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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ29 男二人 4
Name: 白色粉末◆f2c1f8ca ID:757fb662 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/08 06:07

 ゴッチは使い走りどもに一枚の大きな絵を担がせ、会場設営地に訪れた
 相も変わらず羊皮紙と睨めっこしていたロージンは、上機嫌なゴッチを見て変な顔をする

 ゴッチは自信満々にロージンに歩み寄ると、絵を立てさせた。ゴッチの背丈よりも高い縦と、腕を広げたよりも長い横。それなりの大きさのある絵だ
 腕組みしながら、ゴッチは矢張り自信満々に言い放った

 「今日の朝仕上がった。ちょっと物足りんが、ま、今の所は仕方ねぇ。何れはもっと時間を掛けて、凄みのある奴を描かせるぜ」

 はぁ、とロージンは、彼にしては珍しく何とも言えない返事を返した

 確かに、ゴッチが会場入り口に飾る絵の準備をしているのは知っていた。ゴッチの所属する、と言う事はゴッチ傘下の自分も所属している事になる“隼団”の首領の絵を飾ると聞いていたが

 ロージンの目には、描かれているのはどうにも服を着た鳥のように見える。ゴッチ流のジョークだろうか?

 「……ゴッチ様……、その絵は……」
 「あぁ? 言っといただろうが。俺の養父、ビッグボスを描かせたんだ。……お前は俺の直下だし、ビッグボスは遠く離れた所に居るから、直接命令される事は無いだろう。恐らく会う事すら、声を聞く事すらもな。だが、この堂々たるアウトローこそが俺の養父、偉大な男だ。敬意を忘れるなよ」
 「は……、それは心得ました。……しかしその絵は、何と言うか……」
 「ん? ンだよ。矢張り、少し雑過ぎるか?」
 「いや、その、それは、…………鳥なのでは?」

 職工人達が作業の手を止めて見守る中、今度はゴッチが変な顔をした

 「へ?」


――


 イノンと言う女に対してラーラが持つ感情は、少し複雑である

 娼婦は好きではない。が、何時も周囲に気を使っておっかなびっくり振舞っているイノンの健気さは好んでいた。現状この町で最も強く、最も恐れられ、最も敵の多い男の情婦でありながら、それを鼻に掛ける事など一切しない

 イノンが強請ればゴッチは大抵の事は叶えるだろう、とラーラは思っている。そうでなくても、ゴッチを恐れ、完全に服従しているこの町のごろつきや盗賊に声を掛ければ、彼らはそれに応える筈だ
だが当のイノンと来たら逆に彼らに気を遣う始末だ。屋敷に現れるゴッチの使い走りどもに飯を用意してやったり、掃除洗濯を買って出たり

 ラーラにも、時折声を掛けてくる。精一杯の礼儀を持ってラーラを立て、阿るように笑う

 そこがいじましくもあり、苛立たしくもあった。あからさまに媚を売る相手をラーラは好まない。また己を恐れる相手に態々歩み寄ってやって緊張を解きほぐしてやるほど、社交的でも無かった

 だから、気後れしたような笑みを向けてくるイノンを見ると、ラーラは難しい顔をする他ない。今この時のように

 「お早う御座います、ラーラさん」
 「……あぁ」

 朝の陽射しの満ちる屋敷中庭で、二人は出くわした。ラーラは外の空気を吸いに、イノンは井戸の水を汲みに

 当たり障りのない挨拶に、ラーラはぞんざいに返した。自身で鑑みても礼儀の無い返答だったが、してしまった事は取り消せない。それに、情と嫌悪が綯交ぜになった気持ちの悪い感情のせいで、悔やみつつも謝罪出来なかった

 何故だろう、何故ゴッチ・バベル程の男が、こんな変哲もないただの娼婦を傍に置く?
 白い髪と甘ったるい花の香りが物珍しいのか?

 ラーラから硬い空気を感じたイノンは、言葉に詰まったようだった。何も言えないまま、目を伏せて気まずそうにしている

 沈黙が満ちた。所在無げで、しかしラーラには言いたい事があり、その険しい雰囲気からイノンは逃げ出せないでいる

 長い時間だった。鳥の囀りと、ジルダウの街が発する朝の小さなざわめきのみが響いていた


 唐突にラーラは言葉を発する

 「……イノン、貴女は、どうしてここに来た?」
 「あ、え……?」
 「深い意味はない。言葉通りだ。どうしてここに来た? ボスを追い掛けてか?」

 イノンは急な質問に眼をぱちくりさせると、雰囲気を沈ませながら頷く

 「そうです」
 「ミランダの娼婦と聞いた」
 「はい」
 「ボスとはどんな関係だ?」
 「そ、その、ゴッチは私のお客様で」

 ラーラは右手を持ち上げてイノンの眼前に突き付け、言葉を中断させる

 「前から言おうと思っていたが、ボス、だ。そうでなくても呼び捨てでは示しがつかん」

 冷たい声音だ。ラーラ自身がはっきりと自覚できる程度には
 イノンは泣きそうな顔になる。ラーラも少し泣きたい気分だった。これではまるで、自分がイノンを虐めているみたいだ

 「ゴッチ様は」
 「客だったのだろう?」
 「えぇ」
 「…………ボスはただの娼婦を、しかもなんら能力を持たない者を傍に置かれはしない」
 「それは……解りません。多分ゴッチ……様は、優しいんです。私を哀れに思ったんだわ」
 「今のはここ一月に聞いた冗談の内では最高の物だったな」

 優しい? 哀れに思った?
 適切でない評価だと、ラーラは息を吐いた。矢張りイノンに尋ねた所で、答えの出ない謎であったのか

 「イノン、貴女は不幸になるぞ」

 強い語調でラーラは断定する。イノンは顔を伏せて上目づかいにラーラを見ている
 息が自然、荒くなる。自分が如何に面白く無い事を言っているか、ラーラ自身が良く理解している

 レッド、ゼドガン、ロージン、自分。そしてどういう関係か今一つ明確でないが、ルーク・フランシスカとその一派。皆、能力を持った者達だ。その中でイノンだけが何も持たない
 持たない者は不幸になる世界だ。ゴッチの周囲では特にそうだろう。ジルダウで彼がした事を鑑みれば、語るまでも無い事だ

そこまで一息に吐き出したラーラは、涙を滲ませるイノンを睨みつけた

 「悪意から言うのではないが、……ミランダに帰れ。ボスは、引き留めないだろう」

 言うだけ言って、ラーラは踵を返した
 何だかよく解らない事を言っている気がした。理知的でない会話をしてしまった
 発する言葉がぐちゃぐちゃとしている

 気持ちが悪いのだ


――


 机の上に足を乗せたゴッチは、葉巻を加えながらロージンに問いかける

 「皮袋の毒で御座いますか」
 「知ってるか?」
 「は、商人ですゆえ」
 「俺と仲良くしたいそうだ」
 「先日の一件も存じております」

 そりゃ良い、と呟くゴッチは、しかし言葉とは裏腹に詰まらなそうな顔をしていた

 「まだ俺と仲良くしたいなんてほざくと思うか?」
 「首魁ビエッケは下手な商人より余程計算高いと聞いております。可能性は御座います」

 少し、嘘があった。ロージンの元には既に、皮袋の毒からの使者が訪れていた

 ゴッチが使いの者を焼き殺させた一件に関しての使者だ。言い分としてはまぁ妥当な物で、確かに非の在り所は明白だが、問答無用で嬲り殺しにするとはどう言う事か、と言うのが皮袋の毒の言い口である

 ありのまま伝えれば、激昂したゴッチがビエッケとその配下を纏めて皆殺しにするのは目に見えている。そうなれば皮袋の毒とてただのチンピラ集団ではない。エルンスト軍団との関係も含めて、宜しくない事態になるのは容易に想像できる

 ロージンはそれが嫌だったし、何より人死にが出る事も好きではなかった。上手く調整する腹積もりだった

 「なぁロージン。解っちゃねーんだろうな、ビエッケとか言うチンピラは」

 は? とロージンは疑問符で返す

 大陸の何処を探しても、皮袋の毒の首魁をチンピラと呼べるのは、ゴッチぐらいな物だ

 「対等じゃねーんだ。豚が狼の肩を気安く叩けばどうなるんだ? 八つ裂きだよ。弱い奴はな、そうならねぇように、必死に尻尾丸めて、小さく縮こまって、強い奴のご機嫌を伺うんだ。ビエッケはどうなんだろうな、えぇ? 俺の事をどう見てんだろうな。なぁ、ロージン」

 背筋がざわつくのをロージンは感じた
 使い走りを一人、嬲り殺しにしたからとて、何なのだとこの男は言っている
 その程度の事で文句を言ってくるなど烏滸がましいと、それほど皮袋の毒を下に見ているのだ。虫けら同然だと本気で思っている

 知っている、ゴッチ・バベルは、皮袋の毒から使者が訪れている事を
 そして恐らく使者の口走った内容も

 ロージンの額に汗が浮かんだ。何処かで軽んじていたのか、自らを従える男に、浅はかにも隠し事をしてしまうなんて

 「ロージン、固くなるなよ。お前は真面目な男だ。よくやってくれてる。本当にそう思ってるぜ。だから、今回はお前の顔を立ててやっても良い」
 「は、はっ」
 「おい、怒っちゃいねぇって。酒の行商がな、極上らしいのを一瓶土産に持ってきたんだよ。呑んでいくか? …………そういや、寝る間もなく出張ってるせいで、身体が張っちまってるって言ってたな。どうだ、肩でも揉んでやろうか」

 緊張のあまり全身を固くするロージンを、ゴッチはからから笑いながら椅子に座らせる

 酒を少量注いだ酒杯を差し出し、あまつさえ絶妙な力加減で、本当に肩を揉み始めた
 ロージンは目を白黒させた。何が起こっているのか全く把握出来ていなかった

 ゴッチ・バベルが、労って酒を振舞い肩を揉んでやる程に、自分を買っていると言うのか?

 「ビエッケとかいうチンピラは、まぁ仕方ねェ。何せ、馬鹿の親玉だからな。馬鹿なんだろう。お前がそんな馬鹿のちっぽけな命でも大事に扱いたいってんなら、お前に交渉を任せる」
 「は、心得ました」
 「どっちが上かだけはハッキリさせとけ。絶対に甘い顔すんなよ。もしごねるようなら即座に伝えろ。俺が直々に立場を解らせてやる」

 どんな結びつきを作るにせよ、お前に全て任せる、とゴッチは言った
 ロージンは、声が震えないようにするので精一杯であった

 「隠し事なんてなぁ。水臭いよなぁ。なぁ?」


――


 宛がわれた天幕の中で、羊皮紙と睨めっこするのが、最近のルークの日課だ

 ルークは己の任務を忘れない。目的は、何処まで行ってもメイア3の捜索だ
 この生真面目な少年は、ホーク・マグダラの客将としてメキメキと頭角を現し、名を上げながらも、ペデンスに対する情報収集を怠らなかった

 「完全な膠着状態だ」

 睨み合いの状況が出来上がってしまった。エルンストが余裕を見せて御前試合など計画してしまって、アナリア王国側もその挑発に乗らず、守りを固める事を選択してしまったから、この流れはもう崩れないだろう

 長丁場になる。ルークは頬を張って、気合を入れ直す。実は、少しホームシックになっていて、しかもそれを自覚していた

 士気を落としてはならない

 熱い息を一つ吐き、メモ代わりに使っていた羊皮紙を丸めて棚に仕舞う。軽く伸びをしたとき、天幕の外から声が掛かった

 「御傍廻りの者です。ルーク様、宜しいですか」
 「どうぞ」

 ルークに近い年頃の侍女が天幕に入ってきて、しゃき、と一礼した

 侍女は持っていた籠を差し出す。赤い果実が沢山詰まっている

 「私どもの僚友の親戚が、果物を沢山差し入れて下さったのです。何時もお世話になっておりますルーク様にもお分けしようかと」
 「本当? それは嬉しいな」
 「……はい、どうぞこちらを」

 ルークは侍女が手に持った赤い果実を受け取る。天幕の中は決して明るくないが、それでもその果実は赤く輝いて見えた

 エルンスト軍団の内部で様々な雑事を執り行う者達には、当然ながら横の繋がりがある
 ルークはそれらに受けが良かった。それも、非常に
 ルークは常に公平で、優しかった。例えば今目の前に居る侍女にだって、決してぞんざいな態度を取らず、無体な振舞など考えた事すらない

 分け隔てなく接し、時には手伝いを買って出る事すらする、異国の不思議な騎士
 人気が出た

 「……そういえば、ルーク様はお聞きになりましたか? 先日の、ジルダウ市場での騒動です」
 「あぁ、……知っているよ」
 「惨い話です。……幾ら魔術師の方々と言えど、人を散々に痛めつけた末に、焼き殺すとは」

 ルークは返答に困った。そう思うよね、当然

 ゴッチの振舞は苛烈だ。だが、ルークだってマクシミリアンの仕事を(易しい部類の物だが)直ぐ傍で見続けてきたのだ
 ゴッチのようなやり方で無ければ、この短期間にジルダウを手中にするなど叶わなかった筈だ。そしてジルダウを取り込んだ事は、明らかにエルンスト軍団に対して有利に働いている

 ここから先は、大事なのだ。強引にペデンスに乗り込んで、と言う訳には行かない。エルンスト軍団を勝たせて、ペデンスから王国軍を引かせなければ

 「(でも、我々の都合なんて、この地に住まう人々には、関係ないものな)」

 個人的には、だが
 ルークはゴッチの振舞を好ましく思ってすら居る。女性一人を守るために、激しくなれるのだ、ゴッチは
 美しく思う。その暴力を
 エピノアを粉砕する姿を見た時から、ルークはゴッチが羨ましくて、同時に憧れてもいた。だから、色眼鏡を通して見ていた

 「女性を助ける為だったと聞いているよ」
 「……は? はい……。それは私も」
 「それに、私も……、男なんだ。私は雷の魔術師ゴッチ・バベルの戦う姿を見た事があって、だから、憧れているんだ」
 「私は嫌で御座います。……ルーク様はお優しい方です」
 「そうかな?」
 「そうです。ルーク様が強きを望まれるのは当然です。ですが、ルーク様は私どものような者の事まで気遣ってくださいます。不躾な、私の言葉も許して下さいます」
 「なんと言うか、……私の振舞いは、主君の教えで。矢張り解らないよ。私が優しい訳ではないかも知れない」
 「……ふふふ、雷の魔術師様が、心から恐ろしい訳では御座いません。カロンハザン様との友諠の話も聞いております。でも、矢張り私はルーク様にはそのままで居て欲しいと思います。よいではありませんか、魔術師様のようにならずとも」

 この侍女は、何時もは静かに佇んでいる。丁寧で、冷静で、何時も目を伏せている。貴い血の者とは、目を合わせる事すら不遜として弁えているのかも知れない
 今は印象が違った。怜悧な顔をどこかに放り捨てて、真直ぐな目を向けてくる
 潤んだ瞳と、赤い顔で、侍女はルークに訴えかけるのだ

 ルークは気まずくなった。何と返せば良い物か
 そしてそれは侍女も同じだった。彼女は空気を変えたくて、強引に話題を入れ替える

 「…………もうすぐ御前試合ですね。ルーク様はどうなさるのですか?」
 「ホーク殿は出るように、と」

 侍女は小さく微笑んだ

 「皆で応援いたします。……私どもは会場に入れるかも定かではありませんが」
 「嬉しいな。私の周囲の皆も、凄く乗り気でね。浮ついているのだよなぁ」
 「カロンハザン様を初めとして、名だたる騎士様方がお見えになるそうですから」
 「……カロンハザン将軍か。実はまだ、お会いした事が無いんだ」

 どうも機会が無く、顔を見る事すら無かった

 そういうと、侍女はうんと一度だけ頷く。ルークが何だか解らない内に、勝手に納得してしまった
 何に対してかは、解らない

 「きっと、意気投合なさると思います」
 「ははは、そうだと良いな」

 ふと、侍女が表情を変える

 「そういえば……、先程の話を蒸し返すようではしたないと思うのですけれど……。皮袋の毒の話です」
 「……何か?」
 「面白い話ではありませんが……、どうやら皮袋の毒のビエッケは、今回の御前試合で賭博を計画しているそうなのです」

 それが? ルークは先を促す
 それだけならば、別段おかしい所は無い。エルンスト・オセが良い顔をするかどうかは別として、良くある話だろう

 侍女は神妙な面持ちで続きを話す

 「それだけではなく……、ビエッケは、試合の結果を都合よく動かそうともしているそうでして……」

 Fixed match。ルークの表情は自然、固くなる

 「……詳しく聞いても?」
 「申し訳ありません。私もそれだけしか知らないのです」
 「……そう、か」

 天幕の外に、人の気配が現れる

 「ルーク様、宜しいですかー? ナスタが来ていませんか?」
 「イム……。……申し訳ありませんルーク様、私、失礼させて頂きます」

 一礼して、侍女は天幕から出ていく
 少し、苦い顔をしていた。彼女の思う優雅な振舞いとは、違ったのだろうとルークは思った

 「ナスタ長いよ、入り浸りすぎだよ。抜け駆けなんて駄目だからね!」
 「ほんのちょっとじゃないっ」

 がやがや騒がしく去っていく侍女達を余所に、ルークは深く考え込んでいた

 八百長。調べた方が良い気がする


――


 「おい、ゴッチ・バベル。お前、訪ねて行ったダージリンを何度も門前払いしているそうだな。どういう心算だ?」
 「あぁ? ……んん? なんだと?」
 「なんだと、ではない。ダージリンに何か隔意でもあるのか」

 何時もより険しい面持ちで詰問してくるホーク・マグダラに、ゴッチは変な顔をした

 この荒っぽい北方の騎士は、気取った所はあるが下らない事に気を回さないので、ゴッチとしては比較的好ましく思っている。飽く迄比較的だが
 そしたら態度に出ていたのか、何だかホークの態度まで砕けてきてしまった

 今回は、ジルダウの巡回を行っているマグダラ兵に関しての話をするために、ゴッチ自身が訪ねてきたのだ。部屋に通され、水の入った杯を出され、それを手に取った時点でコレだ

 「ダージリンだと? アイツ、来てんのか」
 「白々しいぞ」
 「待て待て、初耳だぜ。……ん、いや、初耳って訳でもねぇか?」

 そういえば、マグダラから客が来ていた、と言われたことがあった。だがアレは、間が悪かったのだ

 ゴッチは悪びれた風もなく、思ったことをそのまま口に出す

 「間が悪かったんだよ。俺は別に暇な訳じゃねぇんだぜ?」
 「ほぉ。見慣れん娼婦と乳繰り合っていたと聞いたがな」
 「あぁ……ったく」

 ジルダウの警備に関して呼び付けたのはお前の癖に、全く関係ない話題から入るのはどうなんだ

 ゴッチは手で顔を覆いながら大袈裟に溜息を吐いて見せた

 「仕事の話をしに来たんだぜ、俺は」
 「お前の配下も少し働かせろ」
 「ロージンが獅子奮迅の大活躍だよ」
 「余所者に睨みを効かせろと言う事だ。我が兵どもが裏側をつつき回すより効率が良い」

 ゴッチは米神を揉んだ。話の転換の仕方が唐突過ぎる

 詰まらない雑事をさっさとやっつけようと言う気配を、ホークは隠そうともしていなかった
 羊皮紙を差し出してくる

 「これを持て」
 「何だこりゃ」
 「皮袋の毒が、八百長を企んでいるようだ」

 ゴッチの気配が変わった

 八百長、ひいては賭博。どんな馬鹿でもこの状況で八百長と聞けば、大体の事は察するだろう
 完全にアウトローの領分のビジネスだ。ゴッチの耳には何も入っていない

 所詮は仮住まい、いずれ離れる地。ジルダウの街、アナリア国

 しかし、ここは隼団のシマであると言う強烈な縄張り意識が、ゴッチを激昂させた

 「ルークが気にしていてな、私の方でも少し調べてみた。これは御前試合に出場する騎士に、皮袋の毒から届けられた物だ」

 成程、そりゃ確かに、こちらで手回しすべき領分だ

 ゴッチは立ち上がる。怒りを感じているのに、不思議と頭は冷静だった

 「ダージリンに会って行けよ」
 「仕方ねェな」

 ホークは満足げにゴッチの後姿を見送る

 矢張り、強い者がギラギラしているのを見るのは、不思議な充足感がある


――


 「…………」
 「…………」

 黒いローブの二人が、睨み合っていた

 片方は左手で右腕を握り締め、片方は右足を引くと共に鳩尾を押え、それぞれ独自の構えで精神を集中させている

 「…………何やってんだお前ら」

 異様な気配を発する二人に、ゴッチは横から声を掛けた
 黒いローブが、揃ってこちらを向く。同時に、そろそろと引き下がって距離を取る

 「は、いえ、……別に何も」

 片方は、ラーラだった
 バツが悪そうに言うラーラを遮って、もう一人が声を発する

 「久し振りだな、ゴーレム」

 もう片方は、ダージリンだった。ゴッチは軽く目を見開く

 別れる以前、今にも息絶えそうな弱弱しさだったダージリンは、完全に力を取り戻しているようだった

 おう、とダージリンに返すゴッチ。ラーラがすかさず噛み付いた

 「変な名で呼ばないで貰いたい」
 「何故貴女が怒る?」
 「他の者に示しがつかない」
 「魔術師の気にする事ではない」
 「ジルダウを力と恐怖で治められる方だ」
 「呼び名一つで侮られる人物ではない」

 よく解らない口論が起こっていた。ゴッチはうーむ、と唸って、腕組みする

 以前も思った事だが、コイツ等矢張り、良く似ている。魔術師と言うのは、そう言う物なのだろうか。人間と言う存在から逸脱してしまった者は、似る物なのだろうか

 背格好も、気配も似ている。被りを取れば、髪形も同じだろう

 「貴女は幼くて、激しいな。炎の魔術師殿。今口に出した物が怒りの理由ではないだろう」
 「礼のない物言いだな、氷の魔術師殿。その見下したような目付きは、兄上殿から習った物か?」
 「何故そうも人間臭いのだ? “魔術師の癖に”」
 「思い上がっても、いるようだな」

 ゴッチは首を鳴らした。平坦な口調でラーラを抑えに掛かる

 「なにぎゃんぎゃん騒いでんだ。そいつは俺の友人だ。俺に恥かかせてぇのか、お前」

 ラーラは口を引き結んで、押し黙った。が、不満が顔にありありと現れている。元が素直な性格で、隠せと言うのが酷な話だ

 「ゴーレム」
 「あぁ、久し振りだな。顔色は良いようだ。……少し、変わったか?」

 目を細めるダージリン。余裕の表情
 以前にも増して、感情の揺らぎが無いように見える。正に氷のような強くて冷たい女

 「何がだ?」
 「目付きがな。冷徹になったぜ」
 「褒めているのか?」
 「俺のファミリーは皆タフで、誰もが今のお前みたいな目をしてるのさ」
 「貴方も変わったな」
 「なんだよ」
 「氷壁のような佇まいだ。……褒めている心算だ」
 「解り辛い奴だな!」

 気負わないダージリンの言葉に、ゴッチは破顔する
 ラーラの不満の度合いは目に見えて増す。空気を尖らせてラーラは口を挟んだ

 「ボス、氷の魔術師にも、敬語を使えと?」
 「不満か?」

 答えなど聞かなくても、ラーラのダージリンを見る目で十分に解る
 ダージリンは相変わらずのマイペースでラーラの視線を受け流した

 「必要ない。私は炎の魔術師殿を傅かせたい訳ではない」
 「それは殊勝な事だ。良い判断だと思う」

 ラーラは腕組みしてそっぽ向く

 「兄に話が?」
 「今終わった所だ。もう帰る」
 「そうか。私もついて行くが、良いだろう?」

 ゴッチはホークの顔を思い出した
 結構、口うるさい奴だったんだな、あいつ

 これで拒否すれば、また五月蝿く言うのだろう。ゴッチは好きにしろ、とだけ言った。どうせ断る理由も無い

 「宜しいので? ロージンは、部外者の出入りに良い顔をしないと思いますが」
 「客を持て成すだけだ」

 ゴッチは取り合わず、ずんずんと歩き始めた。ラーラはまだ何か言いたげだったが、ダージリンに対してあまり弱みを見せたくないのだろう。多くを語らない

 「ゴーレム、久し振りにテツコとも話したいが」
 「あぁ、……テツコは少しばかり忙しくてな。今は話せねぇ」
 「ボス、どなたの事です」

 ダージリンがラーラに視線を送って、直ぐに顔をそむける

 「貴女は知らないのか? ……まぁ、一部下に言って回る事ではないか」

 最早ラーラは何も言わなかったが、炎のような視線を叩きつけるのは止めなかった

 ゴッチは背後の荒れた空気を物ともしない。本の少しだって、気にしていない

 「知りたきゃ教えてやる。テツコが戻ってきた時にな」
 「…………ゴーレム、随分な世話焼きが傍についているな。一体なんだと言うのか?」

 僅かに黙考して、襟元を撫でる。エンブレムが輝く
 煩わしそうな、詰まらなそうな声だった。ゴッチは苦笑する

 「良いんだよ、ソイツぁそれで」


――


 後書

 グダグダしてきたけど……
 男二人 はもう少し長くやろう……

 ちょっと自信がないので、もう少し続きが書けるまではsage更新


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