※転生者、オリキャラ複数、オリ主的要素有り。
◇◇◇
精神はここにある。
精神だけはここにある。
自分が肉体を失い、ただそれだけの存在になったことを自覚するまで、多くの時間は要さなかった。
――死んだのか、僕は。
自分でも驚くほど、その事実を冷静に受け止めることが出来たと思う。そこにあるのは真っ白に広がる不可思議な空間だけ。
ここは天国なのか、地獄なのか。
生前は九歳にしてリアリストの思考を持っていた彼は、死後の世界など信じていなかった。しかし、信じてこそいなかったが、あっても不思議ではないと考えていた。
現実の世界は、彼が思っていた以上の理不尽に溢れていた。彼の死因がそうであったように、死後の世界の一つや二つあっても不思議ではない。
『ユーノ・スクライア』
不意に、どこからともなく男の声が聞こえてきた。轟雷のような重く響く声色には、どこか厳格さが醸し出されている。
『哀れな犠牲者よ……』
そんな声とは似合わず、声の主は同情の入った調子で語りかけてきた。
……同情される死に方じゃない。僕の自業自得だ。それに、あの子の盾になって死ねたのだ。まだまともな死に方だったと思う。
――そういえば、あの子は大丈夫かな?
生前の記憶を振り返り、彼はいくつか気にかかったことがある。
事件に巻き込んでしまった一人の少女、高町なのは。彼女は大丈夫だろうか? 怪我はしていないだろうか?
時空管理局はプレシア・テスタロッサを止められただろうか? フェイトって子は、母親と話し合えただろうか。
だが既に死んでいる彼に、それらを確認する術はない――と、思っていた。
『高町なのはは無事だ。しかしプレシア・テスタロッサの説得には失敗した。結果的に彼女は自ら開けた虚数空間に消え、その命を失った』
親切にも、声が教えてくれた。きっとこの声の主は神様か何かで、僕達のことをずっと見守っていたのだろう。根拠はないが、彼にはそんな気がした。
『ユーノ・スクライア』
再び、名を呼ばれる。
意識の覚醒を促すような、強い響きを持っていた。
『この世に未練はあるか?』
未練は――ある。
まだ僕は若い。いや、十分に幼いと言われる年齢だ。これからやりたいことも、やりたいことをやれる時間もたくさんあった。
命が惜しくないなんて言えるほど、狂った人生は送っていない。
――僕を、生き返らせてくれるの?
声の物言いに意図を悟り、彼はダメ元で問い返す。返答は早かった。
『汝が望むならば』
しかしその語尾に「だが」と付け加える。
『しばらくこの「世界の外れ」から見ていくと良い。汝が見てきた世界の、真の姿を……』
意味深な言葉を言い残し、声は途絶える。その後彼が呼び掛けても、返事はなかった。
すると辺り一面真っ白だったその世界に、何色もの景色が浮かび上がってきた。
野に山に海に川に……街が。
彼の未練の対象となる世界が、そこにあった。