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No.31552の一覧
[0] 魔王降臨【モンハン×オリ】[周波数](2017/09/27 20:26)
[1] 一話目 魔王との"遭遇"[周波数](2017/09/27 20:26)
[2] 二話目 不可解な"飛竜"[周波数](2017/09/27 20:26)
[3] 三話目 冒険者の"常識"[周波数](2017/09/27 20:27)
[4] 四話目 暴君への"憧れ"[周波数](2017/09/27 20:27)
[5] 五話目 今できる"対策"[周波数](2017/09/27 20:27)
[6] 六話目 荒れ地の"悪魔"[周波数](2017/09/27 20:22)
[7] 七話目 舞い込む"情報"[周波数](2017/09/27 20:27)
[8] 八話目 激昂する"魔王"[周波数](2017/09/27 20:23)
[9] 九話目 混沌する"状況"[周波数](2017/09/27 20:28)
[10] 十話目 去らない"脅威"[周波数](2017/09/27 20:28)
[11] 十一話目 街道での"謁見"[周波数](2017/09/27 20:28)
[12] 十二話目 超戦略的"撤退"[周波数](2017/09/27 20:24)
[13] 十三話目 統括者の"本音"[周波数](2017/09/27 20:25)
[14] 十四話目 冒険者の"不安"[周波数](2017/09/27 20:29)
[15] 十五話目 逃亡者の"焦り"[周波数](2017/09/27 20:30)
[16] 十六話目 精一杯の"陽動"[周波数](2017/09/27 20:30)
[17] 十七話目 堅城壁の"小傷"[周波数](2017/09/27 20:30)
[18] 十八話目 攻城への"計画"[周波数](2017/09/27 20:31)
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[31552] 五話目 今できる"対策"
Name: 周波数◆b23ad3ad ID:22b3f711 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/09/27 20:27
「ふむ、これは承認するかな」

 暗い執務室の中、ボンヤリと机を照らすロウソクの灯りを頼りに、ニーガ統括は書類にサインをしていった。すっかり日が落ちてしまった時間。空には砂漠岩地の山から上がった月が明るく輝いているが、それなりに広い執務室の中を照らすまでは至らない。窓の傍だけが照らされている。その窓から突如、風が舞い込んできた。彼は慌てて書類が飛ばないように抑える。冷たい風が頬をなで、夜勤の気力を少しばかりか削り取った。
 初夏の頃ではあるが、近くに砂漠があることもあってか、この街の夜は季節を問わず常に冷え込むのだ。吹き込む風などはいつも冷風である。

「さて次は……他国からの襲撃の際の軍事援助か。去年の引き継ぎで良い気もするが……一応理事会で協議しなくてはならないか」

 この「軍事援助」とは大砂原を挟んで遠く離れた場所にある、あまり関係が宜しくは無い帝国に対しての防衛協力を意味している。本来であれば正規軍によって対処される案件に対して、ギルドからも人員や費用の供出を怠ってほしいほいうものだ。この手の書類は毎年こうやって執務室の机の上に現れる。いつでも迎撃できるようにとの事だろう。しかしわざわざ用意する防衛のための人員以上に、街の北方に広がる大砂原が敵国侵略に備えて非常に大きな役割を果たしていた。

 この街はその立地上、過去何度か北方の帝国人の襲撃を受けてきた。しかし北方から訪れる遠征軍の3割が毎回大砂原で命を落とす。何故かはその大砂原の存在自体にあった。昼間は熱砂による灼熱地獄で、夜は一転して極度の寒冷化。そして何より特有の強風だろう。日中は強烈な上昇気流が発生して頻繁に砂嵐が吹き荒れる。それに伴い、恐ろしく細かな砂がまるで波のように襲い掛かるのだ。
 一応無風時間帯なども有るとされてはいるが、その期間や何時起こるかが解明されていないがために、大砂原の縦断にはかなり大きなリスクが伴うという。

 この件はとりあえず保留という扱いにして、彼は次の書類へと捲ろうとした。紙の端に指を掛けたその時に、ドンドン、と扉が激しく叩かれて一人の局員が部屋に飛び込んできた。許可も得ずに執務室へ入ってくるなど何事だとばかりにニーガはその局員を睨め付けた。しかし彼は臆することなく切らした息をすぐに整えて、真っ直ぐ執務机の先を見据えた。

「失礼します統括!! 砂漠に派遣していたパーティーが戻ってきました!!」

 そろそろか、という予想はしていたのだろう。彼は特に驚きはせず、落ち着いて局員に向かって答えた。

「ゴンゾのパーティーが戻ったか。すぐに話をしたい。手配出来るか?」
「恐らく不可能と思われます。リーダーのゴンゾ氏が意識不明の重体、他が魔力枯渇などで今はとても話せる状態では無いかと」

 その報告を聞くや否や、彼は眉間に大きく皺を寄せた。彼らは偵察だけでなく結局戦いを挑んでしまったのか。そしてあっけなく返り討ちにあったか。内心でそう吐き捨てると共に、額へと手を当てる。全ては、ハンスが忠告したままとなっていた。

「……今回の依頼は完全に私の人選ミスだな。リーダーへの聴取はまあ無理として、他のメンバーの意識が戻ったらすぐに知らせろ」
「了解しました。では失礼します」

 局員はそう締めると丁寧に礼をしてそのままドアを閉めた。そんなに直ぐに彼らは目を覚まさないだろうに、扉の外から響く廊下を走る音からして彼は急いで伝令を出しに向かったようだ。

 その様子を見送った後、すぐに新しい紙出して彼は自身の名前をサインする。こうする事で、この紙に書かれた内容は"統括令"として強い力を持つ伝令書となる。内容は単純。「砂漠立ち入り禁止」である。今日こそ砂漠方面の依頼は無かったものの、明日以降もそうとは限らない。まだ"竜"とは断定出来ないものの、Aクラスの冒険者四人を返り討ちにできる何かが砂漠に潜んでいる件については事実となった。そんな中で依頼など出す訳には行かないのだ。

 締めに明日の日付を記すと、彼は更にもう一枚新しい紙を用意した。そうして同様に自分の名前を書くが、此方は宛名は街議会である。この一件は、もはやギルドだけの手に負えるものではなくなった。
 問題となっている砂漠岩地のエリアは、週末付近に通商隊が通っている道と非常に近い場所である。この状態の中、不用意に通られたら被害が拡大してしまうのは明らかであった。

「……明日は大分ハードだな」

 明日に開催されるであろう街議会において、並みいる出席者の首を縦にふらせるための、恐怖を与えるような文言を考えなければならない。彼の呟きは自分一人の執務室に空しく響く。そしてふと窓に視線を向けてみれば、明るかった月が雲に隠されていた。雲の隙間から見える明かりが段々と厚い雲の中に隠れていく様は、何とも嫌な予感を感じさせる物であった。


* * *


 ズシリ、ズシリと暗い岩地に大きな足音とそれに伴う振動が響く。雲の影から覗く月明かりに照らされてぼんやりと浮かび上がるシルエットは、巨大な双角を上に向けて夜空を見据える砂色の"竜"。彼はその大きな口を開けると、大地に足を踏みしめ、大きく吠えた。

 決して侵入者へと浴びせるような大きな音量ではない。それでも、"竜"から隠れて岩場や草の影に隠れる小動物たちを怯えさせるには十分過ぎた。

 静かな夜の砂漠岩地の隅々まで咆哮は響き渡り、冷えた空気を震えさせ岩山で反響した後、そのまま夜空に消えて行った。震えた空気によって、地面に生えた雑草がさわさわと音を立て、その咆哮の強烈さを物語る。聞く者に恐怖と畏敬の念を抱かせる咆哮に、威嚇や咆哮でもって答える者は周囲にはいない。なぜなら彼が今の砂漠岩地の支配者だからだ。
 小型や中型の魔物はその全てが本能からか、この"竜"に立ち向かう者など居る筈も無く、ただただ見つからないように岩陰に潜む。一時期この岩地を支配していた強大な魔物である火炎龍が一撃の元に下された事で、砂漠の勢力図が一新されてしまったのだ。今や彼にかなう魔物は周囲には存在しない。何者にも屈服しない、孤高の頂点と彼はなっていた。

 新たなる支配者となった彼は、また静かになった岩地の中、ゆっくりと水辺へと歩き始めた。普通ならば魔物の一体や二体は必ず居る筈の泉には、そういった影がまったく見受けられない。彼が歩くその脇には、先日倒された火炎龍の亡骸が横たわっていた。立派だった姿は見る影もなく、日中に陽射しに照らされ続けた表皮は完全に干乾びている。胸に大穴を開けて横たわる亡骸を一瞥することなく、彼は泉へと歩き続けた。
 それなりの大きさを誇るはずの泉は、ゆっくりと近づく"竜"の大きな体格のおかげか、今はひどく小さく見える。穏やかだった水面には、一歩踏み出すごとに波紋が広がる。竜が近づくにつれて段々とそれは大きくなっていった。水辺にいた魚たちも振動に驚き、すっかり泉の奥深くに逃げ込んでしまっている。

 泉に辿り付いた彼は、その大きな口を泉に押し当て、水をすくい上げるようにして飲み始めた。バシャバシャと、それ程大きくは無い音も静かな岩地では目立つ。ある程度飲み終えた後まだ口から水の滴る大きな頭を上げると、"竜"は辺りを見回した。周囲には彼一頭のみ。岩地には少しばかりの草が生え、夜空には完全に雲に隠れてしまった月がある、変わり映えのない光景が彼の目に映った。
 目を凝らして縄張りへの侵入者を見つけようとする"竜"は、さらに注意深く辺りの気配を覗う。彼を狙う、"狩人"のような不届き者を探し、殲滅する為に。そんな中、ある音が一帯に響き渡った。


 遠くの岩地から響いてきた、何かが破裂するような乾いた音。幾つもの岩山を越えた先からの爆音は、注意深く聞かなければ分からない物だったが、"竜"に対してはしっかりと伝わったようだ。即座に頭を低くして構えを取り、彼は音のした方角、岩山が多数聳える北を見据えた。大きな口からは唸り声が漏れ出す。何が出てきてもいつでもその巨大な角で迎撃が取れるよう、彼は警戒を強めた。


 もう一度、今度は先ほどよりも大きな音だった。それは爆音に近い、特徴のある咆哮だ。高めの快音であったそれは、"咆哮の主"が遠く離れているにも関わらず、岩地一帯に響いた。"竜"の咆哮とはまた違う迫力を持つそれは、尾を引くように静かな岩山に反響し、"竜"を刺激し続けた。彼の目は見る見るうちに闘争心に満たされていき、切っ掛けがあればすぐさまに戦闘が開始されるほどまで高められた。
 北側の岩山を見つめる竜は、まるでその先にいる何者かを見据えているかのように、ただじっと構えを取り、鋭く睨み付ける。静かな岩地には、張り詰めたような空気で満たされ、時折吹く微弱な風の音が嫌に響いて聞こえた。睨み付ける先にいる、"咆哮の主"の周辺も同様の空気が流れているのだろう。

 咆哮が止んだ後は、また元のように静かにはなったが、場の空気は張り詰めるばかりだ。もし両者の間に岩山がなければ、すぐさまに戦いが始まるだろう。幾つもの岩山を挟んだ、否応無しに夜の岩地一帯の緊張感を高め続ける睨み合いは、まだしばらく終わりそうに無い。


* * *


「かなりの被害を負ったと聞いたが、任務達成ご苦労。生還したことは何よりだ」

 昨夜の急な曇り空とは打って変わってすっかりと晴れ渡り、陽気な太陽の陽射しが会議室の窓から中を照らしていた。今この部屋には、ニーガ統括の他に2人の少女が机を挟む形で向かい合っている。これが、彼が執務室に人を呼んで質疑応答を行ういつものスタイルであった。
 どこか居心地が悪そうに立っている少女たちの姿を、ニーガは細目で眺める。彼女たちは、現時点における重要参考人たるゴンゾが率いるパーティーに所属しているメンバーであった。一夜が明けて立ち上がれるまでには体力が回復した彼女たちを、早速会議室に呼んだのである。この後には街議会での打ち合わせも控えており、彼は早々に証言を聴き、報告書をまとめ上げなければならなかった。

「では早速だが報告を始めてくれ」

 会議室の一角で、彼は二人の冒険者少女の2人が椅子に座るや否や報告を促した。彼が事前に知っているのは、ゴンゾのパーティーの被害が散々な物であったということだ。前衛のうち、一人が瀕死の重傷。もう一名は頭を強く打って気絶。そして魔道師二人はそろって魔力切れ。そんな彼女たちが、動けない前衛二人を何とか連れて街へと帰還を果たしたのだ。奇跡的にも死者は出てはいない。しかしこれは文句無しの壊滅である。
 その経緯を頭に浮かべながら顔を険しくするニーガ統括に向かい、少女の内、赤色の短い髪を持つ方がおずおずと喋り始めた。

「……砂色の竜は、確かに確認したよ」

 二人目の証言が手に入ったことで、"竜"の存在はより確固たるものとなった。今現在、ギルドの受付には砂漠方面を原則立ち入り禁止にした事によって、冒険者達が何故なのかを問い詰めようと押しかけていた。大きな脅威が存在する"可能性"があるが、今は調査中。受付嬢達は徹底してこう答えている。この報告が終わり次第、彼女たちの定型文は、大きな脅威がほぼ確実に存在するというものになるだろう。しかし現状では、それには少々問題があった。

「事前に最初の情報提供者たちから少しの話は伺っているが君にも問おう。あれは普通の冒険者達が敵う相手か?」

その問題とは、公表した瞬間に数多くの冒険者が名声や何かを求めて依頼を受けようと殺到し、収集がつかなくなる可能性だった。今の所、彼は一応の経験者であるハンスを討伐隊に抜擢しようと考えていた。しかし彼のランクはB、多くの冒険者が文句を言うのは間違いない。
 ならばゴンゾのパーティーが返り討ちにあったと言うかと彼は一瞬考えたが、それも大きな不備があった。そんな事をすれば、自分のパーティーがゴンゾの物よりも優れていると証明する為に、逆に挑戦者が増えかねない。

「叶うわけ無いじゃないッ!! 大魔術を顔面から二つ同時にくらって平然と反撃してくる化け物なんだから!!」

 問われた少女は顔をゆがめながら叫ぶようにして訴えた。それは、ネイスやハンスが述べていたものと概ね同じ感想だった。既存の冒険者の戦い方では叶うはずがないと昨日念を押された戦力は、やはり伊達ではないのだろう。そうなると討伐隊の選抜は腕がなる者のみでは不味い。彼は改めてそう感じさせられた。

「やはりな……では続いてその魔物の容姿についてだ。報告書にまとめるうえでは、敵の全体像をつかんでおきたい」
「それは私がご説明します」

 この場にいる魔法使いの内もう一人の方、栗色の長い髪の少女が口を開いた。"竜"の事を思い出して取り乱した赤髪とは打って変わって、こちらは少し落ち着いた様子だ。

「片方が先端で折れた二本の巨大な角を持ち、先の方が大きく発達した太い尻尾をもつ、ワイバーン種よりも縦に高い砂色の巨体をした竜です。あの全長は……目測ですが一般的な火炎龍の倍はありました」
「此方も事前の報告と一致している。攻撃方法についてはどうだ?」
「はい、その大きな体を生かした突進や体当たりなど……あと戦況が乱れていたためはっきりとした自信はありませんが、地面から奇襲も行っていました」

 炎魔法や風魔法を使う龍達とは一線を画す、体一つでの雄々しい戦い方。ただの突進と侮るなかれ、火炎龍を下すほどの勢いなのだから威力は凄まじい物なのだろうと彼は予想した。

「では次だ。君達から見て、"竜"のどのような点が特筆すべき物だったか?」

 彼が現状において一番聞きたい事はこれだった。これこそ、実際に戦った者にしか分からない事である。彼女たちが偵察だけで済ましていたなら聞けなかっただろうが、実際に彼らは戦いを挑んで、敗北している。だからこそ分かる事もあると踏んでいた。

「……一番はやはりいくら大きな魔法でもまったく怯んだ様子が無い事です。確かに甲殻には傷こそ付きましたが、それだけです」

 確かに魔法が効かない魔物はこの広い国土の中にも存在する。しかしそれは殆どが同じ魔法によって無効化されているに過ぎない。そのため、より強い魔力によって攻撃を行えば、あっさりと貫通してしまうのだ。しかしこの"竜"は、己の身体能力のみで、普通の竜ならば即死するほどの威力を持つ大魔術士の大魔法を凌ぎ続けたという。

「……纏めると魔法による殲滅の効かない、己の体だけで戦う巨竜か」

 "街議会"への報告書には"魔法の効かない"という部分が大きな力を持つと彼は確信する。それほどまでに強大であるという事の証明なのだから。

「それと……巨体の割には走る速度がかなり速かったです。細かな動きは苦手でも、速さだけならば私の知る魔物の中で最上位に位置します」

 魔法を凌ぐタフな巨体に、走るのが速い。報告書に列挙している情報だけを読めば、正に昨日彼が目を通した伝説級の魔物たちに比類するような存在が出来つつあった。大きな体を持つ魔物は基本的に動きが遅いという冒険者の常識を完全否定する、それだけでも正真の化け物となる。

「……私の報告は以上です」

 最後にペコリと頭を下げて、彼女は話を締めた。それを涼しい様子で受け流す彼は、しかし内心で焦りを感じていた。こんな報告書を提出しようものならば、議会で何を聞かれるか分かったものではない。どう低く見積もってもギルドにおけるAランクの魔物と同等かそれ以上の戦闘力、そして既存の戦い方の通用しない事もあり、下手をせずともSランク認定を下される可能性もある。
 しかもSランクの魔物の多くが人里離れた場所に潜むのに対して、この"竜"は街の近くの砂漠に存在している。何も知らずに隊商が通行したら間違いなく大惨事となるだろう。何時の間にでた冷や汗が彼の首を濡らした。

「ご苦労。状況は急を要する物のようだ。早急に対処させて貰おう」

 これだけ情報があれば、ネイス・ウェインの報告も含めて報告書は十分完成させることができる。一刻も早く"街議会"へ報告を済ませなければならない。それがギルドの統括たる彼に出来る、唯一にして最善の行動だった。隊商の一団が壊滅する前に事を済ませなければ、被害は拡大していくに違いない。

「あの……ちょっと」

 報告を終わらせて立ち上がった内の赤髪の少女が、なにか思い出したように口を開いた。

「どうした?」
「いや……今回の竜ってさ、今まで隊商の一団や冒険者が襲われたという被害届も、それどころか目撃報告も無かったんだよね? それってのはいくらなんでもおかしいんじゃ……」

 彼もそれは考えてはいた、今回の一件の大きな不可解な点が、今まで目撃報告が無かったということだ。少ないのではなく、全く無いのである。ハンスが戦った一角竜は、形こそ似てはいるものの、別種と考えた方が良く、しかもその戦闘は10年も前の話だ。
 今回の一件はあまりにも突発的過ぎた。どれ程の希少な種であろうと、その巨体であれば報告がゼロというのは変だ。しかも大人しい魔物ならまだしも、その"竜"は大変に攻撃的な性格である。

 この不自然さには、一応の説明はつけられるものの、どれもこれも説得力に欠けるものだった。
 まず、まだ探索のされていない砂漠の奥地から紛れ込んできたという考え。しかし陸続きの大砂漠で10年間一度もこの周辺に居ないというのはおかしい。次に、かなりの希少種であり、現存する個体が非常に少ないという考え。だがこれも変な話だ。あれだけの巨体が絶滅間近になる要因など食糧問題以外に考えられず、しかもその食料でさえ、"竜"の生活地の大砂漠では食性が何であれそう簡単には尽きやしない。
 最後に、北の帝国から送り込まれた刺客という考え。これは考え付いた瞬間彼は己の心の中で一笑に付した。そんなことが可能ならば今頃はこの街は蹂躙されている。今も砂漠に留まっているはずなど無いのだから。他にも突然変異、大魔道師のゴーレム等という予想が浮かんできては、どれもこれも突飛すぎる物だとして消えていく。

「確かに報告の無さはおかしいを通り越して、不気味であるくらいだ。しかしこれは考えても仕方がない。今は我々に出来る事を早急にするべきだ」
「まあ、そうだけどさ……」

 少女は何処か納得の行かない感じで答えると、もう一度礼をして会議室を後にした。完全に部屋の前から気配が消えると、彼の口からため息が漏れ出した。ここまで取り繕うことが出来ただけでも上出来だった。何故なら今まで無かったような事がいきなり彼の前に突き出されたのだから。

「……納得の行かないのは私だって一緒だ」

 急に転がり込んできた、相当の危機。王家の雅な方々が気まぐれでこの街を訪れるなんて事よりも、よっぽど大変な事態だった。理不尽にも程がある。だが頭を抱えている訳には行かない。

「まずは報告書への追記だ」

 やらなければならない事を口にだして気が立った心を落ち着かせる。
 出来る事を確実に。ただそれだけを頭に思い浮かべ、報告の続きを書くため、彼は書きかけの報告書にペンを走らせていった。スラスラと、ペン先はただその"竜"の恐ろしさをこれでもかという程に綴っていく。その報告書で救える物があると信じて。


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