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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ32 男二人 7
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:757fb662 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/28 13:36
 屑野郎

 自分の事を棚に上げて誰かが叫んだ
 でも、誰の事を言っているのか解らない。何せ、ここに居る者は皆、屑だ

 廃坑入口、そこかしこに土が盛ってある比較的広い空間で、ゴッチは松明をこれ見よがしに振り回す

 足元には油が流れていた。ゴッチの部下が蹴り転がした樽から、今もどんどん零れ出ている

 「て、テメェ、正気か?」
 「? 何がだ?」
 「狂ってんのか!!」

 半狂乱になって叫ぶ男に、ゴッチは首を傾げた

 特に何か問題があるようには見えない。状況的に燃えるのは皮袋の毒だけだ
 何だか良く解らねぇが、まぁ、良い。お喋りしに来た訳じゃねぇんだ

 ざっと見で、これから燃やすべき屑どもは二十人以上は居た。奥の通路には、まだ少し居るだろう
 よし、とゴッチは一つ頷いて、松明を投げた

 「クソッタレがァァァ!!!」

 絶叫しながらゴッチに向かって走る男。直ぐに油に足を取られ、転倒する
 その眼前に、松明が落ちた。炎が広がる

 廃坑の奥に通じる通路へ、逃げようとする男達が殺到した。狭い通路に大の男がつっかえて、当然だが大混乱になる
 皆、死にたくなくて、仲間を引きずり倒し、踏み付けてでも前に出ようとする。迅速な移動など出来はしない

 後は、油に乗った火がどうするか決める。ゴッチは悲鳴と肉の焼ける臭いに肩を竦めながら、踵を返した

 「別の入口に回るぞ。ラーラ達とは、手筈通りにな」

 廃坑の出入り口はまだ四つほどある。皮袋の毒殲滅戦の初手は、穴を全て塞ぐことから始まった


――


 「ボスがこちらへ。こちらの穴は」
 「承知している。ロージンは必要な人間だからな」
 「氷の魔術師は……」
 「捨て置け。あの出しゃばりを働かせるのはよろしくない」

 ラーラは篝火の焚かれた廃坑の通路を奥まで見通して小さく頷いた

 出入り口を塞いで恐怖を煽る。火と怒声、鳴り物で追い立て、散々嬲った後に殺す

 ゴッチは酷い男だ。ラーラは不敵に笑った。敵を絶対に許さず、受けた攻撃に対して素早く復讐する闘争心
 静かに燃える火のようだ


 今頃中では、部下達が皮袋の毒を追い回している筈である。他の通路は概ね炎で封じてあるから、最後にはここに逃げ延びてくる筈だ

 まぁ、ビエッケがその途中で死んでしまう程諦めの良い男ならば、その限りではないが

 ロージンを盾に取られたら無理はしなくともよいと部下達に伝えてある。時間は掛かるかも知れないが、結局は同じ事だ

 「(問題は、ロージンを如何に救出するかであるが)」
 「ビエッケとの待ち合わせ場所はここか?」
 「ボス!」

 急に横に現れた大男に、ラーラは目を剥いた

 ゴッチは松明を弄びながら悠然と構えている。跪く部下達を下がらせて、ラーラは一つ咳払いした

 「……兎狩りは初めてですが、存外簡単です」
 「何してる?」
 「は?」
 「何でビエッケを持て成してやらない」

 面白そうにニタニタ笑いながらゴッチは言う
 ラーラには真意が掴めない。冗談のような口調であるが、丸きり意味の無い事を言っているようにも見えなかった

 「俺はビエッケとか言う能無しにも、一つだけ評価できる物があると思ってる」
 「……はぁ」
 「この俺に楯突いた勇気だ。その馬鹿さ加減だけは褒めてやっても良い」
 「で、何が仰りたいので?」

 ゴッチは松明を足元に放り出して、廃坑の奥へと歩き出した
 ラーラは眉を顰めながら後を追う。ゴッチは血の気の多い男だ。こういう事態は予測していた

 「迎えに行ってやろうぜ、哀れな馬鹿を」
 「……ロージンを救出しなければなりません。事の運びを熟考ください」


――


 「ビエッケにはこのまま死んでもらおうかね」

 オーフェスは部下に笑い掛けながらそういう

 「は……」
 「うん、考えてみれば丁度いい頃合いだ。ビエッケはそれなりに知恵の回る男だったから、惜しいと言えば惜しいがね」

 何せ犯罪者集団の頭領で、エルンストへの忠誠心など欠片も無い

 元より互いに利があったが故に結びついた関係だ。そう長くは使えないとオーフェス自身思っていた
 オーフェスが、手駒を大事に使う類の人間であったから、ビエッケは僅かに寿命が延びていたに過ぎない


 本当は、今ゴッチが行っている事は、ビエッケにやらせようと思っていたのだ、オーフェスは

 エルンストが商人の街を明確に支配下に置くのは、正直面倒な話であった。が、必要な事でもあった
 流通の要所はこの内乱の中、商人達の実力と影響力によって奇妙な独立性を得てしまった。そして真っ二つに割れたアナリアには、彼等に言う事を聞かせるだけの力は無かった

 そこでビエッケ。多くの悪党どもを従えるこの男に、ジルダウの裏側を牛耳らせようと思った。様々な理由で騎士には出来ない事が、ごろつきには出来るのである

 ロージンはその手始めの心算だった。それが、何をどう間違えたのか何時に間にかゴッチがジルダウを仕切ってしまって

 「ビエッケが尻込みしなければ、話は簡単でした」

 直立不動の騎士が表情なく言う
 ロージンの裏側の事情は、オーフェスとて掴んでいた。ロージンをどうにかしようとすれば王国兵が出張ってくるのは確実で、そしてビエッケ及び皮袋の毒では、これに抗しようが無かった

 しかしゴッチならば

 と言う算段だったのだが……

 「この後はどうされます」
 「放っとくさ」
 「ジルダウをこのままマグダラ軍団に?」
 「欲張ると失敗するんだよ、悪知恵ってのは。それに矢面に立ったのはあの雷の魔術師だ。ジルダウを取り分にするのは、正当ってものだ。……ビエッケはそれが解らなかったようだ。街一つぽっち支配するってのは、そんなに良いもんかねぇ?」

 ジルダウを『街一つぽっち』とは、普段のオーフェスならば絶対にしない表現だ

 「……悪党に相応しい欲と、悪党なりの、誇りがあったのかも知れません」
 「止めろと言ったよ、あたしは」

 騎士は、窓の外へと目を剥けるオーフェスに気付かれないよう、小さく苦笑した
 外ではエルンストが豪奢に着飾って演説を打っている。高座できらびやかな剣を佩くその姿を、老い先短い老軍師は目に焼き付けようとしている

 騎士は、オーフェスが口ではビエッケを止めながらも、その実散々に煽っていたことを知っている
 飽く迄も遠回しにだがゴッチを持ち上げ、ビエッケを貶めた

 意固地になったのであろうな

 オーフェスは確かに手駒を大事にする。物持ちも良い
 だが、害のある物まで大事にしたりはしない。ジルダウの事は予想外だったが、アナリア王国との関係を断ち切る事には成功した

 ビエッケはもう要らなかった


 あの雷の魔術師がオーフェスの腹の内を知れば、激怒どころでは済まないな

 騎士は薄ら寒くなる。オーフェスとは違い、騎士はゴッチと何度も対面している。その怒りを真正面から受けた事もある

 オーフェスが今まで相対してきたどんな人物とも、あの男は違う。騎士は少し、不安だった


――


 敷き詰められた白砂を踏みしめて、ユーゼは前方を睨み付けた

 数多の将兵と、何よりもエルンストが見守る中、場には熱気が籠っている

 浮ついた気配。ざわめき
 だが、白砂の上には冷たい緊張感が漂っていた


 対面上にはカザンの姿がある。目を閉じた、エルンスト軍中随一と言われる勇将には今、まるで気配が無い
 覇気も無く力に満ちても居ない。静かに、幻影のように佇んでいる

 「内に秘めるのであれば……引き出してくれよう……」

 ユーゼは兜を捨て去った。鈍い音を立てて転がるそれに目もくれず、剣を捧げ持ち、大きく息を吸い込む

 「ラァァァァァァー!!」

 剣を振り払った。盾を備える左腕を開き、天に総身を晒す
 夜が来るまで余り時間が無い。落ち始めた陽がユーゼを赤く照らす

 「ウゥゥゥゥゥゥー!!」


 この戦いを捧ぐ
 戦神ラウに捧ぐ
 戦士に偽りなし、戦場に偽りなし
 咆え声が太陽を揺らし、太陽の熱は私を焼くだろう
 そうして私は炎に駆り立てられ、刃と、ヤジェの木の弓矢を備え、灰になるまで戦い続けるのだ


 戦神ラウの名を咆えるのは、カザン相手には特別な意味を持つ
 炎の剣アズライは神話にて戦神ラウが振るったとされる剣だ。それを持つカザンと、ラウの信奉者が今切り結ぼうとしている

 同一の神を信仰する者同士の一騎打ちでは、神の加護は無いとされる

 ユーゼは呼気を整え、先程の大咆哮が嘘であったかのような悠然とした態度で名乗り上げた

 「ユーゼである!」


 エルンストは立ち上がって右手を高く突き上げる

 ユーゼの声は腹に響くようだった。よく鍛えられた体躯の上に、朴訥で気の利かなそうな、如何にもと言った感じの仏頂面が乗っかっている

 潰れた鼻は戦傷か、男振りを上げている。よい騎士であるな、と零した
エルンストはシュランジ家に対して良い印象を持っていなかったが、ユーゼに対しては実際に話したことも無い癖に好感を覚えた

 「戦神ラウに!」
 「ラウに!」

 エルンストの声に、側近が先ず応えた
 その後、場の騎士達が揃って己の胸板に握り拳を叩きつけ、声を合わせる。例外はぼへっと頬杖をついているアシラッドぐらいな物だ

 ラウに!

 カザンが剣を抜いた。鈍い輝きの剣だ。細かな部分まで見る事は出来ない距離だが、ユーゼの目には全く見るべき物の無い剣に見えた

 何故、そのような剣を持つ。カロンハザン将軍

 暗い茶色の直垂が地に沈む。カザンが膝を折り、刀身に額を擦り付ける

 興奮も、気負いも、何もない
 一切の感情を吐くことなく内に秘めたまま、静かにカザンは立ち上がり、下を向いたまま咆えた

 短かったし、目は何処も見ていなかった

 「カロンハザンの剣をも、ラウに!!」

 しかし、天を割るような声であった

 初日最後にして大一番の試合、カザンとユーゼは図ったように駆け出す


――


 余りに炎を使い過ぎたせいで、廃坑内部は明らかに酸素が薄くなっているように、ゴッチには感じられた


 「燃えるまで解らないか、お前達」

 ラーラはゴッチの態度を見習って、敵と相対した時堂々と背筋を伸ばすようにしている

 踏み込む時は猛然と踏み込む。敵が待ち構えていたら猛然と踏み込み、敵が攻撃を放とうとしたら猛然と踏み込む

 本気かどうかは知らないが、小剣が己の肌をなぞるぐらいの避け方をしろ、なんてゴッチは無責任に言った
 その恐怖を楽しめ。生死の狭間でのた打ち回るのが良いんだ
 そんな風に言った

 だが、その前にラーラの腕の一振りで、大抵の者は消し炭になる。ラーラは恐怖を覚えたりなどしない
 ただ自分が人間ではなく、そして他者より圧倒的優位に立つ強者であると言う自覚を深めるのみだ

 「所詮、人の焼ける臭いは同じであるな」

 騎士だろうが、賊だろうが、こればかりは、変わらないな。ラーラは火達磨になったごろつきを一人蹴り転がして、燃え続ける胸板を踏み付ける


 燃えてしまえば皆同じ


 ごろつきを焼く業火がラーラの足をも舐る
 が、眩しいとすら感じる程の白金色の炎は、ラーラを焼いたりしない。ラーラは炎の娘で、人から外れていく程に炎はラーラを愛する

 既に悲鳴は聞こえない。ぎちぎちと焼けた筋繊維が収縮し、ごろつきの焼死体は身を縮こまらせていく
 命の炎が消えたのが解った。場に残る皮袋の毒の構成員達は、皆怯えて縮こまってしまっている

 闘争心の炎も消えていく。ラーラはゴッチの前でゴッチの露払いをするように戦い、そして全ての戦意を奪った

 「跪けぃ! 戦意を失う事を敗北と言う! 敗者には敗者の取るべき態度があろう!」

 詠み上げるようにラーラは言う。普段ゴッチに対して小難しかったり、迂遠だったりする言い回しを使うと「洒落臭い」と言って怒られるので、暫く鳴りを潜めていた物言いだ

 強烈な臭いと衝撃的な光景に、猿轡を着けられたイノンが嘔吐する

 埃塗れであったが、隣で同じく縛られているロージンと共に、危害を加えられた様子はない
 最低限ビエッケは人質の扱いを知っていたようだ。ゴッチを相手に行うには首を傾げざるを得ない手法だったが、交渉する心算だったのは本当だったようだ

 が、ここまで来てしまえば最早交渉も何も無い

 「よーう……初めまして、だなビエッケ。うん? お前がビエッケで良いんだよな?」

 ゴッチが思っていた以上に若い男が、ゴッチの探し求める男と思われた
 憔悴しきり、煤と埃と泥塗れになって酷い有様だったが、それでも他の屑よりかはまだ“見れた”面をしている

 疲れ果てていても目がギラギラしている。生きる事を諦めていない

 「よく知らんが、どうせオーフェスの婆様に良いように使われたんだろ? 馬車馬か、都合の良い愛玩動物か、そんな感じに。可哀想になぁぁ、あぁ、同情するねぇ」

 ビエッケは誤魔化すように笑っていた。ゴッチはそこに違和感を覚える

 こんな事言われて一秒でも黙っていられるような奴が、俺に喧嘩を売る筈がない

 「驚きってモンですなぁ……」
 「俺が態々此処に来たのが?」
 「えぇ、えぇ、そうですわな。雷の魔術師殿が出張らずとも、炎の魔術師殿一人居りゃ、俺達はそれで御終いだ。不思議ですなぁ」

 余裕を見せるように、ビエッケはカラカラ笑う。ゴッチは腕組みして斜に構え、無駄口に付き合う

 「ゴッチ殿、いや、ゴッチ様、俺達がこうなっちまったのには、不幸な行き違いがあるんです。少しだけでも話を聞いちゃくれませんかね」

 ラーラがニタリと笑って腕を一振り。白金色の炎がその腕で踊る
 ラーラはビエッケに向かって歩き出そうとした。目の前に手が伸びて、それを押し留める

 ゴッチだ。首をゴキゴキと鳴らして、ビエッケを見ている

 「言ってみな」
 「この娼婦はですな、俺の部下に毒を盛りやがったんです。俺等だって、この娼婦がゴッチ様の女だって事は知っていた。しかし、殺されかけちゃこっちとしても黙っちゃ居れんでしょう」
 「かもな」
 「ロージンの旦那と仲良くしようって話が纏まった時に、ちと俺の説明が足りずに、ロージンの旦那を勘違いさせちまいましてね。そのせいで、こんな事になっちまったんです。こんな心算じゃなかったんだ」

 はっはっは、と大声で笑い始めるビエッケ

 イノンっは泣きながら首を横に振っていた。ロージンも、拗ねたような不貞腐れたような、不満気な表情でヤケクソ気味に胸を張っている

 「上手に命乞いしてみろよ」

 ビエッケの目が見開かれる。ゴッチにこんな言い訳が通用するなどと、ビエッケ自身が一番信じていなかったのだ
 ビエッケはすぐさま腰元の短剣を捨て去り、懐の暗器も投げ出して平伏した。地面に額を擦り付けて大声を上げる

 「俺は、ゴッチ様に逆らう心算なんぞこれっぽっちもありゃしません! この通りだ! 俺だって皮袋の毒の首魁として、アナリア南部の裏側を仕切ってきた男だ! その俺が全部投げ出して平伏するって事は、信じてくだせぇ!」
 「今更お前を生かして何になる?」
 「お役に立ちましょう! 俺ならジルダウだけじゃねぇ、何処の、どんな街だろうが、纏められる! ゴッチ様を首魁に戴いて、俺があらくれどもをゴッチ様の下に従わせる! それが出来る人間が、今ゴッチ様の下に居りますか?!」

 ゴッチはとうとう声を出して笑い始めた。低い声でクック笑うゴッチに、一番恐怖を感じたのはラーラだ
 碌でもない気配を放っているのが、よく解るのだ

 「裏の世界でゴッチ様が望む物は、何だって揃えて見せましょう! ゴッチ様の一睨みで誰だって跪くが、その先を任せて頂ければ!」
 「俺が望む物か」
 「俺はビエッケだ! オーフェスの婆にだって、負けやしません!」

 ゴッチは平伏するビエッケに歩み寄る。ビエッケの背後で、皮袋の毒の生き残りたちが唾を飲んだ

 ゴッチがビエッケの前で膝を折り、ビエッケと視線を合わせようとする

 「顔を上げろ」

 その時、閃電の如くビエッケが動いた
 ビエッケは丸腰になったと見せかけてまだ暗器を持っていた。鈍く光る短剣を右手で握り締め、ゴッチの首元に走らせる
 同時に左手も短剣の刃を掴み、ラーラに向けて投擲の構えを取った


 ビエッケは動きを止めた。同時に息も。血の流れすらも止まりそうだった

 目と鼻の先でゴッチの悪相が笑んでいる。これ以上ないほど嬉しそうに、笑んでいる

 右腕があらぬ方向に曲がっていた。何時、どうやって? 痛みが来ない


 「俺が欲しいのはビエッケ。お前の首だけだ」


 思った通りの男だぜ、ビエッケ
 ゴッチはビエッケを頭突きで倒れさせ、腹部に強い蹴りを一つ見舞った
 ゴッチの強い蹴り、だから、それはもう大変な威力である。ビエッケは跳ね上がり、転げまわり血と泥で口中をぐしゃぐしゃにしながらのた打ち回る

 ゴッチはそんなビエッケに馬乗りになる。完全なマウントポジションではない。腕は太腿で抑えず自由にさせているし、そもそも位置が少し悪い。力を振り絞れば対抗策は取れるだろう

 「抵抗しろ!」

 言いながらゴッチはもう一度頭突きを見舞う。ビエッケの目がぐるんと回って焦点を失う
 右のパンチ。鈍い音。続けて左のパンチ。もう一つ鈍い音
 マウントポジションから、殴る
 殴る殴る殴る殴る殴る殴る。死なないように手加減している

 「どうした、抵抗しろ!」

 また頭突き
 その後、少し体勢を変えて肺を狙う。ビエッケは息も出来なくなる
 そしてまた、殴る。鈍い音は続き、血が撥ねる

 「ビエッケなんだろ?! おぉ?!」

 抵抗など初めから無かった。ゴッチは別に全然構わない

 だって、無抵抗の相手を甚振るのも十分楽しい。強い相手を屈服させるのも楽しいが、弱い物虐めだって好きなのだ

 「抵抗しろよ、ほらぁ!」

 手加減していても、殴っているのは所詮ゴッチだ
 結局は死ぬ。そして後ろで腕組みしながらそれを眺めるラーラには、ビエッケの命の炎が消える瞬間がハッキリと解った

 打撃を入れ続けるゴッチにも、それは解った。詰まらねェ。唾を吐く
 ラーラが背後から声を掛けてくる

 「ロージンと……イノンの事は宜しいので?」

 ゴッチはふと顔を上げた。両の拳は赤く染まっていて、ビエッケの顔面は判別が出来ない程になっている

 イノンはガタガタと震えていた。ゴッチを見て震えていた。皮袋の毒の残党は既にイノンを拘束しておらず、隅で蹲っている

 でもイノンは動けなかった。ロージンは何事も無かったかのように歩き出し、ラーラの部下に縄と猿轡を切らせているのに

 「その不細工面を引っぺがして、ジルダウに吊るせ。マグダラ軍団でもエルンスト軍団でもない、俺の名前でな。そうすりゃ、残党が押し寄せてくるだろ。そいつらを皆殺しにして終了だ。…………無事か、イノン」

 大雑把に指示を出して、ゴッチは早足でイノンに近付き、右手を差し出した

 す、とイノンが遠くなった
 勘違いではない。イノンが遠ざかった。イノンが後退りした

 「…………」

 ゴッチは、イノンに向けて伸ばした手を見る。血に塗れている
 ラーラの視線が突き刺さるようだった。ラーラの言葉を、ゴッチはまだ覚えている

 貴方のせいです イノンは、御傍に置かれるべきではなかった

 ゴッチは尚早足になってイノンに近付く。血塗れの手をその背に回した。イノンの震えは強くなる
 以前はここで手を引いた。イノンの怯えた目、白い髪、愛らしい頬
 全てが崩れていく

 俺は焦ってんのか?

 嘔吐した残骸が猿轡の端に残っていた。外してやろう
 そうしてイノンの頭に手を遣った時、その小さな体が倒れ込んだ

 失神していた。ぐるんと目が裏返り、みっともなく白目を晒している
 腕の中に倒れ込んでくる


 こんなのは、違う
 

 「ロージン」
 「ボス。お手間を取らせまして、申し訳ありません」
 「無事だったか」
 「奴にそれ程の度胸は無かったので。文句があるなら掛かってこいと言ってやったら、慄いておりました」
 「…………はっはっはっは、……はぁーっはっはっは!」

 ロージンは一礼する。ゴッチの腕の中のイノンを見て、口数少なくなる

 「奴らは、イノン殿に乱暴はしませんでした」
 「そうか」
 「それだけです。……重ねて申し訳ありませんが、流石に堪えております。暫し、休ませて下され」

 ロージンは廃坑をラーラの部下に連れられて歩いていく
 明らかにゴッチを気遣っていた


――


 ラーラはビエッケの死体と皮袋の毒の残党を引きずり出すよう指示する。生き残った者も、どうせ殺す。哀れな物よと零した

 ふとゴッチを見遣った。ラーラはハッキリと眉を顰める
 ゴッチの背中が萎んでいるように見えたのだ

「……ボス」
 「へへ、女ってのは面倒だ」
 「……優しい男が好きなのでしょう」

 ラーラはイノンと交わした言葉を思い出す
 ゴッチが優しいと言っていた。戯言だと流した
 それを思い出した。ゴッチの萎んだ背中が嫌でも目に付く

 「よせ。好きだの何だのと」

 最後まで控えている部下達に、引き上げるよう手振りで指示する
 こんなゴッチの姿は見せられない。そして、自分の姿も

 「愛しておられないので?」
 「よせと言ったぞ!」
 「時々仰っておりましたな、愛など無いと」

 ゴッチの怒声に触発されてか、ラーラも怒りを感じていた

 ずっと、ずっと悶々としてきたのは何故だ。イノンと、なによりゴッチのせいではないか

 人の気も知らず、私がどんな思いで居たか知らず

 つい先ほど、散々人を燃やした。だからかもしれない。こうも昂るのは

 「イノンが哀れだとは思わないのですか」

 ラーラは首を左に振った。ほぼ同時に右の頬に衝撃を受ける

 振り返りざまのゴッチの裏拳だ。咄嗟に反応していなければ、首が折れていたかもしれない

 壁に叩きつけられながら、ラーラはべ、と血を吐き出す。頬がジンジンする

 ラーラはとうとう激怒した。我慢の限界に来たのだ

 「誰に向かって口聞いてやがる」
 「イノンを愛していないのかと聞いている!」
 「ド喧しいわ!」

 ラーラだって気付かない訳は無かった。ゴッチに触れられて、失神すらしたのだ、イノンは

 だが、だからなんだ、腑抜けた面しやがって!
 私を従える男が!

 背筋がずっとムズムズしていた。何故傍若無人にしていない。何故、鼻で笑って見せない
 多寡が娼婦一人に

 ラーラは飛び掛かる。額に凄まじい衝撃が走る。ゴッチの拳は見えもしなかった
 だが、ラーラの右手にも鈍い感触があった。間違いなくゴッチの頬に一発入っている筈だ

 「イノンを愛さなかったのは貴方ではないか!」
 「寝惚けた事言ってんじゃねぇ! 愛など無ぇ!」
 「ならもっと堂々とせぬか! 情けない!」

 ゴッチの太い指がラーラの首を捉える。そのまま壁に叩きつけられた
 ラーラは意地でも呻き声一つ洩らさない心算で、歯を食い縛る。一片の恐れも無くゴッチを睨み付ける


 誰が恐れようと、私は恐れない。私はこの男の同族なのだ。私はイノンとは違う


 「イノンを解き放て! 追い払うべきだ! 愛さないのならば!」
 「手前……」
 「貴方がイノンを信じさせてやれば、捨身になってイノンは受け入れた筈だ!」

 貴方のせいだ!
 そう、怒鳴り付ける


 ゴッチの殺気が急に収まった。ラーラを壁に釘付けにしていた手からも、力が失われていく

 ゴッチを見れば、ここ最近屋敷の自室でしていた、詰まらなそうな、退屈そうな顔に戻っていた

 「……仕方の無ぇ奴だ。こんな小娘一人に、肩入れしやがって」

 ゴッチはラーラに向かってイノンを突き飛ばす

 ふん、と鼻を鳴らすゴッチ。人を人とも思わない、何時もの傲然とした態度
 ラーラにはそれが、無理に取り繕った態度のように見えた。ギリギリ収まりがつく内に、場を納めようとでも言う腹積もりなのか

 何時ものラーラなら、腕の中のイノンなど放り出し、ゴッチに再び飛び掛かって張り手を食らわせただろう。ラーラはその一挙一投足に常に死ぬ覚悟を負っている。ゴッチに歯向かうとくれば、尚の事だ

 だが、それを受け入れてしまった
 ゴッチの目を見ると、何故か何も言えなくなってしまった

 「…………後の事は、お前が取り計らえ」

 肩を竦めてゴッチは歩いていく。持ち込んだ松明はそろそろ燃え尽きようとしていた

 薄暗い。ゴッチの足音を背で聞きながら、ラーラはイノンの猿轡を解いてやり、髪を撫でる

 「お前など、現れなければ良かったのに……」

 完全に調子を崩してしまって、ゴッチに猛然と歯向かってしまって、馬鹿馬鹿しい

 そう、馬鹿馬鹿しい。下らない事だと放っておけば良かったのに、ゴッチの事になると冷静ではいられない

 同族と言うのはこういう物か
 私は、寂しいのかな

 「……ゴッチ、私は恐れない」


――


 後書

 やべ、うっかり上げちゃった


 ちと強引だった気がするので……、その気力があれば、この回はズバッと書き直す可能性あり。
 ここぞと言う場面で敢えて丁寧に描写せず、ぶっきらぼうな書き方するとそれはそれで味が出る、と言う様なことをここ暫く感じていた。しかし普段描写が丁寧か? とか通り越して手抜きになっていないか? と言われると返答に困ったりもする。


 男二人はもうちっとだけ続くんじゃ。……次はもっと明るいこと書きたいずら! と、思っているずら。


 ヴェガ「俺が欲しいのはレンツェン、お前の首だけだ……」


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