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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行
Name: 白色粉末◆9cfc218c ID:649cc66a 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/28 06:20
 巧遅よりも、拙速である


 潜入だろうが突入だろうが、入り込む場所の見取り図があるのと無いのでは全く違う。僅かでも詳細な情報が重要になって来る。そんなことはゴッチだって知っている
 だが、情報収集などしている暇は無かったし、そう言った事が不得手なゴッチが付け焼刃で諜報活動を行っても、先方を警戒させる結果に終わるのは目に見えている

 アラドア・セグナウ将軍の屋敷の横には、都合のいい事に小さな林があった。手入れの行き届いたそこはどうやら屋敷の庭らしく、茂みの中で息を殺しながら、ゴッチは迷っていた

 「(結構でかいじゃねぇか)」

 見張りは、目に見える範囲にはいなかった。門番が二人いるだけである
 内乱中の国の要人が住まう屋敷にしては、妙に無防備だ、とゴッチは感じた。下手に突っ込むと碌な事にならないような気がする

 一応、偽装の為にフェイスペイントを使用していた。泥と、偶々見つけた木の実を使用し、中々ドギツイ色に仕上がっている
 問題は服の方だ。こちらはどうにも目立つ。この世界では唯一この一着しかないスーツから足取りを追われたら、それこそ面倒だ
ゴッチはスーツを脱いでトランクス一丁になり、赤み掛かった肌をパシンと叩いた。潜り込みやすいように、屋敷内部の者の服を奪うのがよいと思えた

 木に掛けて置いたが、不安は無かった。曲りなりにも防刃、防弾、耐熱の三拍子揃ったエレガンテ溢れるスーツが、虫食いなどで被害を受ける筈がない

 「碌な事にならねぇーってんなら、どうなるってんだぁー? えぇ? オイ。糞ったれがよォー、そんな事解ってるっつーの。この俺様に、異世界の軟弱者どもがどんだけ束になろうが敵う訳ねーんだ。えぇ、やったろうじゃねーか」

 ゴッチが茂みから立ち上がって、眉を吊り上げた
 視線の先には、屋敷の屋根からピョコンと飛び出た煙突がある。ゴッチの世界でも、酔狂な奴が時々あんな物を拵えたものだ

 穏便に事が進まなきゃ、そん時はそん時で構わない。ゴッチは、体勢を低くして駆け出す

 取り敢えず、仕事をしていた庭師を殴って昏倒させる事から、仕事は始まった


――


 ダージリン、数日ぶりの帰還

 「ダージリン様。お帰りなさいませ。ゴッチ様から言伝を預かっております」

 黒いローブをのフードを脱いで、首を傾げるダージリン。ここ数日面倒続きだった筈だが、疲れていても涼しげな表情は崩さない
 侍女が声音を変えて、ゴッチの物まねをしてみせる。当然だが、全く似ていなかった

 「アバよ」

 親指を立ててみせる侍女。意味を汲み取れず、沈黙するダージリン

 メイドが、一度咳払いする。恥ずかしげに居住いを正し、頬を赤らめた
 恥じらいながら、酷く残念がっていた。ダージリンの帰還がもう少し早ければ、ゴッチに会えただろう。仕方のない事ではあったが、間が悪かった

 「ここ連日、朝から夕方まで外出なさっていたのですが、今日は朝出て行かれたと思いきや、昼前にお戻りになられまして。そして、直ぐまた出て行かれました。…………元々荷をお持ちでない方でしたが、身の回りを整えていらっしゃるようでした。私が思いますに、もうここへお戻りになられる心算はないのでは、と……」
 「馬鹿な」

 ダージリンらしからぬ発言であった。僅かに見開かれた目。俄かにだが、苦しげに表情が動く

 「……私に聞きたい事があると、私が教えてやらねば」

 侍女が不思議そうな顔をした。ダージリンは、氷の女だ。常ならば、自分の胸の内を、例え身近な侍女にだって話はしない
 必要な事以外は、あまりやらない女だ。必要ないから悪口は使わないし、どうでも良いから誉め言葉も使わない。こんな愚痴の様に漏らす事など、今までなかった

 ダージリンは意味もなくフードを被り直すと、侍女の横をすり抜けて行く

 「そうか、行ってしまったのだな」

 ゴッチは馬鹿だが、間抜けでは無かった。自分の行動でダージリンに迷惑が及ぶ可能性、或いは

 ダージリンが敵に回る可能性。諸々の事を、理解していた。

特に、ダージリンを敵に回す事の厄介さ加減は


――


 最初は壁に張り付いて、足音を聞いた。屋敷の規模はダージリンのそれと大差なかったが、働く人員は比較にならないほど多いように感じる
 ダージリンは、人嫌いの気配を全身から滲ませている人種だ。人が少ないのは、奴の意向だろう

 ゴッチは窓に取りついて、中を覗き込む
ダージリンの屋敷より多い、とは言っても、屋敷は屋敷だ。ゴッチの行動に支障が出るほど人が多い訳ではない。丁度いい所に、軽装の鎧を着込んだ兵士が一人で廊下を歩いていた

周りを見渡せば、勝手口も見つかる

 「(アレにすっか)」

 兵士が通り過ぎるのに合わせて、窓を叩いた
 訝しげな顔で、兵士が窓に近寄って来る。外を見渡すが、見る限り異常は無い。ゴッチは桁外れの跳躍力で飛び上がり、窓の上の、石造りの壁の隙間に指を食い込ませて、ぺろりと舌を出している

 兵士が首を傾げながらも踵を返したとき、ゴッチは地面に降り立って、もう一度窓を叩いた
 警戒心を剥き出しにしたのは、兵士だ。一度ならば気のせい、と言うのもあり得たが、二度目があればそれは異変だ。腰の剣を抜き放ち、慎重に勝手口を開けて外に出てくる

 ゴッチは兵士に呼び掛けた。兵士の、背後からだ

 「よぉ、兄ちゃん」

 兵士は中々勘が良かった。前方に身を投げ出し、距離を取ってから振り返ろうとする
 ゴッチはそれにぴったり付いていく。振り返った兵士の顔が驚愕に染まった瞬間、ゴッチの拳が減り込んでいた

 「叫ぶな。叫んだら殺す。というか、抵抗したら殺す。マジだぜ」

 倒れ込んだ兵士の背中に、ゴッチはどっかりと腰を降ろした。呻き声を上げながら兵士は身を起こそうとするが、ゴッチの右腕がそれを制し、兵士の顔面を地面に押し付ける

 「実はな、聞きたい事が、あるのよな」


――


 兵士は頑なで、忠誠があった。主君と同僚を裏切るくらいなら、八つ裂かれる方を選ぶ男だった

 カロンハザンとファティメアの居所を知っているようだったが、沈黙を保ち続ける。何があろうと教える気はない、と態度で示しており、ゴッチは辟易した
 終いには、ゴッチの気が緩んだ瞬間を狙って大声を上げようとしたので、仕方なくゴッチは兵士の頭を抱きすくめ、首を折った

 「あぁ、チ、クソったれが。……まぁ」

 拷問されても口を割らんぐらいの根性があったみてぇだし、生かしておいても無駄だったか

 紳士の情けだ。下着だけは勘弁してやろう。ゴッチは溜息を吐く。変装くらいは、していった方が無難だ
 兵士の身ぐるみ剥いで鎧に着替えると、死体を壁に凭れ掛けさせ、一度林に戻る

 林の中には、橋の掛かった川まであるのだ。全く意味の無かったフェイスペイントを洗い落として、ゴッチは改めてアラドアの屋敷へと接近した

 そこでギョッとした。今しがた自分が殺した男の死体が、消えていた。目を離したのは、ほんの数分である

 「……………………あん?」

 咄嗟にゴッチは身を低くして、屋敷の壁に張り付く。慎重に、素早く辺りを見渡し、自分から死角になる位置を見て回り、警戒しながら考えた

 屋敷の者が発見した様子はない。騒ぎになっている様子は、どこにもなかった
 屋敷の者ではない他の何者かが居るのか、騒ぎになると拙い事をしている者が居るのか。或いは両方かも知れないが

 可能性としてはあまり無いと思うが、侵入者の存在に気付いている兵士達が、敢えて平素を装って罠を仕掛けているならどうにもならない

 兎に角解るのは、今考えても無駄と言う事だ。答えに辿り着けるような情報は、少しもなかった

 えーい面倒くさい。ゴッチは頭を振る

 「何か不都合が起こった時は…………、その時の事は、その時考えりゃ良い」

 その時、辺りに女の怒声が響いた。ゴッチは一瞬身を竦ませる

 『曲者だ! 鼠が紛れ込んでいるぞ!』
 「ドッキーン!」

 もう見つかっちまったか、と身構えたが、ゴッチに視認できる位置に人影はない
 よくよく思えば、怒声は屋敷の中からだった
 そう思っているうちに屋敷が騒然とし始め、重い足音が走り回るのが聞こえてくる

 内部だ。何だか知らんがこれは好機だ。ゴッチは自分の直感に従って、勝手口から屋敷へと飛び込んだ


――


 屋敷の内部へと侵入を果たしたゴッチは、取り敢えず一部屋一部屋開けて回る
 ゴッチが入り込んだ位置はどうやら侍女達の宿舎らしく、小奇麗に整えられた生活感溢れる部屋が密集していた

 クソ、と悪態を吐く。屋敷の構造は、思ったよりも複雑かも知れない。そこを虱潰しにしていくのは、骨だ
 誰か適当に捕まえて、締め上げる必要がある。先ほどの兵士のような奴では駄目だ。もっと脅えてくれる相手でなくては

 取り敢えず、監禁するにしても、もっと場所がある筈だ。ここいらは違うな、と当りを付けたゴッチは、走り出そうとして呼び止められた

 「待って下さい」
 「おぉ? なんぞ?」

 とある一室の扉が開き、そこから侍女と思しき者が顔を覗かせていた。ゴッチが立ち止まって振り向いたのを確認すると、部屋から出て走り寄って来る

 「あ、あの、その、何かあったんですか? 何だか、し、侵入者がどうの、こうのって」

 おどおどビクビクと、小動物のような侍女であった。ゴッチはジロリと侍女の上から下までを検分し、よし、と頷く

 「侵入者が出たんだわ」
 「やっぱり……。そ、その、大丈夫なんでしょうか」
 「はっきり言っちまうと、全然大丈夫じゃねぇ」
 「え、えぇ?!」

 ゴッチは慣れない剣を抜き放ち、侍女の首筋に突きつけた

 「何故なら~、俺が侵入者だからぁ~♪」
 「き、きゃぁぁーッ!」
 「良いリアクションだぜ」

 そばかすがチャームポイントだ、とゴッチは思った

 暴力を振るう相手に、男か女かなどは関係ない。その辺り、ゴッチは極めて公平だ
 腰を抜かしたらしい侍女を蹴り飛ばして、今しがた出てきた部屋に追い込む
 後は胸板を踏んで凶器を突き付ける、隼団式拘束スタイルで尋問に入った

 「や、やめて、お願いします、殺さないで」
 「…………」

 侍女は、まだ幼い。外見相応の年と考えるなら、十五かそこいらに見える
 ポロポロ涙を流して命乞いしていた。おぉ、と呻くゴッチ
 は、いかんいかん、と頭を振る。少しだけ目的を忘れそうになったゴッチ

 「カロンハザンとファティメア、この屋敷で捕まってんな?」
 「え……、は、はい。そうです」
 「よーし、まだ生きてたか。ソイツぁ良いや。で、閉じ込められてる場所は?」
 「そ、それは……!」

 ゴッチは胸を踏んでいた足を浮かせて、侍女の腹にどっかりと座り込んだ
 先ほどの兵士は殺すしかなかったが、コイツならどうにでもなりそうだ。ゴッチは周囲を警戒する。部屋の窓が開いているため、あまり喚かれると拙いかも知れない

 「お、重たいです」
 「あのよぉ、お前状況見えてる? お前の命は俺の腹一つでどうにでもなっちまうんだぜ。何も考えねぇで、俺の質問にハイハイ答えてりゃ良いんだよ」
 「ひぃ!」

 涙と鼻水で、侍女の顔面は酷い有様になっていた
 もう一突きでコイツは落ちる。確信を持って、ゴッチは囁いた

 「素直に話すんなら、お前なんざ殺す意味は無ぇ。直ぐに放してやる。だが、話したくねぇっつーんだったら、殺す」

 侍女の目が見開かれた

 「あー、いや、ちょっと待て。やっぱ駄目だなそれだと……。あのよ、殺す前に犯す。犯して殺してから、また別の奴に聞く。お前の同僚にな。そしてソイツは、例え素直に話しても犯して殺す」

 これだよこれ、こういうの。ゴッチは何だか、妙に満足していた
 最近はテツコの目もあったし、巡り合わせも悪かったから、らしくない事をしていたが、自分は本来アウトローだ

 赤の他人をどれだけ踏みつけにしたって、平然としていられる人種なのだ。それどころか、この侍女の泣き顔を見ていると、中々気分が良い

 俺の下であがけ

 「なァ? 手前の命も、ダチの命も惜しいだろ?」

 侍女の泣き顔は引き攣っていた。横隔膜が痙攣して、ひくひくと洩れる息が哀れを誘う

 しかし侍女は、失禁寸前の精神状態にありながら、ゴッチに対して言い返した

 「ファティメア様と……カロンハザン様に、な、な、何をする心算なんですか」
 「あーん? 何かしてるのはアラドアって奴の方だろ? 決着のついた話を引っ掻きまわして、カザンとファティメアを捕えてんだろうが」

 寧ろ俺は、カザンに泣いて喜ばれて然るべきだぜ

 「お、お二人に何かする心算なら、絶対に教えられません!」
 「あぁコラ、お前、俺がさっきなんつったかよーく解ってほざいてんだろうな」
 「でも、お二人を、た、た、助けてくださるのでしたら、協力します! わ、私が案内します!」
 「はぁ?」

 このクソガキ、交換条件の心算か。ゴッチは涙と鼻水塗れの、見苦しい顔を見下ろす

 見栄も外聞も捨て去った面で、この期に及んで自分の事以外で命を掛けやがる
 ゴッチは、“良い気分”がスーッと冷めていくのを感じた

 「……馬鹿が、さっきの野郎と良い、手前と良い、大した根性してんぜ」

 剣を逆手に持って、乱暴に振り上げた。侍女は固く目をつぶる。息が止まる思いをしている
 ヒュコン、と愉快な音を立てて、剣は床に突き立つ。侍女の米神の、直ぐ横だ

 恐怖で、侍女は呼吸をしなくなった。ぴくぴくと痙攣しながら、また涙が零れる

 ゴッチは、先ほど首を折った兵士の事を思い出した。兵士は流石にこの侍女のような醜態は曝さなかった。組み伏せられたあの時点で、己の死を覚悟していた

 少し、勿体無い男を殺したかな、と思った。だが、仕方ない。ケダモノだもの

 「お前、名前は」
 「ね、ね、ねネスです」
 「ネネス?」
 「い、いえ、ネス、です」


――


 「……こ、こちらです」
 「あぁあぁ、一応言っとくが……案内されて行ってみりゃ、そこは兵士のお兄さんお姉さん達の溜まり場でした、ってのは勘弁してくれよ」

 ゴッチは右を歩くネスの肩を抱いて、体重を掛けた

 耳元で凄まじい笑みを浮かべながら、ぞっとする声で囁く

 「そうなったら流石に、皆殺しにしなきゃ場が収まらんからよ。取り分けネス、お前はな」

 うっひゃっひゃっひゃ、とゴッチは馬鹿笑いした。これだけ脅しを掛ければ、まぁ大丈夫か

 ネスはカチンコチンだった。青くなったり赤くなったりして、まるで虐められるためにこの世に生まれてきたかのようである
 彼女はこちらが一応の説明を終えた後は極めて従順だった。そしてゴッチは、それを至極当然と感じていた
 こんな腕力も度胸もない奴に反抗を許すようでは、ゴッチの“恐さ”も高が知れると言う物だ

 屋敷は、矢張り何処か騒然としていた。しかし、妙に騒がしい癖に、ゴッチとネス自身は何者とも遭遇しない

 騒がしかったが、妙に静かだった。しかしその静けさも、幾許かもしない内に破られる

 『畜生! カザンを返せよ馬鹿野郎!』
 「ドッキーン!」
 「あぎゃん!」

 いきなり響いた怒声に、ゴッチはネスを引きずり倒して、自分も身を低くした。ネスの悲鳴

 壁を背にして周囲を見渡す。いい加減この対応にも疲れてきたが、矢張り見える範囲に人影は、無い

 通路の曲がり角を覗き込むと、ずっと先に人だかりが出来ているのが見えた。屋敷の警備を行っている兵士達のようであった

 「なな、何ですか?」
 「知るかよ。……ガキだな。一人、とっ捕まってやがる」
 「今、か、カザン様の名前を、よ、呼んでましたよね」

 兵士達が取り囲む中に、小柄な子供が居る。うつ伏せで、抑えつけられている
 恐らく、奴が別口での侵入者であると、ゴッチは確信した

 「(となると、死体を片づけたのは奴か?)」

 組み伏せられた、薄汚い服の子供を見遣る。黒い帽子の端から、白い髪が零れていた
 白い髪か、ダージリンと同じだな。ゴッチは様子を窺う

 「少し遠いな。何て言ってんのか聞こえねーや」
 「た、助けなくて、い、良いんですか?」
 「はぁー?」
 「だ、だってあの子、なんだか、カザン様を助けに来た、みたいな事を言ってるんですけど。あ、あ、貴方の仲間じゃ、な、無いんですか」

 良い耳してんのね、コイツ
 兵士達が集っている場所まで、距離を目算して40m程ある。さっきの怒声のような大声で話している訳ではないのに、会話を聞き取れる聴力は、少々異常だ

 「ネス、お前の耳はどんぐらい聞こえるんだ?」
 「そ、その、壁を隔てたりすると、と、途端に駄目なんですけど、これぐらいなら」
 「そうかい。……まぁ、アレに関しちゃ知った事じゃねーな。目的は一緒みてぇだが、奴は別口だろ。助けてやる義理なんざねーよ」
 「でも……お、女の子みたいなんですけど」
 「だから何」

 ゴッチはネスの口を塞いだ。

 「カザンの居場所へは、ここを通らなきゃいけねぇのか?」

 ネスがふるふると首を横に振った

 「別の道があるんだな。よーし、じゃぁ、そっちに」

 案内しろ、と言おうとした時、兵士の一人が壁からはみ出しているゴッチの足を見咎めた

 「おい! そこの奴、何をノロノロしてる! 早く来い!」

 ぐわあぁぁやっちまった。ゴッチは頭を抱えた
 ネスを見やれば、こちらはゴッチ以上に顔を青くしている。ゴッチはネスの口を開放して、指を突き付けた

 「良いか、手前はここに居ろ。出来ればそのよく聞こえるお耳も塞いでな」
 「な、何でですか?」
 「奴らの断末魔なんぞ、聞きたくねぇだろ? 面倒はしたくないが、最悪そうなるからよ」

 ネスが小さく悲鳴を洩らし、鼻水を垂らしながら耳を塞ぐ

 ゴッチは堂々と曲がり角から飛び出し、兵士達が集っている場所まで走った

 態とらしく焦ってみせる。兵士達はみな子供の方に集中しており、誰一人として、見た事の無い男が鎧を着込んでいる事に気付かなかった

 これが兵士か。ゴッチの予想ではもっと眼つきの悪い連中だったのだが、ゴッチの目の前の集団は、まだまだ可愛らしい物だった。育ちの良さが滲み出ている、とでも言うべきか
 男と女が、十名弱ずつ。素早く人数を確認すれば、十八名程がこの場に集っている

 「一体何があった!」
 「侵入者だ、中々すばしっこくてな、梃子摺らせてくれた物だ」

 子供を組み伏せる女兵士が、額に汗を浮かべながら言った

 ゴッチが眉を顰めながら、厳かな口調を使ってみせる

 「侵入者はコイツだけか?」
 「いや、解らん。だがコイツは余りにも軽率に過ぎる。囮かも知れん」
 「他に忍び込んでいる奴が居たら拙いな……。異常が無いか見てくる」
 「……おい、待て、この子供は」

 ゴッチは適当な言葉を並べて直ぐにでもその場から離れようとするが、女兵士の驚愕の声に足を止める

 荒い息を吐く子供の帽子が奪い取られて、白い髪が広がる。癖の強い髪は、しかし純白で鮮烈だ

 そして、その中にピョコンと、白い獣の耳が二つ、立っていた

 「おぉぉ?!」
 「ミストカの狼だ! コイツ、森の蛮族だぞ!」

 良い物を見た。驚きの声を上げながらも、咄嗟に思い浮かんだセリフは、そんな物だった
 こちらの世界にも亜人は居るのか。何だか、懐かしい気持ちになるゴッチ

 しかし兵士達はどうやらそうも言っていられないようで、途端に殺気立つ。中には数名、剣を抜く者も居た
 亜人と純粋人類の中が、悪いようだ。この世界では

 ゴッチはミストカの狼と呼ばれた子供の顔を覗き込む。白い髪、白い肌。生意気そうな目からは、悔し涙を流している
 狼のような呻き声を上げていた。ふぅふぅと苦しげな息を吐くミストカの狼とやらは、どうやら性別的には女らしい

 「クソ、うるせぇよ人間! 離せよぉ……!」
 「…………子供に乱暴はしたくないが……、そうも言ってられんな。エリック、どうする?」
 「ぬ……取り敢えず縛り上げて置こう。アラドア将軍に報告せねば」

 懐かしい事は懐かしいが、出来れば長居はしたくなかった
 ゴッチは殺気立ち、緊張を高めた兵士達から、違和感がない程度に距離を離す

 ふと、狼少女がぐりんと首を曲げてゴッチを見た。目をパチパチとさせて、鼻がピクピクと動く

 「え? お前は」

  途端に、狼少女は吠えた

 「頼む、助けてくれよ!」
 「なんだコイツ、気でも違ったか? 何故俺達が侵入者を、しかもミストカの狼を助けるのだ」

 ゴッチは罵声を噛み殺した。狼少女の視線が、真っ直ぐゴッチに向いている
 何故俺に言うのか、それを問う暇はない。ゴッチが普通の人間ではないことを、どういった理由かは知らないが、理解している

狼少女の突然の発言に訝しげな顔をしていた兵士の一人が、ふとゴッチを見遣る

 「…………いや、待て。そんな奴、居たか?」

 追い詰められたゴッチの口端が、いやらしく釣り上がった


――


 ほとんど全部、台無しであった


 「剣を捨てろ! 妙な動きはするな!」

 と、言うので、従うのは癪ではあったが、ゴッチは惜しげもなく剣を捨てた。元々剣術の覚えなど無い
 持っていても、邪魔なだけであった

 「何者だ、その格好はどういう事だ?」
 「コイツも森の蛮族か? 耳も尻尾も無いようだが……」
 「おい、誰か拘束しろ。何か尋常ではないぞ」
 「良いか、動くな。容赦はせんぞ」

 ゴッチはやれやれ、と手で顔を覆った。こら仕方ねーやと、苦笑いしていた

 「……ふてぶてしい男だ。状況が理解出来ていないのか?」
 「手前等の方こそ、理解出来てねーと思うぜ」

 突然、ゴッチは上半身の鎧を脱ぎ始める。鎧を外したら、そのまま服も脱ぎ棄てて、鋼の裸体を晒した
 着る当初は、ファンタジー丸出しの格好にワクワクしていた物の、少し体験すれば十分だった。着心地は悪いし、動き難い。決して好ましい格好ではなかったのである。この、鎧と言う奴は

 兵士達はゴッチの奇行に眉を顰めながらも、剣を抜いて油断なく構える。彼らも何となく、ゴッチが降伏などしない事を、悟っていた

 運がねーよ運が。ゴッチは自分の脳味噌が足りないのを棚に上げて、不運を嘆いた

 と、次の瞬間、ゴッチは兵士達の真只中に踏み込んで、狼少女を組み伏せる女兵士の米神を蹴り抜いていた

 「おぉ?」

 兵士のエリックが間抜けな声を上げた。驚きを隠そうともしない間抜け面だったが、しかし体は動いている。剣を閃かせて、ゴッチを突きに来た

 ゴッチは狼少女を拾い上げて、身を捩る。剣が肘の肉を割いて、血が噴き出した
 捩った肉体を反転させて、裏拳。エリックの鼻が拉げて、そのゴッチよりも少しだけ背の高い肉体は、錐揉みしながら吹っ飛んで行く

 狼少女を小脇に抱えてゴッチは吠えた。既に四方八方から、兵士達はゴッチに飛びかかっていた

 「来いコラぁッ!」


――


 以下、ダイジェストでお送りします


 「束になって掛かってこいや!」
 「つ、強い、常人の膂力とは思えん……!」
 「応援を呼べ! 他の場所に回っている奴らもこっちに回すんだ!」
 「凄い! やれぇーッ! やっちまえッ!」

 「マッハキィック! マッハローリングソバット! ワンハンドジャーマン!」
 「…………! 覚悟を決めろ! 囲って一斉に攻める、剣を構えて、味方ごと貫くつもりでぶつかって行け!」

 ゴッチはニヤリと笑った。狼少女を放り投げると同時に体を捻る。右手を這いまわる稲妻

 「かみなりパンチだボケが!」
 「ぎゃぁぁ」

 包囲の一角が脆くも崩れ去る。ゴッチは狼少女をキャッチして、ネスの居る方へと走り出した

 「魔術師、スーパー・バーニング・ファルコン様よ! 命を捨てたきゃ掛かってきやがれ!」
 「無事か!」
 「痺れて動けん……が、何とか生きているぞ、皆……」
 「おのれ、魔術師だと……! 狙いはアラドア様か?」
 「取り敢えず逃がすな! このまま好きなようにさせたのでは笑い物だ!」

 しかしゴッチは、狼少女に加えて耳を塞いだままのネスを回収すると、再び兵士達に突っ込んでいく


 「あぎゃあー」


――


 「オイオイ、なんだこりゃ、この屋敷は地下牢まで備えてんのか」
 「わ、わ、私も、ここには、カザン様に食事をお運びする以外は、入った事がないですが」

 敵中突破を敢行して、脇目も振らず目的の場所へ

 地下への階段をゴッチは素直に駆け下りたりせず、ぴょい、と飛んだ。両肩に担いだネスと狼少女から悲鳴が上がる
 異変を察してここを放棄した者は、よほど慌てていたのか、鉄の扉には鍵がかかっていない
 ゴッチは扉を蹴り開け、中にネスと狼少女を放り出すと、扉を閉める手段を探す。ガチャガチャと、兵士達が階段を降りてくる音が、直ぐ近くまで迫っていた

 「くぁーッ! 鍵、鍵だぁ! ここを閉じる物は無いか!」

 ゴッチがムン、と扉に張り付いて、力を込める。一泊遅れて、反対側から体当たりを仕掛けてくる兵士達
 腕力で数人がかりの突破を抑え込むのは、些か辛い。ゴッチの言葉を受けて、ネスと狼少女がそこいらを走り回った

 「か、か、か、鍵です!」
 「よし! …………内側に鍵穴なんてねーよこの馬鹿野郎!」
 「ひーん! 貴方が、さ、探せって言ったのにー!」
 「つっかえ棒だ! これで何とかなるでしょ?!」

 狼少女が、壁の出っ張りに赤黒い色をした棒を宛がい、そしてその反対側を鉄の扉の前へと持ってくる

 丁度良く棒はつっかえ棒として納まり、機能し始めた。ゴッチは扉からそろ、と離れて、外を窺う
 四角く切り取られた覗き窓から、兵士達が必死に扉を押しているのが見えた

 「クソ、厄介な所に逃げ込まれた!」
 「へっへっへ、良いぜぇー、そのままスモウレスリングしてやがれよ」

 ゴッチは膝立ちになって、扉へと手を添える

 手を振って、ネスと狼少女を下がらせた。次の瞬間、ゴッチの体が閃光を放つ

 鉄の扉に、稲妻が叩きつけられていた。有象無象の悲鳴が上がって、外からは音がしなくなった

 「ひゃっひゃっひゃ! まぁ死んじゃいねぇよ、多分なぁ!」

 ネスが、顔を青褪めさせたまま、恐る恐る言った。怯えの色が、酷くなっている

 「……ま、魔術師様、だ、だ、だったんですね」
 「まー、そうなる。……出来る事なら、身元が割れちまうような真似はしたくなかったんだがなぁ……。オイ」

 ゴッチはゆっくりと、狼少女に歩み寄った
 狼少女に、警戒はなかった。少しだけビク、と身を竦ませたが、それだけだった

 「手前のお陰で酷ぇ目にあったぜ。だがまー、この期に及んでは何も言わねぇ」

 何となく、親近感も持てるしな

 「あ、アンタ、人間」
 「うるせー黙れ。手前は後で洗い浚いゲロって貰うからな。ただで済むと思うなよ」

 狼少女の口を塞いで、ゴッチは有無を言わさず歩き始める

 地下牢は、それほど大きくない。三部屋ほどしかなかった
 その一番奥に、目的の人物は居た

 ゴッチが探し求めたカロンハザンは、膝立ちに手を拘束された状態で、呑気に眠っていた

 米神を揉み解すゴッチ

 「……こいつも大概、豪胆な野郎だ」


――
後書き

 俺は無能だぁぁぁぁーッ



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