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No.31552の一覧
[0] 魔王降臨【モンハン×オリ】[周波数](2017/09/27 20:26)
[1] 一話目 魔王との"遭遇"[周波数](2017/09/27 20:26)
[2] 二話目 不可解な"飛竜"[周波数](2017/09/27 20:26)
[3] 三話目 冒険者の"常識"[周波数](2017/09/27 20:27)
[4] 四話目 暴君への"憧れ"[周波数](2017/09/27 20:27)
[5] 五話目 今できる"対策"[周波数](2017/09/27 20:27)
[6] 六話目 荒れ地の"悪魔"[周波数](2017/09/27 20:22)
[7] 七話目 舞い込む"情報"[周波数](2017/09/27 20:27)
[8] 八話目 激昂する"魔王"[周波数](2017/09/27 20:23)
[9] 九話目 混沌する"状況"[周波数](2017/09/27 20:28)
[10] 十話目 去らない"脅威"[周波数](2017/09/27 20:28)
[11] 十一話目 街道での"謁見"[周波数](2017/09/27 20:28)
[12] 十二話目 超戦略的"撤退"[周波数](2017/09/27 20:24)
[13] 十三話目 統括者の"本音"[周波数](2017/09/27 20:25)
[14] 十四話目 冒険者の"不安"[周波数](2017/09/27 20:29)
[15] 十五話目 逃亡者の"焦り"[周波数](2017/09/27 20:30)
[16] 十六話目 精一杯の"陽動"[周波数](2017/09/27 20:30)
[17] 十七話目 堅城壁の"小傷"[周波数](2017/09/27 20:30)
[18] 十八話目 攻城への"計画"[周波数](2017/09/27 20:31)
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[31552] 十七話目 堅城壁の"小傷"
Name: 周波数◆b23ad3ad ID:ac5d2e4f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2017/09/27 20:30
 杖の先から後方へ飛んでいく随分と小さな火の玉は、巨大な筈の標的を掠りもせずに岩壁に衝突して消滅した。意図して避けた訳では無い巨体の持ち主は飛行を続ける俺達を打ち落とす為、絶えず体の一部を乱暴に壁に激突させながら疾走を続けている。そして驚くことに空を飛んでいる俺達を射程圏内にいれた"竜"は、突進の勢いを地面を踏みしめて殺し短く屈んだ。

「避けろ!!」

 俺達に向けられた角に冷や汗を流しつつ、俺はイトに短く叫ぶ。当然彼は完全に俺を信頼しており、自身で後ろを確認することなくすぐに指示に従い風を巻き起こして上空へと躍り出た。そしてその直後、振りぬかれた角が今までイトが居たであろう空間を風切り音を残して切り裂いていた。勢い余って頭が岩壁に激突したにもかかわらず、全く気にした素振りも無く"竜"は間髪入れずに巨大な咆哮を腹の奥から巻き上げた。
 とんでもない大きさの高音がすぐ下から響き渡り、両手が手綱で塞がり頭を押さえることが出来なかったおかげで耳の中へ音が何の抵抗も無く侵入する。イトも驚きで体勢を崩してあわや岩壁に激突するところを寸での所で高度を保ち、爆音と不規則な浮遊感覚でまるで頭を思い切り殴られたような衝撃を感じるのも束の間、何とかして歯を食いしばりながら飛びそうな意識を保ち、すぐさま背後からの殺気を感じ取り目を向けた。白々とした息を吐きながら殺気を込めて此方を見据える"竜"は角が届かぬ先に居る標的に業を煮やしたのか、いきなり街道の岩壁へ頭を勢いよく突き立てた。

「手を、離すんじゃないぞ!!」

 もろに耳元に食らった爆音のせいで自分の大声すらも擦れて聞こえる。上下左右の揺れに加えて巨大な咆哮のおかげで満足に精神力の維持をすることが出来ず、もはや魔法の詠唱どころでは無い少女達に短く伝えると、手綱を数度引いてイトへいつでも急上昇できるよう指示を出した。

 "竜"が何をしようとしているのか、戦闘中にいきなりそっぽを向いて壁に角を突き刺した後の行動など、普通の敵ならば悪戯に隙を晒しているようにしか見えず、裏をかいて此方をおびき寄せようとしているようにも感じたかもしれない。しかしアレは違う。あれほどの殺気を放ちながら隙を晒す訳が無いし、あれほどの闘争心に燃えながら搦め手を使おうなどしている訳が無い。一見して間抜けな隙晒しに見える行動だが、そんな生やさしい物であるはずがないという確信があった。
 中ほどまで角を街道の壁へ押し込んだ"竜"は、すぐに足元へ大きく力を込めた。遠くから見ても砂や小石が足元から弾き飛ばされる様が確認でき、その瞬間俺は手綱を大きく引いた。

「上がれッ!!」

 大きく叫ぶと同時に木々の香りを内包する突風が周囲に巻き起こり、風の流れを掴むべくイトが翼を大きく羽ばたかせた。その直後、片足を軸にして"竜"が渾身の力を込めてもう片方の足で地面を蹴り出した。急激な回転力が"竜"の身体全体へ伝わり、岩壁へ突き立てられた頭が岩盤を粉砕しながら俺達の方へ勢いよく突き出される。急激な上昇に備えてイトに体が密着するほど伏せたものの内臓が地面へと引き付けられる強い不快感が体を襲い、背後からも短い呻き声が発せられる。そうして俺達を乗せて高空へと離脱するイトのすぐ下を、何かが突風と衝撃波を残しながらもの凄い速さで通過していった。

「……本当、何でもアリね。アイツは」

 やや苦しげな様子のアリサの呟きはまったくもって自然な反応に思えた。俺達が呆然と眺める先では、イトが間一髪で避けた何かが形を崩しながら地面を転がっている。"竜"に無理やり投げ飛ばされた岩盤の一部は、何度も地面や街道壁にぶつかって大きな音や砂埃を巻き上げながらようやく回転を止めた。直撃していればまず原型を留めないほど潰されていたであろう大岩から目を離し、未だ唸り声を響かせる巨体を見据える。

 翠色の双眼は相変わらず俺達から放されることなく向けられ、激昂させることを覚悟で放った攻撃魔法による傷が僅かに頬の周囲の甲殻に認められる。怒りが峠を越しやや落ち着きを取り戻したのか口から白煙は止んだものの、尻尾を地面に打ち付けて軽く足踏みをしながら唸り声を漏らして此方を威嚇し続ける。"竜"の脇の岩盤には角で抉り取られたため大穴が開き、多くの小石がその強引さを物語るように大穴から崩れ落ち続ける。そして無理な動きで巨岩を投げ飛ばしたにもかかわらず、2本の剛角は新しく傷がついた様子もなく此方へ向けられていた。

「顔面に直接魔法をぶつけても僅かな傷が少々……本当始末に負えませんね」
「おまけにこの怒り狂いぶりだ。緊急時だから止む無しだったけど、俺達がイトに乗ってなければ今頃はミンチだ」

 岩を空中へ遠投するという奇策を使ってまで攻撃を当てられない"竜"、そして一度狙われてからは逃げるだけでも精一杯で魔法を当てるどころの話ではない自分たち。"竜"の顔面へ魔法をぶつけることで勃発した逃走劇は一種の膠着状態へ陥っていた。ひたすら街から反対方向へ"竜"を誘導し、やや低空飛行を続けることで挑発を行いながら咆哮や角の振り上げを寸での所で避け続けた結果、ようやくこの状況まで持ち込めたとも言えるかもしれない。
 ハンス達が逃げる時も相当暴れまわっていたのだろうか、ここまで飛んできた時に見かけた街道の岩壁は所々盛大に抉れている場所が点在し、まるで戦場のような無惨な見た目へと変化してしまっていた。そんな相手に対して命知らずな挑発行為を行い、まだ五体満足であるという事実は何とも幸運な物に思えてしまう。やや遠くを見ればようやく街道の出口が見えており、おそらくはその先の岩山が立ち並ぶ荒れ地平原がこの"竜"の縄張りになったのだろう。街道は広大な岩盤エリアを抜けた後この荒れ地を通って遠く離れた首都へと繋がっていく。随分と厄介な場所に縄張りを持たれたものだ。

「距離と時間は十分稼いだ筈だ。あとは向こうが此処を立ち去るまで根競べだ」

 いつの間にか頬を伝うまで噴き出た汗を乱暴に拭った。最初に自分が目撃した場所や"竜"の移動経路から見てこの街道は縄張りのかなり外れ、もしくは縄張りの外なのだろう。ハンス達は辛くも街道の外へ逃げ切りつつあり、今のところは"竜"も彼らを追撃する素振りは全く見せてはいない。敵が此方を攻撃することを諦めて自分の縄張りに帰っていくことが、この緊急依頼の成功条件なのだ。

 森緑の風を撒き散らしながら浮遊するイトと、砂色の大地の上で仁王立ちを続ける"竜"の目線が交差する。あれほど地形が変わるくらいに暴れまわった巨体は、一転して静かに佇みつつ俺達の小さな動きひとつ見逃さないように睨みつけるのみ。景色の中で動いて見えるのは大穴から崩れ落ちる小石たちのみであり、古代悪魔の彫刻の如き威圧感が街道を飲み込んでいた。
 その異様な空気にも遂に終止符が打たれようとしていた。角を俺達に見せつけるように"竜"はゆっくりとした動きで頭を天高く掲げ、大きな口を可能な限りまで開いた。遠くからでもわかるほど胸を大きく膨らませて極限まで息を吸い、街道の両端の岩盤にぶつかるくらいに砂色のごつごつした翼を大きく広げる。唯でさえ大きな体がまるで一回り以上大きく見えるような錯覚を感じ、どこか放心したような様子で俺達は眺めていた。

――キ ア ア ァ ァ ァ ア――

 初めて彼の咆哮を聞いた時とは印象が異なるような気がする。これは勝鬨でもなく怒りの主張でもなく、おそらくは彼の警告なのだろう。これ以上刺激をすればただではおかない、縄張りには近づくなと。巨体からは不釣り合いな高い音の響きは、まるで無数の小さな針のように俺の肌へと突き立てられた。
 雲一つなくどこまでも青い空へと咆哮が吸い込まれ、長く続く岩壁に何度も音が反響する。ようやく音が立ち消えるまで、まるで自分の咆哮の残り香を楽しむかのように"竜"は翼をゆっくりと動かしながら此方を見据えていた。まるで麻痺毒を浴びたかのように体がうまく動かない。逃走中に何度も耳へはいってきた轟音と同種の音であるはずなのに、面と向かって響き渡る咆哮からは本能的な恐ろしさと一緒に高貴さも感じていた。
 呆然とただ滞空するだけとなった俺達にもう用は無いのだろうか、"竜"は此方からゆっくりと目を逸らすと、悠然とした様子で足元の砂礫を器用に掘り返しながら地面の中に沈み込んでいく。動きにまるで無駄が無く、あれよと言う間に立ち上る砂埃の中に巨大な尻尾までが埋もれてしまった。

「逃げ切った……いや、見逃されたのか」

 立ち上る砂煙を眺めて大きくため息をつくと同時に、照り付ける太陽の熱さがようやく肌から伝わってきた。初めて遭遇した時も同じだ。翠色の双眼に見据えられてまるで全身が麻痺したように硬直をしていたとこと思い出して俺は小さく笑うとともに大きな安心を感じた。2度も生き延びたのだ。あんな規格外の怪物と遭遇しておきながら、自分の心臓は動きを止めていない。結局2回とも敵として相手にされなかったというオチだが、それでも安心するなというのは無理な話だ。

「でも問題は解決してない。第三王女が襲われた場所は街道上だから、アイツの縄張りに街道は一部掠っているはずよ」
「おそらくこの街道はあの魔物をどうにかしない限り安全な通行は保障されません。それはグラシスにとって大きなダメージになる筈ですよ」

 軽く手綱を引いてイトにグラシスへと戻る方向へと飛ぶよう指示を与えながら、アリサとリンの言葉に頷いた。まず一番の大打撃を受けるのはこの街が主要産業としているワインの販売ルートが閉ざされることだろうか。それと同等以上に隊商の行き来が完全にストップしてしまうのは大問題だ。滑るように空中を進むイトの背中に跨りながらこれからのグラシスの冒険者ギルドが取りうる行動を考え込む中、そんな考えから無理やり俺を現実へと引き返すような光景が街道上に広がっていた。

「……ちくしょう。なにが見逃されただ」

 眼下に見えた光景に、思わず歯ぎしりをした。あくまで自分たちが助かったのはイトに乗っていて"竜"の攻撃が届かなかったからに過ぎないのだろう。地面を走って逃げていた冒険者達の中には無惨な姿に変わり果てた者も居るはずなのに、それを僅かな間でも忘れていた自分に腹が立つ。

 やや急な曲がり角の先には、冒険者達がなんとかして逃げようとした跡が生々しく残っていた。道幅の半分以上を占める巨大な"竜"に追い掛け回されて、馬がパニックにならない筈がない。落馬した衝撃でも人には甚大なダメージであり、そんな状態で迫りくる"竜"から逃げ切れる訳が無い。
 道の端に転がる蹴り飛ばされた馬の死体、投げ出されてあらぬ方向へ首を曲げた冒険者、踏み潰された跡のみが残る砂混じりの血溜まり、岩盤に残る何かが叩き付けられた跡、胸に大穴を空けた胴体部のみのプレートメイル、その脇に転がる赤色と砂色で汚れ果てた小さな白い布の塊。すべてが身動き一つせずに日の光に晒し出されている。

 己の身体を武器として時に護衛をしたり魔物を掃討する。冒険者はたしかに死にやすい職業だ。だからといって禄な抵抗をすることも出来ず、正体不明の敵にいとも簡単に殺されてしまうのはいくらなんでも不憫過ぎる。

「この冒険者達、多分何かあの魔物に対して攻撃行為を行ったわね。ただ逃げてただけならば踏み潰されるのはまだしも、岩盤に叩き付けられるような事は無い筈よ」

 眼下の光景を眺めて妙に冷静に判断するアリサの声を聞いて思わず振り返る。なんでそんなに冷静にいられるんだ、人が死んでいるんだぞ。彼女に向けた俺の表情は多分怒りが浮かんでいるのだろう。しかし口を開いて文句を言う前に、更に鋭い目で睨みつけられて思わず黙り込んでしまった。

「もしかしたらアンタは死っていう物に耐性がないのかもしれない。でも死者を悼む前にあたし達はやる事があるのよ。いち早く頭を入れ替えて対策を練らなきゃ被害は止められない。祈るのはそのあとで十分よ」

 何かを反論しようにも思うように言葉が口をついて出ず、結局間が悪くなって目を逸らしてしまった。人と手を組むことなくイトと共にほとんど魔物を相手にして冒険者業を続けてきた俺は、冒険者というカテゴリの中においてもしかしたら異様に人の死との関わりが薄いのかもしれない。その一方彼女達は若く見えてもかなりの人の死が関係する修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。
 思わず彼女達との間に壁を感じてしてしまう。栄誉ある龍騎士への道から目を背けてからずっと、イトと共に歩んでいける場を目指して冒険者へとなった。ハンスと以前言っていた、最近の冒険者達の勇猛的な思想の蔓延。俺はその思想を持ち過ぎるべきではないと信じているし、その結果としてより正しい冒険者へ成れるものとも信じている。だが世間一般の冒険者から見て、人の死から遠くを歩き続ける俺ももしかしたら間違った存在なのだろうか。

「……冒険者としては人の死への割り切りも必要なのか。駄目だな、どうにも感情的になってしまう」

 彼らが何をして殺されたのか、どうすれば助かるのか。本来そう持っていかなければいけない思考が、記憶の片端に残っていた彼らの生前の姿へと移り変わる。依頼を受けるため酒場へ行くと時折見かけた3人組。いつも3人でつるみ、巨大な男が何か勇み過ぎな提案をして、白いローブの少女がそれを諌めて、ニコニコと笑う青年が彼らに妥協案を出す。人とコンビを組むとすれば彼らのような人間的にも交流し合える仲がいいと、いつかの自分は思っていた。

「どうでしょう、私たちが切り替えが早いだけかもしれません。それに仲間が傷つけられた時には私も感情的になりましたよ」

 誰に向けた訳でも無い言葉にリンがわざわざ答えてくれたようだ。思えば彼女も仲間2人を"竜"との戦いで傷つけられていた。

「何をすれば正しいのかじゃなく、一種の成功を収めた時にしていた生き方が正しい生き方なんです。私の魔法の師匠が言ってました。多分まだ私たちと年はそう変わらないのでしょう? 時間はたっぷりあるのだからあなたなりに模索をしていってもいいんじゃないですか」

 枯れた土に水が染み込んでいくかのようにして彼女の話がすんなりと頭の中へと入っていく。何ともまあ、まるで僧侶の説法のような言葉だ。彼女達の冒険者としての生き方を模倣するのではなく、自分にあったものを追々見つけて行けという事か。
 少しだけ気が楽になった。やっと考えを建設的な方向へと持って行ける。今自分にとっての成功とは一つしか考えられない。なあなあで続いてきた今までの冒険者暮らしを力強く肯定することが出来る確固たる目標など一つしか考えることは出来ない。

「結局のところ、いかにして"竜"に一泡吹かせられるかだ。今後の街にも、自分にも建設的な選択は」
「そうよ。対策をキリキリ考えなさい。今のところ一番アイツを知ることが出来ているのはあたし達とアンタのお仲間だけなんだからね」

 ニヤリと笑った彼女につられて俺も小さく吹き出す。あくまで亡くなってしまった冒険者を割り切った訳では無い。俺は彼らの死を悼みきちんと誠意を持って受け止め、そして何とかして"竜"を打ち倒す為に方法を考えるのだ。
 しかしあくまで今は逃走を終えて精神的に辟易している状態だ。呼吸をするたびにどんどん疲れが沸いてくる状態で、スラスラと斬新な考えなど出てくるはずもなく、答えが出ないままに首を捻って考え込む背後の2人の様子におもわず苦笑してしまった。
 彼女達を真似るようにしてわざとらしく唸り声を上げながら目を閉じてみる。しかし脳裏に映るのは冒険者達の遺体、追いつこうと爆走を続ける巨体、そして首を高く上げて咆哮を挙げる"竜"の姿だけだ。少々嫌な気分に陥って目を空けようとしたその時、ふとした違和感が頭を過ぎった。

 圧倒的な"竜"の耐久力。それを生み出す源とも見える砂色の甲殻は、大魔法の一撃や火炎龍のブレスさえも防ぎきってみせた。この大きな盾を超えない限り、たとえどんな方法で攻撃を加えようが意味は無いに違いない。しかし違和感を感じる光景、限界まで息を吸い込んだ"竜"の姿には、一部だけ強大さを感じない部分が存在した。

「……胸から下の部分は甲殻に覆われていない?」

 息を吸い込み、皺が走る胸部が膨らむその様を確かに俺は目撃していた。腹が弱点なのは岩を纏うような特異な例を除いて魔物にとっては万物共通であり、"竜"がそれに含まれていてもなんら不思議な話ではないかもしれない。だがその常識が巨大な堅い城壁に走るごく微小な、しかし致命的な傷跡であるように感じられてならなかった。


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