星域調査クエストとひと言で言っても、クリアまではいくつかのルートがある。 今回の場合は、居住に適した惑星が存在しない無人星系丸まる1つが調査対象区域。 恒星はもちろんとして、岩石惑星、ガス惑星、大規模な小惑星帯など、様々な環境が存在する星系の中から、資源採掘に適した場所を探し出すというものだ。 今回美月がその数多くある選択肢から目星をつけたのは、選択種族であるアクアライドに有利なフィールドである海洋惑星。 アルファベットと数字のみの無個性な認識番号を持つ調査惑星Evn297は、その全域の99、9%以上が海で覆われた海洋惑星。 陸地は僅かながら存在するが、それはどれも海底火山の隆起によってできた小島ばかりで、今も活発的に火山活動が行われていて地上施設建築が不可能となっていた。 しかし推進剤やら燃料としても利用可能な豊富な水と、活発な火山活動で生み出されるレアメタルは採取対象として魅力的で、資源採取惑星としての開発価値は高いと評価されるタイプの惑星だ。 『大気圏突入完了。艦外温度変動によるダメージは許容範囲内。着水後各部署ダメージチェックを開始します』 赤道上から突入回廊でEvn297に降下したマンタは、慣性制御で大きく速度を落としながら大海原にゆっくりと着水する。 艦外映像が沸き立つ水蒸気で真っ白に染まり、それにともない急速に船体温度が下がっていく。 急激な温度変化で少しばかり耐久値が削れるが、簡易メンテナンスで復旧可能な軽微な物。 それよりは今はクリアな情報リンクが可能となるアンテナ群を展開する方が急務だ。 「アンテナを展開可能になったらすぐに調査モードに移行してください」『ヤヴォール……ダメージチェック終了。全機能オールグリーン。艦外温度低下。耐熱装甲開放。テールアンテナを展開します』 マンタ後方に取りつけられた長いテールアンテナの表面装甲の一部が変形して開き、中から無数のバスケットボール大のプローブが放出される。 プローブは空中、水中に展開しながら、各波長を感知しやすいように加工が施された分子複合体ワイヤーを引き出し、マンタを中心に半径700メートルの巨大なアンテナを形成する。 尾を中心にアンテナ群を展開したその姿は、無数の小花が伸びた球状の大花のような形となっている。 これは防御力が激減し、移動力もステルス性能も皆無となるが、探知能力が最大となる、探査船であるマンタが一番能力を発揮する調査モードと呼ばれる形態だ。 「全ポッドデータ再リンク。リンク完了後各ポッドはプローブを放出。データ取得をしながらこちらへと移動を開始してください」 調査モードへの変形が完全終了すると同時に、美月は惑星全体を現した簡易球体図を見ながら、大気圏突入の影響で一時的にリンクが切れていた各ポッド群とのリンク回線を再接続する。 本来ならば降下後、各ポッドを発艦でもよかったのだが、今回は事情が事情。 時間節約のために、多少の経費がかさむのは覚悟の上で、惑星降下前に各ポッドは大気圏突入用の使い捨て耐熱耐衝撃フィルターで包んだうえに、電磁射出機能で一足先に調査開始予定ポイントへ送り込んであった。 これで稼げる時間はせいぜい5分くらいの違いだろうが、その5分が今は貴重だ。『ポッドより探査プローブ射出。設定領域内での自動探査開始します』 美月の指示に従い高高度飛行する各ポッドから、複数のプローブが放出される映像がサブウィンドウに映し出される。 軽量化されたボディをもつ大気圏内用プローブ郡は、落下しながら折りたたまれていた翼を展開して広げる。 低速滑空状態となったプローブの群れが水面ギリギリを飛んでいく。 その人造の海鳥たちが電波、音波、重力波の各探査波を発し、その反響波を複合センサーをもつ探査ポッドやテールアンテナが受信。 受信したデータをマンタのメインコンピューターが解析し、海流や海底地形、埋没している資源の種類や量などを算出していく。 初期艦であるマンタが搭載できるポッドは最大6機。 そしてそのポッドには、大気圏内用プローブであれば、それぞれ最大で40セットまでが搭載可能となっている。 これが惑星軌道上からの調査も可能な宇宙空間用プローブとなれば、自力推進機能の増加や調査機器が大型化するので、5セットまでとなってしまう。 コストはかかるが時間効率の良い降下調査と、コストは安いが時間のかかる軌道上調査。 この両者を比べて、大気圏離脱の手間とエネルギーが余分にかかるが、母艦であるマンタで惑星大気圏内までわざわざ美月が降下したのは、やはり時間が理由だ。 計240機のプローブと最大モードで稼働するマンタによる広域調査は、今のところハーフダイブの通常手段で望める最大効率を発揮する。 しかしそれでもマンタを中心とした3000キロ平方メートル。 おおよそ関東平野1つ分にも及ぶ広大な範囲で、しかも詳細な調査データとなれば低速飛行にならざる得なく、時間がやはりかかる。 完了までを表すステータスバーは じりじりと燃える火縄のように徐々に減っていくだけだ。 無論美月もただそれを眺めているだけではない。 PCOも他のゲームと同じように、その行動に関連したスキルレベルやステータス値によって、成功確率や上昇値の上乗せは一定値以上で保証されている。 それに加えどんな些細な行動であろうともプレイヤーが手をくわえる余地もある。 デメリットは特になくマイナスが付くこともないが、プラス効果もせいぜい5%から最大でも10%上昇するという物。 やってもいいし、やらなくても良し。ただ少しだけお得あり。 要は指示を出した後、ただ時間を潰すのではなくゲーム内ゲーム。 簡易なミニゲームとして、待ち時間もプレイヤーを楽しませようという仕掛けだ。「サブシステム起ち上げてください。選択オプションは調査効率上昇で」 燃料節約。レア資源発見確率上昇。耐久値減少低下。 いくつか並んだオプション項目の中から美月が選んだのは、もちろん調査時間が短縮される調査効率上昇だ。 『ヤヴォール。オプション選択。サブシステムを立ち上げます。ミニクエスト発生』 ランダムで選ばれるというミニゲームが選択され、新たに6つのウィンドウが表示される。 ウィンドウはそれぞれのプローブ群と、その一機一機の配置を表す光点だ。 各プローブはフラフラと動いているが、それとは別に光点より少し大きい赤線で描かれた固定枠が表示されている。 ほぼ全ての光点が赤枠の外に飛び出ていたり、赤い線の上やその近くで外れそうになっていた。 『フロライン美月。各プローブを操作し、適正点内に留めて陣形を維持してください。効率上昇効果がかかります』 サポートAIの説明と共に、サブウィンドウにミニゲームの詳細が表示される。 簡単に言ってしまえば、動いて外れそうになる光点を、赤い枠内に指で動かして留めろという簡単なルールだ。 説明をざっと読んで主旨を理解した美月は、早速両手を伸ばし大きく外れていた光点を本来あるはずの枠の中に放り込んでいく。 「っと。この。あっ。っちょっと止まって!? 滑らないで!?」 簡単かと思っていたがこれが案外に難しい。 光点それぞれの動きやすさが違っているのか、簡単に動く物もあれば、指を当ててもゆっくりとしか動かない物もある。 そして重い物は指を外せばすぐに止まるが、簡単に動く物は、美月が指を外してもすぐには止まらずそのまますっと流れて反対側の枠からはみ出してしまう。 出てしまった物を慌てて直している間も、先ほどまで枠に入ってた物が動いて外に出てしまう。 それが画面6個分で計240もあるのだ。 複数の画面を同時に見ながら、せわしなく美月は手を動かしていく。 短気な者なら、ちょこまかと動く光点に段々と苛々して、終いにはぶち切れて自らの手でぐちゃぐちゃにしてしまうかもしれない。 だが幸いにも整理整頓を好む美月は、この手の単純作業は嫌いではない。 むしろ無頓着すぎた父の反動もあってか、少し神経質気味なところもあるので、ちょっとずれている方が気になってしょうが無い。 悲鳴をあげつつも徐々に集中してきた美月は、苦戦しつつも4割近くの光点を枠の中に押しとどめることに成功していた。 サブウィンドウに表示される稼働効率上昇率は104.4%。 こんな簡単なゲームで4%も上がるのかと、苦労しているのに僅か4%しか上がらないと思うかは人それぞれだろう。 美月はどちらかと言えば前者だ。 上昇した効率がこうやって数字で表示されているので、目に見えた成果があればやる気が持続できる。 そのうちに慣れて来たのか、いろいろと考える余裕が出て来た美月は、最初は思うままに動いていたように思えた光点にも一定の法則性がある事に気づく。 6つの画面に映された光点の中から最初に動き出す画面と、その後から動く画面があり、それぞれ単独の画面内でも、動いていく光点には一定の方向性があるようなのだ。 何故光点が、プローブが動くのか? その答えにすぐに気づいた美月はサポートAIに指示をだす。「サブクエスト画面に風の予測表示をお願いします。できたら予測を分かり易い形で表示してもらえますか」『ヤヴォール。気圧情報取得。風向風速予測データを重ねあわせます』 光点が表示されるサブクエスト画面に重ねあわせるように半透明状の新しいウィンドウが展開され、これから吹くであろう風が矢印の形で表示される。 そして美月の予測通り、その矢印が当たると光点がゆらりと動き枠外へと出て行きそうになっていた。 美月が使う大気圏内用プローブは、大量搭載可能で長距離無補給航行が売りの軽量型。 だがその軽量が逆に今は仇になって簡単に位置がずれているようだ。 しかし風の予測データを表示したことで美月の負担はグッと減る。 動きそうな光点と、そうで無い光点が事前にわかるので、全画面をせわしなく見るのは変わらないが、点を動かす腕は必要最小限ですむからだ。 矢印が当たって動きそうになった瞬間に点を抑え、そのまま枠の中に維持させつつ、空いている指や反対の手で、外れている点を枠内へと放り込んでいく。 劇的に動きが変わった美月の手に合わせ、稼働効率もぐんぐんと上がっていき108.4%まで上昇する。 しかしさすがにそれ以上にあげるには手が追いつかない。 だが美月は無理をしない。 全部を枠内に留める最高の結果を目指すのではなく、自分の力で可能な最適がこの辺りだと判断し、108%を最低ラインとして維持を目指す。 もし焦って手の動きが雑になって無事な光点に触ってしまえばずれてしまう。 そうならないように慎重にそして確実に点を枠内へと留めていく。 最高ではなく最適を目指す。 これがゲームに限らず美月の今の基本スタンスだ。 それは決められた枠内では、最良の結果を生み出す事は出来るだろう。 しかし逆に言えば枠を越えた結果は、絶対に得られないという事でもある。 その枠をはみ出す、自分で決めた限界点を自ら破る意思は、今の美月には意識的にも、無意識的にも無い。 それは失敗を恐れるからだ。 手に入れた物を無くさないように慎重になるあまり、新しい物へと手を伸ばすことに躊躇する。 だから美月は今も時間短縮の切り札であるフルダイブや、それ以上の力を発揮する祖霊転身を使えないでいた。 今使ってしまえば、先に苦労するかも知れない。 必要な時に使えなくなるかも知れない。 とある兎娘なら美月の性格をこう例えるだろう。 エリクサーを惜しんでラスボスまでため込む性格と。 そんな美月の性格を誰よりも知る者がいる。 そしてその者を味方にしたGMが、美月が殻を破る、無理をするための切っ掛けを組み込んでいるのは必然。 だからこれも起こるべくして起きた事態だと知らない美月に1つの緊急連絡が届く。『フロライン美月。フレンドのミネシ様より緊急通信が届きました』 ミニゲームに必死な美月の元に届いたのは、プレイヤーネームであるミネシこと峰岸伸吾からの通信要請。 フレンド設定しているプレイヤーからの連絡は、ステルス状態以外では基本即時接続設定となっていたので、視界の端にまたも新しいウィンドウが立ち上がり通信が接続される。「ごめん峰岸君。ちょっと待っててもら」『高山! 西ヶ丘がやばいらしい! そっちに連絡って来てるか!?』 少し待ってもらおうと思っていた美月だったが、恒星間通信回線が繋がると同時に画面に現れた伸吾は余計な前置きは抜きで簡潔に状況を話し、同時に映像データを送ってくる。 伸吾が映っていた画面が切り変わる。 そこには美月が先ほど通り抜けてきた小惑星帯をバックに、スラスターを駆使して逃げる麻紀のホクトと、機敏な動きで小惑星を蹴り進みながらその後を追う人狼型の巨大機動兵器の命がけの鬼ごっこが映っていた。 巨大人狼ロボットが爪を振るう度に要塞艦の残骸が切り刻まれ、尾を振るう度に小惑星が粉みじんとなる。「え!? これって!? なんで!?」『どうしてこうなったかは俺らもわかんねぇ! ただ西ヶ丘も祖霊転身してる状態で、正式オープン後初の祖霊転身対戦ってことで会場でも大きくクローズアップされてる! しかも美貴さんの話じゃ相手が別ゲーの超上級者らしい! さすがに西ヶ丘だから回避してるが、段々読まれてるみたいでやばいぞ!』 伸吾の言う通り逃げ一辺倒の麻紀は何とか直撃を避けているが、徐々にだがその回避速度や回避距離が縮まっている。 麻紀の相手はアルデニアラミレットの戦闘特化タイプで、しかもプレイヤー自体が麻紀よりも上の腕前。 そんな相手に麻紀も良く回避している方だが、まともに直撃を受ければ一発轟沈は疑うまでもない。『俺らも美貴さん達も、ゲーム内の現在地が遠すぎてヘルプはすぐに無理だ。ゲーム内でも死亡って西ヶ丘の場合は精神的にまずいだろ!』 人の生死に過剰反応する麻紀のことは伸吾達も知っているので、どうにか助太刀しようと考えたようだが、広すぎるPCO内では互いの位置から無理だと判断したようだ。 現実的に間に合う位置にいるのはゲート1つ分の星系の美月のみ。 今すぐ調査を止めて、すぐに麻紀の下に向かうべきか? 麻紀は攻撃は出来無いが、自分はできる。 あんな動きをする化け物に当てられる自信は無いが、それでもなにもしないよりマシだ。 しかし……それは麻紀の気持ちを踏みにじる行為。 麻紀は最悪襲われたとしても足止めすると言っていた。 それが自分の役目だと。 実際に麻紀からは救援要請は入っていない。 麻紀が引きつけてくれている間に自分がすべきは……初めてのクエストを最低レベルでもクリアすること。 なら悩むまでもない。 美月は1つ深呼吸してから出すべき指示を声にする。「フルダイブ用意。フルダイブ後に祖霊転身いきます。水分子機械(ウンディーネ)発動準備」 今の瞬間まで必死にこなしていたミニゲームをあっさりと消し、美月はフルダイブへと入る準備を始める。 ハーフダイブ特化機であるGZタイプⅢカスタムでは、フルダイブ時の性能は専用機に多少劣る。 貴重なフルダイブ時間を消費し、一度使うと回復まで自然回復には時間のかかる祖霊転身も使ってしまう。 しかもゲーム開始初日でだ。 だが……それがどうした。 様々なデメリットを無視しても、今が切り札を切るべき時だと美月の心が訴えていた。 なら悩むまでもない。 『お、おい高山!? 向かうんじゃないのか?』 「クエストの最低クリアが終わったらすぐいくから。峰岸君それまで相手のデータ収集とか地形データを頼める? あれだけ派手な戦闘やってると私の持ってる星図データとかなり変わってるだろうから」 道が決まれば後は進むだけ。 自分がやるべきや知るべき事を頭の中でリストにしながら、美月は意図して作った冷静な声で伸吾に頼みながら、心の中で何度も唱える。 焦るな。 失敗はできない。 最高効率を求めろ。 自分で自分を追い込むことで美月はより冷静になっていく。 理路整然とした無感情な自分を頭の中にイメージして、その思考をトレースする。『……判った。誠司と亮一と手分けして集めるから回線そのまま維持しとけ』 少し素っ気ない美月の態度にその本気度を感じたのか、伸吾は気を悪くするでも無く快諾すると、画面は麻紀の映像に固定された。 何時もの自分なら、必死に逃げる麻紀を見ていろいろと焦ったり考えたりするだろうが、今はただ1つしか頭の中にない。 如何に早くクエストをクリアするか。それだけだ。 その先を考えるのはその後だ。 父が亡くなった思ったあの時、唯一の肉親を失って世界が暗闇に包まれたサンクエイクの起きたあの日。 悲しさや不安で壊れそうになった美月は自己防衛本能からか、感情を押し殺してただただ深く深く目の前のことだけを考えるようにしていた。 全ての事象を物として捉えて、目の間にある計算式を解くように、日常を淡々と過ごして、感情を覚えないように、悲しみを抱かないようにと先を見ていなかった。 あの時は必要だったと理解しているが、それでも美月はこの冷静すぎる、そして盲目的な自分があまり好きではない。 父の死にも泣けず、ひょんなことから知り合って美月を心配してくれた麻紀の気づかいも目に入れずほとんど無視して、ただ淡々と1つのことに集中する自分を。 しかし己の全てをただ1つに向ける。 この一点に特化した集中力が、今は必要だ。 フルダイブに入る前にするべきシート位置の調整や、没入後のコンソール配置を先に終えた美月はシートを倒して横になる。「フルダイブ開始」 深く静かに眠るように美月は、仮初めの世界へと沈んでいった。『美月様もフルダイブへと移行したようです』「さすが清吾さん。娘の扱いをよく判ってらっしゃる」 美月さんに本気を出させたければ、本人を弄るより周りを弄ってやれ。 リルさんからの報告に、俺は清吾さんから聞き出した美月さんの特徴を思い出す。 美月さんの場合なんせ父親が、一人娘をほったらかして、単身月にまでくるようなあの学者馬鹿熱血系な清吾さんだ。 いろいろと思うところはあるようだが根が真面目な上に父親も好きなので、我が儘も言わず、かなり我慢強い性格になってしまったのは致し方ないだろう。 だから自分のみに起きる理不尽や危機にはじっと耐えて、その状況で選べる無難な道を選んでしまうとのこと。 そんな美月さんに無茶を、限界を超えさせるには、周りをいじくった方が早いってのは実に的確なアドバイス。 まぁもっとも、そのアドバイスをされた後に、そこまで娘のことなら判ってるなら、もっと構ってやれよと突っ込んだのは当然だし、そのままてめぇに返すって突っ込み返されたのは必然だったりと思わなくもない。 「フルダイブ同士の戦闘が派手で視聴率は上がり傾向と。よしよし。上出来上出来。さすがに旧帝国派の代表格アルデニアラミレットと、革命派の中核ランドピアース。盛り上がりにはことかかねぇな」 室外機に腰掛けながら複数のウィンドウを弄って銀河中に張り巡らせた仕掛けの成果を確認。 星系連合内の二大派閥。 旧帝国派と革命派。 その仲の悪さは実に溝が深く、先々を考えると修復が難しいにもほどがあるんだが、今はそれが付け込む隙なんで良かったり悪かったりと。 特にサラスさん達旧銀河帝国親衛隊の出身種族でバリバリの武闘派アルデニアラミレットと、居住惑星を壊され逃げた先でも執拗な攻撃で種族浄化されかけたランドピアースの確執ときたらひどいもんで、連合議会でも角を突き合わせるのが日常茶飯事。 辺境域じゃ海賊やら、バーサーカー艦に見せかけた小競り合いと笑えないレベルの戦闘さえも時折起こっていたりと泥沼状態。 例えこれがゲーム世界。しかも辺境の原生生物が作った仮想空間内といえど、各々の種族の特徴や種族名を持つ者同士の戦闘だ。 あの高慢ち……プライドの高い連中が、その勝負の行方が気にならないはずがない。 原始文明種族とナチュラルに見下しくださっている高度文明な方々の、プライドを刺激してまずは地球人に興味を持たせる、注目をさせる。 そのファーストアタックは成功と。 「くくっ。いや上手く良きゃいいやと思っていたが、さすがにこうまで見事にはまってくれるとは。さすが麻紀さんに、大佐の娘だわ。しかしエイリアンね。ぷっ! いや確かにあのマントとモノクルは異星センスだな」 まずはコアプレイヤー同士の戦闘になればといろいろと小細工をかましていたが、そのたらした針にくっついたダボハ、もとい戦闘狂なチェリーブロッサム。 しかも食いついた先にいたのが麻紀さんなのがナイスだ。 本名サクラ・チェルシー・オーランドことサクラ嬢のプロフィール画面を見ながら、俺は堪えきれない笑いをこぼして腹を抱える。 こう言っちゃなんだが、やっぱりあのゲーオタ大佐の娘だけあって一筋縄でいかないにもほどがある。 まさか全く見当違いの方向からとはいえ、このPCOの裏面の一部を言い当てやがるとは。 『三崎様よろしいのですか? サクラ様に我々の事情を看破されかかっているのではないでしょうか?』「いやー大丈夫ですって。あのお嬢ちゃんにかかっちゃ、そこらを歩いている野良犬もちょっと毛色が違うとエイリアンですから。さすが俺の中でアリスと並ぶくらいアレな趣味と嗜好ですからね。誰も本気にしやしませんよ」 勘が鋭いんだが、鈍すぎんだかわからないが、全く見当違いかつ大げさに捉えるサクラさんが騒げば騒ぐほどに、真実は闇の中ってか。 宇宙向けに目立てるキャラ立ちもして、丁度いいカモフラージュになって、その上でVR戦闘だけはピカ一。 なんつー良い人材。親父さんの大佐もリーディアン時代にはお世話になったが、娘も極上とはやるなあのタフガイ親父。 「リルさん。火星の大佐に娘さんの全宇宙デビューを祝って、後でワイルドターキー持ってきますって連絡を頼みます」『オーランド大佐でしたら既に飲みモードで宴会に入っておりまして今は連絡不可能です。大佐より三崎様への御伝言として『セーゴとアライアンスを組んだから娘との接し方をレクチャーしてやる』と頂いております』 リルさんはわざわざ大佐の伝言の部分だけ、本人の野太い声の英語訛りの日本語で伝えてきたが、正直あのサクラさんを見ると、そのレクチャーを受け入れた際のエリスの将来に不安を覚えるんだが。「つーか人が真面目に仕事してるってのに、もう飲んでやがるのかよ。あの親父共は」『火星ファクトリーの方々を中心にレザーキ博士の植物園で前祝いと称して宴会を開催しておられます』「それ常設じゃないですか」 飲むのは嫌いじゃないがあのウワバミどもにつきあってたら、二日酔い、三日酔いは確定で遠慮を願いたい所。 最近はレザーキ植物園というか、農園やら酒造とでも呼んだ方が合ってる気がしなくもない。 百華堂用のサトウキビの絞りかすで、火星ラム酒を作るとかいろいろやってるしなあの人ら。 しかも一番の酒豪が見た目通りな大佐と、物静かな王教授と両極端なあたり、火星ファクトリーは飲める酒の量=立場だったりしないかと本気で疑いたくなる。 まぁおかげで、ディケライアの酒仙ノープスさんと飲みニュケーションで楽しくやっているんで結果オーライか。「さて、んじゃ火星に負けず観客様に盛り上がってもらう為にもいろいろ仕掛けてきますか」 コアプレイヤーらは、それぞれ程度の差はあれど必死だったり、かなり真剣に悩んだりしているのに、その対象共はお気楽極楽なこって。 もっともそうでも無きゃ、月にまでいったうえに、今の状況も平然と受け入れるような図太い精神は持てないだろう。 さすが地球文明の最前線を行くフロンティアランナー達と感心しつつ、俺は仮想世界のフロンティアランナー達の活躍を楽しく弄らせて貰う事にした。