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No.31552の一覧
[0] 魔王降臨【モンハン×オリ】[周波数](2017/09/27 20:26)
[1] 一話目 魔王との"遭遇"[周波数](2017/09/27 20:26)
[2] 二話目 不可解な"飛竜"[周波数](2017/09/27 20:26)
[3] 三話目 冒険者の"常識"[周波数](2017/09/27 20:27)
[4] 四話目 暴君への"憧れ"[周波数](2017/09/27 20:27)
[5] 五話目 今できる"対策"[周波数](2017/09/27 20:27)
[6] 六話目 荒れ地の"悪魔"[周波数](2017/09/27 20:22)
[7] 七話目 舞い込む"情報"[周波数](2017/09/27 20:27)
[8] 八話目 激昂する"魔王"[周波数](2017/09/27 20:23)
[9] 九話目 混沌する"状況"[周波数](2017/09/27 20:28)
[10] 十話目 去らない"脅威"[周波数](2017/09/27 20:28)
[11] 十一話目 街道での"謁見"[周波数](2017/09/27 20:28)
[12] 十二話目 超戦略的"撤退"[周波数](2017/09/27 20:24)
[13] 十三話目 統括者の"本音"[周波数](2017/09/27 20:25)
[14] 十四話目 冒険者の"不安"[周波数](2017/09/27 20:29)
[15] 十五話目 逃亡者の"焦り"[周波数](2017/09/27 20:30)
[16] 十六話目 精一杯の"陽動"[周波数](2017/09/27 20:30)
[17] 十七話目 堅城壁の"小傷"[周波数](2017/09/27 20:30)
[18] 十八話目 攻城への"計画"[周波数](2017/09/27 20:31)
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[31552] 六話目 荒れ地の"悪魔"
Name: 周波数◆b23ad3ad ID:22b3f711 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/09/27 20:22
「これは……本当かね!?」

 私の目の前の男、この街の首長であるレヴィッシュ伯は、まるで悪魔でも見たかのような目つきでそう言った。
そして、同じく隣に座る副首長も同じような反応をしている。この"街議会"の他のメンバーは、二人の様子が普通でないことを訝しんでいるのか、隣同士で顔を見合している者もいる。初夏の陽気で部屋の温度は暖かいものの、瞬く間に部屋に走った緊張のおかげか肌に感じるのは感じるのは温かみでは無く寒気である。

「ああ、ギルドの冒険者が半死半生で持ち帰った情報だ」

 レヴィッシュ伯の手に持たれている書類、それは私が先程、街議会が始まる直前に仕上げたばかりの報告書だ。内容は勿論、砂漠岩地に現れた"竜"についてである。危機感を感じさせるように煽り、そして且つ簡潔に書かれた書類を、レヴィッシュ伯は改めて食い入るように読み直した。

 凄まじい体格と耐久力、それに起因する魔法への圧倒的な耐性。そして何より危険な、自分から攻撃を仕掛けていくことから推察できる、縄張りを犯そうものならば容赦なく戦いを挑んで来るであろう好戦的な性格。並みの冒険者は勿論、腕利きでさえ勝てるかどうか、いや生きて帰ってくるかも分からない、非常に危険な存在である。そんな事を報告書には書いておいた。

「何という事だ……」
「とりあえず、全体で対策を話し合って頂いても宜しいな?」

 断る理由など有はしない。そういった目で首長は私の言葉に頷いた。少しざわついていた部屋は、首長の頷きと共に静かになっていった。机に座る面子が、皆真剣に聞く姿勢になってるのを確認した後、私は口を開いた。

「さて諸君、この度ギルドは災害級の魔物をこの街近郊で発見するに至った」

 単刀直入に、全体に向かって私は話す。

「ギルド内での暫定ランクは、冒険者の報告からAからSとなる程の凶暴な魔物だ。容姿に関しては後程資料を見てもらう」

 伝説級の代名詞ともいえるSランクと言う響きが効いたのか、静かになった部屋は少しざわつき始める。しかし一つ咳払いをするとまた静かに戻った。

「今回重要になっているのは、その魔物の出現した場所の付近に我が街にとって動脈とも言える街道が有る事だ。この魔物は非常に縄張り意識が強い物と思われる。今まで隊商が被害を受けなかったのは殆ど奇跡と言って過言ではない」

 そこまで言い終えたとき、一人が手を挙げた。髭を生やした、本当に軍と言う物に対する一般的なイメージを形にしたような、荘厳な感じの軍務長だ。

「どうぞ」

 了解の意を示すと、彼は厳つい顔をしたまま立ち上がり、私を睨み付けた。

「何故今更になって報告した? そのような危険極まりない物が街の近郊にポッと出てくる訳がなかろうに。それに今までの貴様たちギルドの報告では、砂漠にはAランク級ですら稀にしか現れないとの物だったはずだ」

 やはりか、と言った気持ちでそれを聞く。この話を聞く誰しもが浮かべるであろう疑問である。しかし生憎、私はこの問いに対する最善の答えを持ち合わせていない。それ以前に、私自身も同じ疑問を前にして、答えを見つけられていないのだから。

「それに関しては、本当に急に発見したのだから説明のしようがない。我々ギルドとしても、今回の一件については首を捻る事ばかりなのだからな」

 そう返すと、まだ不服そうな顔をしてるものの、軍務長は椅子に座った。これを続けても良いという合図と取り、説明に戻る事にした。

「王都に通じる街道の中でも、南部と北部の街道は主要交通路に入る。それを使用している隊商は多数存在している。言ってしまえばこの街の経済は、南部と北部の街道の二つで賄われていると言っても良い。しかし件の魔物をどうにかするまで、北部の街道は通行禁止とする処置を行うべきであろう。これに関して産業長の意見を伺いたい」

 北部の街道の一部は、例の"竜"が出没した傍を走っている。ここで産業長に聞きたいのは、南部の街道だけでどれだけの間この街の産業が持つのかと言うことである。
 実際の所、北部の街道に関しては砂漠岩地を走っているという事で非常に乾燥しており、ここを通る隊商の殆どは主にワインの運搬くらいしかしてはいない。だがそのワイン産業こそがこの街の主要産業として街の経済を回していた。先程の厳つい軍務長とはまた違った硬い表情の産業長が立ち上がった。

「……我が街グラシスは王都のように穀物を他の地域から多くを頼っている訳ではないから食糧事情に関しては問題は無い。しかし主要産業であるワイン製造業は大きな打撃を受けるだろう。行路は殆どが北部の街道で、しかもワインの出荷先の殆どは中央地方だからな……通行禁止が長く続けば、最悪廃業に追い込まれる業者も多く出るだろう」
「ならばどのくらいの間は通行禁止を実行しても大丈夫なのだ?」

 仮に討伐等の対策が不可能ならば、実質的に北部の街道は使い物にならなくなる恐れがある。しかしそれではこの街の経済が回らなくなってしまうのだ。そういったときの最終手段としては、王都の中でもトップクラスにエリートである聖騎士団に討伐して貰うしか無いのだ。ギルドとしては本当に不本意ではあるが。
 しかし、その聖騎士団に依頼しても、すぐにやってきて貰えるものでは無い。確かにこの街は国の中でも大きい部類に入るのだが、それでも王都を守る騎士の編隊を辺境の魔物一頭に回すには、かなりの交渉時間を要するだろう。短く見積もって、交渉に1週間、受理されて命令として伝わるのに2週間、実際にここに来るまでの時間や諸々を加えると、1か月は掛かるであろう。

「今度のワインの運搬業者がここを発つのは明日の朝だ。そこから通行禁止にすると……凡そ10回の運搬分が常に王都の倉庫には溜めこまれているから、それが尽きる前までには解除をしないと厳しい。だから大体だが20日程だ」

 王都の騎士に頼るには、明らかに短い日数。ならば我々ギルドのメンバーでどうにかするしかない。だが、いたずらにメンバーを増やして犠牲者の数を増やすのはいただけない。一体どうするべきか……そう考えていると、急に会議室の扉を叩く音が、静かな部屋に響き渡った。

 コンコン、という規則正しい音に、軍務長などはあからさまに不機嫌な顔になったが、レヴィッシュ伯は顔色一つ変えずに言った。

「入りなさい」

 低く、しかし周りに響く声の後、若い男が扉を開けた後、頭を下げて言った。

「会議中失礼します。只今、王国庁の方から伝令が入りました」

 王国庁。その言葉と共に、会議室は先ほどに増してざわついた。一体全体王家一族の政治と執務を司る省庁がこの街に何の用だというのか。別段今日は祭事など無く、王国庁がこの辺境の街に構う理由など存在しない筈である。

「宜しい、話せ」
「はい、伝令には"ダイサンオウジョガ、ソチラノマチニ、オハイリニナル。コウヒョウハセズニ、ホクブノカイドウニテ、ムカエルベシ"とありました」

 その瞬間、私を含めた議会の議員全てが比喩抜きにして、固まった。一体何を言ったのか、それを理解するのに数秒の時間を要するかのような、そんな文章。北部の街道。今まで散々封鎖するかしないかで議題に上がっていた、
 "竜"の出没した街道。ガリ、と無意識の内に歯を噛みしめる。凡そ通常ならば、ため息と共に迎えるであろう第3王女の忍びの偵察、もとい遊覧。だが、今は事情が違う。人が必死に悩んでいる最中に、遊覧だ? まるで出来の悪い喜劇みたいなタイミングだ。思わずふざけるなと言いたくなる。相手が雅な身分な事も忘れてだ。

 しかし、そう苛々もしていられない。第3王女の御一行がもし、もし仮に"竜"と遭遇しようものならば――いくら側近の騎士達のレベルが高くとも、ただで済むとは到底思えない。迎えどころか、守護しなければならないと来れば、今すぐに人員を割かなければならない。そうなると、おちおち会談を続けていくわけにも行かなくなった。
いつもはしっかりした表情の筈のレヴィッシュ伯も、当初に増して顔面蒼白になりつつある。第3王女に何かがあったら、責任はまず街の首長に行くからだろうか、全く酷く迷惑極まりない話だ。

「あのお転婆娘が!!」

 少し肥満体型の法務長が怒鳴り声を上げた。議会の真っただ中の其れに対して、しかし誰も顔を顰める事は無かった。誰彼も全く同じ感想を抱いているからだろう。何分私も全く同じ思いを持っている。この声が切っ掛けで、議会の面々は文句を言い始めたが、副首長の「静粛に!!」という一声で、再度静寂が訪れた。その中でなるべく落ち着くように深呼吸をし、叩き付けたくなる拳を必死に抑え、私は手を挙げた。

「軍務長、其方はすぐに兵を動かせるか?」
「……今すぐは少し無理がある。街の守護が一気に減少するからここばかりはギルドに頼っても宜しいか?」

 時折ギルドをライバル視してくる彼でも、非常時においてはその頭は理性の元で働くらしい。間髪入れずに、私は大きく頷いた。

「ならばこちらで即刻緊急依頼として公布しよう。予備の兵は集められるか?」
「早急に対処する」

 いつもならば文句の1つは言ってくる軍務長も、今ばっかりは反論無しに肯定した。取って湧いたかのような事態に態々人員を回さなければならないという共通認識の成せる業か。

「我々議会は封鎖処理について話を進めておく。君達二人は即刻対処に当たってくれ。一番の問題は、王女一行がどの地点に居るかがまるで分からない事だ。出来るだけ早く街道に人員を向かわせろ!!」

 ならば話は早い。私と軍務長はすぐに立ち上がり、全体に向かって一礼をした。数分前まではこんな事態になるなど、一かけらも想像していなかった。そんな不条理さは議会の面々も共有しているのだろう、何時もよりも皆、殺気立った様子で、しかし意欲的に会議に参加している。

 例えどういう状況下においても、王女側の不手際でギルドまでもが責任を負わされたら堪ったものでは無い。とにかく、まず向かうはギルド本部だ。私は足早に扉へと向かった。


* * *


 お世辞にも通りやすいとは言えない、ゴツゴツとした荒れ地の道を、二台の竜車がゆっくりと進み、真っ白な鬣を生やした1頭の龍がそれに付き添うように歩いている。ガラガラ、と時々石に乗り上げながらも、照りつける日差しの中を進み続ける竜車には、王家を表す花の紋章が側面に描かれている。その脇を歩く一頭の龍は、竜車に負けない大きな体格を持ち、立派な角を生やした頭を時折振りながら周囲を警戒していた。一般には雷龍と呼称される龍は、高々竜車二つの護衛としては立派過ぎる物だった。

 荒れ地の照りつける日差しをしっかりと防いでいる屋根つきの竜車の中で1人の少女が鈴の鳴る様な声で、前に座る尖った耳を持つメイド服の女性へと問いかけた。

「後どのくらいですか? もう王都を発って1週間も経ちましたが」
「そうですね……もう砂漠岩地の半ばまで来ていますから、このペースではグラシスに入るのは今日の夜頃になりそうですね」

 窓の向こうの、大きな岩山の向こうにあるであろう、1年前に訪れた綺麗で活気ある街に想いを馳せながら、少女は口を開いた。

「去年もすんごい綺麗でしたからね。楽しみです!! でも……本当に事前に知らせておかなくて良かったのですか?」

 去年に、目の前のエルフの女性の親族が統括をやっているというギルドを見学したとき、その統括に切れ長の瞳で睨まれた事を思い出した少女は、少し震えた。

「大丈夫ですよ。嫌な顔をしたのは精々ギルドのトップになって調子に乗っているニーガくらいでしょうし、それに街の人だって王都の貴族集団みたいに貴女様を見た瞬間にヘコヘコお辞儀してくるわけでも無いのですからね」

 一年前の訪問で訪れた時に会った、王都の人々よりもどこか小ざっぱりしたような性格のグラシスの人々は、この少女にとっても悪くない印象を与えていたようだ。少女はニッコリと笑い、女性に抱き着いた。

「レーナがそう言うんなら間違い無いですねっ!!」
「姫様……いくら竜車の中とは言えども行儀悪いですよ」

 少女――王国の第3王女は、咎める声も何のそのスリスリと頭を押し付けたままだ。それを女性の従者は、苦笑いしながらも優しく頭を撫でた。

「お城の中じゃ規律ばかりでろくに甘える事も出来ないんだから、これぐらい良いですよね」
「はいはい」

 まるで親子のように見える2人は、暫くの間はそうしていたが、ふと従者の方が顔を上げた。
 彼女は窓の方を見つめたが、どうも竜車は段々とスピードを落としているようだ。注意しなければ分からないくらいにゆっくりと減速していき、とうとう完全に止まってしまった。景色を見ても、どう考えてもまだ道の途中である。耳を澄ませても、特に喧騒など聞こえず、盗賊の類では無いようだ。

「どうしたんですか、レーナ?」
「いえ、急に竜車が止まったのですから……何か起きたのでしょうか」

 目を細めながら景色を見ても、何ら変わりない、変わり映えの無い岩山と荒野が映るだけだ。ならば何故止まったというのか。彼女は御者の居るであろう前の窓から身を乗り出した。首を出すと、荒れ地ならではの乾燥した熱風が彼女の髪の毛をすくい上げたが、手で少し直すと直ぐに問いかけた。

「どうしたのですか? 急に止まるなんて」
「いや、俺にもよく解らないッス……前の竜車が止まっちまったんで仕方なくこっちも止めただけですンで……」

 全く分からないと言った感じで、若い御者の男は首を振って答えた。ならばと前の、此方よりも質素な感じの竜車を見ると、一緒に連れてきた騎士達が降りてきた。全員が既に武器を構えている。

「貴方達、一体どうしたのですか」

 後ろで少し怯える王女の気配を感じながら、彼女は大きな声で騎士たちに聞こえるように問いかけた。それに対して、隊長が雷龍を指さしながら応える。

「はい、急に雷龍が立ち止まって警戒しだしたものですから、一応竜車を止めたんです!!」

 確かに、見ると雷龍は街道の脇に広がる荒野を睨み付けている。しかしその先には、だだっ広い荒れ地と、その奥の幾つも聳える岩山しか無い。だが雷龍が警戒しているというならば、何者かが潜んでいるという事なのだろう。しかし相手が潜んでいるというのに、わざわざ出てくるのを待つ理由など無い。

「ならば貴方達は武装したまま竜車に乗って下さい。ここは早い内に出発した方が良いでしょう」

 いくら強力な雷龍が護衛に居るからとは言えども、ゴブリンのような小型の魔物の大群が現れたら王女を守り切るのは少々難しい。何が居るか分かったものではないなら、下手なことはしない方が良いのだ。

「し、承知しました!!」

 騎士達は各々武器を手にしたまま、竜車へと戻っていく。前の竜車が動き出したことを確認した従者は、また王女の前へと腰を下ろした。王女は相変わらず不安そうな顔をして言った。

「レーナ、竜車はなんで止まってるの……?」
「大丈夫です、姫様。すぐに荒野を抜けますから」

 そう優しく笑いかけながら、彼女は竜車が動き出したのか、細かな揺れを感じた。

「ほら、ちゃんと動き出した……え?」

 指さした窓には、まだ動かない風景がただ映っていた。そう、竜車は走り出してなどいない。しかし揺れは小刻みながら、きちんと体に伝わっている。どういう事だ、と反対側の窓、先ほど雷龍が睨み付けていた荒野を振り返ると、遠くの方の地面に異変があった。
 風が吹いているにしては不自然な、砂の舞い方。ただ一直線に砂煙が舞っている。砂煙は、まるで近づくかのように直線状に舞い上がり、その直線上にはこの一団の竜車が居る。ゾワリ、と寒気が彼女の背中に走った。同じく横でその光景を見ていた王女は、彼女にしがみ付きながら震えている。

「何……あれ……?」

 小刻みな揺れは、どんどん大きくなっていき、まるで竜車が全力で走っているかのような錯覚を受けさせる。

「……すぐに降りましょう!!」

 なんでこんな選択をしたのか、ともかくレーナは震える王女をその細い腕で担ぎ上げ、竜車の外へ飛び出した。そして取り残された若い御者は、事態を把握することもままならず、混乱した様子で先ほどよりも大きく近づいている砂煙を見つめていた。竜車を揺らす地響きは大きくなる一方で、その砂煙はひたすらに近付いてくる。

「な、何だアレは……」

 前を行く竜車から展開した騎士達は直ぐに陣形を組んで後方へ駆け寄り、降りた王女を囲うようにして砂煙の粟立つ荒れ地へと武器を構えた。

 雷龍、騎士達、そして従者と王女は、まるで地下に"何か"が蠢いているかのように巻き上がり近づく砂煙を凝視し続けていた。既に直接的な地面の揺れだけでなく、それが巻き起こす地響きの重い音も彼らの恐怖を煽っていた。騎士達は一歩、そして一歩と二人を囲ったまま後退し、震えて動かなくなっている御者は、震える手で手綱を握りしめ、それに繋がれた竜は何かに怯えるかのように鳴いている。騎士の1人が揺れに耐えきれず尻餅をつき、王女が泣き始めた――その時だった。

 すぐ傍まで近づいた砂煙はいきなり止み、辺りが突然静かになった。聞こえるのは、怯えて暴れだしている竜のみ。ドスンドスン、と足音を立てて逃げ出そうとするが、手綱が着けられているためにただその場で音を立てるばかり。
 レーナは、無意識の内に杖を抜いていた。王女を庇うようにして前に立ち、荒野をただ睨めつける。ここに潜んでいる"何か"は、とんでもなくまずい物だ。直感が彼女にそう告げていた。
 護衛の雷龍はいつでも戦えるように、鋭利な角を前方に構えて、同じく荒野を睨み付ける。熱風、車引きの竜の足音、それのみが空間を満たし――弾けた。

 荒野に吹き荒れる風の音をかき消す爆音。見上げるまでに高々と舞い上がる砂と礫。そして、その直後に襲い掛かる強烈な衝撃波。

 一瞬の内に、先ほどまで騎士達が乗っていた竜車が砂の爆発に飲み込まれた。まるで炎の大魔法を直接地面に向けて解き放ったが如くの衝撃が一帯を飲み込み、半歩遅れて竜車の残骸が辺りへと飛散した。王女たちが乗っていた竜車も衝撃で横転し、御者が投げ出され、押し倒された竜達が絡まった手綱によってもがき続けている。騎士達や雷龍の後ろにまでも、砕け散った竜車の破片が音を立てて落ちた。レーナはすぐに王女の頭上を背の高い自身の体で覆い、爆発地を見据えた。

 砂煙の上の方から段々と晴れていき、"襲撃者"の姿が明らかになった。砂の煙幕の向こう側でその襲撃者が野太い尻尾を大きく振るうと、彼に纏わりついていた砂や枯れ草が飛散し、彼の体を隠す砂塵を散らしていく。そしてとうとう、砂色の巨体が露わになった。尻尾に掠った竜車の破片が砕け散る中で、全員がその姿を見据えた。

 全てが規格外の大きさを誇る、砂色の巨体。その先端の折れた角ですら威圧感を発するかのような、途轍もなく野太い捻じれた双角。竜車のあった所には、砂色の要塞が鎮座していた。

「ば、化け物……ッ!?」

 騎士の一人がそう呟く。幾ら腕の立つ騎士でも、流石に巨竜に引けを取らない体格の竜などは相手にするどころか、見たことも無いのだろう。その体格に負けない程に大きな翼を振るい、"竜"は付着した砂を払い落とした。だたそれだけの動作でも、ここに居る全てには威圧感を与える物だった。

 雷龍が皆を庇うかのように一歩前へ出るが、まるで幼子と大人程の体格差がある"竜"相手には、非常に滑稽な光景に見える。"竜"は大きく上げていた頭を下ろし、雷龍の挙動へと目を移した。しかしその体格差から、ある程度離れていても見下す形になる。その巨体が振り返ろうとすると、ただ足踏みをしただけなのに小さな地響きが生まれた。

 雷龍と向かい合う形になる"竜"。その光景を小さな王女は震えながら見つめていた。
王国の所有する最高戦力の1つである、雷龍。昔から王家の威信として、何者よりも強い龍と教わってきた。
しかし、それと対峙する"竜"は何だ? 唯でさえ大きな雷龍の、更に倍以上の体格を持つ、絵本の中にでてきた悪魔の様な角を持つ"竜"。もはや化け物としか思えない。幼いころから教え込まれた強者ですら、この"竜"の前では霞んで見えてしまっている。

「う……ぅぅ」

 王女の目には見る見るうちに涙が溢れていく。まだ幼い彼女には、まるで"竜"は悪魔の様な物として映っていた。それを見たレーナは、彼女の目にこれ以上"竜"を見せないように王女の前に立ちはだかった。しかし、彼女自身も震えは隠せない。見たことも聞いたことも無い"竜"は、この場の全ての者を威圧した。そして皆が慄く中で、"竜"は野太い首を振り、天高く持ち上げた。

 空気が震え、何名かの騎士たちが剣を取り落として地面へと倒れて狂ったように耳を塞ぐ。

 大音量の咆哮。音を通り越して衝撃波となり、荒れ地の枯れ草たちを激しく震わせた。レーナは自分の耳を塞ぐのも忘れ、王女の頭をすぐに抱え込んだ。咆哮は、一帯に響き渡り、砂を巻き上げて消えて行った。舞い上がった砂が、咆哮の強烈さを物語る。

 砂漠の魔王は、再度縄張りに侵入した不届き者達を睨み付けた。


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