第10話『ゲーリング財団創設』
どうも、アルベルト・リッター・フォン・ゲーリングです。
長ったらしいです、すみません。
いっぺん死んできますね、はい。
ドイツ帝国皇帝ヴィルヘルム2世からユンカー(準貴族)の称号を貰った俺。
しかし1918年7月、ドイツ帝国は瓦解した。
新たに誕生した『ヴァイマル共和国』
ドイツ旧領、オーストリア(同国革命により併合)、旧植民地領、
エルザス=ロートリンゲン地方、フランシュ=コンテ地方、
仏領西アフリカ、マダガスカル島、リビア(イタリアから割譲)、
そして東欧諸国(各国独立し、ヴァイマル共和国寄り)。
これらの領土を保有するヴァイマル共和国だが、その前途は多難だった。
累計70億マルクに及ぶ賠償金、莫大な戦費、足りない復興予算。
これらを返還するのに旧ドイツ帝国は仏領インドシナを1918年6月に大日本帝国に売却し、2000万マルクの購入金を受け取っていたのだが……。
なんと、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世がその金を持ってオランダにトンズラしてしまったのだ。
当然、この事実にドイツ国民は憎悪するかに思われたが、ヴァイマル政府はこの時期にオランダと対立するのが適当ではないとして、情報公開を避けた。
はたしてその金は今、何処にあるのか?
それはオランダではなく、エルザス=ロートリンゲン地方にあった。
そう、今や俺のポケットマネーと化していたのだ。
エルザス=ロートリンゲン地方。
ここに元ドイツ帝国皇帝ヴィルヘルム2世が保有していた城がある。
その名は『オー・ケーニグスブール』
現在、その城の所有権を有するのは、俺ことアルベルト・リッター・フォン・ゲーリングと『ゲーリング財団』である。
『ゲーリング財団』とは、1918年10月に旗揚げした財団だ。
主な事業内容としては、兵器開発、無線・レーダー開発、資源開発、航空機開発、
造船、医療・医薬品研究などが挙げられる。
その設立金として提供されたのが、ドイツ皇帝の私産と仏領インドシナ売却金の2000万マルクだった。
このため、俺は一旦軍から退役することにした。
このままドイツ空軍に移籍する――という方法も考えられたのだが、
賠償金やプロイセン軍人によって重い枷がはめられた空軍では限界があった。
何より、陸軍や海軍に手が回らない。
借金が多くて、新兵器をそう簡単に造ることは出来ない。
たとえ提案したとしても、途中で破棄されることだってあるだろう。
それなら財団なり何なりを作って、自分で武器を作れば良いのだ。
そう考えた俺は、空軍における仲介役として兄ヘルマンをこしらえ、航空機や戦車開発、資源採掘、医薬品開発に力を注ぐことにした。
兄ヘルマンは既にベルリン社交界では知らぬ者が居ないほどの有名人であり、その影響力は諸外国の上流階級にも及んでいた。
無論、国内の財界関係者にも――だ。
兄の人脈と皇帝の金脈。
それを用いて創られたのが、『ゲーリング財団』だった。
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ゲーリング財団の事業の柱となるのは、やはり資源開発だった。
枢軸国にとってはお馴染みの悩みとなる『油不足』等の解消である。
仮想戦記でもよく取り上げられるジャンルだ。
そこで俺は、油田開発の主軸として『3つの柱』を立てて、事業の核とした。
・リビア『サリール油田』
・イラク『キルクーク油田』
・満州『大慶油田』
――である。
第1に挙げたリビアのサリール油田は推定埋蔵量120億バレル。
これはヴァイマル共和国の領土となっているので、もっとも開発が容易だった。
第2に挙げたイラクのキルクーク油田は推定埋蔵量160億バレル。
これはオスマン帝国領であり、英国との関係悪化に繋がるので危険ではある。
しかし発見は1927年、開発は1934年で、イギリスの重要な燃料補給線の一つと成り得る油田でもあった。
史実では第一次大戦後、イギリスの委任統治領となってしまうが、この新たな歴史においてオスマン帝国は敗北していない。
同盟国という関係もあって、開発は捗ることだろう。
そして第3に挙げた満州の大慶油田は、推定埋蔵量160億バレル。
ドイツ財団として、アジアに進出することはそれほど大変ではないが、日本や英国との折り合いを付けるのは難しいだろう。
その上、アメリカまで割り込んでくる公算が大きい。
何しろ、1920年代には米英はこの満州の土地に石油が眠っていることを既に知っていたからだ。
一方、当の日本はというと、お粗末な掘削・精製技術によって物にできないという事実が存在する。
しかしこの油田を獲るか獲らないかでは、日本の命運も大きく変わる事だろう。
うーん……どうするべきか……。
一番楽なのはリビアだが、ここはイラクから攻めた方が良いかもしれない。
何しろイラクには、キルクーク油田の他にルマイラ油田(200億バレル)や西クルナ油田(300億バレル)がある。
オスマン帝国との関係が良好なうちに、これらの資源採掘権を掌握しておきたい。
だが、本命は隣接する国、クウェートのブルガン油田だ。
ブルガン油田の推定埋蔵量は600億バレル。
しかも原油が地表に自噴(自然に湧き上がる)ので、生産も容易だ。
おそらくこれ一つで、ドイツ第3帝国は数十年の安泰を約束されるだろう。
しかし問題は、これがイギリスの保護領であることだ。
万一にもこれを1920~1930年代に発見したとなれば、対英・対ソ戦フラグが立って、二正面作戦でジ・エンドだ。
触らぬ神に祟りなし。
これは保留しておく。
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次は陸戦兵器開発。陸軍国家であるドイツとしては、もっとも重要な案件だ。
まずはアサルトライフル開発。
これはStG44を当面の目標としておく。
StG44というのは、第二次世界大戦中に開発されたドイツ軍のライフルだ。
現代のアサルトライフルの基礎を築いた銃であり、あの『AK-47』の基となった銃でもある。
開発者はMP18を開発した『サブマシンガンの父』ことヒューゴ・シュマイザー。
今物語において、第一次大戦中にシュマイザーはベルグマン社に入社、俺が提案した『MP28』の開発責任者として手腕を揮った。
MP28は1918年、つまりは今年制式採用され、3月の終戦間近に実戦投入されてその高い性能を見せている。
俺はこのシュマイザーをベルグマン社から引き抜き、
先の東部戦線から鹵獲・回収したロシア軍自動小銃『フェドロルM1916』とStG44の設計図を基に、その開発を命じた。
現行では銃の生産ラインは無いので、その生産は他社に委託することになるだろう。
今の所はそれで十分だった。
次に戦車開発。
史実には第一次大戦後、ドイツはヴェルサイユ条約に従って戦車の製造保有を禁じられる。
そのため、ドイツ軍は『ラパッロ条約』等で苦し紛れの言い訳をしながら、張りぼての戦車を造っていくことになる。
しかし、今物語でドイツは戦車の製造保有を禁じられていない。
張りぼてでない戦車を堂々と造れる訳だ。
これに俺が提案したのが、『Ⅲ号戦車』
もちろん、ただのⅢ号戦車ではない。
傾斜装甲を備えたⅢ号戦車だ。
何故、傾斜装甲を備えたⅢ号戦車を造るのかというと、それは後の『パンター』戦車のためである。
傾斜装甲というのは、敵戦車等から放たれた徹甲弾に対し、
装甲を傾斜させることによってその運動エネルギーを拡散させ、逸らして弾くという概念である。
当時としては新機軸の技術であり、効果は抜群であった。
しかしその分、構造が複雑となり、生産効率の低下とコスト高は免れない。
だが、その試みをごく初期のうちに進めておき、国内で十分なノウハウを確立しておけばどうだろうか?
Ⅲ号戦車の値段9万6200ライヒス・マルクに対し、パンターは12万5000ライヒス・マルクととてもリーズナブルな値段だった。
戦車開発の縛りを受けていない1920年代にこの傾斜装甲技術を確立しておけば、
パンターの開発・製造日数とそのコストを削減することが出来るだろう。
それが俺のねらいだった。
何しろパンターは強い。
日本軍が悪戦苦闘していたM4中戦車を平均5輌撃破していたのだ。
これに対し米軍は、M4を4輌1組のチームにし、1輌のパンターにぶつけた。
正面戦闘では敵わないM4は、側面や足回りに攻撃を仕掛け、これに勝利した。
まさに物量の勝利である。
だが、パンターも物量で行けばどうだろう。
流石にM4やT-34並とはいかないものの、史実以上の数を揃えることが出来るだろう。
このパンターや他の戦車・自動車開発には、米自動車メーカーのフォードに支援を受けながら、大量生産のノウハウをつけていくつもりだ。
もちろん、重機開発も忘れずに……。
うん、まさに王道パターンだな。
また、無線機開発も優先的に進める。
相互連携を重要視する『電撃戦』には必須だからだ。
とりあえずは米のモトローラー社(ウォーキートーキーやハンドトーキーで有名)
から技術者を引き抜いて、米国の無線技術を停滞させてやるつもりだ。
まぁ、あの国なら代用品なんて幾らでも造れそうだが……。
陸戦兵器はこれくらいにして、航空機や艦船を……と言いたい所だが、この時代ではやはり遅々として進んでいない。
戦艦や空母も設計プランはあるが、建造出来る見通しはない。
また航空機についても、ユンカース社・フォッカー社と共同で全金属製機の開発を押し進めている。
しかし、それが実を結ぶのは、当分先になりそうだ。
1918年~1920年代におけるゲーリング財団の主な事業は、資源開発と技術者のヘッドハンティングに絞られてくる。
ドイツ国内からヨーロッパ、しいてはアメリカまでその手を伸ばし、片っ端から使える技術と技術者を買い漁るのだ。
そして世界の叡智を我が手に収めるのだ。
……うーん。
まるで独裁者みたいだ。