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No.3174の一覧
[0] かみなりパンチ[白色粉末](2011/02/28 05:58)
[1] かみなりパンチ2 番の凶鳥[白色粉末](2008/06/05 01:40)
[2] かみなりパンチ3 赤い瞳のダージリン[白色粉末](2011/02/28 06:12)
[3] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン[白色粉末](2011/02/28 06:26)
[4] かみなりパンチ4 前篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2008/06/18 11:41)
[5] かみなりパンチ5 中篇 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:19)
[6] かみなりパンチ6 後編 カザン、愛の逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:20)
[7] かみなりパンチ7 完結編 カザン、逃避行[白色粉末](2011/02/28 06:25)
[8] かみなりパンチ8 紅い瞳と雷男[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[9] かみなりパンチ8.5 数日後、なんとそこには元気に走り回るルークの姿が!!![白色粉末](2008/09/27 08:18)
[10] かみなりパンチ9 アナリア英雄伝説その一[白色粉末](2011/02/28 06:31)
[11] かみなりパンチ10 アナリア英雄伝説その二[白色粉末](2008/12/13 09:23)
[12] かみなりパンチ11 アナリア英雄伝説その三[白色粉末](2011/02/28 06:32)
[13] かみなりパンチ12 アナリア英雄伝説その四[白色粉末](2009/01/26 11:46)
[14] かみなりパンチ13 アナリア英雄伝説最終章[白色粉末](2011/02/28 06:35)
[15] かみなりパンチ13.5 クール[白色粉末](2011/02/28 06:37)
[16] かみなりパンチ14 霧中にて斬る[白色粉末](2011/02/28 06:38)
[17] かみなりパンチ15 剛剣アシラッド1[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[18] かみなりパンチ16 剛剣アシラッド2[白色粉末](2011/02/28 06:42)
[19] かみさまのパンツ17 剛剣アシラッド3[白色粉末](2009/07/18 04:13)
[20] かみなりパンチ18 剛剣アシラッド4[白色粉末](2011/02/28 06:47)
[22] かみなりパンチ18.5 情熱のマクシミリアン・ダイナマイト・エスケープ・ショウ[白色粉末](2009/11/04 18:32)
[23] かみなりパンチ19 ミランダの白い花[白色粉末](2009/11/24 18:58)
[24] かみなりパンチ20 ミランダの白い花2[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[25] かみなりパンチ21 炎の子[白色粉末](2011/02/28 06:50)
[26] かみなりパンチ22 炎の子2[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[27] かみなりパンチ23 炎の子3 +ゴッチのクラスチェンジ[白色粉末](2010/02/26 17:28)
[28] かみなりパンチ24 ミスター・ピクシーアメーバ・コンテスト[白色粉末](2011/02/28 06:52)
[29] かみなりパンチ25 炎の子4[白色粉末](2011/02/28 06:53)
[30] かみなりパンチ25.5 鋼の蛇の時間外労働[白色粉末](2011/02/28 06:55)
[31] かみなりパンチ25.5-2 鋼の蛇の時間外労働その二[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[32] かみなりパンチ25.5-3 鋼の蛇の時間外労働その三[白色粉末](2011/02/28 06:58)
[33] かみなりパンチ25.5-4 鋼の蛇の時間外労働ファイナル[白色粉末](2011/02/28 06:59)
[34] かみなりパンチ26 男二人[白色粉末](2011/02/28 07:00)
[35] かみなりパンチ27 男二人 2[白色粉末](2011/02/28 07:03)
[36] かみなりパンチ28 男二人 3[白色粉末](2011/03/14 22:08)
[37] かみなりパンチ29 男二人 4[白色粉末](2012/03/08 06:07)
[38] かみなりパンチ30 男二人 5[白色粉末](2011/05/28 10:10)
[39] かみなりパンチ31 男二人 6[白色粉末](2011/07/16 14:12)
[40] かみなりパンチ32 男二人 7[白色粉末](2011/09/28 13:36)
[41] かみなりパンチ33 男二人 8[白色粉末](2011/12/02 22:49)
[42] かみなりパンチ33.5 男二人始末記 無くてもよい回[白色粉末](2012/03/08 06:05)
[43] かみなりパンチ34 酔いどれ三人組と東の名酒[白色粉末](2012/03/08 06:14)
[44] かみなりパンチ35 レッドの心霊怪奇ファイル1[白色粉末](2012/05/14 09:53)
[45] かみなりパンチ36 レッドの心霊怪奇ファイル2[白色粉末](2012/05/15 13:22)
[46] かみなりパンチ37 レッドの心霊怪奇ファイル3[白色粉末](2012/06/20 11:14)
[47] かみなりパンチ38 レッドの心霊怪奇ファイル4[白色粉末](2012/06/28 23:27)
[48] かみなりパンチ39 レッドの心霊怪奇ファイル5[白色粉末](2012/07/10 14:09)
[49] かみなりパンチ40 レッドの心霊怪奇ファイルラスト[白色粉末](2012/08/03 08:27)
[50] かみなりパンチ41 「強ぇんだぜ」1[白色粉末](2013/02/20 01:17)
[51] かみなりパンチ42 「強ぇんだぜ」2[白色粉末](2013/03/06 05:10)
[52] かみなりパンチ43 「強ぇんだぜ」3[白色粉末](2013/03/31 06:00)
[53] かみなりパンチ44 「強ぇんだぜ」4[白色粉末](2013/08/15 14:23)
[54] かみなりパンチ45 「強ぇんだぜ」5[白色粉末](2013/10/14 13:28)
[55] かみなりパンチ46 「強ぇんだぜ」6[白色粉末](2014/03/23 18:55)
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[3174] かみなりパンチ3.5 スーパー・バーニング・ファルコン
Name: 白色粉末◆9cfc218c ID:10900b83 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/28 06:26
 暫し黙考していたSBファルコンは、周りに控える者達に向け、取り敢えず、といった風情で口を開く

 「お前ら何処かに行ってろ」


――


SBファルコンは、己が首領を務める暴力団組織、「隼団」の事務所で、呻き声を上げた
 不特定多数の組織による嫌がらせのような攻撃で、隼団事務所の窓ガラスは全て割られていた。一応、強化ガラスであった筈だが

 窓を割る、なんて子供の悪戯をやるような相手が、当然ながら本気な訳はない
 事務所は市街の、とあるビルの三階にあった。道端から、「買物のついでにやってくか」程度の気軽さで行われたであろう攻撃は、窓ガラスだけでなく天井にまで被害を及ぼしていた。当然、SBファルコンが気に入っていた、目にやさしい青い光を放つ電灯もだ

 SBファルコン達が暮す首都ロベルトマリンの空は、深刻な汚染によって何時も薄暗い。太陽光の恩恵なぞ、容易に望める筈もない

 薄暗い事務所の中で一人きり、SBファルコンは呻いていた
 原因は、机の上に置かれた封筒にある

 「今時紙媒体というだけで、面倒事だと表現しているような物だが」

 SBファルコンは、翼を器用に折り畳んで封筒を持ち上げた。ほぼ鳥の姿である隼の亜人、SBファルコンにしてみれば、地味に遣り辛い動作だ
 紙なぞ使うのは、どうしても情報を流出させたくないからだ。当然、中身はヤバイ物ばかりである
 狙う奴だって多い。そして目的の為に手段を選ばないのは、この国の国民性だ。この陰気で体に悪い国に住んでいる奴らは、自分を含めて全てヤバイのばかりだ、とSBファルコンは思っていた

 封筒は中身のヤバさを示しているかのように、ぼろぼろで、しかも血に塗れていた
 血の主は、今はSBファルコンの横で気絶している。ここまで手紙を護ってきたようだが、衣服に血液がべっとりと付着していた

 SBファルコンはその様を見ても、動揺していなかった。寧ろ、鼻で笑った

 猫の耳と尾を生やした女の亜人だ。チーターかそこいらか、とSBファルコンは当りを付ける
 鋭い爪を持つ足を丸めて、猫耳の亜人を小突く

 「おねむなのは解るがな、そろそろ起きろ。俺も暇じゃない」
 「あぁん? 恐れ多くもジェット様の頭を突っつくのは誰やぁ?」

 猫科の亜人が、しなやかな体をブルブルと痙攣させながら起き上る。刺々しく尖ってあちこち伸び放題の青い髪が、赤い水滴を飛ばした
 SBファルコンの翼にそれが飛び散る。形相を歪ませたSBファルコンは、翼を丸めて拳骨を作ると、情け容赦なくジェットを殴った

 「うひょお、頭が、頭がぁッ! 勘忍してんか! ジェットは怪我人でっせ?!」
 「”ジェット”か。ロベルトマリンで売り出し中の運び屋だな?」
 「げぇ、SBファルコンさん、どうもアンタの事務所で気絶してもうてすんません! しかし、アンタ程の大物に名前を覚えられとるとは、ジェットも中々有名になったモンですなぁ」
 「”アンタ”? だと?」
 「あだ、頭が、頭がぁーッ」

 SBファルコンの足爪がガパリと開いて、ジェットの頭を鷲掴みにした。ギリギリと締め上げられたジェットは、悲鳴を上げる

 「すんません、すんません! 言葉使い直します! お客様は神様や、ファルコンさんも神様やぁ!」
 「神様か、残念だぜ。我が「隼団」は、俺も部下達も無神論者でな」
 「ひぃッ!」

 SBファルコンは思う存分ジェットを脅した。アウトローとして、初対面が大切だった。舐められたら終わりである。相手がしがない運び屋風情であれば、尚更だ

 しかしSBファルコンは、ジェットの全身が強張ったのを見て、脅しを止める。これ以上はジェットが本気になる可能性がある

 頭部を開放すれば、ジェットは、二、三回頭を振って復活した。肉体の頑健さぐらいは褒めてやってもよかった

 「それで、お前の為に態々人払いまでしたんだ。とっとと詳しいことを話して貰うぜ」
 「……よしゃ、ジェットも腹を割って話をさせていただきます。詳しく簡潔に言うと……」

 話は、漸く本題に入るところであった。ここまでに、多大に時間を浪費した自覚が、SBファルコンにはある

 ジェットの次の言葉をじっと待つ。ジェットは慎重に言葉を選んでいるようで、馬鹿の振りをした馬鹿、とでも評するべき馬鹿面に、理知的な物が垣間見える

 「あれ? 詳しく話すことなん、何もないやないか」

 再びSBファルコンの足爪が音を立てて開いた

 「あ、ああん、あはぁ! この痛みが癖になるぅッ」


――


 「別に、内容にヤバい事はあらしまへん。手順を踏まずに開けたら燃えるーとか、爆ぜるーとか、そういう仕掛けもあらしまへん」

 SBファルコンはジェットの話を聞きながら封筒を開封した。中から出てきたのは、二枚の紙切れである
 一枚は手紙だ。もう一枚はピンク色の紙に繊細な細工が施された、パーティへの招待状だった

 「今のジェットのクライアントさんが、遊びに来てくれーと言うとるだけなんです。紙を使っとるのはクライアントさんの趣味らしくて。SBファルコンさん、詳しくは知らんけど、今相当ヤバイ仕事をなさっとる。それのせいか、この封筒の事を超重要極秘書類やーなんて勘違いしとる連中がたっくさん!」
 「なるほど、そいつらに攻撃された訳か」
 「ハイ、まぁ、ジェットも事前にそう言う事がありえるーて注意は受けてたんやけど」

 前にも手紙を運んだ事あったけど、攻撃されたんは初めてや。やっぱ、今回のが特殊なんや
 ジェットは青い髪をブルブルさせながら、言う

 SBファルコンは手紙を読んだ。上から下まで読み、今度は下から上まで読む
 「今、ファルコン殿が携わっている仕事について、話がしたい」手紙は至極簡潔で、それだけの文章しかない。ただ、裏側に差出人の名前はあった
 “マクシミリアン・ブラックバレー” 後ろ暗い事をやっている者なら大抵は裸足で逃げ出す、軍のビッグネームだ

 無視するのは賢くないな。SBファルコンは、そう判断した

それに、丁度良くもあった

 「良いだろう、会おう。案内役はお前だな? ジェット」
 「そうなりますなー。きっちりと、ファルコンさんをパーティ会場まで運ばせて頂きますでぇ」

 けらけらとふざけたように笑いながら、ジェットは言う。SBファルコンはジェットを無視して、割れた窓の向こうを見やった
 生ぬるい風が入り込んでくる。修理するにも金が掛かる事を思えば、SBファルコンの気分は暗く沈む

 溜息を吐いたところで、上から何か降ってきた。黒いロープだ
 ビルの屋上から垂れてきたようで、窓に長い一本線が引かれる。それが右から左まで、計四本のロープ

 ラべリングロープだ。何者かがこのビルに突入を仕掛けようとしている
 一瞬でそう判断したとき、外から円筒状の物体が投げ込まれた

 「フラッシュか」

 咄嗟にSBファルコンは、大口開けて耳と尻尾と体毛、丸ごとすべて逆立てているジェットに覆いかぶさる

 「(こいつ等、何だ? 手紙が狙いと考えるのが一番スマートだが)」

 まぁ、良い。市街で銃撃戦が始まったり、手榴弾が爆発するのは、至極日常的だ
 そう言って、SBファルコンは気にしない事にした

――

 起き上ったSBファルコンは、さぁ、行くぞ、と宣言する

 「速さだ。陸海空、すべての領域において、戦略的アドバンテージを齎すのは常に速さだ。速いという事は強いという事だ」
 「解りまっせ! 猫科の中じゃ、ジェットが最速なんや!」
 「“猫科の中じゃ”、ね。そりゃ残念」

 SBファルコンの嘴が歪む。眼光が鋭く灰色の空を睨む

 「ここじゃ俺が最速だ」

 冷たく燃え上がりながら、ファルコンは窓枠を引き千切り、灰色の空を飛んでいた
 フラッシュグレネードは軽減した。ドアは塞がれていた。ロープを使用した突入部隊は練度が低く、隙だらけだった

 包囲されていたのだが
 なら取り敢えず飛んでしまえば良いではないか。SBファルコンは、自信満々に飛び出すことを選択した

 黒いアーマーを着込んだ兵士達が、慌てて追ってくる。しかし誰一人として、SBファルコンには追いつけない
 SBファルコンに僅かに遅れて、ジェットが飛び出す。下半身はごつごつしたアサルトパンツだったが、上半身は冗談のように薄い最新鋭の防刃および防弾スーツだ。しなやかで艶かしい肉体が、ぶるんと揺れる

 「イィィィ――ヤッホォォォォイ!!」

 ジェットは喜色に満ちた気勢を上げながら、まず手始めに装甲車を踏み台にした。そこから高く跳躍し、或いは空を走るエアカーに、或いは林立するビルの屋上に跳び移りながら、SBファルコンに追随する

 血液はフェイクだ、隠しきれないと悟って、開き直ったな。SBファルコンの眼光は鋭い

 暫く飛んだSBファルコンが急に大きく翼を広げ、空気抵抗を利用して減速した。荒っぽいが、ビルの壁面に鉤爪を食い込ませて急停止するのも忘れない。ギャリギャリと嫌な音がする

 目の前に個人用ジェットウイングで浮遊する、軽量アーマーとビームガンで武装した航空警察が現れたのだ。アーマーのショルダー部分に、大きく「空の治安は俺が守る!」と書き込まれている

 ロベルトマリンでは、自由飛行区域とそうでない区域とで、明確な線引きがしてある。それを平気で無視しているのだから、彼らの出現は寧ろ当然だった

 「止まれぇ、手前! 止まらんと撃つぞ!」
 「そのエンブレム、ハゲのダニエルの『フライ・キャット』チームか。ご苦労なこった」
 「SBファルコン? 大金星だぜ! 大人しくしてりゃぁ丁重に扱うぜぇ?」
 「嘘付け」

 形式ばかりの口上を述べつつも、二人組の航空警察隊員は既にビームガンを発射していた。問答無用も良いところである。咄嗟に射線を読んで回避していなければ、今ごろSBファルコンは翼に穴を空けて地に墜ちている

 「くぅー、たまらん! やっぱり何度撃っても最高だぁーッ! 光学兵器万歳ぃぃーッ!」
 「何で俺こんなのとバディなんだろ……」

 航空警察隊員の片方は嬉しそうな悲鳴を上げていた。黒いアイガードのついたヘルメットで表情は見えないが、喜色満面でいるのは想像に難くない

 丁度真下を歩いていたらしい、妙に首の長い亜人が、手に持っていたコーヒー缶を航空警察隊員目掛けて投げつける。ビームが掠ったのか、太くて長い首に生えている黄土色の毛並みが少々焦げていた

 「馬鹿野郎! こっちまで巻き込むんじゃねぇ、この税金ドロボー!」
 「黙ってろ! 公務執行妨害で射殺するぞ!」
 「……頭痛ぇ」

 SBファルコンは慌てず騒がず、特注のスーツの懐からスモークグレネードを取り出した

 「流石にフライ・キャットの漫才は貫録があるな、変わりないようで嬉しいぜ」

 鼻で笑うファルコンに、航空警察二人組は緊張して射撃を再開した。SBファルコンは空中で一回転し、赤いビームの軌跡を華麗に避ける
 スイッチを押してひょいと放り出せば、二つ数えるより早くスモークは爆ぜ、黄色い煙を周囲にばら撒いた

 「状況、ガス! なお、以降は実弾兵装を使用!」
 「了解、状況、ガス! くそぅ、鳥野郎め! 俺様の射撃技能はビームライフルじゃなくとも衰えんぞぉぉーッ!!」
 「良いからはよせぇー! このアホんだらぁーーッ!」

 航空警察は瞬時に左右に散開しつつ、ガスマスクを装着して、ビームガンを背中のホルダーに装備していたアサルトライフルに変更した。複雑な動作だが、二人組は五秒と掛からずやってのける

 だが五秒といわず、三秒あれば十分だったのがSBファルコンだ
 光学兵器がどうのこうのと五月蠅い方に肉薄して、ヘルメットに包まれた頭部を鉤爪で鷲掴みにする
 そのまま翼をはばたかせ、ぐるんと遠心力を上乗せしてビルに叩きつけた。強化ガラスに叩きつけられた時、個人用ジェットウイングが小爆発を起こし、ガラスを粉々にする

 「あひゃぁー」

 落下すれば死ぬだろうが、警察組織から死人まで出してしまえば、流石に面倒事だ
 SBファルコンは仕方なく、蹴った。光学兵器がどうのこうのと五月蠅かった奴は、奇妙な悲鳴を上げながらビルの中に消えていった

 「さて、後一人」

 ファルコンは堂々と余裕を持って振り向いたのだが、残った方の航空警察隊員はそれどころではない

 ビルの屋上から落下してきたジェットが、問答無用で組みついていたからだ。体をブンブンと揺すって、パンチ、キック、エルボー何でもかんでも好き勝手繰り出してくるジェットに、航空警察隊員は悲鳴を上げていた

 「がるるー! うがぁー! がるるがぁー!」
 「ちょ、貴様」

 思う存分殴る蹴るしたジェットは、航空警察隊員を足場に見立て、大きく跳躍した。バランスを崩して落下していく航空警察隊員
 覚えていろ、フライ・キャット・チームは諦めない! とか叫んでいた気がするが、よく聞き取れなかった。苦笑するSBファルコンを尻目に、ジェットは跳んで行く

 「うっはっはー、ファルコンさん、ジェットはお先に失礼しまっせぇー!」
 「……小娘と思ったが、どうして中々、淑女だな」

 良い動きだ。そう評して、ファルコンは再び飛び始めた


――


 「“マクシミリアン・ブラックバレー”のパーティ会場まで、後どれぐらいだ」
 「ジェットが本気で走って後三分や。そないに遠くありまへん」
 「そいつぁ重畳」

 道路交通法を完全に無視していいのであれば、一分でロベルトマリンの60ヵ所に区分けされた地域を四つは超えてしまえるジェットの談だ。言うほど近くは無い

 今は後方に多数の航空警察を引き連れての追いかけっこだ。個人用ジェットウイングを必要としない、翼を持つ亜人の隊員も増えてきて、状況は一秒ごとに悪化していく

 こんな事なら、一度追手を撒くべきだったか、とSBファルコンは眉を顰めた。しかし、否定した
 神速こそが勝利の鍵だ。誰よりも速く、何よりも速く“マクシミリアン・ブラックバレー”の縄張りに飛び込んでしまえば、後は泣く子も黙る超大物軍人の事、どうとでもしてくれるだろう

 最初に隼団事務所へと突入を掛けてきた一団も気に掛かるが、目下の敵はロベルトマリン航空警察隊だ
 奴らが本気を出してくれば、ファルコンとジェットの二人で敵う筈もない。そうなる前に逃げきる必要があった

 「抜け道みたいな物はないのか」
 「そんな都合の良い物がありますかいな。……あん?」
 「ん?」
 「なんや? 奴ら」

 目下一番の懸念材料が、唐突に追撃を止めた。全員揃ってピタリと空中で止まったのである

 スプリングを模したような、センスのない形をしたビルの陰でカバーアクションしながら、SBファルコンとジェットは様子を窺う。何やら指揮官らしき人物が、拳を振り上げて怒鳴り散らしている
 ヘルメットに内蔵されている通信機に怒鳴っているのは、容易に知れた。結局航空警察隊は、こちらを憎らしげに睨みつけたあと、素早い動きで撤退していく

 「どこかの誰かが何やらしたようだな」
 「どこかの誰かが何やらて、全部不明でっか。どんな圧力? ひょっとしたら、マクシミリアンの旦那が手を回してくれたのかも知れまへん。……しかし、治安を守る部隊がアレで、よく給料が出ますなぁ」
 「治安を守る? コイツぁ笑わせてくれる。世界を平和を守ってるのは、金とコネと暴力だぜ」
 「ファルコンさん……」

 ジェットの耳が、しょぼんとへこたれた
 SBファルコンは目を細める。運び屋なんてやってる癖に、この反応は何だろうか
 もし世界の美しさを信じている、なんて世迷言を言ったなら、その甘ったれ根性は大した物である。養女にしてやろうか

 SBファルコンは背を向け、飛行を再開した。ジェットが気を取り直し、頭を振ってついてくる
 うん? とSBファルコンは疑問符を浮かべた。本来であれば、俺が案内される立場ではなかったか?

 まぁ良い、と何時もの様に適当に納得したところで、SBファルコンはまた停止した

 「……どうやら、航空警察隊は止められても、謎の襲撃者達までは抑えられへんようですな、“どこかの誰か”さんは」

 ジェットの目が鋭くなる。猫髭をぴこぴこ揺らし、鼻をふごふご動かしている

 次の区域との境目に、事務所へ突入を掛けてきた黒いアーマーの部隊が展開していた。今度は空を走れる人材も配備しているようで、その陣容は重厚である
 警察組織が動いていない所をみると、圧力を掛けたであろう“どこかの誰か”は、SBファルコン達の為と言うより、むしろ黒いアーマー部隊の為に圧力を掛けたのかもしれない

 壁に張り付いていたジェットが、重力に任せて地面に落下する。馬鹿みたいに高所で身を晒していては、狙撃してくださいと言っているような物だ
 SBファルコンは、既に道路に降り立っていた。急降下、後、足爪をビル壁面に食い込ませての急停止。巻き起こる火花を翼で振り払って、黒いアーマー部隊を睨みつける

 「どれ……、何故、我が「隼団」がアウトローどもの中で一目置かれているのか、宣伝していくか」

 街中では、幾ら“然るべき処”へ圧力を掛けたところで、やれる無茶に限界があるだろう。奴らは本気ではない
 そんな計算も、まぁ、あった


――


 SBファルコンは言った

 「いい加減ファルコンの前にSB付けるの面倒だな」

 以後、SBは省略する事になった


――


 ジェットに案内された場所で、ファルコンは顔には出さず驚いた
 マクシミリアンの所有物件らしい木造の館は、本当にパーティ会場だった。豪奢な身なりの連中が、ワイングラスを片手に話し込んでいる。ドイツもコイツも狸のような笑みを浮かべていて、一人として舐めてかかれそうな人物がいない

 苦い表情のままファルコンは門番に招待状を手渡す。そこから先はまたジェットがしゃしゃり出て、とある一室へとファルコンを導いた

 ジェット自身は部屋の外で待機する。中には、ただならぬ気配を纏った男がいた

 「大分はしゃぎまわったか」

 黒いタキシードをソツなく着こなす青年は、その癖妙に古風な雰囲気を纏っている
 頬にミミズがのたくったような裂傷の痕を持つこの青年こそ、泣く子も黙るマクシミリアン・ブラックバレーであった

 出身ロベルトマリン。孤児の身でありながら当時、軍の重鎮であったとある男の援助を受け、士官学校に入学。当然のように首席で卒業し、そのまま軍で功績を上げ続ける。今では彼の一声に逆らえるものは居ないと言われるほどの権力者である

 経歴から考えれば五十歳を過ぎた頃の筈だが、世界には外見が若いままなんて奴は幾らでもいる。人体改造と言う手もあるし、もっと根本的な所から、「老いる事の無い遺伝子」と言う手もある。そこまですることが出来ても、不死までは到達できていないが

 だからファルコンは、マクシミリアンの年齢も、外見も、特に気にはしなかった。他にもっと気になる事があったのだ

 どっしりと、無遠慮に、ファルコンはソファーに腰を下ろす

 「許可なく飛行禁止区域を飛び回り、航空警察隊員二名を病院送り。その後過激な逃走劇を演じて、最後には所属不明の武装テロ組織と戦闘行為と来たか。やりすぎだな、ファルコン殿」
 「何を言う。誰が手間を掛けさせたのか」
 「違いない。謝罪する。こちらも、思ったように時間が取れなくてな。揉み消しておこう」

 随分と耳が早い男だった。良いな、良いな、とファルコンは笑う。速いと言うのは強いと言う事だ。それは、情報の速さでも同じことだ

 「今時、亜人でない純粋な人間と言うのは珍しい。実を言えば、少々興味があったのだ、アンタにな」
 「ふ、気にするか?」
 「せんな。アンタらの世界でもそうだろうが、こちらの世界でも余り意味が無い。そう言うのは」

 パーティ用にオールバックにした金髪を撫でつけながら、マクシミリアンは愉快だと笑う。亜人の中には、純粋な人間を嫌う差別主義者も居た

 数世紀前、純粋な人間のみ感染する病が世界的に流行った。次第に数を減らしていく中で、人類は特効薬を開発する

 その薬は、病を駆逐するだけに留まらなかった。人間の肉体を頑健に、強靭に作り替える力を持っていた。そしてその強力な肉体の性能は、子孫に受け継がれている

 今となっては、亜人は戦闘能力で言えばピンからキリまで居るが、人類は強者しかいない、という認識が一般的だ。純粋な人間であると言えば、誰もが一目置いた

 「運び屋ジェットは役に立ったか。奴は若いが、目を掛けている。遠からず頭角を現しそうな者には、やはり好い印象を抱いていて欲しい」
 「くっくく、俺はこの世界で飯食って長いが、アンタにそんな話をされた覚えはないぜ?」
 「当時の私の腹心が、君の事を嫌いでね。泣く泣く接触を断念したのだ」
 「よく言う。なら、その腹心殿はどうした?」

 マクシミリアンの笑い方が、苦笑に変わった

 「私にも色々ある」
 「色々、ね。まぁ、それは良い。俺を呼びつけた理由を話して貰おう。まさか俺も、本当にお偉いさんのパーティ会場に招待されるとは思ってなかったんでな。碌に格好も付けてないんだ」
 「仕事熱心大いに結構、こちらとしても助かる」

 マクシミリアンが腕組みして、背筋を伸ばす


――


 マクシミリアンの振る舞いは、威風堂々としていた。

 「ファルコン殿、今君が関わっている仕事、異世界での活動についてだ」

 ファルコンは目を細めるだけだった。ファルコン率いる隼団の今の仕事など、この男程にもなれば知らない方がおかしい。立場的にも、保持する組織力的にも

 「私は……秘密裏に、だが、ジェファソン博士に援助をしていてな。異世界の事が公になってからは、ファルコン殿の仕事にも陰ながら協力させて貰っている」
 「ほぉー……。いろんな事が、ちょいと調子良く行き過ぎると思っていたが、成る程な。礼を言って置こうか」
 「こちらも打算あっての事だ。そしてその打算の内容が……これだ」

 マクシミリアンが黒い板を差し出してきた。掌に少し余る程度のサイズで、厚みは3cmほどもある
 それを受取ったファルコンは、手触りを確かめるように弄んだ。非常に軽い

 「特別な規格のメモリーカードでな。ファルコン殿が異世界に投入したソルジャーに、サポートメカを付けたろう? アレに少々の改修を加えれば、最適化するように中を組んである。しかし現存するどこの研究所であろうと、例えこれを搭載するメカ自身であろうと、解析はできない。私が保有する施設でなければな」

 待てよ、とファルコンが口を挟んだ

 「お抱えの山が、ちと枯れてきたらしいな」
 「あぁ」
 「ふん……、欲しいのは何だ。地下資源のデータか? ただの記憶装置がここまでデカイ訳あるか。コイツはマッピング装置か何かの類だろう。泣く子も黙るブラックバレーには、開拓者魂まで備わっていたのか」
 「……まぁ、マッピング装置、と言うのは中っているか」

 マクシミリアンがすんなりと認めたので、ファルコンとしては拍子抜けしたぐらいだ
 適当にカマを掛けただけだったのだから、受け流されればそれで終りだ。大体マクシミリアンの立場からしてみれば、それが中っていようが外れていようがどちらでも変わるまい

 ちりちりと、羽毛が焼かれるような気さえする
 ファルコンは身を乗り出した

 「鉱脈の探索なぞしてる暇はないぜ」
 「よく見える目を持っているのは良いが、深読みし過ぎだ」
 「へぇ、そうかい」
 「別に、異世界の文化とやらを調べたいだけだ。人の生活圏をうろちょろしてくれれば良い」
 「嫌でもうろちょろしなきゃならんだろうがな」
 「うろちょろついでに……。ファルコン殿のソルジャーに、“使えそうな友人”を沢山作ってきてもらえれば、嬉しいのだが」
 「……何故だ? 基本は不干渉だろう?」

 マクシミリアンが古風なハンドベルを振った。静かな佇まいのメイドが現れる
 気分が落ち着くお茶が欲しい、とマクシミリアンが言えば、メイドは鈴の音のような可憐な声で応え、部屋を後にする

 少し、沈黙した

 「何時までもそうではない。何れは、彼らと対話する事になるだろう。その内容はともかくとして、上手く交渉するには、相手の人となりを知っていなければな。異世界人ならば尚更だ」

 交渉、と言った。ファルコンは、鼻で笑った
 マクシミリアンが交渉すると言ったならば、それはきっと相手の脳天に銃口を向けながら行われるのだ

 それに、どちらかと言えばマッピングの方が本命に思えた。交渉相手の目星をつける為の情報より、異世界人達の生活圏をスマートに制圧する為の情報が欲しいのだ
各国上層部が牽制しあう状況ゆえの、情報を得るための苦肉の策か、とファルコンには感じられた

 「…………実質的に、コイツをコガラシに組み込んだら、後は何もせんでも良い訳だ」
 「これを知っている者は最小限に止めたい。具体的に言えば、ファルコン殿とこれを組み込む技術者……テツコという女だけに、だ。そして当然だが、他の組織に奪われることは絶対にあってはならない」
 「俺の部下が戻るのは三ヶ月後だ。それにナビロボのコガラシは、自動整備と簡易修理装置を搭載した最新鋭機で、大がかりな整備は必要ない。詰まりコガラシにそいつを組み込めるのは、順当に行けば俺の部下が戻る三ヶ月後。それまでに仕事が片付いちまったら、どうする?」
 「そこは融通を利かせて貰いたい。メイア3捜索の成功報酬の……そうだな、三倍の額を約束しよう」

 ファルコンは意図して大げさなリアクションをとり、ふざけたように肩を竦めて見せた

 「良いだろう、こちらに損はない。得ばかりだ。こんな話を持ってきてくれるとは、アンタは特上の客だな」

 ファルコンの言葉に満足げな笑みを浮かべて、マクシミリアンが手を差し出してきた
 ファルコンが握手に応じる。マクシミリアンの顔から、一気に緊張感が薄れた

 なるほど、気を抜いてみせるのも上手い

 「成立だな。詳しい契約内容については、後で人をやる」

 部屋の雰囲気が軽くなるのを待っていたかのように、ドアがノックされる。先ほどのメイドの声がドア越しに響く

 「失礼いたします」

 やはり、鈴が鳴るような美しい声であった。ファルコンはメイドの事などまるで気にせず振舞う

 「そう言えばなぁ、俺はアンタに返して置かなきゃならない物があるんだ」
 「ん?」
 「いやぁ、アンタもきっと覚えていると思うんだがな」

 メイドが一礼し、机の上にカップを置いた。紅色の液体が注がれる
 マクシミリアンが怪訝な顔をしながらもカップを手に取ったとき、ファルコンは動く

 メイドの手を翼でがっちりと拘束して引き寄せると、羽交い絞めにした
 左の翼で動きを封じ、椅子を蹴倒して立ち上がる。右の翼をひと振りすると、美しい青の羽が連なる隙間から、鉛色の刃が現れた

 「借りを、返しとかないとな」

 首筋にそれを突き付けられたメイドは、ヒ、と悲鳴を上げる

 「…………なんの心算だ、ファルコン殿」
 「ずぅーっと不思議でなぁ。なぜ今回の仕事が、俺の所にまで回って来たのかってな。あの時は、俺に受ける以外の選択肢はなかった。そんな状況だった。ご丁寧に手引きしてくれたのは、アンタだな? マクシミリアン」
 「根拠もなしに……動く男ではないな、君は」
 「俺の目が遠くまでよく見えるのは知ってるだろう。少しばかり本腰入れて調べたのよ。釣り合いが取れなさすぎるぐらいの大物に掠った時は、まさかと思ったが」

 マクシミリアンが座りながらも前傾姿勢になる。一瞬でも気を抜けば、飛びかかってくるだろう

 「話をして確信が持てたぜ。俺達隼団なら好き勝手に使い回せて、お手軽だとでも思ったか?」

 ファルコンは、己の翼の中で、メイドの体が強張ったのを感じた
 問答無用で足払いを掛ける。機敏に身を捻って逃れようとするメイドだったが、ファルコンの足爪が音を立てて開き、細い体を容赦なく踏みつけた

 「あぐッ」
 「化けの皮が剥がれてるぜ」

 怯んだ隙に、メイドを蹴り転がしてうつ伏せにさせる。その上で逃れられないように体重を掛けて踏みつけ、ナイフを突き付け直す

 ファルコンの目は鋭い。メイドの正体は、解っていた

 「よく鍛えられた小僧だ。メイドのカモフラージュまでさせて護衛をやらせる程度には、お気に入りのようだな、マクシミリアン」

 ロベルトマリンは雲に覆われているが、陽光がゼロかと言えばそうではない
 ファルコンであれば、紫外線の反射率で男か女か解る。コイツは男だ

 「確かに退屈しない仕事ではあるが、お陰でこっちは危ない橋を渡りっぱなしだ。おちおち寝ても居られん。押し付けられた仕事で泥を被ってんのに、押し付けたアンタはスーツ着て優雅にお食事会だ。フェアじゃないだろう?」
 「泥は被り慣れたかと思っていたが、ファルコン殿」
 「フ、違いない。だがな、マクシミリアン。今回一番汚ぇ泥被ってんのは、俺の養子でな」

 ファルコンの嘴の端が釣り上がる。凄みのある笑顔だ
 マクシミリアンは苦笑した。何事も無いかのように茶を口に含み、ファルコンの言葉を待った

 「雛鳥に泥被せっぱなしってのは、親鳥のする事じゃねぇだろう。俺が代わってやれねぇ以上は、アンタの所から泥被ってくれる奴を出してくれや」

 マクシミリアンは眼光鋭かったが、できる限り柔らかい微笑を表現しようと努めていた

 「ファルコン殿の親心には恐れ入る。その話、やぶさかではない」

 ファルコンが少年を開放する。少年は俊敏に跳ね起きて距離を取り、油断なく構える
 少年を静止するマクシミリアンに対し、ファルコンは今までとは正反対の恭しい態度で一礼する

 我儘と押して、ファルコンの自尊心は満足した。隼団として面子も保った。次はマクシミリアンの面子を保ってやらねばならなかった

 「アンタが度量の広い男で良かった。心から感謝する」
 「私の領域の内側。それがどういう事か解らぬ筈もあるまいに、大胆不敵なファルコン殿に免ずる」
 「……ふん、帰る。騒がせて申し訳なかった」
 「まぁ、待て」

 ドアノブに手をかけながら、ファルコンは振り返る。マクシミリアンは、ソファーの下に格納してあったらしい長剣を弄んでいた

 ファルコンは、かなり崖っぷちギリギリの火遊びをしていたらしかった。もう少しやり過ぎれば、長剣を持ったマクシミリアンと白兵戦になっていただろう
 それを理解して、ファルコンの毛は逆立った

 「“所属不明の武装テロ組織”の事だが……、何故昏倒させただけで放置したのだ? ジェットなら、解る。奴はまだ甘い」
 「アンタ、寒色系が好きなんだろ? その中でも黒は特別好みらしいな。暴れといて言うのも何だが、俺も、アンタとは仲良くしたいのだ」
 「それは光栄だ」

 カチン、と音を立てて、マクシミリアンの長剣が鞘に収まる

 ファルコンは目を細めて渋い笑みを送ると、堂々とした足取りで部屋を出た
 マクシミリアンよりも遥かに小さいが、同じくらい大きな背中であった


――


 ファルコンを見送った後、ジェットがマクシミリアンの部屋を訪れた
 馬鹿の振りをした馬鹿の面は健在だったが、些か顔色が青い。能天気な笑顔に、冷汗が滲んでいた

 メイドに扮する少年ルーク・フランシスカが、がっくりと項垂れる

 「そこのお子様は役に立たんかったんようですな」
 「あぁ、流石に百戦錬磨には敵わんようだ。……ジェット、ルークが制圧された時、よく部屋に突入してこず、踏みとどまったな」
 「うひゃひゃ、ファルコンさん相手に突っ込んでいく勇気が無かっただけなんよ」

 仕方のない奴だ、とマクシミリアンが苦笑する

 ルークは消え入りそうな掠れた声で、マクシミリアンに謝罪した

 「申し訳ありません」
 「相手が悪い。だが、諦めずに励めよ。今日はもう休め」

 泣きそうに顔を歪めたルークが退室する。ジェットが頭を掻きながら、困り果てたように言う

 「……あれで男やて言うんやから、全く」
 「部下から苦情が来ている。『ジェットが”折角の仕掛け”を活用せず、寧ろ率先してこちらを潰しにかかってきた』とな。上手く演技をしろと言っただろう?」
 「この血糊の事ですかいな。こんなモン、一目で見破られましたがな。それに喧嘩の相手に手加減して、『敵と繋がっている』なんて思われてもうたら」

 ジェットが毎度の様に、ぶるぶると首を振った

 「後が恐いやないですか。ファルコンさんには睨まれたくありまへん、今日、そう確信しましたわ」
 「……中々度胸がある。この私とSBファルコン、どちらが恐いか考えて、奴の方が恐いと判断した訳だ」
 「…………いや、そんな訳や……あらしまへんよ」

 マクシミリアンが背を向ける。窓の外を見れば、屋敷の敷地外から、ファルコンが飛んで行く所だった。航空警察隊に圧力が掛かっているのを良い事に、帰りの交通費を軽減する心算らしい

 ジェットが身を縮こまらせる。猫耳がピンと直立する

 「冗談だ、あまり怯えるな」
 「……あちらを立てればこちらが立たず、人生の難しさを痛切に感じていたところですわ」
 「まぁ、必ずしも満足いく結果とは言い難いが、一応奴の実力は見れた。今回の依頼はこれで終りだ、ジェット。下がって構わん」

 一方的に宣言して、マクシミリアンは立ち上がる。オールバックにしていた金髪を乱暴に掻き乱し、外出用のコートを羽織る

 「どちらへお出かけで?」

 気まずそうに尋ねたジェットを、マクシミリアンは無視することもなく、答えた

 「ジェファソンの顔でも見に行ってやるかと思ってな」


――


 「……解らないな。いや、話は解るが……マクシミリアン・ブラックバレーか」
 「剃刀よりもキレそうな男だったぜ」
 「黒いアーマー部隊はどう考えてもマクシミリアンの私設軍隊だ。何故そんな物を持ち出して、回りくどいやり方で、君を挑発するような真似をしたんだ?」
 「さてな」

 テツコの白い掌の中で、マクシミリアンのマッピング装置が踊る
 危険な代物だった。取扱いの面倒な爆弾だな、とテツコは評した

 埃被ったミーティングルームで向かい合う二人は、揃って疲れたような顔をしている

 やれやれ、と、どちらからともなく漏らした

 「まぁ、増援については願ってもない話だと私も思うよ。流石はファルコンだ」
 「ヤバイ仕事にゃ、自分の手駒しか投入できん物だ。そしてマクシミリアンの手駒ならば、無能は居ないだろう」
 「マクシミリアンの人材収集家気取りは、我々研究者の狭い世間でも有名だ」
 「まぁ、メイア3救出作戦にとっては、大きなプラスか。……ふん、前向きに行かんとな」

 ファルコンが、サングラスをたたんで仕舞った


――


後書き

 ハードボイルドアクションを目指した。
 うわぁ、下手こいたぁ。

 感想にて過分なお誉めの言葉を頂いて嬉しい限り。読んでくださって、ありがとうございます。


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