ。しまらないったらありゃしねぇ。それにリアルが忙しくて、んな暇なんてありゃしませんよ……盤外からのサポートが精々ですよ」 手持ちの犯罪者情報と、送られてくる農業系の細々とした情報をゲーム内で交換する大鳥からの遊びの誘いを、羽室は首を横に振って否定すると、デスクの上に置いてあった携帯デバイスを端末に差し込む。「なにやるつもりだ?」「高山達の話の中で、ちょっと気になる子がいたんで。シンタの奴がうちの生徒に変な手を出さないなら見逃してやろうと思っていたんですが、どうもそんな状況じゃ無さそうなんで。っとあったあった。これどう思います」 あの油断のならない後輩のこと。クラッキングの1つでも仕掛けて来るかと警戒して、ネットワークから隔離して保存していた映像データを呼び出す。 そこには三崎を間に挟んで、親子喧嘩をする二人の大小兎娘の姿があった。「髪色が違うがアリスと、で、こっちのちっこいのはアリスに瓜二つで髪色が黒なうえ、シンタをおとーさん呼びか。あいつらいつの間に?」「さぁ。そこは濁してましたけど、この子が、高山達の話に出て来た娘ぽいでしょ。ほんとは今度の合同飲み会用のネタのつもりでしたけど、うちのOG連中にリークしておきます。そっちの対応に追われりゃ、高山達に余計なちょっかいを出す暇も少しは減るでしょ」 恋愛系の話題は元々食いつきが良いところに、女子部連中が賭けの対象にしていた三崎とアリスがいつの間にやら隠し子となれば、入れ食い間違いなし。 「個人情報漏れは大丈夫なのか? シンタはともかく、アリスの方は世界的VIPになりつつあるぞ」「んな面白いネタを外部に流してどうしますか。うちでしゃぶり尽くすまで遊んでりゃ、シンタ達から根を上げて公開してきますよ」 誰にどの順番で渡りをつけていけば最大限の攻撃力を発揮できるか?「……ほんとお前らの所は後輩が後輩なら、先輩も先輩だな」「賛辞として受け取っておきます」 現役時代えぐい罠配置で猛威を振るっていた頃の感覚を思い出しながら、羽室は涼しい顔で答えた。「探査機能の拡張と、内部環境改善は終了と、じゃあ次は」 スキルアップに伴って使用可能になった通信装備群を上位機種に更新し、それに合わせてModを導入。 それと内部の水循環システムをフィルターを変えて、温泉の素のようなネーミングのフレーバーもいくつか購入。乗員の精神状態によって成分を入れ替えることで、効果を発揮するという代物だ。 優先すべき事項を終えた美月は次の行動にすぐに取りかかる。 それは今朝方の新規アップデート関連の確認だ。 実装予定のスケジュールやらプロ認定、他にもイベントなど新しい情報が色々と盛り込まれていたが、美月は情報過多で自分のキャパを越えるのを防ぐために、まずは視点を絞る。 気にすべきは先では無い。今だ。今回の実装ですぐに影響が出る物に焦点を合わせる。「新実装の亜空間ホーム関連アイテムに限定して……」 亜空間ホームは、ノーマル、ハードと二つに分かれているが、基本的には一繋がりになったオープンワールドのゲーム世界とは別に、プレイヤーそれぞれの個人領域となる空間。 元々はオープンイベント後に実装予定だったのが、難易度調整の失敗を認めた運営側がお詫びとして先行実装したというのが建前上の告知だ。 三崎絡みなので、それが嘘が本当かどうしても疑ってしまうが、まずそこは放置。 亜空間ホームはざっくりと考えれば鍵付きの部屋。鍵を持っているプレイヤー本人か、その招待されたプレイヤー以外は立入禁止となっている。 基本的には各主要星域や、拠点となる要塞や基地の、近隣に新設置されたホームジャンプポイントなる場所から移動可能。 宇宙中に出入り口はあるが、基本的には入った入り口からしか出ることは出来ない仕様。ゲートを無視したショートカット戦法を禁じるためらしい。 では最大の有効点はなにかといえば、それは各種の拡張機能だ。 空間内部にコンテナ船を増設すれば、ストレージとして使用。 補給、修理ドック艦を増設して、敵地での戦力回復。 または資源衛星を設置して資源の掘り出し、逆に資源を持ち込んで工場船での各種製造。 リゾート拠点や、訓練施設を設置して、多数のプレイヤーを招き入れて料金を取る拠点運営等々。 敵対プレイヤーからの攻撃を気にせず、安心して諸々の開発プレイが出来るという寸法だ。 ただ問題もあり、初期状態では内部空間が狭く、本船以外には、小型船舶を1隻持ち込むのが精々。 しかも本来であれば亜空間ホーム開設専用クエストをクリアしてから解放となる機能だったために、全プレイヤー対象の早期実行に伴い、今回はお試し期間という名目で、正規クエストをクリアしていないと、オープンイベント後には消失する旨がアナウンスされている。 そしてこれがくせ者。その正規クエストは少しばかり手間が掛かるうえに、オープンイベント関連クエスト群はPvEがメインだが、逆に亜空間ホーム関連クエストはどちらかと言えばPvPがメインとなるクエスト群。 全く被らないクエスト内容のため、オープンイベント用功績ポイントを取るか、それとも亜空間ホームポイントを取るかの二者択一となっている。 入賞を見込める上位組はオープンイベント攻略を続行。 もう入賞は無理だと諦めた下位組は先々を見据え、亜空間ホーム確保と、今朝の段階で少し見ただけでも別れている。 亜空間ホームを確保したあとにも、空間拡張クエストと呼ばれる一連のクエストを受ければ、その報酬として内部領域拡大+その空き確保領域総合値にあわせて、資源衛星やら、運が良ければ惑星クラスの星が湧いてくる通称『惑星ガチャ』なる物が実装されているのも、いやらしい。 空き空間が大きければ大きいほど、そして拡張回数が多ければ多いほど、たくさんの資源が手に入る可能性が高くなる仕様というわけだ。 そして今一番頭を悩ませているのは、美月達と同位置にいるプレイヤーだろう。入賞にはギリギリ、当落線上で苛烈な争いを繰り広げている中間プレイヤー達だ。 このまま突き進むべきか、それとも見切りをつけて諦めるか?迷っているプレイヤーは数多いだろう。 だが幸いにも美月はそれには当てはまらない。美月の目的はオープニングイベント入賞。目標が絞れているのだから、悩むことなど何もない。 それでも美月が、亜空間ホームポイント関連の新規実装アイテムをわざわざチェックしているのは、その凝り性な性分故。 自分が使わなくとも、相手が使用してくる可能性が高いのなら、調べておいて損は無い。 リストにでてくる商品は機能を追加するための船舶と、船舶をアップデートしたり、特化させるパーツが主になっている。 気になると言えば、この闇市場に並んでいるのはほとんどが中古品マークのついている物ばかりで、艦齢100年を越える物も珍しくなかったりと、今日システムが実装されたばかりなのにと、ゲームとは判っていても違和感を覚える事くらいだろうか。 リストの終わりが見えかけてきたところで、美月はスライドさせていた手を止め、商品名をタップして詳細情報を呼び出す。「緊急跳躍ブースター……ブースター稼働状態で取りつけた船はエネルギー全消失、船体耐久値半永久半減と引き替えに、無条件でどこの宙域からもホームポイントに強制帰還が可能か」 回復可能なエネルギー全消失はまだしも、船体耐久値半永久半減はかなり痛い。劣化した装甲の刷新で、高費用、長期のドッグ入りは免れないだろう。 もし利用するなら特殊レアアイテム運搬時の保険として持っておくか、捨て船を用意して、適正レベルより遥かに高い宙域に侵入しての、一攫千金狙い等だろうか。 値段はさほど高くなく、マンタの倉庫にしまっておいても問題はない。人死ににトラウマのある麻紀のことを考えて自分達用に一応購入しても良いかもしれない。 ただ、なんだろう何かが引っかかる。どうにも詳細文章に何か違和感がある。 その正体を見極めようと美月がもう一度読もうとしたところで、最小化していた通信画面が立ち上がる。「二人とも緊急報告。オウカさんの行き先が判明したけど……それがどうもそこらしいのよね」 画面に映った美貴が少し困惑を見せたまま、申し訳なさそうに告げる。『えっ!? み、美貴さん。そこって。まさかここ!?』『金山の撒いた犯罪者情報と、目撃したプレイヤーの情報から総合的に考えてだけどね。どうもその星域市場にイベント関連の大物犯罪技術者が潜伏中らしくて、かなりの数の賞金稼ぎが移動中。その中の賞金稼ぎの一人が『プロ発見。このクエストで出し抜いてやるぜ』って宣言してて、この船の映像が上がっていたの』 多少荒いが、どこかの宙域をかけるビースト1の映像が映し出される。オウカのパーソナルエンブレムである、柄に桜の花びらが刻印されたナイフが、船体にはマーキングされていた。 偶然? それとも三崎がオウカに情報をリークしたか? 一瞬焦りそうになるが美月は、息を吐いて気を落ち着ける。 ここはブラックマーケット。裏社会に属しているプレイヤーならブラックゲート経由ですぐに到着できるが、賞金稼ぎは、公権力側、犯罪者側どちらにも顔は利くが曖昧な立ち位置だが、一応はノーマル側のプレイヤーだ。ならば……「美貴さん到着までの予定時間と方角って判りますか?」『計算したけど、船の加速力次第であと10分から15分って所。別星域のブルーポイントのゲート経由だと遠すぎるから、中立のイエローポイントのゲート経由だとしたら直線距離でこっち方面からって予測』 美月の問いかけに美貴はすぐ即答を返し、周辺の3D星図に矢印が書き込まれる。 幸いにも美月達が使うブラックゲートとは、侵攻予測方向は違う。今からすぐに出れば接触は避けられるはずだ。しかし問題は、「こっちは改装終了してるけど、麻紀ちゃんの方は?」「あーぁ。ごめん美月。大規模改造だからあと20分は掛かる予定。整備時間に介入できるミニゲームをといても12~15分って所。とりあえずもう始めてる!」 取り替え等で簡易改装ですんだ美月と違い、麻紀の方は新アイテムを装備する重改装。どうしても時間は掛かるのは仕方ない。 時間はギリギリ。もしくは既にアウト。隠蔽工作はしているから、このまま見つからないことを祈り嵐が過ぎるのを身を縮こめて待つべきか。 だが美月達が、オウカの動向を探っていたのは逃げるためでは無い。自分達のはったりを利かすために、別ゲームとはいえプロであるオウカは恰好の材料だからだ。 今まではただ見つけられ、戦いを挑まれていたばかりで後手に回っていた。しかし今日は先に見つけ、その動きを察知している。 先手のアドバンテージを次にいつ奪えるか? オープニング期間は残り半分を当に切っている。『美月ちゃんどうする?』 葛藤して思い悩む美月を見てその真意を察したのか、美貴が行動方針を尋ねる。指示するのでは無い。自分達の行動を決めるのは他ならぬ美月達だ。 どの選択肢を選ぼうと美貴がサポートしてみせるとその目は物語っている。「……仕掛けます。私が先にフルダイブからの祖霊転身で仕掛けて、あっちのフルダイブ時間を削ります。そのあとに麻紀ちゃんが来てくれれば、制限時間の関係でこっちが有利です。上手くやれば、この先の制限時間の無駄な消費を削れる絶好の機会です。麻紀ちゃんそれで良い?」「もちろん! あの馬鹿犬に目にもの見せて、ついでに首輪をつけてあげるんだから!」 ミニゲーム用の問題を必死にとく麻紀が、ウィンドウショッピングさえまともにでき無い怒りをぶつけるためか吠える。『オッケー。二人とも覚悟できているならこっちは文句なし。なら戦闘宙域は星系最外縁部のラグランジュポイントをお勧め。ギリギリでウォーレンの警備艦隊の守備範囲の外で、不法投棄された廃棄船が集まった船の墓場って所みたい。場所は良いけど問題は他の賞金稼ぎプレイヤーね』 二人の回答に頷いた美貴が予測進行方向から少し外れた、危険宙域をピックアップして表示する。 遮蔽物が多く、まともな廃棄処理もされずただうち捨てられた船もあるためか、エネルギー反応の高い所もちらほら観測できる。 戦闘行為が禁止されている星域内からは少しだけ外側なので、下手に刺激しない限りはウォーレンの警備艦隊を呼び込む可能性も少ない。 問題は状況次第だが敵がオウカだけで無く、他の賞金稼ぎもいることだ。オウカだけを釣れれば良いが、面白そうだからと本来のクエストを放棄して、美月達に仕掛けて来る輩が混じっていないとも限らない。 しかも美月達の絶対プレイ方針はNPCも含めた不殺。過剰な攻撃で排除というわけにも行かない。「今からすぐにその賞金首クエスト関連の一次情報を集めて、接敵と同時にばらまいてみます。こっちにかまけるよりも、実入りが多い方を取った方が良いですから。もちろん一対一でも勝てるわけはありませんから、時間稼ぎを徹底するつもりです。そのあとは美貴さんが提案してくれた交渉に持ち込みます」 資金を惜しまず投入して美月は情報を得ようとコンソールを叩く。美月達は賞金首と言っても小物。捕まえたところで入るのは少額の賞金。 他になにも餌が無いならともかく、目の前に美味しい餌までの経路が示されているならば、美月達にこだわるのは何らかの理由がある者だけ……それこそオウカだけだ。 もっとも近接戦闘特化でプロのオウカと、自分がまともにやり合えるわけが無いのは、美月も重々承知している。 麻紀ならば、自由に動かせる手があればどうにか出来る。 そしてなんとか今の戦力のみで引き分けまで持ち込み、さらに切り札である『合体』スキルを提示して、再戦を、エンターテイナー気質のオウカの性格ならば乗って来るであろう日時を決めた決闘の約束を行う。 いつ襲撃してくるか判らないならば、こちらから決闘の約束を結び、その日までの安全を得る。これが美月達の計画だ。 『欲をかかないなら上出来。さてと、時間稼ぎの戦闘がメインとなれば、タロウ先輩! ここは一つ先生らしく罠師のお手本のご披露お願いします!』 明るい笑顔で返した美貴は、ついで悪い笑顔を浮かべると、羽室を呼び出し、無茶な提案を言いだした。『だからその名で呼ぶなって言ってるだろうが。どれだけブランクあると思ってるんだ。しかも別ゲームじゃねぇか』 嫌そうな顔を浮かべた羽室が睨み付けるが、美貴は悪い笑顔のままで続ける。『そこは先輩の生まれ持った底意地の悪い罠センスでどうにか出来ますって。美月ちゃんの船は、探査系でレーダー設備強化タイプ。その上で宙間用子機も満載しているとなれば、アレしか無いでしょ。SF系の対戦ゲームで得意手だったって、シンタ先輩から聞いてますよ。私達に1回貸しを作れると思って、ここは1つお願いします』 『ったく……可愛い後輩の頼みじゃしょうがない。高山。細かい指示はあとでするからまずは移動しろ。罠を張るなら時間が惜しい。こっちはその間に手持ち装備で出来る事なんかをザッとだけでも概要で捉える』 深々と息を吐いた羽室が顔を上げると、了承の返事を返す。 その顔は普段の気の良い若い教師から、もっと野性的というかぎらぎらとした、そして言葉とは裏腹に楽しそうな、美貴と被る悪い笑顔に切り替わっている。「は、はい。お願いします。マンタ。発進します!」 いきなり雰囲気の変わった羽室に戸惑いながらも、律儀に頭を下げた美月は、すぐに発進準備に取り掛かった。