※報告※
本作は大幅な改訂を行います。ご了承下さい。
●序章 改訂
●第1話及び第11話以降~ 削除
●第2話~第9話 改訂
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《第1話『アルベルト』 1895年3月9日》
ドイツ帝国領植民地の国家弁務官の息子、アルベルトは生まれながらにして変わっていた。
純粋無垢な赤子には似合わぬ、ふてぶてしい表情。
しきりに泳ぐ視線。
未熟な手足が見せる、挙動不審な動き。
そして何より――一度もアルベルトは泣かなかった。
大声一つ、喚き声一つ上げず、口は真一文字に噤まれたまま。
いや、時折り口をパクパクと魚が餌を食べるが如く動かしてはいた。
両親は困った。何か重大な病気なのではないか? と。幼き頃から病を抱えた子は国家の癌であり、悪であり、罪である、というのが世の中の見解であった。
「しゃ……喋れないなんてことはないだろうな?」
父親であるハインリヒ・エルンスト・ゲーリングは医師を問い詰めた。
「まさか。これは一時的なことで、よくあることですよ」
医師は務めて冷静に言ったが、これは嘘である。
憤怒するゲーリング氏の気を落ち着かせるがための。
「見て下さい。この子は感性豊かな子だ」
そう言われて息子の顔を見ると、確かにそうだと認めざるを得なくなった。
アルベルトは物を言わぬままだったが、こちらに大きな興味を示している。こちらの表情をそれとなく観察していたのだ。
「あ……あぁ……そのようだな」
父親はそう呟き、静かに息子を抱きかかえる。
「アルベルト、お前は俺の息子だ」
当の息子は取り留めも無い顔を浮かべ、沈黙を守るばかりであった。
「ゲーリングさん。今後の事についてですが……」
1
――“ゲーリング”
その単語が医師の口から漏れた時、俺は唖然としていた。
部屋の窓の外に広がる古めかしい街並みと、それに溶け込む古風な人々。
街道を駆け抜ける馬車。
空を闊歩する一隻の巨大な飛行船。
俺の脳裏に過ったのは、不快な記憶だった。
足を滑らせ、頭部を強打して呻き声を上げる自分。
視界はみるみる真っ赤に染まり、ピントが合わないようにぼやける。
そして――真っ白な世界と“神”
その“神”――と名乗る奇妙な老人から託された一つの“要求”
――“日本とドイツを救え”
無理難題を押し付けられ、その後、意識は飛んだ。
ところが目覚めてみればこれである。
アルベルトという名の赤ん坊へと生まれ変わっていたのだ。
しかも時代は1895年。
聞けばここはドイツらしい。ということは、ドイツ帝国時代。
軍事知識に明るい俺は、必要最低限の常識としてドイツ帝国の末路を知っていた。1914年、ドイツ帝国はオーストリア皇太子夫妻の暗殺事件によってセルビアへ宣戦布告、結果的にロシア帝国を敵に回してしまうのだが……。
正直、どうしろと?
ただの一国民(赤ん坊)に何が出来る、と?
――否、“神”は俺に『切り札』を用意してくれた。
一つは脳内の記憶領域に集積された、Wikiのような知識。
そしてもう一つは――“ブルーダー”(兄弟)
簡潔に言えば、俺はヘルマン・ゲーリングの弟である。
意味が分からないかもしれないが、事実なのだ。
ヘルマン・ゲーリング。
ドイツ第3帝国の国家元帥であり、事実上のトップ2。
そんなヘルマン・ゲーリングを兄に持つのが、俺である。
そう……アルベルト・ゲーリング。
ヘルマン・ゲーリングの弟であり、実業家であり、反ナチ活動家。
ユダヤ人を支援し、ナチス=ドイツを非難したという。
そんな兄貴とは正反対の人物だが、終戦後には弟だったということだけで逮捕され、数年を牢屋で過ごした悲しい人物でもあった。
俺は今、そんな人物に――“転生”している。
そのまま同様の歴史を繰り返し、平穏に人生を終えるのも良いかもしれない。
だが、俺には使命が課せられていた。
“神”が与えた不条理な使命。
チャンスは一度、二度目は無い。
その日、俺の人生の歯車は産声を上げ、動き始めようとしていた。
-----後書き-----
始めまして。キプロスと申します。
本小説は、ひょんなことからナチスの大戦犯ヘルマン・ゲーリングの弟、実業家で
反ナチス活動家のアルベルト・ゲーリングへと転生してしまった某航空会社パイロ
ットが、兄ヘルマンをモルヒネ中毒や急降下厨にさせんと奮闘しつつ、未来知識を
活かしてドイツを改変していくという物語です。
転生改変物は初の試みとなりますが、宜しくお願いします。